舞姫散華

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舞姫散華 - (2011/12/11 (日) 19:39:02) のソース

&bold(){概要}
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舞姫散華とは、[[ラディア]]の死について書かれた戦記。
[[蜉蝣戦記]]の中の一部だが、軍勢を率いての戦いではなかった為、[[戦闘一覧]]とは別途扱われる。

&bold(){舞姫の死}
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694年3月8日、[[ロッド]]国国主[[リヴァイルシア]]から、[[ロードレア]]国国主[[レイディック]]の元に一通の書状が届いた。
「貴公の妹([[シルフィーナ]])を妻に迎えて2年、たまには兄弟ゆっくりと酒を飲み交わして語り合いたい」というものであった。
[[レイディック]]は、この誘いに応じて[[ロッド]]国への向かうこととする。[[レイディック]]と[[リヴァイルシア]]が、互いを親友と呼ぶ仲であったこと、[[ロードレア]]国と[[ロッド]]国が同盟国であり、隣接国であること、[[ロッド]]国も気を使って、首都ではなく国境の城へと招いたことから、他の将も強くは反対しなかった。
この時、[[ロードレア四天王]]のうち、[[ヴェリア]]、[[アレス]]、[[アリガル]]はそれぞれ国境へ赴き指揮をとり不在であった。[[ラディア]]のみ[[ニーグロスの戦い]]から帰還して[[レイディック]]の元にいたが、[[キルレイツ]]を討った後悔から、自室に引きこもって政務に顔を出していなかった。
[[レイディック]]は、外の空気を吸わせることで彼女が立ち直れるのなら……と、随員として[[ラディア]]を指名。
これが、[[ロードレア]]国国主[[レイディック]]、一生の過ちとなる。

ここからは、[[アルディア]]著の[[蜉蝣戦記]]をなるべく忠実に再現する。
[[レイディック]]に呼ばれた[[ラディア]]は、城内の廊下で鞠を拾う、それは[[サリーア]]の子のものであった。
内政官であると同時に一人の母となっていた[[サリーア]]、彼女に鞠を手渡した後、[[ラディア]]は[[キルレイツ]]の名を呼んで廊下で涙を流していたという。
その後、涙を拭いて何事もなかったかのように[[レイディック]]の元へ現れた[[ラディア]]は、[[ロッド]]国への随員の件を聞かされ、一応[[ヴェリア]]か[[アレス]]に相談してはと提案するが、この様なことにいちいち国境の軍師に問い合わせることもないと[[レイディック]]に言われ、[[ラディア]]も承知して旅支度を始めた。
僅かな共を連れ、二人が出発したのはその数日後、[[ロッド]]国に到着したのは3月23日とされている。
この旅は、乱世を忘れさせるほどのどかで、二人は各地で寄り道をしながら自然を楽しんでいたという。

こうして[[ロッド]]国と[[ロードレア]]国の国境に位置する城へと到着した[[レイディック]]。出迎えたのは[[ロッド]]国きっての智将[[ギザイア]]だった。[[リヴァイルシア]]本人は付近で新造の城を見廻っているため不在であり、その間の数日間の滞在を促した。
しかし、[[ラディア]]はここで違和感を感じる。自分たちが招かれた部屋が城の中心部にあり、その部屋は本来の客室ではなく内装を急いで作り変えさせた部屋であったことである。
わざわざ客室を作り直してまで城の中心部の部屋に招かれた理由は、「逃げ道を塞ぐため」ではないか?このことに気づいた[[ラディア]]は、[[ニーグロスの戦い]]以後眠り続けていた細心の意識を覚醒させ、[[ギザイア]]の策略に気付き始めた。

