0.
レン・イヴェール。
24歳。
マクシオン軍所属。
愛機、スノウブライドー純白のスピナティオ地球派遣用試作改修型を駆る寡黙な男。
その白い機体に一目惚れしてパイロットに志願、名前をつけ専用機となり、幾度の死線を共にくぐり抜け、空駆ける綺羅星となった勇士。
そんなレンには、探すものがあった。
必ず見つけ出さねばならぬ者がいた。
かつて掴もうとして空を切ったその手で、再び掴まなければならない者が。
「……必ず、見つけ出すからな」
これは、数多の数字を見つける物語。
これは、綺羅星が輝き、輝かせる物語。
これは、欠けた数字を、埋める物語。
イマジナリ・ロスト。
虚ろなる失せもの。
なくした事を否定すべく奔走する、綺羅星の物語。
24歳。
マクシオン軍所属。
愛機、スノウブライドー純白のスピナティオ地球派遣用試作改修型を駆る寡黙な男。
その白い機体に一目惚れしてパイロットに志願、名前をつけ専用機となり、幾度の死線を共にくぐり抜け、空駆ける綺羅星となった勇士。
そんなレンには、探すものがあった。
必ず見つけ出さねばならぬ者がいた。
かつて掴もうとして空を切ったその手で、再び掴まなければならない者が。
「……必ず、見つけ出すからな」
これは、数多の数字を見つける物語。
これは、綺羅星が輝き、輝かせる物語。
これは、欠けた数字を、埋める物語。
イマジナリ・ロスト。
虚ろなる失せもの。
なくした事を否定すべく奔走する、綺羅星の物語。
*
1.
マクシオン軍地球制圧前線のとある拠点にて。
特務機関“|箒星《ルミナスライナー》”の一員としてゲートをくぐった一機の機体がいた。
処女雪の名を冠する純白、スノウブライド。
そのコックピットから降りる男を、マクシオン前線基地の指揮官が出迎える。
「特務機関“|箒星《ルミナスライナー》”への配置転換だな、レン・イヴェール中尉。貴官はこれより帝の威光あふれる正規軍人の籍を剥奪され、暗黒の中で輝く星となる。軍章を身に着けられるのは今ここまでだ。軍服から着換え、単機での無期限特別任務を命じる」
その言葉に、レンはただ無言で敬礼を返し、それから上着だけ着ていた軍服を脱いだ。
白いコート姿になったレンに、指揮官は携帯端末を手渡す。
「これは貴官と我等をつなぐ唯一のもの。現地電子通貨での支度金と傘下組織の情報を格納してある」
中を確認すると、確かにいくつかの名簿、クレジットがそれなりに入っている。そのいずれにも、マクシオンの痕跡を示すものは何もない。
中には、レンの任務地である地域の座標も同様に格納されていた。
「……特務機関“箒星”特務少佐レン・イヴェール、これより無期限任務に着きます」
もう一度、指揮官に敬礼を。
指揮官は表向き除籍されたレンに対して、もう敬礼をしなかったが、その目は激励の意思を宿しており、小さく頷いてくれた。
「……では、これで失礼いたします」
その日、一つの星が空へと翔んだ。
特務機関“|箒星《ルミナスライナー》”の一員としてゲートをくぐった一機の機体がいた。
処女雪の名を冠する純白、スノウブライド。
そのコックピットから降りる男を、マクシオン前線基地の指揮官が出迎える。
「特務機関“|箒星《ルミナスライナー》”への配置転換だな、レン・イヴェール中尉。貴官はこれより帝の威光あふれる正規軍人の籍を剥奪され、暗黒の中で輝く星となる。軍章を身に着けられるのは今ここまでだ。軍服から着換え、単機での無期限特別任務を命じる」
その言葉に、レンはただ無言で敬礼を返し、それから上着だけ着ていた軍服を脱いだ。
白いコート姿になったレンに、指揮官は携帯端末を手渡す。
「これは貴官と我等をつなぐ唯一のもの。現地電子通貨での支度金と傘下組織の情報を格納してある」
中を確認すると、確かにいくつかの名簿、クレジットがそれなりに入っている。そのいずれにも、マクシオンの痕跡を示すものは何もない。
中には、レンの任務地である地域の座標も同様に格納されていた。
「……特務機関“箒星”特務少佐レン・イヴェール、これより無期限任務に着きます」
もう一度、指揮官に敬礼を。
指揮官は表向き除籍されたレンに対して、もう敬礼をしなかったが、その目は激励の意思を宿しており、小さく頷いてくれた。
「……では、これで失礼いたします」
その日、一つの星が空へと翔んだ。
*
2.
地方都市カナリア。
レンが任務を命じられたブラックウッド地方の中心都市。
今でこそ活気のある都市だが、50年ほど前までは紛争地帯であり、いまでも時折不発弾や廃棄兵器が出てくる事もある、この時代によくある都市である。
そんな都市のはずれの整備工場に、レンは赴いていた。
支給された端末のリストに載った、マクシオンに協力的な整備工場に、レンは当面の間厄介になることになっていたからだ。
都市外郭にあるその整備工場はひなびたもので、その主もそれ相応に苦労を重ねた老人だったが、レンとスノウブライドが着陸するやいなや外に飛び出してきて言い放つ。その立ち振る舞いはけっして老いぼれではなさそうだ。
「オメェがレンだな!待ってたぞ!」
レンがコックピットから降りる最中にもスノウブライドについてブツブツと言いながら騒いでいる。
「……レン・イヴェールだ。機体はスノウブライド。これから厄介になるが、よろしく頼む」
そう名乗ると、ようやく視線をレンに戻して、ニカッと笑って手をだした。
「ジャック・ウィリアムズだ。こっちこそよろしく頼むぜ」
言葉少ないレンにとって、ジャックはちょうどよい話し相手だった。
なんせ、勝手に色々喋り、聞くべきことはさっさと聞いてくる。
おかげで、小一時間もするうちに、レンはジャックの人となりをおおよそ把握し、レンのこともおおよそ把握された。
ジャックは腕利きのパイロットだったが、かつて紛争で足を失って退役した連合軍人で、その後にこの整備工場を始めたクチらしい。
戦場で慈悲をかけて逃してくれたマクシオン機に恩義を感じ、いまでもマクシオンに協力しているそうだ。
「んで?当面の間、オメェはどう動くつもりだ、レン?」
ジャックの問いかけに、レンは唸る。
なんせ、レンは妹を探す事とスノウブライドに一目惚れして志願した以外の行動理由がない。
特務機関構成員であるからして、もちろんマクシオンに従うつもりではあるが、軍を利用する心づもりであるレンが帝に心酔している訳はなく、特務についての具体的なプランがある訳ではないのだ。
「ふふん、ノープランって顔だな」
ジャックはそんなレンを見抜いていた。
「まずはこの辺りを知ることから始めな。ちょうどいい仕事があらぁな」
スッと名刺を差し出す。
そこには女性の顔写真があり、『運び屋』と書かれた肩書。
「そいつぁうちにも出入りしてる運び屋だ。そろそろ配達の時間でな。一緒に街を見てこい」
ミカ・フリューゲル。
所属はバイロン軍のようだが、ジャックが言うには不真面目軍人らしく、民間運送業者みたいに依頼で生計をたてているため、実質フリーランスらしい。
そんな会話をしていると、空から黒い機体がふわりと降りてきた。
「今晩、改めて方針会議といこうや、若造」
そこで会話を切り、ジャックは黒い機体のパイロットーミカ・フリューゲルなる女性に声をかける。
「よぉ、今日も時間きっかりだな、ミカ!」
「ジャックじいちゃん、運び屋は時間厳守がプライドッスよ?当たり前じゃないッスか!」
ジャックとミカは軽快に挨拶をかわすと、機体が運ぶコンテナを開け、整備工場のロイロイに荷物を引き渡す。
運ばれるのを眺めるミカに、ジャックはレンを引き合わせた。
「ミカ、こいつぁ俺の孫のレンだ。ちょいと訳ありでな。街に不慣れなんで、仕事ついでに案内してやってくれねぇかい?」
どうやら孫ということになるらしい。
話を合わせて頭を下げる。
「……レン・イヴェールだ。じいちゃんが世話になってるみたいだな」
「ミカ・フリューゲル。ミカでいいッスよ、レン君」
年頃は同じくらいに見えるが、レンとは対象的に明るい性格が垣間見えた。
ミカはスノウブライドを一瞥。
「アタシは運び屋なんで、事情は聞かないッスよ。依頼をこなす。手の届く範囲の親切はする。それだけ」
見た目は完全にマクシオン機。
しかし、それを見ても動じずに、ミカは自分の信念から行動するのだろう。
「それは立派な心がけだと思う」
妹を探すためだけに飛び出してきた自分と比べて、ミカはなんて立派なことか。
レンはそんなことを考えかけて、ミカに遮られた。
「じゃ、早速お仕事行きますかね!ついてきて下さい!」
急かされるように機体に乗り込み、ミカの後をついて都市の各地へ。
その日、レンはカナリアの表から裏まで、様々な場所を見た。
華やかな表通りには、裕福そうな家族連れや立派な店を構える商人。
高層ビルが立ち並ぶオフィスや官公庁専用区画には、一般車と運送業者が忙しく行き交う。
一転、自然公園の区画には保護動物たちがのんびりと暮らしていたり、薄暗いスラムにも出向いたり。
カナリアは世界の縮図のような街だと、ミカは言う。
マクシオン人のレンにとって、それが事実かどうかは確かめようがない。
しかし、形は違えども、この世界にも人が生きているという事実に違いがないのは肌で感じた。
それを、自分で侵略する。
しかも、軍事力を極力行使しないような方法で、だ。
それは荒唐無稽で、ただの盲言に思えた。
明らかに個人の手に余る目標だ。
具体的なプランなどみえるはずもない。
だからこそ、これまでスノウブライドは誰の手にも渡らなかった。
達成できない任務を、機体ひとつで受けるものなどいなかった。
無謀だからだ。
事実上、達成不可能な左遷任務だからだ。
だからこそ、レンは雪の花嫁を娶った。
左遷と引き換えた軍人でありながらの自由、そして高性能な機体。
レンは目的を達するまで、決して止まることはない。
雪が溶けてしまう前に、必ずや目的を達成してみせる。
必要なことならば、何を踏み越えても、必ずや。
レンが任務を命じられたブラックウッド地方の中心都市。
今でこそ活気のある都市だが、50年ほど前までは紛争地帯であり、いまでも時折不発弾や廃棄兵器が出てくる事もある、この時代によくある都市である。
そんな都市のはずれの整備工場に、レンは赴いていた。
支給された端末のリストに載った、マクシオンに協力的な整備工場に、レンは当面の間厄介になることになっていたからだ。
都市外郭にあるその整備工場はひなびたもので、その主もそれ相応に苦労を重ねた老人だったが、レンとスノウブライドが着陸するやいなや外に飛び出してきて言い放つ。その立ち振る舞いはけっして老いぼれではなさそうだ。
「オメェがレンだな!待ってたぞ!」
レンがコックピットから降りる最中にもスノウブライドについてブツブツと言いながら騒いでいる。
「……レン・イヴェールだ。機体はスノウブライド。これから厄介になるが、よろしく頼む」
そう名乗ると、ようやく視線をレンに戻して、ニカッと笑って手をだした。
「ジャック・ウィリアムズだ。こっちこそよろしく頼むぜ」
言葉少ないレンにとって、ジャックはちょうどよい話し相手だった。
なんせ、勝手に色々喋り、聞くべきことはさっさと聞いてくる。
おかげで、小一時間もするうちに、レンはジャックの人となりをおおよそ把握し、レンのこともおおよそ把握された。
ジャックは腕利きのパイロットだったが、かつて紛争で足を失って退役した連合軍人で、その後にこの整備工場を始めたクチらしい。
戦場で慈悲をかけて逃してくれたマクシオン機に恩義を感じ、いまでもマクシオンに協力しているそうだ。
「んで?当面の間、オメェはどう動くつもりだ、レン?」
ジャックの問いかけに、レンは唸る。
なんせ、レンは妹を探す事とスノウブライドに一目惚れして志願した以外の行動理由がない。
特務機関構成員であるからして、もちろんマクシオンに従うつもりではあるが、軍を利用する心づもりであるレンが帝に心酔している訳はなく、特務についての具体的なプランがある訳ではないのだ。
「ふふん、ノープランって顔だな」
ジャックはそんなレンを見抜いていた。
「まずはこの辺りを知ることから始めな。ちょうどいい仕事があらぁな」
スッと名刺を差し出す。
そこには女性の顔写真があり、『運び屋』と書かれた肩書。
「そいつぁうちにも出入りしてる運び屋だ。そろそろ配達の時間でな。一緒に街を見てこい」
ミカ・フリューゲル。
所属はバイロン軍のようだが、ジャックが言うには不真面目軍人らしく、民間運送業者みたいに依頼で生計をたてているため、実質フリーランスらしい。
そんな会話をしていると、空から黒い機体がふわりと降りてきた。
「今晩、改めて方針会議といこうや、若造」
そこで会話を切り、ジャックは黒い機体のパイロットーミカ・フリューゲルなる女性に声をかける。
「よぉ、今日も時間きっかりだな、ミカ!」
「ジャックじいちゃん、運び屋は時間厳守がプライドッスよ?当たり前じゃないッスか!」
ジャックとミカは軽快に挨拶をかわすと、機体が運ぶコンテナを開け、整備工場のロイロイに荷物を引き渡す。
運ばれるのを眺めるミカに、ジャックはレンを引き合わせた。
「ミカ、こいつぁ俺の孫のレンだ。ちょいと訳ありでな。街に不慣れなんで、仕事ついでに案内してやってくれねぇかい?」
どうやら孫ということになるらしい。
話を合わせて頭を下げる。
「……レン・イヴェールだ。じいちゃんが世話になってるみたいだな」
「ミカ・フリューゲル。ミカでいいッスよ、レン君」
年頃は同じくらいに見えるが、レンとは対象的に明るい性格が垣間見えた。
ミカはスノウブライドを一瞥。
「アタシは運び屋なんで、事情は聞かないッスよ。依頼をこなす。手の届く範囲の親切はする。それだけ」
見た目は完全にマクシオン機。
しかし、それを見ても動じずに、ミカは自分の信念から行動するのだろう。
「それは立派な心がけだと思う」
妹を探すためだけに飛び出してきた自分と比べて、ミカはなんて立派なことか。
レンはそんなことを考えかけて、ミカに遮られた。
「じゃ、早速お仕事行きますかね!ついてきて下さい!」
急かされるように機体に乗り込み、ミカの後をついて都市の各地へ。
その日、レンはカナリアの表から裏まで、様々な場所を見た。
華やかな表通りには、裕福そうな家族連れや立派な店を構える商人。
高層ビルが立ち並ぶオフィスや官公庁専用区画には、一般車と運送業者が忙しく行き交う。
一転、自然公園の区画には保護動物たちがのんびりと暮らしていたり、薄暗いスラムにも出向いたり。
カナリアは世界の縮図のような街だと、ミカは言う。
マクシオン人のレンにとって、それが事実かどうかは確かめようがない。
しかし、形は違えども、この世界にも人が生きているという事実に違いがないのは肌で感じた。
それを、自分で侵略する。
しかも、軍事力を極力行使しないような方法で、だ。
それは荒唐無稽で、ただの盲言に思えた。
明らかに個人の手に余る目標だ。
具体的なプランなどみえるはずもない。
だからこそ、これまでスノウブライドは誰の手にも渡らなかった。
達成できない任務を、機体ひとつで受けるものなどいなかった。
無謀だからだ。
事実上、達成不可能な左遷任務だからだ。
だからこそ、レンは雪の花嫁を娶った。
左遷と引き換えた軍人でありながらの自由、そして高性能な機体。
レンは目的を達するまで、決して止まることはない。
雪が溶けてしまう前に、必ずや目的を達成してみせる。
必要なことならば、何を踏み越えても、必ずや。
*
3.
