※この作品は以下のものを含みます
  • 脇役な虐待お兄さん
  • 比較的普通の良いゆっくり
  • 比較的普通の悪いゆっくり
  • あんまり目立たないドスまりさ
  • タイトルとはちょっと違う内容
それでも良い方のみ、以下にお進みください










                    汝は餡狼なりや?(解答編)





「ドス、話があるんだ」
 容疑者ゆっくり決めが行われる一時間前、僕はドスの巣を訪れていた。
「ゆゆっ、なにかな、おにーさん」
 声音にもどことなく元気がない。僕はできるだけ真面目な顔を作って言った。
「この事件の謎が分かったかもしれないんだ」
「!! それほんとう!?」
「うん、まだ確証はないけどね。でも多分大きな前進になるはずだ。
 だからドス、ぱちゅりーと、それ以外に何匹か連れてきてくれないかな?
 えーと、そうだね、責任感が強くて頭のいいゆっくりがいいかな」
「ゆ? それが何か関係があるの?」
「事件そのものとあるわけじゃないけどね。
 でも僕の考えていることが上手くいけば、明日には事件は解決するはずだよ」
「ゆっ! 分かったよ! みんなをつれてくるね!」
 勢い良く、ドスはドスドスと(洒落ではない)地面を揺らしながら仲間を呼びに行く。
 すぐさま、側近のぱちゅりーと、他何匹かの成体ゆっくりが連れて来られる。
 このゆっくり達は日々ドスの教えを受けており、ゆくゆくは群れを引っ張っていく役目を担う期待株なんだそうだ。
 見ればどのゆっくりも比較的張りのある顔立ちをしている。
 このゆっくり達ならば、きっと僕の期待に答えられることだろう──
「むきゅっ! おにーさん、じけんのしんそうっていったいなんなの?」
 おっとそうだった。その話をするために呼んだんだっけ。
「まず僕の出した結論から言おう。この事件の犯人は……」
「ゆゆっ」
「ごくり……」
「犯人は──────いない!!!」
「「「「ゆぅーーーーーーーーーーー!!!???」」」」
 そのときゆっくり達に電撃走る。
「どっ、どういうことっ? くわしく説明してねお兄さん!!」
 ドスが真っ先に驚愕から復帰した。
 こういうとき、ドスの存在はありがたいよね。話が通じるという意味で。知能も高いし、皆のまとめ役だし。
 実際このドスがいなかったら群れはもっと早く自滅してただろうね。
「うん、それについて今から説明するよ。
 さっき犯人はいないって言ったけど……ゆっくりが殺されてる以上、殺したやつはいる。そうだね?」
「う、うん」
 ドスもパチュリーもその他のゆっくりも、皆神妙な面持ちで僕のことを見つめている。
 なんだか変な気分になってくるね。高揚感とでも言うんだろうか。
 探偵モノの話の主人公が、皆の前で犯人を明かすときも、こんな気分なのかなぁ。
「問題なのは、それを殺したやつが誰なのかということだ。
 最初のれいむの事件から、順番に追って行こう……」
 僕はまさに探偵役となって、事件の謎を紐解いていく。
 相手がゆっくりというのは、いまいちカッコがつかないけどね。
「れいむを殺したのは誰か? 実を言うと、これは僕にも分からない。
 通りすがりのれみりゃに襲われたのかもしれないし、もしかしたらあのまりさが本当に犯人だったのかもしれない。
 じゃあ次のまりさを殺したのは誰かというと、これも分からない」
「むきゅ、なにもわからないんじゃないの……」
 落胆した風にぱちゅりーが肩(?)を落とす。
「慌てないで。僕はこれはね、その後に起きる事件とはまた別の事件だと思うんだよ。
 次に殺されたれみりゃだけど、これはふらんの仕業だと僕は思う。
 れいむとまりさを殺したれみりゃが、三度目の餌にありつこうとこの群れに来て、たまたまふらんに襲われたんじゃないかってね。
 そう思うのは、前の二匹とは状況が違ったからだよ。現場には、れみりゃの帽子と羽は落ちていたけど、れみりゃ自身の屍体はなかった。
 ふらんは獲物を持ち帰る習性があるからね。
 そして、この時点で事件は本当なら終わっていたかもしれない」
「ど、どういうこと!?」
「事件の犯人として疑われたありすが連れて行かれた翌朝、殺されたのはありすの子供だった。
 そしてその次も、さらにその次も、殺されたのは容疑者の家族や親しい仲間だった……。
 しかも密室状態で、他の家族に気づかれずに、だ。これがどういうことか分かるかい?」
 ここで僕は全員を見回し、たっぷりと溜めを作ってから、言った。
「殺したのは──殺されたゆっくりの、家族だ」
「「「「「!!!?!?!??!!?」」」」」
 ゆっくり達は声も出ないほど困惑した。
「む、むぎゅぅうぅ~~~ん……」
「ぱちゅりぃぃぃぃ!!!???」
 耐えかねたぱちゅりーが生クリームを吐き出してひっくり返る。
 とりあえずここで死なれてもしょうがないので、持参していた生クリームを注ぎ込んで蘇生させておく。
「順に話していこう。まずありすの家族。殺されたのは長女まりさだった。
 あの家族は、とても強い絆で結ばれていたようだね。ありすを連れて行くときの様子から、それが分かったよ。
 だから、こう考えたんじゃないかな?
