日が落ちて月が輝く夜。

 子ぱちゅりーは眠れなかった。
 今日、まりさに言われたことが頭から離れなかった。
 夢じゃないかと何度も思った。その度に壁に軽く体当たりして、夢じゃないと理解した。
 あの時の言葉をゆっくりと思い出す。
 それは、ぱちゅりーが一番望んでいた夢。
 それは、ぱちゅりーが常に思い描いてた夢。
 それは、ぱちゅりーが何処かで諦めてた夢。

 だがぱちゅりーはその夢を現実として掴もうとしている。

 ああ、自分はなんて幸せなゆっくりなんだろう。

 この先ちょっと不安もあるけど、それ以上に期待のが大きい。
 目の前には自分が望んでいた世界があるのだ。
 何を恐れる必要があるのだろうか。
 これからの生活を想像しつつ、ぱちゅりーは思う。



 このままずっとゆっくりできたらいいな──






 日付が変わり、森が照らされる朝──

「ゆ~んゆ~ん♪ ゆっゆっゆ~ん♪」

 歌らしき物を口ずさみながら、あの子まりさは森の中を進んでいた。
 その姿は、全身一杯で喜びを表現しているようにも見えた。

「ゆっ、きょうはこのあたりでたべものをとるよ」

 そう独り言を言う子まりさ。別に誰か傍にいるわけではないのだが、これがこの子まりさの一つの癖なのだろう。
 そして歩いているときから目星をつけていた茂みをじっと観察し始めた。
 そうして実にゆっくりすること三分、微動だにしなかった子まりさが勢いよく茂みに飛び掛る。
 茂みからは虫達が逃げ出してきた。まりさはその虫達を眺めつつ、自身も茂みから出る。
 口には既に捕獲した虫がいたが、それを吐き出してから別の逃げ出した虫に飛び掛る。

 そうして同じ事を繰り返し、数匹の虫が手に入った。
 茂みに入ったときに少しだけ浅い傷が付いたが、放っておけばすぐに直るだろう。
 吐き出した虫を一箇所にあつめ、別の茂みにターゲットを移し、再び同じ事を繰り返す。
 子まりさはこの方法で、他のゆっくりよりも多くの餌をとっていた。

 そんな子まりさに、一匹のゆっくりが近づいてきた。

「まりさ! きぐうだね!!」
「ゆっ、れいむおかあさん。おはようございます」

 愛するぱちゅりーの親である、れいむであった。
 親れいむは一旦立ち止まり、まりさの方を向いて話しかけた。

「まりさはきょうはここでかりをするの?」
「ゆっ、そうだよ。れいむおかあさんもここでかりをする?」
「れいむはもうすこしすすんだとこでかりをするよ。まりさはここでがんばってね!!」
「ゆっくりがんばるよ!!」

 挨拶もそこそこにして、親れいむは来た方向とは逆に飛び跳ねる。
 そうして親れいむが去ろうとした時、子まりさが話しかけた。

「あとでれいむおかあさんのおうちにいくね!!」
「ゆっ、わかったよ!!」

 そう言葉を交わし、二匹は離れていった。
 一匹になったとき、親れいむはポツリと呟いた。



「これでゆっくりできるね」







 れいむは昨日の出来事を思い返していた。

 れいむが怒りに身を任せていた時、その声は聞こえた。

「あのまりさがいるから、ゆっくりできないのね?」

 突然親れいむの後ろから、声がかかる。

「ゆっ! だれなの!!」

 親れいむは驚いて、声を荒げて振り返る。
 そこには同じゆっくりの種類であるれいむがこちらを見ていた。
 鬼のような形相をしていたが、れいむは怯えることもなく話しかける。

「ゆっくりおちついてね、れいむはれいむのみかただよ」

(みかた? どういうこと?)
 親れいむはれいむの言った言葉の意味が即座に理解できなかった。

「あのまりさがいるから、ゆっくりできないのね?」

 れいむは何事もなかったかのように、もう一度同じ言葉をかける。
 ようやく親れいむは、れいむが何を言っているか理解した。

「ゆっ、そうだよ、あのまりさがいるからゆっくりできないんだよ!!」

 先程まで知らないゆっくりがいきなり話しかけてきたので警戒していたが、
 まりさの事を話そうとしていると理解した瞬間、先程の光景を思い出したのか、怒りに震え始めた。
 そして震え始めた親れいむをみて、れいむは話しかける。

