名も知らぬ男が去ってから、狛治はあてもなく歩き続けていた。
親父が自ら命を絶ってしまい、慶蔵に恩義を返すことができず、愛する恋雪さんを守ることができなかった。こんな世の中と、恋雪達を殺した連中に向けた復讐の為に拳を振るったが……その後には何も残されていない。
あの老婆は帆高という少年を殺せと口にしたが、そんな気にもなれない。だから、男の誘いだって断った。
――――こんな、道理をこえたことも可能じゃ。どうしても願いを叶えたい者は是非とも参加してもらいたいのう
老婆の言葉が脳裏に過る。
先程、老婆によって首輪を爆発させられ、すぐさま命を取り戻した女の姿が目に飛び込んだ。道理をこえたことが可能なら、失った者達を取り戻すこともできるだろう。
だが、再び罪人として生きる気にもなれない。それでは、何のために慶蔵が腕を振るったのかわからないし、恋雪だって悲しむに決まっている。
何よりも、帆高自身の願いを奪うことに、どうしても抵抗があった。彼もまた、愛する者を守るため、世の中に戦いを挑んだ男なのだから。
巨大な壁の向こう側で繰り広げられる帆高達の人生を見せつけられている間、この心はずっと疼いていた。
奇妙な建物や服装、辺り一面を走る鉄の乗り物など、摩訶不思議で現実離れした文化だった。けれど、帆高の愛する陽菜という女が世の中から見捨てられ、都合のいい生贄にされてしまったことは理解できる。
先の男のように、あの帆高を愚かと笑う人間は現れるだろう。だが、狛治は帆高を否定することができない。
(あいつは……帆高は、俺と同じだ。でも、俺とは違って……まだ愛する者を守ることができる)
もしも、帆高と同じ状況になれば、狛治は何があろうとも愛する者を選ぶはずだ。
大雨が降り続ける闇の中で、今も帆高はどこかで走っていると確信できる。全ては、愛する者を守るため……その為なら、どんな犠牲すらも構いはしない。
恋雪が囚われてしまえば、狛治もわき目も振らずに駆けるだろう。そんな可能性すら潰されてしまったことが、悔しくて仕方がない。
「……ねえ、ちょっといい?」
その時だった。
不意に、誰かから声をかけられたのは。
「甜花ちゃん……甘奈と、よく似た顔の女の子を見なかった? 甘奈の、双子のお姉ちゃんなの」
振り向くと、長髪の少女が立っていた。
雨の中で傘も差さないせいで、腰にまで届く茶色の髪や見慣れぬ奇妙な衣服も濡れてしまっている。
だが、何よりも気がかりだったのは……目つきの暗さと両手に纏わりついた奇妙な色の液体だった。
「いいや、見ていない……女だって、お前が初めてだ」
「そっか……じゃあ、あの映画に出てきた帆高って人は?」
「そいつも知らない」
「そう……」
互いに、淡々とした受け答えしかできない。
恋雪と同い年に見える少女だが、それにしては暗い。容姿自体は整っていても、瞳の奥底にどす黒い暗闇が宿っているように見える。
言葉では言い表せない程の虚無感を味わった狛治だからこそ、少女の心が荒んでいることを察してしまう。
「なら、いいよ。甘奈はもう行くからね」
そして、少女は背を向けて去っていこうとする。
先程の別れを焼き増ししたようだが、今度は違う。少女……甘奈の名前を知ったし、このまま放置することに違和感を抱いた。
「待て、甘奈……といったか?」
だから、狛治は名前を口にすると、甘奈は足を止める。
「何? 甘奈は急いでいるんだけど」
「これを持っていけ」
狛治は甘奈の足元に、大きな袋を放り投げた。
変わった作りの袋と思うものの、甘奈にとって役立つ物があるかもしれない。中身を確かめてみたものの、狛治にとっては興味が惹かれなかった為、甘奈に譲ることにした。
当然、甘奈は怪訝な表情を浮かべる。
「何のつもり?」
「俺には必要ない。お前が何を考えているのかは知らないが、役立つものがあるかもしれない……お前にも、守りたい人間がいるのだろう?」
狛治は甘奈のことを何一つとして知らない。だけど、帆高が陽菜を想うように、実の姉を思いやっていることは確かだった。
そんな彼女の邪魔などできる訳がない。だからといって、甘奈と同行する気もないし、何よりも彼女自身にそのつもりがなさそうだった。
「……ありがとう」
「甜花、という女を見つけたら、お前のことを伝えておこう」
「いいよ、そんなことをしなくて」
そうして、狛治の袋を抱えると、甘奈は去っていく。
彼女の言葉が気になったものの、その背中はすぐに見えなくなった。急いでいるようだから、わざわざ呼び止めるのも野暮だろう。
何よりも、甘奈が見えなくなってから少し経った途端に、狛治の視界が唐突に揺れてしまう。膝も崩れてしまい、水たまりの中に倒れていった。
(このまま、死ねば……全てが終わるのか……?)
