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No brand people ◆BLovELiVE.


全身が痛い。
ブラッドレイに殴られ、斬られた場所だろう。
いや、もしかしたら後藤にやられた場所もあるのかもしれない。
何しろあれだけの戦いだ。
少し傷が開いたようにも感じられる。

(…俺は……)

まるで担がれているかのように体が定期的に揺れるのを感じる。
いや、担がれているのか。


何か、大変なことがあったような気がする。
虚ろな意識のフワフワした感覚の中で頭を働かせる。

確か、ブラッドレイと戦い。
――――が撃たれ。
マスタングが連れ去られて、取り返そうとしたところを吹き飛ばされた。


撃たれたのは誰だ?
力なく奈落の底に落ちていったのは誰だ?

俺は、誰の手を掴もうとしたんだっけ?


「…――――――セリュー!!」

その名を思い出した時、ウェイブの意識は覚醒した。


未央はひたすらに走り続けた。
行方が知れなくなったプロデューサーを探して。

凛が死んだということからも、プロデューサーが死んだかもしれないということからも逃げるように。
心のどこかでは分かっていたはずなのに、そう思っていないと自分の中の何かが壊れてしまいそうだったから。


プロデューサー…、どこ…、どこなの…?)

走り続ける未央、その耳にふと届いたのは激しい爆発音だった。

アクション映画でよく聞くような爆弾やミサイルのようなものでも爆発したかのような轟音。
そしてそれが響いた辺りの場所からは黒い煙が立ち込めている。

反対方向に逃げてきたが、もしかしたらあそこにプロデューサーがいるんじゃないか。
そう考えたらいてもたってもいられなくて、思わず駆け出していた。
その爆発の元が一体何なのか、誰がやったのか、もしかしたら危険じゃないのか。
そんなことは完全に頭から離れていた。

急いで走りだす未央。

何か揉めるような声が聞こえ、視線の先に映ったのは顔は見えないが黒いスーツを着た男、そして彼に掴みかかろうとする見たことのないもう一人の男。

(―――プロデューサー…!!)

瞬時にプロデューサーだと判断した未央は、バッグの中に入っていた一本のバットを取り出し。

プロデューサーから離れろおおおおおおお!!!」

駆け寄りながらそれを思い切り、掴みかかる男に向けて振り下ろした。


「あの、穂乃果ちゃんと白井さんは大丈夫だったんですか…?」
「ああ。精神的に疲労してはいるようで白井黒子は意識を失っていたが少なくともブラッドレイに襲われた、などということはなかったようだ」
「そうですか…、よかった……」

ウェイブを抱えた狡噛の後ろを体を縮こまらせながらも歩む花陽。
狡噛の答えにほっと胸をなで下ろしているが、あまり精神状態が優れているとはいえなかった。

目の前で命を落とした島村卯月由比ヶ浜結衣、そしてセリュー・ユビキタス
銃で撃ち抜かれる卯月の体と一瞬でその体を粉砕された結衣の姿がどうしても脳裏から離れることはなかったし。

セリューに対しても決して好印象を抱いていることなどなかったが、それでも死んだという事実を目の当たりにした花陽の心には重く伸し掛かってくるものがあった。

ブラッドレイに連れ去られたマスタングのことも気がかりではあったが、ブラッドレイという男はセリュー・ユビキタスに比べれば花陽の中ではそう警戒心はなかった。
だから、任せても大丈夫なんじゃないかという気持ちも残っていたのだ。

そんな時、狡噛は花陽に問いかけた。

「そういえば、あそこにいた時に君が聞いた情報について教えてもらってもいいか?覚えてる範囲で構わない」
「えっと…、どこから話したら…」

記憶を辿りつつ、花陽が口を開こうとしたその時だった。


「―――――セリュー!!」

突如大声と共に抱えられていたウェイブが起き上がったのは。

抱えられていたことに気付いたウェイブはそのままその手を振りほどき、立ち上がって警戒態勢を取ろうと後退し。
しかし目覚めていきなりの運動に体をふらつかせる。

「…っ、痛っ」
「無理をするな。怪我人が寝起きで激しく動くと体に悪いぞ」
「……あんたは?」
「俺は狡噛慎也。ただの刑事だ。
 高坂穂乃果に頼まれてな、小泉花陽とロイ・マスタングを助けにきただけだ。
 最も、ロイ・マスタングの方はキング・ブラッドレイに連れて行かれてしまったようだが」

表情を変えることなくそう告げる狡噛。
穂乃果の名前を出されたことで警戒心を解くウェイブだが、その脳裏にふと嫌な可能性が浮かんできた。

「……まさか、セリューを撃ったのは」
「ああ、俺だ」
「――――――ッ!」

セリューを撃った。
その告白に思わず頭に血が上り、襟元を掴み上げるウェイブ

ウェイブさん!?」
「…………」
「どうした、殴らないのか?」

そのまま狡噛を睨みつけたまま動かなくなったウェイブ
掴まれた側の狡噛はそれで尚も静かな瞳でウェイブを見つめたままじっとしている。

「分かってる、俺だって分かってるよ…!
 あいつを死なせたのはアンタじゃない、あいつを止められなかった俺なんだってことぐらい…!」

絞りだすように、震える声を出すウェイブ

そう、あの時自分が穂乃果を追っていれば、何があったかは知らないとはいえセリューが穂乃果を悪とすることも、その事実とも嘘ともつかない情報に踊らされることはなかっただろう。
マスタングの疑いにもう少し深く考えられていれば、セリューを戒めることもできただろう。

