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I say... ◆12UGzMfJS2


――――それは旋律だった。
指が踊り、その無機質で単調な音は連なることでひとつの調べを生み出す。
用途は違えど、それは鍵盤を叩く楽器のものと、大差はないだろう。
「どう? 使える?」
ディスプレイを覗き込む真姫の声に、
「いけます。インターフェイスは少し古いですけど、ユーザビリティにそれほど違いはありませんので」
「そ、そう」
何それ意味わかんない。口には出さないが、そんな表情の真姫である。
そんな2人を眺めていた田村は部屋を見回す。
μ's部室――――いや、アイドル研究部だったか?――――あたり一面には美少女と呼ぶべき女子のポスターやらグッズやら……。

数分前のこと――――。

「……そういえば案内もしてなかったわね」
ここを去ると決めた時、不意に真姫が口にした。
失礼でもあるし、せっかくだから、何かのヒントになるかもしれない……そんなニュアンスで、彼女は2人に母校を紹介した。
今まで守られてばかりの自分――彼女なりに、役に立とうと思ってのことだろう。そう察した2人に断る道理はなかった。
しかし廃校寸前までいった学校に目新しいものはなく、どれも普通の――といっても田村の認識は経験よりも知識が主であるが――設備であった。

最後に紹介されたこの部室、その奥にあるコンピュータに初春は目を引かれた。

「…………」
「もう一度試す気になった?」
「そうですね」
田村の問いに初春は頷く。
「闘技場に行ったらしばらく触れなくなりますし、チャンスはもう」
そこまで言って、小さな唇は閉じてしまう。
これから先、コンピュータのある施設に行ける可能性、
そしてなにより……。

自分が生きている可能性……。

「いいですか?」
「構わないけど……」
真姫の許しを得た初春は、その筐体に手を伸ばす。

――――それが数分前のこと。


「でも不思議ですね」
「え?」
「インターフェイス……ハードウェアは旧式なのに、中のソフトウェアは私達が使っているものと遜色ないんですから。定期的にアップグレードしているんですか?」
「う゛ぇえ? そういうのはちょっと……にこちゃ……先輩の私物だから」
でも、と真姫は付け加えて、
「その人そういうことには詳しくないっていうか、あんまり興味ないと思う。そっちにお金使うくらいなら別のものに……」
真姫の視線は部屋中のアイドルグッズをさまよう。
「うーん。なおさら不思議ですね。このヘッドセットやマイクも高級品ですよね、これ」
デスクの隅に無造作に置いてあるそれらに初春は目を向ける。
「そっちなんて部室にあったかどうかも。……そもそもどうしてここ片付いてないのよ。にこちゃん持って帰ったんじゃなかったの?」
真姫は顎に指を添えてぶつぶつ呟いた。どうも、自分の記憶にある部室とは少し違うらしい。
「そうですか。やっぱり不思議ですね」
初春はコンピュータに向き直り、再び作業を始める。

「これがあなたの言っていたμ's?」
「あ……」
手持ち無沙汰な田村が手近なファイルを手にとっていた。
そこには全国大会の『ラブライブ!』で優勝した時の写真や練習風景が収められていた。
「は、はい。そうです……」
真姫は恥ずかしそうにうつむく。自分で話しはしたものの、いざ見られているとなると、途端に緊張や羞恥がわいてきたようだ。
「この歌はオリジナル?」
ページをめくっていた手が使用曲の楽譜の欄で止まる。
「あ、はい」
「アイドルの曲はたいてい、作詞家や作曲家に頼むらしいけど」
「スクールアイドルですから。全部自前で……私が作曲……海未が作詞で……」
「そう」
田村はそれ以上追求せず、静かにファイルを閉じた。
真姫は重い空気から逃れるように初春に声をかける。
「えっと……それで、どうにかなりそう?」
「ネットワークはローカルエリア限定ですからね。
本当ならハッキングして世界中のコンピュータの余剰能力をお借りして解析したいんですけど……オーバーレイさせることができるのは、先ほど手を加えた情報室のコンピュータだけですから、同時並行でダミーを織り交ぜて走らせても、天文学的な時間が必要になりますね」
「う゛ぇ……?」
とうとう理解さえ断念したようで、真姫は田村を縋るように見る。
その視線にこたえるように、
「パスワードは別にして、この端末だけで根本的な解決はできそう?」
「それは無理でしょうね。全体を管制するコンピュータシステムにアクセスするには、この端末では権限がありません。これはその子機に過ぎませんから」
ふむ……と田村は息を漏らし、
「つまりこの機械は脳に対する手に過ぎないということかしら」 
「生物学的解釈ですね」
「ごめんなさい。専門がこれしかないの」
「いえ。……そうですね。それでいいと思います」
脳が命令を下して手を動かすことはあっても、手が命令を下して全体を動かすことは……。
「いや、例外がいたな」
「?」
泉新一を思い浮かべた田村は不思議そうな顔をした初春に続けてくれと促す。
「ともかく、やるだけやってみようと思います。たとえ1%でも、何かの役に立つかもしれませんし」
「えーと」
真姫が首をひねりながら、
「つまり学校中のパソコンを使ってもわからないってこと?」
「はい。多分これは専用のIDカードか何かでアクセスするものでしょうね。
記憶による単純な手入力での解除は想定してません」
「スマホ……携帯電話のロックとは桁違いってことね」
真姫はようやく合点がいったといった様子である。
「現時点でこれだけありますからね」
初春が使っているものとは別のディスプレイが点灯する。
そこに表示された数字の集合に、真姫は「う゛ぇ」と声を漏らした。


