「軍人さん、ですか?」
「その通り。私、ロイ・マスタングはアメストリス国の国家錬金術師だ」
「国家、錬金術師?」

 ロイ・マスタングは行動を開始してから、すぐに民間人の女性を一人保護することができた。
 名前は桑山千雪と呼ぶらしく、その雰囲気からシン国の人間かと思われた。しかし、事情聴取をしていると、彼女はニホンという聞きなれない国で生まれた人間らしい。
 逆に、千雪はアメストリス国を知らないと言った。しかも、ヨーロッパまたはアメリカとやらの国について聞いてきたが、マスタングにとっては初耳だ。
 しかし、千雪が嘘を言っているようには見えない。軍人として生きてきた経験から、相手の素性について見抜く目は養われてきたからだ。

「……錬金術と言うと、マスタングさんは科学にも携わっているのでしょうか?」
「口で説明するよりも、実際に見せる方が早いな」

 故に、マスタングは少し遠くに離れた旗を目がけて、指を鳴らす。
 すると、軽い音と共に旗が燃え上がり、一瞬で焔に飲み込まれていった。当然、千雪は驚愕で目を見開く。

「どうかな? このように、錬金術を自由に用いることができるのが我々国家錬金術師だが……」
「まぁ、マスタングさんは手品もできるのですか!? 凄いです~!」
「……て、手品……」

 千雪の反応に、マスタングは軽く落胆する。
 気の落ち込みに応えるように、焔も消えてしまう。雨宿りができる場所に立っているものの、元よりマスタングもそこまで強い焔を出していないことに加えて、生憎とこの天候だ。

「でも、ごめんなさい……やっぱり、マスタングさんの言う国家錬金術師が何なのか、私は存じ上げません。ニュースや新聞も、定期的にチェックしているのですが……」
「……どうやら、そのようだな。私も、君が言うニホンという国を聞いたことがない。それに、陽菜という少女みたいな人間がいたら、我々が知らない訳がないからな」

 先の物語では、陽菜という少女は雨を降らせる能力を発揮し続けていた。
 そのような少女が存在したら、アメストリス国が気付かない訳がない。また、帆高や陽菜が生きる街並みの文化だって、アメストリス国よりも遥かに先を進んでいるように見える。

「千雪、と言ったか? 恥ずかしながら……私は彼らの暮らしや文化について全く知らない。君が知っている限りで、私に少しずつ教えて頂けるとありがたいのだが……」
「もちろんです! こんな状況ですから、私達は助け合わないと!」

 千雪は優しく微笑む。
 こんな状況でなければ、実に素晴らしい笑顔だった。平時であれば間違いなく口説いていたし、後でリザ・ホークアイ中尉から嫌味を言われるだろう。


 ――――グガアアアアアアアアアァァァァァァッ!


 だが、そんな穏やかな思考は、どこからともなく聞こえてきた獣の叫びに遮られた。

「な、何です!? 今の声は……!?」
「静かに! どうやら、声の主はここからそう遠くない……こちらに向かうと危険だから、今は離れよう」

 動揺する千雪に、マスタングは冷静に言葉をかける。
 だが、態度とは裏腹に、大気を震わせる程の声量にマスタングも戦慄していた。その威圧感は、アメストリス国の脅威となったホムンクルス達にも匹敵する。
 そんな相手を前に、千雪を守りながら撃破できる保証はない。情報が足りなすぎる上に、今はこの大雨でマスタングにとって不利な状況だ。
 一応、予備の手袋やライターもデイバッグに用意されているものの、正面から戦うには危険すぎる。

「マスタングさん、傘をどうぞ!」
「すまないね、千雪」

 千雪から差し出された傘で、マスタングは自分の体を雨から守る。
 雨の中、可憐な女性と肩を並べながら走る場面は、さぞかしムードがあるだろう。こんな状況でなければ、素敵な時間になっただろうに。
 そんな邪な思考と同時に、中尉のジト目も脳裏に浮かび上がった。

