俺設定



とある施設の床一面タイル張りの一室。
壁際には団地の郵便受けのように、金属製の箱が無数に並んでいる。
その中にはそれぞれ一匹づつ成体ゆっくりが収められ、箱の表面には整理番号が刻まれていた。

はっきり言ってその箱の中の環境は最悪だ。
一日三色の食事は保障されてはいるが、満足な運動も出来なければ、スキンシップを取る相手もいない。
他の箱のゆっくりとお喋りしようにも、箱の防音機能がそれを妨げており、ゆっくり達はそれぞれ自分しか居ないと思い込んでしまっている。

しかし箱の中のゆっくりは、僅かではあるが、ゆっくりとした時を過ごせていた。
「おちびちゃん、はやくおかあさんといっしょにゆっくりしようね!」
額から生やした茎に連なる我が子の存在。
それが僅かなゆっくりを生んでいたのである。

そんな中、一匹のゆっくりが室内に響き渡るような大きな嬌声を上げる。
「ゆゆ~ん♪うまれるよっ!もうすぐかわいいあかちゃんがうまれるよぉ!」
にんっしんっしてから一週間。
待ちに待った、ゆっくりとした赤ちゃんの誕生に、喜びを隠せないでいる。
喜びからか、狭いケースの中にも拘らず、忙しなく体を動かしていると、それに連動するかのように茎が揺れている。
その微細な振動が赤ゆっくりと茎を繋ぐ部分に作用して、次から次へと赤ゆっくりが落ちて行く。
「ゆっきゅりちちぇいっちぇね!」
「ゆっきゅりちちぇいっちぇね!」
「ゆっきゅりちちぇいっちぇね!」
赤ゆっくり達は、生まれた物から我先にと、母親の薫陶を一身に受けたいが為に、全身の力を使って初めての挨拶を親へ向けている。
親ゆっくりはその全てが生れ落ちるのを待ってから、言いたくて堪らなかった一言を告げる。
「ゆっくりしていっげああああ!」
しかしそれは遮られてしまう。
箱の天井から伸びた金属製のフックが親ゆっくりの体を捕らえ、その痛みが口を噤ませてしまったからだ。
赤ゆっくり達は、誰が一番最初に可愛がってもらえるのかと、待ちきれなくてうずうずしている。
しかし親ゆっくりは体を貫く異物の刺激に顔を歪ませ、湧き出る涙を堪えきれずに、床にまで滴らせてしまっていた。
赤ゆっくり達は、ゆっくりしていってねを返さずに、苦痛に顔を歪めるだけの母親を訝しがり出した。
「どうちちゃにょ?」
「にゃにかいっちぇよぉ!」
「にゃんでゆっくりしちぇないの!?」
ゆっくりしていってね!を言われたゆっくりは、ゆっくりできる。
誰に教えられるでもなく、本能的にそれを察するゆっくりは、ゆっくりしていってね!を言ったらゆっくりしていってね!と返されるものだと思っているのだ。
その当然返ってくるべきであるゆっくりしていってねが帰ってこない、しかもそれが自身の母親なのだから、不信と不安が一気に胸中へ押し寄せてくる。

親子の間には有ってはならぬ緊張が走る箱の中、その外から中の様子をじっと見つめる者が居た。
「はい、35番固定完了。れいむ3、ありす2。初期異常個体無し、と」
箱に僅かに開けられた隙間から、中の様子を覗き込みながら手元の装置を動かす人間。
報告用端末に数値を入力すると、今しがた出産を終えたゆっくりが入っている箱の床が動き、設置されたケースに赤ゆっくりを流し込む。
「ゆうぅ!おかあしゃん!どこいくにょ!?」
「いかにゃいで!しゅりしゅりしちぇ!」
赤ゆっくり達は、まさか自分の足元が動いているとは思えなかったようで、遠ざかっていく母親を必死に呼び止めようとしていた。
「やめてね!うごくゆかさん!れいむのあかちゃんかえしてね!」
生まれたばかりの我が子が攫われるという、突然の事態に動転しながらも、れいむは何とかしようと必死にその身を捩らせる。
しかし体に食い込むフックがそれを許さない。
それならばと返して欲しいと懇願したが、そんな願いは聞き届けられなかった。
「やべてえぇ!ゆっくりできないよぉ!あかちゃんがいないとれいむがゆっくりできないんだよおぉ!!!」