 0 4 5 1 2 5 5 54 45 53 6411
 45 565  47 77 45 14 15 25 45  
 1143 644  742 313 0 1474 343
  0  14 1447 22  6 6 4 0 12 3
 57 125 52 1 2  36 4 4 2  4123
 0 47          4112 2234



「7……いえ、8進数ね。これがパスワードに使われている法則かしら」
「そうです。これだけわかっただけでも大きな進歩ですよ」
「これ自体に意味は」
「そうですね……パスワードの設定は、普通アルファベットと数字――つまり10進数――を混ぜた意味のない言葉でするものなんですが、
このロックはプログラムによってるところが多いので、そういう意味ではポピュラーな8進法を用いることはそこまでおかしくないと思います」
0~7が特に意味もなさそうに散っている画面。一般人が見れば何かの故障にしか感じないだろう。
「意味わかんない」という真姫の呻きは当然である。




「田村さんはあれ、わかるんですか?」
廊下をともに歩く田村は「基礎だけよ」
「数字――正確にはそれによる結論は万国共通だから。コミュニケーションのひとつとして」
「すごいですね……」
自分だって勉強を疎かにしていたわけではない。両親の病院を継ぐため――医学部に入るため、それ相応の努力はしてきたつもりだ。
それでも、今まで培った知識がこういうところで役に立たない。

戦う力どころか、何の知識もない。

いったい自分は……。

「だけど、それだけよ」
田村が見下ろす。真姫はその瞳に、最初の頃とは違って温かさを感じるようになってきた。
「そこに流れるものを読み取ることはできない。
そこに残る思いを考えること、感じること……それはいくら知識を持ったからといってできることではないわ」
長く細い――それでいて頼もしい指が真姫の髪を通り、肩に置かれる。
「それができるのは、人間だけ」
くすぐったさや安堵に目を細めた真姫は、
「と言われても……」
プリントアウトされた数字の群れを眺める。一応、ということで真姫にも持たされたもので、同様の印刷物を田村も渡されている。
A4判の紙面、その上半分には0~7の数字が一見無秩序に並んでいる。何かの暗号で、何か法則性があるかもしれない。
なんでもいいから気づいたら教えてほしいというのが初春の頼みである。
「意味わかんない……」
「数字を数字として見れば、それは機械にしかわからないでしょう。
そこに何を見るか、それが人間の可能性なのかもしれないわ」
「0から7の数字……8や9は使わないってことで……」
考えれば考えるほど、わからない。例えばこれが4桁程度なら、何かの語呂合わせや山勘でも浮かぶかもしれない。
しかし、これだけ膨大だと、もはや何が手がかりだとか、こういう法則性があるとか、そういう次元の話にさえならない。

でも、こんな感じのものどこかで……。

そう思って十数年の人生を振り返るが、だめだった。
うん、無理だ。自分にできることなど、音楽関連が精々だ。
こういうITだのPCだのは初春の専門だ。
頭を振りながら真姫は音楽室の扉を開き、すっかり馴染みとなったピアノのイスに腰掛ける。
やめよう。今は余計なことを考えないで、これからすることに集中だ。

ドアの前に立ってこちらを見る田村に穂乃果を想起しながら真姫は、
「どこでもいいから座って下さい」
「無理をしなくてもいいのよ」
 適当な席に礼儀正しく座る田村に真姫は首を振った。
「ずっと助けもらってばっかりで、でも私にはこれくらいしか返せるものがありませんから……」
初春同様、ここを離れれば、自分にできることは何もない。
ただでさえ役立たずで、何もできていないのだ、せめてこれくらいは――――。


