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決意 ◆w9XRhrM3HU


物質を理解し、分解、再構築する。
そして等価交換。無から物質を作り出せず、性質の違うものを生み出すことも出来ない。
これらが錬金術における基礎である。この基礎を知らなければ錬金術は発動しない。

「なるほど。オカルト的ではあるが、系統的には科学的な思想も強い。
 両者の考えを取り入れた混合技術とでも考えるべきか」

陣を描き、力と時間の循環。何を練成するか、術者の意図による構築式を組み込み練成陣は完成する。
本来ならばこの時点で大半の者は才能の限界に突き当たり、練成が失敗するか、なまじ成功したとしてもリバウンドを喰らい多大な痛手を負うか。
どちらにせよ。錬金術は才ある者のみが習得する狭き技術であるのに対し、エンブリヲはたったの一度。理屈を理解し即席の練成陣だけで練成を成功させた。

「……こんなものか」

見覚えのある青い発光。以前エドワード・エルリックがエンブリヲを追い詰める際に使用した能力と同じものだ。
エンブリヲの練成陣の中心が盛り上がり、人の形を彩っていく。それらが丸みを帯びたフォルムから女性の形に近い。
その人型が完成し、各部が事細かく加工され徐々に人間のパーツを形作る。数秒の後に全ての作業は終了し、一つの彫像を形成した。

「地殻変動のエネルギー。これを汲み上げることで、錬金術を行うエネルギーを賄っているということか」

かつては追い詰められた錬金術だが、種が分かってしまえばそう怖れることでもない。
手に持った本に視線を移しながらエンブリヲは薄く笑う。
それらは戸塚が所持していた五冊の本の内の一つ。一見ジョーク本のように見えるが、早々に異世界の存在に気付いたエンブリヲはそれが貴重な情報源であることを瞬時に見抜いていた。
エンブリヲが得たのは四つの異世界の常識レベルの知識。どれも興味深く、エンブリヲの好奇心を擽ったが、特に錬金術の記載があった本にエンブリヲは注目した。
本の中に記されていた錬金術と、それを扱う国家錬金術師の一人エドワード・エルリック。間違いなくエンブリヲに苦戦を強いらせた、あの忌々しいチビ猿だった。
更に本を読み進めれば、アメストリスという国家。その大総統であるブラッドレイ。奴もまたエンブリヲに大ダメージを負わせた忌々しい存在だ。

「理屈は理解した。面白い技術だ、だがこの場からどうやって地殻変動のエネルギーを持ってきている?」

この空間に大地は浮遊島しかない。下は漆黒に続く奈落のみ。
浮遊島にもある程度のエネルギーは流れているのだろうが、恐らくそれだけでは練成エネルギーが不足し錬金術は失敗するか、成功しても戦闘に応用するほどの規模にはなり得ない。

「……十分に満ち足りたエネルギーのある場所。錬金術の実在する異世界からエネルギーを引っ張ってきているに他ならない。つまり、あの異世界とこの空間は繋がっているのだろう。
 恐らく、私の住む世界や他の異世界も同様にね」

先程も述べた錬金術の基本は等価交換。つまり、この空間外からその不足分のエネルギーを引っ張ってきているに違いない。
錬金術だけではない。鳴上の扱うペルソナ。これも本来はテレビの世界でしか存在せず、行使できない力だ。
それがこの場で扱えるのは、ここがテレビの世界に繋がっていたから。錬金術と同じだ。不足した分を他所から引っ張れば良い。

「考えれば簡単だな。この空間は数多ある異世界が交差する場所。だから、あらゆる異能、あらゆる法則が入れ混じっている」

帝具使い、錬金術師、契約者、ペルソナ使い、寄生生物、魔法少女。エンブリヲが遭遇しただけでもこれだけの異能使い、異形者が居る。
これ以外にも、エンブリヲのまだ見ぬ未知の存在は数多く居ることだろう。
そして、交錯する。これがこの空間に於いて最も重要な事柄ではないかとエンブリヲは直感する。


「練成陣の意味は循環だ。エネルギーを循環させ、物質に干渉する。
 あらゆる異世界が交差する、この場所もまた同じ考えが可能だ」

この空間を用い、異世界を繋ぎ合わせエネルギーを循環させる。
数多の異世界から得られるエネルギーはまさに膨大そのもの。エンブリヲですら想定しきれない力が発生することだろう。
その為の殺し合いだと考えれば、この遠まわしな殺し合いも分からなくはない。
殺し合いの参加者達は人柱。錬金術や契約者で言う等価、対価だ。参加者の命を捧げこの巨大な練成陣を発動する。それが広川の目的なのかもしれない。
それを解析していけば、いずれはこの殺し合いの主催たる広川の下へ辿りつく重大な鍵となる可能性は高い。