「あのまりさ、れいむにとてもひどいこといってたよ」
「ゆっ!?」

 怪しげな笑みを浮かべて。

「あのまりさ、れいむのこと、のろまでぐずなゆっくりだっていってたよ」
「ゆぐうぅぅぅ!!?」

 まるで目の前の愚か者を嘲笑うかのように。

「とってもあたまのわるいおばかさんだっていってたよ」
「ゆゆゆゆゆゆ!!!」

 鳴き続ける玩具を見て楽しむかのように。

「えさもろくにとれないごみくずだっていってたよ」
「ゆがあああああああああああああ!!!!!」

 喜々としながら、語り続けた。



「まりざめ!!まりざめ!!ゆるぜないいいいいい!!!」

 れいむの話を聞いた親れいむは、その怒りを抑えることは当然できず、辺りに撒き散らす。
 今にも怒りで餡子が飛び出さんというほどの勢いだ。
 そんな様子を見て、れいむは笑顔を向けて話しかける。

「れいむたちがゆっくりするために、いいほうほうがあるんだよ!!」
「ゆゆっ!?」

 自分がゆっくりできる。その言葉を聞き親れいむは興味を示す。
 そんな反応を見て、れいむは親れいむに近づき、小さな声で話し始めた。



「ゆっくりりかいしたよ!!」

 話を聞き終えた親れいむは、とてもご機嫌だった。






「ゆっ、こんだけあればじゅうぶんだね!!」

 狩りを終えてまりさはご機嫌だった。目の前に虫や花、木の実やキノコなどが山となって詰まれている。
 口で持っていくには少し多いが、まりさには帽子がある。この中に入れて持っていけば大丈夫だろう。
 今日はなんだか天気がよくない気がするから早く帰ろう。そう思い帽子を外して急いでその中に食べ物を詰め始めた。

 ガサガサと音がして、思わずまりさはその音のする方へと振り向いた。
 そこには同じゆっくり種であるまりさが三匹いた。

「ゆっ、しらないまりさたちだね。ゆっくりしていってね!!」
「「「ゆっくりしていってね!!」」」

 お決まりであるフレーズを言い、子まりさはまた食べ物を詰める作業に戻ろうとする。
 しかしその前に、三匹のまりさの内一匹が子まりさに話しかけた。

「ゆっゆっゆ、ここはまりささまのゆっくりぷれいすなんだぜ!! ゆっくりしたいならそのたべものをよこすんだぜ!!」
「ゆっ?」

 子まりさは意味が理解できなかった。このまりさは何を言っているんだろう。

「ゆっ、ここはみんなのゆっくりぷれいすだよ?」
「うるさいんだぜ、さっさとそのたべものをまりささまによこすんだぜ!!」
「ゆっ、すこしならわけてあげるよ、ちょっとまってね」

 要するに食べ物が欲しいのだろう。少しくらいならいいか、と子まりさは思い、帽子と食べ物の山の方に向き直す。
 そして完全に食べ物の方向に体を向けると──



 体に強い衝撃が走った。



「ゆぶぇっ!!」
「なにをねぼけたことをいってるんだぜ、ぜんぶにきまってるんだぜ!!」
「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」」

 一体何が起きたのか、子まりさは状況が把握できなかった。
(たしかたべものをわけようとして、どれがいいかえらんでたら、きゅうにいたくなって──
 きづいたらこうなってて、まりさたちがわらっていて、まりさがめのまえにむかってきて──)

「ゆぶぁっ!!」

 再びまりさの一撃を受けて子まりさは吹っ飛んだ。
 成体に近いが、それでも一回り小さい子まりさは成体まりさの体当たりに耐え切れず、意識を失ってしまった。

「ゆっゆっゆ、まりささまにさからうとこうなるんだぜ、このたべものはありがたくもらっていくんだぜ」
「「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」」



 子まりさが意識を再び取り戻したとき、そこには何もなかった。



 太陽が高く昇った頃、親れいむが沢山の食べ物を持って帰ってきた。

「ゆっくりかえったよ!!」
「むきゅ、おかえりなさい」
「「「「「「おかーさんおかえりなさい!!」」」」」」

 家族に迎えられ、上機嫌の親れいむは今日の成果である食べ物を見せる。

「ゆっ、きょうはたいりょうだよ!!」
「わー!」「すごーい!」「いっぱいだねー」「さすがおかーさんだねー!」「ゆっくりー」
「むきゅ、やればできるじゃない」「おかあさんすごいね!!」

 口々に家族が褒め称える。ああ、こんなにもゆっくりできたのは何時以来だろうか。
 親れいむの心は満たされていた。

 いつもより豪華な昼食を済ませ、各々が自由に過ごし始める。食べ物の蓄えもまだあったはずだ。今日はゆっくりしてても大丈夫だろう。
 親れいむはそう考えを言うと、子供達は賛成した。伴侶であるぱちゅりーも何も言わなかった。