『もし明日以降殺されるゆっくりがいなかったら、お母さんが犯人にされてしまう』。
 そう……犯人と思われるゆっくりが捕まったあとも殺ゆっくり事件が起きれば、そのゆっくりの容疑は晴れるわけだ。
 だから長女まりさは、姉妹に頼んで自分を殺させた。僕はそう推理した」
「そ、そんな……」
 ドスはおののく。当然だろうね。
「言いたいことは分かるけど、続きを聞いて欲しい。
 翌日殺されたのは、まりさ姉妹の末っ子だった。ただし……偏見を承知で言うなら、末っ子が殺された理由は前のありす一家とは違うだろう。
 姉妹はこう思った。『殺ゆっくり犯が家族にいたら、今後一切ゆっくりできない。だから末っ子を殺して容疑を逃れよう』とね」
 加害者の親族というだけで、世間の風当たりは強くなるものだ。
 だが今回の場合、家族の誰かが殺されれば、逆に被害者の家族として同情を集めることができる。
「そ、そんなことはありえないよ!」
 さすがにここでドスが抗議の声を上げた。まぁ、自分の群れを貶されてるに等しいわけだから、たまったもんじゃないだろう。
「ありえない、と言うけどね、ドス。じゃあ一体どのような状況だったら在り得たんだい?
 あの姉妹は『大きなものが入ってきて妹を殺した』と言った。
『大きい』っていうのがどのくらいかは分からないけど、そんな大きなものが巣に入ってきて、赤ちゃんだけを殺して逃げるっていうのは、可能なのかな?
 あとドアは壊されていたけれど、巣の中や外のそれ以外のものは、荒らされた形跡もなかったしね」
「ゆ、ゆゆぅぅぅぅ……」
「まぁ、最後まで聞いてくれ。僕も総合的に考えて今の結論に至ったわけだしね。
 次に殺されたのは、らんしゃまだったね。この犯人もまた、つがいだったゆかりんの仕業だと思う。
 ゆかりんは身体が柔らかいから、らんしゃまみたいにドスに気づかれずに外に出ることができた。
 そしてあらかじめ指定していた場所で落ち合い……柔らかい身体で、らんしゃまを絞め殺した。
 これについては、双方合意の上だったのか、ゆかりんの一方的な殺ゆっくりだったのかは分からないけどね。
 だが僕は前者だと思う。でなきゃ、わざわざらんしゃまが巣を出て行く理由が分からない」
「じゃ、じゃあつぎの、れいむとまりさのこどもはどうしてなの!? まりさはずっとおうちをまもってたわよ!!」
 一匹のありすが声を上げた。
「ありす、君は見てたのかい?」
「そうよ! わたしまりさのおむかいさんだったから、しんぱいでひとばんじゅうずっとおきてたの!
