「え~と、この端末?で名簿が見れるのね……」
放送が流れ、織子は端末を手に取るがーーーーー

「う~ん。やっぱり駄目だわ。私、機械の操作は苦手なんだよね……」
幼稚園生でもスマホを持つこの時代。現代っ子には珍しく、織子は携帯電話やパソコンをろくに扱えない……
しかたがないので、もう一つの方法の紙を雨にかざす。
「わっ!?本当に名前が浮かんできたわ!」

紙に自分と同じ参加者の名前が浮かび、即席の名簿となった。

「どうやら、私の知り合いは一人もいないようね…」
名簿の名前に織子が知っている人物は一人も見当たらなかった。

「ううん。大丈夫!むしろ私の知り合いが巻き込まれていたら大変だったわ!」
織子は知り合いが巻き込まれていないことにホッとする。

「まずは、誰かに出会えないかしら……!?あれは」
視線の先に見えるのは、普通の大人よりも大きな体格の男性が歩いてきた。

「う~む。とりあえず、雨宿りでもするかねぇ」
(端末を見たところ、どうやら私の妻や角界の関係者はいないようだ…それでいい。彼らとはこんな場所ではなく、土俵上でやるべきだからね……)
織子とは反対に端末で名簿を確認した刃皇は妻及び関取がいないことにホッとする。

「……」
(だが、今の角界に私を負かす力士はいるのか…?正直、今の大相撲の力士の皆は弱すぎる……このままでは愛する相撲が可哀想だから今場所を優勝をしたら次の9月場所で引退することを考えていたが……)

刃皇ほど大相撲を愛している横綱はいないだろう……今の日本の角界に失望を覚え始めている刃皇は引退をするか迷っていた……その最中のこの異常事態。刃皇は悩む。

(まずは、帆高少年と出会うことが優先かな……それと、一度荷物を確認するも込めて雨宿りでもしようかねぇ……)
刃皇は周囲に手ごろな休憩場所がないか歩きながら探すーーーーー

「ん?あの少女は?」
視線の先に見えるのは、着物姿の少女ーーーーー

「あの、私、関織子と言います。もし、よければ私と一緒に帆高さんをさがしませんか?」
自分と同じ考えの小学生だった。
「……外で立話もなんだ。そこの喫茶店で話を聞こうじゃないか」
2人は喫茶店に入店するーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

喫茶店のテーブル席に見合うように座ると自己紹介も兼ねて会話を重ねた。

「それで、私は帆高さんと陽菜さんを出会わせてあげたいと思っています!よければ、刃皇さんも私と一緒に行動しませんか?」
関織子の切実な思い。しかし、刃皇の返事はーーーーー

「そうか。君も帆高少年の愛に想うところがあるのだね?だが安心しなさい。私が帆高少年の愛を確かめ、このバトルロワイアルを終わらせよう。君はここに隠れていなさい」
刃皇の答えは私(関織子)は、このバトルロワイアル中、隠れていることだったーーーーー

「そ…そうではなくて、私もいっしょーーー!?」
刃皇の予想外の提案に織子は慌てて拒否をするがーーーーー
織子の言葉を制止させる刃皇の手ーーーーー

「悪いが、君はこのバトルロワイアルでは無力な小学生だ」
それは、紛れもない事実。

「君も見ただろう?神子柴なる老婆に跳びかかった女性の首が飛び、死んだだけでなく蘇らせるという驚くべき所業に陽菜少女を贄として求める神の存在」
「……」

「それに、名簿を見ると、ライフル銃の男という如何にも危険そうな人物の名前に白面の者やユカポンのファンの吸血鬼など普通ではない名もいくつか記載されている。幸い、このバトルロワイアルは最後の一人になるまで殺し合うわけではない。つまり、君のような【無力】な子供は隠れていれば安全というわけだ」

刃皇の提案は有る意味間違ってはいない。
バトルロワイアルの一般的なルールは【最後の一人になるまで殺し合う】ことだ。
しかし、このバトルロワイアルは違う。
最悪、制限時間の二日間を生き残れば終わる。
普通なら、制限時間までに優勝者が決まらなければ残り全員の首輪が爆破されるバトルロワイアルが普通の中、無力な弱き者が生き残る可能性が高い温情溢れるバトルロワイアル。