その後、ジャックの元に戻ったレンは、夕餉のテーブルを挟んでいた。
「ミカと見てきたこの都市はどうだった?」
「……マクシオンと同じだな」
酒をちびちびやるジャックは、レンの内心を知りたがっているように見えた。
「人がいて、暮らしがあって、平和を望んでいて、それぞれ精一杯生きている」
レンが見たものは、マクシオンでもよく見る光景だ。
人がいて、社会があって、そこには影も光もあって、貧富の差も、能力の差もあって。
それらはマクシオンも地球も変わりなく、きっとバイロンもそうなのだろう。
「そうだな」
ジャックは表情を変えずに肯定した。
この問いかけに、都市の実情を知らせるのに、なんの意図があるのか。
ジャックはどうしてマクシオンに協力するのか。
レンは疑問だった。
連合に愛想をつかせたにしては、ジャックは丸い。
「ジャックはどうしてマクシオンに協力を?」
酒を煽る。
度数の強いものを注ぎながら、ジャックは背中ごしにしゃべる。
「昼間にも言った通り、マクシオン機に助けられた恩義からだな。だが、それだけじゃねぇ」
カラリ、とグラスを鳴らす氷の音。
「俺は元・連合軍だが、バイロンもマクシオンも区別しねぇ。お偉方は侵略だのなんだのやってても、民間人レベルじゃ移民との交流もある。俺はそういう小さな平和を大事にしてぇのさ」
どかりと椅子に座るジャックは、真面目な顔でレンを見据えている。
「だから、マクシオンにも協力を?」
ニヤリと笑った。
「そうさ。あからさまに侵略戦闘とかは断るが、オメェみてえな平和のための任務にゃ惜しまず協力するのさ」
ジャックはやはり偏屈な人物だろう。
レンはこのジャックという老人が、人生の最後の局面で平和への尽力という道を選んだことについて、そのきっかけに思いを馳せる。
きっと、戦場での何かが、日常での誰かが、大切な事や人が、この人をそういう風に向かわせたのだ。
それが何かはわからない。
けれど、そんな理想を抱けるほどに、世界は優しさを残している。
「平和のための任務、か」
この老人を見て、願わくば優しくありたいものだ、とレンは思った。
そして、それにはまず、達成しなければならない事がある。
そんな考えが頭をよぎった時。
「ミカと見てきたこの都市はどうだった?」
「……マクシオンと同じだな」
酒をちびちびやるジャックは、レンの内心を知りたがっているように見えた。
「人がいて、暮らしがあって、平和を望んでいて、それぞれ精一杯生きている」
レンが見たものは、マクシオンでもよく見る光景だ。
人がいて、社会があって、そこには影も光もあって、貧富の差も、能力の差もあって。
それらはマクシオンも地球も変わりなく、きっとバイロンもそうなのだろう。
「そうだな」
ジャックは表情を変えずに肯定した。
この問いかけに、都市の実情を知らせるのに、なんの意図があるのか。
ジャックはどうしてマクシオンに協力するのか。
レンは疑問だった。
連合に愛想をつかせたにしては、ジャックは丸い。
「ジャックはどうしてマクシオンに協力を?」
酒を煽る。
度数の強いものを注ぎながら、ジャックは背中ごしにしゃべる。
「昼間にも言った通り、マクシオン機に助けられた恩義からだな。だが、それだけじゃねぇ」
カラリ、とグラスを鳴らす氷の音。
「俺は元・連合軍だが、バイロンもマクシオンも区別しねぇ。お偉方は侵略だのなんだのやってても、民間人レベルじゃ移民との交流もある。俺はそういう小さな平和を大事にしてぇのさ」
どかりと椅子に座るジャックは、真面目な顔でレンを見据えている。
「だから、マクシオンにも協力を?」
ニヤリと笑った。
「そうさ。あからさまに侵略戦闘とかは断るが、オメェみてえな平和のための任務にゃ惜しまず協力するのさ」
ジャックはやはり偏屈な人物だろう。
レンはこのジャックという老人が、人生の最後の局面で平和への尽力という道を選んだことについて、そのきっかけに思いを馳せる。
きっと、戦場での何かが、日常での誰かが、大切な事や人が、この人をそういう風に向かわせたのだ。
それが何かはわからない。
けれど、そんな理想を抱けるほどに、世界は優しさを残している。
「平和のための任務、か」
この老人を見て、願わくば優しくありたいものだ、とレンは思った。
そして、それにはまず、達成しなければならない事がある。
そんな考えが頭をよぎった時。
「ーーーその目だよ、レン坊」
ジャックは口元を吊り上げた。
「オメェのその目、任務をしようって軍人の目じゃねぇ。本当の目的はなんだ?」
歴戦のパイロットの目線は、レンをまっすぐに射抜いている。
本当の目的を語らせようとし、その真意を問うている。
レンは、その視線に応えるべきだと思った。
「……妹を探しているんだ」
これは、レン・イヴェールという人間を構成するかけがえのないパーツだ。
任務より、平和より、場合によっては自身よりも重いかもしれない、大事なものだ。
それを隠したままでは、この男とは付き合っていけない。
「……詳しく話してくれるか?」
その問いかけに、レンは自身の出自とこれまでの経緯、妹の事を話した。
フィア・イヴェール。
引き潮に攫われるように、ゲートに消えた妹。
レンの生涯を賭けても探し出さねばならないもの。
その想いは、レンの話に耳を傾ける老人に、しっかりと伝わったらしい。
「ーーーーなるほどな。道理で何処か心ここに在らずな訳だ」
ジャックは言う。
「だが、手がかりはあるのか?いくら自由とはいえ、オメェさんには妹さんの飛ばされた場所に心当たりでもあるのか?」
レンは首を横に振った。
ゲートというものの性質上、つながる場所は無数。
普通は、人はこれを無謀と呼ぶのかもしれない。
知らず、拳に力が入る。
「……そう悲観するな、レン坊。きっと無事に生きてるさ」
ジャックの言葉は、優しかった。
顔を上げると、ジャックは歯が何本かぬけた笑顔をしていた。
「俺はオメェが気に入ったよ。その妹さん、一緒に探そうじゃねぇか」
この晩、兵士と協力者は、改めて同志となった。
情に厚い退役軍人がレンの良き理解者となる事を、お互いにまだ知る由もない。
「……よろしく、たのむ」
しっかりと握手が結ばれ、その夜は更けていった。
「オメェのその目、任務をしようって軍人の目じゃねぇ。本当の目的はなんだ?」
歴戦のパイロットの目線は、レンをまっすぐに射抜いている。
本当の目的を語らせようとし、その真意を問うている。
レンは、その視線に応えるべきだと思った。
「……妹を探しているんだ」
これは、レン・イヴェールという人間を構成するかけがえのないパーツだ。
任務より、平和より、場合によっては自身よりも重いかもしれない、大事なものだ。
それを隠したままでは、この男とは付き合っていけない。
「……詳しく話してくれるか?」
その問いかけに、レンは自身の出自とこれまでの経緯、妹の事を話した。
フィア・イヴェール。
引き潮に攫われるように、ゲートに消えた妹。
レンの生涯を賭けても探し出さねばならないもの。
その想いは、レンの話に耳を傾ける老人に、しっかりと伝わったらしい。
「ーーーーなるほどな。道理で何処か心ここに在らずな訳だ」
ジャックは言う。
「だが、手がかりはあるのか?いくら自由とはいえ、オメェさんには妹さんの飛ばされた場所に心当たりでもあるのか?」
レンは首を横に振った。
ゲートというものの性質上、つながる場所は無数。
普通は、人はこれを無謀と呼ぶのかもしれない。
知らず、拳に力が入る。
「……そう悲観するな、レン坊。きっと無事に生きてるさ」
ジャックの言葉は、優しかった。
顔を上げると、ジャックは歯が何本かぬけた笑顔をしていた。
「俺はオメェが気に入ったよ。その妹さん、一緒に探そうじゃねぇか」
この晩、兵士と協力者は、改めて同志となった。
情に厚い退役軍人がレンの良き理解者となる事を、お互いにまだ知る由もない。
「……よろしく、たのむ」
しっかりと握手が結ばれ、その夜は更けていった。
*
4.
明くる日。
ここ数日間、ミカの手伝いをしつつ、レンはカナリアでの人脈を拡げようと動いていた。
これは情報収集が主目的で、協力者を増やすための布石だ。
「おはよう、ミカ。今日も時間通りだな」
「そういうレンはちょっと眠そうッスね」
「元々だ。ほっとけ」
整備工場のハンガーでミカを出迎え、朝の軽口をかわす。
雑談しつつ、整備工場に届いている荷物を確認しにハンガーから倉庫へ。
行きしなに共有された本日の配達リストを開く。
「さて、今日のお仕事はこれッスね」
整備工場経由で運ばれるEXM用パーツや兵装、軍人たちの補給物資……ではなく、中身は食料品や衣類、生活必需品などのようだ。
送り先は荒野を挟んだ隣接都市ヘイロン、連合軍駐屯地。
「……近郊都市への長距離配達か。中身は主に支援物資だな」
軍宛なのに支援物資だけとは、変わっている。
送り主は、カナリアの民間企業か。
「最近、配達先のヘイロンでは、新しい連合都市司令官が着任した影響で、徴収と締付けが強化されてるらしいんスよ」
商業都市ヘイロンは、元々は都市独立治安維持部隊がいたが、テロリストや内紛の影響で戦力が不足し、連合軍を受け入れた都市である。
そのため、自由独立を謳う商業都市でありながら、実質は連合が支配しているらしい。
「戦火を払うためとはいえ、世知辛いな」
バイロン、マクシオン、テロリスト。
迫る戦火を払う力がなければ、他に頼るしかない。
その対価と言われれば仕方ないが、事はもっと欲にまみれているらしい。
「それが実は、その司令官が横領と小遣い稼ぎに民間をいじめてるって専らのうわさなんすよねー、はーヤダヤダ」
そう言って肩を竦めるミカは、心底イヤそうな顔をする。
零細の地方都市では、連合本部も悪徳司令官を制御する目は持っていないと言う事か。
もしくは知っていて黙認か。
いずれにせよ、末端の運び屋ができるのは運搬だけだ。
「届け先は連合の駐屯地だが、大丈夫か?」
だが、事情を聞いておいて、この荷物を連合まで届けていいものか、迷うところではある。
そう感じての質問だったが、レンの心配は杞憂そうだった。
「あー、それ、偽装なんスよ。さっきの噂もあって、念の為ッスね。実際には孤児院を中心に民間の施設に届ける事になってるッス」
なるほど。
そういう事なら構わないな。
「了解した。さっそく出発しよう」
輸送コンテナをバックパックにマウントしたアイゼンペッカーとともに、レンはスノウブライドのスラスターをふかす。
曇天の、嫌な風が吹く朝だった。
ここ数日間、ミカの手伝いをしつつ、レンはカナリアでの人脈を拡げようと動いていた。
これは情報収集が主目的で、協力者を増やすための布石だ。
「おはよう、ミカ。今日も時間通りだな」
「そういうレンはちょっと眠そうッスね」
「元々だ。ほっとけ」
整備工場のハンガーでミカを出迎え、朝の軽口をかわす。
雑談しつつ、整備工場に届いている荷物を確認しにハンガーから倉庫へ。
行きしなに共有された本日の配達リストを開く。
「さて、今日のお仕事はこれッスね」
整備工場経由で運ばれるEXM用パーツや兵装、軍人たちの補給物資……ではなく、中身は食料品や衣類、生活必需品などのようだ。
送り先は荒野を挟んだ隣接都市ヘイロン、連合軍駐屯地。
「……近郊都市への長距離配達か。中身は主に支援物資だな」
軍宛なのに支援物資だけとは、変わっている。
送り主は、カナリアの民間企業か。
「最近、配達先のヘイロンでは、新しい連合都市司令官が着任した影響で、徴収と締付けが強化されてるらしいんスよ」
商業都市ヘイロンは、元々は都市独立治安維持部隊がいたが、テロリストや内紛の影響で戦力が不足し、連合軍を受け入れた都市である。
そのため、自由独立を謳う商業都市でありながら、実質は連合が支配しているらしい。
「戦火を払うためとはいえ、世知辛いな」
バイロン、マクシオン、テロリスト。
迫る戦火を払う力がなければ、他に頼るしかない。
その対価と言われれば仕方ないが、事はもっと欲にまみれているらしい。
「それが実は、その司令官が横領と小遣い稼ぎに民間をいじめてるって専らのうわさなんすよねー、はーヤダヤダ」
そう言って肩を竦めるミカは、心底イヤそうな顔をする。
零細の地方都市では、連合本部も悪徳司令官を制御する目は持っていないと言う事か。
もしくは知っていて黙認か。
いずれにせよ、末端の運び屋ができるのは運搬だけだ。
「届け先は連合の駐屯地だが、大丈夫か?」
だが、事情を聞いておいて、この荷物を連合まで届けていいものか、迷うところではある。
そう感じての質問だったが、レンの心配は杞憂そうだった。
「あー、それ、偽装なんスよ。さっきの噂もあって、念の為ッスね。実際には孤児院を中心に民間の施設に届ける事になってるッス」
なるほど。
そういう事なら構わないな。
「了解した。さっそく出発しよう」
輸送コンテナをバックパックにマウントしたアイゼンペッカーとともに、レンはスノウブライドのスラスターをふかす。
曇天の、嫌な風が吹く朝だった。
*
5.