セリューだけではない。
結衣や卯月が死んだのも、その嘘が巡り巡った末の結果だ。

だから、自分にセリューのことを責める資格はないのかもしれない。

「だけど、それでもあいつは、俺の仲間だったんだよ…!」

だが、理性では分かっていても溢れ出る感情まではどうしようもなかった。

ウェイブさん…」

そのまま震える手で狡噛を睨み続けるウェイブ

その時、こちらに向かって走り寄る足音のようなものを狡噛は捉えていた。
ウェイブは自身の感情をどうにかすることが精一杯なのか聞こえている様子がない。

プロデューサーから、離れろおおおおおおお!!!」

ウェイブの後ろから何かを振り上げる少女の姿が見えたその時、狡噛はウェイブの体を思い切り突き飛ばした。
ようやく耳に届いた声に力が緩んだ瞬間だったこともあってあっさりと後ろに下がるウェイブの体。
それは少女の体へと衝突し、手が振り上げられた態勢のまま倒れ込んだ。

「ぐぇっ……」
「落ち着け、本田未央。この男は安全だ」
「…あ、……狡噛、さん…」

と、狡噛はその手を振り上げていた少女・本田未央に目を向け。
同時に狡噛の姿を見た未央は落ち着きを取り戻したように名前を呟く。

「何があった?タスク達と共に図書館で待ち合わせをしているはずじゃなかったか?」
「その…プロデューサーが、プロデューサーが…!」

しかしすぐにまた焦るように口を走らせる未央。
ウェイブから抜けだした未央は、慌てるように走りだそうとして。

「未央!!」

その向こう側から走ってきた二人の人間に名前を呼ばれて足を止めた。

学生服を纏った少女に肩を貸されるようにして早歩きで歩く男。
狡噛は先ほど図書館にて遭遇した相手であるためその男が誰なのかは知っている。

「よかった…、間に合った……」
「ぜぇ、ぜぇ、痛みがぶり返されたというのは分かりますが、それでもキツイですわね……」
「その、すまない、婚后さん。ありがとう」

肩から降ろされた男、タスクは少し歩き辛そうに不安定な歩幅を進めつつ未央の元に寄る。

「何があった?」
「図書館で襲撃を受けまして、どうにか皆で追い払うことには成功したんですが。
 ただ、未央のプロデューサーって人が支給品の効果でいなくなってしまって…」
タスクプロデューサーは?ねえ、プロデューサーはいなかったの?!」
「…残念だけど、俺達は君を追いかけてくるので精一杯で。さっきすごい爆発が聞こえてきたから、そっちの方には行ってないだろうと思ってこっちに向かってきたけど」
「そんな……」

顔から血の気を引かせる未央。
その瞳には絶望の色が見えていた。

「…プロデューサー……?もしかして346プロってところの、島村卯月ちゃんと同じ…?」
「…!しまむーを知ってるの?!」

そんな時にふと、プロデューサーという単語に反応して花陽が呟く。
その呼ばれた名に反応した未央は、目にわずかに希望の光を取り戻したかのように顔をあげて花陽に迫る。

「教えて!しまむーは、しまむーはどこなの?!」
「えっと、その……」

その様子に思わずたじろぐ花陽。

花陽は目の前で卯月が銃で撃たれるところを見ていた。
今の未央に対してその事実を伝えることはどうしても躊躇われていた。

「…そうだな、積もる話もあるだろう。ここは一旦情報交換としないか?」

その花陽の沈黙の意味を察した狡噛は場の空気を入れ替えるかのようにそう言った。

「じゃあ図書館に戻ろう。残してきた皆が心配だ」
「…!待ってよ、プロデューサーはまだ見つかってないんだよ…!?」
「これ以上探しまわっても疲れるだけですわ。きっとプロデューサーさんの方から戻ってきてくれるはず…」

生きていれば、と口にしかけたが飲み込む光子。

「それまで待てないよ!もし危ない目に会ってたら…!」
「……未央、プロデューサーさんはもう―――」

これ以上は、と言いかけたところだった。

「いけません!!」

そこに声が響き渡って、タスクの言いかけた言葉を遮る。
その大声を上げたのはその場にいた誰もが予想していなかった人物だった。

「アイドルにとってプロデューサーとは仕事上の繋がり以上の人間、ステージ、衣装、スケジュールなどを支えることで夢を、アイドルとしての生を守っていく存在!
 いわば上司でありながら父であり友であり、アイドルを輝かせる光!!
 プロデューサー無くしてはアイドルは輝くことができない、未央ちゃんのようなアイドルにとってプロデューサーは決して欠けてはならないものなんですよ!?」
「…花陽……?」

今まで見たこともないような剣幕でまくし立てる花陽の姿に、思わず唖然として呟くウェイブ
それまで気弱そうだった少女の突然の豹変にその場にいた皆が一様にして驚いていた。

「…はっ…!そ、その、すみません」

その空気に気付いた花陽は正気に戻ったように顔を赤面させて縮こまっていく。

未央の姿、そしてプロデューサーという単語から今の彼女の考えていること、状況を思った時、どうしても我慢することができなかった。
状況は分からないとはいえ、なんとなく確信がないのに未央に対してプロデューサーという存在のことを諦めろと言っているように感じ取れたから。

