風が吹き、草木が優しく囁く。
そんな緑溢れる大地をゆったりと散策する少女二人。
一人は、可憐な容姿と纏うバラがファンシーな色気を醸し出しており、もう一人は赤髪に長袖のパーカー、ホットパンツとどこかボーイッシュな雰囲気を醸し出している。
傍目からは、少女二人と自然の調和というひとつの絵でも描きたくなる衝動に駆られるほどに見栄えする光景に見えなくもない。
それに反して会話はひどく物騒なものではあるが。
「佐倉杏子。あなたは北で戦ったと言っていましたがなぜ中央を目指すのですか?」
「あいつもそれなりに怪我をしてたし、あんな派手な騒ぎがあったところに留まるとは思えない。なら、どうせなら他にも人が集まりそうな中央から潰していった方が得ってわけさ」
「なるほど。一理ありますね」
とまあ、こんな具合である。
それもそのはず。なんせ彼女たちはその可憐な容姿とは裏腹に、自分たちよりも非力であろう『人間』を狩りに行こうとしているのだから。
一人は新たなる戦いの為に。一人は生きる為に。少女二人はこれよりその道を朱に染めんと進む。
「ん」
ピクリ、とクラムベリーの耳が動く。
クラムベリーが捉えたのは、足音と話し声。
間違いない。参加者を捕捉したのだ。
「どうやら近くに参加者がいるようですね。こちらに向かっているようです」
「あんたの魔法でわかるんだっけか。このまま歩いてればいいか?」
「ええ。数分もあれば姿が見えると思います」
場所は森。まだ太陽が昇りきっておらず薄暗がりのため中までは認識できないが、距離もさほど遠くはないため来訪者の判明も時間の問題だ。
「何人だ」
「二人...いえ、足音はひとつ...話し声もしているのでこちらに気がついている様子もないのですが...」
足跡が聞こえないとなれば、片方は背負われているのか。
なんにせよ構わない。『人間』であれば狩るだけだ
二人は、速さを抑えることなく堂々と歩む。
片や来訪者に期待を寄せ、片や己の襲撃のパターンを脳裏に張り巡らせ。
ほどなくして、二人は来訪者に遭遇する。
来訪者は、二人の存在を認識したところでようやく止まり、杏子もまたそんな来訪者の正体に小さくため息をついた。
「さ、佐倉杏子...!」
「悪い、クラムベリー。いまは手をださないでくれ。一応あたしの知り合いだ」
来訪者は、杏子もよく知る魔法少女、美樹さやかだった。
☆
「さやか、あのハンペン顔はよかったのか?」
「...仕方ないよ。ああも炎を吐かれたら近づきようがないし」
アリスと別れたさやかは、まどか達の探索に時間を割いていた。
できれば、ワイアルドから助けてくれたモズグスの力になりたいとは思っていたが、炎の勢いが存外強力であり、近づくことすら敵わない状況であったため、断念せざるをえなかった。
それでも、炎の下手人が敵方であるワイアルドなら多少無茶をしてでも加勢したかもしれないが、撒いたのはモズグスその人。
さやか達を近づけまいとしているのか、それほど周りが見えない人なのか...少なくとも、遭遇時に抱いた好印象はかなり薄まっていた。
それも、さやかが加勢を諦めた理由のひとつである。
(とにかく、いまはまどかを探さなきゃ...)