 まりさはずっとおうちのまえにいたわ。とちゅうでねちゃったけど。
 でもわたしはあさまでおきてみてたけど、まりさはほんとうになにもしてなかったわ!!」
 必死に、ありすはまりさを弁護する。恐らくそこには、仲間であるという以上の特別な感情があったに違いない。
「むきゅ……みっしつさつじんというやつね……」
 ぱちゅりーが考え込むように言うが、しかし、これは密室でもなんでもない。
 しかも悲しいことに、ありすのその発言が、まりさの犯行の決定的な裏づけになっているのだ。
「ありす、それはね、簡単なことなんだよ。
 何故ならまりさは、家の前で見張りを始める前に、既に子まりさを殺していたんだから」
「……ゆっ?」
 ありすは一瞬、言われたことが理解できなかったようだ。
 しかしその意味に気づくと、やがて顔を青ざめさせ、震えだした。
「まりさはこう言ったんじゃないかな? 『こどもをまもるから、だれもちかづかないでね』みたいなことを。
 それを聞けば、誰だって中に子供がいて、まりさが子供を守ってるんだと思うだろう。
 でもまりさが家の入り口を塞ぎ、その前に座った時点で……中の子供は生きていなかったんだ」
 密室殺人が不可能なら、密室を作る前に殺人すればいい。そういうことだ。
「うそっ、うそよっ、ぞんなのうぞよぉぉぉぉぉぉ!!!」
 ありすは気の毒なくらい取り乱した。
 人間に置き換えれば、自分の子供の惨殺屍体がある部屋の前で眠っていたようなものだ。なんともおぞましい光景だろう。
「その次のみょん夫妻は、やはり夫が妻を殺したんだろう。
 すっきりー!させたのは、最期に子供を残したかったのか、苦しまずに死なせてやりたかったのか……。
 また次のありすのセフレ(笑)だった子ぱちゅりーも、他のセフレ(笑)二人のどちらかによって殺されたものだろう。
 もしかしたら二人で一緒にやったのかもしれないけどね。
 理性的なありすの恋人のまりさは、これは自殺だと思う。
 一連の殺ゆっくりを、全て同一の事件だと思えば無理が出るけど、切り離して考えれば、まりさが死ぬ方法なんて自殺しかないんだから。
 その次の歩けない赤ちゃんれいむは……やっぱり、姉妹に殺されたんだろうね。
 随分嫌われてたんじゃないかな、あの赤ちゃんは」
「うん……おかあさんのれいむがちゅういしても、やめてなかったみたいだよ……」
 ドスが心底辛そうに言葉を吐き出した。
 それを最後に、ゆっくり達が静まり返った。事態の複雑さをようやく把握してきたからだろう。
 何しろ、ゆっくりがゆっくりを殺した理由が、必ずしも憎悪や自分の都合ではないからだ。
 ありす一家とゆかりん夫妻、みょん夫妻は、共に大切な家族の疑いを晴らすために犯行に及んだ。
 あるまりさに至っては、恋人のありすから疑いの目を背けさせるために自殺までしたほどだ。
 だが一方で、自分の都合で家族を殺した者もいる。しかも自分より弱い立場の者を、だ。
 どのような事情があろうと、殺ゆっくりは殺ゆっくりだ。
 だが果たして、全ての殺ゆっくり犯を同列に扱っていいものか。そのことがドス達を戸惑わせている。 
「……僕は、君達に謝らなければならないのかもしれないな」
 ここで僕は弱々しい声を作って、言った。
「僕が最初に『疑わしいゆっくりを連れて行く』なんて言わなければ、そもそもこんな悲しい負の連鎖は起きなかったかもしれない。
 本当なら、あの時点で事件は終わってよかったはずなんだ。
 あの時はあれが一番いい方法だと思ってたけど……今となっては……」
「それはちがうよ!」
 ドスが声を上げた。
「お兄さんは、まりさたちのことをかんがえてくれたんだから、お兄さんだけがわるいんじゃないよ!
 それに、お兄さんが何もしてくれなかったら、まりさたちは今までみたいにゆっくりくらすことなんてできなかったよ!」
「むきゅん! そうよ! それに、よいゆっくりまでしんでしまったのはかなしいけど、だれがわるいゆっくりなのかもわかったわ。
 むれのなかのふおんぶんしをあぶりだすことができたとかんがえれば、ぜんぶがぜんぶ、わるいことばかりじゃないわ!」
 ドスとぱちゅりーが、俺を励ましてくれた。
 他のゆっくり達も、口々に俺を慰めてくれる。
「ああ……ありがとう……ありがとう、みんな……」
 俺は思わず、両手で顔を覆った。
 ああ、こいつらはなんて良いゆっくりなのだろう。
 良いゆっくりすぎて────

 笑いを堪えるのが、とても大変だ。

 ……実を言えば、僕はかなり早い段階からこの事件の全容に気づいていた。
 最初の提案、あれは本心から事件の解決を願ってのことだったが、それだけだ。
 最初に長女まりさが殺された時点で、その犯人の検討はついていた。
 何故なら長女まりさは『食い殺された』のではなく、ただ『殺されていた』だけだったから。
 完全な確信を得たのは、父まりさが守る密室内で子まりさが殺された事件のとき。
 実はその夜、僕は森の中に隠れ、群れの様子を監視していたのである。
 そのときたまたま夜だというのに外に出ているまりさを見つけたので、特に注意して見ていたのだ。
 或いは他のゆっくりに殺されるシーンが見られるのかもしれない、という理由もあった。
 だがまりさは特に何事もなく朝を迎え、そして巣に入った直後慌てて飛び出してきた。
 まりさが自分で自分の子を殺したのだと理解したとき、僕は大声でゲラゲラ笑ってしまいたかった。
 ──こいつは、自分がゆっくりするためだけに、自分の子供を殺しやがったのだ!
