「クソ猫野郎はいねえか」
雨に濡れた名簿を見ながらデュラムは舌打ちする。
自分に土をつけたあの男、トレイン=ハートネット。
奴もここに連れてこられていれば生還のついでにリベンジし雪辱を晴らすことができたのだが、連れてこられていないのならば仕方ない。
当面はこのまま殺しを愉しみつつ帆高を狙うのが良策だろう。
「おいマロロ。テメエはどうだ」
「...ひょほっ」
デュラムがマロロの方へと目を遣ると、マロロは名簿を握りしめながらその独特な笑みを零し肩を震わせていた。
(オシュトル...彼奴も連れてこられているとは好都合でおじゃる)
名簿に連ねられた仇敵の名を見た時は心底驚き、歓喜した。
名簿を見る前はハクを蘇らせる為に願いを叶える権利を手にしようと思っていた。
しかし、この会場にオシュトルがいるのならば話は別。
ヤマトを巡る戦乱ではたとえ戦に勝利しようともオシュトルが臆病風を吹かせ逃亡すれば仇を討つことは叶わなかったかもしれない。
ここは首輪を嵌められし蟲毒の場。森嶋帆高という鍵に触れない限りオシュトルに逃げ場はなく、最悪、帆高を逃がすことで自分諸共オシュトルを確実に殺すことができる。
千載一遇のこのチャンスを与えてくれた神子柴には感謝せねばなるまい。
「デュラム殿。マロの策は依然実行で構わないでおじゃる。ただし、森嶋帆高は『生け捕り』で頼むでおじゃるよ」
『生け捕り』。その単語にデュラムの耳がピクリと動く。
もともとは暁美ほむらを火種として大勢の参加者で帆高を囲み殺し、早々に脱出する手筈であった。
しかし、その彼を生け捕りにするということは殺し合いの長期化を意味する。
それの意味するところをデュラムは察した。彼もまた、雪辱を晴らすために燃えている身であるからだ。
「逃がしたくねえ奴がいるんだな?」
「オシュトル、ネコネ、ヤクトワルト、アトゥイ。この四名を討ち倒すまでは森嶋帆高を殺すわけにはいかぬでおじゃる」
「そいつらを殺るまでの間に出会った奴らはどうする」
「ひょほっ。火種は一つあれば充分...猛りすぎた業火は己の身すら焼き焦がすでおじゃるよ」
「ここから先は帆高以外は好きにしていい、か...最高だ」
帆高を囲むための最初の策であったが、危険視する目が募りすぎて帆高を確保する前に殺されてしまえばオシュトルと決着を着けることができなくなってしまう。
ならば火種はほむら一人で充分。ここから先は、なによりも己の足で帆高を確保するのを優先すべきであろう。
「それで、これからどうする?」
「この未開の地...民であればまずは正直に鳥居を目指すよりも、心細さに近場にある施設を目印に身を潜めるでおじゃろう。帆高も幾人か知己が呼ばれておるのならば猶更でおじゃる」
今、マロロたちがいるのはA-7。
当初はニアミスする可能性を考慮して南下しようとしていた方針を、地図上でA-8にあるというデパート施設へと変更した。
☆
マロロとデュラムがデパートにたどり着いた時には全てが終わっていた。
荒れた室内を辿り、その終着駅である一室。その扉の影に隠れて中の様子を伺えば、うわごとのように正義は不滅だと言葉を漏らし続けている柔道着の男が光の剣で拘束されており、マロロたちが言葉をかける前に首輪が鳴りだし、爆発。
哀れ男の首は吹き飛び、その身体は地に崩れ落ちた。
「ふむ...」
この状況の不自然さにマロロは顎に手をやり考える。
ここでなにがしかの戦いがあったのは察せる。しかし、下手人はおらず、柔道着の男は拘束されたまま放置されていた。
男が精神をやられていたのはなんとなく察せるが、ここまでの拘束をしておいて首輪を爆発させ確実に死ぬのを見届けていない下手人はやはり気がかりである。
そんなマロロを他所に、デュラムは室内をキョロキョロと見回し彼なりの違和感を見つけ出していた。
(...カメラが多すぎやしねえか?)