つまり、関織子のような戦う力がない小学生女児は隠れているが最適ーーーーー

                    刃 皇 会 議

「可哀想だなぁ…帆高少年を救いたいと思う気持ちを押し殺させるなんて…」
「馬鹿野郎!明らかにただの小学生にこのバトルロワイアルは荷が重すぎる!庇いながらの戦うなんて無謀の極み」
「まぁ、自分から行動に移そうとする姿勢は評価したいね」
会議に参加している刃皇達は織子について話す。会議は踊るーーーーー

「では、関織子君には、隠れて過ごすを通告でよろしいか?」
「「「「「異議なし」」」」」

刃皇は織子との会話の中、脳内の刃皇会議で結論が導き出されていたーーーー


「……わかったかね?」
それは有無を言わせぬ空気。
「……横綱は、相撲と帆高君…どちらをより愛していますか?」
織子は生来、物怖じをしない性格。
「!?」
ピクッ!織子の質問に刃皇の顔つきがーーーーー

「なるほど、責めた質問をするねぇ……」
若おかみを見つめる横綱の空気が変わるーーーーー

「【愛】で私に取り組みを挑むというのかい?」

「……正直、私はまだ恋愛もしたことがありません。【愛】を知らない小学生かもしれません。でも、帆高さんと陽菜さんを出会わせたいという思いはこの会場にいる参加者の誰にも負けないと思っています」
織子は大横綱刃皇を真っ正面に見つめる。

「いいだろう。君の【愛】を見せてみろ」
それは、横綱からの挑戦状。

「わかりました……私の思いをみせます!」

東横綱     西若おかみ
刃皇   -  関織子

前代未聞、横綱と若おかみの取り組みが始まったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

織子は黒豆と牛乳をフードプロセッサーでピューレにする。
次に卵を取り出すと黄身と白身を分ける。
黄身をかき混ぜ、それを混ぜる。

(黄身に黒豆のピューレを……?)

混ぜたのをプリン型に入れる。
さらに、織子はカラメルソースを作る。

(なるほど、プリンを調理するつもりなのか……面白いが黒豆のピューレを入れたためにプリンの持つ見た目を殺してしまうぞーーーーー?)

刃皇は織子の調理手順を観察し、織子がプリンを調理していることに気づく。

(たとえ、イチゴやクリームをトッピングしても、黒豆のピューレに色付けされた無骨さは隠せない。……やはり、小学生か……)

織子のプリンの調理を見て、瞬時に刃皇はその欠点を見出す。
それと同時に失望を見せるーーーーー

(あかねさんの為に作った露天風呂プリン……)
織子が今、調理している露天風呂プリンはかつて、春の屋に泊まりにきたあかねによるケーキが食べたいというリクエストがきっかけだった。時間が時間の為に温泉街のケーキ屋は閉まっていたが、スナックフレンズのママの顔から着想したプリン。
それを食したあかねは母を亡くした悲しみを浄化させた。

(今度は、それで横綱さんに勝って帆高さんを手助けしたい)

露天風呂プリンに織子…若おかみの心が込められるーーーーー

(栗の甘露煮を周りに置いて、カラメルソースをかける…?)
(そうかッ!?栗の甘露煮が岩となりカラメルソースが温泉の湯と見立てるのかッ!?)

「できました!私の露天風呂プリン。食してください!!」

トンと刃皇の前に【露天風呂プリン】が置かれた。

「……いただこう」
刃皇はプリンを口に運ぶーーーーー

(ッ!?美味い!!)
露天風呂プリンの美味しさに顔を見張る刃皇。

「これも、どうぞ」
「これはッ!?」

刃皇に追加で出されたのは�垢茶(ナイチャー)

「…君。どうして�垢茶を?」
刃皇は出された�垢茶を眺め、織子に尋ねる。

「えっと、横綱…刃皇さんはモンゴル出身と自己紹介で聞きました。露天風呂プリンはデザート…甘味です。だから、塩味がする�垢茶が必要なんじゃないかと思ってだしました」

(たしかに、自己紹介で私はモンゴル出身だと話した。が、それで食事として�垢茶をだすとはッ!!これが、若おかみとしてお客様を笑顔にするおもてなしというわけか!!)

刃皇は露天風呂プリンに�垢茶を添えてだした織子の心を強く感じた!!

