「ホント不気味ねここ」

妙子がポツリと呟く。
通路というよりは、洞窟染みた広さを持つこの暗い空間に居合わせればそんな感想が出てもしょうがない。
なぜ殺し合いの会場にこんなものがあるか、そもそもこれはなんの目的で置かれているのか、気になることは非常に多い。

「これを見て」

ジョンは壁に張られた紙を指差す。
そこには、『↑H-6←G-7→I-7』と記されていた。

「これ、この方角に行けばそこに着けるってことじゃないかな」
「じゃあ、ここは地下通路ってこと?」
「そうだと思う。H-6は地図だとほとんど海だからきっと向こうへ渡るためだよ」
「殺し合いだってのに逃げ道を用意してくれるのは親切って言っていいのかしらね」

なんにせよ地下通路の存在を知れたことは大きなアドバンテージである。
これならあまり目立たず移動できるし、複雑な道でもないので奇襲も受けにくい。下手な施設を拠点にするよりも強固な防壁になり得るのだ。

「あ、おい待てい(江戸っ子)」

しかしその安堵もすぐに崩れ去る。
MURはなにやら足元の壁に張られた張り紙を見つけたらしい。

「ホレ、見ろよ見ろよ」
「えーっと...『姫 出没注意。目 合わせるべからず』、か」
「は?姫?」

妙子もジョンも、見つけたMURでさえポカンと口を開きかけた。
こんなところに姫がいて、目を合わせてはならないだのなんだのと唐突すぎる。
姫のイメージは三人とも共通のものがあるが、流石に女性と目を合わせてはいけない意味まではわからない。
なにかの悪戯だろうか。それとも、本当に姫と目を合わせてはいけないという警告なのだろうか。


「きっと参加者を遠ざける罠だゾ」

そう結論を出したのはMURだった。

「他の参加者に近づかれたくない事情があって、こうやって警告文を出すことで牽制をかけ逃げようとしている。つまりこれを書いた奴はそこまで強くないヤツだゾ」
「な、なるほど...」

困惑するだけの自分とは違いつらつらと言葉を並べ立てるMURに、妙子は思わず同意してしまう。
そんな自分の意見に自信があるのか、MURは大先輩の名に恥じぬしゃんと伸ばした背筋で後輩たちを先導するかのように先へと進む(どう見ても相手が雑魚だと思って調子づいているんですがそれは)。

(でも、牽制ならもっと解りやすいモノにするんじゃないかな。例えば、熊とかライオンとか...)

そんなもやもやとした疑問を抱きながらも、ジョンと妙子もまた彼の後を追う。

どれほど歩いただろうか。

やがて辿りついたのはうす暗闇に包まれた螺旋階段。矢印が正しければ、この階段を昇ればG-6エリアへと出ることが出来るようだ。
ひとまずは地上へ出ようと一行は階段を昇って行く。

コツ コツ コツ...

音。間違いなく自分達とは異なる足音が耳に届く。どうやら暗闇の先には何者かがいるようだ。

それに気付いたMURは足を止め、それに倣いジョンと妙子も一旦止まる。

相手もこちらが止まったことに気が付いたのか、足音は一旦止み、少し間をおいて再び足音が反響する。

何者かがこちらの存在に気が付いた上で向かってきている。

走る緊張感に誰とも知れずゴクリ、と唾を呑みこむ音が小さく鳴る。

(困ったゾ)

中でも一番動揺していたのはMURだった。
信満々にこの先にいる奴は強くないと推理したものの、現状でかなりその確率はかなり低い。
本当に弱ければ存在に気が付きながらもこちらに向かってくる必要はないからだ。
もしとてつもなく強い奴だったらどうしよう。
彼は内心で自分が生き残れる術を必死に模索していた。

だが、時間が彼の答えを待っているはずもなく。
一行の先にぼんやりと浮かび上がるは一つの影。
人だ。細身で上背のある輪郭だ。

やがて現れたのは、おかっぱヘアの凛々しい顔立ちといった、やたらに『濃ゆい』男だった。



ブローノ・ブチャラティは死人であった。
これは誇張ではなく、己の属するギャング組織・パッショーネの『ボス』に間違いなく殺されたのだ。
だが、彼はこの会場に連れてこられる前にも己の意思を持って動いていた。
痛覚をはじめとするあらゆる感覚や体温や脈も、全てを失いつつあってもしっかりと戦うことが出来ていた。
何故か。
恐らく、彼の部下であるジョルノ・ジョバーナが能力で流してくれた生命エネルギーのお蔭だろうというのがブチャラティの推測だ。
だが、推測はあくまでも推測。本当のところは彼にもジョルノにもわからない。
ただ、彼は運命がほんのちょっぴりだけ偶然の奇跡を許してくれたのだろうと思っている。
それだけでも、彼が戦いの道に赴くには十分すぎる奇跡だった。その果てに惨めな屍を晒すことになろうが、仲間たちが、トリッシュが生きていられるなら悔いすらなかった。