鍵盤に指を置く。それだけで胸が締め付けられる。
目の前で散っていった海未の姿がちらつく。
「っ……」
無視するように、手を動かす。
しかしうまく動いてくれない。どうしてか。
きちんと動くように命令しているのに。
「あのー」
うまくいかない演奏を始めて数分――いや、自分が長く感じてるだけで一分も経ってないだろう――の後、初春が顔を見せた。
「あ、ごめん。気が散っちゃった?」
「いえ、そうじゃなくて」
音楽室に足を踏み入れた初春は真姫の操るピアノを見回す。それからぺたぺたと触り始め、あちらこちらを探り始めた。
「あ、やっぱり」
「どうしたの?」
「ええとですね」
初春はピアノの下から這い出てきた。
「どうもここのピアノが校内のネットワークに入ってるらしくて、音声データが流れてくるんですよ。そういう機能使ってたんですか?」
「え……知らないけど。……今まで勝手に使ってたから、そういうのあるのかも」
バツが悪い真姫は顔をそらす。
「うーん……わかりました。作業に戻ります」
釈然とはしないが、ここで解決するものでもないと察したのか、初春は立ち上がる。
「あ、待って」
「はい?」
「邪魔になってない?」
「……えーと」
答えに困ったように初春は天井を見上げる。
「大なり小なりデータの流通というのは、マシンのリソースを消費するものでして、それは同時にパフォーマンスにも影響が……」
「うん、わかった。ごめん」
パタンと真姫は蓋を閉める。要するに、足を引っ張っているのだ。
田村に助けられ、その上初春にまで……真姫はもう鍵盤に手を置く気にはなれなかった。
まさか恩返しのつもりが、迷惑をかけることになるとは思わなかった。
「すみません……」
「ううん……」
重い空気が漂い始めた中、すっと田村が立ち上がる。
「またの機会に聞かせてもらうわ」
「ごめんなさい」
「気にしなくていいわよ。それより、渡しておきたいものがあるの」
田村の腕に導かれ、真姫の手にそれが置かれる。
「何かあった時は、迷わず使いなさい」
それは田村が荷物整理をした時に見つけたものだった。
それは死んだ者がこの世に遺したものだった。
「でも、これはふたつしかなくて……」
「初春さんもひとつ持っている。これで平等よ」
それを証明するように初春もポケットからそれを出した。
きらきらと光るその石は、場違いな輝きを湛えている。
田村がこれを手放す、何かあった時に自分が使う……それはつまり……。
「わかり、ました……」
震える手で受け取る。

それはつまり、一人になっても逃げて生きろということ。




音楽室に、結局また、一人。
残された真姫は硬直したように座り、持っている紙を見る。
ほかにすることがなかった。
どうせ無理なのに。でも他にやることもなくて……だから時間まで、こうしていようと。

まるで昔みたい。

真姫は自嘲した。
休み時間は図書室、放課後は音楽室……一人でずっと、閉じこもって……。

そんな毎日を変えてくれたのが穂乃果だった。
それは、海未が役割を与えてくれたから。
μ'sには海未と自分が必要だったから。
海未の詩と自分の曲が必要だったから。
「海未……」
海未だったらどうしたの?
海未に救われた私は、何をしたらいいの?
「……?」
ふと、何かが頭の中を走った。
具体的にはわからない。ただ、何かが引っかかった。
紙を指でなぞる。ただの数字の集合、そのはずだ。

そのはずなのに。

「なに、この……」
違和感。
「ううん、そうじゃない」
既視感だ。これは、何かを思い出そうとしている。
さっきもそうだった。けれど、こんなもの見たことはないはずだ。
こんなもの見覚えがないのに、頭のなかで引っかかって、記憶の一部が顔を出そうとしている。

いつだ。

いつ見た?

μ'sがライブをする時?――違う。
海未と歌を作る時?――違う。
穂乃果と出会った頃?――違う。

もっと前、もっと根本的な……。
だけど、海未が関係しているような……。
「わからない。でも……」
不思議なことに、海未とこれが無関係だと思えない。
この数字の集合と、海未を結ぶ何か。

それが何か。

「海未との思い出にこんなのない。けど、どこかで海未が……海未がここにいるような……」 

意識せず紙を床に落とした真姫は両手で頭を抱え、うつむく。

「っ……何か、何か忘れてる。何かが足りない……」

自然、視線はさらに下を向き……。

黒のそれが映る。

「ピ……ア……ノ……?」

――――これじゃ弾けないよ。だって、オタマジャクシいないもん。

それは、何年も昔――自分が曲を作るはるか前、音楽を始めた頃の記憶。
はっとなった真姫は弾かれるように紙を拾い上げ、あたりを見回す。
「ない。ない……」
机をひっつかみ、中を探る。何もない。すぐに次の机へ。
「ここにも、ここにも……!」
まどろっこしくなり、机をひっくり返す。騒音とホコリが舞う。
真姫はそんなことお構いなしに次々と机を掴んでは漁り、何かを探す。
「どこ!? いったいどこに」 
ここにある机すべてを探したが、目当てのものは見つからない。
今度は壁に設えられた棚や引き出しに目をつける。もはや、見境がなかった。
「なんでどこにもないのよ!」
音楽室をめちゃくちゃに引っ掻き回し、やがて引き戸の棚を力任せに開いた時、何かが転がり落ちた。真姫は素早くそれを拾い上げる。


それは、一本のペン。

「あった……!」
その場で座り込み、乱暴に紙の余白に何かを書き込む。
品がないだとか汚いだとか、そんなことはまるで考えなかった。
やがて書く場所がなくなって、ようやくその手は止まる。
「海未……」
ペンを放り、真姫はその紙を抱きしめる。
震える体が、落ちる涙が、彼女の心を素直に現した。
「海未……」
ようやく気づいた。 

