「堂島……瀬里? 死んだはずやろ……」

行為を終えて、公衆トイレから出て来たチュア・ラストルグエヴァの目に止まった一枚の紙きれ。
何かと思えばあの老婆の声が響き渡り、これが名簿だと理解する。だが、そこに記されている内容は到底信じがたいものだった。

堂島瀬里。
かつて囚人仲間達と逃がしたはずの堂島姉妹。
だが、脱獄後に味方と信じていた筈の父親に裏切られ、妹の真希を逃がしたものの自分達が殺めてきたその遺族達と刺し違える形で亡くなった。

父親に裏切られた。
それは同じく、父親に強姦されたカチュアからして思うことがないと言えば嘘になる。

「同姓同名……けど、わざわざワタシの近くに名前をおいとるもんなぁ……」
「これもうわかんねぇな」

その横で、うんこの擬人化である野獣先輩が同じく拾った名簿を見ていた。

エロ金剛を殺めた直後に出くわした彼女達は、カチュアが返り血と自分の血に濡れていたことから、一触即発の空気へ。
だが、話せばお互いが帆高を狙っている事が分かり、争うメリットがないと構えを解いてその直後に名簿が配られ今に至る。

「そっちは知り合いおったんか?」
「ないです」

(なんか、臭いわ。こいつ)

ヒタヒタ…

「ふぅん……」

名簿に目を通したところで、物理法則を無視したふざけたコートの男と緑髪の美少女が現れた。





「ルルーシュは……そうか、来ていなかったか」

C.C.は、胸を撫で下ろしていた。
共に連れて来られているかもしれないと考えていたルルーシュは殺し合いには居ない。
取り合えずはだが、当面は危険はないだろう。

「……早く、帰らないと」

だが、居ないなら居ないで気掛かりだ。
今のルルーシュに生活力は皆無で、借りた宿から勝手に外出して途方に暮れてでもしていれば大変だ。
仮に宿に籠っていても、食事を摂っているか分からないし、用だって一人で足せるかどうか。
一刻も早く殺し合いから抜け出し、傍に戻らなければならない。

「丸藤亮……確か、サイバー流の使い手……幼いながらも優秀なデュエリストだったが」

同行者たる海馬瀬人も名簿に一つ見知った名前を見つける。

海馬は以前、デュエリスト達のレベルの低下を嘆き、そのデュエリストを育成する機関、デュエルアカデミアの構想を練っていた。
その際、優秀な少年少女達はある程度ピックアップしていたのだが、この丸藤亮という少年は相当なレベルのデュエリストであると記憶していた。

「子供まで巻き込むとは、つくづく悪趣味な事だ」

正確にはここにいる丸藤亮は二十歳前後で、恐らく海馬よりも歳も上だ。
殺し合いに呼ばれた時間軸、もっと言えば丸藤亮のいる世界線(テレ東のアニメ遊戯王の続編がアニメ版GX)とこの海馬の世界線(原作漫画の続編)はまた別の物である。
だが、その事に気付く術を今は持ち合わせてはいなかった。



それから暫くして、二人は公衆便所の前でたむろっていたカチュアと野獣を見つけた。




「ふぅん……女、貴様の身のこなし……なるほど俺が見てきた殺人鬼達によく似ている」
「い、いや……気のせいちゃうか?」
「女、お前のような殺人鬼は見飽きている」

以前、海馬は残酷な心を持つ者達を優秀な人材として、海馬コーポレーションに積極的に採用する等して迷走していた時期がある。
実際に何十人も殺してきた殺人鬼を遊戯達にけしかけたこともあった。

その頃に彼女のような存在を幾度となく見てきたことで、カチュアの正体、その中にいる殺人鬼の人格に薄々勘付けていた。

カチュアも言葉を濁すが、海馬がハッタリや引っ掛けではなく断固とした確信を持っている事を感じ取る。
出来れば余計な揉め事は避けたいところだが、下手にエロ金剛を殺した殺人者として糾弾してくるのも面倒だ。

ここでいっそ、口封じとして野獣含めた三人纏めて始末するというのも手だろうか?

「安心しろ。貴様の後ろめたい過去など、どうでもいい。ただ、参加者を殺めたのならその首輪を持っている筈だ。
 それをオレに寄越せ」

「首輪? ああ、鋭いな。あんた」

もっとも、海馬にとってはつい先ほど行われていたであろう殺戮劇に一切の関心がなかった。
欲しいのは、この戒めたる首輪の解析、その為のサンプルだ。

「……まあ、首輪なら確かにあるで。
 けど、渡すついでや……少し情報交換といかんか? お互い先立つモノは何でも欲しいもんやろ」

「海馬、私はその話に乗っても良いと思う。
 お互いここには身内も居ないようだ。先を焦る必要もないだろう?」

C.C.にとって、殺し合いにルルーシュが居ないのなら先を急ぐ必要はない。
もちろん、早急に帰還しルルーシュの元へ戻らねばならない事に変わりはないが、そこで後先考えないほどC.C.も馬鹿ではなかった。
海馬もモクバが居ればまだしも、現状ではな情報は得れるだけ欲しい。

更にカチュアからすれば幸いなのが、二人とも殺人者に対しそこまでの偏見もないことだ。
血の付いたカチュアを見ても、恐らくは襲われたのを返り討ちにしたかもしれないと冷静に分析できるくらいには場慣れはしていた。

「そうだよ(便乗)」

野獣は尊敬するMUR大先輩のように便乗した。



「――――メデューサ症候群、か……剛三郎(ヤツ)が聞けば飛びつきそうな話だ」


カチュアの語るそれは殺人者の記憶を植え付け、人為的な殺人鬼を作り出すという恐るべき計画の一端であった。
その人為的な殺人鬼達を出来レースの裁判で罪に問わせ、刑務所に作為的に集められた囚人たちで更に殺し合いや、時として不都合な相手を抹殺する駒としても扱われる。
血の繋がりはないとはいえ、父である海馬剛三郎の軍事産業を忌み嫌い、後に会社を玩具産業、特にデュエルに関する事業展開に大幅に改革した海馬からすれば、これ以上なく不快な話であった。

当然ながら、カチュアは同情を引けるように、ついでに言えばエロ金剛が襲ってきたので正当防衛で殺めたことも含めて、多少なりともオーバーに語りこそしたがそこに嘘偽りはない。


「しかし、五菱など聞いたことがない」


海馬の会社ほどではないにしろ、それなりの規模の五菱日本重工という会社を知らないのは違和感を覚えた。
更に言えば、メデューサ症候群という社会問題にもなっている事柄を海馬が知らないことこそあり得ない。

「少なくとも、童実野町の住民たちの動向は全て海馬コーポレーションの監視下に置いてある。メデューサ症候群等と呼ばれる事件があれば、警察よりも真っ先に俺に報せが届くはずだ」

(それ、独裁者っていうんちゃうんか……?)

