私は、どこで間違えたんだろう。

ずっと、ずっと町の皆を守ってきた。
痛いのも、苦しいのもずっと我慢してきた。

ここに来てからもそう。
一般人を守ろうと頑張って戦った。
狙われるかもしれなくても、その恐怖を乗り越えた。
...なのに。

どうして、守ろうとした人に殺されなくちゃいけないの。どうして...


そっか。
私が人間じゃないから、しょうがないか。
こんな状況だから、しょうがないのよね。
危なくなったら、切り捨てられるのも、しょうがない、のよね


...こんなの、今まで私が守ってきたものが嘘みたいじゃない。
他人の為に戦うのなんて馬鹿らしくなっちゃうじゃない。


...どうして。

お父さんとお母さんが死んだ時、どうして1人だけ助かろうとしたのかな。

やっぱり、私はあの時死んでおくべきだったのかな。

あの時、私も二人と一緒に死んでいれば、魔法少女になんてならなければ、こんな思いをしなくてよかったのかな。




二人の身体が地上に激突する。

高さにもよるが、ビルと定義される建物の屋上から落ちれば人は死ぬ。
クラムベリーが平気な顔をしていたのは、彼女が頑強な魔法少女で、落ちる際の衝撃を己の魔法の衝撃波で和らげたからだ。

だから、無防備な状態で落ちた佐山流美は本当ならば死んでいる。
しかし、彼女は生きていた。まるでボールのように吹き飛ばされながらも、彼女は健在だった。

彼女が無事だった理由は、マミから渡された支給品の賜物だった。
支給品の中身はガンツスーツ。死してガンツに呼ばれた者に配られる、身体能力を底上げする代物だ。
このスーツのお蔭で、流美はクラムベリーへの不意打ちが成功し、落下しても五体満足でいられたのだ。
本来の用途では支給者以外は使用できないものなのだが、このロワにおいては使用者に合わせてサイズが変更する仕様となっていた。

(と、巴さんは...!)

落下地点を見据える。
いた。
マミは伏していた。
思ったよりも外傷は派手ではないが、血だまりに沈み倒れていた。

いましがたマミを刺したナイフを強く握りしめ、トドメを刺さんと駆ける。

が、流美の腕を掴みそれを防ぐ者が一人。クラムベリーである。

無言無表情のまま流美を持ち上げ、腹部へと膝蹴りをいれる。
そのまま飛ばされることを許さない。吹き飛びかけた流美を掴み、地面に叩き付け、苛立ちをぶつけるガキ大将のように蹴り飛ばす。

(私の危惧したことが起きてしまった)

クラムベリーは顔にこそハッキリとは出さなかったが、静かに怒っていた。
弱者が強者を打ち倒す。それだけならばまだ構わない。
だが、道具だけならばいざ知らず、あまつさえ甘さに付け込み裏切り、弱者がロクに戦わずして強者を屠る。
それを巴マミという極上の獲物にやられたのだ。
これを下らぬ結末と、侮辱と言わずしてなんというか。



(やはり、私の方針は間違っていなかった。赤首輪以外の参加者は、真っ先にその存在さえ排除すべきでした)

「う、くっ...」

常人ならとうに五体粉砕されている攻撃も、ガンツスーツのお蔭でかなり軽減される。
だから、流美もまだ意識はあったし、身体は動かせる。

だが、ゆっくりと歩み寄ってくるクラムベリーに立ち向かうことなどできず、その一歩一歩に対し死神の如き恐怖を覚える。


「なにを呆けているのですか。あなたは巴マミを殺したいのでしょう。ならば、私にもそのナイフを突きつければいい」

「―――ひっ」

クラムベリーより放たれた殺気に竦み、ガチガチと歯が打ち鳴らされる。

(やっぱり無理...あいつには敵わない!)

