※この作品を書くにあたり、ゆっくりいじめ系1332、1333「およめにしなさい」を参考にさせて頂きました


これまでに書いたもの



ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
いろいろと小ネタ ごった煮
庇護
庇護─選択の結果─
不幸なゆっくりまりさ
終わらないはねゆーん 前編
終わらないはねゆーん 中編
終わらないはねゆーん 後編
おデブゆっくりのダイエット計画
ノーマルに虐待
大家族とゆっくりプレイス
都会派ありすの憂鬱
都会派ありす、の飼い主の暴走
都会派ありすの溜息
都会派ありすの消失


byキノコ馬













「ゆっくりしていってね! まりさをおにいさんのおよめさんにしてね!」

青年が家に帰ると、一匹のゆっくりが玄関前に鎮座していて、そんな事をのたまった。
そんな事を言われたら普通の人間ならば何を世迷言と、と無視するか蹴るか嬲るか殺すかしている所だが、青年はそうはしなかった。

「あぁ、いいよ」

あろうことか、青年は笑顔で承諾したのだ。
野生で生きるゆっくりにとって、食住揃った環境を提供してくれ、かつ強い相手というのは伴侶に相応しいとされる。(衣は自前の一張羅で充分)
人間はゆっくりに比べて遥かに強く、野生のゆっくりに比べれば格段の食事事情と家を持っている。
つまり(種族を無視すれば)ゆっくりにとって人間は伴侶に最も相応しいとさえ言える相手なのだ。
そのためこのゆっくりまりさは人間である青年に求婚を申し込んだのだ。
もっとも、過去に人間に求婚してお嫁さんにしてもらったというゆっくりの話を聞かなければ、このまりさもこんな事はしなかっただろうが。

だが、それはもちろんゆっくりにとっての話であって、人間がゆっくりを伴侶にする理由は何も無い。
無いのだが、この青年はまりさの申し出を快く受け入れた。

「ゆゆっ! ほんとう? おにいさん!
「あぁ、もちろんだとも。ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね!!!」

こうして人間とゆっくりという奇妙な新婚カップルが生まれた。
















「はい、まりさ。朝ご飯だよ」
「ゆゆ~、ありがとうだーりん!」

みょんなカップルが生まれて三日。
青年は朝、いつものようにまりさに餌を用意する。
『まりさ』と書かれた犬の餌皿に餡子が盛られたという貧相な、だがゆっくりにとってはご馳走ともいえる食事だ。
この光景は朝食だけでなく三食ほぼ同じである。

この一人と一匹の生活は、どこからどう見ても飼い主とペットだが、まりさの中では新婚生活らしい。
結婚とは普通は互いの両親に報告するものだろうが、まりさの両親は自然災害で、青年の両親は病気で既に他界していた。

青年は「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~♪」と餡子を頬張るまりさを見ながら、自分の朝食である白飯と味噌汁、漬物を食べる。
まりさは青年のような食事を欲しがらないかとも思えるが、野生の生活で甘味に飢え、かつ甘味を大好物とするゆっくりであるまりさは、
しばらくは甘味を好んで食すだろう。

一人と一匹は仲良く食事を楽しみ、揃って「ごちそうさま」を口にする。
まりさはお腹が膨れて満足げに昼寝でもしようかと思ったが、まりさはお嫁さんなんだからお家の掃除でもしようと思い直した。
これは野生の頃の価値観である、伴侶の片割れが餌を採りに行ってもう片方が留守番をして家を管理するというものの名残だろう。

青年が仕事に行く準備を進めるなか、まりさは庭の雑草抜きをしようと思った。
昨日青年が雑草が邪魔だ、と困っていたのを思い出し、かつ雑草を食べればお腹も空かずにゆっくりできるという考えのもとでの思いつきだ。
そうしてまりさは庭に出ようとしたところ、あるものが目に入った。

