※この作品はfuku2955「庇護」の続きとなります




青年が群れを去ってから、しばらくしてゆっくり達の越冬の季節がやって来た。
青年が群れを去った後、群れの規模は青年が居た頃とは比べ物にならない程に肥大化していた。
間引きもすっきり制限も当然するわけがなく、気侭にすっきりしたいだけ、子供を作りたいだけ作った結果である。
青年が群れを去った当時子供だった者の中にも、今では親となっている個体もいた。

「ゆゆっ! そろそろふゆがくるね! ゆっくりじゅんびするよ!」
「はやくじゅんびしないよゆっきりできないんだぜ!」
「はるになったらいっぱいゆっくりしましょ!」

代表れいむ達の鶴の一声で群れは越冬のためエサを集めに行く。
成体ゆっくり達の殆どが巣の周りへと東奔西走し、子ゆっくり達は残った親ゆっくりから(ごくわずかな)知識を学び、立派な大人になるため精進する。

だが、この群れは越冬の準備をするのが遅すぎた。
この規模の群れの越冬分の食料を準備するならば、少なくともあと十日は早く準備を始めなければならなかった。
そうしなかったのは何故か。それはこの群れの全ての越冬経験のあるゆっくり達がいつもこの時期に準備を始めていたからだ。
もちろん、それはあの青年の間引きと差し入れのおかげであり、数が少なかったためこの時期からの準備でもなんとか間に合ったのだ。

ところが今この群れは青年が間引きした時よりも遥かに数が多い上に、今年は青年からの差し入れもない。
それなのに準備を怠った。
これはゆっくり達を保護していた青年と、そんな事にも考えが及ばないゆっくり双方のミスだった。

そうして、遂に冬が来た。
ゆっくり達はそれぞれ自分たちの巣に篭り、入り口を塞ぎ、ゆっくりと春を待つ。
だが、越冬のために集めた食料は明らかに少ない。
数が増えたため例年よりも多く集めなければいけないというのはゆっくり達にも分かったようだが、明らかに目測を誤っている。

これまではこれぐらいで大丈夫だったから、今年はこれで大丈夫だろう。
そんな安直な考えによる結果であることもそうだが、数が増えすぎたせいで周りから取れるエサが激減したのだ。
一日に採るエサの量が格段に増えたことにより、ゆっくりの行動圏内から取れるエサがどんどん無くなっていった。植物の再生能力でも追いつかないほどだ。
それでもエサは集めなければならない。ゆっくり達は自分達の行動圏内のギリギリ外側までエサを採りに行った。
だがそれも無茶な話。集められる数は高が知れていた。





越冬が始まって一ヶ月が過ぎた頃、貯蔵していたエサがもう無くなった一家が現れた。

「どぼぢでごはんもう゛ない゛の゛ぉぉぉぉ!?」

親まりさは理解が出来なかった。何故こんなに早くなくなるのか。何時もはこれより少ない量でもったのに。今年はいつもより頑張ったのに、と。
この一家は群れの中でもトップクラスの子沢山だった。
後先考えず、すっきりするだけすっきりした結果、親まりさと親ありす、そして子ゆっくり十七匹という常識的なゆっくりの一家の数を越えていた。
これまではどんなに好きなだけすっきりしても、青年が間引きしてくれていたお陰で数は調整されていた。

だがもう青年の庇護を受けることはできない。ゆっくり達は青年を拒絶した時点で、青年がこれまで行なってきたことを自分達でやらなければならなかった。
なのにこの一家はそれをしなかった。その報いがこれである。
通常の野生動物は間引きなどせずとも、捕食や自然死事故死などによって最適な数が保たれる。
だがこの群れは長い間野生動物対策がなされており、捕食種があまり寄り付かない上に、ゆっくりの繁殖力は他の野生動物を遥かに上回る。

「あり゛ずぅぅぅぅ!! どぼぢよ゛ぉぉぉ!!」

親まりさは愛するありすに泣きついた。ありすは泣いているまりさをよしよし、と慰めた。大丈夫、落ち着いて、ゆっくりできるよ、と。
もちろん、どうしようもないし、ゆっくりできるわけもなかった。

