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電子の海 ◆BEQBTq4Ltk


かつて何処かで、そしてこれほどいい気分だったことがあるだろうか
放送から流れた死者の名前は、エンヴィーに幸福を齎した。

足取りが軽くなり、自然と笑みが浮かんでいる。今にも笑い転げそうな程に。
それもそのはずだ。何せ自分を殺そうとしていたあの紅蓮の錬金術師の名前が呼ばれたのだ。さぞ気分がよかろうに。


「キンブリー……本当に馬鹿だよねえ」


死んだ。
自分を爆弾列車に乗せ地獄へ叩き落とそうとしていたあのキンブリーがこの世から消えた。
あの男が別れてから何をしでかしたかは不明だ。爆発のせいで彼を気にしている余裕など無かったのだ。
出来ればこの手で殺したいと溢れ出る憎悪を押さえ込んでいたエンヴィーだが、キンブリーが死んだことで彼の心に光が差し込む。


「ホムンクルスと敵対した理由なんてどうでもいいけど、お前は頭のいい奴だと思っていたよ」


人間だが使える部類だった。
共にイシュヴァールの悲劇を彩った人格破綻者には少なからず、好意を抱いていたかもしれない。
無論、人間に抱く感情などたかが知れており、好意と表現するのはそぐわないだろう。
けれど、そこら辺に居る人間よりかは評価していた。これは事実である。

だが、裏切り、死んでしまえば、その時、既に、興味は失われている。
消滅すればこの手で殺すことも出来ない。弔うこともしない。死を思うことも無い。
死んだ。その事実だけで充分である。死人に構うほど、嫉妬はお人好しでは無いのだ。


「馬鹿な奴だよ。自分で死期を早めたんだ、本当に馬鹿だよお前」


エンヴィーは思う。
やはり、人間の感情は理解出来ない、と。






人間には適材適所がある。格闘家に機械いじりを任せても必要な結果を得ることは困難である。
その道のエキスパートに任せるのが一番であり、一人でこなす必要が無いならば、役割を決めるべきだ。

音ノ木坂学院。
パソコンの前に座っている初春飾利が電子の海に飛び込んでから、数十分が経過していた。


画面に表示される数多のウィンドウ。全ての情報を拾う訳ではなく、目についた物に的を絞る。
とりわけ急速に必要な情報は枷である首輪。生命を握られている汚物を削ぎ落とすことである。

黒い背景に浮かぶ白い文字列。片っ端から流れてくる情報を振り分け、関係のない物には目を通さない。
脳が焼き切れる前に、手掛かりを見つけなくては。

――スタンド使い?

開かれたファイルから飛び出した文字列に初春は聞き覚えがあった。
スタンド。それは先に放送で名前を呼ばれたジョセフの口から聞いた幽波紋だ。
傍に立つビジョンの超能力、何故このファイルがあるのか、続きを展開する。



――この並びは何処かで……!


「高坂さん、名簿を出してください」


「えっと……はい!」


後ろで見守っていた高坂穂乃果に頼み込み、バッグから名簿を借りた初春飾利は文字列と照合を始める。
並びから全てが名簿と一致しており、彼らがスタンド使いであることを表しているようだ。

試しにジョセフ・ジョースターを展開すると、其処にはハーミット・パープルの文字列が浮かび始め、能力の説明があった。

――カメラ……教えてもらったものと同じ。なら、これは参加者の能力を見れる……だったら!


