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いろとりどりのセカイ ◆5brGtYMpOk


わたしーー里中千枝がこんな性格になったのはいつからだっただろうか。
悪を許せず困っている人を放っては置けない、そんな正義の味方みたいな自分。
悩んで、悩んで……答えは見つかった。
子供の頃からずっとそうだった。幼稚園ではチビッコギャング、小学校では正義の味方、中学校では……給食革命の戦士。
高校では世界を救うっていう物語の主人公みたいな話。

わたしの町では奇妙な殺人事件が発生していた。次々と広がっていく原因不明の変遺体。
犯人も動機も何もかも一切謎。でもある出来事をきっかけに、事件は解決へと急激に回り始めた。影(シャドウ)……それは人間の精神が具現化した存在。
人間をテレビの中に連れ込み、その人の心境を表したものがダンジョンとなって現れる。
そいつらがこの町を騒がしている元凶だった。影(シャドウ)は心の奥底で抑圧されていた感情。
テレビに迷い込んだ人は、語りかけてくる本当の自分と向き合わなければいけない。

その物語の中でわたしは本当の自分と出会った。醜く歪んだ心を持った影(シャドウ)
そいつはわたしの心の核心を突いてくる。雪子に対する、嫉妬や優越感といった感情を。
雪子の自分を見る卑屈な目が堪らなく嬉しい、最高だ、気持ちがいい。
そんな感情をわたしがいくら否定しようとも、シャドウは真実しか言わない。
全部、全部それは本音でしかない。だって、影(シャドウ)はわたしだから。
心が折れかけたわたしを救ってくれたのは、友達の言葉だった。

ーー本音? 結構じゃねぇか!
ーーそれでも、友達なんだろ?

そんな心から言ってくれた思いに目が覚めて、ずっと、ずっと見て見ぬ振りをしてきた自分に腹が立って、わたしはわたしでしかないことに、今更気がついて。
ぼんやりながらも警察官を目指したいと思って、頼られるわたしじゃなくて、みんなを守りたいわたしを目指して……

それで……

ーーそれで?

目の前には白いベッドに寝転んでいる女の子がいた。
メイド服に包まれた女の子の目は閉じている。
この子は……そう、わたしの友達のモモカちゃん。友達になったばかりの子だ。
会ったのは一度きりで喋ったのもほんの少しの時間だけど。一緒にお茶した時間が私たちにはある。
それだけで友達と言えるのかって聞かれれば、友達だって断言出来る。大切なのは過ごした時間だけじゃない。

趣味や好きな食べ物とか、どんな人がタイプなのだとか。
そんな何気ない日常の話もできなかった。休日に一緒にショッピングモールに行って、洋服を見たり学校帰りに会って話に花を咲かす。
そんな未来だって私たちにはあったのかもしれない。
モモカちゃんが可能性として示した平行世界の概念。元々出会うことのなかったわたしたち。
モモカちゃんは他人同士って言ったけど、逆に考えてみればとても運命的に見える。
だって平行世界なんだよ。普通の人が聞いたら笑っちゃう言葉。
そんな世界で出会った……都合のいい解釈かもしれないけど、これって奇跡って言えないかな。

ペルソナ。ほんとうのわたしを表した影。
この場ではみんなを守るべき力でもある。
それなのになにをやっていたんだろう。みんなが命を懸けて戦っていた中、気絶していた。
こんなのでみんなを守っていけるのかって不安になる。
今この時、最後の一人になるため人を殺した人間がいて、殺された人がいるのかもしれない。

モモカちゃんの顔は死んでるなんて思えないほど綺麗だった。

目立つ傷は腕だけで、他の箇所はかすり傷程度。
何事もなかった様に今にも起き上がって来そうと思うのを、わたしは止める。
死んだ人間は生き返らない。それは無駄な考えなんだと分かっている。
理解は出来るが納得はいかない。その言葉がふと頭の中に浮かんできた。
そうだ。わたしは納得がいってない。この下らない催しも、人をあざ笑う様なエンブリヲってヤツも。
殺し合いに乗る様な人も、モモカちゃんが死んだことだってなにもかも。
最後の一人になったらなんでも願いを叶える? ふざけんな、勝手に連れてきて殺し合いをしろって、あんたは神様にでもなったつもりか。
ドロドロと胸にある感情が広がっていくのが分かる。このゲームの主催者に対する怒りでもあるし、モモカちゃんを失った悲しみでもーー