冬の寒さとエサが無いことにより、一匹、また一匹と体力のない子供達が死に絶えていく。
親達は自分達の行動の結果を、はっきりと目の当たりにした。

「……おかぁ……しゃん……おにゃか、しゅいた……」
「ゆひゅぅ……ゆひゅぅ……」

ぐったりとした子供達は皆空腹によって体力の限界が来ており、中には声を出すことも出来ない子もいた。
喋るだけでもこの状態。跳ねることなど到底出来なかった。常軌を逸する空腹感は、眠ることさえも許さない。

「まり……さ……、どうし、よう……」
「ゆふぅ…………ゆっ……」

親まりさはこれまでの生涯で味わったことない空腹感に支配されている餡子脳の残った容量を使い、考えた。
どうすればいいのか。これでは、一家全滅だ。
どうしてこんなことになったのか。なんで今年は上手くいかなかったのか。
その答えは、このまりさには分からなかった。
だがそれでも、親としての責務は果たそうと、決断した。

「ゆっ、おちびちゃん、たち……。ゆっくりきいてね……。おかぁさんたちがしんだら、おかぁさんをたべてね……」
「…………ゆっ?」
「おきゃあしゃん……?」

子ゆっくり達が不思議そうな顔で親まりさを見る。何故そんなことを言うのかという目だ。
親まりさはそのことをちゃんと教えてあげたかった。自分たちは食べれるものだということを。だが、そんな余力はもう親まりさに残ってはいなかった。
ただ、追従したありすと共に「しんだらたべてね……」としか言えなかった。

だが、その願いは叶えられなかった。
親よりも先に、子ゆっくり達が全員餓死したのだ。
さもありなん。同じ条件ならば体力の無い子どもから死ぬのは当然。親まりさ達は決断をした時、自殺してでも自分達を子供に食べさせるべきなのだった。
そうしなかったのは、ひとえにゆっくりという種族の根底にある『自分がゆっくりしたい』という願望である。
子供達にゆっくりして欲しいというのはもちろん本心であるが、まだ生きている自分の命を差し出してまでは出来ない。
それでは自分が絶対にゆっくりできなくなるからだ。

「ゆぐっ……ゆぐっ……おぢびぢゃん……」
「どぼじでぇ……」

残された親二匹。
親まりさと親ありすは、自分達が生き残るためひたすら謝りながら子供達の死骸を口にした。
本人達にとっては非常に不本意な結果ではあるが、この二匹は子供を犠牲にして春まで生き延びた。








ゆっくり達にとって苦痛と絶望の冬が終わり、春が来た。群れの巣からはそれぞれ、もぞもぞと巣から這い出るゆっくり達。
だが、そのどれもに待ちわびた春に対する喜びを示すものは居なかった。ただただ憔悴しきった、今にも死にそうな個体だけである。
生きて冬を越せたものは、全体の約三割未満。青年が間引きを行なっていた時の越冬結果に比べると、半分以下という惨憺たる有様だ。
代表れいむ達三匹も、餓死寸前ではあったが生き残った。

巣から出てきたゆっくり達は、悲しみの涙と再会の喜びに身を震わせた。
もう、あの苦しい日々は終わったのだと。これで、ゆっくりできる。幸せの春が来たのだと。
だがもちろん、この群れに待っているのはゆっくりできない結末だけだる。

春が来たことにより群れが破壊しかけた巣の周りの生態系はわずかに回復していた。
数が減ったこともあり、ゆっくり達はその回復した生態系から採れるエサを食い漁った。冬の間食べられなかった分まで補うかのような勢いだ。
そして体力が回復すると、失った分を取り戻すかのようにすっきりし始めた。
あっちこっちで毎日聞こえる「すっきりー!」の声。春の豊富なエサとあいまって、ごくわずかな期間の束の間の安息を味わった。
そうして冬の間落ちた体力を取り戻す頃には、群れは越冬前の八割程まで肥大化していた。