だから、この会場で目を覚ました時には驚いた。
死んだ筈の自分の身体が、傷一つ残さず復活しているのだから。

はじめはジョルノの能力のように傷を癒すことが出来る能力者でもいたのかと思った。
しかし、確かに脈もあれば体温も生きている時のソレ、加えて素手で壁を殴りつければちゃんと痛みを感じられる。
間違いない。
自分の身体は確かに蘇っていたのだ。

(どうやらあの男はそこまでして俺を殺し合いとやらに巻き込みたいらしい)

最初のセレモニーを思い出す。
つらつらとこんなふざけた茶番のルールを語った主催の男、為す術もなく惨めに死んだ名も知らぬ男...
その光景を思い返すだけで、ブチャラティの胸にはドス黒い感情が渦巻いてくる。
彼らに如何な関係があったのかは知る由もない。だが、わかることはひとつだけある。
あの主催の男は、自らの都合で何も知らぬ者でも利用し利益と快楽を得ることだけを考える『吐き気を催す邪悪』だ。
ブチャラティとて先を急ぐ身だ。こうしている間にもジョルノ達やトリッシュに危険が迫っている可能性もある。

だが、あのような男の言いなりになって皆のもとへのうのうと帰れるほどブチャラティは賢い人間ではない。
だから心は既に決まっている。
このふざけたゲームを必ず止めると。あの主催の男を必ず倒すと。


「殺し合いを破壊する。犠牲者を最小限に、可能ならばゼロに抑える。仲間のもとにいち早く帰る。...全部をやらなくっちゃあならないってのが『ギャング(おれたち)』の辛いところだな」

ギャングは有体に言えば世間からの爪はじきものである。
裏社会まで見渡せば、治安を守っている側面はあっても、やはり世間一般的には『ゴロつきの集まり』だの『血の飛び交う暴力至上主義』だの『金に汚い守銭奴』だのという認識だ。
そういった側面もあることは間違いないし、少なくとも胸を張っていい職業ではない。だから、世間から見ればそういう扱いなのは当然だと思っている。
だが、ブチャラティの信じるギャングは違う。
ヒーローとは口が裂けても言えないが、麻薬や理不尽な暴力・殺人を犯さない者。
表ではなく裏の治安を命を懸けて守れる者達。それが彼にとってのギャングだ。
その己に課すルールだけは、決して外しはしない。

そんな決意を固め周囲を探索すること数分、彼はこの奇妙な施設を見つけた。
ご丁寧に入口には地下通路という文字が書かれており、周りが海だらけの場所で目が覚めたという現状もあいまりすぐに探索に向かった。

中はひどく不気味な場所であったが、一度は死んだギャングである彼を恐れさせるには遠く及ばない。
迷わず真っ直ぐ進むうちに、やがて辿りついたのは暗がりの螺旋階段。

それを下っていくと、程なくして己のモノとは違う足音が反響し耳に届いた。

足音は二つ、いや三つ。

しかも、戦場慣れしていない、気配を殺すのが下手な足音だ。
そんな者達が他者を蹴落とし合う殺し合いに賛同するだろうか。
いや、もしかしたら赤い首輪を狙う者達が一時的に手を組んでいるだけかもしれない。

このことから、ブチャラティは敢えて強気で歩き遭遇するべきだと判断。
止まりかけた足を再び進める。

やがて現れたのは、赤い首輪のむちむちとした身体つきの男、目付きの悪い日本人らしき少女、アメリカ人らしき少年の奇妙な三人組だった。



「出会いがしらに不躾だが聞かせてくれ。お前達はこの殺し合いに賛同するつもりはあるか?」

ブチャラティの問いに、一同は思わず固まってしまう。
別にやましいことがある訳じゃない。ただ、彼の醸し出す雰囲気というか威圧感はタダ者ではないことを容易く窺わせてしまい、MURと妙子の二人は対峙するだけで冷や汗を滝のように流してしまう。

「僕たちはこんな殺し合いに賛同なんてしない。だからこうやって三人で行動してるんだ」

幾度かターミネーターの騒動に巻き込まれ曲がりなりにも修羅場を経験したジョンは、唯一ブチャラティへ真っ直ぐに向き合えた。

「僕たちこそあんたに聞きたい。あんたは―――」
「お前が姫だろ」

唐突にジョンの言葉を遮ぎり言いがかりをつけたのはMUR。
そんなMURを妙子とジョンは怪訝な眼で見つめる。

「...姫?なんのことだ」
「さっき『姫 出没注意』って張り紙があったんだゾ。真っ直ぐ進んだらお前がいたからお前が姫だろ」
「なにか勘違いをしているようだが、俺は参加者だ。名はブローノ・ブチャラティ。それと、俺は見ての通り男だ。どう足掻いても姫なんてあだ名を付けられる柄じゃあない」
「嘘つけ絶対姫だゾ」