流美の選択は、戦いでもなく謝罪でもなく、逃走。
生物ならば誰もが保有している生存のための本能。

逃すものか。逃げる流美を追おうとするその足に、しかし纏わりつくような違和感を覚える。
これは重り―――違う。リボン。巴マミの魔法のリボンだ。

「巴マミ...!」
「......」

マミは伏したまま、それでもクラムベリーを行かせまいと魔法を行使した。
だが、クラムベリーにとってこの程度はただの布きれ同然。少し魔法で揺らしてやれば、簡単に拘束から逃れられる。



「...これは失礼しました。そうですね、魔法少女(わたしたち)がこの程度で死ぬはずがない。こんなことも忘れていました」

クラムベリーは、敢えて拘束から逃れなかった。
巴マミがまだ戦おうと引き留めるのだ。あんな小者よりも、優先すべきは眼前の強者との決着である。

「さあ、早くその怪我を治してください。そして決着をつけましょう。心配はいりません。あんな小者の介入は私が二度と許しませんから」

巴マミの怪我はそれほど深くは無い。
落下の高さも大したことはなく、内臓が零れているわけでもない。
折れた筈の足を治した魔法があれば、難なく回復できるはずだ。

「...巴、マミ?」

なのに、マミは動こうとしない。

クラムベリーの足に一本のリボンを括りつけたまま、うつ伏せに倒れているだけだ。

流石に妙だと思い、耳を澄ませる。

呼吸はしている。心臓の鼓動も聞こえる。ならば、いったいなぜ―――

「...っ...う、え、え、ぇ...」

耳に届いたのは、信じたものに裏切られたことを悲しむ、か弱く哀れな少女の泣き声。

本当は、裏切った流美を助けたくなどなかったのでは、とさえ思えるほどの、絶望と涙に歪んだ丸裸の素顔。

ようやくわかった。

クラムベリーの認めた強き"魔法少女"は、もう死んでしまったのだと。



―――パリン。



零れ落ちた少女の涙が、己の全てを絶望に染めあげた。




「はあっ、はあっ...クソッ」

クラムベリーからひたすらに逃げていた流美は、追手がないことを確認すると深く息をついた。

マミを刺したのは、間違いなく流美自身の意思によるものである。
何故、彼女が味方であるマミを刺したのか―――生き残るために決まっている。

幾度かの轟音を聞いた時、流美は、一旦は逃げようとも考えた。
だが、ここである疑念がよぎる。クラムベリーは赤首輪の参加者だ。なら、それとあそこまで戦えるマミは何者だと。
もしかしたら、首輪の色をうまくごまかしているだけで、本当はマミも赤い首輪の参加者なのでは。
もしそうならば、二人の漁夫の利を狙えば、無事に脱出を果たせるのではないか。
その考えに至った流美は、もう一度支給品を検めた。
いまの手持ちは、ナイフと妙なスーツ。入っていた解説書を読めば、このスーツを着れば超人的な力が手に入るとのことだった。
胡散臭いアイテムではあったが、もしこれが本当ならば、もしかしたらイケるかもしれない。
試しに着用し、身体を動かしてみた。まるで体が自分のモノではないほど軽くパワーも溢れててくる。
当たりだ。これさえあれば、大丈夫だ。
流美は気づかれないように戦場へと近づき、二人の戦いを眺めていた。
目で追うことも難しかったが、わかったのは、マミもまた赤い首輪の参加者であったこと、そして全体的に見てクラムベリーの方が優勢だったこと。

(狙うなら、巴さん、だよね)

マミを殺すことができれば、自分は元の場所に戻れる。
今度こそこの手で殺人を犯せば、もう今までの怯えるだけの自分ではなく自信を持っていきていける人生が待っている。
それに、マミとは赤の他人。ならば、殺したところで大して心は痛まないはずだ。

「......」

ほんの少し前の優しくしてくれた思い出が脳裏を過る。
イジメられ続けてきた流美に向けられる純粋な善意。友達になって欲しいとも思ったかもしれない。
やはり標的はクラムベリーにしようか。
しかし、正面から挑めばまず間違いなく勝ち目はない。
だが奇襲ならどうだろうか。奇襲ならば、あの実力差では勝ち目がない相手でも勝機が生まれる。
成功すれば、だが。

悩んだ末に、彼女は決めた。
最初はクラムベリーに奇襲を仕掛け、殺すのに失敗したらマミを殺そうと。

―――やるしかない。殺らなければ、遅かれ早かれ自分は詰んでしまう。

逃げられる最大のチャンスはいまだ。
そう言い聞かせ、ひたすら奇襲を仕掛けるチャンスを待ち続けた。


...この生き延びるための理由付けでさえ、彼女の真意を解することはできない。



彼女が真に恐れていたのは、家族焼殺事件の真実の暴露。もしもこの会場に野崎春花がいなければ、流美は少なくともマミを刺すことはなかっただろう。
真実を知られること自体ではなく、あれほど優しく接してくれたマミに見捨てられるのが怖かった。
マミが見捨てないでくれると信じるのは無理だ。クラスメイトの家族を焼き殺した者を受け入れろという方が無理難題というものだ。
このまま二人で行動していれば、いずれ、その場面には必ず遭遇してしまう。
もしもマミに殺人鬼だと蔑まれ彼女に敵視されれば、もう頭がどうにかなってしまうだろう。
だから、捨てられる前に切り捨てた。勝者となるべく、優しかった彼女を裏切った。

