「それじゃあ、まずは雨が降る原理について勉強してみようか~!」

 ざーざーと降り続ける雨に濡れたガラスを背に、近江彼方さんは笑顔を向けてくれた。
 わたしーー花丸円はテーブルを学習机の代わりにしながら、まるで授業を受けるようにきちんと姿勢を正す。
 隣には、櫻木真乃さんが見守ってくれるから、頑張らないと!

「彼方ちゃん達の周りにはね、水蒸気っていう小さな粒がいっぱいあるの! 今だって、円ちゃんや真乃ちゃんの周りには、この水蒸気がい~っぱい浮いているからね!」
「小さな粒? えっ、でも……わたしの周りには見えませんけど?」
「目には見えない程、小さいんだよ! この水蒸気はね、温まったお水が蒸発してから高く浮かぶんだ!」
「じょ、ジョーハツ……?」

 彼方さんが丁寧に説明してくれるけど、まだよくわからない。

「蒸発はね、温まったお水が溶けることだよ!」

 だけど、そんなわたしを助けてくれるように、真乃さんがほんわかと教えてくれる。

「お水は冷蔵庫で冷やすと、氷になることは知っているよね?」
「はい! 氷でジュースを冷やすとおいしいですし、かき氷だって好きです!」
「そっか! 私も、ジュースやかき氷も好きだよ! でも、氷は温めるとお水に逆戻りしちゃうでしょ。そのお水をもっと温めると、溶けてなくなっちゃって……そこから水蒸気に変わるんだ!
 暖かいお風呂から、ポカポカと湯気が出てくるよね? あれも、水蒸気の一つなんだ!」
「そうなんですか! じゃあ、水蒸気ってわたし達の周りをいつでも飛んでいるんですね!」
「大正解! すごいよ、円ちゃん!」

 わたしの頭の中で、水蒸気のイメージがどんどん浮かび上がってきた!
 溶けてなくなったお水から、妖精さんみたいに可愛い水蒸気がたくさん現れて、お空に向かって飛んでいくの。
 すると……


「あれ? さっき、彼方さんは水蒸気が高く浮かぶって教えてくれましたけど……それじゃあ、水蒸気ってお空にまで飛べるのですか!?」
「その通り~! 円ちゃんは鋭いね~! 暖かい空気に乗ってふわふわ浮かびながら、いっぱい集まった水蒸気が雲に変わるんだよ!」
「へぇ~! ということは、水蒸気が集まってできた雲が白いから、あったかい湯気や寒い日の息も白いんですね!」
「ピンポンピンポーン! 円ちゃん、100点満点だよ~!
 雲の中には集まったお水や氷の粒が、お日様の光に反射するから、彼方ちゃん達の目には白く見えるんだよ!」

 両腕で大きな丸を作りながら、彼方さんは満点の笑顔を見せてくれた。
 当然、隣にいる真乃さんも「円ちゃん、おめでとう!」って褒めてくれる。
 二人の優しい笑顔に、わたしも胸がポカポカと晴れていった。雲や雨についてちょっと詳しくなることができるなんて……
 いや~! 本当に足が長いよ!


 ーーーー『足が長い』じゃなくて『鼻が高い』だよ!


 だけど、その途端にわたしの中でまた「?」が浮かび上がる。

「ん? でも、雨雲ってどんよりしていますよね? 晴れの天気の雲は白いのに、どうして今は黒いのですか?」
「いいところに気が付くね、円ちゃん! さて、それでは問題です……どうして雨雲は真っ黒なのでしょうか?」
「えぇっ!? 彼方さんのクイズですか!?」
「ヒントは、彼方ちゃん達をいつでも見守ってくれるお日様だよ~! さあ、解けるかな?」

 うぅ……雲の色が違う理由って、何だろう?
 真乃さんは「頑張れ!」と応援してくれるけど、わたしは全然わからない!
 ヒカルくんなら、すぐに答えられそうだけど……答えが見つからなくて、今度はわたしの頭の中が暗くなっちゃう。

「う、う~ん……どんよりした雲と、お日様……? う~ん……う~ん……もしかして、お日様の光が届いていなかったから……でしょうか?」
「あったり~! 円ちゃん、大大大正解~! そう、雨雲の中には雨粒がたくさん入っている分だけ分厚いから、お日様の光が届かない所があるの! だから、彼方ちゃん達から見える雨雲は、とっても暗く見えちゃうの!」
「じゃあ、真上からだったら、白い雨雲も見られるのですね!」

 その瞬間、わたしのモヤモヤが真っ白に晴れていった。
 わたし達がいつも見上げている雲でも、知らない一面がある。でも、その知らないことの謎を解き明かせた時の喜びを、わたしは科目男子達から教わった。
 この喜びを終わらせないためにも、わたしは……わたし達は生きていたい。前にカンジくんが消えそうになったことがあったけど、わたしが気持ちを伝えたおかげで、また一緒に暮らせるようになった。
 だから、今は一つでも多くの知識を身に付ければ、みんなが助かるための方法をいつか見つけられるかもしれない。

「……なんや。こんな状況でみんなで仲良くお勉強かいな? ずいぶんとのんきな嬢ちゃん達やな」

 あれ?
 いきなり男の人の声が聞こえてくる。
 振り向くと、いつの間にか真っ黒いスーツとサングラスを身に付けた男の人が立っていた。背丈はとても高くて、ライオンのように鋭い目つきもあるせいで、迫力が凄い。
 ケイはもちろん、前に縁日で出会った屋台のおじさん以上に雰囲気が重く、わたしの身体が固まっちゃう。

「どなたですか?」

 震えているわたしを守るように、真乃さんは前に出た。
 後ろからは、わたしの両肩が彼方さんの手に優しく包まれていく。顔を上げると、彼方さんの顔は真剣になっていた。

「あー……すまんな。別に嬢ちゃん達を取って食おうなんて考えてはおらへん。単に話し声が聞こえたから、寄ってみただけや。でも、どうやらあの帆高って坊主もおらんみたいやな」

 男の人は、どこかそっけない態度だったけど、わたし達を殺しに来たわけじゃないみたい。
 わたしはホッとする。やっぱり、人は姿だけじゃないね……


 ーーーー『人は見かけによらない』だね! 外見からは想像できない意外な所があるってことだよ!