「とはいえ、些か飛躍しすぎな発想ではあるな。錬金術に関して私は齧った程度の素人考えでしかない。
 ……忌々しいが、あのチビ猿の知識を借りるしかないか」

エドワード・エルリック。エンブリヲと敵対こそしているものの、最年少国家錬金術師でありその実力はエンブリヲ自身が身を持って体感している。
錬金術に関する考察であるのならば、あの少年の力を借りるのはほぼ必須事項だろう。
アンジュ以外の全てを抹消する。この考えに変更はないが、利用価値があるのならば最大限利用する。
局部を数度破壊され、痛めつけられてきたエンブリヲはその慢心から若干の慎重さが生まれ、その慎重さが自らのプライドを捨てさせ、合理的な考えを巡らせた。

「さて。もう一つ、この首輪も何とかしなくてはならないな」

この空間の謎を解き明かしたところで広川に命を握られたままでは意味がない。
首輪の解析もまた重要な意味合いを持つ。
普段なら手を翳すだけで首輪を即座に解除していたが、この首輪に対しては調律者の力も無力。
この場においてはエンブリヲも参加者の一人でしかない。地道な研究が必要になってくる。
だが、エンブリヲは本来その研究者であった人物だ。研究対象が困難であれば困難であるほどに、その情熱もまた燃え上がる。

「先ずは機材か……。ジュネスである程度の道具は見繕ったが……まだ足りんな」

エンブリヲは踵を翻し、進行方向を東へと定める。
目的地は音ノ木坂学院。目的は学院の情報室にあるであろうコンピューター機材の数々。
ゴキブリこと黒やキリトがイリヤ探索の為、向かう可能性もあったがキリトは既に放送で呼ばれこの世に居ない。
ゴキブリは向かったとしても、恐らく長居はしない。あの男には銀という探し人が居たのは、クロエとの会話から明らかだ。
イリヤと銀の探索を兼ねている黒が、一箇所に止まることはしないだろう。

「そういえば、クロエも死んでいたか。彼女の中にあった“何か”には興味があったのだがね。
 まあこの際、イリヤとまた出会えれば彼女を調べても良いだろう」

思い返せばイリヤとクロエは非常に奇怪な姉妹であった。
クロエの中に潜む巨大な力。使いようによっては軽く世界を滅ぼせるかもしれない何かが潜んでいた。
もっともその力は万全でなく未完成ではあったが。それでも限定的な能力の使用であれほどの戦闘力を有するのだから、あの力を手中に収めることが出来れば……。
イリヤもクロエ程ではないにしろ、やはり彼女の内に秘められた力も魅力的だ。

「イリヤの探索はゴキブリに任せておくか。いずれ、戦力を整えた際に奴を駆除しイリヤの力も私の手中に収めてあげよう」

ゴキブリはイリヤに対しては戸塚の頼みもありすぐに殺すこともなければ、ボディーガードとしても実力は十分。
今は彼らに関しては放置しておいても構わないとエンブリヲは結論付けた。

「音ノ木坂学院か。ティーセットの一つでもあれば良いのだがね」







「お茶、良かったらどうぞ」

人の心を癒す為に必要なのは、時間だけではない。娯楽なども友好的な手段の一つだ。
熱いお茶と甘いお菓子。これらを食す時間はとても贅沢な至福の一時。
実家が駄菓子屋なこともあり、穂乃果は茶道部辺りから茶葉と菓子を調達し、黒子に振舞った。

「……高坂さん」
「考えたら、私達朝から何も食べてないし。何か食べないとばてちゃうかも……」
「そうですわね。ありがたく頂きますわ」

黒子からすれば食欲も沸かず、甘いものを摂ろうと思えなかったが。穂乃果の行為を無碍にも出来ない。
一つ袋に包まれた饅頭に手を伸ばし、齧り付く。
外の衣がポリポリと剥がれ、口の中に餡子の甘みが広がっていく。同時に口の中の水分が一気に吸い取られ、口内の中に饅頭の感触が残り続ける。
それを熱いお茶を含ませることで甘さから苦味に変わり、口内の中がリセットされ糖分を求め自然と再び食指が動いてしまう。

