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Look at me ◆dKv6nbYMB.
★
「なんで...こうなったのかなぁ」
ひとしきり笑い終わったあと、荒れ果てた生活用品の山の中で、独りポツリと呟いた。
あたしは、広川の言葉を聞いたあと、自分の身体を戻すために殺し合いに乗った。
けど、それは決意と呼ぶにはあまりにもお粗末で。
誰かに慰めてもらえれば。誰かに存在していいことを認めてもらえれば。あっさりと折れてしまう程度のものだった。
だから、最初に出会った男の子に弱音を吐いてしまった。
身体をもとに戻すために願いを叶えたい。
「やめとけよ」
こんな身体のあたしは人間なんかじゃない。化け物だ。
「そんなことはない」
だったらあたしなんか魔女にくわれて死んじまえ。
「諦めるな。生きていていいんだ」
...そんな言葉が欲しかったのかもしれない。
けれど、返ってきた答えは残酷で。
身体をもとに戻すために願いを叶えたい。
「他の奴らに危害を加える前にお前を殺す」
全くの正論だ。
自分の為にみんなを殺すあたしは悪党で、みんなを守るために力を振るう彼は
正義の味方。
あたしがどんな感情を抱いていても、それは変わらない事実だ。
もしもあたしとあいつの立場が逆ならば、あたしだってそうしてたかもしれない。
...そうして、あたしは殺されかけた。
あたしは"悪"で、"化け物"だということを改めて思い知らされた。
次に会ったのは、お花を頭につけた女の子と筋骨隆々のお爺さん。
あたしと彼らでお互いに警戒し合っていたけれど、彼らと話している間の僅かな時間は、ほんの少しだけ温もりを感じていた。
あたしが人間だったあの時を思い出しかけて、でもそれを切り捨てるように彼らに襲い掛かって...結局負けて。
その後、
タツミも交えた尋問を受けて。
ジョースターさんはまどかの大切さを思い出させてくれた。
初春は、こんなあたしでも手を握ってくれた。力を貸してくれと言ってくれた。
そんな彼らとも、タツミの提案通りに別れてしまって。
...この時、あたしは泣きついてでも四人で行動するべきだったのかもしれない。
それからほどなくして、マミさんの死を聞かされた。
あの人の死は悲しかった。だって、あの人はあたしの憧れの人だったから。
けど、同時に『広川は本物の奇跡を起こせる』って確信してしまった。
...こんな時でも自分のことを考えるあたしが、心底嫌になる。
その後、
エンブリヲなんていう変態と出会った。
あいつにされたことは最悪で、屈辱的で。でも、なんの抵抗もできなかった。
この時、タツミがあたしを警戒しながらも助けようとしてくれたことは、正直なところ嬉しかった。
だからあたしは、動けないタツミへと剣を向けなかった。エンブリヲを殺すためだけに剣を握った。
うまく言葉にできないけど、『あたしはまだ生きていていいんだ』。...そんなふうに感じとったと思う。
けれど、そんなものは幻想だった。
エンブリヲを退けた後、タツミは気絶したあたしと鳴上という男をここ、ジュネスへと運んだ。
目を覚ましたあたしに彼は告げた。『鳴上を治してくれ。そうしたらグリーフシードを使う』と。
命を握られていたこともあったが、あたしは依頼通りに魔力を削って鳴上を治療した。
その後、シャワーを浴びてすぐに眠りについてしまって。
広川の放送で起こされたあたしを待っていたのは、まどかの死。
なんであの子が、なんで。
悲しみと疑問が混濁した頭の片隅で、広川の語った奇跡の存在が大きくなっていく。
同時に、一度は薄れかかった殺し合いを肯定する気持ちもまたその存在を露わにしていく。
そんなあたしを知ってか知らずか、タツミはあたしにソウルジェムを返した。
頑なにピンチの時以外は決して手放さなかった彼が、なぜ?