(わかっているよ。彼女は、保護をするべき民間人であると……お説教は、彼女を家に送り届けた後にしてくれ)

 届かないことは分かっていても、最も信頼したパートナーに向けてロイ・マスタングは心の中で呟いた。




 最強のパラサイトである後藤は走っていた。
 たった今、まどか先輩を狙撃した襲撃者を探し求め、この手で屠るために。

(恐らく、襲撃者はパラサイトの存在を知らず、ただ無差別に弾丸を放ったはずだ。他の参加者からパラサイトの情報を得られる可能性は限りなく低い)

 走りながらも、後藤は思考する。
 先程、参加者名簿とやらに目を通してみたものの、あの泉新一を初めとしたパラサイトを人物はこの殺し合いに関与していない。故に、後藤がパラサイトであると知った上で狙撃した訳ではなさそうだ。
 もしくは、圧倒的に不利な状況となった森嶋帆高本人が、主催者たる老婆からパラサイトの情報をあらかじめ受け取った可能性も否定できない。老婆は帆高の不利を補うと口にした以上、事前に情報戦で有利させることもありえる。
 しかし、帆高本人は直情的な性格で、とても合理的な思考ができる人間とは思えない。そんな人間が一度に大量の情報を集めた所で、宝の持ち腐れだ。

(襲撃者よ、お前が何者かは知らない……だが、お前が俺を楽しませることを期待しているぞ)

 思考を切り替えて、走ることに集中する。
 ただ、今の後藤は襲撃者に対する微かな期待を寄せていた。何故なら、この殺し合いにはパラサイトはもちろん、先のまどか先輩のように人間ではない参加者が多くいるはずだから。
 あのまどか先輩も、まるでパラサイトのように両手を自由自在に変形させていた。巨大な蟹の手はもちろん、大砲や爆弾も装備できている。恐らく、後藤のように盾も用意できるはずだ。
 そもそも、あの映画館で老婆に立ち向かった女も、常人ではありえないほどの戦闘力を発揮していた。つまり、この殺し合いでは後藤ですらも知らぬ生命体すらも、喰らうことができる。
 そのような生命体を喰らえば、パラサイトは更なる進化を果たせるかもしれない。そんな期待が、後藤の中で生まれようとしていた。

「むっ!?」

 ガチャン! と、淡い願いを裏切るような轟音が響く。
 気が付くと、直径数メートル程の広さを持つドーム状の檻が、後藤の周りを囲っていた。

「何だ、この檻は……? 襲撃者の罠か!?」

 閉じ込められながらも、後藤は檻を破壊しようと腕を振るう。
 しかし、殴打音がなるだけで、傷や凹みが生じない。パラサイトである後藤の力が通じない程、堅牢な檻だった。


 後藤を閉じ込めたのは『悪夢の鉄檻』と呼ぶカードから生まれた檻だ。
 グールズのリーダーであるマリクが操った人形が、アテムこと武藤遊技とのデュエルで使用したカードである。遊戯のあらゆる攻撃を3ターンも防ぎ、オシリスの天空竜を召喚する生け贄をそろえる為に、人形は悪夢の鉄檻を使った。
 同じように、後藤に狙われたライフル銃の男も、逃走の時間稼ぎとして悪夢の鉄檻を使ったのだ。


 もちろん、ライフル銃の男を発見できていない後藤に知る余地などない。ただ、自らを閉じ込める鉄檻を忌々しいと思いながらも、笑みを浮かべていた。

「この俺すらも閉じ込める程の牢獄を作るとは……どうやら、楽しませてくれるようだな!」

 ただ、後藤はこの檻を破壊しようと力を発揮した。
 パラサイトの力すらも通じない壁を作る参加者がいる以上、後藤も既に『最強』ではなくなっている。しかし、逆を言えばまだ後藤が『最強のパラサイト』として返り咲く可能性は充分に残されていた。