ほどなくして、さやかと隊長は二つの人影を確認。距離が近づくにつれ、その正体も認識する。
一人は知らない女性だったが、もう一人はさやかの知り合い、佐倉杏子だった。
「あんた、その恰好...!」
さやかは、土煙で汚れた杏子の服を見て警戒心を高める。
理由はわからないが、彼女も誰かと交戦したのだと。
「ナリはあんたが言えたことじゃないだろ。あんたこそその様はどうしたんだよ」
かくいうさやか自身も、いや、杏子と比べれば明らかにさやかの方が傷つき薄汚れている。
全身に刻まれた擦り傷、ところどころが破れた衣類、乾いてはいるもののこびり付いている血。
さやかの知り合いでなければ、警戒しない方がおかしいレベルの惨状である。
「待つんじゃ、ワシらは殺し合いには乗っておらん!」
ひょこ、とさやかの背から顔を出し、隊長が制止の声を挙げる。
しかし、さやかはともかく杏子は最初から戦闘の構えとってはいなかった。
「こんな状況だ。戦いのひとつがあってもおかしくないさ。...そんな弱そうな爺さんを連れてるあたり、本当にあんたは殺し合いには乗ってないみたいだな」
「誰が弱そうな爺じゃ!ワシはこう見えても雅様の誇り高きしんえ」
「...乗ってないよ。そういうあんたはどうなのさ」
「遮るな!」
「あたしか?あたしは―――」
『あー、ごきげんようおめーら』
杏子の声をかき消すように、天より声が鳴り響いた。
「な、なによこれ!?」
「おそらく、参加者に現状を報せるための定期的な連絡でしょう」
「なんじゃお前は」
「森の音楽家クラムベリーです。いまは佐倉杏子と行動を共にしています」
「ど、どうも...」
杏子とは対照的に割りと礼儀正しく挨拶をしてきたクラムベリーに思わずあっけにとられながらも、彼女の佇まいから、もしかしたら杏子は杏子で殺し合いを止めるためにクラムベリーと共に行動していたのかなと頭の片隅に思い浮かべる。
が、そんな想いもすぐに塗りつぶされる。
『最後に脱落者だ。これから放送毎に死んだ奴らを読み上げてく』
「――――!」
脱落者。即ち、この約6時間ほどで死んだものたち。
これから呼ばれる一人の親友の名に腹を括り、未だ行方の知れぬ親友たちが呼ばれるかもしれない緊張で、さやかと隊長はごくりと唾を飲み込んだ。
そんな緊張の面持ちの二人とは対照的に、クラムベリーも杏子もさして変わらない佇まいで放送に耳を傾けていた。
『今回の放送までに死んだのは』
ドクン、とさやかの心臓が跳ねる。
『薬師寺天膳、志筑仁美』
呼ばれた。覚悟していたぶんの痛みが、さやかの心臓を締め付けた。
『南京子。一方通行』
呼ばれない。呼ばれない。
『ありくん』
呼ばれない。
『巴マミ』
呼ばれ―――
それ以降の情報は、さやかの耳から全て零れ落ちていった。
気がついたときには、もう放送は終わっていた。
「おい、さやか大丈夫か」
「マミ、さんが」
隊長の呼びかけも耳から通り抜けて行き、ようやく彼女の名前を口に出せたかと思えば、抑えきれない震えがさやかを襲う。
なんで死んだ。なんで死んだ。なんで死んだ。
頭の中はそればかりで、悲しみ悼むべき涙も出やしない。本当に生き返ったのかという疑問も遥か彼方に飛んでいってしまった。
なんで死んだ。誰が殺した。誰が殺した。誰が
「殺したのは『人間』ですよ」
まるでさやかの脳内を読み取ったかのようにポツリと呟いたのはクラムベリー。
今まで微笑を携えていた彼女の顔も、その一瞬だけは確かに険しいものとなっていた。
「あんた、マミさんのことを知ってるの?」
「はい。わずかではあるものの、実に充実した時間を過ごさせていただきました」
「なら、教えて...マミさんになにがあったの!?」
「構いませんよ。ですがその前に...」
クラムベリーはそこで言葉を切り、北―――下北沢近辺の方角に視線を向け静止する。
「また参加者か?」