話を聞けば、童実野町とやらはデュエルのカードに必要なカードの束(デッキ)がなければ住民登録が出来ず、住民の位置情報まで把握しているらしい。
羽黒刑務所も真っ青の監視体制にカチュアは世も末だと呆れ果てた。
そもそも、お婆ちゃんとかお爺ちゃんは、そんなカードで遊べるんだろうか。

「ワタシだって、海馬コーポレーションなんて知らんわ。ムショに入ってから出来たにしても、あんたが言うほどの大企業なら知らん筈ないけどなあ」

同じく、カチュアもカードゲームなんて小学生で卒業しとけやと思いながらも、海馬曰く世界的に流行ってると熱弁するものを一切見聞きしないというのは在り得るのだろうかと疑問に感じる。
特に一つの街を丸々支配しているようなトンデモ会社なら、話くらいは聞くだろう。

「……お前達の日本はブリタニアに占領されてないのか」

「ブリタニアって、いつの話やねん。今はイギリスやろ」

「痛いですね…これは痛い(冷静)」

海馬も大概おかしかったが、C.C.の語る話が一番異様であった。
ブリタニアに支配され、エリア11という植民地化された世界、そのブリタニアが開発したKMF(ナイトメアフレーム)と呼ばれる人型兵器。
最終的にはブリタニアの皇帝が討たれ、日本は解放され平和が取り戻されたらしいが、最早話が飛躍し過ぎてお互いに知る知らないで済む話ではない。

野獣に至っては完全に精神異常者を見る目で見ていた。

「恐らくは並行世界だろう」

「は? 何言うとんねん」

「ありえん話ではない。世界は一つではなく、複数存在するという事だ。
 この目で冥界という異界の存在を確認したこともある。
 オレと貴様、そしてそこのお前は差異はあれど比較的良く似た歴史を辿った世界で、C.C.はまるっきり別の歴史を経た世界と考えれば辻褄は合う」

「んまぁそう…よく分かんなかったです…」

話が飛躍し過ぎて、理解の範疇を超えてはいたが、カチュアも物分かりが悪い方ではない。

エロ金剛も出会った直後、吸血鬼が日本を支配しただのと、世迷言をのたまっていた気がする。
これも本物の吸血鬼が実在する世界があったということなのかもしれない。

信じ難いがそういうこともあると受け入れることにした。

「本題やけど、社長はこの首輪外せそうなんか」

「外せる」

「即答かいな!」

「だが、サンプルがいる。その金剛とかいう化け物の首輪を渡して貰おうか」

正直なところ、カチュア本人これを持っていても価値はあまりないと考えていた。
スマホや暗殺用の道具位なら使えるが、爆弾を仕込んだ首輪を解析するなんて芸当は殺人鬼の人格を以てしても不可能だ。
この海馬という男はカードゲームを楽しく遊びたいが為に、何やら凄く近未来的なソリッドビジョンだとか何やらを開発した上に元は軍事産業で、兵器や爆弾の類にも詳しいと来た。
殺し合いに対しても、カチュア達メデューサとは違って相当な反感を持っているのは間違いない。

(まっ渡してもええかな……)

少なくともカチュアよりは友好的に首輪の解析に役立てはするだろう。



「ハーッハハハママママ……おもしれぇ話してるじゃねえか、おれも混ぜてくれよ」



カチュアの手からエロ金剛の首輪が滑り落ちた。


「…………な、なんや……こい、つ……」


元は一般人ではあるが、それでも修羅場は潜り抜けてきた。
同じメデューサ症候群の殺人鬼達とは数え切れぬほどに戦い、カズナリといった強敵達を下し、ナイスアス水野智己率いる天童組との抗争にも勝利を収めた。
故に本来なら威圧され、恐怖を抱くなどそうはない。あったとしても冷静に戦況を見極めることは出来た。
薬もまだ効いている状況なら猶更だ。

「首輪を外すとか言ってたねぇ? どういうことだあい?」

だが、目の前のこれにはどうしようもない。
カチュアもそのベースとなった別人格アンドレイ・チカチーロも凄腕の殺人鬼ではある。
しかし、殺せる範囲はあくまで人でしかない。相応の装備、アドバンテージがあればエロ金剛程度の異形も殺せはするだろう。

だが目の前に現れたこの巨漢は、あの異形ですらもただの人だったと思わせるほどの巨体を誇っている。
一見肥え太り、ファンシーな服を着た醜い老婆だが、その背丈は数メートルはあり、公衆便所の屋根を遥かに凌駕する。
大きい体躯の男も少なからず見てきたが、もう比較対象にすらなりはしない。

「詳しく聞きたいねぇ!!」

裏拳での薙ぎ払いで、公衆便所が完全に崩壊した。
砲弾での撃ち込まれたかのような轟音が轟き、紙細工のようにコンクリートが灰色の破片へと還っていく。エロ金剛の死体もミンチになりながら宙を舞っていた。
怪力自慢も体躯自慢も腐る程見てきたが、その誰もがこれには敵わないと確信を持てる。

これはもう人ではない。

人の範疇を完全に逸脱しては、その殺人鬼の技量知識経験も全ては無意味だ。

元よりメデューサ達を作ったあの女医もこれは完全に想定外だろう。元の想定した性能からして完全に専門外なのだ。

(……あくまでメデューサ達は殺人鬼ってことや……無理や、殺せへんわ……強い弱いの話しちゃうねん。
 ほんまもんの化け物を殺すならヘラクレスとか、安倍晴明とかベースにするしかないわ。……こっちは人間専門やねん)