(そして、この【露天風呂プリン】は想像以上の美味さ…だが」

「では、次は私の番だね…」

そういうと刃皇はおもむろに立ち上がると、厨房に向かう。

そして、刃皇は厨房の塩をガッと握ると厨房に塩をまくーーーーー

塩には、ものを清める効果があると古来より信じられてきた。
力士が塩をまくのは土俵(戦う場所)を清めるという行為。
小学生女児との料理勝負とはいえ、力士にとって勝負は勝負。
刃皇は織子に敬意を表すために、調理場(戦う場所)を清めた。
全力で相手をするためにーーーーー

刃皇が取り出したのは鶏肉。
(鶏肉……やっぱりお相撲さんだから肉料理かしら?)
材料から織子は刃皇の料理を予想する。

(私の露天風呂プリンはデザート。だけど、肉料理にも負けない【心】を込めたわ!)
織子は自分の心を込めた料理に自信を持つ。

タンッ!包丁で鶏肉を適当な大きさの角に切ると、醤油、酒、ネギににんにくで下味をつける。

(え?鶏肉を均等に切らないの?火の通りが均等にならないんじゃ……)
火の通りを均等に通すために同じ大きさに材料を切るのは料理の基本。しかし、刃皇はその基本ではない調理を始める。

(…あんまり、料理はしないのかな?…でも、これならイケるわ!)
刃皇の調理する様子に織子は自身の勝利を確信する。……が。

「一生懸命、帆高君を手助けするために私を納得させようと頑張ったんだねぇ…」

「可哀想に…」

刃皇ーーーーー憐憫の相ーーーーー

ゾクッ!刃皇の変容に織子は戦慄するーーーーー

「関織子君」
「は、はい」

突然の呼び声に織子は若干気後れしながらも返事をする。

「聞かせてくれ。君はなんで若おかみをしているのかい?」

刃皇裁判ーーーーー開廷ーーーーー

「無駄な時間だ!さっさと決めちまえばいいだろ!」
「ここまでする価値がこの小学生にあるのかねぇ」

「静粛に!私たちが揉めてどうする。私はもっと彼女の事が知りたいんだ」

「義務教育を受けている年齢であるにもかかわらず、学校生活が終われば、旅館の若おかみとして働くという【児童労働】」
「料理を作る真剣な眼差しに気遣いはお客様をもてなそうとする若おかみとしての経験」
「殺し合いという場においても恐れず見知らぬ参加者に話しかけ、協力を申し出る物おじせぬ性格に君が帆高少年を陽菜少女に出会わせてあげたいという決めたことを一生懸命取り組む姿はいかに君が他者の笑顔のために険しい道を歩いてきたかがわかる」

「フン。苦労すれば偉いという訳でもあるまい!」
「まぁね」
「ただそこに苦労を厭わない若おかみへの情熱を感じるよねー」

「ただの小学生が帆高さんを陽菜さんに出会わせようとすることが悪いんですか!?」

刃皇たちの言葉を黙って聞いていた織子だが、感情を爆発させて答えるーーーーー

「横綱さんだって、相撲では強いのかもしれないけど、ライフル銃を持つ人やお婆さんに立ち向かった女性のような刃物を扱う人に相撲で勝てると思うのッ!?」
刃皇たちの言葉に反論する織子。

「…おい。それじゃあ、まるで俺が力士ではない奴には勝てねぇという意味か?」
「なめられたもんだねぇ…」
「やはり、若おかみとはいえ、小学生女児か…」

「なるほど、ここ(バトルロワイアル)では、私も君と同じ無力な大人といいたいわけか…」
「でも、もう君は気づいているんだろう?私は人を謳歌した上で神へとなろうとしている男だということを?」

「それに、小学生の君に必要なのは勉学とクラスメイトとの青春ではないかね?」
「!?でも、私が若おかみとしてやっていかないと、おばあちゃんが!「春の屋」が!」

織子が春の屋の若おかみとして旅館の仕事をしだしたのは、春の屋で出会った幽霊ウリ坊からの申し出もあるが、大女将である織子の祖母「関峰子」の後を継ぐ人がいないと、旅館「春の屋」がなくなってしまうからだ。

「「「「「馬鹿者!!」」」」」
「!?」

「君はわかっているではないか!自分が若おかみとして働く【愛】が!」
「ここで君が死んだり、帆高少年を守るために手を汚せば、君の祖母や旅館で働く人。そして、何より君がおもてなしするお客様はどうする!?」

