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インヴォーク ◆QO671ROflA
その男・
魏志軍は、極端なまでに疲弊していた。
あの突飛な殺し合いの開幕宣言から数時間足らずの間にも、彼は数々の戦闘行為を繰り広げて来たのだ。
少なくともここまでの戦績としては上々と謂えよう。
現に彼はここまでに全参加者72人中2人の殺害に成功し、数多くの所持品の確保にも成功している。
尤も今日の朝方に流れた広川の《定時放送》によれば、魏が1人殺害した時点での死者数は16人であり、少なくとも15人が魏以外の何者かに殺されているのだが。
そんな魏も自身の本命にして憎き仇敵であるBK201こと《黒の死神》との遭遇は依然として果たせずにいた。
(今頃あの男は一体何処で何をしているのだろう。
このままでは黒の死神との遭遇以前に野垂れ死ぬかもしれない)
疲弊しきった魏志軍の脳裏に倦怠感にも似た不安が過った。
■
彼の第三の支給品にして先の戦闘で最大の戦力となった《水龍憑依ブラックマリン》なるこの指輪は、水と接する事で本領を発揮するらしい。
しかし魏の手元には、既に攻撃に転用出来るだけの飲料水など残っていなかった。
飲料水は大部分を飲み干し、その上、奪った飲料水の1つは容器ごと破裂してしまっている。
魏の契約能力“物質転送”の本質は「自傷行為」にある。
その自身の血液を媒介とした特殊な能力が故に、考えなしの無暗な契約能力の連続使用は出来ず、彼としてはこのブラックマリンを戦闘で重用する事を決めていた。
そうともなれば彼の目標は容易に定まる。
それは彼の脳裏を過った最も合理的なプランであり、疲弊を押し切り黒に対する執念が勝ったが故の判断。
一刻も早く水源を見つける事だった。
■
水源の発見は案外容易なものだった。
どうやらここは地図で見たF~H南部を流れる河川の下流に位置するらしい。
辺り一面には雑木林が生い茂り、まさに自らの位置情報のカモフラージュも可能な休養を取るには最適のスポットであり、同時に死角の多い奇襲を仕掛けるにも最適のスポットであった。
しかし、それは当然の事ながら逆のパターンも有り得る。
いくら水源付近と言えど、既に満身創痍同然の魏が他のゲーム賛同者と対峙したなら高確率で敗北。すなわち殺されるであろう。
ましてやその相手が《黒の死神》ならば、それこそ最も忌避すべき事態だ。
契約者・魏志軍はただただ途方に暮れる。
ひとまず辺り一面に生い茂る樹木に腰かけた魏は、ふと先の戦闘で手に入れたあの《黒の死神》に良く似た男の支給品らしき帝具に目をやる。
先の戦闘の様子から察するに、この帝具は能力研究所にあったワープ装置と同じような効果を持つのは間違いない。
使用用途さえ分かれば彼の契約能力とブラックマリンの特性上、最大の防具に変貌するだろう。
魏はその帝具に手をかける。
しかし何ら変化は現れなかった。やはりこの支給品の説明書が奪ったディバックから発見出来なかったのは痛かったようだ。
(この帝具が転移現象を引き起こす直前に紫を帯びた対極図が見えましたね……)
魏はその帝具シャンバラをスタンプを押すかのように空中で軽くプッシュする。
どうやら魏の読みは的中したらしい。
その場に滔々と浮かび上がった対極図はあの時視認した物に相違ない。
(これは一度セット出来ればこの対極図のポイントまで瞬間移動出来るのではないか)
この魏の推測は、その直後から何度も繰り返された数多の実験で明確なものとなった。
■
この瞬間転移の帝具の使用用途を理解した魏は歩みを進めた。
コンパスによる位置関係的にも、やはり
現在位置は支給された地図に書かれている河川の下流と見て間違いない。
そうともなれば、この付近にはカジノがあるはずなのだ。
仮に進行方向が間違っていたとしてもこの付近はジュネス等の相当数の施設が密集している。
この転移帝具さえあれば、カジノ・もしくは他の施設で休養を取ったとしても、万に一つ敵に侵入された際にはさっきセットした水源の対極図のポイントまで瞬間転移すればいいのだ。
休養を取って万全のベストコンディションを整えた上で水源まで移動出来れば、たとえ相手が大人数だとしても彼には十二分に勝機はある。
魏は不釣り合いながらも、先の戦闘で疲労しきった右足を引き摺りながらカジノを目指した。
予想に反してカジノはすぐに見つかった。
寧ろこの短距離でカジノを発見出来た事は、シャンバラに長距離制限が設定されている事実など気付ける筈もない彼にとっては好都合なのかもしれない。
いざカジノの室内に入ると、そこには魏の想像していた光景とは全く異なり、賑やかさには欠ける物静かなアミューズメントエリアが奥へ奥へと広がっていた。