「ゆっ?」

それは庭の片隅にあった。
それぞれ『れいむ』『ありす』と書かれた三十センチ程の木の札が、地面に刺さっていたのである。

「だーりん、あれなぁに?」

まりさは気になって青年に訊ねた。
訊ねられた青年は、まりさの視線の先を見て、

「あぁあれは前の、僕の奥さんのお墓だよ」

と、何でもない風に言った。

「ゆゆっ!?」

その言葉にまりさは驚愕した。

「だーりんってば、ばつにだったの!?」

自分の旦那がかつて二人の嫁を迎えていただなんて、と。
だが、と。
離婚したならばともかく、お墓があるということは死んだということだろう。
まりさは、何故かそのことを疑問に思って青年に訊ねていた。

「どうしてしんじゃったの?」
「浮気したからだよ」

さらっ、と青年は答えたが、浮気と死ぬことの因果関係がまりさには全く分からなかった。
分からなかったが、何故か本能的にそれについて聞くことに恐怖を覚え、聞くことはしなかった。

「じゃあね、行ってくるよ」
「……ゆゆっ、ゆっくりいってきてね、だーりん!」

まりさは結局この日、庭の片隅の墓が気になって半分も雑草を抜くことが出来なかった。













新婚生活も二週間経った頃、まりさは日中家にいることに飽きていた。
子供でもいれば子守で忙しいだろうが、青年とまりさの間に子供が出来るわけもない。
また家事をしようにもまりさが手の届く範囲で出来ることなど高が知れている。
結果、まりさは青年が仕事で家にいない間暇をもてあますことになっていた。

そこで、まりさは青年に日中外に遊びに行ってもいいかと許可を求めた。
青年はそれをあっさりと承諾した。
青年は外に遊びに行くまりさの帽子に、犬猫の首輪と同じ意味を持つバッジをまりさの帽子につけて、

「ゆゆっ? これはなぁに?」
「まりさが僕のお嫁さんだという証だよ」

家を出る際に陽気に遊びに行くまりさを見送った。
完全にペットと飼い主である。















野原をスキップするかのように跳ねていたまりさは、ひどくご機嫌だった。
久しぶりに目一杯走り回れるのだから、当然かもしれない。
それに今は野生の時と違って餌や家の心配をする必要も無い。
好きなだけ遊んで好きなだけゆっくりしていても、家に帰れば美味しいご飯が待っているのだ。
陽気にならない訳が無い。

「ゆゆっ、ゆっくりしていってね!!!」

まりさは前方にゆっくりれいむを見つけると、立ち止まって挨拶をした。
相手のれいむもまりさに振り返って「ゆっくりしていってね!」と返した。

れいむはどうやら成体ゆっくり直前のゆっくりで、どうやらまりさより少し若いようだ。
野原に生えていた花を食べていたようで、とてもゆっくりできるれいむだ、とまりさは思った。
おしゃべりしたり、頬をす~りす~りなどすると、れいむもまりさの事が気に入ったらしく、その日は一日まりさはれいむと遊ぶ事にした。










太陽が山にかかろうとする夕方。
二匹は遊び疲れたのか、それぞれの家に帰ることにした。

「ゆっくりできたよ! れいむ、ありがとう!」
「れいむもゆっくりできたよ! まりさ、またね!」

笑顔でそう言いあってぽよんぽよん背を向けて跳ねだす二匹。
まりさは野生のゆっくりの友達が出来た。
家に帰ると青年はまだ帰っていなかったので、遊びつかれたまりさは眠ることにした。

その後帰ってきた青年は外で遊んで汚れているまりさを風呂にいれてやり、

「さっぱりー!!」

一人と一匹仲良く夕食にし、しばらく一緒に遊んでまりさが眠るのを確認し、後就寝。
野生のゆっくりが見たらパルスィ化するほどの幸せな生活である。












「ゆゆ~、れいむゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね! まりさ、きょうもゆっくりしようね!」

あれからまりさは毎日れいむと遊んでいる。
れいむはまだ両親と一緒に巣で暮らしているらしく、群れにも属していないため外で餌集めのついでにまりさと遊んでいた。
まりさは飼いゆっくりによる恵まれた食生活のため体力が野生のゆっくりよりも高い。
そのためまりさも遊ぶついでにれいむの餌集めを手伝っていた。