彼女は、ここにいたのだ。

彼女の存在は、ここにある。

これは、彼女が自分に遺してくれたもの。

「ありがとう……」
彼女のために泣くのは、これで何度目か。






――――今一度考えてみよう。
二人と別れた後、図書室に立ち寄った田村は、整然と並ぶ本の背表紙を眺める。
――――この殺し合いの意味とは、なんだ。

広川の役割は先程考えた。利害の一致、都合のいい窓口、中継役。
しょせん奴そのものに力はない。それは初めから自分で言っている。

――――「わたしの名は広川。今から行うバトルロワイアルの司会進行を務める」

裏で誰が――あるいは何が――暗躍しているかはしらないが、広川の狙いは――自分が知っている時点では――地球の環境という観点から生態系をコントロールすること、あるいはコントロールできる生物の確保にある。

以前はそれが自分たちパラサイトであった。


……しかし、それはおそらく失敗したのだろう。
自分が命を落とす時点で、パラサイトはジリ貧であった。
遅かれ早かれ、人間に対策を講じられ、肩身の狭い思いをして生きることになるだろう。
そう、人間の犯罪に紛れて、少しづつ人を食う――それが精一杯だ。
しかしそれでは人間の出生率には太刀打ちできない。
結局、パラサイトは広川の思うような成果を出せないことになる。

だから協力しているのだろう。

パラサイト以上に強力で、狡猾な生物の選定……あるいは育成のために。
多種多様な種類や能力の生物を集め、殺し合わせる。その果てに残ったものをいただく……そんなところか。
別の世界から人間の天敵を連れてくる以外にも、そういう可能性はある。

そもそも、広川の目指す世界とは、そこに存在する生命がもたらすバランスあってのものであったといえる。
それを異物ともいえる別の世界の産物で補うのは――出来る限り避けたいのではないだろうか。
それは在来種の生態系に外来種を持ち込むことと同義であり、それでも構わないのなら、広川自身が別の世界(広川の考える理想郷)に移住した方が話は早いだろう。

自分が後藤を作ったように、広川もまた、新しい何かを生み出そうとしているのかもしれない。
ただ、後藤のように単純に力が優れているだけではだめだ。それはすでに人間が証明している。
田村は持っていた本を開く。歴史書である。パラパラとめくっていくと、それは戦争の移り変わりを記していた。
単純な殴り合いからやがて道具を使い始め、ついには地球そのものを破壊し得る兵器の登場まで記されている。

人間のもつ知能とは、人間をここまで強くする。人間自身が強いのではない。人間の知能が種の限界を超えてしまうのだ。

だからこそ、真姫や初春のような一見すれば無力な少女までここにいるのだろう。
極限状態での、あらゆる種に対する実験――――それがこの殺し合いの意味であると田村は結論づけた。

そう、実験なのだ。だからこそ、失敗も想定している可能性もある。それは殺し合いの頓挫であったり、参加者(被験体)の脱出であったり……。
いや、もしかしたらそれさえ成功の範疇なのかもしれない。
だいたい、普通は突然殺し合えと言われて快諾するものでもないだろう。そういう人種ばかり集めるなら、ここまで広い舞台はいらない。
後藤のような戦闘狂ばかりを集めて、闘技場だけのエリアを用意すればそれでいい。

自分たちに反抗しようとする個体――勢力の出現は、おそらく実験の準備段階から想定している。
欲しいデータは、殺し合いを了承した人間への対抗、あるいは殺し合いに身を委ねるまでの過程、脱出に至るまでの方法……これくらいか。
最も興味があるのは、最後のそれだろう。極限状態での戦力と知能を測るには最適だ。

ここで問題となるのは、いつ首輪を使うか。
田村は自身にはめられた首輪を指で擦る。
これはどちらかと言うと脅しの道具や計測機器の役割が強く、実際に爆破するのは禁止エリアに入った時、あるいは何の準備もなく会場の外に出ようとした時くらいのものであろう。
仮に主催者へ反抗したとしても、限界まで使わず――さすがに殺されそうになった寸前では使うだろうが―――そのまま放置するのではないだろうか。

その場にあった道具で猿にバナナを取らせる実験と同じ理屈だ。実験ではそこまでの過程が大事なのであって、バナナ(ここでは優勝賞品や脱出による自由)などくれてやればいい。
仮に何らかの要因で首輪が使えなくなったとしても、それまでのデータを持ち帰り、別の被験体や別の趣向で同じような殺し合いを催せばいい。
主催者的にはそう考える可能性は充分にある。ここでまずいのは、そのまま捨て置かれた場合、自分たちは元の世界に帰る方法を失うことだ。
たとえば広川が自分専用の乗り物か何かで別の世界に逃亡した場合、こちらは追うことどころかこの世界から逃げ出すこともできず暮らす羽目になる。
……自分はそれでも構わないが。
田村は真姫と初春を思い浮かべる。彼女たちは元の世界にかえしてやりたい。

要するに、この殺し合いは実験なのである。失敗は失敗として、次の糧へ。更なる成功のために、実験は積み重ねてもいい(というより実験とは本来そういうものだ)というある種の余裕、怠慢があり、そこに付け入る隙があるかもしれない。