その答えはすぐに思い知らされた。
突如現れたエルフ耳の男。
タツミはその男と戦い始め、あたしに自らの強さを見せつけた。
その戦いは、あたしが簡単に割り込めるものじゃなかった。
けれど、タツミも決して優勢ではなく、エルフ耳の男の方がうまく立ち回っていた。
このままタツミが殺されればあたしの身も危ない。
だから、あたしはタツミの味方をした。
隙が大きかったタツミではなく、エルフ耳の男を狙った。
けれど、背後からの奇襲は失敗し、挙句盾にされてしまった。
...これはあたしの失態だろう。だから、跳びかかっていたタツミがそのまま殴ってしまうのもしょうがないことなのかもしれない。
でも、少しは躊躇う素振りを見せてくれたっていいじゃない。少しは悪びれる様子を見せてくれたっていいじゃない。
あたしにはなんの目もくれず、タツミはエルフ耳の男と戦いを続けた。
たぶんその巻き添えだろう。
あたしは、妙な能力で左腕を吹き飛ばされた。
痛かった。苦しかった。辛かった。逃げたかった。泣きたくなった。
痛覚を遮断しようとして、気が付いた。
魔力が足りない。ソウルジェムはほとんど濁り切っていた。
これで痛覚を遮断しようものなら、すぐに魔女となってしまうだろう。
激痛に耐えながらタツミに目で訴えかける。
―――お願い、グリーフシードを渡して。それだけでいいから。そうすればあたしは助かるから。
だが、戦いに集中するタツミには届かない。
どれだけあたしが苦痛の声をあげてのたうちまわろうとも、あいつはあたしを歯牙にもかけない。
「おねがい...グリーフシード...投げてくれるだけでもいいから...!」
声を張っても、エルフ耳の男の水流攻撃でかき消されているのか、あいつは顔すらこちらに向けない。
いや―――本当は、無視しているだけじゃないのか?
そして、謎の光に包まれたかと思えば、みんな消えた。
タツミも、駆け付けた鳴上も、エルフ耳の男も。
みんな、あたしを残してどこかへ消えた。
これが、いままでのあたしの顛末。
ずっと迷って、なんにもできなかった、あたしへの罰。
「は、はは...なんなのよ、これ」
思わず笑いがこみあげてくる。
ようやくわかった。あたしはあいつに見捨てられたんだ。
あたしにソウルジェムを返したのは、あたしが死のうが生きようがどうでもよかったから。
あいつがグリーフシードを使ってくれなかったのは、もう用済みだから。
あいつは、ジョースターさんや初春とは違う。あたしを助けようなんて気持ちはこれっぽちもなかったんだ。
あたしがゲームに乗ろうが乗るまいが、あいつにとってはどうでもよかったんだ。
「結局、あたしはただの道具だったんだ。ここに連れてこられる前となんにも変わってないや」
ただ、利用する奴がインキュベーターからタツミに変わっただけだ。
「つまんない人生だな、あたし。...人じゃないから『人生』じゃないか」
残されたあたしには、もうなにもない。
マミさんもまどかも死んだ。
ジョースターさんも初春も、大切な人たちが呼ばれたんだ。あたしなんかにかまっている暇はないだろう。
鳴上はそこまで関わっていないからよくわからないが、おそらくタツミはあたしを警戒するように伝えているだろうし、タツミに味方をするだろう。
あたしの身を案じてくれる人はもういない。
願いを叶える決意も、最早ロクに動くことすらできないあたしにはもう遅すぎる。
「もし魔女になって優勝したら願いを叶えられるのかな...どうせ無理だよね」
この会場には、魔女を狩る者―――
佐倉杏子と
暁美ほむらがいる。
あいつらは容赦なく魔女となったあたしを殺すだろう。それだけの実力もある。
それに、この会場には色々な化け物染みた奴がいるらしい。
ジョースターさんの宿敵で吸血鬼らしいDIO。
タツミですら実力は化け物だと認める
エスデス。
あたしよりもかなり強そうだったキリトも誰かに殺された。
大した才能もないあたしじゃ、どこかの誰かに殺されて終わりだ。
それに、魔女なんてなったりしたら、味方をしてくれる人なんて誰もいなくなるだろう。
そんな状況であたし一人で優勝するなんて無理だ。
だれか。だれかいないのか。
「もう、誰も信じられない」
あたしの傍にいてくれる人は。
「最後くらい、夢みてもいいよね」
あたしを認めてくれる人は。
「誰でもいい。誰か見つけたら容赦しない」
●●●●●●は、さみしいから。
★
めがさめる。
さっきのはなんだったんだろう。
どこかでみたような...でもみたくないような。
まあ、なんだっていいや。
あんなもの、どうだっていい...たぶん。
それより、わたしはなんでうごけないんだろう。
...そうだ。わたしはあのだいすきなえんそうをきいていたかったんだ。
あのひとの。わたしの。あこがれのあのえんそうを。
...あのひとってだれだっけ。まあいいや。
それで、じゃましてくるひとたちがいたからおいはらおうとしたんだ。
ひととおりおいはらえたら、ようやくしずかになって。
ようやくこれでえんそうにしゅうちゅうできる。そうおもったのもつかのま。
そしたら、こんどはすごいひかりがみえて。
そのひかりはあたしのからだにおそいかかってきた。
―――絆を……憎しみなんかに俺達の絆は奪わせない!