思考も滅茶苦茶になり、だが恐怖から逆に完全に狂えもしない。
ただ一つ分かるのは、殺『人』鬼ではビッグマムという化け物には絶対に勝てないということだ。

(KMFさえあれば……だが)

C.C.の脳裏に過ぎるのは人の身に使うにはあまりにも過剰戦力たるKMFだった。
あれならば、ビッグマム程の巨漢でも同じ目線で対峙することは叶うだろう。
それでも並大抵の機体では数秒も持たない。パイロットもスザクやカレンほどの超人でなければ、真っ当な戦いにもならないと予感させる。


「出そうと思えば(王者の風格)」



ジョボッ、ジョボボボボボ……ジョボボボボボ! バチィッ! ミュリッ ギュィィッ……ポンッ! ブチィ……ブッチッパ! ……ピチョン……


宮本明や鬼ヶ原小夜子のように、野獣も恐怖のあまり下半身から汚物が飛び出していた。
余談だがこの二人は住む世界も違い面識こそないものの、ほぼ同時期に同調(チューニング)しシンクロ脱糞(しょうかん)していたこともある。




「ふぅん、ババア何の用だ」


「口の利き方を知らないねぇ。麦わらといい、最近は四皇の威厳ってやつも地に落ちちまったか」


(なんで、普通に口聞けんねんあいつ……)


カチュアの驚きもよそに海馬とビッグマムは平然と会話を続ける。


「お前、外せんのか。この首輪」

「くどい。このオレを永久に縛ることなど何者にも叶わぬわ!!」

「ハーッハハハママママ……それで首輪を外すのに、サンプルがいるってことかい?」

「貴様の首を差し出すというのなら手間が省けるがな」

「いいねぇ……なら、早速サンプルを持ってきてやろうじゃないか」

ビッグマムは口の端を釣り上げ、笑みを浮かべた。
彼女の目的もまた殺し合いからの早急な帰還だ。
まず第一に舐めた真似をしてくれた麦わらを殺さなければならないし、家族とずっと離れ離れというのも寂しくて仕方ない。この雨の中でお菓子もろくに食べられない。

だから、帆高を殺す。それが一番手っ取り早い、があの神子柴とかいうのが約束を守るとは限らない。
こればかりはビッグマムですら素直に認めざるを得ない。現状、この命は神子柴が握っているも同然だ。

実際に首輪を外そうと、ソルソルの能力をいくつか試したがその全てを弾かれた。

爆破で死ぬというのも嘘ではなく、ビッグマムも例外ではないのだろう。
可能であるならば首輪は外すべきだ。それも可能な限り早くに。

「おれはお前みたいなのを探してたんだよ。シーザーみたいなのとは違う、お前のそれはちゃんとした実力から来る確固たる自信だ」
「……何が言いたい」
「味方になってやるって、言ってんのさ。お前が首輪を外せるまで幾らでもサンプルを用意してやるよ」


「―――ッ!?」


一瞬だった。ビッグマムが腕を軽く伸ばし、本人にとっては軽く突いた程度のものだったのだろう。
だがそれが直撃したC.C.はいとも呆気なく、血を撒きながら吹き飛ばされていった。

「先ずは三つ……感謝しなよぉ」

首輪を外せると豪語する海馬以外をここで殺す気だ。その首輪をサンプルとして。
一同がそれに気づき、真っ先に構えたのはカチュアだった。

(アカン、こらアカンわ……)

構えるのは良いが、今回ばかりはどうやっても勝ち筋が浮かばない。

どうする? 帆高を殺せば帰れる、殺し合う必要はないと説得してみるか? 否、そんなもの関係がない。
カチュアとて分かっている。これが非常に不透明なルールのゲームで、その主催に信憑性がないということくらいは。

ただ、カチュアはこの場の参加者全員を皆殺しに出来るほどの力はない。だから、やむを得ず帆高を殺そうとしただけだ。
それが現状、唯一の生還手段だから。

だがビッグマムには出来る。殺して首輪のサンプルを手に入れるなど容易い事、首輪の解析にあてが出来ればそれに舵を躊躇いなく切れる。
仮に海馬がダメでも、その時はルール通り帆高を殺せば良いだけだ。

(逃げる? すぐ追い付かれるわ。……戦って……カンチョ―くんでどないすんねん? アナル入るかあれ? ナイフの毒やて、斬る前に殺されるわ。あのC.C.(おんな)みたいに)



「フフフ……クククク……フフフフフフフ……ワッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


(……なに、わろとんねん)

カチュアの胸内に反し、海馬は馬鹿のように高笑いを上げる。

「ババア、貴様四皇とか抜かしていたな」

「ん? ああ……そうだね」

「皇(おう)とは本来ただ一人を指し示すもの……だが所詮、貴様は四皇止まりに過ぎん」

「どういう意味だぁい……?」

「真の皇とは唯一無二、絶対の孤高者に他ならない。断じて、貴様などではない!」

(あほぅ……煽んなや)

「ハーッハハハママママ……そりゃ何かい? ……海賊王になるのは、おれや赤髪やカイドウ……ましてや麦わらでもなく、お前だってのか?」

「知った事か。オレの前で王などと二度と戯言を口にするな。
 冥府の王を葬り去り、決闘王の称号を手にし、絶対者として君臨するのはこのオレただ一人!! 貴様にくれてやる命などこの場にはないわ!!!」

交渉決裂。
海馬もビッグマムも、互いに視線を交え睨み合う。

「仕方ない……他を探すとするよ。ここで四つサンプルを頂いてねえ!」

ビッグマムの威圧感が増す。

カチュアの全身から冷や汗が流れ、本能が警鐘を鳴らす。


「―――ライフ オア デッド?」


寿命か死か?