 日が傾くにつれ、親れいむは子ぱちゅりーと親ぱちゅりーの様子がおかしいことに気づいた。
 他の子供達は思い思い外でゆっくり遊んでいるのだが、なぜか子ぱちゅりーは外に佇んでただ遠くを見渡しているようであった。
 親ぱちゅりーは、そんな子ぱちゅりーに寄り添うようにしている。
 親れいむはそれが気になり、親ぱちゅりーと子ぱちゅりーに話しかけた。

「ゆっ、ゆっくりしていないけどどうしたの?」
「むきゅん。れいむ、きょうまりさがおひるすぎにきてくれるはずなのにこないのよ」
「ゆゆっ!?」

 れいむは驚いた、なぜまりさを心配するのか、まりさのことでゆっくりできなくなるのか、まったく理解できなかった。

「ゆっ、きっとわすれちゃったんだよ!! だからまりさはほうっておいて、ゆっくりしようね」
「ゆっ!? ……ま……まりざ……どうじで……」
「そんなことないわ、だいじょうぶよ。まりさはちゃんときてくれるわよ」

 なんで子供が泣きそうになっているのかれいむにはまったくわからなかった。
 そんなれいむを責めるようにぱちゅりーは文句を放つ。

「れいむ……どうしてそういうことをいうの……?」
「ゆっ、れいむをばかにしたまりさなんてしらないよ!!」
「むきゅ!?」

 親ぱちゅりーは驚いた。あの優しい子であるまりさがそんなことを言うはずがないと思っていた。

「ほんとうにまりさはれいむのことをばかにしたの?」
「そうだよ!! そういっていたってほかのれいむからきいたんだよ!! ゆっくりりかいしてね!!」

 そう親れいむは言うと、さっさと住処へと戻っていった。
 残された親ぱちゅりーは、曇った空を見つめながら、しばらくその場で考え事をし始めた。
 そして、行動を開始した。



「おかーさん、おかーさん」
「ゆっ? どうしたの?」
「ぱちゅりーおかーさんとぱちゅりーがでかけてくるっていってたよ」
「ゆゆっ!?」

 驚いた親れいむはすぐに外に出る、そこにはぱちゅりーの姿は何処にもなかった。

「どうしてとめなかったの!!」
「ゆゆっ!? だって……ぱちゅりーおかあさんだからだいじょうぶだって……」

 親れいむは怒るが、子供は当然の事をしただけである。親が出かけるのに止める子はいないだろう。

「ゆっ、とにかくおいかけるよ!! どっちにいったの!!」
「あっちのほうだよ」
「ゆっ!! みんな、ぱちゅりーをおいかけるよ!!」

 そうしてれいむ親子はぱちゅりー親子を追いかけ始めた。
 ただし焦っているのはれいむだけで、子供達はなんで追いかけているのかまったく理解していなかったが。






「どういうことなの!? ゆっくりせつめいしてね!!」
「ゆっ……そ、そんなこといわれてもわからないんだぜ……」

 時間はまだ太陽が高い位置に留まっている時まで遡る。

 先程まで子まりさが倒れていた場所で、言い争う声が聞こえる。
 ゆっくりれいむとゆっくりまりさ達である。
 どうやられいむがまりさ達にむかって問い詰めているようだ。

「れいむのいったとおりに、たべものをもらおうとしたんだぜ」
「そしたら、なまいきにもまりささまにさからってきたんだぜ」
「おろかなまりさはかえりうちにあって、そこでぶざまにのびてたんだぜ」
「ならまりさがそこにいるでしょおぉぉぉぉ!!」
「ゆっ!? そんなことしらないんだぜ」
「おおかたれみりゃあたりにでもくわれたんだぜ」
「あんなよわっちいまりさなんてどうでもいいんだぜ! それよりいっしょにゆっくりしようなんだぜ」

(ちっ、やくにたたないくずゆっくりめ……)
 れいむは目の前の三匹のゆっくりまりさを蔑んでいた。
 こいつ等のせいでれいむの考えた完璧な作戦が台無しだ。れいむは本気でそう思っていた。

 れいむはまりさ達に、親れいむが見つけたゆっくりまりさを気絶させて、食料を奪い取るように指示していた。
 そして気絶させた後に、れいむに知らせるよう手筈を整えていた。
 その後れいむはまりさの傍に寄り添い、看病することにより、好感度をアップさせ、二人で一緒にゆっくりする計画を立てていた。

 だが実際には、食料を強奪したまりさ達は食料のことで頭が一杯になり、居場所を知らせた親れいむ共々分配を先に済ませてしまった。
 その際に突如風邪が吹き、戦利品の山がバラバラと飛んでいってしまったために集めるのに時間がかかってしまった。
 結果、気絶したまりさが目を覚ますまでに、れいむはたどり着くことはできなかった。