「ゆゆ~、いいの? まりさぁ」
「いいよ! まりさはおうちにかえったらだーりんがゆっくりさせてくれるもん!」

両親が優れた餌集めの技術を持っているからか、れいむが採ってくる餌のノルマはそんなに多くない。
まりさの協力もあって、餌集めもそこそこに日中遊ぶことができた。

そして遊びに夢中になっていたのか、気付けば陽が暮れて夜になっていた。

「ゆゆっ! まっくらだよ、れみりゃがでるよ! ゆっくりできないよ!」
「ゆっくりできないのはいやだよ! まりさおうちかえるね」
「れいむもおうちかえるよ、まりさ、ゆっくりばいばい」
「れいむ、ゆっくりばいばい」

慌てて互いの家路につく。
まりさは夜の暗さで道に迷うかもと思ったが、なんとか迷うことなく真っ直ぐ青年の家に辿り着くことが出来た。

「ゆっくりかえったよ!」

玄関扉に作られた猫用出入り口のようなゆっくり用出入り口を通ってまりさは家に入る。
まだ青年は帰っていないのか、家の中は真っ暗だ。

「ゆゆ~、だーりんまだかえってないのかな~」

暗くて視界が悪いが、一応何週間か過ごした家である。多少おぼつかない足取りではあるがぽよんぽよん歩を進める。
そしていつも青年とゆっくりしている居間に入ったところで、急に部屋の灯りがついた。

「ゆっ?」

まりさは不思議がる間もなく、頭を押さえられ顔面を蹴られた。
身体から一瞬にして力が抜け、「ゆぶっ!!」と声をあげる。
呻くことしか出来なかった。どうにか痛みをこらえて蹴ってきた相手を確認しようとするが、頬を続けて蹴られた。
気付けば透明な箱の中に入れられていた。サイズはピッタリでまるで身動きが出来ない。

「いぢゃい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛……」

久しく感じたことのなかった痛みに泣いていると、「まりさ」と呼ぶ声がした。
まりさが涙を零す目を開けて声がする方、目の前を見てみるとそこにはまりさをお嫁さんにした(とまりさが思っている)青年がいた。
周りには誰も居ない。
まりさは餡子脳ながらも、事態を理解した。

「だーりんどぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉぉ!!!」

自分を蹴って透明な箱に閉じ込めたのは、愛する我が夫。
それを理解したまりさはガタガタと箱の中で暴れながら泣き喚き、訴える。
でぃーぶい、だよ! かてーないぼうりょくだよ! と煩く喚いているが、青年はそんなまりさの言葉は相手にせず、透明な箱の蓋を開けた。

「まりさ、正直に浮気相手のことを言いなさい」

まりさは唐突に言われた言葉に箱から出ようとするのも忘れて体を傾げた。

「……ゆっ? なんのこと?」
「とぼけなくてもいいよ。浮気してるんだろ、まりさ?」
「どぼじでぞんなごどいうの!? ぬれぎぬだよ゛っ!」

まりさは目尻に涙を溜めながらも身の潔白を訴える。なんで青年は唐突にそんなことを言ったのか。
まりさはだーりんのおよめさんだよ!
そんな自分の思いが分からないのか、と。

「濡れ衣? 本当に?」
「ぞうだよ゛っ!」
「嘘ついてない?」
「うぞじゃないよ゛ぉぉぉぉ!! じんじでよ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」

そこまで言ったところで、ジュッと何かがまりさの頬に落ちてきた。
とてつもない熱を持つそれは、青年が手に持っていた蝋燭から垂れてきた、溶けた蝋だ。火のついた蝋燭を傾け、そこから落ちてきた。

「ゆびぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!! あぢゅい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
「さぁ、正直に言いなさい」
「うわぎなんでじでないよ゛ぉぉぉぉぉ!!」

ジュッ
再び蝋が落とされる。

「ゆぶぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」
「最近帰りが遅い」
「おぞどであぞんでだだげだよ゛ぉぉぉぉ!!!

