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Over the Justice ◆MoMtB45b5k


ウェイブ、そしてサリアとの交戦を最大限に愉しんだエスデス
その足は西へと向いており、自らが辿ってきた道を引き返しつつあった。

御坂美琴……)

目的は、御坂美琴だ。
雷撃を生み出す少女。
DIOと戦った後に定めた最初の標的。

(まずは、やはり貴様だ)

ジュネスの方角から感じる熱い気配。
イェーガ―ズの獲物たるアカメ
ペットには丁度よい足立。
興味深い身体能力を持った後藤(らしき男)。

追いたい相手は多かった。
が、サリアの操るアドラメレクの雷。
それがエスデスに、ここまでやって来た本来の目的を思い起こさせた。
狡噛慎也からの情報で東を選んでここまで来たが、反対方向にいるか、どこかですれ違った可能性も十分にあるのだ。


(楽しみは多いがな)

くく、と笑みを漏らしながらエスデスは足を進める。
日は西の方角に沈みかけている。
真夜中に始まったこの戦いも、既に半日が経とうとしているということだ。

『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』

そんな思考を読んだかのように、広川の声が響き渡る。
少し足を緩めながら、エスデスは放送に聞き入る。
広川は首輪交換機の件で何かしらのヘマをやらかしたようだが、今はさして興味はない。
重要なのは、死者の発表だ。

(セリュー……逝ったか)

クロメに続き、セリューも命を落とした。
セリューの掲げる正義も、魔物がうごめくこの場では通用しなかったということなのだろう。

(莫迦どもめ)

いちいち涙を流したりなどはしない。

(……仇を取る相手が増えたな)

しかし、クロメの時と同じく、心中でただそっと、誓う。


『そのことを肝に銘じてこれからもゲームに励んでくれたまえ。それでは、健闘を祈るよ』

放送は終わった。
死者の中には暁美ほむら空条承太郎ジョセフ・ジョースターの名前があった。
自分以上の時間操作能力を持っていたであろうほむらをはじめ、いずれも黙って狩られるようなことはないであろう強者たちであった。
その3人も、6時間の間にその命は戦場の露となった。
70人以上がいた参加者も、残っているのは半数を切った。
名簿を再確認してみたが、あの友アヴドゥルの仲間たちなどは遂に全滅してしまったようだ。
生死を分けたその条件は、恐らく単純な腕力だけではないだろう。
知力、体力、気力、精神力、そして運。
全てをバランスよく持っている者もいれば、どれか1つが欠けていて、それを補うだけの何かを持っている者もいるはずだ。

そんなことを考えながら、再び足を速める。
先ほどは通り過ぎた図書館の辺りまで辿りついた。
東西を分けるような奈落も、戦闘の跡も、何も先ほどと変わりはない。
だが一点、エスデスの気を引くものがあった。
南の方角にある、小さな建物。
そこから、先ほどまでは微塵も感じられなかった、隠しようもない死臭と汚臭が立ち込めている。
最初にエスデスが通ってから再びここに来るまでのいっときの間に、何かが起きたということだろう。

(面白い)


目的が随分と多くなったが、今の第一の目標は御坂美琴。それは変わりはない。
だが、それに固執するつもりはない。
むしろこの場では、はっきりとした目的を持って行動するよりも、興味の赴くままに立ち回ったほうがより楽しめるはずだ。
先ほどのウェイブの想定外の成長と反抗を思い返しながら、エスデスは笑う。

(一目見てみるか)

西に向かっていたその足を一点、線路の方へ向けた。










(ほう)

それは、幼少時より幾多の戦場を駆け巡って地獄を見、また自らの手で作り出してきたエスデスをしても、なかなかに凄惨と呼べる光景であった。


部屋の中は夥しい血が飛び散っている。
エスデスには馴染みのない近代的なシンクに、目玉が転がっている。
ゴミ箱には、人間の残骸が無造作に打ち捨てられている。
椅子には、確かに見覚えのある2人の少女が、文字通り『縫い合わされて』鎮座している。
そして、部屋の隅で膝を抱え、震えている少女――。

「セリュ……さ……セリューさん、セリューさん……」

「セリューとは私の部下、セリュー・ユビキタスのことか?」

「!?」

エスデスの鋭い問いかけに、少女ははっと顔を上げる。
ここに他人が入って来た事にすら気付いていなかったらしい。
慌てて糸を向ける。

「もう一度聞くぞ。貴様は私の部下、セリューとどういう関係だ?」

糸を造作もなく氷の剣で断ち切ると、エスデスは再び問いかける。
無慈悲に放送で知らされたセリューの死。さらに直後に現れた、謎の女。
卯月は完全にパニックに陥っていた。

