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オ オ オ オ オ オ オ

ペタリ、ペタリと『姫』の這う音が染み渡る。
誰も『姫』と視線を交わそうとはしない。代わりに交わるのは、ハーハー、ハァハァと紡がれる息遣い。
ブチャラティ。妙子。ジョン。MUR。つい漏れてしまう呼吸は、巨大な脅威に対する彼ら四人の恐怖の現れなのかもしれない。

「な、なんなのよあれ...」
「静かに」

つい漏らしてしまう妙子の唇に、すぐさま人差し指を当て黙らせる。
普段ならば、相手が女性であるためもう少し遠慮したかもしれないが、状況が状況だ。
目を合わせていないとはいえ、いつこの怪物が牙を剥いてくるかはわからない。
そのためにはほんの些細な失態さえも見逃すわけにはいかないのだ。

(だが、本当にこの怪物は目を合わせないだけで襲ってこないのか?)

直接目視できないとはいえ、現状、怪物との距離はかなり近い。
暗がりの中とはいえ、目視すればこちらの存在を認識するのは容易い。
仮に姫が盲目だとしても、手探りで捕まえられる可能性は充分だ。
座して待つのではなく、今すぐにでもこちらから仕掛けるのが正しいのではないか?
ブチャラティの脳内でそんな疑問が渦巻いていたその時だ。

ビチャッ。

四人の傍に液体が落ちる。
何事かと目を向ければ、たちまち床が溶け始めたではないか。

「ひっ!」

それは誰の悲鳴だったか。
それが引き金となり、三人は今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。
このままではパニックに陥る。
ブチャラティはそれを察知し、慌てて三人を引き留める。

「落ち着け。まだ攻撃された訳じゃない」

それは、自分にも向けた言葉だったのかもしれない。
だが、そのお蔭で頭が冷えた。
やはりいまベストなのは、『ここから動かないこと』だ。
おそらくあの液体は酸のようなものだろう。あれを受ければただではすまない。
だが、あれは自分達には当たらなかった。液体は今も尚、壁や床に落ちているが、いずれもまばら且つ少量だ。これでは獲物を追い詰めることも逃げ場を減らすこともできはしない。
つまり自分達に攻撃している訳ではないのだろう。
いまならば確信を持っている。やはり『姫』は、目を合わせない限り大丈夫であると。

ペタリ。ペタリ。ペタリ...

蠢く大量の手足が過ぎ去り、しーんとした静寂に包まれる。

「...行ったか」

ブチャラティは、警戒体勢を解き、三人を解放し一息をつく。

「な、なんだったのよアイツ」
「あれも参加者なのかな」
「...いや。お前達はあいつに関しての警告文を見たんだろう。おそらくあれは、この通路に長居させないための仕掛けだ」
「なんでそんなことを?」
「あの男は、吸血鬼がどうとか言っていたな。もしも伝承通りならそいつらは日光に弱い筈だ。そういった奴らが地下に留まり続けるのを嫌ったのかもしれない」

ブチャラティのその推測に、ジョンの面持ちは暗くなる。
吸血鬼。MURが出会ったというその存在は確かに実在しており、彼らのために凶悪な仕掛けを施したのはまだわかる。
だがそれに付き合わされた人間はたまったものではない。
ターミネーターでさえ苦戦するであろう参加者や仕掛けがあと幾つあるというのか。
それを考えると頭が痛くなるのも仕方のない話だ。

「ふぃ~、サッパリした」

MURの暢気な声が耳に届く。
ふとそちらに目を向ければ両手で顔中の汗を拭き、ペタペタと壁に拭いつけているMURの姿。
思い返せば、吸血鬼と遭遇した張本人である彼は、ジョンのように不安を顔には出さなかった。
不安を隠せない自分と大概暢気なMUR。
彼の内心ではどうかわからないが、周囲に与える影響は彼の方が好いだろう。
そのブレない能天気さは見習うべきかもしれない。ジョンはそんなことを思っていた。

ガコン。

MURが壁に押し付けていた手が突如沈み込む。
同時に、パッと一帯が明るくなり四人は思わず目が眩んだ。

「なんだこれは...電燈?」

目を擦りながらも一行は己が目を晦ませた元凶を認識。
辺りを見まわせば、一定の感覚で壁に電燈が埋め込まれている。

「よかった。これで見やすくなった」

先程までは暗がりに包まれていたこの空間だが、電燈が点いたことで視界は広くなり部屋全体を見まわせるようになった。
これでだいぶ探索もしやすくなるだろう。

(だが、あの主催がこんな仕掛けを作るか?)