商業都市ヘイロン。
外郭にあるとある商会連合の共有倉庫にて。
「連合軍人め!足元見やがって!」
若い男が憤っていた。
周りの消沈した様子に比べて、諦めの色のないその男。
「ソウジ、そうは言っても、文句も言いようがないじゃないか……」
ソウジ・シバサキ。
ヘイロンを拠点とするフリーのジャンク屋で、久遠九式を駆る熱血漢。
その激情は、今まさに配給を配って居なくなった連合に向いていた。
「だってよぉ!これっぽっちでどうやりくりしろってんだよ!」
ここの商会連合に属する構成員に対して、必要量の半分もない。
医療品は常に不足し、衣類はボロボロ、食料も腐りかけを合わせてようやく食いつなげるかどうか。
子供も老人もいるのに、これでは死ねと言われているも同じだ。
「こんなの、間違ってる!」
それもこれも、あの忌々しい新任の連合都市司令官が来てからだ。
それまでは貧しいなりにもなんとかやれる程度には配給があったというのに、やつが来てから此方、徴収はキツくなり、配給は貧相になるばかり。
これでは戦火を払っても意味がない。
「子供たちも飢えてるってのに軍備拡張?ふざけんな!」
連合は紋切り型のように敵対勢力からの防衛のための軍拡を叫び続けている。
もはや限界だ。
「ーーー俺がどうにかしてやる!」
堪忍袋の緒が切れたソウジは、待機させていた愛機に飛び込んだ。
「連合の都市統括に直談判してくる!」
周りの静止を聞くこともなく、シャッターをくぐっていく久遠九式のマントがはためく。
その日、彼の運命は転がり始めるなどとは、この時この場の誰もが知る由もない。
外郭にあるとある商会連合の共有倉庫にて。
「連合軍人め!足元見やがって!」
若い男が憤っていた。
周りの消沈した様子に比べて、諦めの色のないその男。
「ソウジ、そうは言っても、文句も言いようがないじゃないか……」
ソウジ・シバサキ。
ヘイロンを拠点とするフリーのジャンク屋で、久遠九式を駆る熱血漢。
その激情は、今まさに配給を配って居なくなった連合に向いていた。
「だってよぉ!これっぽっちでどうやりくりしろってんだよ!」
ここの商会連合に属する構成員に対して、必要量の半分もない。
医療品は常に不足し、衣類はボロボロ、食料も腐りかけを合わせてようやく食いつなげるかどうか。
子供も老人もいるのに、これでは死ねと言われているも同じだ。
「こんなの、間違ってる!」
それもこれも、あの忌々しい新任の連合都市司令官が来てからだ。
それまでは貧しいなりにもなんとかやれる程度には配給があったというのに、やつが来てから此方、徴収はキツくなり、配給は貧相になるばかり。
これでは戦火を払っても意味がない。
「子供たちも飢えてるってのに軍備拡張?ふざけんな!」
連合は紋切り型のように敵対勢力からの防衛のための軍拡を叫び続けている。
もはや限界だ。
「ーーー俺がどうにかしてやる!」
堪忍袋の緒が切れたソウジは、待機させていた愛機に飛び込んだ。
「連合の都市統括に直談判してくる!」
周りの静止を聞くこともなく、シャッターをくぐっていく久遠九式のマントがはためく。
その日、彼の運命は転がり始めるなどとは、この時この場の誰もが知る由もない。
*
6.
同刻。
ヘイロンを見下ろす台地の岩陰に、20機ほどの機体が集まっていた。
その風貌は全てがバラバラで統一感がなく、もれなく煤にまみれ、泥で汚れ、傷が補修もされずに錆びかけている。
“自由解放同盟”。
連合支配と異星侵略からの人民解放を謳うゲリラ専門のテロリスト集団である。
「ーーー偵察機、状況展開」
リーダー機と思しき茶色いラビオットベースの機体が、通信を開く。
テロリストとはいえこの集団は中々に練度が高く、無駄口を叩くものはいない。
「ヘイロン内の連合の動きは通常通り。いつでもいける」
偵察機からの情報は、高高度からのステルスドローンによる監視映像も含み、部隊に詳細な状況を知らせた。
リーダー機はそれを事前情報と照らし合わせ、齟齬がない事を確認すると、次に工作員に言葉を向ける。
「爆薬の準備状況」
「指定ポイントに配置完了」
工作員は複数のポイントに爆薬を仕掛け終えている。
これは連合軍を退けるため。
そのためには犠牲も厭わない。
具体的には、市街地の廃ビルや地下鉄跡などに仕掛けた。
「襲撃対象の状況」
続いては今回の狙いだ。
「入手した行動予定の通りに動いてる」
今回の狙いは、新しく赴任してきたという都市司令官。
前任にもまして圧政を敷いている。
これは即刻排除しなければならない。
事前情報では、本日のとある時間、都市内を巡回することになっている。
これを狙わない手はない。
「状況良好。これより作戦行動を開始する」
光学迷彩クロークを装備したテロリストたちは、ぞろぞろとヘイロンへの侵攻を開始する。
ヘイロンを見下ろす台地の岩陰に、20機ほどの機体が集まっていた。
その風貌は全てがバラバラで統一感がなく、もれなく煤にまみれ、泥で汚れ、傷が補修もされずに錆びかけている。
“自由解放同盟”。
連合支配と異星侵略からの人民解放を謳うゲリラ専門のテロリスト集団である。
「ーーー偵察機、状況展開」
リーダー機と思しき茶色いラビオットベースの機体が、通信を開く。
テロリストとはいえこの集団は中々に練度が高く、無駄口を叩くものはいない。
「ヘイロン内の連合の動きは通常通り。いつでもいける」
偵察機からの情報は、高高度からのステルスドローンによる監視映像も含み、部隊に詳細な状況を知らせた。
リーダー機はそれを事前情報と照らし合わせ、齟齬がない事を確認すると、次に工作員に言葉を向ける。
「爆薬の準備状況」
「指定ポイントに配置完了」
工作員は複数のポイントに爆薬を仕掛け終えている。
これは連合軍を退けるため。
そのためには犠牲も厭わない。
具体的には、市街地の廃ビルや地下鉄跡などに仕掛けた。
「襲撃対象の状況」
続いては今回の狙いだ。
「入手した行動予定の通りに動いてる」
今回の狙いは、新しく赴任してきたという都市司令官。
前任にもまして圧政を敷いている。
これは即刻排除しなければならない。
事前情報では、本日のとある時間、都市内を巡回することになっている。
これを狙わない手はない。
「状況良好。これより作戦行動を開始する」
光学迷彩クロークを装備したテロリストたちは、ぞろぞろとヘイロンへの侵攻を開始する。
*
7.
「畜生!門前払いなんて情けねえ!」
悪態をつきながら帰路につくソウジ。
都市外にある連合駐屯地にはもちろん入れてなどもらえず、ソウジは多数のアルトとラビオットに囲まれて引き下がるしかなかった。
「クソっ、力がねぇ、知恵がねぇ、権力がねぇ。これじゃ何も為せやしねぇ……」
かつて見た朱色と紅色の機体、その強さと苛烈さに惹かれて機体に乗り込んだのに、これではなんの意味もない。
しかし、どうしようもなく無力だ。
先程までの勢いはしぼみ、ソウジは元来た道を引き返す。
その途中。
「ーーーん?民間業者の機体が向かってくる?」
索敵に連合軍ではない反応が引っかかる。
その識別は、民間の運送業者のもの。
しかし、遠くに見えるそれらの形状は、明らかに運送用のチューンではない。
1機はバイク状でコンテナをマウントしているが、もう1機は太刀を引っ提げ、片手には盾をもち、スラスターをふかせてバイクに並走していた。
そしてその純白の機体は、まごうことなくマクシオン機体の形状。
それが、こんな連合軍支配地で荷物を運んでいる。
ソウジの中で、一気に情報が組み上がる。
連合宛の物資を、敵が奪っていく最中だと。
「待てやコラアァァァ!」
秒で沸点を振り切り、久遠九式が駆動音の咆哮を上げる。
急加速、同時に武装を手に取り、地を駆ける。
大音量で急接近する赤い機体に気付いた白と黒は即座にフォーメーションを変えた。
前衛は白。
腰から抜いたブレードを構え。
後衛が黒。
バイクから人型に変形し、両腕の砲身をソウジに向ける。
1対2。
だが、久遠九式の速度を舐めてもらっちゃ困るぜ!
「その荷物、置いていけや!」
振りかぶるとともに飛びかかり、ハウブレードを起動。
斬りかかる頃にはエネルギーブレードが燦然と輝く。
だが、飛び込んだ袈裟斬りは軽くかわされる。
「その筋合いは……ない!」
サイドステップから踏み込んだ鋭い横薙ぎがソウジに迫るが、ソウジとてそれを予想していないはずもない。
「当たるかよっ!」
白い機体のブレードは、久遠九式のクロークを裂いただけに終わる。
だが、間髪いれずに大口径が飛来する。
ガッ、ガッ。
衝撃が機体を揺らすが、計器は損傷を表示しない。
クロークが盾になって、装甲を凹ませただけに留まったらしい。
弾丸を放ったのは、もちろん黒の機体。
両腕から硝煙漂わせ、こちらの隙をうかがう様子は、やはりただの運送業者とは思えない。
「ぜってー取り返してやんぜ……!」
悪態をつきながら帰路につくソウジ。
都市外にある連合駐屯地にはもちろん入れてなどもらえず、ソウジは多数のアルトとラビオットに囲まれて引き下がるしかなかった。
「クソっ、力がねぇ、知恵がねぇ、権力がねぇ。これじゃ何も為せやしねぇ……」
かつて見た朱色と紅色の機体、その強さと苛烈さに惹かれて機体に乗り込んだのに、これではなんの意味もない。
しかし、どうしようもなく無力だ。
先程までの勢いはしぼみ、ソウジは元来た道を引き返す。
その途中。
「ーーーん?民間業者の機体が向かってくる?」
索敵に連合軍ではない反応が引っかかる。
その識別は、民間の運送業者のもの。
しかし、遠くに見えるそれらの形状は、明らかに運送用のチューンではない。
1機はバイク状でコンテナをマウントしているが、もう1機は太刀を引っ提げ、片手には盾をもち、スラスターをふかせてバイクに並走していた。
そしてその純白の機体は、まごうことなくマクシオン機体の形状。
それが、こんな連合軍支配地で荷物を運んでいる。
ソウジの中で、一気に情報が組み上がる。
連合宛の物資を、敵が奪っていく最中だと。
「待てやコラアァァァ!」
秒で沸点を振り切り、久遠九式が駆動音の咆哮を上げる。
急加速、同時に武装を手に取り、地を駆ける。
大音量で急接近する赤い機体に気付いた白と黒は即座にフォーメーションを変えた。
前衛は白。
腰から抜いたブレードを構え。
後衛が黒。
バイクから人型に変形し、両腕の砲身をソウジに向ける。
1対2。
だが、久遠九式の速度を舐めてもらっちゃ困るぜ!
「その荷物、置いていけや!」
振りかぶるとともに飛びかかり、ハウブレードを起動。
斬りかかる頃にはエネルギーブレードが燦然と輝く。
だが、飛び込んだ袈裟斬りは軽くかわされる。
「その筋合いは……ない!」
サイドステップから踏み込んだ鋭い横薙ぎがソウジに迫るが、ソウジとてそれを予想していないはずもない。
「当たるかよっ!」
白い機体のブレードは、久遠九式のクロークを裂いただけに終わる。
だが、間髪いれずに大口径が飛来する。
ガッ、ガッ。
衝撃が機体を揺らすが、計器は損傷を表示しない。
クロークが盾になって、装甲を凹ませただけに留まったらしい。
弾丸を放ったのは、もちろん黒の機体。
両腕から硝煙漂わせ、こちらの隙をうかがう様子は、やはりただの運送業者とは思えない。
「ぜってー取り返してやんぜ……!」
*
8.