これが魂への言葉(ソウル・ボーカス)。
ソルソルの実の能力、ビッグマムに臆する者、恐れた者から命を奪い去る魂の強制搾取。

どちらも破滅しか待ち得ない最悪の選択肢を突き付ける。

「ふぅん、オレの答えなどたった一つ。
 オレの魂……オレのプライド―――この最強のしもべが応えてやるわ!!」

対して海馬は微塵の怯みも見せず、一枚のカードを天高く掲げる。

「―――青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)!!」

「なんだ……? なんて、珍しいドラゴン……」

蒼き眼の白銀のドラゴンがその神々しい姿を現す。
珍獣コレクターたるビッグマムの琴線に触れ、初めて見る美しさに見とれていた。

「哀れな老害にレクイエムをくれてやれ!」

デュエルの世界において、最も高貴かつ優れた究極の生命体。
その高次元の存在が放つブレスは、ありとあらゆるものを破壊し尽くす滅びの一撃。

「滅びの―――バーストストリーム!!」

死の選択肢、それに突き返す海馬の答えそれは―――。

「粉砕! 玉砕!! 大喝采!!! アッハハハハハハハハハハハハハ!!!」

(三つ言ってるやん……)

ビッグマムの巨体のシルエットが光の中に消えていく。
海馬の高笑いは止むことを知らず、協奏曲のように奏でられ続けていく。

「デカい口の割にこんなもんかよ!!」

「なに―――」

ビッグマムの巨体に合わさる程の刀身を持つ大剣、ビッグマムが頭に見つけた帽子が変化したそれに滅びの光は一瞬にして薙ぎ払われた。
その中心からは、所々服が焼き焦げた以外は完全な五体満足のビッグマムが君臨している。

「バカな、ブルーアイズの攻撃が効かなかっただと……?」
「攻撃ってのはねぇ、こうやるんだよお!!」

ただ大ぶりに掴んだ剣を横薙ぎに振るう。その一連の単純な動作は単純であるがゆえに小細工もなく、ひたすら純粋に速く、何よりも強い。

「ぬうおおおおおおおおおおお!!!?」

ブルーアイズが主を庇い、バーストストリームで迎撃しながらも尚も勢いは止まらずその身を盾とする。
激しい衝撃が海馬にフィードバックし、切り裂かれたブルーアイズごと吹き飛ばされていく。

「嘘やろあいつ!? あの態度で瞬殺されおった!!」

もう、戦えるのはカチュアを於いて他には居ない。だが、どうやって戦えばいい?
カチュアの中にある殺人鬼の能力を総動員しても数秒持てば良い方かもしれない。
せめて、仲間のメデューサ達が……いやそれでも結果は死体がただ増えるだけだ。

「な、なあ……帆高殺そう思ってんのはワタシもやし……手組まへんか? こう見えて役立つで」

ダメ元で先ずは会話をして、時間を稼ぎながら戦略を練るしかない。

「俺もHDKはレイプする気だったしさ、大丈夫だって安心しろよ~」

そこへ野獣も保身から便乗してくる。内心で舌打ちした。

「おれがお前らと組んで、何のメリットがあるんだ?
 寿命は大好物なのさ、それを我慢する理由があるなら言ってみなぁ」

「……ないです」

「素直か!」

野獣とカチュアの手など必要ないほどに、この化け物は強すぎる。
交渉の余地などまるでない。一切のアドバンテージがカチュア達にはないのだから、ビッグマムからすれば聞く理由もない。

(しゃーないわ。一か八かカンチョ―くん使うしかあらへん。効くか分からへんけど……
 それでベンズナイフで斬って毒殺……やるしかない)

よく考えればカンチョ―くん三つ支給、一度で使い捨てというのはこれ以上ない外れ支給品に思えてきた。
こんな化け物がいるのなら、ミサイル位支給しても罰は当たらないだろ。そう、神子柴に抗議したくなる。

「……私が短くて十秒……長ければ一分稼いでやる」

覚悟を決めて、玉砕を承知で戦おうとしたカチュアの肩に手が置かれる。
振り返れば血だらけのC.C.が覚束ない足取りでカチュアの前に歩み出る。

「その間に、海馬を連れて何とかして逃げろ」
「あ、あんた……?」
「お前じゃ、時間稼ぎにもならない。わたしの方が多少は稼げるし、生き残れる可能性は高い……多分な」

先の攻撃は速すぎて見切れなかったが、それでもどう見ても即死するような一撃だったとカチュアは記憶している。
だが服を染める血こそ真っ赤だが、C.C.本人は平気な顔で歩いていた。

「お前、寿命が取れないね……? 思い出すよ……麦わらのとこのガイコツ、あのソウルキングを」

「そうとも、私は魔女……不死身だからな」

コードを受け継いだC.C.の体は、如何な外傷を負っても死ぬことはなく。永遠に歳を重ねることもない。
ルルーシュがCの世界で神を殺したことで、そのCの世界が不安定であることに加えて、殺し合いに呼ばれた時点で更に制限を受け、場合によっては死ぬことこそあれどその身には寿命という概念はもう存在しない。

「好物なのに悪かったな。寿命なんて、渡してやりたくともないのさ……お嬢さん?」

C.C.は自分の杖代わりにしていたショットガンを構える。

それはゲイリー・ルウィンドンという殺人鬼をベースにしたメデューサ、堂島瀬里が良く愛用していたものと同じタイプ。
伊達にC.C.も永くは生きていない。KMFの操作から始まり、喧嘩も強く、上手い訳ではないが銃もある程度は扱える。
流石にその瀬里には遥かに劣るだろうが、ずぶの素人よりは断然マシだ。

「その豆鉄砲でおれに挑む気かい? ハーッハハハママママ!! どれ、不死身の魔女様はどれだけ刻めば死ぬか試してみるか」

ビッグマムが嘲るように笑い、そして巨腕を振るう。

(懐に入れさえすれば……)

完全に舐められている。動きもビッグマムにしては非常に緩やかだ。
不死身の魔女に対し、どう傷が治るのか関心があるのだろう。じっくり嬲って遊びながら、どう傷が治るのか見るつもりだ。
ブルーアイズを一目見た時に興味深そうにしていたことから、珍種に強く惹かれるのでは考え、不死身だとバラしてみたが上手く思考を誘導できたようだ。

これなら、触れるだけならばC.C.でもやりようはある。

「ッ……!」

ショットガンを後ろに向け、トリガーを引く。
滅茶苦茶な体勢で撃ったことで体が軋み、銃を持っていた右腕に激痛が走り使い物にならなくなる。
だが、どうせ不死の体だ。容赦なく使い捨てにしても未練はない。

