112
パラサイト・イブ ◆rZaHwmWD7k
乗用車並みのスピードで大地を駆ける一人の―否、一匹の獣。
最強のパラサイト“だった”その獣の名は、後藤と言った。
だが、今は違う。
かつてMI6最高のエージェントと呼ばれた契約者の策によってその半身はもがれた。
故に今の後藤は五頭/五統には成りえない。
(たかが半身の一部をもぎ取られた程度でッ、あの有様とはな…)
駆ける後藤の脳裏を過るは、研究所に離脱する際行った、自身の性能テスト。
内容は以前暴力団を襲撃した時とさほど変わりは無い、その対象が人間からコンクリート製の柱に変わっただけだ。
本来ならば鉄すら易々と両断する硬質化した寄生生物の刃。
しかし、寄生生物一匹の半分ほどの質量では、全力の斬撃を幾度か繰り返しようやくコンクリート製の柱を両断できると言った所だった。
(足りんな…やはり実質的な隻腕ではプロテクターの隙間は広がり、バランスも狂う)
それでも人間の柔肌を引き裂くには余分な威力を秘めているし、今なお三体の寄生生物を総べる後藤を仕留められる者は少ないだろう。
しかし、それでは、その程度の強さでは後藤の求める『最強』には程遠い。
きっと今の後藤の表情を表すならば「失望」「怒り」と人は呼ぶだろう。
異能者とは言え、人間の策に嵌り戦闘力を大きく低下させた自身への失望。
そして、この種を食い殺せと言う命令が寄り集まった結果、生まれた人間の憎悪からくる怒り。
それらの感情は混ざり合い、さらなる強さと闘争のへの渇望を齎す起爆剤となる。
(あの銃…あれはあの男の能力では無いとすれば、あの一丁で打ち止め、とはいかないかもしれんな)
ショットガンの制圧射撃すらものともしないプロテクターの装甲を貫き右腕を消し飛ばした異形の銃。
次にあの銃を装備した相手と戦う際は発射までの微妙なタイムラグの内に回避か、殲滅に移る必要がある。
どちらの行動を選択するにせよ、あの黒い銃を装備した敵は、優先的な抹殺対象に定める事に決め、思考を切り替えた。
「―――
田村玲子がいるとすれば、やはり音ノ木坂学園か」
田村玲子がまだ“田宮良子”だった頃に
泉新一の高校に教諭として潜伏していた事は後藤も知っている。
さらに、人間の子どもの出産後は度々同種の会議を欠席して大学に足を運び、講義を受けていた事も広川の口から以前聞いたことがある。
ならば、このバトルロワイアルでも教育施設を目指す可能性は高いと後藤は踏んでいた。
方角も南に位置しており、
DIOから与えられた情報と合致する。
何故田村玲子が学校と言う場所にそこまでの価値を見出したかは理解できないし、するつもりもないが、貴重な手掛かりは活用しなければならない。
何しろ、田村玲子と泉新一の両名が死んでしまえば後藤が再び完全体になるための道は閉ざされるのだから。
並み居る異能者達に勝利するためには後藤は『最強』の生物であり、生物種の、生物種の頂点で居なければならない。
田村玲子も泉新一も寄生生物としての力を秘めているが、この場所ではそれは絶対のアドバンテージになりはしない。
2人が自分以外の誰かに殺される前に何としてでも片方だけでも喰らわなければならないのだ。
「誰にも邪魔はさせん。待っていろ泉新一、田村玲子…」
田村玲子は後藤にとっても決して侮れない相手だ。
単純なスペックの差で言えば、単体の寄生生物である田村玲子に勝機は万に一つもないだろう。
しかし、田村玲子にはそれを補って余りある高い知能がある。
その頭脳をもってして、万に一つの勝機を見いだすかもしれない。
それを越えて見せてこそ最強のパラサイトであることの証明であり、さらなる高みに至る事ができる。
後藤は、地位も、経歴も、出自も、人種も、性別も、名も何も必要としない。
求めるモノはただ強さと殺戮だけだ。
誰にも縛られず、やがて命が終わるまで、後藤は闘う事を止めない。
そんな彼を縛ることが出来るものが居るとするのならば、
それはみんなの未来を守らねばと、ふと思った“誰か”だけだろう。
▽
研究所を出発してしばらくした後、後藤は初めて走る速度を緩めた。
休息を取るためではない、
現在位置の確認のためだ。
その時、先ほどまでとは違い、ディパックからデバイスを取り出し難くなっているのに軽い苛立ちを覚え、仕方なく立ち止まる。
後藤に利き腕の概念は無いが、思えば人間として広川の傍らで行動している時は右腕を、三木を使う事が多かったかもしれない。
「……」
そんな事を思いながら細くなった触手を器用に使い、デバイスの地図機能を使用する。
現在位置はG-4の丁度中央の辺り、時間を考えれば驚異的な速度だった。
闘いになる事を考慮してある程度スピードを落としても放送前には学園にたどり着くだろう。
スピードこそすれ数刻前と比べれば落ちているが、現在とでは身に纏う気迫が違う。
今の後藤はまさしく鬼気迫る手負いの獣だった。
このまま直線に進めば学園にたどり着く。
田村玲子が学園に居るとするならば、戦いは近いだろう。
デバイスをディパックに放り込み、再び走り出す。
速度を上げながら右腕を一瞥する。
「三木、お前は最期まで俺の右腕でしかなかったが、分相応の働きはした―――精々休め。
戦いは俺が続ける」
誰の耳にも届く事の無い後藤の呟き。
本来人間が言う死者への弔いと言う感情は寄生生物には存在しない。
この言葉も後藤にとって新たな右腕を手に入れる前の“区切り”でしかない。
だが、この場所に連れてこられる前の後藤ならば恐らくこんな言葉はいうことは無かっただろう。
闘いこそが存在意義である後藤も、このバトルロワイアルを通して変化しつつあるのかもしれない。
それは進化なのかそれとも―――、
【G-4/1日目/午前】
【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、全身を焼かれた跡、疲労(大)、ダメージ(大) 、寄生生物一体分を欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品0~1、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:南に向かい田村怜子を探し取り込んだ後DIOを殺す
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※寄生生物一体を欠損した影響で両腕から作り出せる刃の数が2つに減って全身のプロテクターの隙間も広がっています。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
最終更新:2015年10月19日 01:39