涙がこぼれてきた。

あれ……なんで泣いてるの……

泣く場面じゃないよね……

怖いとか、ムカつくとかそういう感情を出すところだよね……

ゴシゴシとジャージの袖で、吹いても吹いても涙は止まらない。

どうしちゃったのわたし……胸が痛いよ。

さっきのようなドロドロとしたのは違う。
ぎゅっと締め付けられるような、そんな感覚。

……ああ。
……なんとなく、なんとなくだけど分かってきた気がする。
……涙が流れている理由も。
……胸が苦しい理由も。

悲しくて、悲しくて、泣かないように我慢してたから。

ちょっとしたきっかけで、こんなにも止まらなくなる。

だけどもうこの涙は止めない。

モモカちゃんが眠る真っ白な部屋で、わたしはずっと泣いていた。






「だれかいませんかー?」
「返事があったらあったで、軽いホラーね」
「ちょっと……クロエちゃん、そういうこと言うの止めてよ」

若い少女の甲高い声が無人の店内に高く響いていた。
その声は空気を震わせ、寒さのせいか白い煙と共に散っていく。
声の発生源は店内の入り口からだった。自動ドアが開かれたことにより、早朝の外の冷気が店内に入り込んでくる。
来店を知らせるベルの音が鳴り少女たちは中に入っていく。
店内は広く、テーブルとソファが無数に並べられていた。
新作のデザートが描かれたポスターが壁に貼られている。
掃除が行き届いているのかピカピカとしたリノリウムの床はホコリ一つもない。
俗に言う、ファミレスと呼ばれる場所に二人の少女が来店していた。

「意外ね、そうは見えないわ」
「それだけじゃなくて、虫とか、虫とか、虫とかも苦手。想像するだけでもう……」
「よっぽど嫌なのね……」

二人は話をしながら壁際のテーブルの席に座る。
青い顔をしてテーブルに突っ伏したのは里中千枝といい、
そんな千枝を見て苦笑いしているのがクロエ・フォン・アインツベルンといった。

誰もが少なからず傷を抱えた騒動から一夜明けて。
二人はヒルダを追いかけるために、線路の上を通って東へと足を伸ばしていた。
戦闘による魔力の枯渇にあったクロエは、千枝から取れた魔力が思いの外多かったのが幸いした。
ペルソナを操るという彼女からの魔力提供はイリヤには遠く及ばないものの、通常魔力回路を持たない一般人より量は格段に違っていた。
恐らく”異能”という枠に入っているのなら、吸い取れる魔力の量も上がるのだろうと、クロエは推測している。
そうして四つある内の東に位置する駅に着いた二人は、闇雲にヒルダを探し出しても徒労に終わるだけだと、近くにあったファミレスを見つけて入ったのだった。

テーブルの横に置いてあるメニュー表に千枝は目を通していく。
そこには豊富なメニューが所狭しと載せられていた。
新鮮なイタリアントマトにモッツァレラチーズを使用したピザに、新メニューと大きく書かれているのは鮭や鮪といった魚介類をふんだんに使ったクリームパスタ。
デザートにはこれまた苺を溢れる程に入れたパフェに、まろやかなコクが自慢のチーズケーキ。
知らず千枝の喉がごくりと鳴ったのを、クロエは目ざとく聞き取り呆れた声を出した。

「そんなお腹空いてるの?」
「お昼食べてないんだよねー。今は朝だけどさ」

二人は軽口を叩きながらも視線は時折外へ向けている。
駅前を見渡せる位置にあるファミレスは、駅に近づこうとする者を確実に捉える。
ヒルダがクロエたちと合流をするならこちらの駅を目指すのは必然。
駅でそのまま待つのは無用心なので、こうして近づく参加者の確認をしながらヒルダが来るのを待っていた。