時間は少し遡る。
荒野を走るアイゼンペッカー、それに並走するスノウブライド。
アイゼンペッカーは平らな荒野を走るため、今はバイク型に変形し、コンテナをマウントしている。
そのため、スノウブライドがその護衛として周囲を警戒するという配置だ。
「ミカ、商業都市ヘイロンはどんなところなんだ?」
改めて、レンはミカに問いかける。
レンはまだ行ったことがないが、ミカは今まで何回もヘイロンに行っているらしく、レンにもわかりやすい答えが返ってきた。
「そうッスねぇ……すごく簡単に言えば、連合軍とスラムの街って感じッスね」
要約してその2つが残るなら、貧困層が厚く、戦火に疲弊した都市というイメージか。連合軍という言葉に棘を感じると言うことは、殊更にそれが状況を加速させたのかもしれない。
「出発前に言っていた連合の締付けが原因か?」
砂煙を巻き上げながら進む遥か向こう。
話題の都市が薄ぼんやりと小さく佇む。
その姿が、急に煤けたものに見えた気がした。
「それも原因の一つではある、が正しいッス」
ミカはトーンをひとつ落とした。
「連合軍が来る前から、ヘイロンは斜陽産業抱えてて、傾きつつあったんスよ」
ミカが言うには、ヘイロンは元々観光地だったが、目玉の文化遺産は侵略によって破壊され、都市の勢いは失われて久しいらしい。
そして、そこにテロリストと連合軍が転がり込んできたという流れだ。
「連合軍とテロリストが最後のひと押しをしたのか」
疲弊した都市を破壊したのは戦火だった。
元々侵略してきたバイロンは戦略的価値を見いださずに他の地方へ展開、さらにそれを蹂躙したテロリストと連合。
「戦争だから仕方ないって割り切るには、そこに生活する人を知りすぎちゃってるッスね」
運び屋として出入りするミカは、儚げにつぶやいた。
「……ヘイロンには思い入れがあるのか?」
思わず口をついた言葉は、思いの外ミカの内心に踏み込んだように感じた。しかし、一度飛び出た言葉は取り戻せない。
しばしの沈黙を経て、ミカは力なく笑った。
「………………珍しく質問ばかりっスね、レン」
少なくとも拒絶はされていないらしい。
「……ミカが気にしているようだったからな」
気遣ったのだと後付のように言葉を足す。
荒野を走るアイゼンペッカー、それに並走するスノウブライド。
アイゼンペッカーは平らな荒野を走るため、今はバイク型に変形し、コンテナをマウントしている。
そのため、スノウブライドがその護衛として周囲を警戒するという配置だ。
「ミカ、商業都市ヘイロンはどんなところなんだ?」
改めて、レンはミカに問いかける。
レンはまだ行ったことがないが、ミカは今まで何回もヘイロンに行っているらしく、レンにもわかりやすい答えが返ってきた。
「そうッスねぇ……すごく簡単に言えば、連合軍とスラムの街って感じッスね」
要約してその2つが残るなら、貧困層が厚く、戦火に疲弊した都市というイメージか。連合軍という言葉に棘を感じると言うことは、殊更にそれが状況を加速させたのかもしれない。
「出発前に言っていた連合の締付けが原因か?」
砂煙を巻き上げながら進む遥か向こう。
話題の都市が薄ぼんやりと小さく佇む。
その姿が、急に煤けたものに見えた気がした。
「それも原因の一つではある、が正しいッス」
ミカはトーンをひとつ落とした。
「連合軍が来る前から、ヘイロンは斜陽産業抱えてて、傾きつつあったんスよ」
ミカが言うには、ヘイロンは元々観光地だったが、目玉の文化遺産は侵略によって破壊され、都市の勢いは失われて久しいらしい。
そして、そこにテロリストと連合軍が転がり込んできたという流れだ。
「連合軍とテロリストが最後のひと押しをしたのか」
疲弊した都市を破壊したのは戦火だった。
元々侵略してきたバイロンは戦略的価値を見いださずに他の地方へ展開、さらにそれを蹂躙したテロリストと連合。
「戦争だから仕方ないって割り切るには、そこに生活する人を知りすぎちゃってるッスね」
運び屋として出入りするミカは、儚げにつぶやいた。
「……ヘイロンには思い入れがあるのか?」
思わず口をついた言葉は、思いの外ミカの内心に踏み込んだように感じた。しかし、一度飛び出た言葉は取り戻せない。
しばしの沈黙を経て、ミカは力なく笑った。
「………………珍しく質問ばかりっスね、レン」
少なくとも拒絶はされていないらしい。
「……ミカが気にしているようだったからな」
気遣ったのだと後付のように言葉を足す。
「ーーーー私情は聞かない聞かせないが主義なんスけど、レンには何か話しても良い気がしてきた」
そんなレンの言葉に、ミカは覚悟を決めたような言葉をこぼした。
そして、深呼吸を数回。それから声のトーンをいつものものに戻す。
「私が運び屋をしてる理由は、自由を求めてるからなんスよ」
主義を捨てて、ミカは己の事を話し出す。
「私、バイロン人と地球人のハーフなんです」
レンが口を挟もうと挟むまいと、きっと変わらないであろう勢いで、しかしはっきりと語る。
「母がバイロンの将校、父は地球人の整備士。二人とももう居ません。今はなし崩しでバイロン籍ですけど、私は正式な軍属じゃなく、機体を借りてる状態で、自由になるためにこの仕事をしてる」
レンは、その言葉を聞き逃さないように、耳を傾ける。
「私の目的は、借金を返し終えること、それから両親ができなかった自由を謳歌すること」
ここまで張り詰めた糸のように。
己の全てであるというように、ミカは語った。
事実、それは戦争によって生まれた混血児で、侵略の板挟みを知る者として育ったミカの要素を込めた言葉だ。
不条理を跳ね返した先の自由。
それが、ミカ・フリューゲルの目指すモノ。
「お世話になったヘイロンの人たちは捨て置けない。それを捨てて手に入れる自由は本当の自由じゃない気がするんスよ」
ミカはようやく元通りに笑った。
「さて、私がここまで話したからには、レンの事情も聞かせてもらうッスよ!」
その言葉に、レンが答えようとしたその時だった。
そして、深呼吸を数回。それから声のトーンをいつものものに戻す。
「私が運び屋をしてる理由は、自由を求めてるからなんスよ」
主義を捨てて、ミカは己の事を話し出す。
「私、バイロン人と地球人のハーフなんです」
レンが口を挟もうと挟むまいと、きっと変わらないであろう勢いで、しかしはっきりと語る。
「母がバイロンの将校、父は地球人の整備士。二人とももう居ません。今はなし崩しでバイロン籍ですけど、私は正式な軍属じゃなく、機体を借りてる状態で、自由になるためにこの仕事をしてる」
レンは、その言葉を聞き逃さないように、耳を傾ける。
「私の目的は、借金を返し終えること、それから両親ができなかった自由を謳歌すること」
ここまで張り詰めた糸のように。
己の全てであるというように、ミカは語った。
事実、それは戦争によって生まれた混血児で、侵略の板挟みを知る者として育ったミカの要素を込めた言葉だ。
不条理を跳ね返した先の自由。
それが、ミカ・フリューゲルの目指すモノ。
「お世話になったヘイロンの人たちは捨て置けない。それを捨てて手に入れる自由は本当の自由じゃない気がするんスよ」
ミカはようやく元通りに笑った。
「さて、私がここまで話したからには、レンの事情も聞かせてもらうッスよ!」
その言葉に、レンが答えようとしたその時だった。
「待てやコラアァァァ!」
1機の真っ赤な機体が、砂埃を巻き上げながら突っ込んでくる。
既にその手にはエネルギーブレードが握られ、こちらの制止を聞きそうにない。
「ーーー仕方ない、やるぞ」
「おうさ!支援は任せるッス!」
荷物を守るため、必然的にスノウを前へ。
レンは腰のブレードを抜き放ち、正眼に構えた。
この時点で敵は目前。
速い……!
既にその手にはエネルギーブレードが握られ、こちらの制止を聞きそうにない。
「ーーー仕方ない、やるぞ」
「おうさ!支援は任せるッス!」
荷物を守るため、必然的にスノウを前へ。
レンは腰のブレードを抜き放ち、正眼に構えた。
この時点で敵は目前。
速い……!
「その荷物、置いていけや!」
飛びかかる赤。
急速に迫るエネルギーブレードの刃。
速すぎてミカの支援砲撃が間に合わず、サイドステップでぎりぎり避ける。
「その筋合いは……ない!」
そのままスライドするように大きく踏み込んだ横薙ぎは、辛くもクロークを切り裂くだけに留まった。
「当たるかよっ!」
そう言って反撃に転じようとする強襲者に、ミカの放った大口径が噛み付く。
ガッガッ!
鋼を打ち据える鈍い音がするも、損傷は軽微。
あのクロークは耐物理仕様のようだ。
「ぜってー取り返してやんぜ……!」
取り返すも何も、端から依頼の品しか運んでいない。
しかし、赤い機体の主は、どうにも聞く耳がなさそうだ。
レンは仕方なく、再びブレードを正眼に構え直す。
「どうやら大人しくする気はないようだな……」
問答は無用、言い聞かせるにしても、一度制圧してからのようだ。
ここから、スノウブライドと久遠九式の斬り合いが始まる。
ブースターを瞬間的にふかして突撃をかけるスノウ。
最短距離で振るわれた袈裟斬りを、久遠九式がハウブレードで受ける。
金属が灼ける匂いが辺りに立ち込める。
バチバチと舞い踊る火花に溶接煙。
軽量級に見えてその実かなりの重さを伴うスノウの斬撃は、久遠のハウブレードを容易く弾くが、久遠九式はそれをなんとかいなして難を逃れた。
お返しとばかりに振り返って放つはボルトロア。
腰にマウントしていた射撃武器を早打ちしてみせる。
ヒュン!と風を掻き切る光弾。
エネルギー系のキャノンは一見無防備なスノウの背中に迫るが、スノウは振り返りざまにシールドをかざして受ける。
水が瞬時に蒸発するような反射音を轟かせ、弾かれたエネルギーが霧散、受けた衝撃に機体が後退するのを見越したブーストは、被弾の衝撃と相まって激しくコックピットを揺らすが、レンには関係ない。
返す刀で逆袈裟に切っ先を跳ね上げる。
天を突くかのような流麗な弧の一閃。
しかし、やや距離が足らない。
火花が散って、スウェーバックした久遠の胸部装甲に裂傷が刻まれるものの、久遠は止まらない。
下がりながらボルトロアを細かく連射、胴のあいたスノウを牽制しつつ、脚をふんばり斬りかかる。
気付いたスノウも振り上げたブレードを打ち下ろし、ハウブレードと鍔迫り合いとなる。
だが、それも長くは続かない。
一瞬の硬直を見逃さないミカの炸裂弾が、的確に久遠の脚を狙い撃ったからだ。
「ーーーー!!」
ソウジは死線をくぐってきたジャンク屋である。
従って、その炸裂弾を受けるのを良しとしなかった。
だが、鍔迫り合いで圧がかかった状態でできるのは、スノウを受け流して脚をどけることくらいだった。
結果、何が起きたか。
急速に迫るエネルギーブレードの刃。
速すぎてミカの支援砲撃が間に合わず、サイドステップでぎりぎり避ける。
「その筋合いは……ない!」
そのままスライドするように大きく踏み込んだ横薙ぎは、辛くもクロークを切り裂くだけに留まった。
「当たるかよっ!」
そう言って反撃に転じようとする強襲者に、ミカの放った大口径が噛み付く。
ガッガッ!
鋼を打ち据える鈍い音がするも、損傷は軽微。
あのクロークは耐物理仕様のようだ。
「ぜってー取り返してやんぜ……!」
取り返すも何も、端から依頼の品しか運んでいない。
しかし、赤い機体の主は、どうにも聞く耳がなさそうだ。
レンは仕方なく、再びブレードを正眼に構え直す。
「どうやら大人しくする気はないようだな……」
問答は無用、言い聞かせるにしても、一度制圧してからのようだ。
ここから、スノウブライドと久遠九式の斬り合いが始まる。
ブースターを瞬間的にふかして突撃をかけるスノウ。
最短距離で振るわれた袈裟斬りを、久遠九式がハウブレードで受ける。
金属が灼ける匂いが辺りに立ち込める。
バチバチと舞い踊る火花に溶接煙。
軽量級に見えてその実かなりの重さを伴うスノウの斬撃は、久遠のハウブレードを容易く弾くが、久遠九式はそれをなんとかいなして難を逃れた。
お返しとばかりに振り返って放つはボルトロア。
腰にマウントしていた射撃武器を早打ちしてみせる。
ヒュン!と風を掻き切る光弾。
エネルギー系のキャノンは一見無防備なスノウの背中に迫るが、スノウは振り返りざまにシールドをかざして受ける。
水が瞬時に蒸発するような反射音を轟かせ、弾かれたエネルギーが霧散、受けた衝撃に機体が後退するのを見越したブーストは、被弾の衝撃と相まって激しくコックピットを揺らすが、レンには関係ない。
返す刀で逆袈裟に切っ先を跳ね上げる。
天を突くかのような流麗な弧の一閃。
しかし、やや距離が足らない。
火花が散って、スウェーバックした久遠の胸部装甲に裂傷が刻まれるものの、久遠は止まらない。
下がりながらボルトロアを細かく連射、胴のあいたスノウを牽制しつつ、脚をふんばり斬りかかる。
気付いたスノウも振り上げたブレードを打ち下ろし、ハウブレードと鍔迫り合いとなる。
だが、それも長くは続かない。
一瞬の硬直を見逃さないミカの炸裂弾が、的確に久遠の脚を狙い撃ったからだ。
「ーーーー!!」
ソウジは死線をくぐってきたジャンク屋である。
従って、その炸裂弾を受けるのを良しとしなかった。
だが、鍔迫り合いで圧がかかった状態でできるのは、スノウを受け流して脚をどけることくらいだった。
結果、何が起きたか。
カッ!ドォーン!