「ぶか……部下……」

しかし、田村玲子から感じたような殺気は感じない。
乱れきった頭で、必死に考える。

「もし、かして……、エス……デス……さん?」

「いかにも。イェーガ―ズの長のエスデスとは私のことだ」

「あ、うあ……」

エスデス。
セリューが全幅の信頼を置いた、正義の象徴。

「うああああああああああ!!!」

その人を前に、卯月の思考は真っ白になる。
エスデスに縋りつき、子供のように泣きじゃくった。










(なるほど)

いく分落ち着きを取り戻した卯月から事の大まかな顛末を聞き出したエスデスは、一人頷く。

(セリュー……貴様は、残したのだな)

力及ばず命は尽きたセリューではあるが、自らを慕う者を残すことは果たせたようだ。

(いいぞ、それでこそ私の部下だ……)

弱くとも、勝者にはなれなくても。
意思を継ぐ者を、強さの可能性を残せたならば。
それは、上出来なことだ。

「……」

黙り込んだエスデスに、卯月は不安げに顔を向ける。
卯月は、怖かった。
エスデスはいわば上司の上司であり、正義の象徴だ。
しかしその佇まいは、会ったばかりの頃のセリューとも、あのブラッドレイとも何かが違う、異質な恐怖を感じさせた。

「あの、エスデス……さん、は、正義の味方……なん、ですよね?」

おずおずと問いかける。

「正義、のために……たたかって、くれるんですよ、ね!?」

「正義、か……」

問いかけにエスデスは、ふふ、と笑う。

「セリューの仇を取ってやるのもいいが……
 ……上司として、あいつの誤りはきちんと正しておこう」

冷気のような吐息が感じられるほど、卯月の近くに歩み寄る。

「あ……」

「言っておくが、私はあいつが言うような正義の味方じゃない。
 更に言えば、正義になど何の価値もない」

「――え」

その言葉を聞いた瞬間、卯月の顔は絶望に染まる。
正義に価値はない?
それではセリューは、自分は……?


「この世で価値があるのは強さ、ただそれだけだ。
 正義、それ自体は実に結構なことだ……だが」

少し言葉を切り、続ける。

「正義を為すには力が、強さが必要だ。
 強さがなければ、正義も悪も等しく無価値だ」

「強さ……つよさ……」

あまりに無慈悲な言葉に、卯月の視界は真っ暗になりそうになる。
強さ。
それは、自分に何よりも足りないものだった。
正義を為すことなどできないのではないか。
田村玲子から、ブラッドレイから逃げ出した自分は。
セリューを守れなかった自分は――

「ふ……そう不安がらなくてもいい」

震え、へたり込みそうになる卯月の体をエスデスは支える。

「貴様がやったのだろう? 『これ』は」

椅子の上から、繋ぎ合わされた2人の死体を掴む。
そして、その顔を卯月の鼻先へ突きつける。

「ひっ!?」

自らの犯した罪に、卯月は怯える。


「あ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

「何を謝る必要がある? こいつらは弱かった。だから死んで、こうしてその生を愚弄されている。
 ただそれだけのことだ。弱者が蹂躙されるのは当然だ」

エスデスは、死体を床に投げ捨てる。

「殺したのも貴様か?……違うのか」

卯月からも手を離すと、室内をゆっくり歩きまわる。

「私はこいつらとは知り合いでな。魔法少女の強さはよく知っている。
 ……が、こうして敗北した以上は、単なる肉塊にすぎん。
 肉塊を貴様がどう扱おうと、誰も文句を言うことはない」

カツカツと靴音を立てながら、室内を円を描くように歩く。

「その帝具……」

「あ……」

卯月の元に戻ると、にわかに手をとり、クローステールを検分する。

「貴様によく適合しているようだ。そうでなければ、ああ綺麗にはいかん」

転がる死体を、その縫い目を一瞥する。


「ふ……セリューの忘れ形見か……」

そしてその手は、そっと卯月の腕をなぞる。

「――!」

「怯えるな」

そのまま手を、服の上から体に這わせる。

「っ、ぁ……」

手が体を撫でる度に、卯月の柔らかな体がびくんと跳ねる。

「覚えておけ。
 正義を為したいなら、セリューの意思を継ぎたいなら、奴を越えたいなら――」

エスデスの手は、ついに制服のボタンを外し服の中に侵入する。

「強くなれ。お前にはその資格がある。
 この世で最も価値があるのは強さだ。決して、忘れるな――」


血が凍っているのかと思うような冷たい手が、卯月の素肌の、クローステールには覆われていない部分を撫でる。
未知の感覚に卯月の体は弛緩し、心は陶然とする。
ニュージェネレーションズの仲間のような、仲のいい女の子同士なら。
いつもの346プロの控え室でふざけてじゃれ合ったり、成功したライブの後に感極まって抱き合ったり。
そうしている時に、意図せずお互いの肌や胸に触ってしまうことはある。
しかし、この状況はそんなものとはあまりにも違っていた。
もういないセリューの最も信頼する人物に、弄ばれている。
自分の作り上げたモノが、すぐそばで見守っている中で。
濃密な死臭が充満する中で。
アイドルとしての道を歩んでいれば、ありえない、いや、あってはいけない光景。
卯月には、もうこれが現実なのかどうかが、分らなくなりつつあった。