ジュッ
また溶けた蝋が落とされる。

「ゆぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
「他のゆっくりが家に近づいてくるとどぎまぎしてる」
「おどもだぢだとおもっだの゛ぉぉぉぉぉ!!」

ジュッ
青年が持つ蝋燭が傾けられ溶けた蝋がまりさの額に落ちる。

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛づぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛いよ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」
「この間お饅頭を持って遊びに出てった。浮気相手のプレゼントだろ?」
「おどもだぢのいもうどだぢに、ぶれぜんどじだんだよ゛ぉぉぉぉぉぉ!!! ぞれだげしがしょうこないの゛ぉぉぉぉ!?」
「ほら」
「ゆっ?」
「証拠は? って聞いてくるのは大体犯人なんだよ」

まりさは呆然とした。
無茶苦茶だ、と。理不尽だ、と。
信じられない、といった表情をしているまりさに、青年は言った。

「信じられないって顔してるね、まりさ。僕が信じられないのは、浮気してるからだろ?」

ジュッ









それから一時間にわたり尋問したが、まりさは浮気しているとも、浮気相手の名前も言わなかった。
浮気をしていないのだから、当然である。
当のまりさといえば、長きにわたる尋問で衰弱している。

「う~ん、本当に浮気してないのかな?」
「うわぎなんで……じでないよ゛……」
「自信あったんだけどなぁ」
「だーりん、どぼじで……ゆっぐじ、ざぜで……」
「うん、ごめんごめん。まりさ、ゆっくりしていってね」

青年はさっきとは打って変わって優しく微笑むと、まりさに水を浴びせてやり、火傷した場所を水で溶かした小麦粉で治してやった。
その後は一緒に入浴し、夕食を食べ、一緒に遊びあうといういつもの通りの平和な日常だった。

















それから何も変わらない日常がしばらく続いたが、ある日れいむ一家に事件が起きた。
れいむの両親の片方がれみりゃに喰われ、もう片方は狩りをしている所を人間に暇つぶしに殺されたらしい。
つまり、まりさの友達のれいむが一匹で、年の離れた姉妹たちを養っていかなければならないという。

「ゆぅ……だからまりさとはもうあえないよぉ」
「ゆゆっ! だったらまりさもてつだうよ!」
「ゆっ?」
「まりさもごはんあつめるのてつだうよ! れいむとそのいもーとたちをゆっくりさせてあげるよ!」

まりさは友達思いのゆっくりである。
以前の野生暮らしの頃の友達は全員死んでしまった。だから人間にお嫁さんにしてもらおう、と思ったのだが。
だからまりさは、今唯一の友達であるれいむが大変ならば手伝いたいと心から思った。

まりさは青年から食事がもらえるから自分の分は気にしなくていいし、一緒に狩りをすればそれだけれいむと一緒にいられるかもという打算も無いわけではなかったが。

「ゆっ、ゆっぐ……ありがどばりざぁ……」

れいむはそんなまりさの申し出に、感極まって泣いてしまっていた。
まりさは泣き出したれいむに困り果てながらも、なんとかれいむを宥めすかす。

「ゆぅ、れいむなかないでぇ……。いっしょにゆっくりしよう」
「ゆぐっ、ゆっくりありがとう、ばりざ」














「ゆぅ、まりさのおかげでいっぱいごはんあつまったよ! ゆっくりできそうだよ!」
「ゆふふふふ♪」

その日一日二匹揃って駆けずり回った結果、れいむ一家が食べるには充分すぎるほどの食料を集めることが出来た。
二匹は頬や帽子にエサをぱんぱんに詰めてれいむの巣に向かう。
そこは小さな洞窟だった。
巣の中ではれいむとまりさ種の子ゆっくりや赤ゆっくりが六匹ほどいた。

「ゆっ、ゆっくりかえったよ! ゆっくりしていってね!」
「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」