「グガアアアアアアアアアァァァァァァッ!」

 最強のパラサイトとして、後藤は悪夢の鉄檻を破壊しようと叫ぶ。
 見る者を怯えさせるであろうその姿は、まさに戦闘マシーンと呼ぶにふさわしかった。


 それから時間が経過した後。
 まるで煙のように、悪夢の鉄檻は消えてしまう。
 何の前触れもなく後藤は解放されたが、その表情に喜びは微塵もない。むしろ、己の力が通じなかったまま、唐突に鉄檻が消えたことで更にフラストレーションが溜まってしまった。
 しかも、これだけ時間が経過したにも関わらず、襲撃者からの追撃もない。恐らく、襲撃者は逃走の為に鉄檻を使ったのだろう。


 腹立たしいと思うものの、後藤はすぐに思考を切り替える。
 襲撃者を追いかけるのもいいが、わざわざたった一人に拘ることもない。あのまどか先輩についても気になるが、今から戻っても合流できるとは限らない。
 何にせよ、このまま一か所に留まることは非合理的だ。他の参加者を探し求めて、後藤は再び足を進めた。


【C-5/1日目/深夜】

【後藤@寄生獣】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考、状況]
基本方針:森嶋帆高の殺害
0:襲撃者を探すか? まどか先輩の元に戻るか? それとも……?
1:協力できる者がいれば協力しても良い。
2:まどか先輩は協力者として保留。死んでなければ、だが
※参戦時期は市庁舎での戦闘後。





「よしっ! あの化け物を閉じ込めることができたぜ!」

 一方、後藤を閉じ込めたライフル銃の男は、満足げな笑みを浮かべていた。
 驚異的な脚力と反射神経を誇る怪物に、まともに戦おうという選択肢はない。強力なバズーカも手元にない以上、ここは逃げるしかなかった。
 もちろん、ただの人間が怪物から逃げ切れるとは思えない。そこで、一か八かの賭けとして悪夢の鉄檻を使ってみたら、見事に閉じ込めることに成功した。
 よくわからないカードと思いきや、実際はホイポイカプセルのような便利な収納道具だ。しかも回数に制限はなく、何度でも相手を閉じ込められるらしい。
 流石に、一度発動させた後は再使用まで時間がかかり、また鉄檻だって3ターン経つと消えてしまうようだ。
 3ターンがどれだけの時間か不明だが、既に充分な距離を走ったので、再びあの化け物と遭遇する可能性は低い。

「このカードを上手く使いさえすりゃ、俺が優勝することも夢じゃねえぜ! 弱いクズだって殺せるしな! イェーイ!」

 だが、男はカードの制限を知った上で、己の勝利を確信していた。
 厄介な化け物を閉じ込める悪夢の鉄檻は、使い方を考えれば大きな切り札になる。化け物を達を閉じ込めて、上手く潰し合わせることも可能だ。
 その間に、戦う力を持たない奴を殺して、便利な支給品を奪えばいい。

「さて、その為にも……まずは獲物を見つけねぇとな!」
「――――あなたが死んでよ」
「は?」

 だからこそ、己の幸運に酔いしれた男は、迫りくる狩人の存在に気付かなかった。

 ドゴンッ!

「ぐぎゃっ!?」

 視界の外から迫る金属バットで殴られて、男は悲鳴と共に倒れてしまう。
 その衝撃で、悪夢の鉄檻のカードはもちろんライフル銃さえも落としてしまい、彼はただの男に成り下がった。

「いってえ……な、何しやがる!?」

 だが、男はそんなことなどお構いなしに振り向く。
 顔を上げると、雨に濡れた少女の姿が目に飛び込んできた。その手では金属バットを握りしめている為、これで殴られたことに男は気付く。
 だが、気付いた所でどうにもならない。男の叫びに対する答えは、少女が振るうバットの音だった。