「……美味しい」

最初はただ黙々と口と手を動かしていた黒子だが、これが美味であると自覚した時、瞳から涙が出るような思いだった。
そうだ。こんな美味しい物を普段から口にし、生活の一部としていた。そんな当たり前で、贅沢で、輝いていた日常が遠くに感じてしまう。
穂乃果も同じ思いなのか、饅頭を数度口にしながらしんみりと視線を落とし、黙り込んでいた。

「美味しいね。……本当に……」

「うむ、実に美味い。あまり緑茶には興味が沸かなかったが悪くないね」

「……?」

茶の入ったコップを強引にテーブルに置き、饅頭を放り投げ、穂乃果の首根っこを掴み黒子は穂乃果を自分の下へ引き寄せる。
眼前に唐突に現れた長髪の男。男は今までそこに居たのかのように優雅に茶を啜り、饅頭を口に含ませていた。
その大胆不敵にして奇抜な男の雰囲気は、黒子の記憶の中からある人物の名前を捻り出す。

「貴方がエンブリヲ、ですの?」

「ほう。アンジュに会ったのかな? それともヒルダか、タスク……サリアかな?」

「アンジュさんが言ってたエンブリヲって……まさか」

「自己紹介しよう。私がエンブリヲ、調律者だ」

エンブリヲは笑いながら名を名乗る。
その様を見て黒子は背筋に嫌な感触が流れていくのを感じた。
まるで、こちらを対等に見ていない。品定めし、それこそ動物や家畜を見るような見下した視線。
アンジュの情報からも股間で動く危険人物と聞いている。一刻も早く排除か、こちらが退避するのが最善策だ。

「―――待ちたまえ」

黒子が穂乃果の手を握り空間移動を始めようとした次の瞬間、エンブリヲの姿が消え背後より彼の声が響く。
そのまま黒子の後頭部へ指を突き、黒子の全身から力が抜けていく。
そして全身を甘い快感に包まれる。まるで御坂に抱きしめられ、全身を愛撫されているかのように。

「ん……っこ、これは……!」

「申し訳ない。疲労なしで使える力が、これしかなかったのでね。女性相手に使うのは躊躇われたが、君の無力化に使わせてもらったよ」

「し、白井さん!? どうしたの? これって……」

「安心したまえ。感度を50倍にしただけだ。マッサージの気持ち良いツボのようなものだよ」

訳の分からない能力を使う男に戸惑いを感じる穂乃果にエンブリヲは優しく頬を撫で、言葉を紡いだ。

「少し君に聞きたいことがあるんだ、穂乃果。この学校に君は詳しいようだからね。情報室があればそこに案内して欲しい」




穂乃果に選択肢は一つしかなかった。
現状、唯一の戦力である黒子が無力化された以上、荒波を立てれば穂乃果と黒子はすぐにでも殺される。
穂乃果は大人しくエンブリヲの要求に従い、学校を案内した。

「パスワードが解かれている……」

穂乃果に案内された情報室。そこの機材を調べ分かったのは、既にこのエリアは他の者が掌握した後ということだけだった。
残された情報からパスワードの内容と解析方法を再現し、エンブリヲは頷きながら、一台のディスプレイの前に置かれた椅子に腰掛けた。
パスワードの内容は数字譜。音楽室のピアノから音声データが流れるよう仕組まれていることから、音楽に関連するものであるのは間違いない。
既に凄腕のハッカーと、音楽に携わる何者かがこの場でパスワードを解き、その中にあったシステムを使ったのだろう。
エンブリヲも全体を管制するコンピューターシステムがあるかもしれないことは推測していたが、よもやこの調律者を出し抜き先に解析を開始したものが居るとは夢にも思わない。
もっとも、傍から見れば彼はずっと道草を食っていただけで妥当な結果なのだが、本人は意識していない。

「パスワードの内容は歌だね。ピアノで正解の曲を弾くと解けるのだろう」

メモを取り出しエンブリヲは数字譜を元の楽譜へと書き換えていく。

「これ、私達が歌った歌じゃ」

穂乃果が咄嗟に口にした言葉にエンブリヲは意識を傾けた。
エンブリヲが綴るメモを覗き込みながら、穂乃果はメモの内容に既知感を覚えていたのだ。
真姫が作曲してくれれた歌。忘れるはずもない、穂乃果達がμ'sが始めて歌った曲。