「ゆっゆ~♪ れいむのあかちゃんゆっくりしてね~♪」
「ゆゆ~♪」
「れいむ、ごはんとってきたよ!」

冬の間を行きのびた、とあるれいむとありすの番の一家。
れいむが子育てをし、ありすがエサを集める。似たような光景は群れの中のそこらで見かけられたが、状況は見た目ほど楽ではない。
数が増えたとはいえ、親ゆっくりと子ゆっくりの比率は親ゆっくりの方が遥かに少ない。
つまり親ゆっくりはそれだけ多くエサを集めなければならないのだ。
ゆっくりする間も惜しんで東奔西走。好き勝手エサを取りまくるゆっくり達のせいで、巣の周りの生態系は再び崩れかけていた。

ガサッ

何かが草を掻き分ける音がした。親れいむはふとそちらに目を向ける。
明らかにゆっくりの足音ではない。では何なのか。
それは野犬だった。

「ゆぐっ!? なにごれ゛ぇ!!」

この親れいむは犬を見たことが無かった。それというのも、この群れは長い間野生動物の侵入を防ぐ青年製の柵に守られていた。
野生動物達はその柵のせいでここではほとんど獲物が取れない、この群れの生活圏内外にあらかた出て行ったのだ。
そのためこの親れいむは犬を見たことがない。世代交代の早いゆっくりの中では、この親れいむと同じく犬を見たことがないものは多くいるだろう。

しかし今ここに野犬は来ている。何故か。
この犬はこれまでこの地域を避けていた犬とは違う、いわゆる新参者だった。これまでは新参が来ても青年製柵か青年に撃退されるのだったが、青年の庇護がない今では親れいむはこの危機を自分で乗り越えなければならない。
もちろん、ゆっくりが戦って犬に勝てる道理はなく、

「ゆびぃぃぃ!? おぎゃあじゃぁぁぁぁん!!」
「やべでっ、でいぶのあがぢゃんだべないで!」
「ありずのとがいはなおぢびぢゃんがえぢでぇぇぇぇ!!」
「バウッ!」
「ゆぐびっ──!?」
「「あ゛がぢゃんがぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」」

噛まれ、食われる子供をただ見ていることしか出来なかった。
犬は子れいむ一匹だけでは足らず、そこらにいた残りの子れいむや子ありすにも襲い掛かる。親れいむ達はそれを辞めさせようと体当たりするが、まるで相手にもされなかった。

「やべでぐだざい゛ぃぃぃぃ!! ごべんなざい、あやま゛り゛まずがらやべでぐだざい゛ぃぃぃぃ!!」
「あがぢゃんだべないでぐだざい゛ぃぃぃぃぃ!!」

もちろんゆっくりの言葉なんか犬には通じない。
子供達が全員食べられた時にようやく、親二匹は逃げなければという結論に至り逃亡を開始しようとする。だが、決断が遅すぎた。
ゆっくりが犬に逃げられるわけもなく、あっさりと捕まりその体に牙を突き立てられた。

「ゆ゛っぐぢぃぃぃぃ!? ゆがっ、ごっ……やべで……でいぶだべないでっ……」

体の中の蹂躙する異物の感覚と激痛に、意識が朦朧としていく親れいむ。逃げようにも上から押しかかれて逃げられない。
あっという間に中枢餡子を傷つけられ、白目を向いて息絶えた。
この間に親ありすは森の中に逃げようとしていたが、あっという間に犬に追いつかれ他の家族と同じ末路を辿った。
一家を食べ終えた犬はようやく満足したのか、群れを立ち去った。この間他の群れは巣の中に逃げ込んでいたため、なんとか助かった。
だがこの日を境に、この群れは頻繁に野生動物に襲われることになった。






野生動物に襲われても、ゆっくり達はめげなかった。減った数を穴埋めするかのように更にすっきりを繰り返す。実際、そうしなければあっという間に絶滅していた。
だがこの群れは限度を知らない。減った数の倍以上の子供を産んでいた。
どれだけ産んでも青年が間引きしていた結果が、この有様である。自分達で調整せねばならぬ重要性も理解しておらず、またどれだけの数ならば自分達だけで維持できるかも把握できていない。