 ◆


 現れた男の人はニコラス・D・ウルフウッドという名前で、外国人さんみたい!
 でも、日本語(しかも関西弁)が物凄くペラペラなんだけど……

「あぁ、ニホン? どこやねんそこは?」

 なんと、ウルフウッドさんは日本を知らないと言っている!
 てっきり、関西人なりのジョークかと思ったけど、ウルフウッドさんは嘘を言っているつもりはなさそう。

「どこって……ここが日本だと思いますよ?」

 だから、真乃さんはウルフウッドさんに伝えてくれる。
 でも、ウルフウッドさんは心の底から驚いたように、両目を大きく開いた。

「ホンマかいな!? こんな水だらけの街なんて、生まれて初めて見たわ~!」
「えっと……ウルフウッドさんは乾燥した地域の人でしょうか?」
「何を言うとるんや? ノーマンズランドに大量の水で溢れた街があること自体、驚きやろ!?」
「の、ノーマンズ……ランド……?」

 ウルフウッドさんの口から出てきた言葉に、真乃さんは首を傾げてしまう。
 当然、わたしと彼方さんも首を傾げた。ウルフウッドさんとの話はまるで噛み合わないし、そもそも常識自体が違っていそうだった。
 まるで、わたしの脳内妄想世界みたいに、別の世界からやってきたような……

「ここは、お互いにじっくり話しましょうか」

 そんな中、こじれそうになる話をまとめるように、彼方さんが提案してくれる。

「彼方ちゃん達は今、大変な目に遭っていますよね? 彼方ちゃんだけじゃなく、彼方ちゃんや真乃ちゃんのお友達も。
 あと、あのおばあさんや彼方ちゃん達が見せられた映画のことも、物凄く気になりますし……時間をかけないと、わかりそうにありません」
「まぁ、そりゃそうやろうな……ワイだって、何でこないなことになったか、ようわからへん」
「だからこそ、今はみんなで話し合いましょう! 彼方ちゃん達が住む日本も、ウルフウッドさんの言っていたノーマンズランドのことだって、いっぱい教え合えばいいですし!」

 彼方さんは鮮やかなウインクを決めてくれた。
 なるほど! これはつまり、レキくんが得意とする社会の勉強だね!
 世界地図はとても大きいし、調べれば調べるほど国の名前だって覚えられる。だから、ウルフウッドさんのいたノーマンズランドって国のこともわかるかもしれない。

「……しゃーないな。子守はワイに似合わんけど、やっぱりこうなるみたいや……ま、よろしゅう頼むで、嬢ちゃん達」
「よろしくお願いします! ウルフウッドさん!」
「おう! ……って、そういや、円嬢ちゃんやったか? この、『まどか先輩』っちゅうのは……嬢ちゃんと関係あるんかいな?」
「はっ!?」

 ウルフウッドさんの疑問に、わたしの胸がドキンとする。
 そうだ。さっき、おばあさんから届けられた名簿の中には『まどか先輩』という不思議な名前もあった! 隣の『鹿目まどか』も気になったけど、それ以上に『まどか先輩』が余計に気になっちゃうよ!?
 でも、何のことなのかわたしにはさっぱりわからない……

「ぜ、全然知らないです!? 他人のソラマメ二でもなさそうですし……」
「嬢ちゃん、それを言うなら『他人の空似』や」


【D-6 レストラン/1日目/深夜】


【花丸円@時間割男子】
[状態]:健康、不安(中)
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:誰も傷付けることのないよう、勉強をしたい
1:まずは真乃さんや彼方さん、そしてウルフウッドさんと一緒にいる。
2:『まどか先輩』って……?
※参戦時期は原作3巻以降です。

【櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:プロデューサーさんの、そしてみんなの期待に応えられるアイドルでいたい
1:まずは円ちゃんや彼方さん、そしてウルフウッドさんと一緒にいる。
※W.I.N.G優勝、ファン感謝祭のMVP経験があります。

【近江彼方@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:円ちゃんの優しさを届けられるように頑張る
1:まずは円ちゃんや真乃ちゃん、そしてウルフウッドさんと一緒にいる。
※少なくとも、スクールアイドル同好会のメンバーが全員揃ってからの参戦時期です。

【ニコラス・D・ウルフウッド@TRIGUN MAXIMAM】
[状態]:健康(ロワ以前のケガ・後遺症は完治状態)、軽いイライラ
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品0~3(銃火器と煙草はなし)
[思考]
基本思考:とりあえず黒幕っぽいババアをボコりにいく。
0:とりあえず今は嬢ちゃん達と話をする。
1:今は一応帆高を探していく方針で。ババアの敷いたルールは無視
2:自分からは極力揉め事は起こさない。ただし売られた喧嘩は買う。
3:とにかく銃が欲しい。できればタバコも
4:…そもそもワイは死んだんじゃなかったのか?
[備考]
※死亡後からの参戦です

45:迷宮の入り口 投下順 47:ふたつの雨
時系列順
前話 名前 次話
12:誰かのための勉強 花丸円
櫻木真乃
近江彼方
39:return:wolfwood ニコラス・D・ウルフウッド
最終更新:2021年08月18日 14:54