「げえっ!?」

 少女が振るうバットをただ受けることしかできない。
 最初の一撃が頭部に命中したダメージによって、彼の動きは大きく阻害されていた。
 もしも、ここに彼を信用する人間が一人でもいたら、少女の凶行は止められたかもしれない。だが、他者を踏みつけにしようと企み、怪物も罠に嵌めたばかりの彼を救える人間など、どこにもいなかった。
 例え、世界の救世主と呼ばれる程の男がいても、彼を救うことはできないだろう。

「……何で、人を殺そうとするの?」

 唐突に、少女は問いかけてくる。

「あなた、言ったよね。優勝する為に、人を殺すって……そんなことをして、何になるの?」
「はぁ!? 何を、言って……」
「答えてよっ!」

 怒号と共に少女はバットを振り降ろした。
 男は悲鳴を発するが、少女の怒りは治まる気配を見せない。

「……ハッ。決まっているだろ! 俺が億万長者になるためなら、クズどもの命なんてどうなろうと知ったことか! てめえも、そうじゃねえのか!?」
「……ッ!」
「てめえも、自分の為に……殺し合いに乗ったんだろ!? 自分以外の、奴らなんて……どうでもいいと思っているんだろ!? てめえも、俺と同じだ……!」
「もう、いいよ」

 そして振るわれる金属バット。
 男はまたしても倒れながら、苛立ちと共に少女を睨みつける。だが、少女は既に金属バットを持っておらず、代わりに男が愛用していたライフル銃を構えていた。
 万が一の時を備えて、既に弾丸も装填していた状態だ。

「そ、それは……俺のライフル銃!? か、返しやがれッ!?」

 男の叫びは、銃声によって遮られてしまう。
 弾丸は男の体を容赦なく貫き、呆気なく命を奪った。この殺し合いに巻き込まれる前の男が、一方的に人間達の命を奪い続けたように。
 悪人は地獄に落ちる運命にある。命が蘇る奇跡が起きたとしても、極悪人の魂は地獄に取り残されたまま。
 故に、彼が救われることは永遠にない。彼を救おうとする人間だって、一人もいないのだから。


【ライフル銃の男@ドラゴンボールZ 死亡】





 ライフル銃を発砲すると、男は即死した。
 これ以上、男の声を聞きたくなかったから、この手で殺してやった。
 何よりも、こんな男を野放しにしていたら、いつか283プロのみんなにも危害が及んでしまう。

 ――てめえも、自分の為に……殺し合いに乗ったんだろ!? 自分以外の、奴らなんて……どうでもいいと思っているんだろ!? てめえも、俺と同じだ……!

 それでも、殺してしまった男の叫びが、大崎甘奈の脳裏に焼き付いていた。

「……ち、違うよ。甘奈は、甘奈は……甜花ちゃんや千雪さん達を……守りたい、だけなんだから……」

 否定するため、必死に言葉を紡ぐものの、男の言葉を拭うことができない。あんな男と違うと言いたかったけど、心の奥底では否定できなかった。
 自分以外の奴らなんてどうでもいい。そんなはずはない。
 でも、甜花ちゃんや千雪さん達の為に、殺し合いに乗って人を殺した。なら、あの男と同じ?
 違う。違うなら、どうして殺し合いが始まってすぐに瀕死の男の命を奪った?
 他の人なんてどうでもいい。どうでも良くなければ、男の命を二人も奪わないはずだ。

 ――甜花、という女を見つけたら、お前のことを伝えておこう

 先程、甘奈にデイバッグを渡してくれた男の人の姿が、頭の中に浮かび上がった。
 もしかしたら、こうして甘奈が人を殺している間に、さっきの男の人が甜花ちゃんと出会っているかもしれない。そうなったら、甘奈が人殺しをしていることを知られる可能性がある。

 ――このカードを上手く使いさえすりゃ、俺が優勝することも夢じゃねえぜ! 弱いクズだって殺せるしな! イェーイ!