「ゆっ、とにかくあのまりさをさがすよ!!」
「ゆゆっ? なんでさがすんだぜ?」
「あんなまりさはどうでもいいんだぜ」
「そうなんだぜ、もうたべものはいっぱいあるんだぜ、ゆっくりしようなんだぜ」

(わたしのびぼうとたべものめあてのいやしいゆっくりが……)

「ばかなの? あのまりさはたべものをいっぱいもってたのよ? おうちにもたくさんあるはずよ?」
「ゆっ!! それをうばえばもっとゆっくりできるんだぜ!!」
「さすがれいむなんだぜ、あたまもよくてきれいなんだぜ!!」
「そうときまればさがすんだぜ!!」

 れいむは内心嘲笑っていた。やはりこいつらも馬鹿で愚かなゆっくりだと。
 賢い私にはつりあわないが、馬鹿なおかげで利用しやすい。せいぜい手駒として利用させてもらおう。
 私に似合うのはまりさだけ、ああ何処にいるの? 愛しいまりさ──






「どうして……どうして……」

 子まりさは森の中を彷徨っていた。その姿にいつもの元気な様子はなく、絶望を浮かべていた。

「どこにあるの……まりさのぼうし……」

 そう、目を覚ましたらまりさの帽子が食べ物と共に無くなっていたのだった。
 ゆっくりは、生まれたときから身に着けている装飾品で固体を見分けると言われている。
 その装飾品を何らかの理由でなくした場合、いくつかの例外はあるが、基本的に他のゆっくりからは判別が付かなくなる。
 それだけでなく、なかには同じゆっくりであるはずなのに、ゆっくり出来ないものとして認識されてしまい、攻撃や差別を受けるケースもある。
 ゆっくりにとって装飾品は命の次に大事であり、これがないとゆっくりはゆっくりできなくなる。
 食べ物は代わりがあるが、自分の帽に代わりはない。今まりさは、自分の帽子を必死に探していた。

「これじゃあゆっくりできないよ……」

 半ば諦めかけているが、もしかしたらという気持ちでまりさは進む。しかし探す当てなどあるはずもなく、ただ闇雲に歩き回っているだけだ。
 できることならば帰りたい。しかし帽子のない今それもかなわぬだろう。
 帽子を探すことだけにとらわれていたまりさだが、ふとあることに気が付く。

(そういえば、このあたりは……)

 まりさはいつのまにか、ぱちゅりーと良く遊んでいた広場に出ていた。
 そこに探している帽子は落ちてるはずもなく、あるのは楽しかった思い出だけだ。

(ぱちゅりー……)

 できることならば今ぱちゅりーに会いたい。だが今会えば何を言われるかわからない。
 自分だと判ってもらえないならばまだいい方だ。一番怖いのは、自分だと判らないとはいえ、愛する者から嫌われることだった。

(しかたないね……)

 そう思いその場からまりさが去ろうとしたその時──

「まりさああぁぁぁぁぁ!!!」

(うん、ぱちゅりーのこえだ……ぱちゅりー!?)

 まりさは驚いた、そして迷ってしまった。
 ぱちゅりーに会いたいという気持ちと、会ってはいけないという気持ちが葛藤し始める。
 その間にもまりさを呼ぶ声は近づいてくる。
 結局どうすればいいかわからなくなり、その場から動けないでいた。



 どれくらい時が経っただろう、まりさは決断を下した。

(このままわかれたほうが、ぱちゅりーにとってしあわせだよね……)

 そういえば、もう自分を呼ぶ声も聞こえない。
 きっとどっかに行ってしまったんだろう。まりさは安堵した。
 もう約束を果たせない自分はぱちゅりーと会ってはいけない。そう思いこの場を去ろうとしたその時。



「むきゅううううううううううううん!!!!!!!」



 まりさは考えることもなく、声のする方に走っていった。






「まりさああぁぁぁぁぁ!!!」

 時は少し遡る。まりさがぱちゅりーの声を聞いて考え事をし始めた頃──
 れいむとまりさのグループもまた、その声を聞いていた。

「ゆっ、まりささまをよぶこえがきこえるんだぜ」
「あっちからきこえてくるんだぜ」
「にんきものはつらいのだぜ」

 勝手なことを言っているまりさたちを余所に、れいむは別のことを考えていた。
 もしかしてこの探している声は、かっこいいまりさの言っていた、ぱちゅりーではないかと。
 どうやらぱちゅりーもまりさを見つけていないらしい。
 それならそれで考えがある。れいむはそう思うとまりさ達と共に声のする方向に向かっていった。