子供を身ごもれば母体はその間ろくに狩りも出来ない。普通の成体ゆっくりよりも多くの食べ物を食べなければならない。
そのためゆっくりの群れの食い扶持は更に増えていく。それに比例するかのように群れの巣の周りから採れるエサはどんどん減っていった。
そのため餓死する個体が出始める。ゆっくり達はその死を悲しみ、悼む。
そしてまたその穴埋めをするかのように、親しき者を失った悲しみを埋めるように子供を作る。またエサが減る。そして餓死する者が出る。

中には子供を作ろうとすっきりするも、栄養が足らず黒ずんで死んだ者もいる。その子供も母体の栄養が足らずゆっくりの形を成さない黒い実となるだけだった。
群れには苦しみぬいた上に死に絶えたゆっくりの死骸がどんどん増えていった。
ゆっくり達にとっては最悪の連鎖。もう抜け出せないところまで来てしまったスパイラル。
この群れの運命は、とうの昔に確定していた。

とうとう群れを離れる一家が出始めた。

「ゆっ! こんなところじゃゆっくりできないよ! まりさたちはあたらしいゆっくりぷれいすをさがすよ!」

片親を野生動物に襲われて失った親まりさ率いる一家が代表れいむ達に告げる。
代表れいむ達はそれをなんとか押し留めようとする。ただでさえ子供が多く働き手が減ってきているのだ。ここで成体ゆっくりが減るのは群れにとって大きな損失だ。

「ゆっくりやめてね! もっとかんがえてね!」
「ゆっくりかんがえたよ! だからまりさたちはでていくよ!」
「ゆっ!」

まりさ一家の考えは変わらない。この群れではまったくゆっくり出来なくなった。
前は来なかった野生動物には襲われるし、採ってこれるご飯も少ない。ろくに働けない子供ばかりが多くなり、自分がどれだけ働けども生活は楽になれない。
ならば新天地を目指す他ない。こことは違うゆっくりプレイスを目指す他無かった。

まりさ一家は群れに別れを告げ、旅立った。
どこへ向かうかは決めてはいないが、とにかくここではゆっくり出来ないことは確かだ。途中野宿することになるだろうが、自分達ならば大丈夫だと妄信していた。

当然、大丈夫なわけはなかった。
ゆっくり達は肥大化した群れを維持するためにエサ採りの範囲を以前の倍以上に膨らませていた。歩けど歩けど、エサがまるで見当たらない。

「おかあしゃん……おにゃかちゅいた……」
「まりしゃも……」
「もうあるきぇないよ……」

半日経つ前に子ゆっくり達が根を上げる。普段ろくにエサも食べられず、この旅路である。
親まりさもろくにエサを食べていない。既に疲れ切っていた。
今日はここまでにしてここで野宿しよう。そう決めた親まりさはエサを探そうとするが、

「どぼぢでごはんない゛の゛ぉぉぉぉ!?」

当然見つからない。
そもそも何故あそこに群れが出来たのか。あそこだけがこの近隣でゆっくりがゆっくり出来る場所だったため、自然とゆっくりが集まったのだ。
巣の周りのエサはほぼ食いつくし、そのまた周りはゆっくりにとってゆっくり出来ない場所。だからこそゆっくり達はあの場所に集まったというのに。
腹をすかせて衰弱しきったまりさ一家では、このゆっくり出来ない範囲から一日で抜け出すことは出来なかった。
結局何も食べれずにその日は眠り、朝になったら子供の半分が死んでいた。

「ゆぐっ、ゆぐっ、ごべんね……ごべんね……」

親まりさは子供の死を悲しんだ。そして自分の無力さを呪った。
残った親まりさと子ゆっくり達は死んだ子ゆっくりの死骸を食べようとする。もう残ったゆっくりが生きるためにはこうするしかなかった。
だがそれも叶わない。いざ食べようと口を開いた親まりさ達の横を、一匹の犬が走り去った。
走り去った後、死骸は忽然と消えていた。犬が咥えて持ち去ったのである。