赤ゆっくりを回収した作業員は、れいむを無視し、設置したケースの蓋を閉める。
端末に表示された数字をケースに書き込むと、部屋の隅の小窓に仕舞い込み、その脇の操作盤を押している。
入力が終わると小窓の向こう側から物音がし、音が止むと小窓の中から赤ゆっくりの仕舞われたケースは消え去っていた。

一方、初めての出産にもかかわらず、生まれたばかりの我が子を掠められてしまったれいむ。
「どぼちてぇ…どぼちてれいむはゆっくりできないのぉ…」
両眼に涙を湛え、ただただ悲しみに暮れていた。
ちなみに体に食い込むフックはまだ外されていない。
何故なら、今から間もなく有る作業が執り行われるからである。
先程赤ゆっくりの入った箱を何処かヘ輸送した作業員が、成体ゆっくり達が仕舞われたケースの側の操作盤に再び近づき、ボタンを押していく。
入力直後、突然れいむ後方から物音がし、閉じられた空間が僅かに開かれた。
開かれた先にはゆっくりが一匹。
「はぁはぁ、とってもすっきりできそうなれいむなんだぜ…」
それは人の手により発情状態にされた、一匹のゆっくりまりさであった。
発情させた目的は只一つ、僅か数分前に出産を終えたれいむに、再びにんっしんっして貰う為である。

強制的に発情させられた事により、このまりさには配慮というものが欠けていた。
「まま、まりさは!れ、れいむのことが!すすすすす、すっきりなんだぜええええ!」
早くすっきりしたいが為に、物凄い勢いで体を擦り付けようとし、まるで体当りを仕掛けたかのようにれいむにぶつかってしまう。
「ゆべぇへえっ!?」
固定される為に食い込んだフックで皮が引きちぎれそうになり、れいむは痛みで苦悶の声を上げた。
しかしまりさは容赦しない。
パートナーとして見定めた相手でなく、只すっきりする為だけの道具としてしか見ていないからだろう。
「はひっ、はひっ、すべすべおはだですっきりできるんだぜぇ!」
「やべちぇえええ!いぢゃいよおおお!ゆっぎゅりできにゃいよおお!!!」
「す!す!す!すぅっきりぃーーっ!」
「じゅっきりぃ…」
こすり付けると言うよりも、押し込むようなすりすりの果てに、まりさは念願のすっきりーを果たす事が出来た。
そしてれいむは無理やりすっきりさせられてしまい、先程流した涙が乾かぬうちに、再び床に涙を滴らせた。

この部屋のゆっくりは、出産専門と種付け専門のゆっくりが存在している。
出産専門には比較的母体としての適合性が高いれいむ種が、種付けにはそのほかのゆっくりが、依頼に応じて宛がわれていた。
この部屋に居るゆっくりが自由になれるのは、その生産力が低下した時だけだ。
しかし生産力が低下するという事は、その命も枯れかけているという事。
何百もの子を産んだゆっくりは、只の一度も成長した我が子の姿を見とめる事無く、その生涯を終える事になる。



一方小さなケースに押し込められた赤ゆっくり達。
生まれた直後に親と別れさせられ、寂しさと不安と悲しみに包まれたまま、コンベアに乗せられ何処かへ輸送されていた。
そしてその終着点には、先程とは違った衣装をまとった作業員が待機していた。
箱を持ち出し端末に数値を入力すると、其処には新しい指示が表示される。
作業員はそれに従い行動する。

赤ゆっくりがしまわれたケースは外部からの情報が一切遮断される。
中に居る赤ゆっくり達に聞こえているのは、同じく囚われの身になった姉妹たちのすすり泣く小さな声。
母を求めて泣き喚くのは、コンベアで移送中にあらかたやり尽くしていた。