「!?」

その銃の発砲による衝撃で僅かに加速したC.C.はビッグマムの攻撃圏を抜け、自身の射程範囲内へと肉薄した。
腹部が大きく切り裂かれているが、この程度の痛みは今に慣れた事だ。
まだ動く左腕で、C.C.はビッグマムへと触れた。

ショックイメージ。
C.C.が相手に触れることで、その対象に記憶やトラウマを呼び起こす特殊な力。

これは一か八かの賭けだ。
カチュアではビッグマムに時間を稼ぐことも出来ない。
だが、C.C.ならばこのショックイメージを見せ、その間はビッグマムであろうとも身動きは取れない。

その隙に逃げれば良い。
持ち前の不死性も薄らぎ、何処まで再生できるか分からなかったが、それでも生き延びる為にはこの手しかなかった。

(頼む―――効いて……)

「おれに、何しようとしたァ!!」

だが接触があまりにも短い。

「がっ……!」

ショックイメージを見せる前に薙ぎ払われた。
強い衝撃が全身を駆け巡り、近くの建物へと吹き飛ばされる。
全身が打ち付けられ、骨は大分やられている。窓ガラスに突っ込んだせいだろう。ガラス片も肉を突き破り、赤い染みを増やしていく。

「触ろうとしてきたね。……万一もあるし、こいつは迂闊に近づかない方が賢いやり方かもな……」

「ぐ、ふっ……!」

四皇というだけのことはある。支配者として、その強さは勿論のこと頭もキレるようだ。
格下のC.C.に対しても僅かな違和感から警戒を強め、慎重に対処しようとしている。
理性ある化け物とは、本当にどうしようもない。

(痛いな……まあ、慣れているが……カチュアと海馬、あと汚い男は逃げたか……)

外の様子が見えない。多少なりとも時間は稼げたし、あのまま逃げ切ってくれればいいが。

(流石に、もう以前のように不死ではないようだ……)

再生が非常に遅い。意識も朦朧としてきて、今までに感じた死とは訳が違うと感覚で分かる。
ようやくだ。長年望んだいた死が訪れるのだろう。
そうだ。元々、これを宿願に悠久の時を過ごし続けてきた。だから、もう未練など―――

「まだ、だ……」

「あ?」

「わたし、には……約束が残っている」

体が動いてくれた。僅かな治癒で少し動くくらいにまでは再生できたのだろう。
血を流しながら、立ち上がる。
もっとも、だから逃げれる訳でもない。だがC.C.にはただ諦めて死を迎えるという選択だけは取れなかった。

「約束したんだ……あいつと、だから……」

死にたかった筈なのに。
どうしようもなく望んだものが手の届くほど、目の前にあるのに。
それなのに、これ以上ないほどにまだ生きたい。明日が欲しい。あいつが、示してくれた未来が恋しい。

「……ここじゃ、死ねない」

「あーもう、面倒くせえ……!」

決して距離を縮めず、剣を振り上げる。その動作から、斬撃を飛ばしてくるのだろうと直感する。
間接でも触れてくるなら可能性はあったのだが、そこまで織り込み済みなのだろう。

「お前はもうここで死ぬんだよぉ!!」


―――必ず、お前が笑わせてくれるんだろう?


「……ルルーシュ」


「ババア!! 貴様の相手は百獣の王たるこのオレだ!!」



轟く怒声。
ビッグマムの剣は振り下ろされる直前で止まった。


「ばか、逃げろ……!」

その声でC.C.は全てを察する。あの男が再び、この化け物の前に立とうとしている。

「社長、ほんまに大丈夫なんやろな!?」

「やべぇよ…やべぇよ…」

「ふぅん、あの女が時間を稼いだところで、ババアの足ならすぐに追いつかれるだろう。
 全員、腹を括れ」

海馬はそう強く言い放つと左腕に付けた黒と青の機械を展開する。

(……確かに、C.C.が何秒稼ごうがあの婆さんのデカさなら、すぐ追い付かれるってのは分かるで。
 せやけど、あの社長……何する気や)

カチュアと野獣は、ビッグマムの意識がC.C.に向いている間に彼女の言う通り逃げ出す算段だった。

しかし、首輪解析目当てで連れて行こうとする海馬に『一つ手がある。逃げるよりは確実だ』と言い放たれる。
普段ならば無視して逃げていたが、その自信溢れる態度にカチュアは押し切られ、再びビッグマムの前に立ってしまった。

「あーもうめちゃくちゃだよ。死ぬなら、勝手に死んでくれよな~頼むよ~」

(この汚物を逃げんように見張れ言うてたけど……なんのつもりや)

カチュアにナイフを突きつけられ、逃げる逃げられず喚く野獣にカチュアも訝しげな顔をする。

「ハーッハハハママママ!! この女を助けに来たのかい? 馬鹿だねえ、逃げれば運が良ければもう少し生きれたかもしれないのに」

「勘違いするな。そんな女など、どうでもいいわ!!」

所々痛む体に鞭を討ち、海馬はビッグマムの前へ再び対峙する。
今の海馬に雑音は一切入らない。全てのノイズが遮断され、眼前の景色すらも見えてこそいるが見据えてはいない。

ただ左腕の新型デュエルディスクを強く見つめる。

海馬が発明した次世代の新たなデュエルディスクではあるものの、ブルーアイズは単独で実体化し、殺し合いの最中では役に立つことは少ないと支給されたそれはディパックに収めたままだった。

「……奴を、葬り去るべきはこのオレ自身だった……」

あるのは、己が止めを刺せず消え去った過去の亡霊のビジョン。
この手で打倒し、捻じ伏せなければならない宿敵の幻影。

「貴様が、俺の往く冥府魔道に立ちはだかるというのなら―――この手でこじ開けてくれる!!」

ビッグマムは確かに強大な敵だ。だが、奴なら諦めたか?