「ゆぐぅ!? やべでっ、まりざのあがじゃんだぢもっでがないでっ!」
「やめちぇよぉ……」
「かえちちぇ……おにゃかすいた……」

当然犬が聞くわけもなく、そのまま子ゆっくりの死骸を持ち去っていった。
結局何も食べられず、ゆっくり一家は諦めてすきっ腹を宥めすかしつつ先を行く。だが道中、一匹また一匹と倒れて行く。倒れたものを食べようとするが、その度に野生動物に奪われる。

このゆっくり一家は、新天地を目指すには衰弱しすぎていた。
せめて、もう少し早く群れを離れることを決意していればまた結果は違ったものになっただろう。
だがこの土壇場になるまで行動しなかったためにこうなった。ゆっくりしすぎた結果がこれである。

こうして子ゆっくり達が全滅する頃、ようやく親まりさは新天地に辿り着いた。
いや、そこは人間の生活圏内だった。親まりさの目の前には畑があった。里の中でも外れにあるこの畑の野菜に目を奪われた親まりさは、無い体力を振り絞って一目散に野菜に向かった。

この親まりさは畑の野菜を知らない。人間といえばあの青年しか知らない世代だったのだ。
そのためこの野菜も草花と同じようにそこらに生えているものと同じだと思った。そのためこの野菜を見つけた自分は食べて良いという結論に陥った。
野生の植物は誰のものでもない。見つけた者の物である。
だがここでは、そんな野生のルールは通用しない。

「ゆぐっ、ごはんだよ……ゆっくりたべるよ……」

畑のキャベツにずりずりと体を這わせながら近づいていく親まりさ。
あともう少しで念願のご飯だ。久しぶりに美味しいご飯が食べられる。死んでいった子供の分まで、自分はゆっくりする。
そう願いながら進み




グチャ



鍬で潰され死んだ。
ボタボタと餡子がこべりついた鍬を持ち上げ、農夫は嘆息する。

「まったく、ゆっくりか。ここの所とんと見なかったが、やっぱ油断出来ないな。壊れた柵直しておかんとな」

衰弱しきった親まりさは、人間の接近に気づかなかった。
この畑はゆっくりの生活圏内から一日もあれば辿り着けるところにあった。だが衰弱しきったゆっくりにとっては千里にも値する距離だった。
あの群れからなんとか辿り着いたゆっくりが他にもいたが、その全てがこの親まりさのように殺されている。
ゆっくりは人間に出会えば生殺与奪を全て握られる。ゆっくりは、悲しい程に弱者だった。







群れから離れる一家。エサが満足にとれず餓死するもの。
いつしか群れは、かつてとは比べ物にならぬほど閑散とし、既に死に絶えていた。

「ゆぐっ……ゆっぐぢでぎない、よ……」

群れに残ったかつての代表れいむも、巣の中で刻一刻と近づく死を待ち構えていた。
もう既にエサを採りに行く体力はなかった。もっとも、代表れいむが行ける範囲で採れるエサはもう無いが。

代表まりさ一家は新天地を目指して旅立った。代表れいむは知らないが道中で一家全員餓死して全滅した。
代表ありすは狩りをしている最中野生動物に襲われ死んだ。働き手が無くなり、子供もやがて全員餓死した。

「ゆっくち……?」
「おかぁしゃん……?」

代表れいむの傍らに寄り添う子れいむ達も、代表れいむ程ではないにしろ既に虫の息だった。
代表れいむは採ってきたエサやゆっくりの死骸を自分よりも子供達が食べるように優先していた。そのため子供達は代表れいむより余力があった。

「ゆぐっ、ばりざぁ……」

今は無きパートナーの名を呟く。代表れいむのパートナーであるまりさは、ある日エサを採りに行ったっきり帰らぬ者となった。
もう群れに残っているのは、代表れいむ一家と同じような境遇の一家が二つだけだった。

「どぼぢで、ごんなごどに…………」

代表れいむは今の境遇を嘆き、振り返る。
何時からこうなったのか。この群れは長い間ゆっくり出来ていたはずだ。
だが、代表れいむはその原因に行き着いた。他のゆっくりでは辿り着けなかったが、代表を務めるだけの知能があった代表れいむだけはそこに行き着いた。