作業員が赤ゆっくりの入った小さなケースを室内の一角に設置する。
其処には同じ様なケースが4個ほど並び、それぞれの親から生まれた赤ゆっくり達が押し込められていた。
そして作業員が離れると同時にそのケースの蓋は開けられて、箱の中の赤ゆっくり達は、久しぶりに外の世界とつながった。

暗闇に恐怖を抱き続けていた赤ゆっくり達は、差し込む光に導かれるようにケースの外へ躍り出る。
光の世界に広がっていた物は、狭苦しいケースとは打って変わって、ゆっくりとした広大な空間だった。
閉じた世界から抜け出した赤ゆっくり達が最初に取る行動。
「おきゃあしゃんどこっちゃのおお!?」
「れいみゅといっちょにゆっきゅりちちぇよぉ!」
それは親の姿を求める事だった。
開かれた空間なら何処かに居るかもと、再び希望を持ったのだろう。
しかし肝心の親は先程述べたとおり、二度と我が子の前に姿を見せる事は無い。
一人で生きる術を持たぬ赤ゆっくりが、保護者である母を求めるのは仕方の無い事。
様々な不安を払拭したくて堪らないのは当然なのだ。

しかし此処は人間の手によって作られた、ゆっくりの為の世界である。
温度は暑くも寒くもない温度。
湿度もゆっくりが快適に過ごせる設定。
ふかふかのベッドに一日三度の美味しいご飯。
そのごはんも望めばいくらでも与えられ、ここの赤ゆっくりは飢えることを知らないだろう。
親が居なくても日々の生活は保障されるので、庇護者としての親の存在は不要なのである。
流石に親からすりすりやぺろぺろをしてもらえない事から来るゆっくり出来なさだけは、どうしようもなかったが。

赤ゆっくり達が何度と無く喚き続け、疲れて諦めかけた時だった。
飼育ケースの中に異音が響くと、部屋の一角から緑色の物が室内に流し込まれる。
「ゆ?あれはにゃに?」
泣き疲れた赤ゆっくり達は、一様にその緑色の物体に注目する。
いくら泣けど叫べど変化の無い世界に現れた謎の物体に、一抹の望みを繋いで近づいていく。
「?にゃにこりぇ?」
そこにあったのは、ぶつ切りにされた、親ゆっくりから生えていた茎であった。

始めて見る物ではあるが、それから漂う匂いが本能を刺激したのだろう、一匹二匹とぶつ切りにされた茎を口の中に運んでいた。
「むーちゃむーちゃ…ち、ちあわちぇ~♪」
空腹が限界にまで達していた事により、初めての食事は親不在でも、とてもゆっくりとした物になったようだ。
ただ今回与えられた茎は、単純に作業の流れの中で集めたもので、この赤ゆっくり達の親から採取したものではない。
成分的に違いさえ無ければ、一々非効率な選び分けなどしていられないのだ。

新しい世界に来た赤ゆっくり達は、お腹を満たすとふかふかのベッドを見つけ、身を寄せ合って眠りに就くのであった。
そして翌朝。
赤ゆっくり達は親の不在に未だ慣れてはいない。
目を覚ますとお腹が空くまで大声で泣き喚き、お腹が空いたら餌を食べ、眠くなったらベッドで眠る、といった生活を送っていた。

親から隔離されて一週間。
親の居ない生活にやっと慣れだした頃、赤ゆっくり達の生活空間に有る劇的な変化が現れていた。
目覚めたゆっくり達が、早速朝食を取りに行こうとしていた所であった。
「ゆっきゅりごはんをたべようにぇ!」
「ゆっきゅりいそぐよ!」
ご飯を食べようと飛び起きた赤ゆっくりが、元気良くベッドから床へ飛び降りた時、初めてその変化に気が付いた。
「ゆうぅ…ありゅきづらいよう…ぴょんぴょんできにゃいよぉ…」
足元に違和感を感じ、飛び跳ねるのを止めたのだ。
赤ゆっくり達は皆、床の上をそろりそろりと餌場まで歩んでいる。
ここの床が歩きづらいのには訳がある。
宙に浮いた金属製の網の上。
それが赤ゆっくり達の住む世界になったからだ。

