暗闇が晴れ、三人に増えたゆうさくも消え、最後の注意喚起が終わった。
少女はただ縋りつき、すすり泣き、倒れた男の名を呼び続けていた。

そんな光景を、リンゴォはただ呆然と眺めていた。

「......」

ゆうさくが刺されたとき、リンゴォは動かなかった――いや、動けなかった。
なにか運命的な力が働いた部分もあるにはあるが、それ以上に、見とれていたのだ。
ゆうさくの端整で誠実な顔立ち―――その背後の輝きに。

(あいつのしたことは...公正なる果し合いへの侮辱だ)

そう。
戦いの横槍はリンゴォの理念に最も反し軽蔑すべき行為だ。
故に、ゆうさくの行いには怒りしか覚えない―――本来の自分ならば。

だが、ゆうさくには嫌悪を感じなかった。
彼がリンゴォとスノーホワイトを救ったのは事実だろう。そのことへの感謝の念があるとでもいうのか?
公正なる果し合いを謡いながら、結局は保身を重んじ我が身が可愛いだけの男に過ぎなかったとでもいうのか?

『ちげぇだろ』
「ッ!?」

振り返る。そこには誰もいない。
辺りをキョロキョロと見回しても、いるのは少女1人と骸だけ。

(幻聴か...?)

『保身ならあのホモかガキを真っ先に殺せば済む話さ。なンでてめえが動けなかったか...そンな真っ当な理由なんかじゃねェ』
「......」

声は間違いなく、あの男、一方通行のものだ。
彼は死んだ。
これが幻聴であることを認識しつつも、その声から意識を離すことができず聞き入ってしまう。

『もう一度聞いてやるぜ、リンゴォ・ロードアゲイン。テメェは俺を殺してなにになりたかったんだ?』
(俺が、なりたかった、もの...)

あの時の一方通行の言葉が、哀れむような眼が脳内でぐるぐると渦巻く。
公正なる果し合いのもと、男の世界に殉じ生きてきた。その果てに生き残っていれば、確かな『男』として完成される筈だ。そこには一片の迷いもなく、この道を進んだ後悔もない。

ならばいまの状況はなんだ。ゆうさくに見惚れていた自分はなんだ。
あの男の死は、自分の道とは違う答えを示しているとでもいうのか?

(わからない...俺には...)



――――ビンビンビンビンビンビンビンビン


「ぇ...」

悪魔の羽音が鳴り響き、小雪の声が小さく漏れる。
顔をあげれば、そこにはゆうさくと同じ顔―――ゆうさくが己の命と引き換えに脱出させた筈のスズメバチが迫ってきていた。



ゆうさくを刺したあと、スズメバチは困惑していた。
ゆうさくは刺した。先ほどのSSタイトルのオチとしてゆうさくも注意喚起して散った。
あとはいつものように画面からフェードアウトし、この殺し合いのルールに従えば晴れて生還できるはずだった。
だが、主催からはなんのアクションもない。脱出できる気配など微塵もない。


『赤首輪を殺して安全に脱出するか、命をかけたギャンブルに挑むのか、それは自分で決めるんだな』

少年の声が響き渡る。
そういえばさっきからなにか話していた気がするが、ゆうさくを刺すのに夢中でほとんど聞いていなかった。

『あぁっと、肝心なことを忘れてた。赤首輪の報酬を手に入れる条件だけどな、報酬を受け取る権利が与えられるのは「一番近くにいた、赤首輪を殺したやつだと認識されたとき」だ』

!?

少年は衝撃の事実を告げた。
赤首輪を殺しただけでは脱出できないというそれを忘れちゃ...駄目だろ!と言いたくなるような新事実だ。
つまり、ゆうさくを刺したあといつも通りに飛び去ってしまった自分には脱出の権利はないということだ。

―――てめえふざけんなよ、こんなポカして主催が勤まると思ってんのかよ

そう非難を浴びせてもどうにもならない。
もはやスズメバチが生還する方法は―――

『もちろん、結果が気に入らなけりゃ認識が完了するまでにその裁定を覆すこともできる。どうやって覆すかは、まあオメーらで考えてくれ。それもお楽しみのひとつだからな』

あった。
生き残れる方法は、まだ、すぐ側に。

―――あの時、ゆうさくに最も近い位置にいたのは、小娘だ。ヤツを殺せば、赤首輪の権利は自分のものだ。

スズメバチは急いで引き返し、再び赤首輪である姫河小雪の前に姿を現した。




そんな事情を知らず、放送をロクに聞けていなかった小雪の腹部から髪先まで怖気が走る。
ゆうさくは命をかけてスズメバチを脱出させ、リンゴォと自分、そしてスズメバチまでも救おうとしてくれた。
けれど、スズメバチが脱出できていないということは、その行為が失敗したということ。

