『赤ちゃんゆっくりの冒険-前編-』




今宵は満月、けーねがきもけーねに変身する頃
巨大な倒木の空洞の中でうごめく二つの影があった。

一つは黒髪に紅白のリボンを付けたゆっくりれいむ、もう一つは金髪に黒い帽子を被ったゆっくりまりさだった。
その二匹の体躯は通常の成体ゆっくりよりもずっと大きく、一般的な成人男性の身長ほどはある。
そんな巨大な生首が満月の光で狂ったのか、激しく体を震わせながらお互いを求めて交尾していた。

「ゆっゆっゆ! れいむぅ! こんなのはじめてだよよよぉ!!」
「まりさぁぁぁ!! こんやはねかさないからねぇぇぇぇ!!!」

お互いの舌を艶かしく絡ませながら粘液にまみれた頬を擦り付けあう。
ニチャネチャと淫猥な音が辺りに響く。

「ああぁ! もっと、もっとはげしくやろうよぉぉ!」
「いいよぉ! でもすぐにすっきりしちゃだめだからねぇぇぇ!!」
「わかってるよぉぉ! いっしょにすっきりしようねぇぇぇ!!」

蕩けた瞳で見つめあいながら二匹は小刻みに体を上下して相手と自分を絶頂へと登らせていく。
まりさはすぐにでもすっきりしそうだったが、いっしょにすっきりしようと言ったからには先にすっきりする訳にはいかない。
自然とペースダウンして自分の性欲を静めようとする。

「まりさぁ! うごきがにぶくなってるよぉぉ? うごかないなられいむがいっぱいうごいてあげるねぇぇ!!!」
「れいむぅぅ! はげしくしたらだめだよぉ! すっきりしちゃうよぉぉ!!」

まりさはすっきりしないよう我慢するが、まだ余裕のあるれいむの激しい振動がまりさを襲う。
次々と与えられる快感の波に、元々我慢弱いまりさは容易く屈してしまった。

「ご、ごめんれいむぅぅ……す、すっきりー!!!」

だらしなく蕩けた表情のまますっきりするまりさ。
それを見たれいむは頬をプクっと膨らましてぷんぷん怒る。

「まりさぁ、はやいよぉ! がまんできなかったの?」
「れいむごめんね! でもすっきりがはやくてもかずでしょうぶするからね!!」
「ああっ! まりさぁぁぁ!!」
「きょうはあさまでふぃーばーだぜ!!」






夜が開けて朝の日差しが森を照らす頃
ようやく巨大れいむと巨大まりさの交尾は終わりを告げた。
二匹の体は茎にまみれ、茎の先にはプチサイズのれいむとまりさの実が、つまり赤ちゃんゆっくりがたくさん実っていた。
合わせて百以上は実っている赤ちゃんに養分を供給して昨夜のような元気が無く、顔も皺だらけになった二匹は最後の会話をする。

「ちょっと…すっきりしすぎちゃったね」
「うん。これじゃあかちゃんをそだてられないね……」
「でもだいじょうぶだよ。れいむたちに似てげんきでかしこいあかちゃんにまちがいないよ」
「そうだよね。まりさたちがいなくてもじゅうぶんゆっくりできるよね」
「……れいむはさきにねるね。いっしょにゆっくりできてたのしかったよまりさ」
「おやすみれいむ。…まりさもたのしかったよ………」

それっきり二匹の体は急激に黒ずんでいき、ゆっくりとその生を終えた。
残ったのはたくさんの実。すぐにでも目を覚ましそうな赤ちゃんゆっくり達だけだった。




「ゆっくりちていってね!!」

最初のすっきりで生えた茎の赤ちゃんゆっくりが目をぱちくりと開いて元気に産声を上げた。
その産声を皮切りに他の赤ちゃんゆっくりも次々と目を覚ましていった。

「ゆっくりちていってね!」
「ゆっくりちようね!」
「みんなでなかよくちようね!!」

みんな目が覚めて隣に実っている姉妹と雑談しているうちに一匹、また一匹と茎から切り離されて落ちていく。
落ちた赤ちゃんゆっくり達は初めての地面の上できゃっきゃと元気に跳ねまわり、頬を合わせてお互いの生を感じ取っていた。
産まれた百匹近くの赤ちゃんゆっくり達はどれも健康で、とてもゆっくり出来ていた。