「ええ。人数は二人、それもかなり無用心に、堂々とこちらに向かってきています」
「さっきの放送を聞いた上でそれなら、よほどの馬鹿か、腕に自信があるのか」
納得しているかのように話す二人にさやかと隊長は困惑する。
「え、えっと...」
「私の能力ですよ。詳しくは教えませんが、歩いてくる者くらいは判別できます」
「なら逃げんのか?お前たちもワシらと同じ赤首輪じゃろう」
「こっちに真っ直ぐ向かってくるならここで待ってればいいだろ。変に隠れる必要もない」
堂々と佇む杏子とクラムベリーに倣い、来訪者の現れるであろう方角に目を凝らすさやかと隊長。
ほどなくして、さやか達の耳にも微かな足音が届き、来訪者の輪郭もおぼろげながら浮かび上がってきた。
そして、その姿が明確になり、さやかの背に凍りつくような怖気が走る。
さやかがその肉眼で捉えたのは二人の異様な男。
一人は一糸纏わぬ、文字通り全裸にランドセルという冒涜的な格好でスキップをする筋肉質な青年。
もう一人は白髪にタキシードの、どこかヴィジュアルバンドのような服装の男。
一目で異物だとわかる前者はともかく、後者は服装だけなら若干時代錯誤を感じる程度のものだろう。
だが、白髪の男がなによりも異様だったのは、口元を覆う赤黒い血液。
なにより、その手に持つだれかの残骸が、男の異様さと異常さを際立たせていた。
白髪の男は、四人のもとへたどり着くなり、ニイと口角を吊り上げた。
「これはこれは大層なお出迎えではないか」
眼前の男の放つ醜悪な気と異様さに、さやかは思わず変身し剣を構える。
「み、雅様!」
そんな彼女の背から隊長の声が響き渡る。
雅。その名は、確かに隊長から聞いていたものだ。
「雅様、ご無事でなによりです」
「ハッ、お前か」
目の前の男の異様さに気がついていないはずがないだろうに、朗らかに話しかける隊長に、さやかは困惑してしまう。
「た、隊長...?」
「よかったなさやか。これでもう安泰だ。こんなに早い段階で雅様と合流できるなど、なんて運がいい」
「いや、それよりも、その...」
隊長が嫌々媚を売ってるとは思えない。
なのに、たとえ信頼のおける者だとしても、眼の前の惨状を見てなぜ平気でいられるのか。
なぜ、いまが彼にとって当然とでもいうかのように平然としていられるのか。
さやかの中では、そんな隊長への複雑な感情が滲み始めていた。
「...何者だ、あんた」
いまの雅の姿を見れば、流石に杏子も警戒心を露にし、いまにも槍を突きつけんばかりに睨みをきかせる。
「ぼくひで」
だが答えたのはひでだった。
「あんたじゃねえよ。いや、あんたもわけがわからねえけどさ。...で、改めて聞かせてもらうけど、あんた何者だ」
「私の名は雅。吸血鬼の王だ」
吸血鬼。その単語に、杏子は思わず鼻で笑ってしまう。
別に彼を馬鹿にしたわけではないのだが、教会の出であるため、吸血鬼のような怪物の創作話はそれなりに馴染みのあるものだった。
雅がそれを名乗ったものだからつい噴出してしまったのだ。
「それで、その吸血鬼様がなんのようだ?」
「なに。血の匂いがしたのでね。どんな輩がきたのか見に来ただけだ」
「そうかい」
パァッ、と光が身体を包み、杏子の服が魔法少女のものに変わる。
その光景に、突きつけられる槍と殺意に雅は一切の動揺もなく笑みを深める。
「早まるな。なにも今すぐ戦りあおうというわけではない。私は珍しいものには目がなくてな。この機会に赤首輪の人外とは話をしてみたいと思っている」
「話、ねえ。どうするクラムベリー」
「構いませんよ。興味があるのは私も同じですから」
「だ、そうだ。あたしも構わないよ」
雅に全く物怖じせずに言葉を交わす杏子とクラムベリー。
そんな二人を見てさやかは戸惑うも、話だけなら、と遅れて了承する。
「おっと、忘れるところだった」