「田村さん!」
ここまで大きな声は初めて聞いたかもしれない――田村がそんなことを思いながら振り返る。
勢い良く横に開かれたドアは強くぶつかって跳ね返り、騒音を伴って戻る。
挟まれそうになった真姫は慌てて図書室に入り、肩で息をしながら、
「多分、解けました」
涙の跡をそのままに、まっすぐ自分を見上げる彼女はどこか頼もしく、場違いだと思いながらも美しいと感じた。




「数字譜……か」
真姫に言われるままにμ'sの部室に再び訪れた田村は、机上に置かれた紙の群れに目を落とす。それは二組に分かれていた。
ひとつは初春の手によって現時点で解析されたパスワード。
もうひとつは……。
「0~7の数字で作られた楽譜。たしかに辻褄は合う。よくわかったわね」
「昔ちょっとだけ習ったことがあるんです。それに、大切な友達と一緒に作ったものですから……」
真姫の手によって楽譜に変換されたパスワードがテーブルに並べられている。
田村は真姫に手渡されたファイル――そのページに記載された楽譜とそれを見比べる。
これが五線譜……音符(オタマジャクシ)に彩られたそれと同じ曲だという。いったいどんな曲なのだろうか。
「西木野さん、この曲は」
「全部覚えています。絶対間違えません」
ずっと不安で怖がる声ばかり聞いていたからか、彼女の力強い声はまるで別人のようだ。
「なら、それを今度は数字に変換して初春さんに入力してもらえば」
「多分、それは無理です」
テーブルを見下ろす初春が首を振る。
「単に数字が並んでるだけなら問題ないんですけど」
見てください、と楽譜となった数字の周りにある点や線を初春は指す。音域や種類を表現する記号であろう。
「これを表現することは、私にはできません。いえ、正確にはそのデバイスを使いこなせない、でしょうか。
要求されているのは数字だけじゃないと思うんです」
「音声入力……なるほど」
外見の割に不自然に発達したコンピュータといい、ピアノに仕掛けられた細工といい、つまりはそういうことか。

試されているのだ。

音ノ木坂学院……スクールアイドルによって救われた学校。
参加者であるスクールアイドルは、おそらく全員がそこを目指す。
事実、園田海未西木野真姫はここに来た。
いや、たどり着けたと言うべきか。
問題は、その状況がヒントであると気づけるかどうか。 

「気がつかなかったわ」
「私だってそうですよ。私なんて端末さえあればってそればっかり」
「しかし、コンピュータシステムという発想は初春さんならではよ」
田村は初春と真姫を交互に見て、
「誰が役に立つという話ではないの。誰かと寄り添って生きていこうとする心が道を開くのかもしれない」
「あの……」
真姫が恐る恐るといった様子で口を開く。
「歌にしても、いいですか」
すると初春は不思議そうに、
「デバイスの鍵盤で入力して――えっと、コンピュータのキーボード代わりですね――直接データを送るので、それは構いませんけど……。
逆に言えば、マイクを経由した外部入力じゃないので、歌にする必要性は……あ、その方がリズムを取りやすいとか」
「それもあるけど、一番は……その……」 
返答に窮したらしい真姫に田村は素知らぬ風で、
「それでは、行きましょうか」



良くも悪くも、少しの間で随分変わるものだ。
廊下をともに歩く真姫を横目に田村は思う。
最初は恐怖で震え、先程までは絶望や無力感で俯いていた彼女が、今では決意を秘めて前を向いている。
「何もできない自分がそんなに嫌だったかしら?」
「……嫌じゃないわけ、ないじゃないですか」
「そうね」
「いきなりこんなことになって、目の前で友達が……自分だって強くもないくせに、命がけで戦って……見てるしかなかったのが情けなくて悲しくて……」
「…………」
「そんな私でも、ようやく役に立てる……自分の番が来たんだって、だから頑張らないと」
まっすぐな瞳が、わずかに揺れた。
その理由を田村は察していたし、初春もそうだろう。
「わかっているのでしょう?」
真姫の足が止まる。田村はそれに合わせた。
「この選択が正しい保証はない。そしてそのリスクも」
初春は笑って送り出した。考えてはいても、他に方法はなかったからだろう。少しでも自信をもって欲しかったのかもしれない。
その希望に、初春自身も縋りたかったのかもしれない。
「もし間違っていれば……いや、合っていたとしても、広川次第では」
「わかってますよ」
震える指が、自身の首輪を掴む。カタカタと金属が揺れる音が、静かな廊下に響いた。
「本当は怖くて、嫌です。死にたく……ないです」
きゅっと指が首輪を挟む。
「でも、いつまでも海未のことから目をそらしたくないんです。
海未には届かないかもしれないけど、海未に少しでも追いつきたいから。だから……」
田村の腕が、真姫の頭に回る。そのまま胸に抱かれた少女は、
「死にたくない……怖い……!」
本当なら折れている心を、決意や使命で塗りつぶしているに過ぎない。
一皮むけば、こうなる。