つまり

「―――――!」

ゆうさくの死は、ただの無駄死に―――


ザリッ

泣き喚きかけた小雪の耳に、音が届いた。
西部劇のガンマンが、ここぞとばかりに土を踏みしめるような、どこか頼もしき足音が。

「リンゴォ、さん」
「......」

リンゴォは、小雪に背を見せるようスズメバチに立ちはだかっていた。
小雪には、まるで映画のヒーローのように大きな背中だった。

「駄目、です...リンゴォ、さん」

そんな傷ついた身体で戦ったら殺されちゃう。
そう続けようとした言葉も喉からしゃくりあげる嗚咽が踏み潰す。

止める言葉もないまま、スズメバチが急接近し、再び戦いが始まる。
光景は同じ、されど両者の内面は全く違う。



―――あんな傷ついた雑魚ヒゲには遅れをとるはずもない。少女の方も、腑抜けているいまがチャンスだ。

スズメバチは生きて帰れるという焦燥の元、先ほどまでの冷静さは鳴りを潜めている。

一方でリンゴォもまた、先刻までとはまるで違っていた。

(何度も敗れ、命を救われ、恥知らずにも勝者に銃を向ける...なんて最低な男だ)

自分だけが何度も立ち上がる権利を与えられ、己の課したルールでさえ破っている。
いまの行為は、この戦いはまるで公正ではない。そんな自分を汚らわしく思う。
だというのに、何故いつもの震えがないのか。
何故、こうも肩が軽いのか。
何故、ゆうさくのあの輝きが脳裏にこびりついて離れないのか。

(...知りたい)

いまのリンゴォは、公正なる果し合いのため定めた己のルールさえ護れなかった敗北者だ。
『男の世界』において存在すら許されぬ愚物だ。生きた屍だ。
ならば。
男を捨てれば、男の世界を忘れ去れば。
こんな自分にもなにかが見えるのか。一方通行の問いへの答えは出るのか。

『テメェは俺を殺してなにになりたかったんだ?』

(俺の目指していたものとはなんなのか―――この弾丸で、見極める)

瞬間。

リンゴォの、スズメバチの視界には全ての光景がスローモーションに映った。
スズメバチの射程距離。
肛門がヒクつき、毒液がまさに発射されんとした瞬間、リンゴォの銃が抜かれ構えられた。
スズメバチもリンゴォ自身も驚愕する。そこはまだ射程距離外だろうに、と。
いま撃てば弾丸は大きく外れ、スズメバチに掠りもしないだろう。

だが、リンゴォは引き金を引いた。
自分でもわからない。だが、奇妙な確信があった。これでいい、と。

放たれた弾丸は、真っ直ぐに飛んでいく。

互いの思考を挟む余地なしに。

スズメバチの肛門がヒクつくももう遅い。

弾丸はスズメバチの首輪に着弾し―――爆ぜた。

その身体が四散した瞬間、スズメバチの肛門からウルトラマンが死ぬときに射精する要領で放たれる。
毒液ではなく、毒針。
その必殺の武器は、リンゴォの乳首に刺さり、ガクリ、と膝を着かせた。

刹那の戦いの果てに、勝者はいなかった。



リンゴォは自分が死ぬことを自覚する。
これでは相打ちだ。いま、己のスタンド『マンダム』で時を戻せばそんな決着もなかったことになり、勝者であるスズメバチに殺され『公正なる果し合い』を完遂できるだろう。

だが、もうそんな気にはなれなかった。
この結末に納得しているかのように、先ほどまでの力が嘘のように消えていく。

「......」

一方通行の問いの答えはまだ出ていない。
あと数秒の命、空虚のまま終えるのも、己の道を、信念を違えた敗北者らしい最期だろう。
脱力感に包まれリンゴォの瞼が閉ざされていく。

「駄目!」

投げかけられた叫びにリンゴォの意識が薄らと向けられる。
その半分ほど閉じられた視界に映るのは、涙を浮かべる少女。

「死なないでリンゴォさん!!」

少女の涙が零れ落ち、リンゴォの鼻筋を通り瞳にまで垂れていく。
その水滴を、温もりを感じた瞬間、リンゴォの脳裏に走馬灯のように光景が流れ出す。

戦場から脱走した父が死に、その煽りを受け裏切り者と蔑まれ、貧困の中、足手まといのはずの自分を連れて共に遠方へ逃げてくれた母と二人の姉たちとの。
病床に伏せることが多くとも、呆れず多くの病院にあたってくれた母との。
口の中を切り呼吸困難に陥った自分の手を優しく握ってくれた姉たちとの。