どうやら照明こそ付いているものの、デジタル系統のアミューズメント機器に電力は1つたりとも供給されていないらしい。
それ以前に、誰一人として他者がいない現状こそがこの不気味な空間に拍車をかけていた。
魏は少しずつ歩調を早めていく。
道中で発見したビリヤードのキューやダーツの矢など戦闘で使用出来そうな備品は全てディバックに詰めた。
ただでさえより殺傷能力の高い武器を欲する彼にとっては、有効価値のある物は何であろうと確保しておきたかったのだ。
■
長い1階の連絡通路の小径を駆け抜け、魏はようやくエレベーターを発見したが、どうやらこれにも電力は供給されていないらしい。
魏は溜息も吐きながらも、やもなく足を引き摺りながらも隣にあった階段を上る。
それ以外にも上の階に上がる方法はあったのだろうが、疲弊して思考が鈍っていようと曲がりなりにも“契約者”の端くれである魏は合理性を重んじたのだ。
ようやく辿り着いた2階は、1階以上の静けさの漂う謂わばスタッフルームのようだった。
ここでも魏に些細な幸運は訪れていた。
真っ先に魏の目に入ったのは「救護室」のプレートである。
彼は即座に救護室のドアノブに手をかける。
幸いにも能力研究所とは違い、鍵はかかっていないようだった。
尤も万が一鍵がかかっていても魏の契約能力を持ってすれば、この扉の破壊は容易そうであったが。
救護室内には運良く照明とその他の電気も供給されているらしく、更には簡易な医療器具と薬品が揃いに揃っていた。
所詮はカジノの備品だと思っていた魏だったが、自分の想像以上に充実する医療用のショーケースを目にし、若干ながらも感心した。
マフィアの幹部であった魏には当然ながら最低限の医療知識は備わっている。
薬品のショーケースをその場にあった懐中電灯で叩き割った魏は、数々の戦闘負った傷に応急処置を施していく。
(ここにある医療器具もおそらく今後の局面で役に立つかもしれませんね…
特にこの鎮痛剤は確保しておきたいところ)
魏は量こそ多くはないものの、1階の備品よろしく医療品を全てディバックに詰め込んだ。
大量に完備されていたビタミン剤を服用した魏は、救護室のベッドに寝そべり、今後の計画を練り始めた。
少なくともこの時、魏志軍はこのカジノこそが歴戦を勝ち抜いて来た対主催者達の集合場所となっていた事など知る由もない。
【H-7/カジノ2階救護室/1日目/午前】
【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:疲労(大・回復中)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ:中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕
[装備]:
DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(
セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(
星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・
比企谷八幡・
プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(
蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(星空凛の支給品)、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:まずは全身の疲労を回復させる。万が一、休養中に攻撃を受けた場合はあらかじめセットした水源にシャンバラで移動する。
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、少なくとも休養中の現在は消耗の激しい戦闘は絶対に避ける。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、
ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で
槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※閃光を放ったのは誰かは知りません。
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
最終更新:2015年12月10日 00:28