ただの少女なのだ。

生き死になんて真剣に考えたことのない――直面したことのない平和の中で生きてきたのだ。
好奇心や種の本能で生殺与奪を行ってきた自分とは、根本的に違う。
田村は目を細め、真姫の背中を撫でようとして―――やめる。
だとしても、掛ける言葉は同情や応援などではないだろう。
この少女に必要な言葉は――――。
「待っている」
信頼。
その意志を、認めてやることだろう。
「はい……!」
服を掴んでいた指が離れる。小さな一歩が始まり、それが繰り返され、進んでいく。
「もうここで……見送りはいいです」
「わかった」
振り返らず進む真姫、その背中に意図せず腕を伸ばしていた田村は、不思議そうに自分の手を見る。
「これも母親……か」
命令したはずのない手を、田村は握りしめる。


「西木野さん、何か言ってましたか」
「いえ。何も」
「よかった」
胸をなでおろす初春は、ディスプレイに向き直る。
「でも、無理して歌わなくても。弾くだけでいいのに」
「鎮魂歌のつもりなのでしょう。いえ、手向けかしら」
田村の言葉に初春は複雑そうな表情を浮かべた。
なんと言っていいかわからないといった様子だ。
「それに、本来は歌が正しいんじゃないかしら。あの楽器はヒントに過ぎないのよ」
「演奏だと人も物も用意するの大変ですからね。でもこんな状況で歌っていうのは」
初春は机に置いてあるファイルを開き、中の楽譜をぱらぱらとめくる。
最初はただの備品や部活の思い出くらいにしか感じなかったそれが、今ではとても重要なソースコードのように映っているようだ。
「だからこそ、なのでしょうね。そこに気づけるかどうかが試金石となる」
ただ強いだけではそれに気づけない。弱ければそれに気づくまでもたない。
対象の戦力と知能を測るには適していると言える。
コンピュータを操作する。楽譜を手に入れる。
このふたつが符合するなど、いったいどれだけの者が気づけるだろうか。
それに、と田村は付け足し、
「存外歌というものは、別の世界では重要なものであるのかもしれないわ」
「歌が、ですか」
「それ自体に特別な力があるのかもしれない。あるいは、歌が鍵となって発動する何かが」
「そこまで重要なら……この高そうな機器が置いてある意味もわかりますね」
初春は手元のオーバーヘッドタイプのヘッドセットをつけようとして――花飾りが邪魔になったのでやめた。
「……来ました」
音楽室から送られてくるデータを処理するために、初春はキーボードに手を伸ばす。
その曲が、真姫の旋律が解析しきれなかったパスワードの空白を埋めていく。
スピーカーから流れる音の群れは、安全性の観点から絞っているとはいえ、室内の者が聞くには充分であった。
「期せずして、またの機会が訪れたな」
田村はただ、耳を傾ける。
少女がこめる、その想いを。



その曲は、初めて自分がμ'sのために作った曲だった。

だからすぐに気づいた。

海未と初めて一緒に作った歌だったから。
「海未……私ね、やるよ」
鍵盤を覆う蓋を持ち上げる。元々重いものだったが、こんなに重く感じたのは初めてだった。
「怖いけど、やるよ」
真っ白なそれに指を滑らせる。
「見ていてくれなくてもいい。ただ、聞いていてほしい」
腰掛け、すっと息を吸い、指を置く。大丈夫、もう指は震えない。
今はただ、自分の想いを届けるために。
「あんたの生きた証が、守ったものが無駄じゃないって証明するために」

私は――――。

「I say...」

自分でも驚くほど、自然に歌えている。
数日前は当たり前だったのに、まるで奇跡のように感じる。

『うぶ毛の小鳥たちも
 いつか空に羽ばたく
 大きな強い翼で飛ぶ』

――――あんたと私で初めて作った歌には、お似合いの舞台ね。
無人の音楽室を眺め、真姫はふっと息を漏らす。
――――あんな気恥ずかしい詩で曲作らせといて、蓋を開けたらガラガラなんだもの。
恥を晒したというか、恥を晒さずに済んだというか……まぁ、後々皆に聞かれたんだけど。

『諦めちゃダメなんだ
 その日が絶対来る
 君も感じてるよね
 始まりの鼓動』

――――私にとってのμ'sは、あの時から始まったんだ。穂乃果に頼まれて海未の詩で曲を作って、花陽と凛と一緒に入って。

『明日よ変われ!
 希望に変われ!
 眩しい光に照らされて変われ
 START!!』

絶望的な状況で奏でられる始まりと希望の歌。
それを皮肉だと嘲笑する者は誰もいなかった。


――――ただのクラスメイトだった花陽と凛、顔も知らない上級生だった穂乃果や海未……。今では大切な仲間達。

今となっては遠い過去のように感じられる、楽しかったあの日々。
ともに歌を作った少女は目の前で散り、ともにμ'sに入った少女はどうして死んだのかさえわからない。
過去のそれが彼女に光を与える一方、現実のそれが彼女の心を蝕む。