天井を見回せば同じ階層に監視カメラが幾つもあり、部屋にも一つは確実に置いてあるという徹底ぶり。
たかだか大型デパートに設置する量ではとてもない。
なぜ。なんのためにこの数を。
(...やめだ)
デュラム・グラスターは決して馬鹿ではない。
ただ、ごちゃごちゃと考えながら行動するのは性に合っておらず、そういうのを得意な者に任せる為に『星の使徒』に所属し、この場ではマロロと手を組んでいる。
大量のカメラの理由はわからないが、なんにせよこのデパートで起きた出来事を把握するにはもってこいだ。
自分にはそれだけでいい。
「マロロ、監視警備室に向かうぞ」
「ひょ?」
「監視カメラを見れば何が起きたかわかんだろ」
「カメ...ラ...?」
マロロの生きた時代にカメラの存在は普及していない。
使えるのはマロロすら敬う、ヤマトをかつて収めていた『帝』のみだが、彼もその存在を民には公にしていない。
いくらマロロが優れた知恵者であろうとも、己の知らぬ文化・文明にはその知は及ばず。
道すがらにデュラムに『監視カメラ』の概念を聞きつつ二人は監視警備室に足を踏み入れた。
「おぉ、これが監視カメラでおじゃるか」
眼前に広がる数多のモニターにマロロは目を輝かせる。
いくら復讐の念に憑りつかれている今の彼といえど、未知の機器との遭遇には僅かではあるが心躍らずにはいられない。
しかしそれはそれとすぐに思考を切り替え、デュラムと共に監視モニター機器を弄りデパートで起きた出来事の把握を開始する。
「......」
柔道着の男がその身体能力の高さで帆高と少年へと襲い掛かり、優勢のところを支給品で逆転、さらに部屋に押し込まれた先にいた少女により拘束され、そのまま沈黙。
少女が去った後も、男は変わらぬ様子のまま佇み―――あとはマロロたちがその目で見た通りの顛末だ。
「なるほど...一筋縄ではいかぬか」
敵に己の姿を誤認させる支給品に、身の軽さであれば鍛えた兵士にも劣らぬ少年、そしておそらく精神を狂わせ、遠隔で首輪を破壊できるであろう少女。
森嶋帆高は中々に強力な手ごまを保有しているようだ。
「しかし運が無いでおじゃるなあ。よりにもよって我らに手の内を明かすハメになるとは」
マロロの言葉につられ、デュラムもクツクツと笑みを零す。
柔道着の男は確かに強かった。
画面越しにもわかる躊躇いのなさに、マロロの知る猛者たちにも劣らぬ身体能力や格闘術。
にもかかわらず遅れをとったのは、彼が己の肉体でしか戦えなかったのが原因だ。
その点、デュラム=グラスターの能力『SHOT(ショット)』であれば彼らの技能にも有利を取れる。
巻き添えを防ぐためにも近距離でしか使えぬ精神汚染も、短いリーチであればいくらでも翻弄できる身の軽さも。
遠距離から絶えず放たれる気弾の前にはさしたる脅威にはならない。
遠距離を支配できるというのはそれだけでも確かな強みとなるのだ。
「このまま奴らを追い、あのガキと小娘を殺し、帆高を生け捕りにする。それで間違いないな?」
「ウム。先の火種(ほむら)が広がっておれば、彼奴等も気軽には動けぬでおじゃろう」
方針を定めた二人は、さっそく監視室を後にし帆高達の追跡を開始する。
かくして帆高たちのあずかり知らぬところで鬼ごっこの第二幕が開ける。
処刑人を退けた帆高たち三人。
次なる鬼は―――修羅と殺人ガンマン。
【A-8/デパート/深夜/一日目】
【マロロ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針:オシュトルを確実に殺す。
0:オシュトル一行(ネコネ、ヤクトワルト、アトゥイ)を殺すために策を打つ。
1:帆高達を追い、連れの二人を殺害し帆高を生け捕りにする。
2:帆高を殺し、願いを叶える為にお題を達成する。
※参戦時期は蟲を入れられた後。
※監視カメラ越しに帆高達と阿古谷の戦いを把握しました。
※阿古谷の首輪の爆破を瑠璃の力だと思っていますが、手順が複雑かつすぐに発動できる類ではないと考えています。
【デュラム=グラスター@BLACK CAT】
[状態]:健康
[装備]:普通の一般的な拳銃@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
基本方針:生還する為に手段を問わない。道中の殺しも愉しむ。
0:マロロの策に従い好きに暴れ帆高を生け捕りにする。
1:マロロの依頼通り、オシュトル一行を殺した後に帆高を殺し、帰還次第トレインに再度挑む。
※参戦時期はトレインに敗北後。
※監視カメラ越しに帆高達と阿古谷の戦いを把握しました。
※阿古谷の首輪の爆破を瑠璃の力だと思っていますが、手順が複雑かつすぐに発動できる類ではないと考えています。
最終更新:2021年08月18日 16:14