「まりさああぁぁぁぁぁ!!!」

 子ぱちゅりーは叫んでいた。自分の体が弱いこともかまわずに、力の限り声を出し続けた。
 そんな我が子と共に親ぱちゅりーもまた、まりさがいないか周囲を注意深く観察しながら進んでいた。

「むきゅん……まりさ……どこにいるのよ……」

 あの優しくて賢いまりさが約束を破るはずなんてない。きっと何かあったに違いない。
 ぱちゅりーの親子はそう判断し、まりさを探していた。
(そういえば、このちかくでまりさとよくあそんだっけ……)
 子ぱちゅりーは思い出す。この近くにまりさが家族と暮らしていたときに良く遊んでいた場所だと。
 あの時自分は他の子供より体力がなく、激しい運動はできなかったために、その光景を見ていることが多かった。
 元気一杯遊んでいる皆をみて羨んでいた。自分も沢山遊ぶことのできる体が欲しいと思っていた。寂しかった。
 そんな子ぱちゅりーを見かねたのか、まりさは一緒にいてくれた。
 子ぱちゅりーはその行為が嬉しかったと共に、申し訳なくも感じていた。
 一度まりさに他の皆と遊んだほうが楽しいのではないかと聞いたことがある。
 その問いに、まりさは笑顔でこう答えた。

「ぱちゅりーといっしょにいたいんだよ!! ぱちゅりーがゆっくりできていないのをみてると、まりさもゆっくりできないんだよ!!」

 その言葉がどんなに嬉しかっただろう。あの時の感動を忘れることなんてできない。
 今の私があるのはまりさのおかげだ、そしてこれからも私にはまりさが必要だ。
 それなのに何処に行ってしまったというのか、何か良くない事でも起こってしまったというのか。
 どうか無事であることを願いつつ、子ぱちゅりーはまりさを呼びかける。

「まりさああぁぁぁぁぁ!!!」



「どうしたんだぜ?」
「まりささまのとうじょうだぜ!!」
「もうあんしんするんだぜ!!」

 その呼びかけに答えるかのように、三匹のまりさと一匹のれいむが姿をあらわした。
 れいむは言葉を発することもなく、ただ二匹のぱちゅりーを眺めているだけだ。

「ゆっ……ごめんなさい。べつのまりさをさがしていたの」
「むきゅん、ごめんなさい。わるぎがあったわけじゃないわ」

 ぱちゅりー親子がまりさ達にむかって謝罪の言葉を述べる。
 しかし、その言葉にまりさたちは激昂した。

「ゆっ!? なんなんだぜ、このまりささまをよんでおいて、かんちがいですまされるとおもっているのかだぜ!!」
「しゃざいのほかにもばいしょうがひつようなんだぜ!!」
「たべものをたくさんもってきたらゆるしてやるんだぜ!!」

 わけのわからない理論を展開するまりさ達に、ぱちゅりー親子は困惑した。
 なんだこのまりさは、あの優しくて賢いまりさとは似ても似つかわしくないではないか。
 これ以上こいつらに関わっている暇はない。そう考えていると、まりさ達の後ろにいたれいむが話しかけてきた。

「ゆっ!! あなたたち、まりさをさがしているの?」
「……むきゅ、そうだけど……」
「そのまりさ、どんなまりさだった?」

 このれいむには話が通じそうだ。親ぱちゅりーはそう思い、特徴を話し始める。

「むきゅん……とてもたくさんのたべものをかれる、はだやかみがきれいなまりさよ」
「「「ゆゆゆっ!?」」」

 説明になっていない説明だが、ゆっくりまりさ達にはどこか思い当たることがあるようで、あからさまに表情を変えた。
 それを見た親ぱちゅりーは、このゆっくり達は何か知っているのではないかと感じ取った。
 ただ、れいむだけは微笑んでいる。

「ゆっくりりかいしたよ……ゆっくりできないぱちゅりーはゆっくりしね!!」
「むきゅ!?」

 れいむは何を言っているんだ? ぱちゅりー親子はれいむが何を言っているか理解できず、戸惑っていた。
 その隙をのがさずに、まりさ達が襲い掛かる。
 そして、隙だらけのぱちゅりー親子はまりさ達の体当たりを受けた。

「むきゅううううううううううううん!!!!!!!」

 ぱちゅりー親子は声を上げながら吹っ飛んでいった。



「ゆっゆっゆ、まりささまにけいいをはらわないなんておろかものなんだぜ」
「まりささまでなく、あんなよわっちいまりさをよびかけるなんてみるめがないんだぜ」
「まりささまをばかにしたつみはおもいんだぜ、しけいなんだぜ」