雅はひょいと右手に持った腕の形をした残骸を掲げ、口が耳元まで裂けるほど開き。
ガブッ。
血を撒き散らしながらバリバリと豪快な音を立てて噛み砕いた。
一連の流れとその際のご満悦な表情を見て、ドン引きしつつさやかは思った。
こいつとは絶対に相容れない、と。
☆
数分後。
情報交換の場を設けた5人の赤首輪たちは身を隠すこともなく、その場で輪となって。
「ぽかぽかして気持ちいいのら」
その輪から外れて、ひではひとりご満悦な表情を浮かべつつ日向ぼっこを始め、気持ちよかったのかそのまま寝息を立てて昼寝を始めてしまった。
「雅様。あれは新しい邪鬼ですか?」
「いや、拾っただけだ。私にもよくわからん...さて、ひでのことはともかくだ」
雅はジロリと一同を見回し、笑みを浮かべる。
「揃いも揃って幼い女とは。まさか貴様たち、暁美ほむらと同じ魔法少女ではあるまいな」
"魔法少女"と"暁美ほむら"の単語に、杏子の目つきは鋭くなり、さやかの心臓がドキリと跳ね上がる。
「あんた、あいつと会ったのか」
「つい先ほどまでは共に行動していたのだがな。結局牙を剥いてきたので返り討ちにしてやったよ。その証拠に奴隷の印も刻んでやった。...仲間だったか?」
「別に仲間じゃないさ」
嫌らしく笑みを浮かべる雅に対し、杏子は依然変わらず。
しかし、彼女の醸し出す空気が変わっていたのは誰もが感じ取っていた。
「おっと、恐い恐い。あんまり恐いからつい手を出してしまいそうだ」
「下らない茶番は止めな。殺されたいなら別だけどさ」
「コラッ、雅様になんて大それた口を!さやか、友達ならなんとかいってやれ!」
「ごめん、隊長。あたしから見てもあいつを止める気にはならないよ」
さやかは決してほむらと仲が良いわけではないし、むしろ警戒しているほどだ。
しかし、だからといって痛めつけたことを嬉々として語る男に肩入れをしようとは思わないし、それに苛立つ杏子の方がまともだとも思っている。
だから、ここで杏子が雅を殴り飛ばしたとしても止める言葉は持てないだろう。
「佐倉杏子の言う通りですね。私たちは茶番を楽しむ為に留まっているわけではありません」
そんな空気の中、険悪な空気を醸す二人に割って入ったのはクラムベリーだった。
「私には目的があります。確かに赤首輪の人外には興味がありますが、だからといって無駄なお喋りに時間を費やしたくはありません」
「ほう。そこまで急ぐ目的とはなんだ?」
「この場における、『人間』の排除。その後に赤首輪の参加者だけで闘争を繰り広げ決着をつけることです」
クラムベリーの宣言に、さやかは息を呑む。
『人間』の撲滅。それだけでなく、赤首輪の参加者間で脱出するための協力ではなく、赤首輪同士での戦い。
今まで大人しかった彼女からそんな物騒な言葉を聞かされたのだ。予想外にもほどがあり、驚愕するばかりで怒ることすらできなかった。
「弱者がロクに戦いもせず、疲弊した強者を屠る...これほどつまらないことはないでしょう。あんな不愉快な想いは二度と味わいたくないのですよ」
「奇遇だな。私も人間は嫌いでね。無意味に恐れ、無意味に嫌う。そんな愚かな生き物たちには心底呆れ果ててしまったよ」
クラムベリーだけでなく、雅もまた人間の抹殺を宣言する。
(そんな...こいつらを放っておいたら、まどかが...!)
さやかの背を冷や汗が伝う。
もしもこの二人を放っておき、まどかが遭遇してしまえば。
考えるまでもない。ただでさえ争いを嫌うまどかだ。為すすべもなく殺されてしまう。
(そんなの嫌だ...)
さやかの手に自然と力が込められる。
この二人はここで止めなければまどかが被害を被るかもしれない。
クラムベリーも雅もその実力は未知数だ。おそらく一人で挑んでも勝てはしないだろう。
だが、二人なら。この場にいるもう一人の魔法少女、佐倉杏子と組めば勝機はあるかもしれない。
(杏子...!)