乱世の時代にも最低限の決まりがあった。それは神が定めたものではなく、絶対の束縛力をもたないにしても、同じ時代を生きる者として敵、味方関係なく守られるべきものであった。
たとえば、この時代は交戦国同士でも、季節の変わり目には使者を送りあうという風習があり、使者を斬ることは「八つ当たり」であり、行わないこととなっていた(ただし、その使者が謀略の実行犯だった場合は例外であった)
そして、「暗殺」もそのひとつである。暗殺そのものは乱世という時代の性もあり、それほど下策と思われてはいなかったが、危険な敵陣に忍び込んでの暗殺は「技量を見せた結果」とみられたが、ただ闇雲に相手を誘き出して数に物を言わせて討つという行為は「知略なき者」として扱われ暗黙の了解として下策中の下策となっていた。仮にも智将を名乗る[[ギザイア]]には、自身の存在意義すら失わせる行為であり、到底実行できぬものであった。となれば、彼は「事故」として周囲の国に説得力のある形で[[レイディック]]を討たねばならなかった。
[[ロッド]]国の情勢は、南の[[アル]]国の衰退が大きく関わっていた。[[ギザイア]]としては、[[アル]]国となら戦うことができるが、[[ベルザフィリス]]国がこのまま[[アル]]国を飲み込んで[[ロッド]]国と対陣することとなれば、勝ち目はないと見ていた。[[ロードレア]]国と共同で当たるとしても、彼らの気持ちは既に[[ベルザフィリス]]国に傾き、両国から同時に救援の声がかかれば、どちらをとるか……[[ギザイア]]には、それが明確にわかっていた。
すなわち、今が時間的に[[ロッド]]国に残された最後にチャンスであり、[[レイディック]]を暗殺すれば、子のいない[[ロードレア]]国は内乱となる。そこを横から攻め込み、[[アル]]国が滅亡するまでに、[[ロードレア]]国の領土を大きく削って、[[ロッド]]国を大国にしなければならない。あるいは、[[レイディック]]を生け捕りにできれば、それはそれで交渉によって領土を手に入れることもできる。

だが、事故に見せかけるにしても、生け捕りにしても、無造作にただ兵士を送り込んで暗殺、という手は使いづらく、そこに[[ラディア]]にも付け入る隙が生じる。こうして[[ギザイア]]と[[ラディア]]の見えない戦いがはじまった。
まず[[ギザイア]]は、[[ラディア]]に歓迎会の前に土地の名産を食していただきたい、と果実を差し入れた。一瞬毒を警戒する[[ラディア]]だが、城を見廻った時に歓迎会の準備をしていたことは察知している、この時点で毒殺するなら宴の用意等するはずがない。これは[[ギザイア]]が今の段階でどこまで自分たちが警戒しているかを試している罠と察知して、進んでその果実を食した。
この「宣戦布告」から、[[ギザイア]]は3度暗殺計画をたてたが、[[ラディア]]はその全てに先手をうって封じ込めた。

やがて城へと帰還した[[リヴァイルシア]]は、[[レイディック]]か尋ねていると知り、[[ギザイア]]を呼び出した。
[[レイディック]]を招いた書状そのものが[[ギザイア]]が作り出した偽書状であった為、[[リヴァイルシア]]には初耳の事であった。最初は激怒した[[リヴァイルシア]]だが、[[ギザイア]]に「国同士の同盟などいつかは消える、いずれ我が国を滅ぼす存在となる[[レイディック]]を今討たねばならない」と迫られると、考えた末にただひとこと「宴の準備は[[ギザイア]]に全て任せる」と告げたという。
こうしてはじまった歓迎の宴。
ここでも[[ラディア]]は、宴会の席を一通り見回すと、文官が後方、武官が前方に固まっていること、文官の笑顔に反して武官の緊張した笑いに注目する。
[[ラディア]]が出した結論は「暗殺隊は前方の武官数名、それ以外の者には暗殺のことすら聞かされていない」というものであった。
相手の出鼻を挫くため、[[ラディア]]は宴の最中、自ら席を立つと宴の余興に剣舞を披露すると、愛剣[[エルライザー]]を抜いた。
[[ラディア]]の剣舞は美しく、優雅であった。しかし、その華麗な舞の節々に強烈な殺気を込めていた。
この事に気づいたのは[[ギザイア]]と暗殺隊の武官達である。
[[ラディア]]の武勇は嫌というほど聞かされている。その彼女がいま愛剣をもって自分たちの目の前で舞っている。
ひとたびその剣先をこちらに向ければ、席に座っている自分たちは剣を抜くより前に撫で斬りにされる。
その緊張感から、彼らは滴り落ちる汗を拭うことしかできなかった。
この舞を見せられた時、[[ギザイア]]は自分の敗北を悟った。
だが、それは計画の断念を意味するものではなかった。智謀の戦いに完敗した彼は、ついに自らを外道に落としてまで計画を実行する事を決意する。