炸裂弾が地面を抉る。
それを起点として、|地面が割れた《・・・・・・》。
文字通り、足場として立っていた地表面が崩れ去り、足元に大穴がぽっかりと口を開ける。
受け流されて体勢を崩したスノウ、その上にのしかかるように久遠、不意をつかれて硬直していたアイゼン。
3機は突然の事態に対応することもままならず、奈落の底に落ちていく。
それを起点として、|地面が割れた《・・・・・・》。
文字通り、足場として立っていた地表面が崩れ去り、足元に大穴がぽっかりと口を開ける。
受け流されて体勢を崩したスノウ、その上にのしかかるように久遠、不意をつかれて硬直していたアイゼン。
3機は突然の事態に対応することもままならず、奈落の底に落ちていく。
*
9.
それはどれくらいの時間が経った頃か。
明滅するコックピットで、レンは目を覚ます。
「…………っ痛、」
どうやら頭を打って気絶していたらしい。
スノウブライドのコンソールに表示されるアラートや表示を確認し、機体OSを再起動させる。
幸いにもエラーも損害も軽微、すぐさまスノウは目を覚ます。
「ーーーーいったい、ここは……どこだ?」
上から射す光に照らされるその空間。
瓦礫と土埃に塗れてはいるが、それは明らかな人工物。
見上げれば、遥か上の方まで床が抜け落ちた跡が続いている。
「落ちてきた、のか?」
辺りを見回す。
すると、薄暗がりに黒い機体ーミカのアイゼンペッカーが倒れている。
駆け寄って通信を開き、呼びかける。
「ミカ、大丈夫か」
呼びかけに反応したのか、うっと呻く声がかすかに聞こえた。
「ってー、腰打った……、ぁー、とりあえず無事ッスね……」
落下の衝撃でもコンテナはマウントされたままだ。
アイゼンペッカーは本当に丈夫らしい。
側に落ちていたブレードを拾い上げる。
さて、もう1機は……。
「おい、赤いの。大丈夫か?」
一応ブレードは抜身のまま。
赤い機体の主も通信に反応して目を覚ましたらしい。
機体がギギと軋む。
「ーーーーあークソっ、いってーな……」
立ち上がる前に、レンは機体のコアに切っ先を付き当てる。
「動くな、襲撃者。まずはそちらの身分を明かせ」
レンの言葉に、赤い機体の主は舌打ちした。
しかし、身動きはなく、ややあって通信ごしに不貞腐れた声が届く。
「ーーーーソウジ・シバサキ。ヘイロンのジャンク屋」
確認した識別信号は連合傘下。
だとしたら、連合はこんな野盗紛いを許可している?
いや、むしろ締付けがそれほどに厳しいというのだろうか?
「ジャンク屋?民間の運送業者まで狙うほど貧しているのか?」
レンが問いかけると、ソウジは苛立ちを滲ませた言葉を返してくる。
「ぁあ?運送業者ぁ?マクシオン機とバイロン機が見え透いた嘘つくなよ」
どうやらソウジは、こちらを運送業者だと認識していないらしい。
しかし、ミカがもつライセンスは、バイロン機に乗っていたとて有効。しかも、ちゃんと連合も承認したものである。
「いえいえ、本当に民間の運送業者ッスよ。ほら」
データ証書である特定運搬業登録許可証をホログラムで示す。
特定許可証は、軍事物資すら運べるゴールドライセンス。
これを偽装することはかなり難しい。
「……マジかよ」
それをソウジも知っていた。
ようやく声色から剣呑さを消したソウジに対して、レンは今一度問いかける。
「…………どうやらお互いに勘違いがあるようだな?」
「オレはアンタたちの事をマクシオンとバイロンの工作員だと思ってたんだが、違うって事だな?」
ここで、ソウジの誤解はようやく解けたらしい。
「こっちはヘイロンまで物資を届ける運び屋とその護衛ッスよ」
「俺の機体がマクシオン機体だが、マクシオン軍属ではないのは確かだ。生憎と、証明はできないが」
レンとミカの言葉を信じてくれたようだった。
「……いや、構わねぇ。いずれにせよ、アンタは運送業者なんだろ?」
加えて、実際にミカが背負う物資は、ヘイロンの民間人のための物資。
「連合宛は偽装で、実は民間人のための支援物資なんスよ、これ」
その事実を明かすと、ソウジはバツが悪そうに言う。
「……ぁー、これは完全にオレが悪ぃわ、スマン」
そして、コックピットのハッチを開けて素顔を晒した。
「改めて自己紹介させてもらうと、オレはヘイロンでジャンク屋をやってるソウジ・シバサキだ。アンタらを襲撃したのは、連合物資をちょろまかそうとしてるように見えたから、だな」
襲撃の理由は明確だ。
連合への、ひいては民間人から搾取された物資を掠めとられたと勘違いし、それを取り返そうとしただけなのだ。
「なるほど。他軍の工作員が物資を強奪したと勘違いしたのか」
「確かに見た目はまんまバイロンとマクシオンッスからねぇ」
遠目では連合に見えるはずもない2機のため、いたしかたなしである。
「今、ヘイロンは連合の締付けが強くて、子供すら食うのに困ってるくらいなんだ。それで連合に直談判しようとしたんだが、門前払いされちまってよ、アンタらを見かけた時カッとなっちまった……」
ソウジにも事情があった。
それは十分配慮に値するものだろう。
「連合の締付けがかなりキツいってのは、カナリアまで聞こえてきてるッスからね……」
だが、今はこの大穴から脱出するのか先決だ。
「……とりあえず事情は把握した。まずは此処を脱出するぞ」
アイゼンペッカーは落ちた衝撃で可変機構が故障して変形できず、荷物ごと飛ぶことができない。それに久遠九式という陸戦型がいる以上、この謎の施設を登る必要がある。
「探索しながら上を目指すぞ」
「なんか探検隊みたいでワクワクするッスね」
「ったく、呑気なこった」
スノウブライドを先頭に、落ちた区画から先へ進む。
幸い、この廃施設はエグザマクスも通行できるような通路が多い。
竪穴さえ見つけることができれば、脱出は叶うはずだ。
警戒しつつ進んでいく。
廊下部分は灯りがまばらにちらついていた。
「この施設、ところどころ生きてるッスね」
「だが、人の姿は全くねぇな」
ミカとソウジの感想を聞きつつ、レンは壁面のコンソールを確認する。
「施設の資材や型式から推測しても、かなりの期間放置されているようだな」
生きている。
電力はどこから?自家発電だろうか。
コンソールの型番は10年以上前のハイエンド。
ジャンクにしても産廃モノだ。
しかし、機体からのアクセスも問題はない。
セキュリティロックはかけられていないようで、情報工作員ではないレンでもこの施設の情報を得ることができた。
「ーーーーなるほど。ここは元々は連合外郭団体のもののようだ」
基地の名称は、研究所“ルフ”となっている。
どうやらいくつかある拠点の一つだったらしく、同仕様の研究所や生産拠点などが他にもあるらしい。
さらに施設概要を探っていくと、構造設計が出てきた。
見てみれば、かつての地下鉄廃路線などの複合構造物を再利用した施設らしい。恐ろしく広い構造をしているのが見て取れる。
その構造上、出入り口がいくつもあり、基地自体は地下深くまで伸びている。自前の地熱発電施設やシェルター、食料庫、弾薬庫、必要なものは一通り揃っているようだ。
また宇宙への射出台も兼ね備え、広域の迎撃対応を想定したもののようだった。
ミカとソウジにもデータを共有する。
「どうやらここは破棄された連合軍基地らしい」
「マップデータ、あったんスね」
「いや、とんでもない広さだな、此処……」
二人もここの広さについて驚いたようだ。
そして、なにやら唸っているソウジが、意を決したように切り出す。
「……ちょっとものは相談なんだがよ、例えばここをシェルターみたいに出来ねぇかな?」
意図は不明だが、回答はこうだろう。
「設備的にはできそうだな」
地下空間ながら広い床面積と、生活を維持できる生産設備、軍施設なのだから防備もそれなりだろう。
「廃棄されてんなら、勝手に使っても構わねぇよな……」
レンの回答を受けたソウジがブツブツと考える。
ミカはその意図に気付いたらしい。
「あー、ヘイロンの民間人を退避させるつもりッスか?」
つまり、困窮した民間人の逃げ場を作りたいのか。
「もし可能なら、ここに物資や資産を隠すことだってできんだろ」
「連合が把握していなければ、それも手だな」
破棄された施設だ。
管理の目は届いてはいないだろう。
人や物資の流れを偽装なりできるなら、可能性はありそうだ。
そして、ソウジはミカとレンに頭を下げた。
「なぁ、アンタらは運び屋と護衛だろ?悪ぃようにはしねぇ、協力してくれよ」
確かにミカならその辺りはうまくやれるかもしれない。
「私個人としては、まぁ、協力するのは構わないッスね。レンはどうッスか」
ミカもやぶさかではないようだ。
「……考えないでもない」
レンが頷くと、ソウジは通信ごしでもニヤッとしたとわかるくらいに声のトーンがあがった。
「へっ。じゃあ決まりだな」
その声に釣られたか、ミカもふふっと笑いをこぼす。
「……なんか、悪巧みしてるみたいで楽しいッスね、こういうの」
悪巧みか。
確かに子供のころの秘密基地のようではある。
「おぉ?意外と乗り気だな、ミカ。なら、チーム名でもつけるか」
そんなことをぼんやりと考えていると、ミカが言う。
「じゃあ、レンが考えてください」
「俺が?」
急にそんなことを言われても。
「そうだな。レンが一番強い。なら、リーダーはレンがいいだろ」
しかし、ソウジも期待しているような様子。
……仕方ない。
考えてみようか。
……。
明滅するコックピットで、レンは目を覚ます。
「…………っ痛、」
どうやら頭を打って気絶していたらしい。
スノウブライドのコンソールに表示されるアラートや表示を確認し、機体OSを再起動させる。
幸いにもエラーも損害も軽微、すぐさまスノウは目を覚ます。
「ーーーーいったい、ここは……どこだ?」
上から射す光に照らされるその空間。
瓦礫と土埃に塗れてはいるが、それは明らかな人工物。
見上げれば、遥か上の方まで床が抜け落ちた跡が続いている。
「落ちてきた、のか?」
辺りを見回す。
すると、薄暗がりに黒い機体ーミカのアイゼンペッカーが倒れている。
駆け寄って通信を開き、呼びかける。
「ミカ、大丈夫か」
呼びかけに反応したのか、うっと呻く声がかすかに聞こえた。
「ってー、腰打った……、ぁー、とりあえず無事ッスね……」
落下の衝撃でもコンテナはマウントされたままだ。
アイゼンペッカーは本当に丈夫らしい。
側に落ちていたブレードを拾い上げる。
さて、もう1機は……。
「おい、赤いの。大丈夫か?」
一応ブレードは抜身のまま。
赤い機体の主も通信に反応して目を覚ましたらしい。
機体がギギと軋む。
「ーーーーあークソっ、いってーな……」
立ち上がる前に、レンは機体のコアに切っ先を付き当てる。
「動くな、襲撃者。まずはそちらの身分を明かせ」
レンの言葉に、赤い機体の主は舌打ちした。
しかし、身動きはなく、ややあって通信ごしに不貞腐れた声が届く。
「ーーーーソウジ・シバサキ。ヘイロンのジャンク屋」
確認した識別信号は連合傘下。
だとしたら、連合はこんな野盗紛いを許可している?
いや、むしろ締付けがそれほどに厳しいというのだろうか?