もとは、皆の幸せを願っていた彼女なら。共に、目の前の悪鬼たちと戦ってくれるかもしれない。
さやかは期待と懇願を込めて視線を投げかけた。
その先には
「いいこと言うじゃん、あんた」
かつて戦った時に見せたものよりも邪悪な笑みがそこにあった。
「大した力も信念も無いくせに、自分と違えば足を引っ張ることしか考えない。あたしもそんな奴等は大嫌いさ」
「ハッ。ならば、お前たちの目的は私と同じということか」
「ああ。あんな奴等を護るなんざ死んでもゴメンだね。さっさと殺すなり結界に放り込んで魔女の餌にするなりした方が世のためさ」
言ってのけた。
杏子もまた、嘘偽りなく『人間を狩る』ことを宣言した。
「な、なに言ってるのさ杏子!」
さやかは思わず叫んでしまう。
彼女は確かに利己的な魔法少女だ。
けれど、それにはそう為らざるをえない過去があり、冷徹なだけでもなかった。
実際、彼女は傍にいたまどかを攻撃するような素振りも見せなかったし、直接人間を魔女の結界に放り込んでいたとも聞いていない。
それを杏子は『する』と言ったのだ。さやかが反射的に声をあげても仕方のないことだろう。
「なに言ってるもクソもない。前にも言ったはずだろ、あたしはあたしの為だけに魔法を使うって」
「でも、あんたは...!」
「知ったような口を利いてんじゃねえよ。あんたがあたしのなにを知ってるのさ」
さやかはグッ、と言葉を詰まらせる。
杏子の過去は確かに彼女の一面だが、それが彼女の全てであるはずがないし、この殺し合いが始まってからの彼女のこともまだ知らない。
果たして彼女は、過去の経験から人間を殺すほど嫌いだったのか、それともこの殺し合いで嫌いになってしまったのか。
もしも後者だとしたらそれは何故?
―――殺したのは『人間』ですよ
ふとクラムベリーの言葉が脳裏を過ぎる。
巴マミを殺したのは『人間』だった。
それをクラムベリーが知るのは、マミが殺された場面を彼女が知っているからだ。
そんな彼女と杏子は共に行動していた。
となれば。
(まさか―――)
「青髪の娘。貴様は、『人間』を護るということでいいんだな?」
さやかが解に辿り着くのとほぼ同時、雅の問いかけが被せられ、思考の停止を余儀なくされる。
かつての魔法少女の真実を知る前なら、躊躇わず感情のままに肯定することが出来ただろう。
けれど、さやかもまた知っている。
この世には救いたくない人間なんていくらでもいる。
自分に尽くしてくれる女を消耗品の道具としてしか見ない男や、仁美を殺した少年、そしてあの巴マミを殺した者。
彼らの影が、さやかに躊躇いを喚起させる。
「あ、あたしは...」
言い淀む。
この四面楚歌から逃れるためなら、他の三人と同様に人間の撲滅を宣戦すればいい。
嘘でも真でもそう同意してしまえばそれだけで済む話だ。
けれども、いつも自分を気遣ってくれた親友が、こんな狂宴においても友情に殉じてくれた親友の影が、嘘をつくことすら押し止めてくれる。
「ハッ。まあいいがな」
さやかの返答を待たずして、雅は目を瞑り薄ら笑いを浮かべる。
「貴様が人間を護ろうが狩ろうが、私が楽しめるならば構わない。せっかくの機会だ。明以外にも楽しませてくれる者がいれば歓迎しよう」
雅の意外な言動に、さやかはキョトンとしてしまう。
てっきり、自分に反する者はすべからく排除するつもりだと思っていたが、彼の言動を要約すればそういうつもりでもないらしい。
であれば、最悪三対一の構図になりかねない現状、退くべきかもしれない。
「ただ」
その微かな気の緩みを突いたかのように。
「自衛できるほどの力も持たん輩であれば別だがな」
雅のブーメランはさやか目掛けて投擲された。
「なっ!?」
あまりにも唐突な襲撃に、さやかは反射的に構えていた剣を盾にする。
甲高く鳴り響く金属音。
その衝撃に、踏ん張る為の力すら込められていなかったさやかの足はたたらを踏み数歩の後退と共に勢いよく尻餅をついてしまう。
「くあっ」
「どうした?貴様はそんなものか?」
戻ってきたブーメランをパシ、と掴み、雅はゆったりと歩を進める。
「そうならば貴様は不合格といわざるをえんな。他の参加者に食われる前に私が糧にしてやろう」
「ッ...のぉっ!」
飛び退き体勢を立て直すさやか。
雅は、ブーメランを持つ腕を振り上げ再び投擲し、さやかへの追撃を―――しなかった。
放たれた方向は左。目標は―――クラムベリー。
顔を傾け躱されたブーメランは、空を旋回し再び雅の手元に戻る。
「なんのつもりですか?」