「どういうことかな?」

「え? そ、その……」

先程の失言を後悔しながら穂乃果は口を抑えるがもう遅い。
エンブリヲは穂乃果の眼前にまで迫り、彼女から答えが帰るのを待っている。
下手な嘘では何をされるか分からない。だが、正直に話せば恐らくこれを解析したであろう真姫に被害が及ぶかもしれない。

「私達、スクールアイドルって言って……」

だから、話したのはこの曲がμ'sによるものとだけ。真姫の事は口に出さない。
嘘は苦手な穂乃果だが、言わないだけならば穂乃果でも自然に振舞える。

「ほう、興味深いね。スクールアイドルか。それは未央の言っていたニュージェネレーションとも関係があるのかな?」
「どう、かな……。私は聞いた事ないし、プロの人じゃないから」
「そうか」

妙だと思ってはいた。この場には様々な存在が混じる中、何故アイドルなどという存在が混じっていたのか。
穂乃果と未央の話を信じれば、二種類のアイドルを放り込んだことになる。それもわざわざ異世界のだ。
つまりアイドルというより重要なのは、アイドルの知る歌だったのではないだろうか。

(広川は我々にこのシステムのパスワードを解かせたかったのか? あるいは解かせるよう誰かが仕組んだのか?)

意図的であるならば、広川の狙いはこの殺し合いを参加者によって破壊させることだ。その意図は不明ではあるが、参加者によるそれまでの過程を見ることに重点を置いているのだろう。
しかし、もし広川の意図ではないとしたら。これは主催でも意図しない何者かの裏切りなのだとしたら?

(参加者達も異なる世界の住人だ。ならば、主催者達もまた異なる世界より集まった者達なのかもしれない……)

広川以外にも主催側に協力者が居るとしよう。それが広川と同じ世界の住人だと何故言える?
何より、人が数人集まればそれだけの数の意志が主催に混在することになる。ならば、殺し合いを破綻させようと目論む者が秘密裏に動いていてもおかしくはない。
しかも異なる世界より集まっているのならば、その技術、知識レベルには大きな開きがあるのが間違いない。
その開きを利用し、他者に悟られぬよう参加者に脱出のヒントを与えるのも難しいことではないのではないか?


(私は最初、広川が私と同じ調律者の存在だとばかり考えていた。だが、異世界の存在が集まり、その技術を結集したのがこの殺し合いなのだとすれば……。
 付け入る隙は十分にあるわけか)

犯罪もそうだ。単独犯より、複数犯の方が失敗しやすい。その理由は仲間割れなどの身内の人間関係の崩壊によるもの。
世界が違えば価値観も思想も変わる。異世界の住人同士が常に協力関係を維持できるとは到底思えない。
何処かで歪が生じてもそれは自然なことだ。

「穂乃果、君の力が必要だ」

何れにせよ。主催の元へ辿りつくには単独では難しい。
錬金術師に加え、歌。それもエンブリヲの知らない異世界の歌。
それらを知るアイドルの存在もこの場では利用価値のある重要な資源なのだ。

「私はこの殺し合いから抜け出したい。その為にはアイドルの、歌の力が必要だ。
 穂乃果、私に協力してくれないか?」

「信用、出来ませんわね!」

地面を這いながらも体を擽る快感に耐えながら黒子は大声を張り上げ、情報室へと入る。
その様にエンブリヲは関心しながら黒子に笑顔を向ける。

「そうだね。私が信用できないのは分かるよ。
 些か、勘違いされているようだしね」
「勘違い? 貴方の行った行為は……」
「すまない。ここが殺し合いの場だという事を失念し、スキンシップが過剰過ぎたかも知れない。
 だが、信じて欲しい。私は彼女達の不安を取り除いてあげたかった。
 アンジュも凜もイリヤも彩加も。皆、不安で押し潰されそうだった。私はそれを見過ごすことは出来ない」
「何を、勝手な……」

アンジュの言葉を信じればエンブリヲはただ己の欲に走り、返り討ちに合い続けたただの性犯罪者だ。
しかし、それを証明する明確な証拠はない。いや、仮にあったとしてどうすればいい?
黒子は感度50倍に加え、容態も優れず万全な戦闘も出来ない。そんな状況で穂乃果も居るなか戦闘に縺れ込むのは自殺行為に等しい。
ならば、穂乃果だけでも逃がし黒子がこの場に残る。運がよければ、穂乃果がまだ近くに居るであろう黒を連れ加勢に来るかもしれない。