巣に入ったれいむにれいむの姉妹達が揃って迎えの言葉をかける。
キャッキャッとれいむの周りに群がり、労をねぎらったり頬擦りをして甘えようとする。

「おねえちゃん、ゆっくりありがとう!」
「ゆゆ~、おねえしゃんしゅりしゅり~♪」
「まりしゃいいこにしてちゃよ!」
「れいみゅにもしゅりしゅり~♪」

本当に仲が良いのだろう。
姉妹達にもみくちゃにされながらも、れいむの顔にも笑顔があった。
まりさは、そんなれいむを羨ましく思った。
人間じゃなくてゆっくりの家族がいて、と。

「ゆゆっ? そっちのおねーしゃんだぁれ?」

そんな事をまりさが思っていると、一匹の赤まりさがまりさに気付いた。

「まりさはれいむのたいせつなおともだちだよ! ごはんあつめるのをてつだってくれたんだよ!」
「ゆゆっ、しょうなの!?」

れいむの紹介にれいむの姉妹達は一斉に並んでまりさに向き直ると、

「「「「「「まりさおねーしゃんありがちょう! ゆっくりしていってね!!!」」」」」」

舌ったらずながらも挨拶だけはしっかりとした発音。
姉妹達に一斉に感謝され、歓迎され、まりさは先ほどのれいむのように感極まって涙ぐんでしまった。

「ゆぅ、まりさどうしたの?」
「ゆゆっ、なんでもないよ! まりさもうかえらなきゃ!」

まりさは涙を隠すように慌てて顔をそむけて巣の外に出る。
れいむが慌ててまりさの後を追って外に出るが、既にまりさは家に向かって駆けていた。

「まりさっ、きょうはありがとう! またゆっくりしようね!」

背からかけられたれいむの言葉に、まりさは立ち止まり振り向く。
そして、

「ゆっくりしていってね!!!」




















まりさがれいむ一家の狩りを手伝い始めて一周間が過ぎた。
狩り上手な両親の才能を受け継いだのかれいむはエサを集めるのが上手く、またまりさも飼いゆっくりの身体能力の高さを生かして多くのエサを集めた。
まだ夕方前だというのに、既に一日分の食料を集め終えた二匹は、木陰で寄り添ってゆっくりしてた。

「ゆぅ……こうしてまりさとゆっくりするのひさしぶりだよぉ……」
「ゆっくり~……」

集めた食料を脇に置き、お互いに体を預けあって休憩している。
ゆっくりという名に恥かしくないゆっくりっぷりである。

「まりさぁ、ありがとうね……まりさのおかげで、れいむたちゆっくりできるよ~……」

れいむは両親が死んだ時、一時はどうなるかと思った。
自分達だけで生きていけるのか。先に胎生型で生まれた自分だけで、年の離れた姉妹達を養っていけるのか、と。
そんな悩みも、まりさのお陰で解決できた。れいむは本当に、まりさに感謝していた。
いや、そんな損得結果など無しにれいむはまりさの事が大好きだった。
できれば、一生一緒にゆっくりしたい程に。

れいむは今を幸せだと感じていた。仲良しの家族はいる。ご飯も大丈夫。とても大切な相手もいる。
満ち足りた生活だ。

それとは対称に、まりさには現状の生活にある不満があった。
あれだけ贅沢な生活をしておいて何を、と思うかもしれない。実際思うだろう。
だが、まりさはまりさである一つだけが満ち足りてなかった。
食事も住居もれいむとは比べ物にならないほどの水準だ。風呂にも入れるし暖かな布団だってある。

では何が足りないのか。
それは家族と、すっきりである。
まりさの家族は今やいない。あえて言うとすればあの青年だろう。だがゆっくりではない。
そしていくらまりさが青年のお嫁さんだと言い張っても、人間とゆっくりの間では子を為すことは出来ない。

