天夜奇想譚

なぜなにてんや ~第一回~

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作者:扇

タイトル:なぜなにてんや




-天夜市某所、TVA放送局-





 ディフォルメされた動物の人形や色とりどりの花に囲まれたスタジオに、一組の男女が横長のデスクに揃って座っていた。
 一人は長い黒髪が特徴的な、おっとりとした雰囲気を漂わせる大学生位の女。片割れは女に比べやや年下の有り余る筋肉が逞しい、目つきの悪い男。
 揃って子ども向け番組に出てくるような服装だが、女はまだしも男の方は明らかにサイズがあっていないらしく、子どもが見たなら怯えるか指を指して笑うかの二択だろう。
 と言うかぴちぴちに張りつめた半袖、短パン、今にも切れそうなサスペンダーをコーディネイトした人間は死んでしまった方が世界の平和に貢献できるに違いない。

「なぜなにてんやー、はーじまーるよー」

 カメラが回り出しGOサインが出ると、女は笑顔で両手を上げながら喋り出した。
 すると男の方もかなり自暴自棄な感じで同様の台詞を吐いて追従する。

「はーい、皆さんこんにちわー。今回より始まった“なぜなにてんや”。司会進行にして絶対的支配者のお姉さんでーす。こっちは・・・はい自己紹介」
「本来のバイト先に指示されて来てみれば、割と死にたい位の辱めを受けている匿名希望さんです」
「はいそこ、死んだ魚のような目をしてるとバラバラにしてコンクリ詰・・・教育的指導ですよ?」
「ねぇよ!子ども向け番組で殺意たけぇよ!こっちは不満たらたらなんだ。実力行使に訴えるならこっちにも考えが――――」
「それは奇遇な。私も断れない筋からの頼みで嫌々やってましてね?キャラ作りも大変ですし、ちょっとガス抜きでもしますか」
「望むところだ。女だからって手加減は――――」

 がすっがすっがっす

「ちょ、急所ばか――――」

 がっがっごっぐしゃっ

「すいません本当にすいません。だから刃物――――」

 ざくざくざく

 暫くお待ち下さいと番組が止まること数分後。
 そこには何事も無かったかのように、最初からやり直しが始まっていた。

「なぜなにてんやー、はーじまーるよー」

 ちなみに生放送である。

「はーい、皆さんこんにちわー。今回より始まった“なぜなにてんや”。司会進行にして絶対的支配者のお姉さんです。こっちは・・・はい自己紹介」
「ぼくはおねえさんのおてつだいのてんやくん。みんなよろしくねー」

 肝臓や心臓の辺りに内出血の青あざを作りながらも、“てんやくん”こと黒倉一角は何かを吹っ切ったかのような笑顔でお姉さんに続く。

「この番組では、退魔師業界のあれやこれやの最新情報を発信していきます。どしどしお便り待ってますよー」
「幼児向け番組じゃねぇのかよ!?明らかに大きいお友達向けじゃねぇか!?」
「騒ぐと次はズドンするよー」
「わーい、宛先は'tenya@icemail.com'までだからまちがえないようにねー」
「時にてんやくん、今回の番組ではどんな事を紹介するのかしら?」
「ガチで知りません」
「・・・・」

 ぐだぐだだった。

「本当にてんやくんは使えない子だねー。仕方がないので私が教えちゃいましょう」

 お姉さんが取り出したのは一枚のフリップ。
 そこには“ろりこんの人により変化した、新ルールについて”と太文字で書き記されている。

「地球圏最大の異形、月そのもの事オルトレイシスが目覚める2008年12月より、従来とは違う魔法ルールが適用される事となっちゃうんですよー」
「へー、そうなんだー」
「それじゃあ具体例を見ていきましょう。もとい、実地で体験して見よーのコーナー」
「おねーさん、だれがするの?」
「君」
「まじで」
「この場でお姉さんに殺されるのと、結構生き残れる確率がある実戦・・・どっちがお望み?」
「やるよおねーさん、ぼくがんばるよ」
「快く承諾して頂いたので、さっそく行ってみましょう」



①魔力の変化について



「先ずは理論から行きましょう。これがなんだかわっかるかなー?」
「コップ」
「はい正解。ここに水を注いでみましょう・・・はい満杯。そしてもう一つ・・・」

 お姉さんはペットボトルよりミネラルウォーターと、泥水を二つのコップに注いで言う。

「“きれいな水”は魔力で、コップは人の魔力総量。今後は面倒なので最大MPと表現します」
「ふむふむ」
「今までは蛇口を捻ると綺麗な水が出てきました。でも、今後はこっちの汚い水しかどーやっても手に入らなくなります」
「あまり体に良くなさそうだな」
「大正解。この水の汚れ=魔力の不純物。コップの水は見た目だと同じ分量だけど、“綺麗な水”の比率は違いますよね」
「うむ」
「つまり、最大MPも下がっちゃいます」
「容器のサイズ関係なく、比率で泥が入ってくんだから等しくそうだろう。でも、濾過するなりなんなりで対処できるんじゃね?」
「それがダメなんですねー。ロリコンさん曰く不純物と言いつつも実は質の違う魔力であって、見分けがつかないとの事でして」

 コップの水を指し、東京と神奈川の水を混ぜた後により分けろと言うような物と続け

「ぶっちゃけ、例外を認めずそう言う物と納得して下さいな」
「難しくてよく判らんが・・・・了解」
「はいそこ、素に戻ってますよー」
「ごめんなさい、おねーさん」



<結論>
 魔力と不純物をより分けての運用は禁止。
 今までと比べどの程度最大MPが下がったのかは個人の判断ですが、目安として3割程度の減算としておきます。
 詳しくは次の項目で解説しますが、魔力消費とは(魔力+不純物)を消費(体外へ吐き出す)することです。





