アマネオ
花奥恵の好物(1993年)
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amaneo
俺の幼なじみに「花奥恵」という問題児がいる。授業を勝手に抜け出すは、制服を着ずに絵の具がべったり付いたツナギで通すは、フリーダム過ぎる奴だ。最 近やたらとモテだしたのは絵の才能が注目されるようになってからだ。美術の授業でしか聞かないような画家の再来らしく、美少女天才画家だとさ。当の本人は 何も変わらずに今までと同じ生活を続けてるが。
俺は――何でもなくて、時々弁当を持ってくぐらいの友達。花奥は一度描き出すと飯のことも忘れちまうから、栄養失調で倒れたことがある。だから俺は今日も弁当を作り美術室に持っていく。
「花奥?」
花奥はじっと窓からサッカーをする男子を眺めている。
「岩下くんて、かっこいいね。今度モデルになってもらおうかな」
「そうだな。筋肉の勉強になるかもな。それより、弁当食べないのか」
「今日、テレビの取材で、食べてきたんだ」
花奥はパレットに視線を落とした。赤と黄色を出して、塗り付けていく。
「そうか。何食った?」
「フランス料理」
「うまかったか」
「うん。あ、これからまたテレビの人が来るから」
俺は家に帰った。
もう俺の弁当は必要ないのか。そりゃあフランス料理と比べりゃ小さなエビフライだしな。
俺はソファにもたれてテレビを眺める。そのうち俺の学校が映った。岩下と花奥が並んで立っている。リポーターが去年優勝したサッカー部とコンクールで大賞をもらった花奥を紹介した。
理想の身長差、というんだろうか。頭一つ分、岩下が高い。並んでいると、何故だか納得できる。それからテレビは美術室を映し出した。さっき描き出したはずの絵はもう完成していた。
俺はソファからずり落ちる。
「――まだ乾いてないようですが、これは新作ですか。何でしょう?」
「見てわかりません? 私の大好物です!」
キャンバスには、ちょっとどうかしてるくらいデカデカとエビフライが描かれていた。