最初青年に求婚しに行くとき、それでも良いと思った。
子供が出来なくても、ゆっくりできる生活が欲しいと。
だが、いざ充実したゆっくりできる生活に慣れてしまうと、欲が出てしまう。
すなわち、子が欲しい。自分と同じゆっくりの家族が欲しい、と。

そんなまりさの長い間溜まっていたストレスと欲求は、気付かぬ間にまりさを突き動かしていた。

「ゆぅ、れいむぅ……」
「ゆゆっ!! まりさっ!?」

まりさが頬を少し赤くして、れいむにしだれかかっていた。
頬をさっきよりも、溶けて融合するのではないかと言うほど密着させている。
ここまでされれば、れいむもその意味は分かる。だがれいむは突然の事に、そして自分が望んでいたことをまりさから望んで来たことに驚いていた。
「ゆぅ、まりさだいたんだよぉ~」
「ゆゆっ、いっしょにすっきりしようね!」

むちむちとした肌を押し付けあう二匹。頬をこすりあわせて、お互いの温もりを感じていく。
互いが頬を擦り合わせるたびに変形する。やがてれいむもまりさも頬を更に赤くさせていく。発情しているのだ。
れいむとまりさは求め合った。互いを。激しく。


















「「すっきり~♪」」




「ゆゆっ、れいむ、あかちゃんがでてきたよ!」

交尾を終えたれいむの額から、茎がしゅるしゅると伸びてきた。植物型にんっしんっ! である。
その茎には実がなっていた。赤ゆっくりの実である。れいむ種とまりさ種、あわせて七匹。
植物型にんっしんっ! は生まれるのが早い。既にいくらかの形は出来ている。
この分ならば明日か明後日には生まれるだろう。

「ゆゆ~♪ きっとまりさににてとってもゆっくりしたこだよ~♪」

ようやくまりさと結ばれて、自分の子が出来たれいむは嬉しさに顔を綻ばせる。
上機嫌に歌いながら、自分の額に生えた子供を眺め続ける。まりさは、感動に涙していた。自分が子を持つなんて、と。
家族や友達がれみりゃに殺された時、もう自分はダメだと思った。それでも幾つかの偶然の重ね合わせで生き延びることが出来た。

そして、かつて聞いた噂話を頼りに人間のお嫁さんにしてもらうのも、賭けだった。
その賭けに勝ったはいいものの、人間とでは子供は出来ない。
だが、それでも良いとまりさは諦めかけていた。家族はいなくても、と。
家族や友達が助けてくれたこの命を永らえさせれば、と。

だがそれでも、まりさは家族が欲しかった。
その願いの結晶が、今愛するれいむの額にいる。自分も親になれたんだと、実感する。

れいむとまりさはその後、陽が暮れるまで寄り添いあい我が子と暮らす未来図を話し合った。
れいむの妹達はどうするのか。まりさの家の青年はどうするのか。
問題はまだあるし、どうすればいいかもまだ分からないが、たとえ隕石が落ちて他の生物が絶滅して二匹っきりになっても、困ることは何も無いように思えた。

「いっしょにひろいおうちにすもうね」
「あかちゃんといっぱいすりすりしようね」
「かわいいあかちゃんにちゅっちゅしたいね」
「いっしょにゆっくりしようね」
「ゆっくりしようね」




















「ゆゆ~♪ だーりん、ただいま~♪」

まりさが家に帰ると、青年はまだ家にはいなかった。
まりさは子が出来た喜びから上機嫌に家に帰ってきたが、日中のエサ集めと交尾の疲れからか、居間でそのまま眠りこけてしまった。

「ゆぅ~……ゆっくり~……」

和む、あるいはいらつく程幸せそうな寝顔と寝息をたてるまりさ。
そんなまりさの安息の時間は、唐突に終わりを告げる。

ドムッ!