「ジャンク屋?民間の運送業者まで狙うほど貧しているのか?」
レンが問いかけると、ソウジは苛立ちを滲ませた言葉を返してくる。
「ぁあ?運送業者ぁ?マクシオン機とバイロン機が見え透いた嘘つくなよ」
どうやらソウジは、こちらを運送業者だと認識していないらしい。
しかし、ミカがもつライセンスは、バイロン機に乗っていたとて有効。しかも、ちゃんと連合も承認したものである。
「いえいえ、本当に民間の運送業者ッスよ。ほら」
データ証書である特定運搬業登録許可証をホログラムで示す。
特定許可証は、軍事物資すら運べるゴールドライセンス。
これを偽装することはかなり難しい。
「……マジかよ」
それをソウジも知っていた。
ようやく声色から剣呑さを消したソウジに対して、レンは今一度問いかける。
「…………どうやらお互いに勘違いがあるようだな?」
「オレはアンタたちの事をマクシオンとバイロンの工作員だと思ってたんだが、違うって事だな?」
ここで、ソウジの誤解はようやく解けたらしい。
「こっちはヘイロンまで物資を届ける運び屋とその護衛ッスよ」
「俺の機体がマクシオン機体だが、マクシオン軍属ではないのは確かだ。生憎と、証明はできないが」
レンとミカの言葉を信じてくれたようだった。
「……いや、構わねぇ。いずれにせよ、アンタは運送業者なんだろ?」
加えて、実際にミカが背負う物資は、ヘイロンの民間人のための物資。
「連合宛は偽装で、実は民間人のための支援物資なんスよ、これ」
その事実を明かすと、ソウジはバツが悪そうに言う。
「……ぁー、これは完全にオレが悪ぃわ、スマン」
そして、コックピットのハッチを開けて素顔を晒した。
「改めて自己紹介させてもらうと、オレはヘイロンでジャンク屋をやってるソウジ・シバサキだ。アンタらを襲撃したのは、連合物資をちょろまかそうとしてるように見えたから、だな」
襲撃の理由は明確だ。
連合への、ひいては民間人から搾取された物資を掠めとられたと勘違いし、それを取り返そうとしただけなのだ。
「なるほど。他軍の工作員が物資を強奪したと勘違いしたのか」
「確かに見た目はまんまバイロンとマクシオンッスからねぇ」
遠目では連合に見えるはずもない2機のため、いたしかたなしである。
「今、ヘイロンは連合の締付けが強くて、子供すら食うのに困ってるくらいなんだ。それで連合に直談判しようとしたんだが、門前払いされちまってよ、アンタらを見かけた時カッとなっちまった……」
ソウジにも事情があった。
それは十分配慮に値するものだろう。
「連合の締付けがかなりキツいってのは、カナリアまで聞こえてきてるッスからね……」
だが、今はこの大穴から脱出するのか先決だ。
「……とりあえず事情は把握した。まずは此処を脱出するぞ」
アイゼンペッカーは落ちた衝撃で可変機構が故障して変形できず、荷物ごと飛ぶことができない。それに久遠九式という陸戦型がいる以上、この謎の施設を登る必要がある。
「探索しながら上を目指すぞ」
「なんか探検隊みたいでワクワクするッスね」
「ったく、呑気なこった」
スノウブライドを先頭に、落ちた区画から先へ進む。
幸い、この廃施設はエグザマクスも通行できるような通路が多い。
竪穴さえ見つけることができれば、脱出は叶うはずだ。
警戒しつつ進んでいく。
廊下部分は灯りがまばらにちらついていた。
「この施設、ところどころ生きてるッスね」
「だが、人の姿は全くねぇな」
ミカとソウジの感想を聞きつつ、レンは壁面のコンソールを確認する。
「施設の資材や型式から推測しても、かなりの期間放置されているようだな」
生きている。
電力はどこから?自家発電だろうか。
コンソールの型番は10年以上前のハイエンド。
ジャンクにしても産廃モノだ。
しかし、機体からのアクセスも問題はない。
セキュリティロックはかけられていないようで、情報工作員ではないレンでもこの施設の情報を得ることができた。
「ーーーーなるほど。ここは元々は連合外郭団体のもののようだ」
基地の名称は、研究所“ルフ”となっている。
どうやらいくつかある拠点の一つだったらしく、同仕様の研究所や生産拠点などが他にもあるらしい。
さらに施設概要を探っていくと、構造設計が出てきた。
見てみれば、かつての地下鉄廃路線などの複合構造物を再利用した施設らしい。恐ろしく広い構造をしているのが見て取れる。
その構造上、出入り口がいくつもあり、基地自体は地下深くまで伸びている。自前の地熱発電施設やシェルター、食料庫、弾薬庫、必要なものは一通り揃っているようだ。
また宇宙への射出台も兼ね備え、広域の迎撃対応を想定したもののようだった。
ミカとソウジにもデータを共有する。
「どうやらここは破棄された連合軍基地らしい」
「マップデータ、あったんスね」
「いや、とんでもない広さだな、此処……」
二人もここの広さについて驚いたようだ。
そして、なにやら唸っているソウジが、意を決したように切り出す。
「……ちょっとものは相談なんだがよ、例えばここをシェルターみたいに出来ねぇかな?」
意図は不明だが、回答はこうだろう。
「設備的にはできそうだな」
地下空間ながら広い床面積と、生活を維持できる生産設備、軍施設なのだから防備もそれなりだろう。
「廃棄されてんなら、勝手に使っても構わねぇよな……」
レンの回答を受けたソウジがブツブツと考える。
ミカはその意図に気付いたらしい。
「あー、ヘイロンの民間人を退避させるつもりッスか?」
つまり、困窮した民間人の逃げ場を作りたいのか。
「もし可能なら、ここに物資や資産を隠すことだってできんだろ」
「連合が把握していなければ、それも手だな」
破棄された施設だ。
管理の目は届いてはいないだろう。
人や物資の流れを偽装なりできるなら、可能性はありそうだ。
そして、ソウジはミカとレンに頭を下げた。
「なぁ、アンタらは運び屋と護衛だろ?悪ぃようにはしねぇ、協力してくれよ」
確かにミカならその辺りはうまくやれるかもしれない。
「私個人としては、まぁ、協力するのは構わないッスね。レンはどうッスか」
ミカもやぶさかではないようだ。
「……考えないでもない」
レンが頷くと、ソウジは通信ごしでもニヤッとしたとわかるくらいに声のトーンがあがった。
「へっ。じゃあ決まりだな」
その声に釣られたか、ミカもふふっと笑いをこぼす。
「……なんか、悪巧みしてるみたいで楽しいッスね、こういうの」
悪巧みか。
確かに子供のころの秘密基地のようではある。
「おぉ?意外と乗り気だな、ミカ。なら、チーム名でもつけるか」
そんなことをぼんやりと考えていると、ミカが言う。
「じゃあ、レンが考えてください」
「俺が?」
急にそんなことを言われても。
「そうだな。レンが一番強い。なら、リーダーはレンがいいだろ」
しかし、ソウジも期待しているような様子。
……仕方ない。
考えてみようか。
……。
「…………NUMBERS、……」
ふと、頭に浮かんだ言葉を、ミカはすぐに解釈してくれる。
「ははぁ。コードネームを数字にするんスね?エージェントみたいでカッコいいじゃないッスか!」
「秘密結社みてぇで良いと思うぜ。それで行こう」
あれよあれよと言う間に、チーム名が決まってしまった。
それからミカもソウジもそれぞれにチーム名についておしゃべりを始める。
レンはそんな二人をみて、違うことを考えていた。
運び屋にジャンク屋、そして救われた民間人たち。
これは、良い足がかりなのではないか?と。
レンがこの星にきた目的。
レンがスノウブライドに乗る理由。
マクシオンの特務など、足元にも及ばぬ願望。
「レンは何番にするんスか」
コードネームを聞かれ、レンは今はいない姿を思い浮かべて、ひとつの数字を告げる。
「ははぁ。コードネームを数字にするんスね?エージェントみたいでカッコいいじゃないッスか!」
「秘密結社みてぇで良いと思うぜ。それで行こう」
あれよあれよと言う間に、チーム名が決まってしまった。
それからミカもソウジもそれぞれにチーム名についておしゃべりを始める。
レンはそんな二人をみて、違うことを考えていた。
運び屋にジャンク屋、そして救われた民間人たち。
これは、良い足がかりなのではないか?と。
レンがこの星にきた目的。
レンがスノウブライドに乗る理由。
マクシオンの特務など、足元にも及ばぬ願望。
「レンは何番にするんスか」
コードネームを聞かれ、レンは今はいない姿を思い浮かべて、ひとつの数字を告げる。
「ーーーー4……」
それは、のちに盟主を示す数字。
レンが自身の目的を刻み込むために決めた名前。
その目的を果たすために、レンは集う者たちを利用する。
これはとある一人の男の切なる願い。
これは綺羅星が綺羅星である所以。
その瞳の奥に、決して絶えぬ篝火を宿しながら、レンはこのチームを目的のために使おうと考えた。
探すべきもの、追い求めるものの集まる数字を冠する私設旅団、NUMBERS。
その産声は、小さく、か細く、しかし確かに世に響く。
しかし、二人はそんなことなどいざ知らず。
「私は2番目のメンバーって事で2にするッス。ソウジは?」
「オレは機体の九式から9にするぜ」
設立メンバーとなったレン、ミカ、ソウジは、それぞれNo.4、No.2、No.9を名乗ることを決めたのだった。
レンが自身の目的を刻み込むために決めた名前。
その目的を果たすために、レンは集う者たちを利用する。
これはとある一人の男の切なる願い。
これは綺羅星が綺羅星である所以。
その瞳の奥に、決して絶えぬ篝火を宿しながら、レンはこのチームを目的のために使おうと考えた。
探すべきもの、追い求めるものの集まる数字を冠する私設旅団、NUMBERS。
その産声は、小さく、か細く、しかし確かに世に響く。
しかし、二人はそんなことなどいざ知らず。
「私は2番目のメンバーって事で2にするッス。ソウジは?」
「オレは機体の九式から9にするぜ」
設立メンバーとなったレン、ミカ、ソウジは、それぞれNo.4、No.2、No.9を名乗ることを決めたのだった。
*
10.
レンたちがNUMBERSを結成しようとしていたちょうどその頃。
商業都市ヘイロン。
連合都市司令官トバリ・咲宮は、都市内の視察をしていた。
中性的な顔立ちの、中年に差し掛かった男には、戦場特有の苛烈さや悲壮さは感じられない。しかし、その顔には確かに擦り切れたような諦めがわずかに見て取れる。
トバリには圧政を敷いているという自覚はあり、民間の疲弊具合を直に確認するために、今日の巡視をスケジューリングしていた。
「さて、企業区画はこれで見終わったか。次の区画は何処だ?」
どの企業も業績は良くない。
例外は軍需産業くらいだが、それもテロの影響は色濃い。
政敵に敗れ、片田舎の新たな牙城はボロボロ。
圧政で資金をかき集めて経済を立て直すべく奮闘しているが、トバリにはその手の才能は無いようだった。
お付きの秘書官によると、次はいよいよ民間人居住地だ。
「民間は企業以上に疲弊しており、一部では餓死者もでています」
「ままならないものだな」
企業区画はまだ都市としての機能を維持していたが、軍用車の窓越しに見る民間人居住地は酷い有様だった。
建物はテロにより一部が崩壊、無事なものも余波を受けたのか、ひびや崩れが放置されている。
インフラは辛うじて生きている状態で、衛生状態も良いとは言えない。
生きている箇所に群がって、まるで冬が過ぎ去るまで集団冬眠するかのような様子だ。
「思っていた以上に深刻だな」
「反乱が起きない程疲弊しています」
反乱は覚悟していたが、それすらままならんか。
自責の念はあるが、これも必要な犠牲だ。
「……配給は現状維持しろ。少し間引く」
「…………よろしいので?」
秘書官はトバリの顔色を窺って、それから返答がないことを決定とみなした。
秘書官は秘書官で、10年来の付き合いである。
トバリが冷血ではない事はよく知っているが、それ以上に小を切り捨てる政治家であるとも理解していた。
「では、そのように」
軍用車が曲がり角を曲がる。
もはや悪路と化した舗装路、瓦礫を乗り越えたその時。
商業都市ヘイロン。
連合都市司令官トバリ・咲宮は、都市内の視察をしていた。
中性的な顔立ちの、中年に差し掛かった男には、戦場特有の苛烈さや悲壮さは感じられない。しかし、その顔には確かに擦り切れたような諦めがわずかに見て取れる。
トバリには圧政を敷いているという自覚はあり、民間の疲弊具合を直に確認するために、今日の巡視をスケジューリングしていた。
「さて、企業区画はこれで見終わったか。次の区画は何処だ?」
どの企業も業績は良くない。
例外は軍需産業くらいだが、それもテロの影響は色濃い。
政敵に敗れ、片田舎の新たな牙城はボロボロ。
圧政で資金をかき集めて経済を立て直すべく奮闘しているが、トバリにはその手の才能は無いようだった。
お付きの秘書官によると、次はいよいよ民間人居住地だ。
「民間は企業以上に疲弊しており、一部では餓死者もでています」
「ままならないものだな」
企業区画はまだ都市としての機能を維持していたが、軍用車の窓越しに見る民間人居住地は酷い有様だった。
建物はテロにより一部が崩壊、無事なものも余波を受けたのか、ひびや崩れが放置されている。
インフラは辛うじて生きている状態で、衛生状態も良いとは言えない。
生きている箇所に群がって、まるで冬が過ぎ去るまで集団冬眠するかのような様子だ。
「思っていた以上に深刻だな」
「反乱が起きない程疲弊しています」
反乱は覚悟していたが、それすらままならんか。
自責の念はあるが、これも必要な犠牲だ。
「……配給は現状維持しろ。少し間引く」
「…………よろしいので?」
秘書官はトバリの顔色を窺って、それから返答がないことを決定とみなした。