否―――奴は屈しなかった。如何な相手であろうとも。サレンダーだけはしていない。


三体のブルーアイズという究極の絶望を。

トゥーンという死の概念のない無敵の存在を。

無限の力を魅せる天空の神を。

常闇の死霊から宣告された絶対の死を。

万物を焼き払う太陽の不死鳥を。


奴はあの小さな体で幾度もの絶望を超えた。奴は窮地を巻き返した。
自らの可能性を信じ、次の未来(ドロー)に全てを託し奇跡を引き当てた。

どれほどのプレッシャー。恐怖、畏怖に苛まれた想像に難くない。
ならば、その男を葬り去るべき海馬瀬人がここで敗北することなど許されはしない。


「見せてやる……これが真のデュエリストの……可能性だァ!!」


叫びと共に手を伸ばす。奴へ届かせるように。
それはビッグマムなどでは断じてない。その障害の先に居るあの男の背へと辿り着くように。



「ドロォォオオオオオオオオ――――!!!」


地面に亀裂が走り、そこより瞬く光に海馬は手を伸ばす。
引き当てて見せろ。奴のように、幾度となく見せ付けられたあの絶望を打ち砕く運命の逆転劇(ドロー)を巻き起こせ。


「ファッ!?」

「……おっちゃん光ってるで!?」

「24歳、学生です(憤怒)」

野獣の身に異変が起こる。共鳴するように身体が輝きに包まれる。


「アッ…ンアッンアッアアー ンアッアッアアアー ンアッアアアー……!!」


海馬が光の中から引き抜いたカードと同時に光の中の野獣から一体の竜が解き放たれる。

野獣先輩は元はホモビデオに出演しただけの汚い男だ。
だが、たったそれだけでも数多の人間がその虜となり、その正体を考察されるにつれ数え切れないほどの珍説が囁かれつつある。

そう。無数の意識が集いし時、そこに集合無意識が生まれたのだ。
例え荒唐無稽な虚言であろうと、人々がそれを信じその意識を束ねることで、虚構は現実となる。

女の子説、オバマ説、メタモン説、メタモンではない、ガッツ説、キリト説、りゅうちぇる説、鈴木福説、たまご説

スネーク説、愛子様説、コロナ説、グラードン説、ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン説、サイヤ人説

ウルヴァリン説、サンタクロース説、冬説、アカギ説、デデデ大王説、北条沙都子説。

数えだせばキリがない。
無数の可能性、無限の虚構。

同じことだ。
以前、藍神とのデュエルに於いて、海馬は戦いの儀でオシリスと同じく神殿の底に沈み、失われた神の一体オベリスクの巨神兵を残留思念から読み取り、新型デュエルディスクの機能パワービジョンで実体化させた。
海馬はその中の一つ、野獣先輩の中に眠る数ある新説のなかから、“それ”を新型デュエルディスクを通し実体化させたのだ。


「ンアアアアアアアアアアアァァァァ―――――!!!」


天空から轟く雷、暗雲の中から下界へと降誕せし真紅のドラゴン。
その巨体はビッグマムすら遥かに凌駕し、天空そのものを覆い尽くす。

自身に刻まれた決闘王の戦いの記憶から、海馬が読み取った一つの可能性。


(……遊戯)


野獣先輩オシリスの天空竜説。

王の忠実なる僕にして、三幻神の一柱。
天空に雷鳴轟く混沌の時、 連なる鎖の中に古の魔導書を束ね、その力無限の限りを誇らん。

戦いの儀にて失われし神のカードはこの場にて再び海馬の手に握られていた。

「こいつ、は……」

さしものビッグマムですらも、呆気に取られる。
彼女の中の戦いの経験から見ても、あれは別格の存在だと告げてくる。

(手数を増やしておくか)

「ママー!」「ママ―!」「ママー!!」

ホーミーズ。
ソルソルの能力により、命を与えられ擬人化した物体達。ビッグマムはそれらを周囲に呼び寄せる。
あのオシリスは別にしても、海馬本人はただの人間だ。最悪の場合、使役する本人さえ殺せれば問題はない。

「無駄だァ! オシリスの効果発動! 召雷弾!!」

オシリスの二つの口、その内の上部のものが開き雷が放たれる。

「ぎゃああああああ! ママァアアアア!!!」

無数に呼び寄せたホーミーズ達は一瞬にして消し飛び蒸発した。

「……やってくれるじゃねえか……ガキィ!!」

数を揃えようが、あのドラゴンの前では低級生物は存在すら許されない。
ビッグマムはそれを理解し、忌々し気にオシリスを睨む。
ならば、やることは一つだ。簡単だ。
圧倒的な力によって、あの目障りなモンスターを薙ぎ払うのみ。

「搦め手はやめだ……くらえよ……エルバフの槍」

強く、剣を握り締める。

放つは巨人族に伝わりし必殺の槍。
かの巨人海賊団船長が二人、青鬼のドリーと赤鬼のブロギー曰く血に染まるヘビを除けば何事をも突き通すとまで豪語させた最強の遠当て技、覇国と同じ系列に当たる剣技。

「“威国”!!!」

本来の担い手、最強の巨人二人でなければ放てぬそれを、ビッグマムはただ一人でいとも容易く振るう。
威力こそ、前者に勝らぬとはいえその名の通り、その威力は例え一国をも優に飲み込まんとする程の破壊力を圧縮した強大な衝撃波。

「超電導波-サンダーフォース-!!」

オシリスの第二の口が開かれる。雷が集約され、それは神の咆哮と共に解き放たれる。

巨人族最強の槍と天空の竜が放つ、雷撃の咆哮が激突した。
大地を揺るがし、雷鳴轟く二者の衝突はまるで災害のように爆風を巻き起こし轟音を鳴り響かせる。

「こんな化け物がなんだ……四皇を舐めんじゃねえよ!!」

確かに、今相対するビッグマムが目にした種族とは格が違う。
だが、それがなんだというのだ。ビッグマムは四皇だ。偉大なる航路を支配し続けた皇に一人、いずれ海賊王となり全世界を制するのはこのビッグマムだ。
麦わらも、海軍も、黒ひげもカイドウも、この竜も、例えそれが何であろうと、その航路を邪魔立てするのであれば捻じ伏せまで。

「……化け物(モンスター)ではない」

海馬の左目に取り付けたVRスコープにカード情報が次々に更新されていく。


青眼の白龍
青眼の白龍
青眼の白龍
融合
エネミーコントローラー
死のデッキ破壊ウイルス
A-アサルト・コア
B-バスター・ドレイク
C-クラッシュ・ワイバーン
ユニオン格納庫
混沌帝龍 -終焉の使者-
次元融合
ラストバトル!
魔法除去細菌兵器
完全破壊-ジェノサイド・ウィルス-
最終突撃命令
闇道化師のサギー