(つよ……さ……、セリュー、さ……)

強さ。
セリュー。
翻弄され続ける卯月の脳裏には、最後までその二つの言葉だけが浮かんでいた。










「ふふ」

膝の上で寝入っている卯月の髪を撫でながら、エスデスは思わず笑みをこぼす。
ここに来たのは単なる好奇心であったが、セリューの忘れ形見という収穫を得られた。

(拾い物だ)

嬉しいことに、なかなか上等な形見だ。
アカメの一味のものであったはずの帝具、千変万化クローステール。
それがなぜこの少女の手にあるのかは今はどうでもいい。
DIOのインクルシオ、サリアのアドラメレクもそうだったが、重要なのは、この少女が帝具を使いこなしているということだ。
服の下を覆い防御手段とするという使用法を、自ら使っていたという程度には。
エスデスが卯月に強くなる資格があると言ったのは、何も慰めたかったわけでは全くなく、本心だ。

(2人の代りに入れるのもいいだろう)

ちょうどこの場で、イェーガ―ズには欠員が2人出てしまった。
島村卯月の、アイドルという職業。
それ自体は理解はエスデスの知識には無かったが、歌や踊りを披露する踊り子のようなものであることは、彼女の言葉から理解できた。
踊り子。
イェーガ―ズとしての任務をこなすならば、その能力は大いに生かすことができる。
流れ者の踊り子を装わせ、更にクローステールの力を引き上げれば、どんな町にも入り込める優秀な諜報員になることが十分に可能だろう。
聞くところによればあのアカメも、帝国の犬として初期にこなした任務の中には、旅芸人のふりをした反乱分子に潜入し、殲滅せしめたというものがあるというではないか。


そんなことを考えながら、卯月の肌を撫でる。
すると、微かに身をよじる。
白い肌には傷一つない。
本物の戦場を、本当の修羅場を知らない者の肌だ。
今の島村卯月には、帝具を扱う能力はあっても戦いに臨む心構えが致命的に欠けている。
より多くの実戦、そして殺人を経験させたい。
残った33人、誰が相手でも不足はないだろう。

話は断片的だったが、卯月は図書館で自分の求める御坂美琴と会い、そして完敗を喫したらしい。
事が上手く運ぶなら、自分がサポートについた上で御坂と再び戦わせるのも面白いかもしれない。
とはいえ、まずはやはり馴染みのない電車という乗り物を使い、セリューの死体があるという南の小島を目指す。
そこで卯月には、セリューとの訣別、そして超越という意味も込めて彼女の首切りをやらせたい。
もっとも首輪交換が実施されたことを考えると、すでに切られた後かもしれないが、その時はその時だ。

エスデスは笑い続ける。
ここに残った参加者たち。
この先、どんな人間に会えるのか?

(くく……面白い、面白すぎるぞ……)

そして未だ生きる最愛の人、タツミは、この場でどんな道程を辿り、どんな強さを身に付けたのか?

違う種類の狂気を纏った2人。
縫い合わされた少女たちの虚ろな目だけが、彼らの姿をじっと見つめていた……。


【D-6/駅員室/一日目/夜】

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気、欲求不満(拷問的な意味)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:電車で南に向かい、セリューを弔う。
2:島村卯月に実戦と殺人を経験させたい。
3:御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。
4:クロメとセリューの仇は討ってやる。
5:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
6:タツミに逢いたい。
7:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
8:拷問玩具として足立は飼いたい。
9:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
10:後藤とも機会があれば戦いたい。
11:もう一つ奥の手を開発してみたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。

【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、睡眠中
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:エスデスさんの下で強くなりたい。セリューさんに会いたい。
1:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。
2:高坂穂乃果の首を手に入れる。
3:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。
※放送で本田未央の名前が呼ばれなかったことに気付いていません。


時系列順で読む
Back:黒交じりて、禍津は眠る Next:Look at me

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Back:黒交じりて、禍津は眠る Next:Look at me

153:堕ちた偶像 エスデス 171:地獄の門は開かれた
156:ずっといっしょだよ 島村卯月
最終更新:2016年03月08日 00:07