秘書官は秘書官で、10年来の付き合いである。
トバリが冷血ではない事はよく知っているが、それ以上に小を切り捨てる政治家であるとも理解していた。
「では、そのように」
軍用車が曲がり角を曲がる。
もはや悪路と化した舗装路、瓦礫を乗り越えたその時。
戦場ではさして珍しくもない爆音が轟いた。
「っ!何事だ!」
「ーーー!テロです!敵は……アルトとラビオットの混成、 “自由解放同盟”を名乗っています……!」
軍用車の前方。
護衛のラビオット数機を巻き込んだ爆発の先の低層ビル屋上にて、拡声器を使用する機体が叫ぶ。
「我々は“自由解放同盟”である」
護衛たちがガトリング砲で迎撃する中、テロリスト集団はどこからともなく現れてこちらを包囲するつもりらしい。
「待ち伏せか……!」
護衛たちは奮戦している。
しかし、多勢に無勢なのは明白。
合計10機いた護衛は、1機、また1機と撃破されていく。
都市部でのゲリラ戦を得意とするテロリスト集団は、建物を遮蔽物として利用し、確実に装甲を削り取っているのだ。
数の優位をかさに着て、スピード重視で戦力を削る。
増援が来るまで持ちこたえれば勝てるが、それよりも護衛が全滅する方が圧倒的に早い。
「……司令官、最期までお供します」
秘書官も覚悟を決めるほどに、状況は悪化していく。
エグザマクス規格の銃弾、薬莢が跳ね、硝煙が視界を白けさせる。
鼓膜が揺れ、衝撃が軍用車を揺さぶる。
そして、ひときわ大きな振動が、辺りに響き渡った。
「いよいよ、終わりが来たようだな……」
トバリは辞世の句でも読むべきか、と現実逃避をしかけたが、それを秘書官が遮る。
「司令官、外を見てください……!」
軍用車のフロントガラス、その防弾ガラス越しに見えた光景。
それは。
「ーーー!テロです!敵は……アルトとラビオットの混成、 “自由解放同盟”を名乗っています……!」
軍用車の前方。
護衛のラビオット数機を巻き込んだ爆発の先の低層ビル屋上にて、拡声器を使用する機体が叫ぶ。
「我々は“自由解放同盟”である」
護衛たちがガトリング砲で迎撃する中、テロリスト集団はどこからともなく現れてこちらを包囲するつもりらしい。
「待ち伏せか……!」
護衛たちは奮戦している。
しかし、多勢に無勢なのは明白。
合計10機いた護衛は、1機、また1機と撃破されていく。
都市部でのゲリラ戦を得意とするテロリスト集団は、建物を遮蔽物として利用し、確実に装甲を削り取っているのだ。
数の優位をかさに着て、スピード重視で戦力を削る。
増援が来るまで持ちこたえれば勝てるが、それよりも護衛が全滅する方が圧倒的に早い。
「……司令官、最期までお供します」
秘書官も覚悟を決めるほどに、状況は悪化していく。
エグザマクス規格の銃弾、薬莢が跳ね、硝煙が視界を白けさせる。
鼓膜が揺れ、衝撃が軍用車を揺さぶる。
そして、ひときわ大きな振動が、辺りに響き渡った。
「いよいよ、終わりが来たようだな……」
トバリは辞世の句でも読むべきか、と現実逃避をしかけたが、それを秘書官が遮る。
「司令官、外を見てください……!」
軍用車のフロントガラス、その防弾ガラス越しに見えた光景。
それは。
「真っ白な、エグザマクス……?」
軍用車を守るようにシールドを構えた、純白の矮躯。
ブレードを引っさげた戦士の様でもあり、可憐さすら持ち合わせるその姿。
トバリは知らぬ、その銘は。
ブレードを引っさげた戦士の様でもあり、可憐さすら持ち合わせるその姿。
トバリは知らぬ、その銘は。
白き綺羅星、スノウブライド。
「ーーーー救援に来た。まだ生きているか?」
連合の周波数に合わせた通信。
どうしていいか解らない通信士に応答するようにトバリは命じた。
すると、そのパイロットは答える。
「……状況了解。これより私設旅団“NUMBERS”は貴方がたを援護する」
包囲の一部を切り取って、さらに2機の機体が並び立つ。
「NUMBERS、No.2、アイゼンペッカー、ガードは任せるッスよ!」
「NUMBERS、No.9、久遠九式、切り拓くぜ!」
名乗りを上げる黒と赤の機体。
黒は残る護衛と軍用車を守るように立ち、赤い機体が言葉通りにエネルギーブレードで斬りかかっていく。
そして、それに続くように、白い機体もこう告げた。
「NUMBERS、No.4、スノウブライド。この状況を断ち貫く……!」
連合の周波数に合わせた通信。
どうしていいか解らない通信士に応答するようにトバリは命じた。
すると、そのパイロットは答える。
「……状況了解。これより私設旅団“NUMBERS”は貴方がたを援護する」
包囲の一部を切り取って、さらに2機の機体が並び立つ。
「NUMBERS、No.2、アイゼンペッカー、ガードは任せるッスよ!」
「NUMBERS、No.9、久遠九式、切り拓くぜ!」
名乗りを上げる黒と赤の機体。
黒は残る護衛と軍用車を守るように立ち、赤い機体が言葉通りにエネルギーブレードで斬りかかっていく。
そして、それに続くように、白い機体もこう告げた。
「NUMBERS、No.4、スノウブライド。この状況を断ち貫く……!」
*
11.
数分前。
NUMBERSが結成され、レンたちが地上にでた頃。
すぐに異変に気付いたのは、ソウジだった。
「なんだ、あの煙……!」
すぐさま飛び出すソウジ。
追いかけるしかないレンとミカは、全速力でブーストするソウジに呼びかける。
「ソウジ!走りながら聞くッス!状況は見えてるんスか?」
「……火事かテロ、どっちだ?」
通常の観測機器しか積んでいない3機。
そのどれにも状況を判断できる材料はない。
ソウジがだんまりを解除するには、近づくしかなかった。
そして、状況が判明するやいなや、ソウジはだんまりをやめて、激昂した。
「この野郎っ!!!」
テロリスト集団を見た瞬間から、ソウジの怒りは振り切れていた。
最後尾、弾薬係のアルトを袈裟斬りに両断する。
ちらばったテロリストが何機いるかはわからない。
ソウジをカバーするようにスノウが跳ぶ。
ソウジに銃口を向けた別のアルトを両断し、周囲を警戒。
眼前に見えるは、連合の正規軍ラビオットにむけてマシンガンを連射するラビオット。
ソウジはそのそばでバズーカを構えるアルトにむけて既に跳んでいる。
レンも追随する他なく、否応なく戦火の最中へ。
白刀一閃、振り下ろしたブレードはラビオットの厚い装甲を両断し、跳ね上げる刃で頭部を切り飛ばす。
得物のリーチ差、奇襲でなんとか優勢を保っているが、明らかに敵の数が多い。背中を守るミカの砲撃だって万能ではない。
「ソウジ!前に出すぎるな!」
「あぁ、クソ!解ってる!解ってるが、おさまらねぇ!」
怒りを抑えようともままならないソウジのカバーをするレン。後続の追撃を捌くミカとともに、意図せずテロリストたちの包囲網に入り込んでいく。
その事実に気付かないまま、ソウジが叫ぶ。
「あれ!連合の都市司令官の巡視車両!」
見れば、軍用車両1台を中心に護衛らしきラビオットが3体、タワーシールドを構えつつ防衛戦をしている。
しかし、あれではジリ貧、いずれ落とされるのは目に見えている。
「あー、完全に囲まれてるッスね」
ミカの言うとおり、退路はない。
突き進む勢いの中で、レンはソウジに問う。
「助けるか?」
「助けたくねぇ!」
即答。
しかし状況が状況だ。
しかも狙われているのは、ソウジの言葉が正しければ、この都市における連合のトップ。
「え、でも見殺しはヤバいっスよ。治安維持は連合が要なんスよ?」
ミカの指摘通り、指揮系統には致命的だ。
ソウジもそれは理解していた。
「……解ってるっての、それぐらい!」
だから、レンはその背中を押す。
どのみち選択肢など、空中で慣性に身を任せた状態では、合ってないようなもの。
「決まりだな。行くぞ!」
この数秒のやりとりが、連合都市司令官たちの運命を決めた。
「ーーーー救援に来た。まだ生きているか?」
盾役のラビオットが倒れたスペースに飛び込んで、敵からの砲撃をシールドで受ける。
ガッガッと衝撃を受けるが、スノウブライドは倒れることはない。
「こ、こちらは無事だが、護衛が殆どやられた。救援は要請したがいつくるか不明だ……!」
通信越しに返答がある。
まだ都市司令官は無事らしい。
ならば問題はない。
NUMBERSが結成され、レンたちが地上にでた頃。
すぐに異変に気付いたのは、ソウジだった。
「なんだ、あの煙……!」
すぐさま飛び出すソウジ。
追いかけるしかないレンとミカは、全速力でブーストするソウジに呼びかける。
「ソウジ!走りながら聞くッス!状況は見えてるんスか?」
「……火事かテロ、どっちだ?」
通常の観測機器しか積んでいない3機。
そのどれにも状況を判断できる材料はない。
ソウジがだんまりを解除するには、近づくしかなかった。
そして、状況が判明するやいなや、ソウジはだんまりをやめて、激昂した。
「この野郎っ!!!」
テロリスト集団を見た瞬間から、ソウジの怒りは振り切れていた。
最後尾、弾薬係のアルトを袈裟斬りに両断する。
ちらばったテロリストが何機いるかはわからない。
ソウジをカバーするようにスノウが跳ぶ。
ソウジに銃口を向けた別のアルトを両断し、周囲を警戒。
眼前に見えるは、連合の正規軍ラビオットにむけてマシンガンを連射するラビオット。
ソウジはそのそばでバズーカを構えるアルトにむけて既に跳んでいる。
レンも追随する他なく、否応なく戦火の最中へ。
白刀一閃、振り下ろしたブレードはラビオットの厚い装甲を両断し、跳ね上げる刃で頭部を切り飛ばす。
得物のリーチ差、奇襲でなんとか優勢を保っているが、明らかに敵の数が多い。背中を守るミカの砲撃だって万能ではない。
「ソウジ!前に出すぎるな!」
「あぁ、クソ!解ってる!解ってるが、おさまらねぇ!」
怒りを抑えようともままならないソウジのカバーをするレン。後続の追撃を捌くミカとともに、意図せずテロリストたちの包囲網に入り込んでいく。
その事実に気付かないまま、ソウジが叫ぶ。
「あれ!連合の都市司令官の巡視車両!」
見れば、軍用車両1台を中心に護衛らしきラビオットが3体、タワーシールドを構えつつ防衛戦をしている。
しかし、あれではジリ貧、いずれ落とされるのは目に見えている。
「あー、完全に囲まれてるッスね」
ミカの言うとおり、退路はない。
突き進む勢いの中で、レンはソウジに問う。
「助けるか?」
「助けたくねぇ!」
即答。
しかし状況が状況だ。
しかも狙われているのは、ソウジの言葉が正しければ、この都市における連合のトップ。
「え、でも見殺しはヤバいっスよ。治安維持は連合が要なんスよ?」
ミカの指摘通り、指揮系統には致命的だ。
ソウジもそれは理解していた。
「……解ってるっての、それぐらい!」
だから、レンはその背中を押す。
どのみち選択肢など、空中で慣性に身を任せた状態では、合ってないようなもの。
「決まりだな。行くぞ!」
この数秒のやりとりが、連合都市司令官たちの運命を決めた。
「ーーーー救援に来た。まだ生きているか?」
盾役のラビオットが倒れたスペースに飛び込んで、敵からの砲撃をシールドで受ける。
ガッガッと衝撃を受けるが、スノウブライドは倒れることはない。
「こ、こちらは無事だが、護衛が殆どやられた。救援は要請したがいつくるか不明だ……!」
通信越しに返答がある。
まだ都市司令官は無事らしい。
ならば問題はない。
「……状況了解。これより私設旅団“NUMBERS”は貴方がたを援護する」
状況、開始だ。
「NUMBERS、No.2、アイゼンペッカー、ガードは任せるッスよ!」
スノウの隣にミカが。
「NUMBERS、No.9、久遠九式、切り拓くぜ!」
背後にはソウジが、それぞれ司令官を守るように着地した。
そして、示し合わせてもいないのに、3機それぞれが動き出す。
「NUMBERS、No.4、スノウブライド。この状況を断ち貫く……!」
ミカの重砲撃が吠える。
それだけで装甲の薄いアルトが吹き飛ぶ。
見えているだけで周囲には10機のテロリスト。
次の瞬間にはソウジが肉薄して、スウェーバックしたラビオットを浅く切り裂く。
逃走など許さぬ追撃で落とすと同時、レンの突き出したブレードの切っ先が、ガトリング砲を構えたラビオットの胴を貫く。
残り8機。
唐突な乱入者に混乱していたテロリストたちは、流石に死線をくぐってきているだけあり、この時点で指揮に淀みは消えていた。
「連携が復活してるぞ、気をつけろ」
ブーストを吹かせ、倒壊しかけのビル群の間を縫っていく。
影を追う敵機のパイロットを意識して、レンが唐突に跳躍をすれば、思惑通りに十字砲火が空を切る。
兜割りによる落雷のごとき剣を受け、十字砲火は一文字へ。
残る一体が照準を向けるが、スノウが格段に速い。
あっという間に懐に入り込んでは、跳躍とともに斬り上げる。
残り6機。
ミカによる砲撃、ソウジのエネルギーブレードは、実弾相手には相性が良かった。
レンがクロスファイアを処理する間に、弾幕を無理やり突き抜けたソウジが2機を処理。隙のできたソウジを狙った1機をミカが処理して、残り3機。
「随分と派手にやってくれるな」
だが、そこで新手が現れた。
光学迷彩クロークを剥ぎ取って現れるのは5体。
そのどれもが素体はラビオットだが、様相は通常から大きくかけ離れている。
「だが、遊びはここまでだ、若造」
センターに立つ機体がそう告げた瞬間、両脇の4機がガトリング砲を構え、即座に機体と遜色ないサイズの大口径が瞬く。
「?!!」
咄嗟にミカが動かなければ。
ソウジが野生の勘を発揮しなければ。
レンが背筋を這う悪寒を感じていなければ。
寸前。
大口径の連打を、拾い上げたタワーシールドが受け止める。
3人の咄嗟の判断が、生死を分けた。