 目の前でまりさ達がぱちゅりー達を攻撃している光景を見て、れいむは思う。
(こういうとき、ばかなまりさはべんりだね!! このぱちゅりーをけせば、あのまりさをうばうてきはいなくなるよ!!)
 自分が描いていた予想通りの展開になり、れいむはほくそ笑む。
 このままぱちゅりーがゆっくりと死んでいくのを見届ければいい。そう思い眺めていると──

 黒い帽子が目の前に飛びこんできた。



「ゆぶうぅぅ!!?」

 吹き飛ばされる一匹のまりさ。おもわずれいむはそれを避ける。
 そしてまりさが飛んできた方向に視線を戻す。
 すると他のまりさも倒れているではないか。
 そしてぱちゅりー親子に立ち塞がっているゆっくりが一匹──

「ぱちゅりぃをいじめるなあぁぁぁ!!!」

 そのゆっくりは、金色の髪をなびかせて此方を見据えていた。



「むきゅぅん……たすかったわ……ありがと」
 親ぱちゅりーお礼をいった。見ず知らずの帽子のないゆっくりまりさとはいえ、自分達を助けてくれたのだ。
 少なくともあの無礼なまりさ共よりは好感が持てる。
 そういえば子供は大丈夫だろうか、慌てて子供の無事を確認したが、子供の様子がおかしいことに気づく。
 見ればずっと帽子のないまりさを見つめているのだ。
 そして子ぱちゅりーは呟いた。



「まりさ……?」



「はやくにげてね!! ゆっくりしないでにげてね!!」

 目の前の帽子のないゆっくりは逃げるように促し、立ち上がろうとしている三匹のまりさと対峙する。
 帽子がなくても判る。あの透き通るような声、あの日差しのように輝く金髪、あれはまりさだ。ずっと会いたかった世界で一番大好きなまりさだ。
 もう会えないかもしれないと思っていた。最後に出来れば一目でいいから会いたいと思っていた。
 そんな願いが通じたのか、まりさと出会えた。帽子がないことが何だというんだ。そんなの関係ない。
 子ぱちゅりーは涙を浮かべ、背一杯叫ぶ。



「まりざあぁぁぁ!!!あいだがっだあぁぁぁぁ!!!」



 子まりさも涙を浮かべていた。
 もう自分のことなど判ってくれないと思っていた。まりさでない何かだと認識されると思っていた。
 でも、ぱちゅりーは自分の事を判ってくれた。それがなにより嬉しかった。
 同時に思う、絶対に守って見せると。
 そう心で誓い、体制を整え始めたまりさ達を見据え、構えた。

「ゆ゛っ!! いきなりまりささまになにをするんだぜ!!」
「ゆっくりできないゆっくりのくせに、なまいきなんだぜ!!」
「ぜったいにゆるさないんだぜ、ゆっくりできないゆっくりはゆっくりしね!!」



 戦いが始まった。



「むきゅ、だいじょうぶ?」

 親ぱちゅりーが子ぱちゅりーに話しかける。元々体の弱い上、先程の体当たりでボロボロになった自分達はお荷物でしかない。
 今戦っているまりさには悪いが、後でお礼をしよう。そう判断してここから立ち去ろうとした。
 だが、子ぱちゅりーの様子がおかしい、まりさに会えてうれしいのはわかるが、今はそれどころではないというのに。
 しかし原因は違っていた。

「おかあさん……うごけないの……」
「むきゅ!?」

 よく見ると、足元がほんのり黒ずんでいた。
 どうやら吹っ飛ばされて着地した際に、何か鋭利なものを踏んでしまって足元から餡子がでているようだ。
 これではこの子は動けない。かといって今の自分には持ち上げていく体力もない。
 結局は、まりさが勝つように祈るしか方法はなかった。






 まりさは必死だった。負ければぱちゅりー達がどんな酷い目にあわせられるかわからない。負けるわけにはいかなかった。
 幸いにも、まりさ達は自分勝手に体当たりしてくるだけなので、攻撃は少し横に飛ぶだけで簡単にかわすことが出来た。
 しかし、自分よりも少しだけ大きい相手な上、三匹相手に戦っていてはなかなか有効的な打撃は与えられない。
 このままではいずれ自分が力尽きてしまう。そう考えたまりさは一つの賭けに出た。
 今まで飛び跳ね回っていたが、急に動くのを止めた。

「ゆっへっへ、さっさとかんねんするんだぜ」
「ちょこまかとうっとうしかったけど、これまでなんだぜ」
「これでとどめなんだぜ、ゆっくりしね!!」

 それをみたまりさ達は、相手が疲れて動けなくなったと思い込み勢いをつけて突進する。
 ゆっくりできないゆっくりを自分の手で倒せば、れいむだってよろこぶだろう。三匹のまりさは我先にとまりさに向かっていった。
 そしてその内の一匹が体当たりを仕掛けた時──