「わたし見てるからクロエちゃんはご飯作って来ていいよ」
「それはわたしのセリフなんだけれど……まぁせっかくだし、お言葉に甘えようかしら」
「料理できるの?」
「作るって言っても冷凍物を温め直すだけ。最近の技術はすごいらしいわ」

別にわたしはお腹は空いてないんだけどね、とクロエは言葉に出さないで。
立ち上がって店の奥に足を運ぼうとした時、メニューを眺めていた千枝が静止の声をかけた。

「やっぱりヒルダさん待とうかな」
「えっ、いいの?」
「みんなで食べたほうが美味しいしね……あっ」

ぐぅぅぅ、と。

説得力のないお腹の音が鳴って、千枝は顔を隠した。








ーー結論から言うと、逃げられた。

線路上から逃走するキリトを追いかけていたヒルダだが、その鍛え上げられた足は止まっていた。
理由は単純に目標であるキリトを見失ったからだ。夜の追跡が困難ということもあったが、全力疾走にも関わらずいつまでも背中が捉えられないのが原因であった。
駅を過ぎた先が市街地だったのも追跡を困難にさせた。路地裏を疾走して、障害物がなんだと言うように、キリトは道のない道も飛び越えていった。

二人の差を分けたのはなんだったのか。

ヒルダにはキリトだけではなく他の参加者の警戒もしなければいけない。
そのため、進行は若干遅くならざる終えなかったからであり、それらを全くと言っていい程せず、がむしゃらに逃走していたキリトが彼女をまく事は必然だった。
もう一つ。これはヒルダには知る由もない話だが、現実の肉体を持たないキリトは疲れを知らない体だったため、キリトが自分の意思で止まらない限りヒルダは絶対に追いつけなかった。

ヒルダにはとにかくいろいろな悪条件が重なっていた。

ヒルダの決断は早かった。このまま追いかけてもキリトを見つけられる可能性は少ない。
そう判断した彼女はすぐにクロエ達のところに戻ることにした。
場所の指定を二人はしていなかったが、入れ違いを避けるため恐らく駅にいるだろうと思っていた。
キリトをあのまま放置するわけにはいかなかったが、自身の身の危険という問題もあった。
武器は手元にある拳銃一丁。予備の弾薬はなく、他の武器などはない。
これだけの武器では、一人で行動しているヒルダには多少の不安があった。

そして現在。

キリトを追跡してきたルートそのままに、入り乱れた路地裏をヒルダは歩いていた。
足に結構な疲労が蓄積している中、灰色のコンクリートの街を背景に彼女は進む。
時刻は夜明けを超えたところ。日の光を求めて土木や草が活動し始める時間。
朝の冷たい風が彼女の赤い髪に吹き抜け、街中を覆っていた暗闇はすでに取り払われている。
クロエと合流する頃には、放送も間近といったところだろうと推測して足を早める。
時折小石が散らばって落ちていて歩行の邪魔をするが、胸のムカつきと共に彼女は石を蹴り飛ばす。

名簿を確認したときエンブリヲの名前があったことをそこまでヒルダは気にしていなかった。
なぜならエンブリヲは死んだからだ。死んだ人間は二度と蘇らない。あの時が停止した世界で彼は確実な死を迎えたはずだった。
クロエに忠告したときも万が一という時のためだった。
エンブリヲの能力。不死身でありながら、同じ時、異なる場所に同時に複数出現でき、テレポートも可能で自分が触れたものを任意に飛ばすことも出来る……自称創造主。
ここにジルでも入れば確実に無能の烙印を押されていたことだろう。
あの場でヒルダがした事と言えば、銃を突きつけておきながらエンブリヲの脅しに引き金も弾けず、なすがままにやられていただけ。
もっとも、彼女は既に亡くなっており、存命時はエンブリヲに熱心だったわけだが。