そんな光景が、とめどなく流れていき、彼女たちとの過去が、眼前で涙を流す少女やゆうさくと重なっていく。

そして解った気がした。ゆうさくから感じた輝きは、自己犠牲の美などではない。
彼女たちから与えられたような、打算も何もない温もりであることを。
戦いの前にいつも起こる震えは、その一歩を踏み出す度にかつてのソレから遠ざかるのを恐れていたのかもしれないことを。
もしかしたら...公正なる果し合いにおいてわざわざ排除するような自分の能力『マンダム』も、そんな過去を欲するが故に発現したものなのかもしれないことを。


「みと...る...もの、か...」

リンゴォの声にならぬ呟きと共に、ツゥ、と涙が頬を伝う。

人としてこの世の糧となるため。
そうして幾つもの屍を築いてきたうえで、自分が欲したものが、『男の世界』などではなくこんな生ぬるいものだったなどと。
自分の信じた道が嘘だったなどと。
ゆうさくを止められなかったのは、彼に見せ付けられた無償の愛情が己の汚れた光輝く道よりも高潔であったからなどと。
最期の攻防において、自分の為ではなく他者の為に戦ったからこそ、射程距離外からスズメバチに当てる芸当ができたのだと。
ふざけるな。
そんなもの認めてたまるものか。...なのに、心のどこかで安らいでいくのを感じてしまう。

「ぁ...逝...く...ッ」

閉じられた瞼の裏で浮かび上がった一方通行が、同情や自嘲の混じった複雑で寂しげな笑みを浮かべ、そこでリンゴォの意識は闇に落ちた。


...リンゴォ・ロードアゲインが最期に見出したものが、欲したものが真か虚構かはもう誰にもわからない。

彼の頬を伝った涙は、少女が流したものなのか。彼自身のものなのか。それすらも知るものはいない。

解ることはただひとつ。

目の前の現実に対して、少女があまりにも無力だったこと。

男たちが仮に救いを感じていたとしても、それが少女には伝わらなかったこと。

だから、少女はただ泣き喚くことしかできなかった。



【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ 死亡】
【リンゴォ・ロード・アゲイン@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】



【F-3/一日目/朝】

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】死への恐怖(絶大)、ゆうさくやリンゴォを喪った悲しみ(極大)
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない… 
0:???
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。
※死への恐怖を刻まれました。
※変身が解かれている状況です。
※ゆうさくを殺した人物及びスズメバチを殺した人物と認識されました。が、スズメバチは首輪を爆破されて死んだためスズメバチの分の権利を行使することは不可能です。



...

...

...

...

...

...


―――ビンビンビンビンビン

また、この音が聞こえてきた。戻ってきてしまった。

やはり恐い。どうしても慣れることなんてできやしない。

きっと、俺の死を悲しむヤツなんてどこにもいないのかもしれない。

でも、あの時彼女が流してくれた涙は、充分に俺を救ってくれた。

それだけで俺もまだやっていける。

...俺は君を応援してるよ。いつかきみが笑えるようにと。

だから、絶対に死ぬんじゃないぞ、スノーホワイト。

じゃあな!



...

...

...

...

...

...


...

...

...

...

...

...


あれ?音が、やnnnnnnnnnnn――――A problem has been detected and windows has been shut down
to prevent damage to your computer.

The problem seems to be caused by the following file: setupdd.sys

PAGE_FAULT_IN_NONPAGED_AREA

If this is the first time you've seen this stop error screen,
restart your computer. If this screen appears again,follow these
steps:

Check to make sure any new hardware or software is properly
installed. If this is a new installation,ask your hardware or
software manufacturer for any windows updates you might need.

If problems continue,disable or remove any newly installed
hardware or software. Disable BIOS memory options such as 
caching or shadowing.

If you need to use Safe Mode to remove or disable components,
restart your computer,press F8 select Advanced Startup Options,
and then select Safe Mode.

Technical information :
*** stop;0x00000050(0xFC659060,0x00000000,oxFC659060,0x00000000)
***setupdd.sys -Address F763BB1D base at F76150000, Datestamp 3b7dB507














―――本日は、御アクセス頂き、まことにありがとうございます。
大変申し訳ありませんがこの動画は××の為、ご覧になることができません。
またの御アクセスをお待ちしております。


【スズメバチに刺されるゆうさく@真夏の夜の淫夢シリーズ 削除】







ずずずっずぞぞぞぞ~

ぷはー

今日もイイ天気

デュフフフ



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交わることなき道しるべ スノーホワイト 汚れちまった悲しみに...
ゆうさく GAME OVER
リンゴォ・ロードアゲイン
スズメバチ
最終更新:2021年08月06日 23:46