だがお腹が減ってはゆっくりできない。
ここでようやく母親がいないことに気が付いた。

「ゅ? おかーしゃんどこにいるの??」
「ゆっきゅりおなかがすいたよ!!」
「このままじゃゆっくりできないよ!」
「おかーしゃーん!!」

キョロキョロと辺りを見回してみるが母親らしきゆっくりはいない。
あるのは自分達がぶら下がっていた茎と、その根元にある黒い変な物体だけ。
ここで一匹の赤ちゃんまりさが一つの回答を導き出した。

「きっちょ、おかーしゃんたちはまりさたちのためにたべものとりにいっちゃんだよ!!」
「ならあんしんしたね!」「ゆっきゅりまとうね!!」
「でもおなかすいたよ!!」「がまんできないよ!!」

親ゆっくりはきっと食べ物を持ってきてくれる。
しかし赤ちゃんゆっくりがお腹が減っているのは今なのだ。
何か食べるものはないかと見回して視界に入るのは親の残骸。
いや、赤ちゃんゆっくり達はこれを親だと認識できていない。飢えた今となっては食べ物にしか見えなかった。

「だったらここにあるへんなのをみんなでたべようよ!!」
「しょうだね! おおきいからみんなゆっくりできるね!」


親だったものに赤ちゃんゆっくり達が群がってむーしゃむーしゃと食べていく。
だがこれはよくあること。子を産んだ結果で死んだゆっくりは産んだ子の栄養となる。
今回は両親がどっちも子を産んで死んだのでそれを教えるものがいなかっただけのことだ。



「ゅぅ、おいちかったね!!」
「ゆっくりできたね!!」
「おなかいっぱいになったからこんどはあしょぼうね!!」

百匹近くいるとはいえ、親の残骸は人間程度の大きさだ。
赤ちゃんゆっくり達がお腹いっぱいになるまで食べても親の残骸はまだ原型を残していた。
いっぱい食べて元気になった赤ちゃんゆっくり達は巣の中で飛び回って遊びまわる。
本能なのか産んだ親の遺伝子を受けづいているのか、何となく外は危険だと感じ取って巣の外に出る赤ちゃんゆっくりは一匹もいなかった。

お母さん達が帰ってきたらいっぱい遊んでもらおう。
そんな幻想を抱きながら赤ちゃんゆっくり達は巣の中でゆっくりと過ごしていた。







それから三日経っても母ゆっくりは帰ってこなかった。
それはそうだろう。帰るも何も最初から巣の中に居たのだから。
その親の残骸もすでに残り少なくなっていた。
産まれた時から一回り大きくなった赤ちゃんゆっくり達の中には
いくら待っても母ゆっくりは帰ってこないんじゃないかと考え始めるゆっくりもいた。