 自分で殺しておきながら、いもしない犯人に怒りを露にする姿が、たまらなくおかしかった。
 だが僕はそれを黙認した。
 そしてそれから都合四回、事件を看過した。
 家族や恋人の疑いを逸らすために犠牲になるもの、自分がゆっくりするために家族を殺すもの、事件にかこつけて厄介者を始末するもの。
 その有様全てが、僕にとってはたまらない甘美なのだ。
 ああ──僕はゆっくりがいとおしい。虐めたくなるほどにいとおしい。
 知恵も力も足りないゆっくり達が、必死に生き足掻こうとする様に、僕は感動すら覚えるのだ──
「皆、ありがとう。それじゃあ、話の続きをしようか」
 僕はようやくのことで笑いを引っ込めると、表情を切り替え、ドスに向き直った。
「さっき言ったとおり、この事件は家族を罪の追及から逸らすため、または自分が差別されぬための犯行が連続して起きたものだ。
 だが逆に言えば、家族がおらず、特別親しい仲間がいないゆっくりが容疑者となった場合、そのために誰かが殺されることはない。
 今まではたまたまそれがなかっただけだ。──そこで、この事件を終わらせるために、提案がある」
 一息つき、
「──ここにいる誰か一人を、一連の事件の真犯人に仕立て上げる」
「「「「「ゆ゛っ!!!???」」」」」
「お、お兄さん、どういうことなの!? なにをいってるのぉ!?」
 まぁまぁ、とドスを落ち着かせる。反応を返してくれるのはいいんだが、そう暑苦しくてデカい身体で近寄ってこないで欲しい。
「こうするんだ。今日は夕方の容疑者決めを行わない。ただし一晩中、僕とドスで群れを見張ることにする、と皆には言っておく。
 そして翌朝、僕が身代わりの容疑者を連れて現れ、その罪を暴くんだ。
 そのとき身代わりにも自分の罪を認めるような発言をしてもらえば、群れの皆はそのゆっくりが真犯人だと思うだろう。
 例え家族がいたとしても、本人が罪を認めたのであれば、それ以上何も言えないし、何もできない」
「ゆ……でも……」
 ドスは尻込みしているようだ。確かに、無実と分かっていながら罪を着せるのは、リーダーとして非常に苦痛の伴う決断なのかもしれない。
「犯人に仕立て上げるって言っても、殺すわけじゃない。
 僕がそのゆっくりを隠し、『加工場に連れて行った』とでも言えば、皆納得してくれるだろ。
 とはいえ流石に、犯人になったゆっくりには、ここから遠く離れた別の場所に移り住んでもらうことになるだろうけどね……。
 それで、どうする? 誰かこの中に、自分から身代わりになってくれるやつはいるかい?」
「ゆ……」
「…………」
 ゆっくり達は残らず黙り込んでしまった。
 犯人になれば、この悲劇は終わらせられるが、しかしそれは群れとの決別を意味する。しかも、誰からも感謝してもらえないのだ。
 そんな損な役回りを引き受けたがるものは、中々いなかった。
 ドスと側近ぱちゅりーは、特に苦しそうな顔をしていた。できれば自分が犯人になってしまいたいんだろう。
 だがドスとぱちゅりー種は、事件の初めに俺が語ったように、犯人としての説得力に欠けるのだ。
 かといって他のゆっくり達も、辛すぎるその役目を背負えずにいた。
「……れいむが、やるよ」
 そんなとき、一匹のれいむが名乗りを上げた。
「れいむ!?」
「このままじゃ、だれもゆっくりできなくなるもん。しかたないよ。
 それにれいむにはかぞくがいないから、いなくなったってだれもこまらないよ」
「むきゅ……」
 ぱちゅりーも他の皆も押し黙ってしまった。
「まぁ、本人の決めたことだし、それでいいだろう」
 これ以上話させると無駄に長い愁嘆場に入りそうだったので、少々強引だが話を打ち切った。
「心配しなくても、全部片付いたあとの面倒は僕が見るからさ。約束するよ」
「ゆっ……分かったよ。お兄さん、れいむのことくれぐれもよろしくね」
「ああ」
 まぁ、ちょっと離れたとこに住んでる愛でお兄さんにでも引き取ってもらえば問題ないだろう。
 事情を話せばボロボロ泣きながられいむを抱き締めるに違いない。
「そういうわけで、明日はこのれいむが犯人役を務めることになる。
 ドス、ぱちゅりー、それから他のゆっくりも、辛いだろうけど、明日の朝は皆と一緒にこのれいむを罵るんだよ。