『悲しみに閉ざされて
 泣くだけの君じゃない
 熱い胸 きっと未来を切り開く筈さ』

――――μ'sは私にたくさんのものを与えてくれた。だから私はね、海未。

流れ落ちる涙を止める気にはなれなかった。
ただ流れるままに、溢れ出る感情をそのままに、少女は歌い奏でた。

――――言われなくたって、あんたが、あんた達がいなくなっても、μ'sを続けてやるわよ。

『悲しみに閉ざされて
 泣くだけじゃつまらない
 きっと君のチカラ
 動かすチカラ
 信じてるよ…だから START!!』

慟哭とも違う。
絶叫とも違う。
絶望と希望が混濁した――――
――――そんな歌。




――――すべてを終え、指が止まる。
喝采はない、まったくの無音。
ここには、独りだけ。
そのはずなのに。
「……海未?」  
潤んで霞み、ぼやけた視界の中、真姫は彼女を見た。
ピアノの向こうに、音ノ木坂学院の制服を着た、いつも厳しさと優しさを秘めた彼女の微笑みを――――。
「海未!」
目をこすり、視界がはっきりしていくにつれ、彼女は消えていく。
「だめ――――!」
手を伸ばす。しかし、その先には何もない。
その手を掴む者は、もういない。
結局、伸ばした手は空を切る。
「見てるなら何か言いなさいよ……!」
胸の前で手を握り、真姫は顔を伏せる。
「バカ……!」



「パスワード解析完了……そのまま入力……成功です」
「そう」
「あの、西木野さんを迎えに行かないんですか?」
「待っていると言ったから」
頑として動こうとしない田村に初春は、
「……田村さんって頑固だって言われません?」
「協調性のなさは自覚しているつもりよ」
「あ……そうですか」
腕が空いていたら肩すくめでもしていただろうか。初春は小さなため息を漏らした。
「それで、中身は」
「ええ。そうですね……管理ソフトといったところでしょうか」
「それは全体を統轄する……」
「いえ。やはり子機にはそこまでの機能は持たされてませんね。周辺の子機とのリンクを可能にするだけで……」
「収穫なしか」
「いえ、そうでもありません。親機がネットワーク上に存在しないということは」
その先を遮るように、ガチャリと扉が開く。
「……お待たせしました」
更に増えた涙の跡とともに、真姫が戻ってきた。
「ああ、待っていたとも」
田村は小さく笑う。真姫もつられて、わずかに口角を上げた。
――――こういうのも愛情って言うのかなぁ。
初春の呟きを拾う者はいなかった。



「お疲れ様です、西木野さん。おかげでパスワードは解除できました」
「ああ、うん。それで」
文字通り懸命に演奏したのだ。成果物が気になってしまうのは道理。
「中に入っていたのは周囲のエリアに存在するコンピュータを管理するシステムです。すごい成果ですね!」
「ええと」
何がすごいの?とまでは言えなかった。ここまでやって、大したことはなかったと認めることになってしまうようで嫌なのだろう。
「まず、状況を整理しましょう」
よいしょっと。
初春は一台のディスプレイをテーブルに置く。二人に見せたいものがあるのだろう。
それから初春は田村と真姫からコンピュータに向き直り、カタカタとキーボードを叩く。
「これが今私達がいる会場……とでも言いましょうか、その全体図です」
二人の前に、地図が表示される。これは基本支給品にあるものと同一のものだ。
「言うまでもなく、ここは私達の世界にある施設を模倣したものを設置しているだけで、実際のものではありません。外見はそっくりでも、中身は別物です」
「作り物なのね。ま、薄々そんな気はしてたけど」
「はい。さらにそれをひとつの大陸とでも呼ぶべき土台に載せて……」
「え?」
真姫は地図をじっと見て……。
「ここって、もしかして浮いてるの?」
「そうなるな」
田村の肯定に、
「何それ意味分かんない……」
「思えば、ここに連れてこられてから学院を目指して……地図をじっくり確認する余裕はなかったからな」
初春は苦笑して、
「私もさっき気づいたばかりです。それで話を戻しますけど」
「あ、うん」
「多分、――首輪もですけど――この浮遊を維持しているのもコンピュータシステムの一種だと思うんですよ。これを掌握して降下させることができれば」
「外部との連携も可能かしら」
「はい」
「でもメインコンピュータ?ってのがないとダメなんでしょ?」
真姫の問いに、
「そうですね。その手がかりが先程見つけた管理システムなんです。
これは、周辺のエリアの子機どうしをリンクさせてネットワークを形成させるもので、わかりやすく言うと、LAN(local area network)からMAN(metropolitan area network)に拡張させるものなんです」
「ごめん、よくわかんない」
「今までは校内のコンピュータしか使えなかったが、これからは校外のコンピュータも使えるようになったということだ」
田村の説明に「ああ、そういうことですか」と真姫は頷いた。
「それを使ったらメインコンピュータってのが見つかったってこと?」
「いえ、ありませんでした」
「それじゃダメじゃない」
「たしかにそれが一番だったんですが、でも進歩ですよ」
ディスプレイ上にあるマップの一部分が点滅する。
E-5・H-5・E-8・H-8を頂点とした四角形が、その存在を強調していた。
「ここまでが、私達の掌握したエリアになります」
「4分の1……」
あれだけ神経すり減らして半分の半分……。
真姫の顔に不満と落胆が浮かんだ。