全ては、青年がいなくなってからだと、気付いたのだ。
代表れいむは青年が行なったという行動を思い出し、自分達がやってきた事を振り返り、今の結果を見直す。
そして、今の結果は全て自分達が青年を追い出したからだということに、ようやく気付いた。
そして青年の最後の言葉を思い出した。

『ゆっくりしたいだけゆっくりするだけじゃ、ゆっくり出来ないんだよ』

れいむはようやく、その言葉の意味をハッキリと理解した。
代表れいむの目から涙が溢れる。

「ごべんなざい……おにいざん、ごべんなざい……。でいぶだぢがわるがっだです、だがら……もどっでぎで……」

代表れいむは後悔した。悲しんだ。自分の行動を恨んだ。
だがもう遅い。自分たちは青年の庇護を放棄した。その選択には責任を持たねばならない。選択の結果を、受け入れなければならない。

「ゆぅ? おかぁしゃん……」
「どうぢで……ないでるの……?」

訊ねる子ゆっくり達に返す気力ももう無い。
れいむに残されているのは、ただゆっくりと死に向かうことのみ。

「ごべんなざい……ごべんなざい……」

代表れいむはひたすら謝りながら、自責と後悔の念の中、息を引き取って逝った。






おまけ


青年が群れを離れてから一年後。青年は群れの巣があった場所を再び訪れていた。
やはり心配だった。自分達だけでゆっくりすると言っていたが、果たしてちゃんとゆっくりできているだろうか、と。

そこに辿り着いた時、青年は愕然とした。
かつての賑やかだった様子は欠片も無く、ただ静まり返っていた。青年が群れにくれば出迎えてくれた子ゆっくりも居ない。
最後に青年を罵っていたゆっくりも出てこない。

青年は慌てて巣穴を覗き込んだ。
そこは空っぽだった。かつてゆっくりの巣だった場所には何も無かった。
青年は他の巣穴も覗き込んだ。だがどの巣穴も何もないか、アリにたかられているゆっくりの死骸があるだけだった。

青年が恐れていたことが現実となっていた。
青年の保護下から外れたこの群れは、一年と経たず滅んだのだ。
青年は二度と群れを訪れなかった。青年が訪れたのはかつて群れだったもの。

青年は一縷の望みをかけ、最後の巣穴を覗き込んだ。

「あっ…………」

そこには、一匹だけ生きた子れいむがいた。
死ぬ寸前までに衰弱しており、目も虚ろであったが、かろうじて生きている。
青年は即座にその子れいむを巣穴から出してやる、抱え込んだ。
青年は二度と群れを訪れなかった。一匹だけでは群れとは呼ばない。

「ぐっ……うぐっ……」

青年から嗚咽が漏れる。
ゆっくりは、ゆっくりだった。やはり、弱者であった。

知能も力も無く、食べれば美味しいゆっくり。その存在は、他の強者に虐げられ、殺され、喰われることを前提としているかのようだった。
ゆっくり達がゆっくり暮らすためには、必ずといっていい程強者の保護が必要だった。そうでなければ、ゆっくりは自滅するか殺される。
ゆっくりは、生まれた時から幸せに暮らせる可能性が他の生物に比べて極端に低いのだ。

ゆっくりの中には希に、ドス級ゆっくりや異常に賢い個体などがいる。
もしかしたらそれらは、『ゆっくりしたい』というゆっくり達の願いから生まれた希望なのかもしれなかった。

青年は子れいむを抱えると、群れがあった場所を後にした。
せめて、この子だけは幸せにゆっくりしてやろうと青年は決意した。
人間はゆっくりより強者といえど、万能ではない。守れる弱者の数にも限度がある。
全てのゆっくりが無理でも、ゆっくりの群れが無理でも、せめて一匹のゆっくりぐらいは幸せに出来る。
青年はそう信じて、今度こそゆっくりと共に笑いあい、ゆっくり出来る未来を夢見た。



おわり


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これまでに書いたもの

ゆっくり合戦
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
いろいろと小ネタ ごった煮
庇護

byキノコ馬



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最終更新:2022年05月03日 20:26