「おかーしゃんおそいね。ゆっきゅりしすぎだよ!!」
「このままじゃたべものなくなっちゃうよ!!」
「それじゃゆっきゅりできないよ!!」

赤ちゃんゆっくりでも巣にある残りの食料の量は分かる。
後一回みんなで食事したら全部無くなると。

「だったらおそとにいこうよ!!」
「しょうだね! おそとならたべものいっぱいあるよ!!」

何匹かのゆっくりが巣の外に出ようと言い始めた。
他の姉妹の反応は様々だ。

「ゆ! おそとはあぶないよ!!」
「いってみないとわからないよ!!」
「そうだよ! このままだとゆっきゅりできないよ!!」
「おかーしゃんはかえってくるよ!!」


結局意見は二つに分かれた。
外に行く派と母を待つ派の二つだ。
数が多いのは外に行く派で、全体の8割を占めた。

「ゆっ! たべものをゆっくりさがしゅよ!!」
「みんなでしゃがしてくるからね!!」
「ゆっくりちようね!!」

外に行く派の赤ちゃんゆっくり達はすぐに巣の外へと旅立っていった。
危険だと警告する本能を抑え、約80匹の赤ちゃんゆっくり達が巣の外へと初めて身を投じた。


初めての巣の外は気持ちよかった。
さらさらと吹く優しい風。どこからともなく香る草の匂い。ぽかぽかとする陽の光。

「すごい! ゆっきゅりできるよ!!」
「おうちにいるよりずっときもちいいよ!!」
「しゅっきりできるよ!!」

外に出たゆっくり達は見るもの全てに感動していた。
産まれてからの三日間は巣の中と入り口から見える小さな外の世界しか知らなかった。
こうして出てみると、どうして今まで出なかったのか不思議だった。

「こんなにゆっくりできるならおかーしゃんがかえってこないのもわかるね!!」
「しょうだね! でもかわいいれいむたちにかおをみせないなんてかってだよね!!」
「きっともっとゆっくりできるばしょにおかーしゃんはいるんだよ!!!」
「それじゃあみんなでさがしにいこうよ!!!」
「ゆっくりさんせい!」「ゆっくりさんせいだよ!!」


こうして赤ちゃんゆっくり達の冒険が始まった。
母を待つ派の中には外に出た姉妹の声に誘われて意見を変えたゆっくりがいたので、
結局おうちに残ったのはたった9匹の赤ちゃんゆっくりだけだった。

「ゆっきゅりきをつけてね!」
「あぶなくなったらもちょってきてね!!」
「おかーしゃんがかえってきてもしらないよ!!」

おうちに残る赤ちゃんゆっくり達の見送りの声を背に赤ちゃんゆっくりの集団は楽しそうに森の向こうへと跳ねていった。
残された9匹の赤ちゃんゆっくり達は旅立った姉妹の姿が見えなくなるとお互いの顔を見合わせた。

「みんないっちゃったけど、のこったみんなでゆっくちちようね!!」
「おかーしゃんがかえってきたらほめてもりゃおうね!!」
「おうちのなかでゆっくりちようね!!」
「おかーしゃんがかえってくるのがゆっくりたのしみ!!!」

いない母ゆっくりを待ち続けるこの赤ちゃんゆっくり達の運命はもう決まったようなものだった。
大多数の姉妹が冒険に出かけたので残りの食料ももうしばらく持つだろう。
しかし無くなったその時のことを考えるゆっくりは誰もいなかった。











巣に残ったゆっくりが窮地に立つのはまだ先の話。
『おかーさんのいるもっとゆっくりできるばしょ』を求めて冒険に出かけた90匹近くの赤ちゃんゆっくり達は現在森を元気に跳ねていた。
小さく足も速くないのでまだ元のおうちからはそんなに離れていなかった。

「ゆっゆっゆ!」
「はしるとたのしいね!」
「こんなにうごくのはじめて!!」
「ゆっ! むこうはひろくてゆっくりできそうだよ!!」
「みずがみえりゅよ!!」
「ゆっゆ! じゃあむこうへゆっくりいこうね!!!」

特に行き先は決まっていない。
先頭集団が何となくゆっくり出来そうな方向へ進み、後続のゆっくり達がそれに続いているだけだ。
今は先頭集団が見つけた木の少ない開けた場所、湖へと向かっている。

「ゆっくりついたよ!!」
「いっぱいはしってゆっくりちゅかれたよ!!」
「おなかしゅいたよ!!!」
「のどもかわいちゃよ!!」
「いっぱいたべれそうなくさがありゅよ!!」
「みずもたくさんあるよ!!」
「みんなでゆっきゅりたべようね!!」

湖の周りは赤ちゃんゆっくり達の背ほどの草木が生えていて、食べるのにはちょうどいい。
さらに湖なので水はたくさんある。赤ちゃんゆっくり達にとっては初めてみる水だ。
初めて見るのに"水"だと分かるのは、親ゆっくりの残骸を食べて知識を受け継いだ結果だ。
ただし分かるのは"水"であることぐらいで安全か危険かの判断はつかないし、ゆっくりの頭では想像もできない。