 あれから、あてもなく走っている最中に、人殺しを楽しんでいる男の叫びを聞いてしまう。
 その声により、甘奈の中で怒りと殺意がむくむくと湧き上がって、命を奪うことを決めた。相手がどんな武器を持っていようとも、知ったことではない。
 もう、甘奈は人を殺したのだから、今更怖くもなんともなかった。案の定、男は呆気なく死んでしまう。

「い、急がないと……早く、甘奈が行かないと……」

 ただ、甘奈が怖いことは二つだけ。
 一つ目は……こうしている間に、大切な甜花ちゃんや千雪さん達が殺されてしまうかもしれない可能性だ。
 そしてもう一つは……

「あ、甘奈……ちゃん……!?」

 甘奈の耳に、大切な人の声が響く。
 優しく、そして暖かいその声は決して聞き間違いなどではない。甘奈が姉のように慕い、そして何度も励ましてもらった彼女の声だ。
 その声に、一瞬だけ心臓が止まりそうになるも、甘奈は振り向く。すると、見つけてしまった。

「……ち、千雪……さん……!?」
「甘奈、ちゃん……!? 何を、しているの……?」

 大量の雨水と血で体が濡れてしまい、その手でライフル銃を持った大崎甘奈を……愕然とした表情で見つめている桑山千雪の姿を。




 何もかもが、桑山千雪にとって不条理なことだらけだった。
 突如として殺し合いに巻き込まれてしまったことはもちろん、この街で出会ったロイ・マスタングと名乗る青年の話は荒唐無稽だ。国家錬金術師という職業もまるで聞いた覚えはないが、マスタングは手品のように焔を出している。彼曰く、これも錬金術の一種らしい。
 また、映画館で起きた女性と怪物の戦いも、まるでフィクションのようだった。しかし、突き刺さる風の冷たさが、今が現実の出来事であると証明している。
 何よりも、名簿に書かれていた名前が正しければ、現実逃避が許されなかった。

(甘奈ちゃん、それに甜花ちゃん……私達、アルストロメリアのみんなや、真乃ちゃんや果穂ちゃんが連れてこられているなんて……!)

 彼女達の名前を目にした瞬間、千雪の胸は大きく締め付けられた。
 生まれた時からずっと一緒にいた仲良し姉妹の大崎甘奈と大崎甜花のことは、千雪もよく知っている。同じユニットとして活動したことをきっかけに、一緒にお出かけするようになった。
 ある時は、甘奈と甜花の二人に雑貨のことを教えたこともあるし、アルストロメリアの3人でお買い物に出かけたこともある。その一つ一つの思い出がかけがえのない宝物で、まるで二人も妹ができたようだ。
 彼女達の姉のようにいられることが、千雪にとって大きな喜びでもあるし、時に重荷に感じることもある。でも、幸せでいられたことは確かだった。
 だからこそ、こんなことにみんなが巻き込まれてしまったことが許せない。櫻木真乃や小宮果穂の二人も、ユニットこそは違えど、共に競い合ったライバルであり深い絆で結ばれた仲間なのだから。
 千雪をアイドルにしてくれたプロデューサーさんや、他のアイドルがいないことに、胸を撫で下ろすものの……喜べるわけがない。

(私が、みんなを守らないと……)

 連れてこられたアイドル達の中で、千雪は一番の大人だ。
 甘奈ちゃんや甜花ちゃんの二人、それに真乃ちゃんはとても優しいけれど、こんな状況に耐えられるとは思えない。果穂ちゃんに至ってはまだ小学生で、義務教育を受けるべき少女だ。
 きっと、みんなどこかで震えているかもしれない。彼女達のためにも、私だけはしっかりしないといけない……そんな重荷が、千雪の背中に圧し掛かっていた。

(私は、プロデューサーさんみたいな立派な大人じゃない。でも、甘奈ちゃんや甜花ちゃん達、それに帆高くんには支えが必要だから……)

 283プロのプロデューサーは立派な大人で、多くのアイドル達から尊敬と信頼を集めていた。20人を超えるアイドル全員に対して真摯に向き合っていて、千雪だって何度も支えられている。
 だけど、千雪がプロデューサーのような大人として振る舞えるのかわからない。みんなのお姉さんとしてしっかりしたいと思っても、プロデューサーのような頼れる大人でいられる自信がない。
 隣にいてくれるマスタングも、頼れる大人としての雰囲気を醸し出している。軍人として、幾多の修羅場を乗り越えてきたはずだ。
 でも、千雪はどうか? 裁縫や雑貨作り、それに道案内が得意なアイドルでしかない桑山千雪が、この殺伐とした状況で何ができるのか?