ただ、言葉自体は無意識に近いものだったが。

「………ぷふっ」

そして、その姿を間近で見ていた未央は思わず吹き出していた。

「あ、ハハハハハハハハハハ!!」
「わ、笑わないでください…」

ますます体を萎縮させる花陽に対して、未央は笑い続ける。
ショック療法のようなものなのだろうが、その様子に少しだけ未央の雰囲気が晴れたようにも感じられた。

「…何だったんだ?」
「ま、まあ彼女も落ち着いたようですし、一旦図書館に戻りませんこと?」
「いや、俺達は別で向かう場所がある。問題がないならここで済ませてもらっても構わないか?」
「分かりました。…じゃあ光子さん、後のことは頼んでもいいか?」
「え、構いませんけど…タスクさんはどこかに向かわれるんですの?」
「俺はもう少しこの周囲だけでも探してみようと思う。だから30分後くらいにまた図書館で会おう」

どうやら、タスクには花陽が言わんとしたことは伝わったようだった。

未央へと歩み寄り、ポンとその肩に手を置いて。
そのまま一同から離れようとするタスクに気付いた未央が声を上げる。

「あ、待って!それなら私も―――」
「君は皆と一緒に待っていてくれ。その方が安全だ。
 大丈夫、俺なら少しくらい危なそうな目にあっても生き延びる自信があるから」

タスクは未央に向けてそれだけを伝えて、走り去っていった。



「アイドルにとって上司であり友であり父、か……」

ふとタスクは花陽の言葉を呟く。


親。それはかつて自分がエンブリヲとの戦いの果てに失ったものだ。
友も今でこそヒルダやヴィヴィアンのような皆がいるが、それもアンジュに出会ってから巡り会えたもの。
だからそれらを失う心細さというものはタスクは身を持って理解していた。

きっと、あのプロデューサーはもう生きてはいないだろう。
それはタスク自身よく分かっていた。
だからこの行動自体意味のあるものではないのかもしれない。

だけど、それでもあの少女は自分やアンジュ、他の皆のような戦士とは違う、大切な人と死に別れるなんてこととは無縁に生きるべき子だ。
だから一縷の希望でも捨てるべきではないと、できる限りのことはしてやりたいと、そう思っていた。

それに、もし図書館に近付く危険人物がいるならばこちらで先んじて止めることもできるだろう。


走りだしたタスク
しかし、彼は知らない。
図書館に潜む者のこと、そしてタスクの進む方向とは反対方向から迫る、一つの脅威の存在に。


【D-5/一日目/午前】

タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:プロデューサーを探す
1:アンジュを探す。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイとの合流は……。
5:セリムはブラッドレイの息子らしいが……。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。





「さて、どこから話したものでしょうか…、あ、そうだ。お名前から伺わせていただいても?
 私は婚后光子、学園都市のレベル4にして常盤台中学二年生ですわ」
「常盤台のレベル4?もしかして白井さんとは」
「あら、彼女と会われていたんですのね」
「色々あって離れちまったがな。まあ向かったらしい場所は知ってる。今も無事なことを祈るしかねえ」


光子の自己紹介に次いで狡噛、花陽が自身の名前を名乗っていく。
そこで花陽が名乗った時、光子が反応を示した。

「あなた、もしかして星空凛さんの…」
「凛ちゃん?凛ちゃんを知ってるんですか?!」

光子の口から出た名に思わず声を上げる花陽。
その様子に、光子は辛そうな表情をしながら彼女の最期を告げた。
短い期間だが共に行動し、その最期を見た者として。

「そう…ですか……」
「後藤…やっぱりあいつが…!クソ、少し無理してでもあそこでぶっ倒しておけば…!」

あの時に凛の声を使ったのはそういうことだったのだともっと早く意識しておけばよかった。
そうウェイブは後悔する。


そして、最後にウェイブが名乗る番となった。
しかし、

「ああ、そうか、俺が最後だな。俺はウェイブ
 帝都特殊警察、イェーガーズの一人だ」
「……イェーガーズ…?!」

その名を聞いた時、光子の顔に警戒の色が露出した。

「おい、どうした」
「…………………」

問いかけるウェイブの質問にも答えない。どころか、同時に未央もまたウェイブから離れた。
光子はそんな未央を庇うように前に出つつも体をジリジリと後ろに下がらせる。
靴が地面を擦る音が空気を小さく振動させる。

「落ち着け、婚后光子本田未央
「だ、大丈夫ですよ!ウェイブさんは悪い人じゃないです!」

その様子の意味を、図書館の前に晒されていたものを思い出して察した狡噛が嗜め、同時に花陽がウェイブに対する警戒を解こうとする。
戸惑うのはウェイブただ一人。

「こいつは安全だ。少なくともアレをやったやつよりは遥かにマシなやつだろうってのは俺と小泉花陽が保証する」
「…信じても、よろしいのですわね?」

狡噛と花陽の言葉を信じて警戒を解く二人。
見に覚えのないことに困惑するウェイブに対し、何があったのかを狡噛が説明した。

「図書館の前にさらし首が……?」
「それをやったのはセリュー、だろうな」

その事実に案外動揺するかとも思っていたが、ウェイブは思いの外冷静だった。

さらし首になっていたという男に覚えはある。
由比ヶ浜結衣がここにきてすぐに襲われたという暴漢のことだろう。
不慮の事態で死なせてしまったその男をセリューが見つけ、図書館の前に晒したのだろうとウェイブは推測した。

「…お前、その行動の意味が分かっていないのか?」
「どういうことだよ?そいつは結衣を襲ったやつなんだろ?なら仕方ねえじゃねえか」
「確かにそいつが殺されたこと自体は話を聞く限りは正当防衛に違いないだろう。
 だがその首を晒したらそれを見た者はどう思うのか分からないのか?」
「確かに見ていいものじゃないかもしれないけどよ、…でも帝都じゃ珍しいことじゃなかったんだぜ?」
「……………」

