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Desiderium ◆cHCCzl86Lw


今も憧れを抱いている。


最初の願いを思い出す。
死にたくない、生きたい、そういう単純なものだったように思う。
助けて。と、そう、私はあの日、願ったのだ。

生か死かの取捨選択。考える余裕すら無く、必死に口にした気持ち。
それを後悔しているわけじゃないけれど。
結果として生きる事になった今が、辛いと感じる日もあって、寂しいと泣いた夜もあった。
救えなかった誰かに、目の前で取りこぼしたものを前に、無力に打ちのめされたことだってあった。

だから今も、私は信じている。
いつか小さなころ、膝を抱えながら観たテレビ画面のそのむこう、何も知らない私が信じて、憧れていたもの。
煌びやかに、鮮やかに、華やかに、そして綺麗に。
別世界で踊る、少女達の姿。

私の憧れ。
私の希望。
私のユメ。

胸に抱いて、瞳に移して、今の私に、するりと重ねて。


「私は巴マミ


そして名乗ってみせるのだ。


「キュゥべえと契約した、魔法少女よ」




★★★★★




コンクリートの上、紅い水溜りが広がっていく。


「ぁ……あ、あ……」


目の前で倒れ伏した少女の身体を中心に、じわりじわりと流れる血。
命が終わる瞬間だけが、このとき園田海未の視界を独占していた。

通いなれた学校。
踏みなれた屋上の床に尻餅をついたまま海未は、震えながら目に焼き付ける事しか出来なかった。
美遊・エーデルフェルトという少女の死を

先程まで、まるで夢を見ているような心地だった。
叩き付けられた殺意への畏怖。
自分の命が終わるかもしれないと本気で恐慌し、必死に逃げた。
まるで悪夢。けれどそれらすべてを吹き飛ばすような、圧倒的非現実があった。

目の前で行われた、曰く魔術、魔法のステッキ、魔法少女。
変身し、使いこなし、守ってくれた。
怪物のように恐ろしい存在に退かず立ち向かい、助けてくれた小さな少女の奮戦。
鮮やかな淡い光、ペガサスの飛翔。
色鮮やかな非現実に僅か、のぼせるような感覚に陥っていたのは確かだった。
つい先ほど、一瞬にしてその存在が無残に息絶えるまでは。


今やここに残るのは、死、だけ。
命の終わりという、明確な事実。
助けられて、守られて、そしてもう助からない。
何も出来ないまま死なせて、取り返しはつかない。
そういった形の圧倒的な現実のみ。

場所が見慣れた音ノ木坂学院の屋上だったこともより拍車を掛けていた。
先程まで海未を包んでいた浮遊感の、介在する余地はもはや何処にも無い。

「返事を……してください……」

海未には分かっていた。
目の前の少女がもう息絶えていることくらい。
少女の肌をズタズタにした裂傷。流れ続ける大量の血液。ピクリとも動かない全身、開ききった瞳孔。


どう見ても死体、生きているわけがない。
けれど近寄れない、確認するのが怖くて、認めるのが嫌で動けない。

「お願い……ですから……」

少女は死んだ。園田海未を助けて死んだ。助けたから死んだ。
助けなければ、死ななかったかもしれない。私のせいで、死なせてしまった。
そう考えてしまうのが、とてもとても怖かったから。
動かない死体の返事をずっと待ち続けて。
だけど、ここに、彼女の死を受け止める存在は、もう一つ。

『美遊様……』

カレイドステッキ・サファイアは悼むように名を呟く。
それは海未の発したものとは違う、離別の痛みを受け止める呼びかけだった。


「……ごめん……なさい……」

だから海未も受け入れるしかなかった。
受け止めるしかなかった。
少女が死んだという紛れもない事実を。

「ごめんなさい……」

美遊・エーデルフェルトは園田海未を守って、死んだ。
その事実を受け取り、やはり耐えきれず涙がこぼれた。


あの時、自分にも何かできたのではないか、そうすればこの結果は変わっていたのでないか。
そういった根拠のない後悔に押しつぶされそうになりながら、
海未は僅かに顔を上げて、残された物を見つめる。

「私にも……何か……出来ていれば……」

美遊・エーデルフェルトの死と、彼女手を離れ、足元に転がるカレイドステッキ・サファイア。
そして残された、最後の言葉。

「サファイアを、お願い――――」

「私は……」

手を伸ばさなければ。
震える足を動かして、近づかなくてはと強く思う。
あの杖を拾わなければならない。そうすることがせめてもの、と。

「私は……っ!」

それでも、体は動かない。
全身を、冷たく凍えるような感情が支配する。
もう取り返しのつかない哀しい事実を、一人ではどうしても受け止めきれずに。



「―――――」


その時、こつり、と。
頭上で靴音が鳴ったような気がした。
音を追うように、海未が見上げると―――

「あなたは……?」

視線の先、屋上の更に高所に位置する、
落下防止用フェンスの上に一人、金髪の少女が立っていた。

夜天の下。
ベレー帽にコルセット、スカート、そして目を引く胸元の黄色いリボン。
淡い輝きを放つ、クラシカルで華やかな立ち姿はまるで、昔見たテレビの中の―――



「私は巴マミ」


フェンスから床に降り立ち、海未の目を真っ直ぐに見つめて彼女は名乗る。



「キュゥべえと契約した、魔法少女よ」



いつか幾人もの少女が胸に抱いた、憧れの名を。




★★★★★




今も憧れを抱いている。


だからこの場所で、私のすることは決まっていた。
初めから選択する余地は、たぶん無かったんだと思う。
最初の願いを決めた時とあるいは同じくらいに。

「魔法少女……あなたも……なのですか?」

目を丸くして、私を見つめる人。
この瞬間、出会った誰かに、私は手を差し伸べたい。
素性も、年も、名前すら知らない赤の他人。

だけど私は、助けたい。
今にも悲しみに潰されそうなこの人を。


「……助けてください」


縋るように手を伸ばす、名前も知れない目の前の誰か。
その願いを。
私は微笑んで受け入れた。


だって、それがいつか、私の憧れた在り方で―――



「ええ、もう大丈夫です」



魔法少女は、夢と希望を叶えるものだから。





【G-6/音ノ木坂学院屋上/深夜】


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:変身状態
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:夢と希望を叶える魔法少女として在る。人を守る。
1:目の前で泣いている人の保護。
2:身を守るすべのない人を助けたい。
3:名簿内の知人が気になる。
[備考]
*参戦時期はテレビ版2話終了時あたり。


【園田海未@ラブライブ】
[状態]:疲労(大)、足に擦り傷
[装備]:
[道具]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、基本支給品(美遊)
[思考・行動]
基本方針:死にたくない
1:助けて……
2:μ'sの皆を探したい
[備考]
*サファイアによってマスター認証を受けました。
*サファイアの参戦時期はツヴァイ終了後です。



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012:Brave Shine 園田海未
最終更新:2015年06月02日 10:15