「サリアさんは私の友達を殺しました」
「……何?」
「エンブリヲさん、貴方の部下なんですよね?」

黒子が地面を這いながら、穂乃果に触れようとした次の瞬間。穂乃果は先程のオドオドした言葉からは考えられない声色でエンブリヲに言葉を投げた。

「どういうことかな? サリアが何をしたんだ?」
「私、エンブリヲさんは凄いと思う。もしかしたら、本当にここから抜け出せるかもしれない。……でも、サリアさんが海未ちゃんを殺したのだけは絶対に許せない……。
 答えてください。サリアさんは、貴方とどんな関係なんですか!?」
「……彼女とは上司と部下としての関係だけだ。もっともサリアは私に恋心を抱いていたらしいが、私はそれに答える気はなかった。
 だからかもしれないな。彼女は内に思いを溜めやすく、爆発してしまうところがある。君の言う、海未の死は私の責任でもあるだろう」
「……」
「責任は取るよ。もしサリアが君を襲うようであれば君を守るし、場合によっては手を汚すことも構わない」
「白井さんは?」
「……ああ、彼女も守ろう」

「白井さん、ここはエンブリヲさんを信用しても良いんじゃないかな」

会話を終えた穂乃果は普段の落ち着いた声色に戻り、黒子へと視線を向けた。

「ですが、あの男は……」
「大丈夫だと思う。多分、今は何もしないよ」

ここへ来て、穂乃果を守ろうとしていた黒子は逆に守られていたという事に気づいた。
黒子はエンブリヲを警戒し、自己を犠牲にしてでも穂乃果を逃がすべきだと考えたが、穂乃果はそれよりも確実で尚且つ全員が生き延びる術を選んだのだ。
エンブリヲに自らの価値を認めさえ、更にまた近くに潜むであろう脅威のサリアと決別の約束を取り付ける。
口約束だけとはいえ、エンブリヲはこれを自ら破るつもりはないだろう。サリアが本当に重要なのであるなら、この場で二人を抹殺した方が彼女の為にもなる。
つまり、この約束の信憑性は高い。

(そこまで、見越して……いえ直感、でしょうか。高坂さんは……)

穂乃果には才があるのかもしれない。それは目には見えないが、彼女の内に潜む彼女自身の魅力であり彼女自身の力が。
穂乃果の人柄や性格。運もあるだろうが、それら全てを含め人を惹きつける才が。
考え直せば、ブラッドレイ、槙島。この二人との遭遇でも、傷一つ負わなかったのは穂乃果の才によるものでもあったのだろう。
それがこの場でも発揮されたのだ。

(それは本当なら、アイドルとして……人の笑顔の為の……素晴らしい才だったのでしょうね……)

穂乃果がμ'sを立ち上げ、友と共に駆け上がってこれたのは全員の力を合わせ鼓舞したからこその健闘だ。
誰かのお陰ではなく、全員の力があったから。そして全員の力を集結できたのは、穂乃果という少女が中心に居たからだ。
人を笑顔にし、皆に笑顔を送り届ける。それが穂乃果の持つ才の本当の使い方であり、それが本来の穂乃果という人間の生き様だった筈。
それを今はこんな笑顔などとは程遠い交渉紛いの駆け引きに使わせてしまっている。

(ごめんなさい、高坂さん。私は貴女を守るつもりが、貴女を戦わせていたのかもしれませんわね)

出来ることなら、もう穂乃果にはこんな血みどろの戦いに赴かせたくない。
彼女の笑顔と笑顔を人に送り届ける才を穢したくない。
黒子は自分の不甲斐なさを呪った。







(フッ、まあ上出来だな)

穂乃果達と事を構えず、穏便に事を進めたのは幸いであった。
この場に居るのは蛮人ばかりだが、穂乃果のようにそこそこ賢い女性も居るようだ。

(先ずは歌だ。この場で歌を知る者達とは積極的に接触すべきだろう)

μ'sとニュージェネレーション。後はアンジュの永遠語りとエンブリヲの永遠語り。
一先ずμ'sとアンジュを手元に置くのが最優先事項になる。ニュージェネレーションに関しては未央に悪評が流れているのが痛いが、この際穂乃果に説得させるのもありだ。
そしてもう一つが錬金術師のような未知の技術を持つ者達。穂乃果達との情報交換では、ロイ・マスタングとゾルフ・J・キンブリーなる錬金術師と遭遇したらしい。
後者は乗っている側らしいが、前者ならば穂乃果を繋ぎ役として情報を得ることも難しくないだろう。

(穂乃果。とんだ拾い物だ。サリアなどとは違い、非常に役立つよ彼女は)