「ゆっゆ~、つめちゃくてきもちいいよ!!」
「すごいよ! うかべるよ!!」
「しゅご~い! れいむにもゆっくりやらせてね!!」

湖に飛び込んだ赤ちゃんゆっくりが冷たくて気持ちがいいと報告すると、
水は安全な物だと認識した赤ちゃんゆっくりが続いて湖に浮かんだり、水をガブガブと飲み始めた。
その様子を見た他の赤ちゃんゆっくりも湖の周りに集まって自分達も遊ぼうとし始めた。

と、その時だった。

「ゆっ!? からだがしずみゅよ!! だしゅげ…っ!!」
「さっぎまでうがんでだのになんじぇぇぇぇぇ!?」

湖に浮かんでいた赤ちゃんゆっくりの皮が水を吸って重くなり、水に沈んでいく。
その様子を見て湖で浮かぼうとした赤ちゃんゆっくりは陸へと逃げ戻る。

「みずのうえはあぶないよ!! ゆっきゅりもどってきちぇね!!」

一匹のゆっくりがそう叫んだが、すでに水の上に浮かんでいる赤ちゃんゆっくり達は自力で陸へは戻れない。
最初に浮かんでいた姉妹が沈んだのを見て泣き叫んでいる。

「あ"あ"あ"あ"あ"!! だれかだしゅげでぇぇ!! おがーじゃーん!!!」
「しじゅんできだよ! だしゅげでぇ! だしゅげっ……」

そこらに生えている草を咥えさせて引っ張れば助けられたのかもしれない。
だが赤ちゃんゆっくりにそんな知恵などあるわけもなかった。
ただただ泣け叫んで沈んでいく姉妹に声をかけ続けるしかなく、
湖に入った姉妹全員が沈み切った後も泣いていた。

「ゆぅぁぁあん!! ゆっきゅりできないよぉぉ!!!」
「ここはじぇんじぇんゆっくりできないよぉぉ!!!」
「ほがのどごろにいぎょうよぉぉぉ!!!」

残った赤ちゃんゆっくりの心は一つだった。
ここではゆっくり出来ないから他の所に行く。
赤ちゃんゆっくり達は怖いものから逃げるように跳ねていく。
進む先など考えていない。とにかく恐ろしい湖から離れたかったのだ。

しかし泣きながら跳ねていくゆっくり達の中、動けないゆっくり達もいた。
湖にこそ入らなかったものの大量の水を飲んでしまった赤ちゃんゆっくりだ。

「ゅ…まっちぇ…まっちぇぇぇ……!」
「おいちぇいかないちぇぇぇ……!」

もう少し育っていれば過剰に摂取した水分を小便のように排出することも出来たのだが、まだその器官がない。
餡子化できる限界を超えた水が体の餡子を溶かし、皮もぶよぶよになってまともに動けなかったのだ。
中には完全に体の中身が溶けてしまい、茶色の水たまりに沈むゆっくりすらいた。

もうこの赤ちゃんゆっくり達は助からない。
数秒で体内の水分が乾ききれば助かるかもしれないが、そんなことあり得ない話だ。
このまま体が溶けるか虫か何かに食われて死ぬことだろう。





湖から逃げた赤ちゃんゆっくり達は再び森の中に戻ってきていた。
適当な木の近くで立ち止まる。必死で逃げて来たので皆クタクタだ。

「ゅっゅっ…ちゅ、ちゅかれたよぉ」
「ゆっくり、やすもう、ね…」
「ゅぅ、ゅぅ…」

赤ちゃんゆっくり達は地面にへばりつくように垂れて体を休める。
走り回ってお腹が減ったゆっくりは雑草をもしゃもしゃと食べていた。
そんな中、一匹のゆっくりが毛虫を見つけた。黒いもさもさの付いた体でゆっくりと動いている。