ブチャラティは顎に手をやり考え込む。
あの主催は、地下通路に姫などという見るからに怪物を放り込むような輩だ。
そんな奴が、こんな参加者の為になるような仕掛けを作るだろうか。
いや、単純に考えるなら、これは参加者の為の仕掛けなどではない。
これを付けた理由は―――



突然だが、彼らのいる位置を振り返ろう。
彼らのいるこの場所は螺旋階段。
前回の話で、ジョン・妙子・MURは下から昇ってきた。ブチャラティはこの螺旋階段に足を踏み入れほどなくして彼ら三人と遭遇した。
これらのことから、彼らのいる位置は螺旋階段の上層部にある。つまりは天井が近いとも言い換えられる。
この時点でなにかを察せた方もいるかもしれないが、もう少し続けさせてもらう。

天井とは云わば巨大な鼠返しである。
脚に大量の微細な毛が生えている虫でもなければ、重力に逆らうことはできず張り付くことはできない。
それは姫も例外ではない。万物の法則に従うのならば、彼女はとうに落下していなければ可笑しな話だろう。
だが、姫は落ちてはいない。即ちブチャラティら四人の上方にいるのだ。
加えて、生物の多くは常に動き回るのではなく一度立ち止まり休憩を取り入れ再びの活動の糧にする。


だから、MURがふとした拍子で空を仰げば。

「あっ」

天井付近で待機していた姫と目が合うのも必然である。


「ギッ ギャッ ギャッ」

ピキピキと血管を浮かび上がらせ、姫の顔色が変わっていく。
異変に気が付いた他三人は天井を見上げ、怒る姫を認識。
迂闊にも顔を上げたMURを責める間もなく、姫の巨体が一同へと襲い掛かった。

「ブ エ エ エ エ エ エ」
「ヒイイィィィ!!」

巨大な口が迫る。
妙子も。ジョンも。MURも。ただ絶対なる死への恐怖に押しつぶされていた。

「『スティッキィ・フィンガーズ!』」

ただ一人、数多の死線を、本物の死を経験したこの男を除いては。

ブチャラティの背後から現れたスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』は、己の足元を殴りつけジッパーを取りつける。
姫がの牙が食らいつくその直前に、ジッパーを開封し三人を引きずり込む。
すると、四人は下の段に着地し姫は獲物の消えた階段に激突し破壊する。

「い、いまのは」
「説明は後だ!まずは奴との距離を離さなければならない!」

息をつく間もなく襲いくる第二撃。
ブチャラティは床に再びジッパーを取りつけ四人纏めて階下へ降りていく。
再び姫は階段を破壊し四人へと迫り、ブチャラティは着地とほぼ同時にスティッキィ・フィンガーズでジッパーを取りつけ階下へと逃げる。
速度は姫の方が速く、距離も地道に詰められている。ただ破壊するだけの姫と、四人を抱えた上で能力を行使、ジッパーを引くという動作を強いられるブチャラティの差である。
このまま鬼ごっこを続けたところでいずれは捕まるのは明白だ。

(賭けるしかない!)

床へと振り下ろされる筈のスティッキィ・フィンガーズの腕が空を切り壁を叩く。
その箇所にジッパーが現れ、ブチャラティは三人をその中へと放り込み自分も跳びこみジッパーを閉める。

彼らを追いかけた姫が壁にぶつかり、ドォン、と派手な音を一帯に響かせた。

スティッキィ・フィンガーズが手を伸ばし、前方の壁に触れジッパーを取りつける。
チャックを開けばそこに広がるのは石造りの光景。ブチャラティは三人と共にチャックから這い出た。

どうやら賭けには勝てたらしい。

ブチャラティは内心でそう安堵する。

ジッパーは決して無敵の防御方法ではない。
ジッパーの中は水中に潜るのと似ており、長時間潜り続けることができず、呼吸が必要になる。
また、ブチャラティはまだ地下通路に入ったばかりで地理もロクに把握していない。
もしもジッパーで開けた先がメートル単位で非常に分厚かったり、地面しか無ければ四人纏めて呼吸困難で死に至る危険性は高かった。
その危険なリスクを負わなければ逃げられない状況だったのだ。安堵するのも無理はない。