本音を隠し、生き残るためという大義名分を盾に巴マミへとナイフを突き立てた。

その結果がなにも得るもの無しの逃走だというのだから笑い話にもならない。

(もう、後戻りはできない)

佐山流美は本当に独りになった。
もう、彼女の安否を気に掛ける者はいない。

(いないなら、作って利用するだけ...)

マミと仲良くなりかけてしまったから余計な情を挟みクラムベリーに奇襲するという悪手をうってしまった。
もうマミのように甘えようとはしない。単純に道具として使い捨て、生き残るために利用する。
どれだけ薄汚く思われようとも、泥の中を這いずろうとも必ず生き延びてみせる。

流美はただひたすらに逃げ続ける。

その背に這いよる罪と、胸にのしかかる罪悪感の存在を感じながら、それでもただひたすらに向き合おうとはしなかった。


【D-5/一日目/早朝】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)、野崎春花と祥子への不安と敵意。 マミを刺したことへの罪悪感、クラムベリーへの恐怖。
[装備]:ガンツスーツ@GANTZ(ダメージ60%)、DIOのナイフセット×9@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0~1、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:クラムベリーから逃げる。
2:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
3:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。


※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。
※本来のガンツスーツは支給者専用となっていますが、このガンツスーツは着用者に合うようにサイズが変わるので誰でも着ることができます。



「これは...!?」

マミのソウルジェムが砕け、瘴気にも似たなにかが渦巻き始める。
いったい何事かとクラムベリーの理解が追いつくよりも早く、ソレは姿を現した。

円環の理の庇護下にある巴マミの本来の時間軸ではありえなかった、魔法少女の絶望の果てにいきつく姿。

おめかしの魔女、キャンデロロ。

理想を追い求める、誰よりも小さく心優しい魔女。


突然の異形の登場に面食らうクラムベリーは、咄嗟に耳を澄ませマミの容態を窺う。

マミの呼吸は―――していない。心臓の鼓動も、聞こえない。
その代わりに増えたのは、この小さき異形。

そこからの理解は早かった。
理屈もわからずオカルト染みた答えだが、そうとしか考えられなかった。

「あなたが巴マミ、だというのですか?」

魔女は言葉を発さない。
ただ、己の存在を示すかのように僕を生み出すだけだ。

「......」

クラムベリーは考える。
この眼前の異形が巴マミだというのなら、コレを斃せば巴マミに勝利したことになるのだろうか。

そんなことを考えている間にも、赤青桃紫と色とりどりな使い魔たちがクラムベリーを取り囲む。
それは魔女の敵意などはなく、むしろ一緒にいてほしいと懇願するようで。
両脚を縛られている使い魔が示すように、離れてほしくないと訴えかけているようでもあった。



クラムベリーは一旦目を瞑り、それを文字通り一蹴。
言葉を交わすこともなく、笑みすら浮かべることのない一撃。

明らかなる拒絶。それを感じ取った魔女は、リボンでクラムベリーを縛り上げ、砲弾を発射する。

爆発と共に轟音が鳴り響き、魔女本人も吹き飛ばされる。

―――くだらない。

爆炎を掻き分け伸びた掌が魔女の頭部を掴む。

「殺す気も無い、痛みを恐れるだけ、ただ闇雲に力を振るう...そんなあなたが私に勝てるはずもないでしょう」

クラムベリーと渡り合った彼女は違った。
殺すつもりで戦った。痛みを恐れつつもそれに打ち克ち戦ってきた。クラムベリーに勝つためにその知恵を、工夫を凝らしてきた。
如何に相容れぬ存在だったとしても、彼女は間違いなく強者だった。

だが、眼前のコレはなんだ。
私と仲良くしてくださいと言わんばかりの殺気のなさ。自己防衛のためだけの攻撃。知恵も工夫もなにもなく、力に頼るだけ...
いま目の前のちっぽけな存在が、あの巴マミの代わりになどなる筈もない。