ようするにヒルダは甘く見ていたのだ。この理不尽な世界を。
無意識に……そう、心の奥ではなんとかなるだろう……そんな気持ちで。
自分の身近な存在がいつドラゴンに落とされて墓の下に眠るのか分からない……戦場という日常にいた彼女には分かっていたことなのに。
だからきっとモモカが死んでしまった責任は自分にもあるのだろうとヒルダは思っていた。
忌み嫌われ社会システムを破壊しかねない退化した危険な人類ーーそうエンブリヲに思想を仕向けられているにも関わらず、アンジュの為だけにアナゼナルにやって来たモモカ。
マナの力を持たないノーマを嫌悪していたものの、自らコミニュケーションを取ってだんだんと打ち解けていって。

彼女はこの世界でも最後までアンジュを想って死んでいった。
それは誰も望んでなかった事故なのかもしれない。
この事実をアンジュはどう思いどのような行動を起こすのだろうか。
怒りのまま、殺害した本人を探し出して報いを受けさせるのか。
モモカが死んでしまった事実に嘆き悲しみ立ち上がることさえ出来なくなるのか。
怒り嘆き悲しみ、全ての感情を混ぜて殺し合いに乗ってしまうのか。

モモカは守れず、エンブリヲを取り逃がした自分が酷く憎い。

ただ、それだけを思い駅に続く大通りをヒルダは歩き出した。








「探し物?」

空もすっかりと明るくなり始めた時間。里中千枝は対面に座るクロエに対して声をかけた。
なぜそんなことを聞いたのかというと、クロエの挙動がおかしかったからだった。
参加者に支給されたデイパックをクロエはいじくり回していた。じっと見つめてたかと思うと手を入れたり、振り回したかと思うと触りだしたり。
クロエはそんな不審な行動を何度か繰り返していた。

初めはクロエの行動について聞くつもりは千枝にはなかった。
しかし、人間、外れているモノには興味が抱くものである。
身長が高い人。胸が豊かな人。タバコを吸って白い煙をばら撒いてる人。
クロエの挙動不審ぶりは千枝の興味に惹かれた……興味を持って当然の話だった。

千枝の声が聞こえているのかいないのか。
クロエは考え事をしているのか動く気配を見せない。
そうなると自然に二人は会話がなくなるので、店内には時計の音だけが響く。
カチリ、カチリ、と時間だけが過ぎていく。千枝は無言の空気を嫌うように、ドリンクバーから持ってきた炭酸飲料の入ったグラスにストローを立てて飲んでいた。
空きっ腹に飲み物はキツかったが、ヒルダが戻ってくるまでの我慢だった。

「ーーねぇ、車の運転はできるかしら」

唐突に言葉を切ったクロエは千枝が持ってきたグラスに手をかけて煽る。
千枝と同じく中身は炭酸飲料だったのが予想外だったのか、彼女は軽く咳き込んでいた。
テーブルにこぼれ落ちた水分をナプキンで拭き取り、何事もなかったように振舞う。
クスリと笑ってしまった千枝に人睨みを利かせて。

「原付の免許はあるけど、車はないかなー」
「わたしは、運転できるかできないか聞いているわ」
「えっ、そりゃできないよ」

千枝は否定の意味を込めて手を振った。車の免許が取れる年齢にまで彼女はなっていない。
そう……と答えに悲観するわけでもなく、クロエはグラスに入った氷を鳴らす。
最初から期待はしていなかったというように彼女の表情は変わらない。

「出来れば、移動手段が欲しいところなの。足の代わりとなる自動車といったものね。鍵さえ手に入れれば、そこら辺から頂けるのだけど」

顔を上げた千枝にクロエが懐から取り出したのは一つの鍵。
銀色に鈍く輝く首輪と同じ色の鍵がクロエの手に握られていた。
それが意味することがなにか、すぐに千枝には分からなかった。