これらは実体を持たない電子のカードであり、元からデュエルディスクに登録された情報でしかない。
故に実体化もせず、この戦いに役立つことはまず存在しない。
ただデュエルでのみ使用でき、しかもこの殺し合いにはそのデュエルに応じるものなどいるはずもなく、ただ情報として存在しているだけで価値は何もない。

「――――神だァ!!」

だがオシリスはその手札の数だけ、力を増すという効果を持つ。
海馬はデュエルディスクより電子のカードを引けるだけ引き抜き、それらを手札とすることでオシリスの攻撃力アップへと繋げた。
デュエルなら完全なイカサマだが、リアルファイトである以上知った事ではない。
40枚のカードデッキ、および支給された実物のブルーアイズと死者蘇生を含む42枚を手札としてオシリスの雷撃の力は更に増大する。

威国の衝撃波が殺され、その電磁砲がビッグマムへと直撃した。

「消え去れぇババア!!」

鉄の風船と称され、一切のケガも負わない程のその強靭な肉体であろうとも神の一撃をその身に受け、無事である筈はない。
雷撃に飲まれ、怨念の籠った叫びと共にビッグマムはその姿をこの場から消した。



「……終わった、のか?」



C.C.はよろめきながら、立ち上がり海馬の元へと寄る。
海馬は意識を失い、雨の中倒れ伏していた。

ビッグマムを相手にあれだけ立ち回ったのだから無理はないだろう。だが、ここでずっと寝かせる訳にはいかない。
あの化け物があれで死んだとは、C.C.にはとても思えなかった。もし生きていればここに戻る筈、早急に退避しなければ。

「おっ、動くなよ動くなよ?」

そこへ、野獣が銃を突き付けてくる。

「なんの、つもりだ」
「首輪の解析なんて、そんなことしなくていいから(良心)。俺は願いを叶えて遠野と結ばれたいから、殺し合いの妨害されると邪魔なんだよなぁ」
「……やめておけ、人ならざる力で愛されても……虚しいだけだぞ?」

「それに、もうあんなビッグマム(ばけもの)と戦うなんてごめんだからさ。パパパッとHDK殺して、オワリッ! でいいんじゃない?」
「あの老婆の口約束を信じるのか」
「駄目なら駄目で、生還してから遠野を昏睡レイプすればいいでしょ」

「クズめ」
「とにかく、お前らの支給品は俺のモノでいいんだ上等だろ」

元々野獣はC.C.達を蹴落とすつもりだった。
というのも、願いを叶える権利は先着5人だ。なので、早い内にライバルを少しでも減らそうと考えるのは当然である。

ま、多少(の犠牲)はね?

「あ、お前さ、KTAさ、さっきHDK殺しに乗ってたよな? KIBはお前が殺せよ~」

カチュアは帆高を殺す事に賛同側の人間だ。彼女も生還する為なら手段を選ばないタイプだと見てて分かった。
それならば、どちらかと言えば帆高殺害に反対側のこの二人より、自分に付くと野獣は確信する。

「悪いなおっちゃん。名簿見る前と後で事情変わってんねん」

「は……?」

しかし、その目論見も虚しく野獣の首からおびたたしい程の血が流れていた。

「おねえ……さ、ん……ダルルォ……?」

(オネエやったんかこいつ)

カチュアの手に握られたベンズナイフが赤く染まっており、全てを察したと同時に野獣は息絶えた。

「……お前」

「あんた同じヤリマンやろ? そのよしみや、組まへんか?」

「一緒にするな。
 ……良いのか? こっちは積極的に帆高を狙う気はないぞ。特別守るつもりもないが……」

「ええで。正直な、強制された殺し合いは慣れっこなんやけど、ルールが信憑性に欠けるんやわ。
 首輪が外せるのなら、ワタシはそっちに賭けてもええ」

野獣の誘いに乗って、二人を殺して支給品を強奪するという考えもあった。
とはいえ、薬が切れるのを何かの拍子で知られれば、野獣は真っ先に手の平を返すのが予想出来る。
味方にするには不安要素しかない。

そして、やはりネックなのは殺し合いのルールへの疑念だ。
果たして本当に帆高を殺して、生還できるのか? 
恨まれるのは慣れっこだが、よしんば帆高を殺して、だが生還できず残った帆高に好意的な参加者に狙われるでは溜まったものではない。

「……ただ、これで貸し一つや。こっちの事情にちょっと付き合ってもらうで。
 堂島瀬里……こいつを探すのを手伝ってくれへんか?」

何より一番の理由は堂島瀬里の探索だった。
野獣にこの事を切り出せば、何を画策しだすか分かったものではない。
まだ野獣よりC.C.達の方が手は組める。

「もちろん、帆高を探しがてらでええわ。ワタシもそのつもりやし、ゴールされたらお互い困るしな。そんで帆高を見つけても今は殺すのは保留しとく。どうや?」

囚人仲間達と脱獄を手伝い、後押しした堂島姉妹。だが姉である瀬里は死んだ。
残された妹の堂島真希は一人彷徨い、カチュア達が敵対するカルト教団にドハマりし面倒な事にもなっている。
瀬里が生きているのなら、連れて帰った方が真希の説得にも使える。

『死んだよ。瀬里は』
『頼りにした父親に裏切られてな…』

(……)

『キミたちに…責任がないとは言わせないぞ』

(責任、か……殺人鬼が何考えとんねん)

もっともそれらは建前上の理由であり、本音は―――。

「わたしは構わない。
 海馬も……この手のプライドの高い坊やは、借りは意地でも返すだろうからな」

「短い付き合いなのに、よう知ってるやん。お似合いちゃうか?」

「縁起でもない。おぞましいことを言うな」

話を纏めた後、カチュアが海馬を背負い、その後ろをC.C.が傷だらけの体を引き摺るように歩く。

本当ならば野獣の死体から首輪を貰いたいところだったが、ビッグマムが戻ってくる可能性もある。
次に出くわせば、もう二人に対処法はない。
その焦りから支給品も取り損ねたまま、二人はこの場から離れた。