ここから起き上がる気力もない。
元々、精神的疲労が溜まっている中で、冷たい雨に当たり続けていた。いかに強靭な肉体を誇る狛治であっても、ただの人間である以上は限界が訪れてしまう。
むしろ、終わってしまった方が、救われるのではないかとすら思った。どうして、甘奈に袋を渡してしまったのだろう、と疑問に思ったが……気まぐれで誰かに施すのも、悪くないかもしれない。
(恋雪……さん……)
守れなかった最愛の人の笑顔を思い浮かべた瞬間、狛治の意識は闇の中に沈んでいった。
◆
「あ、あうう……人が、倒れてる!?」
そんな男を見つけた少女が一人。
大崎甘奈を探し求めて走り続けている中、倒れた男を見つけたのは大崎甜花だった。
この殺し合いには甘奈だけでなく、同じアルストロメリアの桑山千雪も巻き込まれている。しかも、イルミネーションスターズの櫻木真乃や放課後クライマックスガールズの小宮果穂の名前も名簿に書かれていた。
283プロのアイドルが5人も危険に陥っていることがショックで、一刻も早く探さないといけなかったけど……行き倒れになっている男の人を放置することもできない。
けれど、甜花の力だけでは男の体を持ち上げられなかった。
「ど、どうしよう……!?」
「すみませーん!? どうかしましたかー!?」
困惑する甜花の助け舟となるように、大声が聞こえてくる。
すると、一組の男女が甜花の元に駆けつけてきてくれた。
「ひ、ひいん! だ、誰……!?」
「あっ! 驚かせて、ごめんなさい! あたし、桃園ラブって言います! この人は、多仲忍者さんです!」
「多仲忍者っス。どうも……」
甜花が驚愕する一方、現れた男女……桃園ラブと多仲忍者は頭を下げてくれる。
どうやら、悪い人達ではなさそうで、甜花は胸を撫で下ろした。
「え、えっと……男の人が、倒れてるの! 甜花、だけじゃ……助けられそうになくて……」
「甜花、さん……スか? ここはオレに任せてください。オレ、体力には自信あるっスから」
すると、忍者は倒れた男を軽々と持ち上げる。
男の体格など意にも介さず、まるでバッグのように抱えていた。
「す、すごい……!」
「まずは、この人をどこかに休ませた方がいいっスね。道着が血まみれなのが気になるっスけど……」
甜花が驚嘆する中で、忍者は怪訝な表情を浮かべている。
忍者が言うように、男が身に纏う道着は大量の血で染まっていた。普通の武道家であれば、道着が血まみれになるのはありえない。
「……ここは、男同士としてオレに任せて貰えないっスか? 仮に悪人でも、二人には手を出させないっスから」
「わかりました……忍者さん、よろしくお願いします」
「う、うん……」
忍者の提案に、ラブと甜花は頷く。
そして、気を失った男を抱える忍者を先頭に、ラブと甜花はすぐ近くの建物で雨宿りをすることになった。
甜花としては283プロのアイドルみんなが心配だけど、忍者とラブの二人に男を押し付けることも無責任だ。
男の姿に警戒したけど、道着が血で濡れていることだって、何か理由があるはず。
(なーちゃん、千雪さん……それに櫻木さんに果穂ちゃんも、気を付けて! みんなが、こんなことで……傷付くなんて、甜花は絶対に嫌だから……!)
ただ、283プロのみんなの無事を祈るしかできない。
こんなことしかできない自分の無力さが嫌になるけど、嘆いてもどうにもならない。なーちゃんと帆高の居場所がわからない以上、せめて今は目の前にいる人達の支えになりたかった。
【C-2/1日目/深夜】
【狛治@鬼滅の刃】
[状態]精神的疲労(大)、帆高に対して...?、気絶中
[装備]なし
[道具]なし
[行動方針]
基本方針:どうすればいいかわからない。
1:......