「助かったよ、ありがとう。...ねえ、あんたのその背後から出てる人形はなんなのさ」

指を指し問うジョンに、ブチャラティは思わず目を見開いた。

「!...見えているのか?」
「見えてちゃマズイものなの?」
「そういう訳じゃないが...」

ブチャラティは三人を見回し考える。
スタンドはスタンド使いにしか姿を認識することができないのが基本のルールだ。
だが、眼前の三人がスタンド使いであるならばあの極限の場面でも発現すらさせないのは不可解だ。
ならば無自覚のスタンド使いだろうか。いや、『スタンド使いは引かれあう』とは聞いたことがあるが、こうも都合よく無自覚の者が集まるとは考えにくい。

(いや待て。そもそもスタンドを使える俺を殺し合いに放り込むのは少々危険なんじゃないのか?)

殺し合いというニュアンスからして、主催はただの一方的な虐殺ではなくあくまでもそれなりには対等の条件の殺し合いを見たいはず。
そんな中にスタンド使いを放り込んだらどうなるか。
ブチャラティのスティッキーフィンガーズのジッパーは戦闘においても非常に強力な能力だ。
敵にジッパーを取りつけバラバラにしてしまえば大概の敵はそれで方がついてしまうからだ。
そんな攻撃が認識不可能な状態から放たれれば、いくら人外のものといえど回避は困難だろう。
下手をすれば赤い首輪の参加者以上にパワーバランスを崩壊させる存在だ。
だとすればだ。
なにか奇妙な力で、公平を期すために非スタンド使いでもスタンドを認識できるように調整されている。
そう考えるのが妥当だろう。

他人の能力に干渉できる点から考えて、主催の力はかなり強大であることが伺い知れる。
それこそ、あのボスにも匹敵しうるかもしれない程にだ。

だが、それを承知の上で彼の信念に基づく方針は揺らがない。
強大な力にビビリあがり挫折するほど利口な生き方はできなかった。

「シャツがもぉ...ビショビショだよぉ」

静かに決意するブチャラティを余所に、相変わらず能天気な声色で汗を拭うMUR。
命を助けてもらった礼も、感謝の感情すら見受けられない。大先輩を助けるのは当然とでもいうべき態度だ。
これがミスタやナランチャらが所属するチームの面々なら緊張感が無いことに厳しく注意をしたかもしれないが、MURはあくまでも一般人。
少なくとも、ギャングに所属するような人間ではないことは見てわかる。
故に、ブチャラティはその程度でイラついたりはしないし注意も軽いもので済ませることができる。

だが、それは戦場慣れし多種多様の人間と関わってきたブチャラティだからこその話である。

一連の流れを居合わせた第三者が、特に気の短い者が見ていたらどうなるか。

「...なにスットボけたこと言ってんのよ」

ポツリ、と妙子が漏らす。

「もとはといえばあんたの所為であたしたちが死にかけたんだろうが」

一度口火を切ってしまえば、もう容易くは止められない。
元来の短気な性格も相まって、募る不満や苛立ちは濁流の如く発せられてしまう。

形相を歪ませ詰め寄る妙子に、MURだけでなく対象でないジョンまでもが気圧される。

「あの化け物に襲われたのは全部お前のせいなんだよ!んなこともわかんねーのかよ池沼!!」
「ポッチャマ...」

心底反省しているのか、あまりの妙子の形相に怯えたのか、MURは震え声で小さく漏らし、両掌で己の顔を覆い隠した。

このままではマズイ。これはチームの崩壊の兆しだ。
長年、パッショーネの一グループのリーダーを務めた勘がブチャラティにそう告げる。
ここで流れを断ち切らなければ、もう修正が効かなくなってしまう。


「落ち着け。彼を責めたところでどうしようもない」
「なによ、あんただって内心じゃイラついてんでしょ!?」
「いや。俺はむしろラッキーだったと考えている」

"ラッキー"
その思わぬ単語に、妙子は思わず怪訝な顔を浮かべた。

「あの姫と目を合わせた時にどうなるか。奴の攻撃手段はなにか。それさえわかれば対策はいくらでも打ちようがある」
「結果オーライって奴だね」
「そうだよ(便乗)」

あくまでも冷静に分析した上でそう告げたブチャラティと、親指を立て賛同するジョン。
そんな彼らに性懲りもなく便乗したMURに多少苛立ちつつも、妙子はブチャラティとジョンの意図を察する。
言い過ぎだ、妙子。
そんな無言の会話のキャッチボールは無事に成立した。