「あなたは美しく、気高く、強い魔法少女でした。こんな形での決着となり残念です。...さようなら」

魔女を握る手に力を込める。

グシャリ、と音を立てて魔女の頭部は潰れ、その血がクラムベリーの掌を汚した。

今まで強者を倒すたびに彼女の心は満たされてきた。

だが、勝利を収めたというのに、ここまで空しいだけの結末は初めてだった。



魔女も使い魔も消え去り、数分の沈黙が周囲を包む。

「......」

耳を澄ませ、もう一度マミの生死を確かめる。やはり呼吸も鼓動もない。
あの異形を倒せば息を吹き返す、なんてファンタジーチックなことはなかった。
そんなバカげた期待を微かにでも抱くほど、彼女とのこんな決着は不本意だったことを自覚し、主催からの連絡を待つ。

赤い首輪の参加者を殺したが、主催からの連絡は一向に来ない。
なにか合図を送らなければならないのだろうか。

(...そういえば)

先の事態を振り返る。
もしも二人の攻撃が重なり死んだ場合はどうなるのだろうか。
一人が背後から脳髄を撃ち抜き、もう一人は心臓を破壊した場合で例えるとしよう。
これでは死因が頭部の破損か心臓の破壊かがわからない。そういったややこしいケースではどうなるのか。

(なにか確実に判定できるものが必要ですね。となれば...)

目に行くのは、やはり首輪である。
単純に考えれば首輪になにか仕組みがあり、それを知るには回収するしかない。

巴マミの死体の首に手をかける。力を込め、ゴキリと首の骨をへし折る。
そのまま剥がすように引き伸ばせば、ブチブチと皮と筋線維の千切れる音が鳴り、胴体から離れた頭部がころんと地に転がった。
手に入れた首輪の内側をなぞっている内に、なにやらボタンのようなでっぱりを発見。
押してみると、首輪からファンファーレのような音が鳴り響き、「おめでとうございます!あなたは見事赤い首輪を手に入れました!」などと陽気で場違いなアナウンスが流れ始めた。

(なるほど。コソコソと隠れているだけの者では手に入れられない仕組みになっているのですね)


首輪のボタンを押してから数十秒。

ジジジ、と微かな電子音と共に、クラムベリーの傍らに巨大な黒球が現れた。
転送された、と言い換えてもいいだろう。

パッ、と液晶に光が灯り、クラムベリーのデフォルメされた画像の横になにやら文字が並べられる。


『もりのゴリラ』


「ウケ狙いのつもりですか?くだらない」と呟くと、次いで『ミッションクリア』の文字が浮かび上がり、画面はまたもや変化する。


『めにゅー
1.元の世界に帰る。
2.武器を手に入れる
3.情報をひとつ手に入れる。
4.その他(参加者の蘇生は駄目よ)』

(赤首輪を殺しても必ず生還を強制されるわけではないようですね)

ふむ、と顎に手をやり一旦考える。
まず、一番は考えられない。巴マミほどの強者がまだいるとなれば、やはりここで帰るのは惜しく思う。
二番も自分には必要ない。己の魔法と身体。それだけで勝ち残るのが彼女の流儀である。

となれば、残るは3番と4番だが、さてどうしようか。

クラムベリーはマミの頭部へと目を向ける。
埋葬などはしない。死者に涙を流すような情も持ち合わせていない。
だが、彼女の顔はしかと脳裏に焼き付ける。悔しさと悲しみの涙に濡れた、絶望の表情を。
これは自分で作り出したものではない。自分のミスの産物にしかすぎない。もう二度とこんなつまらない結果で終わらせはしない。
赤首輪以外の参加者は必ず根絶する。
そう心中で改めて誓い、彼女は空しき勝利の報酬へと手を伸ばした。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 死亡確認】
※魔女の結界は制限により張られませんでした。


【Cー6/一日目/早朝】
※巴マミの死体が首が切断された状態で放置されています。


【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中~大)、全身及び腹部にダメージ(中~大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~2 巴マミの赤首輪
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
0:3番か4番、どちらにするか。
1:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
2:一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。
3:ハードゴア・アリスは惜しかったか…
4:巴マミの顔を忘れない。
5:佐山流美(名前は知らない)は見つけ次第殺す。

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悪魔の娘 森の音楽家クラムベリー Anima mala/Credens justitiam
口は災いのもと 巴マミ GAME OVER
佐山流美 ともだち100人できるかな
最終更新:2017年07月18日 12:15