裁判室が静寂に包まれる。

ペチン……

「でも、それじゃあ、私はどうすればいいの?帆高さんが陽菜さんと出会うのを隠れてただバトルロワイアルが終わるのを待ち続けていればいいの!?」
刃皇の頬を叩き、涙を流す若おかみ。

「……んな事…俺が知るかぁ!!」

刃皇張り上げる大声。

「単純に考えるなら!お前は隠れていればいいだけの話だ!!それでも、お前は帆高と陽菜を会わせたいんだろ!?だったら、お前は俺に勝てばいいだけの話だぁ!」
「!?」

「このバトルロワイアルでいつ死ぬかもしれない中、君は私に勝負を挑んできた。だったら隠れるも私に勝つよりも今、「喜び」を謳歌することだろう…!」

「前を見ろ!相手は全力士の頂点大横綱刃皇!」

「これが「幸せ」とせず何が「若おかみ」だ」

「さぁ、完成だ。私の横綱唐揚げ。食してもらおうか」

トン…被告席に座る織子に差し出された刃皇の料理。
織子は横綱唐揚げを実食するーーーーー

モグモグ……
「……」

「!?」
(こ、これは……美味しいわ!!とっても!!!)

外はカリッとサクサク、中は噛めば噛むほど鶏肉のジューシーな弾力に汁が織子の口内を包み込む。

恍惚のように顔をほころばせながら横綱唐揚げを口に運ぶ織子に刃皇は口元を微笑みながら話しかける。

「ふふふ…うちの部屋に唐揚げに拘る力士がいてね…彼が言うには唐揚げの奥義があるそうだ」
「お…奥義!?」

「それは…二度揚げ!!」
「二度揚げ!?」

「一度揚げた唐揚げも美味い。しかし、あえてもう一度揚げることで、サクッとした外にジューシーな中に力が加わり大関から横綱へと番付が上がる」

「君の露天風呂プリンは見事だった。しかし、【力】というパンチが私には足りなかった」

織子の【心】が込められた料理は刃皇を張った。しかし、刃皇の料理はそんな織子をいとも簡単に投げ飛ばす圧倒的な【力】
相撲は【心・技・体】が求められる競技。

箸を置くと織子は答えるーーーーー

「……私の負けです」

勝者ーーーーー刃皇ーーーーー
決まりて 横綱唐揚げ(寄り切り)

(負けちゃった……やっぱり、私は無力な小学生だったのーーーーー?)

負けた以上、織子はこのバトルロワイアルにどうするべきか悩む中ーーーーー

「……正直、君をただの無力な小学生の女の子と侮っていた。でも、君もしっかりと【愛】を持つ強者だったんだね」
裁判長席を立つと刃皇は織子に近づき……手を差し出すーーーーー

「……え?」

「共に帆高少年を導こうではないか…若おかみ」
刃皇は取り組みから一人の強者と関織子を認めた。

判決ーーーーー情状酌量の余地有り
同行による保護観察処分で釈放

刃皇裁判ーーーーー閉廷ーーーーー

「はい!よろしくお願いします!刃皇さん」
織子は差し出された刃皇の手を握る。

余談になるが、刃皇には時折垣間見える暴力的な一面を持ち、「相撲をやっていなかったらどうなっていたかわからない」と評される。

まだ底見せぬ刃皇という大横綱を若おかみはこのまま取り組み続けることができるのか?
それは、相撲の神にもまだわからないーーーーー

【D-7/1日目/深夜】

【関織子@若おかみは小学生(映画)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:帆高さんと陽菜さんを出会わせてあげたい
1:まずは、帆高さんと出会う。
2:刃皇さんと行動を共にして学ぶ。
[備考]
参戦時期は木瀬一家との出来事で両親の死を乗り越えた後、春、梅の香神社の神楽の日より前です。


【刃皇 晃(ダワーニャウィン・ツェウェグニャム)@火ノ丸相撲】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:帆高が愛を貫くならばそれを支え導く。
1:打倒主催者
2:若おかみを支え導く
※参戦時期は44回優勝時に引退宣言を行う前

49:かつて神だった野獣へ( 投下順 51:見つけたい、だけど……
時系列順
前話 名前 次話
03:恋を応援!若おかみ! 関織子
01:プロローグ(仮) 刃皇 晃(ダワーニャウィン・ツェウェグニャム)
最終更新:2021年08月18日 16:00