歌も知らない。技術もない。それどころか常に命令無視でアンジュを殺そうとするか、逃がそうとする身勝手な狂犬。
最初は戦力になるとも思ったが、穂乃果の方が利用価値は高い。その上、穂乃果とはある種の敵対関係。
もう、あの女は用済みだ。適当に野垂れ死んでいれば良い。

(しかし、厄介なのは私の名前を吹きまわっている事か。これ以上警戒されるのは面倒だな。
 最悪、私自らがあの女を殺さなければならないか)

そこまで考えて、考えを打ち切った。
古い女に用などない。今は穂乃果とそれに繋がる資源の有効活用とアンジュの確保を考える場面だ。

(フフ、精々利用させてもらうよ蛮人共。そして最後には痛みもなく全て抹消してあげよう)

しかし、いくら他者の利用価値を見出そうともエンブリヲという男は、何処までも全てを見下し続ける。
主催を殺し自らに課せられた制限を解いた暁にはエンブリヲは迷いなく、アンジュ以外の全てを抹消するだろう。





(……怖い……怖いよ)

本当は逃げたい。どうしようもなくエンブリヲが怖い。
穂乃果はエンブリヲを怖れている。アンジュや黒の話を聞く限り、この男には良心も何もない。
そんな存在とどうして一緒の空間に居れるのか。常人の判断ではない。

しかし、穂乃果は逃げない。戦う選択肢を選んだ。
黒子が穂乃果を逃がそうと床を這っていく姿を見た時、そう強く決意した。

エンブリヲは確かに穂乃果達にとって危険ではあるが、同時に強い味方にもなる。
穂乃果は今まで何人もの人物に会ってきた。だが、そのいずれも首輪解析や、この殺し合いの考察については全く進めていない。
その中で、エンブリヲは考察を随分進めているように見える。
これはチャンスだ。エンブリヲは穂乃果の知る歌に興味を抱いている。しかも、協力を仰ぐということは彼も一人では殺し合いの脱出は困難であるということ。
ならば、穂乃果もエンブリヲの頭脳を逃がしてはいけない。そう感じた。

(本当は……サリアの上司だなんて許せない……それに怖い……でも……)

黒子はずっと戦い続けてきた。今も穂乃果を守ろうとし戦おうとした。海未も凜も、やり方は間違ってしまったがことりもだ。
そう、この場で安全な場所はない。誰もが皆戦い続けている。
なら、自分だけがどうして逃げられる? 

(戦わなきゃ。私だって……何もないけど……それでも、私は私のやれることをやらなきゃ!)

エンブリヲが果たして何処まで穂乃果に価値を見出すか分からない。
もしかしたら、次の瞬間にはゴミのように捨てられているのかもしれない。非常に危険な綱渡りだ。
それでも、今はまだ価値がある。
何より危険を犯さなければ、この先殺し合いの脱出には繋がらないと、今までの殺し合いの経験から穂乃果は直感していた。

(海未ちゃん、ことりちゃん、凜ちゃん……。私、頑張るから……絶対に皆が帰れるように頑張るから!)

唯一持つ、歌という武器だけを頼りに穂乃果は調律者と対峙する土俵へと上っていく。

少女の決意が調律者に何処まで通用し、如何な結果を出すのか。それは―――

【G-6/音ノ木坂学院/一日目/午後】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、戦う決意
[装備]:音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
1:エンブリヲを警戒しながらも首輪などの解析を行わせる。その為の協力はする。
2:音ノ木坂学院で真姫ちゃん達が戻るのを待ちたいが、エンブリヲが居るので離れた方がいいかもしれない。
3:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
4:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
5:もししばらく経って戻らないようなら書き置き通りに闘技場に向かう

[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、悲しみと無力感、穂乃果に対する負い目
[道具]:デイパック、基本支給品(穂乃果の分も含む)、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、首輪×2(婚后光子、巴マミ)、扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまやイリヤさんを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院で初春達を待つ?
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
3:エンブリヲを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリト、黒と情報交換しました
※エンブリヲと軽く情報交換しました。



【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品1~3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果を利用する。
6:タスクの悪評は……。
7:場合によってはサリアは切り捨てる。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。


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Back:銀を求めた黒は赤と会う Next:生の確立

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134:いつも心に太陽を 高坂穂乃果 149:NO EXIT ORION
白井黒子
119:調律者は人の夢を見ない… エンブリヲ

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最終更新:2015年12月21日 00:59