「現地でどういう結果になるか――この仮説が正しいかどうか――わからない。
場合によってはそのままコンサートホールに行くかもしれないし、闘技場で合流することもあり得る」 
「行きはこれだけど、帰りは歩きだから、電車が近くにある346プロなんですね」
真姫は田村から渡された水晶を取り出す。
「確認していなかったが……いいのか? それを今使うということは」
ことは急を要する。行きも電車を使う手はあったが、それにかかる手間と危険を避けたい。
「せっかく逃げるために渡してくれたのはありがたいんですけど、前へ進むために使いたいんです。私にも、できることがあるってわかったから……」
「私も同感です」
初春は強くうなずいた。
田村は相変わらず淡白に「そう」
「ただ、保険はかけておこう」
田村は残りの支給品である回廊結晶(コリドークリスタル)を使った。これで任意の地点を記録し、他の場所で使用することで記録した場所に戻ってこられる。
つまり音ノ木坂学院を記録し、346プロに転移結晶で移動し、作業が終われば回廊結晶を消費して音ノ木坂学院に戻ることができる。
これならば仮に危険人物がいたとしても撤退は容易で、首尾よく目的を果たせたらすぐに音ノ木坂学院に戻ることができ、なるべく危険を避けることができる。
「えっと、着いたらやることは、コンピュータと楽譜を探して、それに合う歌を見つければいいのよね。……あれ、もしかしたら簡単かも」
「気づけた後だからそう感じる。コロンブスの卵だ」
田村は続けて、
「それに気づけた人間はあなたしか私は知らない」
「解析にしても歌にしても、やってる最中はずっと無防備ですからね。この状況でそんなこと普通はやりませんし、理屈がわかっても避けたいですよ。
特に歌は周辺への影響が懸念されます。今回は防音性のある音楽室だったからよかったですけど」
歌声を聞いて誰がやってくるか、何が起こるかわからない。知り合いが来てくれれば御の字だが、殺人鬼を呼んでしまったら目も当てられない。
初春の言葉に真姫は「そういえば」
「さっき見つけた管理システムってのを使えばいいんじゃない? それならもっと安全に」
「多分無理でしょうね。ここからでは別のローカルエリアになりますし、向こうに持っていってもプロトコルが違うでしょうから。
ここの中身は皆さんのデバイスに入れておきましたが、期待はしないでください。もし使う時があるとすれば、それは向こうのロックを解除した時でしょう」
基本支給品のひとつである小型の機械を手に取り、真姫は「ふーん」
「一からやり直し……でも進歩よね」
「ええ。進歩です」
初春は微笑み、真姫もくすっと息を漏らす。


「たしかに進歩ね」
「?」
「前向きになった。強くなった」
田村の言葉に真姫は胸を張り、
「いつまでも落ち込んでばかりじゃ海未に笑われますから。これからは私も役に立ってみせます」
「そう。助かる」
「いつまでもお母さんに頼ってる私じゃないんだから!」
「……ええ」
最初に気づいたのは田村だった。しかし咎めなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
時間が、停止した。
物理的な意味ではない。あくまで精神的に。
何かおかしな――場違いな何かが今、あった。
「…………へ?」
次に気づいた初春が間の抜けた声を出し、遅れて真姫が口を手で覆う。
「う゛ぇ!? ちがっ。これは」
「あ、ああ……先生を無意識にそう呼んじゃうあれですか。たまにありますよね」
「昔教師をやっていたから。そういう可能性もあるわね」
フォローになっていない説明をする二人を前に、真姫の顔は茹で上がったタコのようである。
「も、もう! いつまでもここにいないで、早く行きましょ!」
まとめた荷物を片手に、真姫は水晶を掲げる。
いたたまれなくなって空気を変えようと必死なのが誰にもわかった。
だからといってそれを咎める程二人の性根は悪くはないので、それにならう。
「転移! 『346プロ』――――!」
異口同音に唱える。それを鍵に、三人の手にある水晶は作動した。

母と呼ばれたのは初めてか。手元の石が光る時、田村はふと思う。
悪くはない。
それに。
子を持ったパラサイトは、不器用で、けれども優しくまっすぐな少女を一瞥して、
あの子も彼女のように育ってくれればいい。
――――そう思う。



【B-7/346プロ/昼】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。決意。
1:田村玲子初春飾利と協力する。
2:穂乃果、花陽を探す。
3:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
※アニメ第二期終了後から参戦。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪、 回廊結晶(コリドークリスタル)
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫、初春飾利を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。

回廊結晶(コリドークリスタル)@ソードアート・オンライン
任意の地点を記録し、他の場所で使用することで記録した場所に戻ってこられる。
複数人で使用することができる。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~2、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子、西木野真姫としばらく共に行動する。
2:346プロ探索の結果で、第二回放送後に闘技場へと戻るか、コンサートホールへ行くか決める。
3:闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
4:黒子と合流する。
5:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。
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114:To the other side 西木野真姫 149:NO EXIT ORION
田村玲子
初春飾利
最終更新:2015年12月21日 00:59