狡噛はここにきてようやくこのウェイブという男、いや、彼の生きてきた世界というものを理解した。
シビュラシステムの存在しない世界があり、超能力者を育成する学園都市なる世界があり、契約者という異能を持った者がいる世界がある。
おそらくはこの男の生きてきた世界はそういうことが許される世界だったのだろう。
罪人に対する見せしめという行為が許されているという。

それも治安維持組織を称した者がそれを認めている、となると国そのものがかなりきな臭い。

本来見せしめという行為の意味は反抗する者に対する警告のような意味合いも持つ。
つまりはそれだけのことをしなければ治世が維持できない国、ということでもある。

セリュー・ユビキタスのあの歪みも納得だな…)

「いいか、ここはお前のいた世界のようにイェーガーズとやらの組織に対する後ろ盾がある世界じゃない。
 そんな場所であんな名前と一緒に首を晒すなんてことをしてみろ。イェーガーズという者に対してどんな印象を与えることになるか分からないのか?」
「…それは………」
「どうして高坂穂乃果があの場から逃げ出したのか、それも分かりきってないんじゃないか?」
「…………」

ウェイブは口を噤む。

やはり懸念していた通りのようだった。



その後は、光子はまず図書館に集まっている面々についての情報を話した。
自分やタスク本田未央を始めとして泉新一、雪ノ下雪乃セリム・ブラッドレイ、そしてアカメ

アカメの名を聞いた時のウェイブの表情は険しいものだった。

「…なあ、アンタ達は知らないんだろうから警告させてもらいたいんだが。
 そのアカメってやつは、帝都の平和を乱してる賊で―――」
「ナイトレイド、と言われる暗殺部隊なのですわよね。それはお伺いしておりますわ」
「な、アンタ達それを分かった上で一緒に行動してるのかよ?!」
「ええ、あの方そんな悪いお人には見えませんでしたし。確かに少し過激なところは見受けられましたが…」

光子の脳裏に浮かぶのは御坂美琴を殺すと言ったあの時の顔。
しかしそれさえ除けば悪い人ではないと思っていた。

「あの方は確かに暗殺者という罪人だとは伺っていますがそれにも理由があってのこととお聞きしていますし。
 少なくとも私達に対して害を成す者ではないと判断できましたもの」
「理由って何だよ!帝都の治安を乱すことを許される理由があるのかよ…!」
「その帝都の治安自体、ずいぶんと腐敗している、と伺っていますが」

横行する富裕層や政治家達による民への狼藉、しかし決して法は彼らを裁かない。
だからこそ、そんな者達に対して裁きを与えるために行動しているのだ、と。

「お前、そんなこと信じるのかよ!相手は罪人だぞ!」
「はい。少なくとも自らの罪を隠すことなく明かしてくれた方ですもの。
 それに……」

と、光子は目を伏せて、思い出したくないことを考えるようにしてそれを口にした。

「…私、一度そのイェーガーズの方に襲われていますの。さらし首の件といい、アカメさんよりもあなた達のいうイェーガーズの方が信用しかねますわ」
「襲われた…?イェーガーズにそんなやつは……」

おそらくイェーガーズの名を騙る何者か、おそらくはエンヴィー達のような者のしわざか、とウェイブは思おうとした。

「確かクロメ、というお方でしたかしら」
クロメ…!?嘘を言うな!あいつがそんなことを―――」
「本当ですわ!まるで薬物中毒者のように襲いかかってきて…。
 その後白服の男の手にかかったみたいで、私はその隙にどうにか逃げることができたのですが…」

白い服の男。
それはウェイブも会った他ならぬクロメの仇、キンブリーだろう。

否定したかった。しかしキンブリーが殺したということを知っている彼女の証言に間違いがあるとは考えられないこともウェイブ自身が分かっていた。
嘘にしてはその部分以外の状況が合致しすぎている。


「クソ…!どうなってんだよ…!」

ウェイブは混乱し、心の内に強い迷いを生み出す。

しかし狡噛はそんなウェイブの迷いが晴れることを待ってはくれない。
光子との情報交換を進め続けた。

泉新一という男が言っていた情報。
比企谷八幡――結衣の友人の最期。
彼は襲ってきたエルフ耳の男の攻撃からその場にいた皆を庇って命を落としたらしい。

セリューはこれを、八幡を泉新一が盾にしたのだと言っていた。


音ノ木坂学院で起こった出来事。
サリアという女がアンジュという女との諍いの果てに暴走し、持っていた武器でその場にいた皆を攻撃し。
結果、泉新一を始めとするその場にいた皆を巴マミ、そして園田海未が守って命を落とした。

セリューはこれに対し、アンジュとその仲間である巴マミという女はサリアを襲った悪だ、と判断していた。



「海未ちゃん……」

知ることができた、一人の仲間の死の真実に花陽は小さく身を震わせた。
凶行に走ってしまったことりを知ってしまい不安だったのだ。他の皆が同じような道に走ってしまったのではないか、と。

だけど海未、そして凛は最期まで自分の知る二人ではあった。

「その、音ノ木坂学院には真姫ちゃんもいたんですよね…。怪我とかはしてなかったか、聞いてないですか…?」
「…ご友人の死に塞ぎこんでいるとはお聞きしていますが、特に怪我をなされたとは聞いておりませんわ。おそらく無事なのではないでしょうか」
「そうですか…、よかった…」