赤ゆっくり達はその網の上を歩くのを嫌っていた。
上を歩けば僅かに底部に食い込む感触が気持ち悪かったからだ。
出来る事ならふかふかのベッドの上で過ごしていたいのだが、肝心の食事は離れた場所にしか置かれない。
朝起きれば嫌々ながらも餌場まで行き、食べられるだけ腹に詰め込んで、再びゆっくり出来るベッドの上へ戻る生活を繰り返していた。

しかし赤ゆっくり達も、ただゆっくり出来ない生活を繰り返すばかりではなかった。
一度の食事で大量に腹に貯め、一日三度の食事を二度にするもの。
おなか一杯になるまで食べ終わったら、ベッドに戻る前に口の中へ一旦溜めて、小腹が空いたらそれを食べるもの。
一度餌場に着いたら日中食べてはその場で休み、食べてはその場で休むのを繰り返し、日がな一日食べる事に精を出したもの。
ものぐさなのか、特別工夫を凝らそうとはしなかったもの。
食べる回数を極限まで減らし、ふかふかベッドの上でゆっくりする事の方を重視したもの。
何はともあれ飼育ケースの赤ゆっくり達は、生活環境の変化に戸惑いながらも、豊潤な食料に囲まれて、すくすくと育っていった。

赤ゆっくりから子ゆっくりとなった頃、ゆっくり達にはちょっとした変化が現れていた。
生まれたときは皆平均的なプチトマトサイズだったものが、今ではテニスボール程の物、ピンポン玉程の物、ソフトボール程の物に分かれていったのだ。
先天的な大食漢の者と、小食な者の差が現われたのだが、生活環境の変化もその差異を大きくするのに影響したのだ。

そしてこの頃からだ、飼育ケースのゆっくり達に、悲劇的な結末を迎えるものが現れ始めたのは。

子ゆっくり達が眠るベッド。
元々サイズは計算された上での設計なので、体躯の変化があっても皆一様にゆっくりと眠っている。
「ゆふぁあああ…おなかがしゅいたから、ごはんをたべりゅよ」
そんな中一匹のゆっくりが目を覚まし、早速ご飯を食べに行くようだ。
それはこの集団の中で、一番大きなゆっくりだった。
ベッドから下り、餌場へ向ってすり足行進。
慌てず騒がず餌場に着くと、とりあえずお腹一杯になるまで餌を食べ続ける。
「ゆっくりおなきゃいぱいだよ。ふかふかさんでおねむだよ」
腹が一杯になった事で再び眠くなり、二度寝しようとベッドに向かったその時だった。
「ゆゆっ?あんよさんがうごかないよ?」
突然その歩みを止め、何故動けなくなったのかと困惑している。
そしてどうにか動こうと体をよじったその時。
「ゆんぎぁああああ!いぢゃいいいいい!」
空間を震わす大音量で、苦痛にもがいて泣き喚きだしたのだ。
その声に、まどろみの中の子ゆっくり達も、次から次へと目を覚ます。
あわてて駆け寄る子ゆっくり達だが、悲鳴を上げるゆっくりの容態は変わらない。
それどころかそのゆっくりの体はどんどん小さくなっていった。
いや、正確には沈んで行ったのだ。
その体の重みが増した結果、網に圧し掛かる重量と皮の耐久力の釣り合いが取れなくなり、底部がへし切られてしまったのである。
一度亀裂が入るとその饅頭皮は非常にもろい。
亀裂は最終的に髪の生え際まで達し、餡子は一粒残らず網の下へと落ちていってしまった。

昨日まで共に生きてきた仲間が非業の死を迎えた事により、戦慄する子ゆっくり達。
しかし眼前の恐怖が暴食によってもたらされた物だとは、誰一人として気付く事は出来なかった。
生き残ったゆっくり達は皆、残された皮を避けるように餌場へ向い、帰る時も同様に避けていった。