「それって、もしかして車の鍵なの?」
「いえ、バイクの鍵よ。わたしの支給品のね」

クロエの言葉より後の出来事に千枝は目を疑った。
狭いファミレスの床一面に現れたのはバイクだった。二輪車の側車にサイドカーを取り付けたそれは白く艶めいている。
千枝の目の前で起きた光景。
それは、クロエが所持しているデイパックの中から突然バイクが出ててきたのだ。
目の錯覚かとよく目を凝らしても、どこからか取って来たのではと辺りを見回してみても、種になるようなものはない。

「な、な……」

言葉も出ない千枝にクロエはバックを片手に持ったまま笑みを浮かべている。

「これって、どういうことっ!?」

千枝の説明の要求にクロエは口を開く。

デイパックと呼ばれる参加者全員に配られた物は、この世界と同じで不思議に満ちている。
大きさや重量を無視して持ち運べ、入った物はまるでミニチュアのように収納されていく。
内部は空間と呼ぶべき広さがある。腕を入れて大きく振っても、触れるのはデイパックの入口に当たる部分だけ。そこより先は無限が広がっている。
例外として地面に根を生やしたものは仕舞うことができない。これは木や家といったのが該当する。運べる量に限界はない。
仮に、駐車場にある車を全部入れても問題はない、というのはクロエの談。

「あ、あのー、質問いい?」
「どうぞ」
「これって、人とかも入れるのかなーって」
「それが問題なの。体の一部が入るのなら、全身入ることも不可能ではないはずよね。いろいろ試してたんだけど……結論は可能。でも、長時間……いえ、短時間でも入ることはおすすめしないわ。だってこれではちょっとした隠れ家じゃない。
想像してみて。街中の住宅地の一つにポツンとあるデイパック。または森の誰にも見られないような場所。そんなの見つけようがないわ。
便利すぎるのよね。みんな隠れられたらゲームなんて滞りなく進行できない。だから、なにかあると思うのよ。参加者にとって悪いなにかが。
わたしにはとても入る勇気はないわ。あなたが良かったらだけど……どう?」

「いいです」

クロエが言い終える前に千枝は首を振っていた。
誰だって実験体みたいな扱いを進んでしたいとは思わない。
デイパックの謎は気になるが、その為に自分の体を犠牲にするやり方は彼女にはできない。

「これはお蔵入りかしら。三人乗せられないものね」

強引に引き止めるわけでもなく、クロエはバイクをデイパックにしまっていく。
そこでも千枝は二度目になる衝撃を受ける。
デイパックを広げるように近づけたクロエは瞬く間にバイクを収納していた。
デイパックの方が大きくなるわけでもなく、バイクの方が小さくなるわけでもなく。
この世の法則を無視した奇妙な光景がそこにはあった。

「この程度の大きさなら数秒あれば仕舞えるわ。大きさや重量によって時間にバラツキがあるのよ。車ぐらいになると結構力仕事になるから大変ね」

クロエはこの程度と言ったが、バイクの大きさはサイドカーのこともあって相当なものだ。
デイパックにバイクを入れたクロエはソファに腰を下ろす。

「さて、デイバッグの話はこのぐらいにしといて、指針について決めないとね。わたしとしては始めに会場の『端』をじっくり見ておきたいのだけど……そこに何かしらヒントがあるかもしれない。
ここからちょっと南下するだけで着くわ。それとジュネス……ショッピングモールね、ここは色々と物資を調達出来そう。
それで、千枝はどこに向かいたいとかの希望はある?」
「あ、それじゃあ」

西の駅で仲間と別れた事を千枝は言った。一人は黒髪のお嬢様にもう一人は銀髪の女の子。
正確には別れたのではなく、フライパンで頭を殴られて気絶させられ連れてこさせられた。
現在は早朝のため、雪子たちと離れてからずいぶんと時間が経っているが、もしかしたら既にどこかに行っているか、千枝たちを追って民宿の方に来ているかもしれない。
なので、出来ればと控えめながら譲る気のない提案をした。