「しゅご~い! とってもゆっきゅりしてるよ!!」
「これもたべられりゅのかなぁ?」
「ゆっきゅりたべりゅよ!!」
「あ! まりさじゅるいよー!!」

赤ちゃんまりさが毛虫を食べる。しかしそれはゆっくりが食べられるものではなかった。
毛虫の毛は柔らかい赤ちゃんまりさの口の中に刺さり、同時に変な味のする液体が口の中に溢れる。
毒だ。幻想郷に住むこの毛虫の毒は人間でも飲み込むと頭痛と嘔吐感が襲い、全身に軽い痺れが走る。
人間の大きさでそれなのだから小さなまりさはどうなるのか。

「ゆ"ぎゅべぇぇぇっぇぇぇ!!!!」

全身に激痛が走り、中身の餡子を吐き出してしまう。

「ゅゅ!? まりしゃだいじょうぶ!?」
「ゆっきゅりしていっちぇね!! ゆっきゅりしてねー!!!」
「なんでなのぉぉぉぉ!!!」

「ゆぶおぉぉぉぉっ!!! おぼっ………がぼっ……………」

赤ちゃんゆっくりにとっての嘔吐は餡子の容量が少ないだけに死に直結する。
まりさも例外なく体内の餡子を漏れなく吐き出し、そのまま死んでしまった。
だが周りにも同じように餡子を吐き出して死んでいく赤ちゃんゆっくりがいた。
皆同じ毛虫を食べた結果だった。

「ゅげぇっぉぉぉぉぉおっ!!!」
「ゆぼぼぼぼぼぉぉっ!!!」
「げぇぇぇえっぇぇぇっぇ!!!」

「ゅー!! ゆっきゅりしちぇよぉぉぉ!!!」
「はいちゃだめだよぉぉぉぉお!!!」
「はいたらゆっきゅりできにゃいよぉぉぉ!!!」
「むしさんたべたらゆっきゅりできないよぉぉ!!!」

辺りは餡子を吐き出すゆっくりの断末魔とそれを見て恐怖に震えるゆっくり達の悲鳴が響いた。
同時に赤ちゃんゆっくり達はこの毛虫を食べると死ぬと言う事を理解できた。
ゆっくり達にとって幸運だったのはこの虫の毒が即効性だったことか。
遅効性であれば気づかずにむしゃむしゃ食べてほぼ全滅していたことだろう。







赤ちゃんゆっくり達は十分休めていなかったが、
姉妹の死んだ場所ではゆっくり休めないということで再び集団で移動していた。

「ゆっきゅりはしろうね!」
「こんどこそゆっくりできるばしょにいこうね!!」
「みんなでいけばこわくないね!!!」

湖と虫の毒とでたくさんの姉妹が死んだが、それでもまだ70匹近くのゆっくりが生き残っていた。
しかしこれほど目立つ集団も中々ないだろう。これだけの数の赤ちゃんゆっくり達が群れを成して移動するなど普通はあり得ない。
あり得ないが、捕食種や野生の動物にとってこれ以上ない格好の獲物である。

先頭を進むゆっくり達の目に影が見えた。

「うー、うー!」

体付きのれみりゃだ。大勢のゆっくりの話し声に誘われて姿を現した。
赤ちゃんれいむと赤ちゃんまりさはれみりゃの姿を見て震えあがる。
赤ちゃんゆっくりでも本能的に知っている。自分たちを食べるゆっくりできないゆっくりであると。

「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"! ぎょないでぇぇぇぇ!!!」
「ゅぅぅぅぅ!!!」
「みんにゃにげでぇぇぇぇ!!!!」

先頭のゆっくり達から連鎖して悲鳴の波が起こり、一斉に踵を返して逃げ出した。

「うー! つかまえるー! うあうあ♪」
「ゆ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!! は"な"ち"て"ぇ"ぇ"ぇ"!!!」

一匹の赤ちゃんれいむがれみりゃの手に捕まえられてしまった。
その手に握られた赤ちゃんは苦しそうに離してと懇願するがれみりゃはニコニコと無邪気に笑って聞いていない。