なんとか無事だった護衛のラビオットは、完全に破壊されてしまった。
レンたちは既に倒れたラビオットのシールドで、自機と都市司令官の車両を守った。
だが、状況は最悪だ。
分厚いタワーシールドでさえ削れていっている。
「4!ジリ貧ッスよ!?」
タワーシールドの影でミカが叫ぶ。
「解ってる……!だが、これでは……」
現状維持がやっとだ。
打開策などない。
なんとかしなければいけないのに、その手立てが思いつかない。
レンが焦れる最中、ソウジはふっと笑った。
「4、上を行けよ。ここはオレと2に任せろ」
タワーシールドをしっかりと構え、ソウジが跳べと言う。
「……ここは、任せるぞ」
迷う時間が惜しかった。
狙うは1機。
リーダー機ただひとつ。
ブースターを一気に吹かし、タワーシールドごと跳躍。
追いすがるガトリング砲、そのターゲットを引き剥がして重力に反発。
スノウブライドは空中でブレードを抜き放ち、大上段からの兜割りを繰り出しながら、敵の真上に落ちていく。
「惰弱!」
だが、テロリストのリーダーは歴戦の強者。
渾身の兜割りを、5枚刃のチェーンブレードで受け止める。
「お前たちは都市司令官をやれ!私はコレを落とす!」
鍔迫り合いもつかの間。
振り抜かれたチェーンブレードの勢いにのって跳び、ビルの屋上に降り立つスノウ。
テロリストリーダーは間髪入れずに猛チャージする。
振りかぶられた5枚刃は凄まじい暴威。
ギャリギャリと嫌な音を立てながら迫りくる。
重装甲かつ、兵装も重たいとくれば、軽量であるスノウブライドには荷が重い。
だが、レンは引かない。
「障害は叩き斬る……それだけだ!」
真っ向勝負。
ビルのコンクリートを蹴り飛ばし、ブーストを吹かし、盾を前面にして突撃。
その時、無機質なシステム音声が耳朶を打つ。
「《System Unlocked...//...》」
気にしている場合ではない。
そんな時間はない。
それなのに、妙に耳に残るその|電子音《コエ》。
続け様にプログラムコードが羅列されていき、音声は次々と変化を告げる。
《Count,4...Overwrite Processor Awake // 》
《Count,3...Imaginary Framework Turn On // 》
《Count,2...Overclock Trigger Simulate // 》
《Count,1...Infect Shifter Synchronize // 》
《Count,0...Divine Drive Engage // 》
カウントダウンに合わせて、スノウブライドの出力が上昇するのがわかる。
スノウブライドに認められたような、不可思議な感覚。
レンは、コンソールに表示された承認の文字に触れた。
「終わらせる……!」
人機一体の境地。
ブレードを自分が握っているような一体感。
迫りくるチェーンブレードさえスローモーションに見える。
その刹那。
レンは、スノウブライドそのものだった。
「なん、だと……!」
だから、チェーンブレードを斬り裂いたのも必然。
交錯する一瞬が、全てを物語る。
「ば、か……なーーーー」
武装ごと両断されたテロリストのリーダーが、空中で爆散した。
同時、着地したスノウとの一体感が断絶、出力が急激に失墜していく。
ガクリと膝をつくスノウ。
その反動でなのか、レンすらも力が抜けていく。
そして、リーダーを失っても、テロリストたちは健在だった。
「レン!?あぶねぇ!!」
「レン、しっかりするッス!」
ソウジとミカの焦る声も虚しく、ガトリング砲の弾幕が、無防備なスノウに迫る。
その瞬間。
「NUMBERS、No.2、アイゼンペッカー、ガードは任せるッスよ!」
スノウの隣にミカが。
「NUMBERS、No.9、久遠九式、切り拓くぜ!」
背後にはソウジが、それぞれ司令官を守るように着地した。
そして、示し合わせてもいないのに、3機それぞれが動き出す。
「NUMBERS、No.4、スノウブライド。この状況を断ち貫く……!」
ミカの重砲撃が吠える。
それだけで装甲の薄いアルトが吹き飛ぶ。
見えているだけで周囲には10機のテロリスト。
次の瞬間にはソウジが肉薄して、スウェーバックしたラビオットを浅く切り裂く。
逃走など許さぬ追撃で落とすと同時、レンの突き出したブレードの切っ先が、ガトリング砲を構えたラビオットの胴を貫く。
残り8機。
唐突な乱入者に混乱していたテロリストたちは、流石に死線をくぐってきているだけあり、この時点で指揮に淀みは消えていた。
「連携が復活してるぞ、気をつけろ」
ブーストを吹かせ、倒壊しかけのビル群の間を縫っていく。
影を追う敵機のパイロットを意識して、レンが唐突に跳躍をすれば、思惑通りに十字砲火が空を切る。
兜割りによる落雷のごとき剣を受け、十字砲火は一文字へ。
残る一体が照準を向けるが、スノウが格段に速い。
あっという間に懐に入り込んでは、跳躍とともに斬り上げる。
残り6機。
ミカによる砲撃、ソウジのエネルギーブレードは、実弾相手には相性が良かった。
レンがクロスファイアを処理する間に、弾幕を無理やり突き抜けたソウジが2機を処理。隙のできたソウジを狙った1機をミカが処理して、残り3機。
「随分と派手にやってくれるな」
だが、そこで新手が現れた。
光学迷彩クロークを剥ぎ取って現れるのは5体。
そのどれもが素体はラビオットだが、様相は通常から大きくかけ離れている。
「だが、遊びはここまでだ、若造」
センターに立つ機体がそう告げた瞬間、両脇の4機がガトリング砲を構え、即座に機体と遜色ないサイズの大口径が瞬く。
「?!!」
咄嗟にミカが動かなければ。
ソウジが野生の勘を発揮しなければ。
レンが背筋を這う悪寒を感じていなければ。
寸前。
大口径の連打を、拾い上げたタワーシールドが受け止める。
3人の咄嗟の判断が、生死を分けた。
なんとか無事だった護衛のラビオットは、完全に破壊されてしまった。
レンたちは既に倒れたラビオットのシールドで、自機と都市司令官の車両を守った。
だが、状況は最悪だ。
分厚いタワーシールドでさえ削れていっている。
「4!ジリ貧ッスよ!?」
タワーシールドの影でミカが叫ぶ。
「解ってる……!だが、これでは……」
現状維持がやっとだ。
打開策などない。
なんとかしなければいけないのに、その手立てが思いつかない。
レンが焦れる最中、ソウジはふっと笑った。
「4、上を行けよ。ここはオレと2に任せろ」
タワーシールドをしっかりと構え、ソウジが跳べと言う。
「……ここは、任せるぞ」
迷う時間が惜しかった。
狙うは1機。
リーダー機ただひとつ。
ブースターを一気に吹かし、タワーシールドごと跳躍。
追いすがるガトリング砲、そのターゲットを引き剥がして重力に反発。
スノウブライドは空中でブレードを抜き放ち、大上段からの兜割りを繰り出しながら、敵の真上に落ちていく。
「惰弱!」
だが、テロリストのリーダーは歴戦の強者。
渾身の兜割りを、5枚刃のチェーンブレードで受け止める。
「お前たちは都市司令官をやれ!私はコレを落とす!」
鍔迫り合いもつかの間。
振り抜かれたチェーンブレードの勢いにのって跳び、ビルの屋上に降り立つスノウ。
テロリストリーダーは間髪入れずに猛チャージする。
振りかぶられた5枚刃は凄まじい暴威。
ギャリギャリと嫌な音を立てながら迫りくる。
重装甲かつ、兵装も重たいとくれば、軽量であるスノウブライドには荷が重い。
だが、レンは引かない。
「障害は叩き斬る……それだけだ!」
真っ向勝負。
ビルのコンクリートを蹴り飛ばし、ブーストを吹かし、盾を前面にして突撃。
その時、無機質なシステム音声が耳朶を打つ。
「《System Unlocked...//...》」
気にしている場合ではない。
そんな時間はない。
それなのに、妙に耳に残るその|電子音《コエ》。
続け様にプログラムコードが羅列されていき、音声は次々と変化を告げる。
《Count,4...Overwrite Processor Awake // 》
《Count,3...Imaginary Framework Turn On // 》
《Count,2...Overclock Trigger Simulate // 》
《Count,1...Infect Shifter Synchronize // 》
《Count,0...Divine Drive Engage // 》
カウントダウンに合わせて、スノウブライドの出力が上昇するのがわかる。
スノウブライドに認められたような、不可思議な感覚。
レンは、コンソールに表示された承認の文字に触れた。
「終わらせる……!」
人機一体の境地。
ブレードを自分が握っているような一体感。
迫りくるチェーンブレードさえスローモーションに見える。
その刹那。
レンは、スノウブライドそのものだった。
「なん、だと……!」
だから、チェーンブレードを斬り裂いたのも必然。
交錯する一瞬が、全てを物語る。
「ば、か……なーーーー」
武装ごと両断されたテロリストのリーダーが、空中で爆散した。
同時、着地したスノウとの一体感が断絶、出力が急激に失墜していく。
ガクリと膝をつくスノウ。
その反動でなのか、レンすらも力が抜けていく。
そして、リーダーを失っても、テロリストたちは健在だった。
「レン!?あぶねぇ!!」
「レン、しっかりするッス!」
ソウジとミカの焦る声も虚しく、ガトリング砲の弾幕が、無防備なスノウに迫る。
その瞬間。
「ハッハー!狩りの時間だ、覚悟はいいか?」
スノウと同じ、純白の機体が乱入する。
ガトリング砲を寸断し、敵の頭を撃ち抜き、はたまた機体ごと蹴り飛ばす傍若無人な機体。
そのパイロットは通信機に叫ぶ。
「ジャンク屋さんが助けに来たぜ?お前ら全員、覚悟しやがれ!」
白い機体の号令とともに、追加で3機の増援が次々とテロリストを鎮圧していく。
「助かった、のか……?」
「九死に一生、ッスね」
安堵の声を漏らす二人の言葉。
それを遠くで聞こえるような感覚で聞くレン。
スノウの覚醒の反動で、レンは程なくして意識を失った。
残りの敵は通りすがりのジャンク屋が片付けて、さっさと引き上げていったらしい。
こうしてNUMBERSの初陣は、辛くも勝利を納めたのだった。
ガトリング砲を寸断し、敵の頭を撃ち抜き、はたまた機体ごと蹴り飛ばす傍若無人な機体。
そのパイロットは通信機に叫ぶ。
「ジャンク屋さんが助けに来たぜ?お前ら全員、覚悟しやがれ!」
白い機体の号令とともに、追加で3機の増援が次々とテロリストを鎮圧していく。
「助かった、のか……?」
「九死に一生、ッスね」
安堵の声を漏らす二人の言葉。
それを遠くで聞こえるような感覚で聞くレン。
スノウの覚醒の反動で、レンは程なくして意識を失った。
残りの敵は通りすがりのジャンク屋が片付けて、さっさと引き上げていったらしい。
こうしてNUMBERSの初陣は、辛くも勝利を納めたのだった。
*
12.
数日後。
NUMBERSの基地とした地下機構にて。
「ようやく落ち着いてきたな」
「目まぐるしい展開だったッスね、ここ数日は」
「いや、マジで忙殺されるかと思ったぜ」
ソウジの伝手、ミカの伝手、連合都市司令官のトバリ・咲宮の協力の元、NUMBERSとそのベース基地“イマジナリ・ロスト”と名付けられた場所は、その機能を復活させつつあった。
連合自体には認知されていないものの、一部資材や資金がトバリの懐から融通され、一企業のようにNUMBERSが都市の一助として機能し始めたのだ。
「……これから忙しくなりそうだな」
「期待してるッスよ、リーダー♪」
「頼むぜ、大将。スノウブライドとアンタがオレらの旗印なんだぜ?」
前途多難だ。
レンはそんな事を考えつつも、未来に希望を見出していた。
その視線の先には純白の花嫁。
スノウブライドはただ、静かにレンの事を見下ろしていた。
イマジナリ・ロスト。
そして、NUMBERS。
その発足の物語は、こうして始まった。
この先、幾度もの苦難があり、困難が待ち受けている。
しかし、綺羅星の元に集まった数字たちが、それを乗り越える力を与えるだろう。
ただし、それはもう少し未来のお話。
今はただ。
物言わず、しかし優しげな視線をマスターに向ける、白き花嫁がある。
こうして、長い旅路は始まったのである。
NUMBERSの基地とした地下機構にて。
「ようやく落ち着いてきたな」
「目まぐるしい展開だったッスね、ここ数日は」
「いや、マジで忙殺されるかと思ったぜ」
ソウジの伝手、ミカの伝手、連合都市司令官のトバリ・咲宮の協力の元、NUMBERSとそのベース基地“イマジナリ・ロスト”と名付けられた場所は、その機能を復活させつつあった。
連合自体には認知されていないものの、一部資材や資金がトバリの懐から融通され、一企業のようにNUMBERSが都市の一助として機能し始めたのだ。
「……これから忙しくなりそうだな」
「期待してるッスよ、リーダー♪」
「頼むぜ、大将。スノウブライドとアンタがオレらの旗印なんだぜ?」
前途多難だ。
レンはそんな事を考えつつも、未来に希望を見出していた。
その視線の先には純白の花嫁。
スノウブライドはただ、静かにレンの事を見下ろしていた。
イマジナリ・ロスト。
そして、NUMBERS。
その発足の物語は、こうして始まった。
この先、幾度もの苦難があり、困難が待ち受けている。
しかし、綺羅星の元に集まった数字たちが、それを乗り越える力を与えるだろう。
ただし、それはもう少し未来のお話。
今はただ。
物言わず、しかし優しげな視線をマスターに向ける、白き花嫁がある。
こうして、長い旅路は始まったのである。