そして、せめて一人の友人の無事を確認することができた。
それだけが花陽にとっては幸いだった。



「待てよ、それが全部本当のことだって言えるのかよ…?」

しかし、ウェイブはそれでも光子の言うことに対して疑いの言葉を投げていた。
先ほどと同じ、しかしその言葉には力がなかった。

それは彼女を本心から疑って、というわけではない。
ただ、自分の仲間であったセリューのことを信じたい、その一心だった。

「全て伝聞ではありますが、しかし私人を見る目にはそれなりに自信がありますの。
 泉新一さんは少なくとも嘘をつくような方には見えませんでしたわ」
「だけど……!」



確かに思い込みが激しく、時としてずれてしまったことを言い過激な道に走りがちではあったが、それでも。
死して尚も、まるでブラッドレイに言われた時のように彼女の名誉を傷つけられるのは―――――

(――――あ…)

そこでウェイブは思い至った。

死者の首をひと目に触れるところに晒すことの意味。

セリューが穂乃果の友人、ことりに対して行った行動に対する穂乃果の思い。
それに対して、彼女や花陽がどれほど傷付いたのか。


(…やっぱり、何も分かってなかったんだな、俺……)

そんな者に、セリューの嘘が見抜けるはずなどなかったのだ。



「…ねえ、どういうこと?!しまむーが死んだって…?!」

そうしてこちらから情報を明かすこととなり。
花陽が容量をつかめないながらも一生懸命、説明しづらいことも言葉を詰まらせながら全て説明した。

彼女にはウェイブのように状況に応じて言うべきことを言い分けるような器用さはなかったため必然的にそれまでのこと全てを話すこととなってしまっていた。
無論、その中には本田未央と同じアイドルグループに所属していたという島村卯月の死の情報も含まれていた。


彼女が死んだという情報もそうだが、その時の状況自体が未央からしてみれば何を言っているのか分からないほどだった。
キング・ブラッドレイが渋谷凛の死の状況、エンブリヲの手にかかったことを伝えた時に彼女はセリューが嘘をつくはずがないと言って信じなかったという。
エンブリヲに殺された、という事実も衝撃ではあったが実際に彼に遭遇し危険な目にあった未央からすればそれは決してありえないという話ではない。
何が彼女にそう判断させたのか。

その後は錯乱しているかのようにセリューを殺そうとする結衣から庇い、銃撃を受けて命を落とした。
その結衣も直後にセリューの手にかかったという。

未央からすればわけが分からなかった。
人の生首を晒すような人間を、どうして卯月がかばったのか。
何が彼女をそうさせたのか。


「…悪いのは俺だ。俺がセリューが言った嘘を見過ごしてたから……。セリューに依存してた卯月に、何もしてやれなかったから…」


一つ一つが決定的だったわけではない。
ただ、それが最悪の形で繋がってしまったのがあの時だった。

「何で、何でよ!!何でしまむーが……、何で……」

ウェイブの胸を叩きながら責める未央。
特に強く殴られているというわけではないはずなのに、それが胸を打つたびに強い痛みをウェイブは感じていた。
体ではなく、心に。

「未央ちゃん、…その」

そんなウェイブが責められる姿を見ていた花陽は、小さく未央に呼びかけた。

「ごめんなさい!」
「え…?」

予想外のところから放たれた謝罪の言葉に、未央のウェイブを責めていた動きが止まる。

「私もよく分かってるわけじゃないけど、でもきっと卯月ちゃんがおかしくなっちゃったのは、私達のμ'sのメンバーのことりちゃんのせいかもしれなくて…。
 ことりちゃんが人を殺そうとして、それが原因でセリューさんに殺されちゃって…、もし卯月ちゃんがおかしくなったんだとしたらそのせいかもしれないから…。
 だから、同じμ'sのメンバーとして、その…ごめんなさい…!」

ことりちゃんが何を考えていたのか分からないけど、でも人殺しをしようとしたことは間違いなくて。
そのせいで傷付いておかしくなった人がいるのも事実で。
確かにセリューさんがその原因だったとしても、きっかけがそこだというのなら、背負わなければならないものだから。
だから目の前で一人責められるウェイブさんを助けるために、そしていつか穂乃果ちゃんや真姫ちゃん達がその事実から責を受けたりしないために。
せめて自分だけでも受け止めて、謝らないといけない。

そう思った花陽は、必死で未央に向かって頭を下げ続けた。

ウェイブさんの……セリューさんのせいだけじゃないの…、だから…」

そう泣きながら謝罪する花陽。
未央はそんな彼女を見て怒りが静かに引いていくのを感じていた。

ここで花陽を責めるのは簡単なことだ。
だがそれで本当に気が晴れるのだろうか。泣きながら頭を下げる彼女に向けて、このやりきれぬ思いをぶつけて。

もしかしたら自分が卯月のポジションにいた可能性だってある。
もし最初にタスクに救われていなければ、鳴上悠と会うことなくエンブリヲの襲撃を受けていれば。
死の恐怖、とは言わずとも何か大切なものを変えられていたかもしれない。
ただ、運がよかっただけなのだから。

そしてそれはウェイブに対しても同じことだろう。セリュー・ユビキタスに対する感情を彼にぶつけてもただの八つ当たりでしかないのではないか。

「…ごめん、私も周り見えてなかったみたい……」
「未央ちゃん……」
「守られてばっかりの私なんかに、みんなを責めたりする資格なんてないよね…」
「そんな事言ったら、私だって……」
「ごめん、ちょっと無理。少しだけ、…お願い……」