幸せそうに眠りこけるまりさの顔面に、足が突き刺さった。
振られた足はそのまままりさの顔面を貫くかのように振りぬかれ、まりさを吹き飛ばし壁にたたきつけた。

「ゆびぃ!?」

突然の痛みに覚醒するまりさ。
餡子の芯まで響く激痛に意識せず大声をあげてしまう。

「いぢゃい、いぢゃい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
「やぁ、まりさ。お早う」

畳の上を痛みに泣き転げるまりさに、青年が爽やかに声をかける。
まりさを蹴り起こしたのは青年である。

「ゆ゛っ!? だーりん、ゆっくりおかえりなさい!」

青年の帰宅に気付いたまりさは言うべき言葉を思い出して言うが、

ドムッ!

それは間違いだった。脳天に足が振り下ろされる。

「ゆびぃ!?」
「ねぇ、まりさ。浮気相手のことを正直に言えば何も痛いことはしないよ」
「ゆゆゆっ!?」

まりさの餡子脳にかつての光景が蘇る。浮気をしたと疑われて熱い蝋を垂らされ続けたあの恐怖を。
その恐怖からか、まりさは口走っていた。

「じでないよ゛っ! ばりざ、うわぎなんでじでないよ゛っ!」

涙を撒き散らして必死にそう言うが、青年の無表情な顔はまるで信用していない。
事実、今回は濡れ衣ではない。
青年はまりさの言葉など聞こえていないかのように、口を開いた。

「ねぇ、まりさ知ってる?」
「ゆっ?」
「僕の前の前の奥さん、れいむの浮気相手はねぇ、お家でむ~しゃむ~しゃってご飯を食べてたら目が無くなっちゃったんだって~。不思議だねぇ、怖いねぇ」
「ゆ゛ゆ゛っ!?」
「それと前の奥さんのありすの浮気相手はねぇ、日向ぼっこしてたら足が真っ黒焦げになったんだって。怖いねぇ」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ!?」
「まりさの浮気相手は、どうなるのかな?」

まりさは、青年がそこまで言ったところで青年の足から抜け出して駆け出していた。
青年が足の力を緩めていたのだが、そんな事に気付く余裕はなかった。
浮気を認めることになるとか、そんな事は頭になく、ただれいむの心配だけが頭にあった。

家を飛び出し、野原を駆け、れいむの巣に辿り着く。
巣の前まで辿り着いたところで、巣の中からは泣き声の合唱が響いてきた。れいむの姉妹達の声だ。

「れいむぅぅぅぅぅ!!!」

まりさは巣の中に駆け込んだ。
そこに広がっていた空間は、まりさにとって信じがたいものだった。
乱暴に折られたかのような有様の茎が地に投げ捨てられており、巣の壁や床に赤ゆっくりの実であったと思われる餡子の染みと小さな飾りがある。
そして母体のれいむは、無数の切り傷と無数の殴打跡によってかつての面影などないボロ饅頭という有様だった。
モチモチだった肌の名残はなく、ボコボコの汚れまるけ。無数の切り傷からは餡子が漏れ出ている。

「ゆひゅぅ……ゆひゅぅ……」と荒い息をするれいむは、どう見ても先は長くない。じきに死ぬだろう。
れいむの周りではれいむの姉妹達が大声で涙と共に大声を撒き散らしている。

「おね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ち゛ゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!」
「ぢっがりぢでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
「どぼじでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!?」
「じんじゃやだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「ゆっぐじしちぇよ゛ぉぉぉぉ!!!」
「ゆ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん!!」

そこにはまりさの知るかつての幸せな光景はどこにも無かった。
姉妹達で生き抜こうという希望と愛に包まれた、あの幸せな光景が、まりさが羨んだあの姿が、どこにも。

「やぁ、どうしたのまりさ?」

呆然としているまりさの背から、声が来た。
まりさようやく、失念していた事を思い出し、目に涙を溜めてガタガタと振り返る。
ゆっくりと振り返ったまりさの視線の先に、柔和に微笑む青年の姿があった。


「僕の前の奥さん達はね、浮気したから死んじゃったんだ」
「だ、だーり゛ん……」
「まりさも、浮気してたんだね?」




















翌日、青年の庭に墓が一つ増えた。






おわり


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最終更新:2022年05月03日 20:18