からだぢゅうがいたかった。
―――きっと●●●も同じなんだな
すごくまぶしくてみていられなかった。
―――俺も、仲間が居なかったらきっと……
むきあいたくなかった。
でもそのいたみも。まぶしさも。なにもかも。
―――だから、●●●……お前の目をきっと覚まさせて見せる!晴れない霧なんかないんだ!
...なぜだか、すごくうれしかった。
ひかりは、わたしなんかじゃかなわなくて、ほかのひかりもまざってさらにひかりかがやいて。
さいごにはわたしのからだをこおりづけにして、そこであたしのいしきはなくなった。
そうだ。おもいだした。それでうごけなかったんだ。
まだこおりはとけていないけど、なぜだかこおらされたときよりもだいぶらくになってる。
だれかがこわそうとしてくれたのかな?どうでもいいけど。
『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』
...?なんだろう。どこかできいたことがあるけど...だれだっけ?
『余談だが、E-8においては、電車に乗っている間は首輪が禁止エリアに反応しないようになっている。なので、電車は安心して利用してくれて構わないよ。―――続いて死亡者だ』
たんたんとことばをはなすひとは、しんだひとをおしえてくれるみたい。...べつにどうでもいいけど。
『暁美ほむら』
―――ドクン
...?
なんだろう、このきもち。あけみほむらってなまえをきいたとき、なんだかみょうなきもちがわきあがってきた。
なんとなくきにいらないとおもったけど、おなじくらいしんじられないとおもうみたいな...ふくざつなきもち。
―――!
さいごによばれたなまえをきいたとき、もっとへんなきもちになった。
このひとの、なまえ...どこかできいたような。
―――いやあ、ようやく人と会えてよかったわい。わしはジョセフ・ジョースター。
そうだ。じょせふ・じょーすたー。さっきのゆめででてきたなまえだ。
―――くだらないことで笑いあって、些細なことで喧嘩しあって...そんな当たり前の日常をその手で壊して、後悔もせず笑っていられるのがきみのいう『人間』なのかね?
そうだ。たしかこのひとからは、なにかたいせつなことをおもいださせてもらったんだ。
わたしの、たいせつなもの。
―――あ...あのね。足手まといだっていうのはわかってるんだけど...邪魔にならない所まででいいの。一緒に連れて行ってもらえたらって思って...
いつもいっしょにいてくれた。
―――今日の魔女退治もついていっていいかな。さやかちゃんに独りぼっちになってほしくないから...
いつもそばでささえてくれた。
―――幸せになってね、●●●ちゃん
あのこのなまえは―――
ええっと、なんだっけ。
なんだろう。おもいだせないや。
...かんがえてもしかたないかな。
でも、おもいだせたらいいな。
とにかく、いまはあのえんそうをききたいよ。
からだはこおりづけでうごかせないけど、あのこたちにしじをだすくらいはできるから。
それじゃあ、みんなおねがいね!
~♪
...?ちがう。ちがうよ。そうじゃない。
さっきのえんそうはそんなてきとうじゃないでしょう。
さっきみたいにやってよ。
...どうしたの?なんでさっきみたいにひいてくれないの?
わたしのためにはえんそうしてくれないの?
ねえ、なんでよ。
むししないでよ。
ねえ、ねえ。
わたしをみてよ。
ねえってば。
...あっ、そっか。
こんさーとだもん。おきゃくさんがいないこんさーとなんてさみしいよね。
おきゃくさんがいっぱいいないとみんなもやるきがでないよね。
...よし。きめた。
こおりがとけるまでだれもこなかったら、おきゃくさんをさがしにいこう。
それで、いっぱい、い~っぱい、わたしたちのえんそうをきいてもらおう。
それで。それで。えんそうがおわったらはくしゅをいっぱいもらうんだ!
やっぱり、それがこんさーとのだいごみだもんね!
ああ、はやくこおりがとけないかなぁ。
はやくおきゃくさんをさがしにいきたいなぁ。
☆
放送が終わってから、どれほど時間がたったでしょうか。
やがて魔女を封じ込めていた氷は解け、再び呪いは自由を手に入れました。
お客さんを求める魔女は、どこへとも知らず動きだします。
無事にお客さんが見つかるまでは、使い魔たちの演奏も一休み。
はてさて。彼女の演奏に見合うお客様は見つかるのでしょうか?
【F-7/一日目/夜】
【オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ(
美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:演奏を聞いていたい。
0:演奏を聞いてくれるお客さんがほしい。
1:邪魔する者・演奏を否定する者を殺す
※制限で結界が貼れなくなっています。
※首輪も付いています。多分放送位は理解できるでしょう。
※どこへ向かっているかは他の方にお任せします。
※魔女化以前の記憶もおぼろげに覚えています。
最終更新:2016年04月09日 23:17