宴が終わり、酔いを醒ますために城のバルコニーに出ていた[[ラディア]]。
全ての終わりを確信し、安堵の笑みを浮かべたその瞬間、一本の矢が彼女の胸を貫く。
策も智もなく、狩りの如くただ獲物を追い立てる[[ギザイア]]、しかし、[[レイディック]]自身も剣の腕には覚えがある。最初の攻撃をかわすと、[[ラディア]]を抱えて城から脱出する。
ここにきてかつて[[アレス]]が何度も[[ロッド]]国への警戒を忠告したことを無視し続けた[[レイディック]]は、後悔の念に取り付かれるが、もはや全ては遅かった。
[[ラディア]]を洞窟へと置き、自ら剣を抜いて追っ手と戦う[[レイディック]]、やがて雪が降り始め、あたりを白く染めていく。
つれてきた僅かな共も皆討たれ、[[レイディック]]も限界がきたそのとき、国境を越えた[[ロードレア]]側から軍勢が駆けつけ、追っ手を打ち払う。
[[レイディック]]すら知らないその将の名は[[グロライド]]、[[アレス]]の依頼で国の誰にも悟られずに密かに[[ロッド]]国との国境を守り続けていた将である。
[[アレス]]は、国主に内密で軍を動かすという危険を冒してまで手を打っていた。それに対して自分の不甲斐なさに怒る[[レイディック]]だが、追っ手を打ち払った以上[[ラディア]]を迎えて急いで帰国しなければならない。
だが、[[レイディック]]の問いかけに[[ラディア]]は答える事はなかった。
胸に受けた矢には毒が塗られ、既に[[ラディア]]は醒めなき夢の中へと旅立っていた。
時に694年3月27日。
この一件を知った[[レイディック]]の妹にして[[リヴァイルシア]]の妻[[シルフィーナ]]は、兄と夫が争う戦乱の時代に絶望して自害して果てた。

[[ラディア]]は[[英霊名]]舞風として、故郷の元[[アゾル]]国領土の丘に埋葬されたが、後年[[キルレイツ]]の眠るニーグロス古戦場にその墓は移された。
乱世の荒波に飲まれ、その生涯のほとんどを戦場で過ごし、才あるが故に女としての幸せな一生を送れなかった少女。
あまりにも早く散った乱世の華であった……。

&bold(){忍び寄る落日の影}
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[[ラディア]]の遺体をつれた[[レイディック]]は、悲しみに包まれて帰国した。
[[ラディア]]の葬儀は国葬として取り扱われ、諸将、国民は皆涙を流した。
そして、[[ラディア]]を失った事で全ての計画が崩れたと、[[ヴェリア]]は自ら作成した「五年天下取りの書」を焼き捨てたという。
この書の存在については後世の創作であるが、[[ラディア]]という一人の将が[[ヴェリア]]の策に大きな影響力をもたらしていた事には間違いはない。
また、同じ時代を生きた女将軍として、直接かかわりのなかった[[ルーディア]]までもが哀悼の言葉を残しているが、彼女にとっても他人事ではなくなる。
当初の目論見がはずれた[[ギザイア]]は、すぐさま方針の転進を行う。
[[アル]]国の崩壊を少しでも先延ばしする為、[[ルーディア包囲網]]への参加を決意したのだ。
直接兵を送ることはないが、少なくとも[[アル]]国と一時的に和平を結び、[[ベルザフィリス]]国に全力を傾けてもらい、その間に自分達は[[ロードレア]]国との戦い、または状況が変わればすぐさま[[アル]]国の背中を刺せるための準備にとりかかっていた。

&bold(){関連項目}
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-[[蜉蝣戦記]]

&ref(http://izayoi-moon.sakura.ne.jp/zairyou/50.GIF,left)