「は、はなちてあげてよぉぉ!!」
「ゆっくりできないよぉ!!」
「やめちぇぇぇぇ!!!」

大勢が逃げる中、何匹かのゆっくりは逃げずにれみりゃに向ってやめてとお願いする。
しかしそれは勇気というよりも無謀な行為である。

「うー♪」
「あ"あ"あ"あ"あ"!?」

もう片方の手でれみりゃに楯突いたゆっくりの一匹が捕まった。
れみりゃの片手に収まるほど小さな身体を必死に動かして逃げようとするが、
赤ちゃんゆっくりの力ではれみりゃの握力にすら敵わない。

「うー、たーべちゃうぞー!!」
「やめちぇっ…ゅ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!! ずわないでぇぇぇ!!!」

先に捕まったれいむがれみりゃに咥えられて中身を吸われていく。
れみりゃの吸う力は強く、数秒で赤ちゃんれいむは皮だけになって二度と動かなくなってしまった。
次は二番目に捕まえたゆっくりの番だ。

「やぁぁぁ!!! やめちぇぇぇ!! おがーしゃーん!!!!」
「う~♪ うまうま」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

二匹目も抵抗空しく餡子を吸われて皮だけになってしまった。
これを見た赤ちゃんゆっくりは圧倒的な力量の差に恐れおののいて固まってしまった。
それを見逃すれみりゃではない。体付きのれみりゃは燃費が悪い。だからたくさん食べないと満足できない。
れみりゃはそうして次々と赤ちゃんゆっくりを捕まえては吸い、捕まえては中身を吸い上げた。

「ゅぁぁぁ!!! ゆっきゅりできないよぉぉぉぉ!!!」
「なんでこんなことしゅるのぉぉぉ!!!」

そう言いながられみりゃの前から全てのゆっくりが逃げ出した。
れみりゃはそれを歩いて追いかける。

「うー、にげてもたべちゃうぞー!!」
「ゅー! きょないでぇぇぇ!!!」

れみりゃのよちよち歩きにすら、逃げた赤ちゃんゆっくり達は追いつかれてしまう。
手が伸びる。れみりゃの食事はまた始まったばかりだ。




れみりゃが先頭集団を襲ったことを知って後続の赤ちゃんゆっくり達は踵を返して元来た方向へと跳ねていく。
少なくとも今まで通ってきた道は安全だった。だから戻ればゆっくり出来る、と。
だが時が過ぎれば状況は変わる。
赤ちゃんゆっくりの集団を見つけて後を付けていた野犬数匹が踵を返した赤ちゃんゆっくり達と鉢合わせた。

「わふっわふっ!」

獲物から自分に飛び込んできて涎を垂らして喜びを表現する野犬たち。
見たことのない大きな生物だったが親の遺伝子によりに犬と分かる。
だが獲物として狙われていることに気づかない赤ちゃんゆっくり達は野犬に対して暢気に声をかけた。

「ゅ~? いぬさんはゆっきゅりできる??」
「もふもふしてゆっきゅりできてるよ!!」
「いっしょにゆっきゅりしようね!!」

今まで逃げていたことを忘れてお犬さんとゆっくりしようと飢えた野犬の周りに集まる赤ちゃんゆっくり達。

「わふっ!」
「ゅぎゃっ!?」

一匹の野犬が口の前にいた赤ちゃんまりさに帽子ごと噛み付いた。
それに続いて他の野犬も近くにいた赤ちゃんゆっくりへと襲い掛かる。
野犬の口は大きく、プチトマトより一回り大きい赤ちゃんゆっくりなど一口で頬張ってしまう。
口の中の赤ちゃんゆっくりは泣きながら逃げようとするが何度も噛み付かれ、物言わぬ饅頭と化して飲み込まれていく。
飢えた野犬がこんな小さな獲物一匹で満足するわけもなく、続けて二匹目、そして三匹と食べていく。
赤ちゃんゆっくり達は体中を震え上がらせ、またも踵を返して逃げ出した。