そうして一言花陽に謝罪した未央は。
その胸にすがりつくようにして、しばらく小さく肩を震わせていた。



「…………」
「悩んでいるのか?」
「当たり前だろ…!だけど、分かんねえんだよ…!俺だって俺なりのやり方で精一杯やってきた。
 だけど、それでも誰かを傷つけてばっかりで…」
「案外人生なんてそんなものだ。自分なりに考えて最善を尽くそうとしても、それがうまくいくとは限らないものだ。
 だが、お前はそのイェーガーズという組織に少し縛られすぎているんじゃないか?」
「………」
「お前が守りたいのは、そのイェーガーズや国なのか、それともお前が信じる正義、どっちなんだ?」
「…俺は」

いつだったかにある人物に問われたことに近いことを、狡噛はウェイブに投げかけた。

「あの…ウェイブさん」

今だ答えの出せぬウェイブに対し、ふと光子が手をあげて呼びかける。

「私、確かにイェーガーズは危険、とは伺っておりますがウェイブさん個人がそうとは聞いておりませんの。
 それに私の目から見ても、アカメさんとウェイブさんが悪い人とも思えませんし…」
「何が言いたいんだよ?」
「元の世界でどうだったかということを分からない私が言うのも厚かましいことかもしれませんが…。
 ずっと…とはいえませんがせめてこの場にいる間だけでも協力をする、ということはできませんの?」

それはウェイブが全く考えたことがなかったこと。

「無理に決まってんだろ。俺はイェーガーズであいつはナイトレイド…。」
「…ねえ、それってそんなに重要なの……?」

起き上がった未央は、ウェイブを見ながらそう問いかけた。

「だってさ、二人とも別に殺し合いやってるとかじゃないんだし、帰りたいって目的は一緒なんでしょ?
 だったら変にいがみ合うよりも、一緒に帰れるように協力とかってできないの?同じ人間なんでしょ?」
「……………」

同じ人間。

ナイトレイドとイェーガーズ。
片や帝都の平和を乱す暗殺者集団、片や帝都を守る治安維持部隊。
なればこそ倒さねばならぬ相手だ、とウェイブは思って戦い続けてきた。
そんなふうに考えたことなど一度もない。

そして今も。

(…それは本当に正しいのか?)

アカメは自分の素性を明かした上で信頼関係を築いている。
それが偽りのものであったとしたならば許すことはできないだろう。
だが、もし本心からであるものだったら?

以前だったら前者の判断で迷わなかっただろう。
しかしセリューの行動を振り返り、そして生きていた頃のクロメの行動を光子から聞き。
本当にこれまで通りの行動だけで、イェーガーズとしての使命を全うするだけの行動で正しいのか。
それが分からなくなってきてしまっていた。

そんな時、花陽がふと悩むウェイブに代わるように光子に問いかけた。


「光子さん…、凛ちゃんが庇ったっていう子、セリムって名前の…、その子ってまだ図書館にいるんですか?」
「ええ、もし何事もなければそのはずですわ」
「…狡噛さん、すみません。穂乃果ちゃん達のところに行く前に少し寄り道させてもらってもいいですか?」
「会いに行くのか?セリム・ブラッドレイに」
「待て、花陽!マスタングが言ってただろう!あいつは―――」
「分かってます!でも、もしかしたらって可能性もありますし、それに凛ちゃんが命を賭けて守ったっていう人だったら、私その子に会わないといけないと思うんです」

小さなころからずっと共に過ごした大切な幼馴染。
彼女が守ったという子は本当にマスタングの言っていたような倒さなければならない存在なのか。
そして、凛ちゃんはその子に何を残したのか。

それを確かめたかった。

「危ない橋だぞ?」
「大丈夫です。その子のことを確かめるだけですから」

その選択が危険なことは花陽自身がよく分かっていた。
だから自分の言葉が強がりなことも気付いている。
それでも、目を背けたくはなかった。


「だから、もしよかったら狡噛さんは穂乃果ちゃん達のところに行ってあげてください。
 音ノ木坂学院は、最初向かう場所だったんですよね?」
「…だったら俺も、図書館に一緒に行かせてくれ」

そこでウェイブは、花陽の選択に同意するようにそう言った。

「答えは出たのか?」
「…いや、正直まだ俺にもどうしたらいいのか、何が正しいのか分からねえ。
 セリューのことも、イェーガーズのことも、ナイトレイド…アカメのことも」
アカメさんと、戦うの?」

不安そうにそう問いかける未央。
それに対し、ウェイブは、

「いや、まずは話してみる。あいつが本当に俺の思ってたような悪いやつなのかどうかを」

迷いなく、自分の選択を口にした。

「もしそれで協力できるならそれに越したことはねえし、あいつがお前たちを騙して取り入ってるなら見過ごせねえ。
 それに、図書館にはマスタングや結衣の友達もいるんだろ?だったらやらなきゃいけねえことは山積みだ」

少なくとも連れ去られたマスタングを見捨ててはいけない。
それに、結衣の友人には説明しなければならない。彼女の最期を、下手人であるセリューの仲間として。

「俺もどうしたらいいのか分からなかったんだけどよ、花陽見てたら考えるよりも動いたほうがいいんじゃねえかって思えてきてな。
 だから、俺もまず確かめることから始めようと思う。俺自身の目で」

少なくともあの時の穂乃果の悲しみに気付けなかった今の自分に穂乃果の元に向かう資格はない。
彼女に会うならせめて自分の成すべきことをした上で、自分なりの答えを見つけてからにしたいと思った。

「だから光子、あんたは黒子のところに行ってやってくれねえか?」
「わ、私が?」
「様子見てりゃなんとなくだけど分かるよ。黒子があんまりいい状態じゃないって聞いてから何か落ち着いてなかったぞ?
 安心しろ、未央や図書館のやつらのことは俺が死なせねえ」
「…任せてもよろしいのですね?」