自然とポインタはDIOに移動しており、開示する情報はただ一つだ。そう、DIOのスタンド能力である。
しかし――之にもロックが掛けられており、その先を見ることは不可能であった。

一度、キーボード含む周辺機器から手を離す初春飾利。
高坂穂乃果に注いでもらった紅茶を口に含み、一度、瞼を閉じる。
画面から瞳を休息させたところで、掌の汗を拭うと――再び、電子の海へその思考を潜らせた。


DIOの情報が開示されない理由。
例えばこの男が主催者側の参加者であり、必要以上の情報がそもそも残されていない可能性。
ジョセフから話を聞いた限りだとかなりの危険人物であり、殺し合いを開催するに値する邪悪な存在だろう。
しかし地図上に記載されているDIOの館。わざわざ自分の名前を冠している施設を配置するだろうか。
それ程までに自分大好き人間なら話も解るが――この件は保留とした。


次に目についたのは超能力。
展開すれば映り込む文字列は御坂美琴を始めとする学園都市の人間である。
余談だが、上条当麻の名前は無い。


御坂美琴の超能力を開示――不可能。
白井黒子のテレポート能力を開示――不可能。


食蜂操祈の超能力を開示――可能。


「なるほど」


ジョセフ・ジョースターが開示出来て、御坂美琴が不可能な理由。
DIOの開示が不可能で、食蜂操祈が可能な理由。


――死んだ参加者に関する能力の情報だけが開示可能なんですね。


但し、人物そのもに対する情報等は一切残っておらず、あくまで戦闘に関する能力だけである。
死んだ人間ならば公開しても問題無いと広川が判断したのだろうか。


「調子はどうだい」


初春飾利の背後からエンブリヲが心配そうに声を掛ける。
ハッ、となった初春飾利は時計を眺め、そこそこの時間を没頭していたことに気付く。

上半身を伸ばし、目元に涙を浮かべた所で、成果を報告する。


「首輪に関する情報はやっぱり厳重にロックされていますね」


エンブリヲの視界に焼き付いた文字列。
ディスプレイに表示されていたイザナミに彼の興味が吸われていた。




初春飾利が収集した情報を彼女の口から聞こうとして、間が悪いのか扉が開かれた。
即座にバッグから斧を取り出したエンブリヲは穂乃果の前に出る形となり、彼女達を守るように乱入者へ言葉を投げる。

大変危険な対応ではあるが、その男とは一度遭遇済みであり、彼としても戦いは避けたい所である。


「俺の名前はタツミ……こんな所で群れてないで死んでもらえるかな?」


若干上から目線の笑顔を作り、ニタニタと不気味に近づく青年はタツミと名乗った。

しかし。

「久しぶりですね、タツミさん」

「その豹変ぶり……君は誰だい」


初春飾利は以前にタツミと共に行動をしていた。
エンブリヲはタツミと交戦済みである。


「げっ……既に顔見知りかよつまんないなあ――久しぶりだね、高坂穂乃果」






「え、エンヴィー……」






ロイ・マスタングから聞いたホムンクルス。
高坂穂乃果達を襲撃し、結果として天城雪子と名も知らぬ犬が死んでしまった。

その原因であり、張本人であり、人間の敵であるホムンクルス・嫉妬。


「そうだよ。あの時戦ったお前らが全員生きてるなんて本当に人間は面白いよね。でも、第一号は――お前だ!!」


右腕が巨魁となり、薄汚い緑色に変色し高坂穂乃果へ襲い掛かるも、エンブリヲが斧で防ぐ。

(思ったよりも重い質量だな)

などと、声には出さないが余裕を保ちつつ――エンヴィーの後ろに周り、彼の首根っ子を掴む。


「二人で話でもしようじゃないか……なに、悪いことはしないつもりさ」


強引に扉の向こう側へ投げ飛ばし、自分も追い掛ける形で教室を飛び出し、別の教室へ吹き飛ばすように蹴りを放つ。


扉を突き破り、机や椅子を巻き込みながら砂塵を巻くエンヴィーは怒りを覚えた形相でエンブリヲを睨む。
殺してやる、と云わんばかり。キンブリーが死んたことを記念してタツミの姿で一発暴れてやろうかと思えば、とんだ邪魔が入ったものだ。