②運用面での変化について



「それではお待ちかね、スーパー実戦タイム」
「来てしまったか・・・・」
「先ずは従来ルールでやってみよー。獲物は熊の異形の“あかかぶと”君を用意しました」
「・・・あの食欲的な意味で人間大好きっぽいの?」
「いえーす。彼、かなりたくさん人を食い殺してる強者さん」
「人選、もとい獣選ミスだろ!ねぇよ!」

 てんやくんは、渡された魔法の杖を構えて泣き言を一つ。
 お姉さんの招きに応じて現れた、人の3倍近い大きさの熊にとりあえず向けた。

「その杖はメーカー製の量産型術具です。火の玉が出る設定なので、一発発射でもどうぞー」
「それだと俺の持ち味ゼロなんだが・・・・」
「黙れ♪」
「・・・いくぞー、とりゃー」

 てんやくんも強化系オンリーとはいえ退魔師の端くれ。特に困ることなく、炎弾を作りだし解き放つ。
 すると相手も獣であろうと出演者。毛皮で弾くが、やられたーとばかりにばたりと倒れた。

「素晴らしい結果ですね。では新ルール適用版。彼は平気なのでどかどか連射して下さい。私が合図を出すまで続行ですよー」
「おりゃー」

 欠伸をしながら立ち上がった熊へ、言われるがままに連射。
 すると体に込み上げてくる不快感。しかし合図も出ないので発動を続けていると、どんどん症状が悪化していくのが判る。
 嘔吐感に始まり、脳を突き刺すような鈍痛へ。
 それでも止めずにいると、体のどこかで何か致命的な部分が壊れた感触がある。
 生命の危機を感じたてんやくんはそこで術式の使用を中止。大の字に横たわってお姉さんへと視線を向けた。

「・・・・こ、これは?」
「分かり易い結果を有り難う。新ルール下では以前のようにノーコストによる術式の使用が出来ません。魔力の使用量に応じ、このようなダメージが発生してしまいます」
「全て承知の上でやらせたのかよ!?」
「“魔力の変化について”で理解して貰ったように“不純物”が魔力には混じってしまいました。そして不純物は有害な成分です。何せ不純なのだからそれはそーです」
「いい加減だが、妙に説得力が・・・・」
「不純物のデメリットは大きく分けて二つ。具体的にはこんな所でしょう」

 お姉さんはホワイトボードを引っ張り出すと、次のように書き記す。



<そのいち>
 不純物を一言で表すなら毒です。
 魔力を体に蓄えると言うことは毒も体に取り込むことなので、そりゃ調子も悪くなります。
 不純物は老廃物と同じで何もせずにいたり、術を使うことで排出されますが

 排出<補充

 の公式が成り立ってしまうと、どんどん体に溜まるのでとても危険です。
 魔力と不純物を比較した場合、本来の親和性から割合として魔力の方が多く外へと出て行く為、大量消費すればするほど体内の不純物比率が上がっていくことに繋がるでしょう。
 目安として致命的なレベルにまで達していなければ“安静にした上で一晩程度の休息”を取れば正常値まで回復する事としておきます。



<そのに>
 上記の通り、術式使用=汚れた魔力を使用です。
 術式の使用を血液の流れに例えましょう。
 綺麗なさらさらの血ならば抵抗もなく流れて行きますが、どろどろの淀んだ血は抵抗も大きく流れが遅くなってしまいます。
 しかし、今までと同様の速度で流れなければ術式が発動しませんので無理矢理流さなければなりません。
 これが二つめのデメリット“術式を使うと体に負荷が発生”に繋がります。



「てんやくんの場合、誇張した表現の方が分かり易いのでさっくり自滅させました。程度の差はあれど、簡単な気持ちで大技無双すると酷い目に遭うんですねーわかったかなー?」
「わかりたくない・・・・」
「今までのようにどかどか大技を放っちゃダメ。小技で追い込み、ドカンと大きいのをぶちかます戦術が流行するんじゃないかと思うおねーさんです」
「おねーさん」
「はい、そこ」
「ぼくのような強化系の人にはどんな影響がでるのー?」
「例えば時間制限付きの・・・そうFFならばヘイスト、DQならバイキルトのような物なら“発動した時点でコストが確定”しているので、効果時間内は“付与された相手”にデメリットは発生しません。魔力を消費したのはあくまで術者ですからね」
「じゃあ、俗に言うパッシブみたいな常時発動型は?」
「それこそ今の話と条件は同じです。少なくても多くても魔力を“常時使い続ける”のですよ?じりじりと不純物によるタイムリミットが迫ってきてしまいます」
「24時間無意識で継続できる術式があったとして、下手すりゃ寝ている間にお陀仏か・・・」
「大正解。むしろ今まで永続型が強すぎました。強力になれば成る程リスクが高まるって、当然の理屈だと思いません?」
「それもそうか」

 こう書くと付与型の方が強く思われるかもしれませんので、ルールを策定しようと思います。



“他人からの強化系支援は、極めて短時間しか保たない”



 ルールを身近なゲーム準拠とし、一般的には2~3分とします。
 理屈をこねるとすると本来は体の内部から強化が発動するのに対し、外からの強化は外因なので異物と判断され長くは保たない・・・・みたいな感じでしょうか。
 というか味方から簡単に強化を貰ってしまうと“強化型”の存在意義に関わります。

「第一回はこんな感じですかね」
「やっと終わるのか・・・」
「だから素に戻ってるってば」
「おじかんだよおねーさん」
「宜しい。では、まった・・・・来週?」
「ぎもんけいだけど、またらいしゅうー」





新ルール講座、第一回『完』


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