「ゆゆっ!?」

 目の前にいたはずのゆっくりできないゆっくりが消えた。代わりに見えたのは大きな木。
 勢いあまってまりさは激突してしまう。

「ゆぶっ!!」

 後から来た二匹のまりさもその勢いを止めることはなく、体当たりをしていた。その結果、一匹のまりさは二匹のまりさから体当たりを受け、失神してしまう。
 どこにまりさは消えたのか? 残った二匹が周囲を見渡そうとしたその時。

「ゆべぇ!!」「ゆぎゃあ!!」

 まりさは、上から降ってきた。
 消えたと思っていたのは、ただとても高くジャンプしただけの話であった。
 そして着地の足場として一匹のまりさを踏みつけ、さらにその反動でもう一匹のまりさに体当たりをした。
 これが決め手となって、三匹のまりさはそれぞれ気絶してしまった。

 まりさ自身は深く考えていないだろうが、上からの攻撃は中々に有効である。
 特にゆっくりまりさは前傾姿勢で突進をすると、帽子のつばによって死角ができる。
 そのため、上からの攻撃に気づきにくい。気づかなくても弱い攻撃は帽子が弾いてくれるのだ。
 だが、成体に近いゆっくりの、ジャンプによる衝撃は強く、さすがに帽子といえど耐えられない。
 そのため、対まりさ相手には体当たりを誘っての踏みつけは有効である……と言えるかもしれない。

 勝った……これでぱちゅりーたちは助かる……。
 そう思って振り返る。そこにはまだ、ぱちゅりー親子の姿があった。どうやら様子がおかしいようだ。
 どうしたんだろう? 心配してそばに寄ろうとして──



 以前受けたような強い衝撃が、体を襲った。



「もうだいじょうぶだよ!! ぱちゅりー、あんしんしてね!!」

 親れいむは満面の笑みで子ぱちゅりーに話しかける。
 おかあさんが来たからには安心だよ、とアピールしているようである。
 だが帰ってきた言葉は親れいむにとっては予想外な言葉だった。

「どうじでごんなごどずるのおぉぉぉ!!!」
「ゆゆっ!?」

 子ぱちゅりーは泣いている。なんで?どうして? 親れいむの頭は混乱した。
 そこに親ぱちゅりーが話しかける。

「むきゅ、れいむ……なんてことをしたの……」
「ゆ? ゆっくりできないゆっくりからぱちゅりーをまもったんだよ!!」
「それはごかいよ、あのこはわたしたちをたすけてくれたのよ」
「ゆゆっ!? でもあれはゆっくりできないゆっくりだよ!?」
「そんなことかんけいないわ!!」

 れいむは狼狽した。どうして怒られなければいけないのだ?
 遠くからぱちゅりーの声がしたので、急いでここまで駆けつけてきた。
 そこにはゆっくりできないゆっくりに襲われているぱちゅりーの姿が見えたではないか。
 とっさに助けるために体当たりを仕掛けたのに、帰ってきたのは非難の言葉だ。
 ゆっくりできないゆっくりを排除してなんの問題があるのだ?むしろ感謝されるべきではないのか?
 そんなことを考えていると後から子供達がやってきた。

「おかーさんまってー」
「ゆっ、ぱちゅりー。だいじょうぶ?」
「あそこにゆっくりできないゆっくりがいるよ!!」
「ほんとだ、きっとぱちゅりーをいじめたのはあいつだね!!」
「ゆっくりしね!!」

 子供達がゆっくりできないゆっくりに襲い掛かる。
 だが親ぱちゅりーはボロボロの体を必死に動かして子供達の前に立ち塞がった。

「むきゅん、だめよ!! まりさにてをだすのはゆるさないわ!!」
「おねえぢゃんだぢやめでー!! まりざをいじめないでー!!」

 必死になってぱちゅりー達は子供達を止めようとする。
 子供達はその言葉を聞いて混乱する。
(あれはまりさ? ゆっくりできないゆっくりはまりさ? まりさはゆっくりできないゆっくりなの?)
 そして親れいむも混乱する。
(どうしてぱちゅりーはとめるの? ゆっくりできないゆっくりをやっつけるのはいいことだよ?)
 そして答えが出そうで出ない、葛藤の最中──