黒子が向かった場所、音ノ木坂学院。
光子の記憶では、美琴も東部のどこかにいたという。
つまり現状の情報でも東には黒子が存在し、美琴も最低でも彼女のいた痕跡が何かしらの形であるはず。

向かわぬ手はない。しかし図書館にいる皆を放って行くことも躊躇われていた。


「…分かりましたわ。皆のこと、よろしくお願いします」

ウェイブの言葉に、若干躊躇いつつも皆から離れるように、ゆっくりと立ち去っていった。



ブラッドレイの危険性について狡噛が詳細な説明をしなかったことには理由がある。

確かにブラッドレイ自体が危険な人間であるということは狡噛自身もはや疑ってはいない。
しかし一方であの男が何かをしでかすところを直接見たわけではない。
故にその危険性を説明しようとするならば自身の勘のようなものを共有できる相手でなければ通じないだろう。

実際あの戦いの場においても狡噛が到着したのはかなり後になってのことだ。何があったのかは伝聞でしか知らない以上語ることはできない。
意気消沈していたウェイブに変わり花陽が説明したはいいが、その中で大きく取り上げられた部分にブラッドレイが関わったことはそう多くはなかった。

島村卯月がおかしくなっていたこと。
由比ヶ浜結衣が殺されたこと。

そういった事象に関わっていたのはセリュー・ユビキタスがほとんどだ。ブラッドレイはそのセリュー・ユビキタスと戦おうとし、そして止めようとするウェイブと共に戦うこととなってしまった。
由比ヶ浜結衣が殺された後のことはウェイブも説明はしていたが、それでもおおまかにまとめてしまえばそんなところだ。ブラッドレイ自身が誰かを殺した、などという情報はない。
本田未央にとってはむしろ島村卯月が命を落とした、という情報の方に意識を奪われてしまうほどだったようだ。

セリュー・ユビキタスを殺しに行った、とウェイブは言っていたが現状の情報を聞くだけではブラッドレイに対する悪印象はほとんどないと言ってもいい。
あるとすればウェイブの語ったその男が自分達を襲ったホムンクルスの一員である、という一点くらいだろう。
あれだけのことをやってこうなのだとしたらこれは奴自身の幸運なのか、狙ってやってのことなのか。狙ってやっているのだとしたら全くもって強かなものだ。

そんな印象を持った相手に下手に警戒を促すようなことを言えば逆にこちらが疑われかねない。
そしてその様子がバレてしまった時逆に刺激して被害を大きくしてしまう可能性もある。
何か一つでも行動として疑わしいところを挙げることができればよかったのだが。

ブラッドレイと一度遭遇している未央、そしてセリムと同行していた光子。
この二人に対しブラッドレイの危険性を説くのは逆に危険だろう。
セリムの情報自体も花陽の友人が庇った相手、という手前ウェイブも気を使っているのか明確に話してはいない。

今にして思えばタスクにその事実を告げそびれてしまったのはミスだ。
もし彼に一言でも伝えておくことができれば少しはブラッドレイに対し目を光らせてくれたかもしれないが。



そしてこれを踏まえた上で。

(…どうするべきか、俺は)

高坂穂乃果の願いは小泉花陽、ロイ・マスタングを助け出すこと。
マスタング自身の安全が確保できているとは言いがたいものの、少なくとも小泉花陽は救助できた。
であれば当初の目的自体は達成した、というにはまだ中途半端なところだ。


小泉花陽自身は高坂穂乃果の力になることを望んでいる。
彼女はセリムの正体をマスタングから聞いている様子ではあり、その上で図書館に向かうと言っている。であれば彼女なりの覚悟があるのだろう。きっと止めることは難しい。
であれば2つを両立することはできない。

ではどうするべきか。ここで図書館に同行するか、それとも彼女の言うように音ノ木坂学院に向かうか。

ブラッドレイも図書館に向かうと言っていた以上、もういるかいずれはやってくることだろう。

あの化け物のような男を相手にどこまでできるかは分からないがこちらで目を光らせて図書館にいる人間に被害が出ることを減らすか。

だがウェイブはまだ迷ってはいるものの先ほどまでと比べれば何か吹っ切れた様子は見える。
この場で唯一ブラッドレイを警戒している彼に図書館の皆や小泉花陽を任せ音ノ木坂学院に向かい、こちらは外からブラッドレイに対する警戒を促すのも手かもしれない。



ここで狡噛はさらに別の要素を視野に入れて考える。

情報交換の中で出てきた、槙島聖護の名前。
音ノ木坂学院で暴れたサリアを、おそらくはけしかけたと思われるらしい。

奴が音ノ木坂学院、あるいはその周辺に今なおいるというならば、高坂穂乃果達の元に向かうべきだろう。
しかしその情報から既に数時間が経過している。既に移動している可能性も高い。
ならば奴が向かってくる場所はどこか、と言われれば当初の考察通り図書館だろう。

奴がどちらを選ぶだろうか。それが今自分がどちらを選ぶかの指針の一つとなる。

(考えろ、奴ならどう動く…?)