【B-4/1日目/深夜】

【カチュア・ラストルグエヴァ@サタノファニ】
[状態]疲労(中)、出血(止血済み)、頭部にダメージ
[装備]ケープコート
[道具]基本支給品、エロ金剛の首輪、エロ金剛の支給品(ランダム支給品0~2)、クロロのベンズナイフ@HUNTER×HUNTER、闇皇帝編のカンチョー君@ボボボーボ・ボーボボ、三世の尻を突き刺したカンチョー君@真説ボボボーボ・ボーボボ
[行動方針]
基本方針:森嶋帆高を殺す(今は保留、首輪解除出来るならそっちに乗ってもいい)。
0:C.C.と組んで瀬里を探す。瀬里と会ったら……
1:メデューサになる為の発火薬も欲しいが...
2:ビッグマムを警戒
※参戦時期は堂島姉妹を逃がした後、瀬里の死を知って以降です。
※メデューサの薬がいつまで続くかは他の書き手にお任せします。


【C.C.@コードギアス 復活のルルーシュ】
[状態]:ダメージ大(回復中)、心労(大)
[装備]:ショットガン@サタノファニ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出してルルーシュの元へ帰る
1:カチュアと組む。
2:ルルーシュを完全に復活させる
3:ビッグマムを警戒
※復活のルルーシュでカレン達と合流する以前からの参戦です。
※再生力は制限され、完全な不死ではありません。


【海馬瀬人(THE DARK SIDE OF DIMENSIONS)@遊戯王デュエルモンスターズシリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、気絶、アテムに対する執着(異常)、目が血走っている
[装備]:青眼の白龍、遊戯の死者蘇生、新型デュエルディスク@遊戯王
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0
[思考・状況]
基本方針:アテムを倒す
0:……。
1:アテムと再戦する方法を探す。
2:主催と雨を降らせる神とやらも潰す。
3:一応、帆高は止める。
4:居れば天野陽菜の弟(凪)は保護しておく。
5:Cの世界か……。
※遊戯とのデュエルで死者蘇生を受け取った直後からの参戦です。
※Cの世界に関してある程度把握しました。


【新型デュエルディスク@遊戯王】
実物のカードがなくても、これを使う事でデータのカードでデュエル可能。
しかし、当たり前だがデュエルを受けてくれる相手が居ないので、あまり意味はない。
当然データのカードも、ソリッドビジョンでしかないのでリアルファイトでは無害。
意識を高めて低次元送りを無効化するだとか、カードゲームに一切必要のなさそうな機能も兼ね備えている。



「あのヤリマン、頭に来ますよ!!(憤怒)」


野獣は生きていた。
カチュアに首を切られ、出血死したはずだがその傷が再生し彼女は一命を取り留めたのだ。

ただのホモビ男優にそんな力はない。だが、その中に眠る無限の可能性の中にあったのだ。

野獣先輩ウルヴァリン説。

ウルヴァリンは淫夢厨と呼ばれるゴミクズどもに汚され風評被害を負っていた被害者の一人だ。しかし、これが彼女の命を救った。
彼の持つヒーリングファクターは驚異的な再生力を誇る。流石に本家には劣るとはいえ、カチュアの付けた傷程度なら余裕で再生したのだ。
毒もそれによって打ち消したか、オシリス及び三幻神特有のガバガバ効果無効で何とかした。


「KTAのやつ、見とけよ見とけよ~」


自分を一度殺し掛けたカチュアに強い恨みを持つ野獣は、彼女の悪評をあることないこと拡散することに決めた。
HDKに友好的な参加者に、カチュアが殺人鬼であることを強調して話せばあの女の居場所はなくなるという事だ。

当然、カチュアも言い訳位はするだろう。
しかし健全で純真な女子学生の野獣。それに比べ、相手は快楽殺人鬼カチュア。
どちらを信じるか、一目瞭然だろう。

「じゃけん、早く逃げましょうね~」

とにかくビッグマムが戻ってきても面倒だ。野獣もその場を立ち去って行った。





【B-4/1日目/深夜】

【野獣先輩@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:S&W M36@真夏の夜の淫夢
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:遠野と結ばれる為に、HDKとHNが会うのを阻止する
1:HDKを探しに行きますよ~イクイク
2:BGMMと再会する前に早急にHDKをヤって生還する。
3:KTAの悪評を流す。
[備考]
※(特に)ないです。
※新説シリーズからの引用にはある程度制限は掛かっています。



「あの、ガキ……!」

ビッグマムは自身の体から流れる血を忌々しく眺め、行き場のない怒りを近くの建造物にぶつけていた。
怪我なんて負わされたのは、いつ以来だっただろうか。
この殺し合いに呼ばれてから、力が弱体化しプロメテウスも使えない事からある程度は制限されているのは分かっていた。
だが、いざこうも傷付けられると怒りが湧いてくる。

「殺してやるよ……あのガキ、海馬とか言ったか? それにあのウンコ野郎め……」
「ママ、下品だよ」
「うるせぇよ! ナポレオン!!」

海馬は勿論、ウンコ野郎こと野獣先輩に対しても苛立ちを抑えきれない。
あのウンコ野郎さえ居なければ、あの訳の分からないドラゴンを呼ばれることもなかったのだ。
一方的な蹂躙が気付けば、あのドラゴンに遥か遠くへと吹き飛ばされてしまった。

「……このケジメは必ずつけさせてやるよ。海馬にウンコ野郎!!」




【A-5/1日目/深夜】

【ビッグマム@ONE PIECE】
[状態]:ダメージ(中)、軽い空腹、怒り
[装備]:ナポレオン@ONE PIECE
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:さっさと帰ってお菓子を食べる。
1:帆高を殺して帰る。
2:海馬とウンコ野郎(野獣先輩)は次見付けたら殺す。
※参戦時期は少なくとも老婆になって以降です。
※ソルソルの実の天候を操る能力はプロメテウス以外は使用可能です。ただし、会場をとりまく雲に魂を与えることは出来ません。

48:未知との遭遇 投下順 50:大相撲だよ!若おかみ!
時系列順
前話 名前 次話
13:浣腸 カチュア・ラストルグエヴァ
21:ファイナル・ギアス 海馬瀬人
C.C.
20:Unleashed Beast 野獣先輩
01:プロローグ(仮) ビッグマム
最終更新:2021年08月18日 16:09