「ゆっ、ゆっくりできないゆっくりをまもるぱちゅりーはゆっくりできないよ!!」
「「「「「「ゆゆ?」」」」」」

 突然、れいむ親子の後ろのほうから声がした。後ろを振り返ると、そこにはれいむの姿が見えた。
 親れいむは見たことのあるれいむに安心し、それでいて言葉を返す。

「ゆ? れいむ、どういうこと?」
「かんたんなことだよ!! れいむのことをばかにしたまりさや、ゆっくりできないゆっくりとそこのぱちゅりーはぐるだったんだよ!!」
「ゆゆっ!?」

 れいむの説明を聞いて、親れいむに電流が走る。
 ゆっくりできないまりさ、ゆっくりできないゆっくり、それらをかばうぱちゅりー。
 簡単な事じゃないか、全部れいむ達をゆっくりできなくさせる悪い奴らだったんだ。
 全てを理解した親れいむの行動は早かった。

「むきゅ、なにをいって──」

 親ぱちゅりーが反論を述べようとするが、それを遮る様に親れいむが体当たりを仕掛けていた。

「れいむのおかげでりかいしたよ!! うらぎりもののぱちゅりーは、ゆっくりしね!!」



「「「「「お、おかーさん???」」」」」

 目の前の出来事に頭が着いていけない子れいむ達。
 それを払拭するかのように、親れいむは自分にとって都合のいい解釈を子供達に話す。

「ゆっ、このぱちゅりーはれいむたちのことをばかにしてうらぎったくずゆっくりだよ!! いっしょにこらしめようね!!」
「「「「「わかったよおかーさん!!」」」」」
「むきゅうぅぅぅぅぅ!? やめてえぇぇぇぇぇ!!!」



(けっかおーらいだね、あのようすぜったいなにかしっているよ)
 ゆっくりできないゆっくりが現れた時には焦ったけど、結局れいむ達がやっつけた。
 そしてぱちゅりーたちはまりさについて何か知っているようだ。こらしめたらゆっくりと居場所を問いただせばいい。
(まったく、れいむからまりさをうばうなんておろかだね。そのためにみがわりのゆっくりをよういするなんてなんてゆっくりできないやつだね!!)
 このぱちゅりー達はれいむから愛しのまりさを奪い、隠している。れいむの頭の中ではそうなっていた。

「むきゅぅん!! むぎゅっ!! ぎゅー!!」
「やめでええええええぇぇぇぇぇ!!!」

 子ぱちゅりーは家族を必死に止めようと叫ぶ。しかしその声は家族達には届かない。
 それでも子ぱちゅりーは懸命に叫ぶ。自分の体のことなど省みずに。
 そんな子ぱちゅりーにも衝撃が訪れた。

「ぶぎゅぅ!?」

「ぎゃあぎゃあとうるさいんだぜ」
「まりささまをばかにするからいけないんだぜ」
「ゆっくりできないぱちゅりーはゆっくりしぬといいんだぜ」

 いつのまにか起き上がっていた三匹のまりさ達が、子ぱちゅりーを突き飛ばしたのだ。
 餡子を撒き散らしながら転がっていくその光景を見て、ゲスまりさ達はゲラゲラと笑いだした。






(ゆっ……)
 笑い声が聞こえる。一体何が起こったのだろうか。
 子まりさはゆっくりと意識を覚醒させていく。
(そうだ、ぱちゅりーは!?)
 まだ目が霞んで周りが見えないが、辺りの状況を子まりさは確認しようとする。
 体中から痛みが走る。まともに動くことすら間々ならない。
 それでも必死になって前方を見る。徐々に視界がはっきりとする。
 だが、そこには信じられない光景がそこには広がっていた。



(ぱ……ちゅ……り……?)
 まず目に飛び込んできたのは、見慣れた帽子だった。よく見ればその帽子は所々黒ずんでいる。
 帽子の周りにも同じような黒い物体が点々と散らばっている。
 帽子の影に隠れているのは、ただの大きな黒い塊だった。
 次に見えたのは、その傍で餡子だらけで倒れているゆっくりの姿。
 そしてその光景をみて馬鹿笑いしているゆっくり達。
(う……そ……だ……)
 まりさは理解してしまった。
 目の前に横たわる物体が何者かであると。
 その傍で傷だらけで倒れている者が誰であるかを。
 それをみて笑うもの達の存在を。
(うそだあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

 子まりさの悲しみの心を映すかのように、空は泣いていた。



「ゆっ、つめたいよ!! あめがふってきたよ!!」
「あめはゆっくりできないんだぜ、さっさとかえるんだぜ」
「みんな、おうちにかえるよ!! おかーさんについてきてね!!」
「「「「「わかったよ、おかーさん」」」」」

 突然の雨に、ゆっくり達は急いで住処へと帰っていった。
 笑い声の響いてた広場は、一瞬にして静寂を取り戻した。



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最終更新:2022年05月18日 21:55