「なに、ただのテストだよ。果たして貴様らが私に従うに値する強さがあるかどうかのな。いまのをかわせたあたり、そこの娘よりは素質がありそうだ」
「わかりやすい解説に感謝します」
上から目線の物言いに対しても、クラムベリーは不快感を顔に出さない。
どころか、浮かべていた微笑は崩れ、凶悪さすら醸し出す笑みへと変わる。
「お返しに私も試させて頂きましょうか。あなたが、巴マミのように私の闘争に足る存在であるかを」
タンッ、と跳躍し、雅との距離を詰めると同時、腹部に放たれるクラムベリーの拳。
雅は躱す素振りすら見せず、防御すらとらず、迫る拳をまともに受け、後方に吹き飛ばされた。
「み、雅様ァァァァ!!」
響く隊長の叫びも空しく、パラパラと砂粒が舞い降りる。
「その程度ですか?あなたこそ、口の割には実力不足の言葉が似合いそうですが」
「これは手厳しい。ならば、貴様の不満を打ち消す程度には頑張らねばな」
立ち上がり、口元を伝う血を拭い、ブーメランで切り掛かる雅。
振り下ろされる凶器に対し、クラムベリーは素手で立ち向かう。
ブーメランと盾のように翳された左腕はカキン、と音を鈍く響かせる。
クラムベリーは、右の拳を固め、雅目掛けて振るおうとするも、その雅の姿は確認できず。
僅かにブーメランへと意識が向いた刹那で何処へ消えたのか。
その解を出す前に、クラムベリーの右拳は、背後にまわっていた雅へと振るわれた。
パァン、と小気味良い音と共に鮮血が舞い、雅の上体がよろめいた。
「ぐがっ」
堪らず呻く雅に放たれるは、クラムベリーの後ろ回し蹴り。
無防備な胸板に振るわれたソレは、再び雅を後方に吹き飛ばし地面を舐めさせる。
「ッ!」
同時、拳に走る痛み。
見れば、叩き込んだ拳の皮が千切られ、中の肉が露出し血が流れ出していた。
「フム。なかなか美味いじゃないか」
もごもごと口を動かす雅を見て、クラムベリーは理解する。
拳を叩き込んだあの瞬間、雅に皮を食い破られたのだと。
(面白い)
クラムベリーの笑みは愉悦に染まる。
やはり戦いは同等の力で行われるのが最良だ。
眼前の男は自分の望む闘争に相応しい存在であるようだ。
もっと味わいたい。もっと拳を重ねあいたい。今すぐにでもあの男を蹂躙したい。
(けれど、私はひとつの闘争で満足はしたくない)
湧き上がる闘争の衝動を抑え、クラムベリーはフゥ、と一息をつく。
(す、すごい...)
「5秒」
眼前の攻防の激しさに呆気にとられていたさやかに、クラムベリーは囁くように語りかける。
「あなたが起き上がるまでにかかった時間です。巴マミは本気でない時でも3秒以内には立ち上がっていましたよ」
「あんた...?」
「巴マミは美しく、気高く、強い魔法少女でした。あなたはまだ未熟です。いま喰らったところで甲斐がない。その実が熟す時を心待ちにしています」
自分の言いたいことを告げるだけ告げると、クラムベリーは駆け出し、雅もまたそれを迎え撃つ。
互いの力量は既に測ったのだ。互いに、ここで仕留めるつもりもないのだが、クラムベリーは巴マミとの、雅はぬらりひょんとの戦いでの消化不良感を満たさずにいられなかった。
「まったく...勝手に盛り上がっちゃってさ」
闘争という名のじゃれあいを遠目で眺めつつ、呆れたようにため息をつく杏子。
杏子にとって闘争など合理的に進め、さっさと片付けるべきものである。
いまの段階で雅にもクラムベリーにも争う理由などないというのに、ああも徒に体力を消耗する気がしれない。
(まあ、あのぶんじゃ気が済んだら終わるだろ)
あほくさ、と杏子は退屈そうに欠伸をする。
「...それで、あんたはどうするのさ」
ジロリ、と視線をさやかに移し、雅に代わり杏子が問いかけなおす。
「あんたの友達が人間で、ここに連れて来られてるのは知ってる。あいつらはどうかは知らないが、あたしはわざわざあいつまで狩るつもりはないよ」
「!」
「なに意外そうな顔してるのさ。あたしは自分のためだけに戦うって言っただろ。あんたの友達なんて殺すつもりも護るつもりもないさ。
それに、クラムベリーはともかく雅はあたしも気に入らない。ここで殺しはしないが、精精、同盟だけ結んで一緒に行動はしないだろうね」
杏子はまどかを殺すつもりがない。
それだけで、さやかの葛藤は薄らいでいく。
そもそもの話、葛藤の大半がまどかの存在なのだ。
彼女の安全が確保されていれば、この会場の『人間』を排除することに反論する意義も薄くなる。
同盟するにしても、雅とクラムベリーはともかく、杏子ならまだ信頼はおける。
ならば、杏子と同盟を組み、『人間』を排除しマミと仁美の仇をとることこそが最善の道なのではないだろうか。
(でも...)