 特にドス自らが犯人を認めたとあれば、異論があっても押さえつけられる。──わかったね?」
「「「「「ゆっくりりかいしたよ……」」」」」
 そう答える声も、とても悲しそうだった。まぁ、それはそうだろうね。
「それじゃあドス、皆に今夜の予定を伝えに行くよ。これからが正念場だ。頑張ろうね」
「ゆっ、れいむのけついにこたえるために、がんばるよ!」



 それから。
 僕とドスは、今夜の容疑者決めのために集まっていたゆっくり達に、その中止を伝えた。
 曰く、僕の家のゆっくりの許容量が限界に達しており、今夜はゆっくりを引き取れないこと。
 そのため今夜は容疑者決めを行わず、僕とドスとで群れの見張りを行うことを告げた。
 群れのゆっくりはそれを了解し、僕は一度準備のために家へと戻る。
「ゆっ、おにーさん、それなに?」
「いや、準備が必要だからね。色々と」
 大きなリヤカーを引いてきた僕に、れいむが聞いてくる。
 この中には宿泊用のテントや食糧なんかと、あるものも一緒に入っているのだが、まぁそれはお楽しみだ。
 僕は群れの縄張り内の、見通しのいいところにテントを張った。今夜はこの中で、れいむと共に見張りをするのだ。
 ちなみにドスはまた別の場所にいる。二箇所から監視することで、群れ全体に目が届くのだ。
「しかしまぁ、君も大変な役目を引き受けたもんだね」
 夜食のおにぎりをほおばりながら、僕はれいむに言う。
「ゆぅ、むれのみんながゆっくりするためだよ。しかたないよ」
「でもなぁ、結構辛いと思うぞ」
「がまんするよ……」
 まぁ、こいつはそれなりに覚悟をして、自分の運命を決めたのだろう。
 その意志の強さは賞賛されて然るべきものだ。
 だが何か忘れちゃいないかい?
 ──僕は、虐待お兄さんなんだぜ?
「本当に我慢できるかなぁ」
「ゆっ、どういうこと!? れいむがんばるからだいじょうぶだよ!」
「そうは言うがね」
 僕はれいむを正面から見つめた。
「僕はれいむが犯人じゃないことを知っている。ドスやぱちゅりーも、他の何人かもだ。
 家族を殺したゆっくりは、当然自分が犯人だって分かってるから、変な顔をするかもね。
 でも、群れのゆっくりの大半はそうじゃない。皆は、れいむが犯人だって心から信じることだろう。
 皆の中では、れいむは仲間をたくさん殺した大量殺ゆっくり犯なんだよ」
「ゆっ……」
「そんなれいむを、皆はどう思うだろうね? どれだけの憎悪を向けられるだろうか。
 どれだけ皆は、れいむを殺したいと思うだろうか。
 れいむを、自らの手で引き裂き、なぶり、千切り、すり潰したいと思うだろうか。
 群れにいるゆっくりの数だけれいむを殺しても足りないくらい、とてもとても皆はれいむを嫌い、憎むだろうね。
 それはれいむが群れを離れても変わらない。
 どんなに遠くに行ったって、皆の中じゃ、ずっとれいむは最悪の大量殺ゆっくり犯なんだ。
 皆が死ぬまで、それは皆の中で真実であり続けるんだ。
 それを受け止めるのは、とてもとても辛いことだと思うよ」
「ゆ、ゆ、ゆぅぅぅ……!!」
 想像して今更怖くなってきたのか、れいむはガタガタと震えだした。
「そ、それでも、れいむはむれのみんなを、ゆっくりさせたいよ……!」
 歯を食いしばってれいむは言う。おお、立派立派。
「僕も気をつけないとなぁー。
 うっかり僕が群れの真ん中でれいむを落としちゃったりなんかしたら……助ける間もなく、袋叩きにあって潰されちゃうだろうしね」
 ビクッとれいむが身体を痙攣させる。俯いていて表情は見えないが。
「れいむ、疲れたなら寝ていていいよ。後は僕が見張ってるから」
「ゆっぐり……ぞうずるよ……」
 れいむはよたよたとテントの中に入っていった。
 しばらくはすすり泣く声が聞こえてきていたが、やがてそれは寝息に変わる。
 しかし怖い夢でも見ているのか、時々魘されているようだった。
 未来に対して暗い希望しか持てないというのは、かわいそうなものだ。
 その呻き声のお陰で、僕は一晩中テンションを維持したまま起きていることができたけどね!



 そして、夜が明けた。






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最終更新:2022年05月03日 15:39