目の前で徐々に仲間の姿が消えていくと言う、例えようの無い恐怖を味わったゆっくり達。
そのうえ朝から一日中、残された仲間の遺骸を目にしながら過ごさないという、とてもゆっくり出来ない時間を味わった。
その記憶は一晩経ったゆっくり達の記憶にも鮮明に残っている。
朝、目を覚ました時に、真っ先に思い起こすのは遺品のお飾り。
食事を取りに行くには又それを見なくてはいけないのかと、ケースの中のゆっくり達が、げんなりとしながらお飾りのある所へ目をやる。
ところが、そのお飾りは無くなっていた。
初めは有る筈の物が無くなっている事に、戸惑いを感じる者も多かったが、元々記憶に留めて置きたくない物だった所為か、二日三日と経つうちに、記憶の彼方へと押しやられていった。

そしてそれから数日後、二番目に大きいゆっくりが網の下へ消えていった。
三番目、四番目と消えていくが、皆同じように断末魔を上げ、僅かに残した存在の証は、一晩経つ時にはゆっくり達の前からは消えていた。


そして飼育ケースの中に残った子ゆっくりが二匹になった時、暴食チキンレースは終わりを告げた。
「22番ケース。れいむ1、ありす1」
ケースを除きこんだ作業員が報告書に記入を済ませ、右手に器具を掴むと子ゆっくり達の飼育ケースの蓋を開ける。
作業員は先端が半球状の、トングに似た器具で子ゆっくりを優しく包み込み、キャリアーの上のケースに移し変えて行く。
他のケースの中には同じように回収された子ゆっくりが無数に居たが、今までの生活空間から引き離された事で悲しむ者は、殆ど居なかった。
歩きづらい網の上から開放され、久しぶりに地に脚の付いた感触を味わえていたからだろう。

この日の回収作業を追えた作業員は、ケースが積まれたキャリヤーを押しながら、別室にまで進んでく。
透明なケースの中、人の速度で移り変わる景色を見た子ゆっくり達は
「おしょらをとんでるみちゃい~♪」
と、初めての体験に、能天気な喜びを見せている。

人の手で運ばれる彼者らの行き先は、ゆっくり専門のペットショップ。
そして店頭に並べば他のゆっくりよりも値の張る「ミニゆっくり」として、商品棚に陳列されるのであった。


ペットとして飼育されるゆっくりに求められるのは、性質や知能の高さ、そして外見の美しさ。
それらは長い間変わらず求められてきた物なのだが、世情の変化と共に、一つ注文が付く事になった。
それがサイズの縮小であった。
ゆっくりは基本的に、食べれば食べただけその体を容易に肥大化させる。
もし飼い主がゆっくりに要求されるがままに、いたずらに食べさせ続けると、物によってはバランスボールほどのサイズにまでなってしまい、それは度々クレームの元になった。
そこで品種改良をしようとしたのだが、ゆっくりはなぜか小食と言う特性が遺伝せず、出産の度に激しい個体差が現われてしまったのだ。
だからと言って教育、矯正で食事量をコントロールさせようものならば、売る側買う側共に大きい負担を強いられる事になる。
その末に辿り着いた結論が、生まれながらに小食なものを売りに出す事だった。

この選別に合格した個体は、たとえ成体になったとしても、ソフトボールサイズぐらいまでにしか成長しないのだ。
小さいという事は、その重量も当然軽くなる。
それは攻撃力の低下につながり、やんちゃな個体も部屋を荒らすことが出来なくなり、躾の面で難が有る個体でもクレームが出る事は殆ど無くなった。
しかし苛烈な環境で飼育した事の弊害として、性格面(主に人懐こさ)で問題の有る個体も何割か存在したが、その個体は観賞用とする事で売り物として用を成した。

この小型化ゆっくりのブームの要因は、住宅事情だけではなかった。
単純に、その方が可愛いから、という理由も大きかったのだ。
そうなるとより一層、小さく、可愛くといった要求が生まれてくる。
ならばそれに答えるのが商売というものだろう。
生産工場のゆっくり達が、一段とゆっくり出来ない空間に押し込められるのも、そう遠い未来の話ではないかもしれない。


終わる

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最終更新:2022年05月03日 20:44