狡噛慎也の選択は―――――


「花陽ちゃんは強いよね…」
「えっ?」

ふと、未央がそう花陽に向けて呟いた。


「だってさ、もし私がしまむーとかしぶりんが人を殺した、とか言われても絶対に受け入れたりとかしないと思うし。
 正直しまむーのことだって、今もちょっと受け入れきれてないし……。
 なのに花陽ちゃん、友達のこと信じてなかったとか、そういう感じにも見えなかったのにちゃんと受け入れてたじゃん。
 だから、何か強いなって思って」
「そ、そんなことないよ…!私なんて…」

いきなりの褒め言葉に、謙遜するかのように慌てて手を振るう花陽。
そんな彼女の脳裏に、ふと遠い昔の記憶が蘇ってきた。

「そういえば昔、友達に似たようなこと言われたなぁ…。
 『私は逃げないから、どんな時も正面から立ち向かっていくから強い』って」

思い出して、そして心の中に悲しみもまた蘇ってくる。
だって、それを言ってくれた子はもういないのだから。

「そっか…、いい友達だね」
「うん」

「ねえ、未央ちゃん、卯月ちゃんとは一緒の、アイドルをやってたんだよね?」
「…うん、やって、たんだ」
「私もね、スクールアイドルっていう、部活をやっててアイドルにすごく興味があるの。
 私、一緒にいたのに卯月ちゃんのこと何も聞けなかったし、そういうのも含めて、話、聞かせてもらっていいかな?
 も、もちろん辛かったらいいの!ちょっと聞いてみたいなぁって思っただけで」
「ううん、大丈夫!聞きたいならなんでも聞いてくれていいんだよ!
 花陽ちゃん――――花…はな、はな…――かよっち!」
「ふぇ?」

若干空元気っぽさは残っているものの、それでも気力自体は大丈夫なように感じられていた未央。あるいはまだ気持ちの整理ができていないだけなのかもしれないが。
そんな彼女の口からいきなり飛び出した言葉に思わず抜けたような声を出してしまう花陽。

「ほら、だって花と陽でかよって読めなくもないじゃん。それに何か響きもいいし。
 だからさ、花陽ちゃんのことかよっちって呼んでもいい?」
「うん、大丈夫だよ」
「よし、せっかくだしかよっちがどんなことしてたのかも聞かせてもらっていいかな?」
「うん、いいよ」

本田未央小泉花陽
共に普通の少女であり、片やアイドル、片やスクールアイドル。
そんな二人は、図書館に到達するまでの間、他愛もない会話から小さな精神的な安息を得ていた。



(ナイトレイドと協力、か…)

それはこの場にきてから全く考えてもいないことだった。

だが実際この事態に反乱軍が関わっているかと言われれば可能性はかなり低いだろう。
事態は自分の知る帝具の範疇を越えたものだ。そんな力がやつらにあれば帝都はとうに落ちている。

それでもあいつらがこの場でも極悪非道な行為に身を染めている、ないしは人にいい顔をして騙しながら生き抜いている可能性を考えれば協力などできるはずがないと思っていた。
しかし実際はアカメは自分の素性を明かした上で、特に人を襲うような真似もしていなかったという。

果たしてそれはフェイクなのか、それとも素であるのか。
それを剣より先に言葉で見出さなければならないだろう。

そして、

(もしあいつがそれで問題ないようなやつだったら、この場だけでも協力、か…)

帝都であれば成立しなかっただろう協力関係。
しかしここにはイェーガーズの後ろ盾となる国はない。
自分達の評価に悪影響を与えかねないようなしがらみは今だけでも捨てる必要があるのかもしれない。


(全く、もしこんな俺を…)

特に意味があったわけでもない。
セリューが既に死んでいる今となっては。
だが。

(もしセリューがみたら一体何て言うんだろうな…)

正すことができなかった歪みを抱えた同僚に思いを馳せながら、そんな特に意味のない仮定をウェイブは頭の中で呟いていた。


ウェイブは知らない。
そのセリュー・ユビキタスはまだ死んでおらず、今向かおうとしている図書館に迫っているかもしれないということを。




【D-5東部/一日目/午前】

婚后光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中) 、腕に刺し傷
[装備]:扇子@とある科学の超電磁砲
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品2~1(確認済み、一つは実体刀剣類)
エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
1:御坂美琴白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、初春飾利との合流。
2:東部に向かい白井黒子御坂美琴を探す。(当面の目的は黒子の向かった音ノ木坂学院)
3:何故後藤は四人と言ったのか疑問。
4:後藤を警戒。
5:御坂さんと会ったら……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、鋼の錬金術師の世界観を知りました。
アカメ、新一、プロデューサーウェイブ達と情報交換しました。




ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、左肩に裂傷、左腕に裂傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0~4(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、ディバック(マスタング入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:図書館に向かい、アカメとの対話、結衣のことを雪ノ下雪乃に伝え、ブラッドレイからマスタングを助ける。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリュー…
6:今は穂乃果に会う資格がない
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。



小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
0: 図書館に行き、凛が庇ったというセリム・ブラッドレイと話したい。
1:その後音ノ木坂学院へ向かう。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や天城雪子、島村卯月、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。


本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:プロデューサータスクに任せ、図書館で彼が戻ってくるのを待つ。
1:しまむー…
[備考]
タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
プロデューサーは生きているかもしれないと考えています。
しかし情報交換や卯月のことを聞いて凛のことはもしかしたらということも考慮しています。
死そのものを受け入れられているかは不明です。
アカメ、新一、プロデューサーウェイブ達と情報交換しました。



狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(3/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:皆について図書館に向かうか、それとも音ノ木坂学院に向かうか。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイに警戒。 ただし下手に刺激することは避ける。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。



時系列順で読む
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100:正義執行 狡噛慎也 122:ここがいわゆる正念場
小泉花陽
ウェイブ
101:間違われた男 本田未央
タスク 128:Inevitabilis
婚后光子 119:調律者は人の夢を見ない…
最終更新:2021年05月02日 19:17