「ゅぅぅぅ!! おいぬさんゆっきゅりできないよぉぉぉ!!!」
「きょわいぃぃぃぃ!!!」
「ゅゅゅ!! こっちきちゃだめだよぉぉぉ!!!」
「なにいっちぇるの!? れみりゃがいるのぉぉ!!」
「こっちはおいぬさんがおそってきゅるのぉぉぉ!!!」
「や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

れみりゃと数匹の野犬に囲われた赤ちゃんゆっくり達は大混乱である。
一箇所に固まり、逃げようともせずただ泣き叫び、少しでも捕食者から逃げようと中央に向かって必死にオシクラ饅頭する。

「ゅぎゅぁぁぁ!!! ちゅぶしゃないでぇぇぇえ!!!」
「もっちょつめちぇぇぇえ!!」
「ちゅぶれちゃうよぉぉぉぉ!!!」
「うあぁぁぁぁ!! おがーしゃんんんん!!!!」

オシクラ饅頭の中央の赤ちゃんは周りの赤ちゃんの圧力によって潰れされて、餡子を吐いて息絶え絶えだ。
しかしそれに構う余裕のあるゆっくりはいない。
オシクラ饅頭の外周にいる赤ちゃんゆっくりかられみりゃと野犬に食べられているのだ。
"今"は安全な中央に少しでも進もうと姉妹に体を押し付ける。
もうこのままゆっくり出来ないのか。このままみんな食べられてしまうのか。
絶望的な状況だったが、一匹の野犬により希望の光が差した。


「わふわふっ」

ふと、ガツガツと赤ちゃんゆっくりを食べていた野犬がれみりゃの姿を見つけた。
この甘ったるくてべたべたする小さな生き物と違い、肉の臭いがする生き物を。
それはそれはとても美味しそうな獲物を。

「ガウッ」
「うー? う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

一匹の野犬がれみりゃに飛び掛った。
野犬はれみりゃを押し倒すとすぐさま首へと噛み付いて食いちぎった。

「あ"あ"あ"あ"あ"!!! い"だい"~!! しゃぐやぁぁぁぁ!!!」
「わふわふっ!!」

れみりゃの中身は肉まん。野犬にとって餡子なんかよりもずっといい物だ。
その香ばしい匂いに誘われて赤ちゃんゆっくりを襲っていた他の野犬もれみりゃの元に集まる。

「ううううう!! だしゅげでぇぇぇぇ!!」

数匹の野犬によって体を貪られていくれみりゃ。
じたばたともがいて逃げようとするが野犬の力には敵わない。
そうしているうちに手足を噛み千切られてしまった。

「う"あ"ー! う"あ"あ"ー!」


赤ちゃんゆっくり達は呆然とれみりゃが襲われる様を見ていたが、しばらくして我に返ったようだ。

「ゅ、ゅっくりにげりゅよ!!!」
「おいぬさんありがとね!!」
「れみりゃはゆっくりしね!!」
「こっちだよ! こっちはゆっきゅりできるよ!!!」
「れいみゅとまりしゃはにげるからね!! しょこでゆっきゅりしていっちぇね!!!」

れみりゃと数匹の野犬の脇をすり抜けて、生き残った赤ちゃんゆっくり達は飛び跳ねていく。
非常にゆっくりとしたスピードだったが、
野犬たちはれみりゃを食べて「うっめ! めっちゃうっめ!」状態だったので気に留める犬はいなかった。

こうして残り数少なくなったが、なんとか全滅を逃れることが出来た。
生き残ったゆっくり達は皆どれも髪はボサボサ、飾りも汚れてしまっている。
そして何匹かは仲間の返り血、いや返り餡子で染まっていた。
最初の頃のように暢気に喋るものは誰一人いなかった。













後編へ続く)



by ゆっくりしたい人



=あとがき=

書いてる途中に色んな死亡パターンが頭に浮かんでしまってその選別に時間がかかりました。
結果として、簡単に死にすぎないように少し頭のいい赤ちゃんゆっくりになっちゃったかも知れません。

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最終更新:2022年05月19日 15:25