(……余計なことは、考えないようにしないと。私が、みんなのお姉さんとして、みんなを守らないといけないから……)

 だが、そんな千雪の思考を吹き飛ばすように、銃声が鳴り響いた。
 あまりにも唐突で、そして無情な音に千雪の意識は覚醒し、足を止めてしまう。そして、すぐそばで佇んでいる少女の背中に、千雪は目を見開いた。
 何故なら、守らないといけない彼女が……大崎甘奈が、血と雨水で全身を濡らしていたからだ。

「あ、甘奈……ちゃん……!?」

 千雪は震えていた。
 雨の冷たさではなく、動揺と恐怖によって。
 甘奈ちゃんのすぐそばでは、血まみれとなった男の人が倒れている。目の前で立っている甘奈ちゃんの洋服は血に染まり、その手にはライフル銃が握られていた。

「……ち、千雪……さん……!?」

 そして、彼女は振り向いてくる。
 雨で髪が濡れているけど、見間違えるわけがない。正真正銘、大崎甘奈本人だ。
 だけど、いつもの彼女からはまるで想像できない程の酷い姿を、千雪は信じることができない。

「甘奈、ちゃん……!? 何を、しているの……?」

 隣に立つロイ・マスタングの存在も、頼れるお姉さんとしてみんなを守りたいという決意も、全てを忘れてしまったように……桑山千雪は大崎甘奈に疑問をぶつけるしかできなかった。


【C-4/1日目/深夜】


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師(原作)】
[状態]:健康、傘を持っている
[装備]:予備の手袋&ライター@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:打倒主催
0:今は目の前の少女に対応する。
1:可能であれば帆高の保護。
2:協力者がいれば合流したい。
3:桑山千雪を保護する。

※参戦時期は本編終了後


【桑山千雪@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、傘を持っている、動揺
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:できるだけ、誰も傷付かないことを目指す。
0:あ、甘奈……ちゃん……!?
1:森嶋帆高を探す。
2:甘奈ちゃんや甜花ちゃん、真乃ちゃんや果穂ちゃんを探して守りたい。


【大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、動揺、ずぶ濡れ
[装備]:金属バット、ライフル@ドラゴンボール、剣or刀系の武器(詳細不明)@?????
[道具]:基本支給品×3、発煙弾三発入り(残り二発)、悪夢の鉄檻@遊戯王、ランダム支給品1~4(狛治の分も含む)
[思考・状況]
基本方針:甜花ちゃん達を守るため、森嶋帆高を殺す。
0:ち、千雪さん……!?
1:もう、アルストロメリアではいられないや……
2:甜花ちゃん達のことも見つけないと……
3:甜花ちゃんや千雪さん達のためにも、早く森嶋帆高を殺そう……


【悪夢の鉄檻@遊戯王】
プレイヤーを3ターン閉じ込める鉄檻を出現させる。
鉄檻に閉じ込められた相手は数分間脱出することができず、また外部からの攻撃を受けることもない。
ただし、一度発動させてから、再使用するまである程度の時間がかかる。

50:大相撲だよ!若おかみ! 投下順 52:世界に打ちのめされて負ける意味を知った
時系列順
前話 名前 次話
48:未知との遭遇 ライフル銃の男 GAME OVER
後藤
47:ふたつの雨 大崎甘奈 65:I Will
02:されど神は人を笑う ロイ・マスタング
09:It's raining cats and dogs. 桑山千雪
最終更新:2021年08月18日 15:12