※参戦時期は道場を襲撃後から無惨と出会う前
【多仲忍者@忍者と極道】
[状態]:健康、狛治を抱えている。
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、プリストロベリーの鬼激レアフィギュア@忍者と極道、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:あのクソババアの思い通りにはさせない。
1:まずはラブちゃんや甜花さん、それに帆高を守り、そして二人を襲う奴らをブッ殺す。
2:男(狛治)が目覚めたら話をする。ラブちゃんや甜花さんを傷付けるなら容赦しない。
※少なくとも、愛多間七をプリオタにした後からの参戦です。
【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:みんなを守れる方法を見つけたい。
1:まずは忍者さんや甜花さん、男の人(狛治)と話をする。
※最終回後からの参戦です。
※キュアブラック、キュアホワイトについて知っているかどうかは不明です。
【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、恐怖(大)
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:????????
1:今は男の人(狛治)を看病して、その後になーちゃん達を探したい。
2:帆高と陽菜の二人には……再会してほしいけど……
※少なくとも『W.I.N.G.』の優勝経験があります。
◆
(甜花ちゃん……千雪さん……!)
すれ違い続けていることに気付かないまま、大崎甘奈は雨の中を走っていた。
先程、どこからともなく降ってきた名簿には、甜花と甘奈だけでなく、千雪さんの名前も書かれていた。しかも、真乃や果穂の名前までも載っていて、283プロのアイドルが5人も参加させられていることになる。
彼女達の名前を目にした瞬間、尚更あの森嶋帆高を殺さないといけなくなった。一秒でも惜しんでいたら、彼女達が殺されてしまうかもしれない。
(こんなに……90人近くもいるんだったら、その分だけ悪い人がいっぱい混ざっているかもしれないよ……!)
名簿を配られていてから、甘奈の不安は徐々に膨らんでいた。
これだけいたら、悪人が混ざっていてもおかしくない。名簿の中には『ライフル銃の男』や『ユカポンのファンの吸血鬼』みたいな怪しい名前も書かれていたことも、不安を煽ってしまう。
『吸血鬼』はまだしも『ライフル銃の男』なんて、明らかに危険だった。誰のことかわからないけど、ライフル銃を持った男など信用できる訳がない。銃猟に関わっている人ならまだしも、犯罪者の可能性の方がずっと高かった。
(早く、森嶋帆高を見つけて、甘奈の手で殺さないと……甜花ちゃんや千雪さん達が殺されちゃう! そんなの……そんなの、甘奈は嫌だよ……!)
みんなを助けるには、一刻も早く帆高を殺すしかなかった。
もちろん、その途中で二人を狙う悪い人達も見逃すわけにはいかないけど、甘奈一人だけで全員を倒すことなどできない。だから、さっきの道着を纏った男の人だって、特に何もしてこなかったから見逃した。
むしろ、逆にデイバッグをくれたことが怪しかったけど……便利な支給品は多いに越したことはない。
「甜花ちゃん、千雪さん……283プロのみんな……甘奈がすぐにみんなを助けてあげるから、待っていてね。あの森嶋帆高を殺すことができれば、みんなはすぐに助かるから……」
まるで譫言のように、大切な人達の名前を呼びながら甘奈は走る。
既に名前も知らぬ男を殺した以上、これから何人を殺そうとも変わらない。どんな願いでも叶えられるなら、甜花ちゃんや千雪さん達を助けた後、甘奈の代わりになるアイドルを見つけて貰えばいいだけ。
ルールの裏に潜む罠に気付かないまま、ただみんなが輝ける未来だけを信じて。
【C-3/1日目/深夜】
【大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:金属バット、剣or刀系の武器(詳細不明)@?????
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0~4(狛治の分も含む)
[思考・状況]
基本方針:甜花ちゃん達を守るため、森嶋帆高を殺す。
1:もう、アルストロメリアではいられないや……
2:甜花ちゃん達のことも見つけないと……
3:甜花ちゃんや千雪さん達のためにも、早く森嶋帆高を殺そう……
最終更新:2021年08月18日 14:59