「...わかったわよ。私も少し言い過ぎたわ」

未だMURへの苛立ちは残っているが、ここで更に感情任せになってはブチャラティに更に心労をかけることになる。
それに、自身でもカッとなりすぎたのは自覚しているのだ。これでは春花と虐めていた時となにも変わらない。
妙子は、口を噤み己の負の感情を噛み潰した。

「......」

そんな妙子の背に、MURは訝しげな視線を送る。
先程の罵倒は、果たして一時的な感情によるものなのだろうか。
彼女とはまだ会って数時間程度だ。
当然、腹の底まで解るような間柄ではなく、信頼関係もほとんどないと言える。
それは彼女と最初から行動していたジョン、先程あったばかりのブチャラティにも当てはまることだ。
そんな彼らが赤い首輪の参加者を見つけたらどうするか。まず間違いなく狙うだろう。

もしかしたら、彼女は最初から自分を殺すつもりで行動していたのかもしれない。
赤首輪である自分の隙を突くために抑圧した感情が漏れあの罵倒に繋がった可能性は高い。

彼女の罵倒を即座にフォローした二人も怪しい。
もしかして、彼らも自分を油断させるために一芝居を売っているのだろうか。

考えれば考えるほど懐疑の念は強まるばかりだ。
機を見て離れるべきだろうか。MURは独り疑心暗鬼に陥りつつあった。



バ ァ ン

突如、轟音が響き渡る。まるで巨大なものを打ちつけたかのような音だ。
四人が、音の出所を見れば、そこは先程までジッパーが取り付けられていた場所。つまり、つい先ほど逃げてきたところだ。

「な、なんの音よ」
「さっきの化け物が暴れてるのかな」

バ ァ ン バ ァ ン

一定の間隔を置いて、繰り返し響き渡る轟音。おそらくあの壁を破壊しこちらに来たいのだろう。しかし、壁には亀裂も入らず音を響かせるだけだ。
ここから離れねば、と思う反面、あの様子ならしばらく大丈夫だという安堵の気持ちが一同の間には漂っている。
壁というものは存外簡単に壊せるものではない。厚さがあれば尚更だ。

(いや、待て...奴には...!)

「急いでここから離れろ!!」

ブチャラティの突然の怒声に、他三人は慌てて逃走の足を速める。

(奴には酸がある。あれで壁を溶かしでもすれば...!)

ピシリ、と亀裂が入る。
それはまるでブチャラティが現状の危険性を認識するのを待っていたかのように。
頑丈な土づくりの壁とはいえ、一度ヒビが入ってしまえば脆い物。

「ア ア ア ァ ァ 」

ガラガラと崩壊した壁から覗くのは、怒れる狩人の目。
殿を努めたブチャラティと姫の視線が交差する。

鬼ごっこ第二幕、開始。


【H-6/一日目/地下通路/黎明】
※姫はMURとブチャラティを捕捉している状態です。

※地下通路内に何か所か電燈のスイッチがあるようです。
電燈が点くと視界が広くなる反面、当然『姫』と目が合いやすくなります。

【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】
[状態]:健康、恐怖、不安
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:姫から逃げる
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。
3:同行者たちへの不安感。このまま便乗するのはマズい?

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。


【小黒妙子@ミスミソウ】
[状態]:健康、不安、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:とにかく死にたくない。
0:姫から逃げる
1:野崎を...助けなくちゃ、ね。

※参戦時期は佐山流美から電話を受けたあと。
※T-1000、T-800の情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針: 生き残る。
0:姫から逃げる
1:T-800と合流する。
2:T-1000に要警戒。

※参戦時期はマイルズと知り合う前。
※妙子の知り合いの情報を共有しました。
※DIO、雅を危険な人物と認識しました。


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:目が合った...!
1:弱者を保護する。

※参戦時期はアバッキオ死亡前。






接近 MUR大先輩 目が逢う瞬間(とき)
小黒妙子
ジョン・コナー
ブローノ・ブチャラティ
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