「その銀って子は、ただの大人しい娘じゃないみたいね」
「うん……まるで感情がないみたいだった。受動的っていうのかな。あのまま放って置いたら、食べることも飲むこともしないで餓死しちゃいそうな感じがあった」
「本物の霊媒者か……興味が湧くけど、今はそれどころじゃないわね。ヒルダが戻ってきた後は、西の駅で二人と合流が一先ずの目標になるわ」

話は終わりだというように、クロエは視線を切って窓の外を見つめた。
銀色の髪は輝いていて、灰色の瞳はどこまでも揺れていない。
千枝にはその顔がどこか物鬱げに見えてちょっとした違和感を覚えた。

「……はぁ」

ソファに背を預け真っ白な天井を見つめて考える。
なんでこんな事になったんだろう。
わたし達がなにか悪い事でもしたのか。
本当に腹立つし、ムカつくし、やっぱり怖い……
早く、一秒でも早くこの事件を解決して、わたしの日常に戻りたい。
わたしがいつまでも帰ってこない事を、雪子はきっと心配している。
別れ方があんなだったから、心配しないほうがおかしいか。
雪子の悲しむ顔は見たくないから、大丈夫って顔を見せて安心させてあげたい。
モモカちゃんが亡くなった……その事も伝えなくちゃいけない。
雪子は……きっと泣いちゃうだろうな。
そんな雪子を見てわたしはまた泣いちゃって。
でも、いつかは涙は止まって。
わたしたちは……

「あら?」

千枝のぼんやりとした思考がクロエの声によってかき消される。
クロエの視線の先。アスファルトの道路を渡り、今まさに駅に向かっている赤い髪を持った少女ーーヒルダがいた。

ーーそして少女たちは再会する








ファミレスを飛び出していった千枝をクロエは静かな目で見つめていた。
夜の事件の後、モモカの遺体を持って民宿の一室にまで運んだのは千枝だった。
あの時、クロエはドアの前で千枝を待っていた。しばらくすると部屋の中から声を抑えた嗚咽が聞こえてきて、それも時間が経てば大きくなっていった。

ここは命の価値が等しく平等で、誰もが思い通りに行動するのを容認する。
世界の終わりは自分以外の全てが屍になった時だけ。
それがルール、この世界においての絶対であり覆す事のできない決まり。

しかし、

果たして本当にそうなのだろうか。他に道は絶対にないとは言い切れるのだろうか。
だがモモカが死んでしまった事で歯車は回ってしまった。
坂道でボールが止まらないように、もう元に戻すことなど出来ない。

では、どうする。

クロエは、一つの考えが浮かんだがすぐに首を振って消し去る。

『彼』の背中を眺めてきた自分がなにを考えているのだと。

失ったものはあるけれど、希望は無くなったわけではない。

ならばそれに向かって進むだけ。

わたしの『日常』はまだ壊されていない。

二人がこちらに歩いてくるのを、クロエは手を振って迎えた。




【F-8/ファミレス/一日目/早朝 (放送直前)】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2 基本支給品x2 不明支給品1~3サイドカー@クロスアンジェ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:脱出する。
0:ご飯にしますか。
1:放送を聞いた後、西の駅に行って、天城雪子、銀、と合流する。
2:イリヤ、美遊と合流。
3:脱出に繋がる情報を集める。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※モモカ萩野目のデイパックを回収しました。
※クロエのキスによる魔力の補充は、異能者であるなら一般人よりも多く採取出来ます。

【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:お腹減った。
1:みんなを守りたい
2:天城雪子、銀、と合流する。
3:悠、クマを探す。
4:モモカ、銀の知り合いを探す。
5:足立さんは微妙に頼りにならないけど、どうしようか。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:エンブリヲを殺す。
2:アンジュ達を探す。
3:アンジュに出会えたら平行世界について聞いてみる。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。







052:儚くも美しい絶望の世界で クロエ・フォン・アインツベルン 080:少女不十分
里中千枝
ヒルダ
最終更新:2015年07月22日 02:49