こんな濃ゆい姫がいてたまるか。
ジョンと妙子は内心でそうツッこむが、流石にそれを声に出すのはブチャラティに失礼すぎるのでご愛嬌。

そんな二人を余所にMURは、なんの根拠があるのかおかっぱだから姫だのなんだのと一方的に決めつける。ブチャラティが強く反論しないのも拍車をかけているのだろう。
MURはもしかしたら大先輩の名に恥じぬようブチャラティを後輩にするために無理やりにでも彼の上に立とうとしているのかもしれないが、その真意はMURのみぞが知る。



―――ペタリ


そんな音が四人の耳に届いたのは、MURの無駄問答にブチャラティが溜め息をつきかけた時だった。

―――ペタリ

「ね、ねえ...なにか聞こえない?」

―――ペタリ

「下からだ。何かが這うような音だ」

―――ペタリ ペタリ

徐々に一同へと近づいてくる音。

その正体を探るため、ブチャラティは三人に先んじてこっそりと下を覗く。

「!!」

這ってくるソレを垣間見たブチャラティは咄嗟に三人の頭を抱き寄せヒソヒソと耳打ちをする。

「MURだったか。あんた、さっき姫とは目を合わせるなと言ったな?」
「おっ、そうだな」
「...三人とも。もうすぐ例の『姫』が昇ってくる。幸い、俺は奴と目が合わなかったようだが、合った時は何が起こるかわからない。いいか、何を見ても絶対に取り乱すな」

冷や汗混じりにそう発するブチャラティの心境を三人が理解するのはその数十秒後だった。

「ン エ エ エ エ エ...」

声。何者かの声だ。
そちらへ向きたい衝動を抑えつつ、一同はしゃがみ込む。

ヌッ、と視界にその巨躯が映り込む。

「ひっ!!」
「わあああああ!」
「ポッチャマ...」

三人が各々の恐怖の叫びを挙げるのを聞き、ブチャラティは慌てて三人に覆いかぶさり視界を塞ぐ。

ギョロリ。

大きな目が四人のいる空間を見据える。

巨大な一昔前の姫のような顔に、多足節を思わせる数々の乳房と小さな手。

ソレは正に異形だった。人間では太刀打ちできないほどの巨躯だった。

ソレの名は『姫』。吸血鬼が変貌した邪鬼の中でも、災厄の邪鬼。

ソイツと目を合わせることは死を意味する!!

【H-6/一日目/地下通路・螺旋階段/黎明】
※今はまだ姫に見つかっていません。

【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:姫から逃げる
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。


【小黒妙子@ミスミソウ】 
[状態]:健康、不安、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:姫から逃げる
1:野崎を...助けなくちゃ、ね。

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:姫から逃げる
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:姫から逃げる
1:弱者を保護する。

※参戦時期はアバッキオ死亡前。






※NPC解説
【姫@彼岸島】
彼岸島の炭鉱に住む邪鬼。主な攻撃方法は溜酸の母乳と捕食。
巨大なムカデのような体とおかめのような顔が特徴的で、目が合うと怒りの形相に変わり、目が合った者へと襲い掛かる習性を持つ。
逆に言えば、目を合わせない限りは滅多に人を襲わないので、遭遇しても無傷でやり過ごすことも可能(ただし硫酸の母乳は垂れているため難易度は高い)。
また、長年の炭鉱生活のために太陽が苦手らしく。日中に外に出てもすぐに炭鉱へと戻ってしまう。。
奇天烈な邪鬼が多い彼岸島の中でも最強クラスの戦闘力を有しており、明たちがまともに勝利したことは一度もない。
また、トロッコが背中を走れるくらい背骨がくっきりとしている。

このロワにおいては島中に点在する地下通路(順路とは限らない)をランダムに徘徊しており、地下通路から外に出ることは出来ない。
出てきた場合は、首輪から姫の嫌がる音が脳内に響き渡り、すぐに地下通路へと戻ってしまう。首輪は赤だが倒しても特典はもらえない。
また、一匹しかいないので、同時に二か所現れることはない。【例:A-8とG-7で同時に出現は不可能】






不穏の前触れ MUR大先輩 ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う!
不穏の前触れ 小黒妙子 ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う!
不穏の前触れ ジョン・コナー ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う!
GAME START ブローノ・ブチャラティ ドヒー!お姫様が僕らをペタペタ襲う!
最終更新:2017年08月05日 09:55