けれど、もしも他の『人間』がもっとまともな者が多かったら。そのまともな者がまどかと親しい関係になっていれば。
自分としてはその人も助けたい。この殺し合いが終わってもまどかと共に一緒にいてほしい。
だが、彼らは違う。たとえ同盟者の友人であっても躊躇いなく殺すだろう。
彼らは良し悪しに関わらず、『人間』が嫌いなのだから。
彼らに同行し、いざというときにだけ止めるという芸当も、実力に差がある自分にはできまい。
唯一自分の味方をしてくれそうな隊長も、雅がいればあちらについてしまうことも考えれば、この選択肢は茨の道となるのは想像に難くない。
(あたしは...どうしたい?あたしは...)
【G-6/一日目/朝】
【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:疲労(大)、全身打撲(再生中)、出血(極大、再生中)、イカ臭い。お昼ね中。
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す
0:雅についていく
1:このおじさんおかしい...(小声)、でも好き
【雅@彼岸島】
[状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)、頭部出血(再生中)、疲労(大)、弾丸が幾つか身体の中に入っている。
[装備]:鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:バトルロワイアルのスリルを愉しむ
1:主催者に興味はあるが、もしも会えたら奴等から主催の権利を奪い殺し合いに放り込んで楽しみたい。
2:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
3:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
4:あのMURとかいう男はよくわからん。
5:丸太の剣士(ガッツ)、暁美ほむらに期待。楽しませて欲しい。
6:ひとまずクラムベリーとの『テスト』で欲求不満を解消する。
※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※魔法少女・キュゥべえの情報を共有しました
※首輪が爆発すれば死ぬことを認識しました。
※ぬらりひょんの残骸を捕食しましたが、身体に変化はありません。
【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中~大)、全身及び腹部にダメージ(中~大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り、右拳損傷(戦いにあまり支障なし)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~2 巴マミの赤首輪(使用済み)
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
0:ひとまず雅との『テスト』で欲求不満を解消する。
1:杏子と組む。共に行動するかは状況によって考える。
2:一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。
3:ハードゴア・アリスは惜しかったか…
4:巴マミの顔を忘れない。
5:佐山流美は見つけ次第殺す。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、雅への不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1、鮫島精二のホッケーマスク@彼岸島
[思考・行動]
基本方針:どんな手段を使ってでも生き残る。そのためには殺人も厭わない。
0:さやかの返答を聞く。答えにいっては一緒に行動してやるかもしれない。
1:クラムベリーと協定し『人間』を狩る。共に行動するかは状況によって考える。
2:鹿目まどか、暁美ほむらを探すつもりはない。
※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。
※魔法少女の魔女化を知りましたが精神的には影響はありません。
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意、モズグスへの警戒心(中)
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
1:人間を狩るか、狩らないか...
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミさん...
※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。
※スノーホワイトが自分とは別の種の魔法少女であることを聞きました。
※朧・陽炎の名前を聞きました。
※マミが死んだ理由をなんとなく察しました。
【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)、頭部に火傷
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明か雅様を探す。
0:雅様と会えた!
1:明とも会えたら嬉しい。
2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。
※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。
※朧・陽炎の名前を聞きました。
最終更新:2021年08月06日 23:27