斧で攻めてくるならば攻撃は大振りになる。その隙を狙えば簡単に首を落とせるだろう。

「このエンヴィーが殺してやる」

「誰が誰を殺すだって?」

「な、いつのま――んああああああああああああああああああああああ!?」


首を掴まれたエンヴィーの身体が痙攣し、甲高い声を教室内に響かせた。
顔に赤みが帯びており、息も早く、身体中に汗が浮かんでいる。
本人は何が起きているか解らないが、己の身体を弄られていることだけはおぼろげな意識で認識していた。


「ホムンクルスでも首輪は付いているのだな」

「ひゃ、い、息が近っ……んっ、ぁ……やめぉ……」


首筋を指で辿り、構造を外見から把握する。
ホムンクルスと云えど枷の見た目は他の参加者と変わらず、同一の物だ。


「無理やり外すことも――不可能か」

「あっ……!ん、もぅ、やめ…………ん!!」


首輪に触れ、強引に引っ張るも密着しており、外すことは不可能だ。
エンヴィーの声も、力に反応するように大きくなり、感情が高ぶっている。


『これ以上の過度な干渉を続けた場合、三十秒後に首輪を爆破します』


「警告か……面白い」


(何が面白いだよ……こっちはその振動で……んんっ)


首輪から発せられた機械的な音声にエンブリヲが興味を示し、エンヴィーが怒りを覚える。
無理やり外すようならば爆破――当然だろう。何せこの枷が殺し合いに置いて大きな要素を含んでいるのだから。

極論、首輪に生命を握られていなければ、無理に従う必要が無いのだから。



「無理やり外すとどうなるか試す――前に一度、情報を整理するか」


エンヴィーを投げ捨てたエンブリヲは踵を返し、教室を後にする。
片付けなど一切ぜずに我関せずと謂わんばかりだ。

残されたエンヴィーは荒ぶる感情に抗いながら、己の状況を整理――出来るのだろうか。


「屈辱だ……このエンヴィーがこんな……こんあっぁ」


身体を折り曲げ、下腹部を始めとする各部分を床に擦り付ける。
屈辱だ。何故、自分がこんな仕打ちに合わなくてはならないのだ、と。
感情を抑えるためにも発散――出来る訳もなく、昂ぶる衝動に身を動かされるばかりである。


「許さない――エンブリヲ」


その瞳は涙の潤いを秘めていながらも、確実に殺意を覚えていた。



【G-6/音乃木坂学院/一日目/夜】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、戦う決意、悲しみ
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:エンブリヲを待つ。
1:エンブリヲを警戒しながらも首輪などの解析を行わせる。その為の協力はする。
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタスサリア、イリヤに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~2、テニスラケット×2 、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを待つ。
1:自分なりのやり方で戦う。
2:エンブリヲと共に首輪を解析、ただしエンブリヲへの警戒は怠らない。
3:白井さん、御坂さんをお願いします…
4:エンブリヲにはばれないように、幻想御手の解析も行う。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。


【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0~2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:初春から情報を得たあと、再びエンヴィーで実験を行う。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果、初春を利用する。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。




【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、賢者の石消費(マスタングとの戦闘で焼かれた分も含めて残り40%)、鳴上の『絆』に対する嫉妬心、オクタヴィアの演奏に対する共感、感度五十倍
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、天城雪子の首輪 双眼鏡(エンヴィーの支給品)、里中千枝の死体
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
0:エンブリヲは絶対に殺す。絶対に。
1:放送後にもう一度首輪交換機を訪れてみようかな。
2:色々な参加者の姿になって攪乱する。
3:エドワードには……?
4:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
ヒルダの姿でタツミからジュネス近辺、さやかについてのことを聞きだしました。
※首輪の警告を聞きました。


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169:僕たちの行方 高坂穂乃果 182:魂の拠り所(前編)
初春飾利
エンブリヲ
162:『嫉妬』 エンヴィー
最終更新:2016年04月09日 23:21