038
アニマル対決 ◆w9XRhrM3HU
クマは焦っていた。
ここは殺し合いの場である。
言ってしまえば、見る者全てが敵と言っても過言ではない。
クマはそこまで極端な考えはしないものの、ある程度の警戒と臨戦態勢は取らなければならないとは理解している。
だからこそ不味い。転倒したままもがき続けているこの状況はかなり、いや滅茶苦茶不味い。
「ど、どうするクマー! 誰か助けてクマー!!」
ふっくらとした胴体をコロコロ揺らしながら、短い手足をブンブン振り回すが起き上がれる様子はない。
やはり、一人の力で起き上がるのは不可能らしい。
こうなれば、誰かの力を貸りる必要がある。
だがその声は悲しいかな、誰も聞いてくれない。
空しく夜空をクマの声が響き渡る。
「駄目クマ、誰も聞いてくれんクマ……」
いや一人。正確には一羽はその声を聞いていた。
DIOの館へと入り中を散策していた
ペット・ショップは、クマの悲痛な叫びを聞き駆け付けていた。
もちろんクマの救出の為にではない。得物を屠る為にだ。
「く、クマ!? 嫌な予感がするクマ……」
「……」
こうしてクマとペット・ショップは奇妙な出会いをする事となる。
先ずペットショップが真っ先に思ったのは、非常にこいつは間抜け野郎だということだ。
このデブな体型で転がってジタバタする様など、脳みそが空っぽか頭脳が間抜けとしか言い様がない。
さっさと殺し、次に行こう。
ペットショップはそう考え、スタンド「ホルス神」を出す。
この時気になったのが、クマのホルスを神が見えていたとしか思えない反応だ。
目をパチパチさせ、ホルス神を凝視している。
「ぺ、ペルソナ!」
「!?」
そして、間抜け野郎だと侮っていた相手が、スタンドのような能力の使い手だということにも驚愕した。
国ごとに物の呼び方が変わるように、単純に能力の呼び方が違うだけなのか否かは分からないが、確かにペルソナと呼ばれたそれは強い力を感じる。
間抜け野郎ではあっても、タダの間抜け野朗ではない断じてない。
ペットショップの警戒が強まる。
クマが召喚したペルソナ「キントキドウジ」とスタンド「ホルス神」が対面した。
次元と時空を超えた二つの異能が激突する。
先手を撃ったホルス神の氷の弾丸がキントキドウジを捉えた。
だが、キントキドウジのふっくらとした体には傷一つつかない。
その険しい顔を一層険しくさせ、ペットショップはキントキドウジを凍らせる。
如何に強固なボディであろうと、凍らせてしまえば意味はない。
「そんなもの効かんクマよ!」
ホルス神の操る冷気が弾かれる。
ペット・ショップはホルス神を退かせ、自身も空を舞い距離を取った。
考えられるのは二つ。
このペルソナとやらがスタンドを無力化する力である可能性が一つ。
二つ目が氷の力そのものに耐性があるという可能性。
恐らくは後者だとペット・ショップはにらむ。
最初にホルス神を見た時、奴は怯えていた。
つまり、この時はホルス神を無力化できる確信がなかったといえる。
そこから導き出せるのは後者。そして氷そのものに耐性があるのであれば非常に不味い。
こいつはホルス神にとって、相性最悪の天敵と言える。
「って本体を狙うのは反則クマー!」
もっとも、それもやりようによる。
スタンドが倒せなければ、本体を倒せば良い。このペルソナも同じこと。
強いのはペルソナであって本体ではない。ましてや、あんな転倒状態では良い的にしてくれと言っているものだ。
氷の槍がクマへ雨のように上空から降り注ぐ。
キントキドウジが盾になり槍を捌き、ホルス神へと一撃を叩き込む。
けれども意外なことに、ペット・ショップに返ってきたダメージは0に近い。
なるほど、相手に氷が効かないのであれば、また相手の同じ氷の攻撃もホルス神には効かない。
「あっ、同じ氷の相手には氷の攻撃は効かんクマ!」
互いに得意とする得物は氷。
いくら攻撃を当てようと堂々巡りに過ぎない。
痺れを切らせたクマは、ミサイルを持ったキントキドウをホルス神へと叩きつけようとする。
スタンドと違い、ペルソナは一つの能力だけでなく、複数の能力を同時に行使可能なのだろうとペット・ショップは推測する。
つまり、あれは氷ではなく、ホルス神にダメージの通る攻撃だと即座に察した。
ホルス神は一気に空を急上昇し回避。キントキドウジの攻撃が空ぶる。
更にクマ本体に向け氷の弾幕。キントキドウジに急いで捌かせるも、幾つかは間に合わずクマの体を傷つける。
痛みに耐えながら、またキントキドウジで反撃を試みるがそれも当たらない。
あまりにもホルス神が速過ぎる。
「ああ、どうしようクマ……」
豊富なスキルに関してはクマのキントキドウジが遥かに上回る。
だが純粋な戦闘力、スピードのおいてはホルス神が遥かに上回っていた。
更に加えるならば、本体の思考力も現状ではペット・ショップが合理的であり冷静でもある。
元々、クマはペルソナがサポート向きであることに加え、一人での戦いに不慣れだ。
敵と戦うとき、必ず誰かがそばに居た。
対してペット・ショップは違う。生まれたときから一羽、弱肉強食の自然界をたったの一羽で生き抜いてきた。
故に生まれながらにしての戦士であり、殺戮マシーン。戦いに躊躇いも迷いも断じてない。
「センセイ! 千枝ちゃん! 雪子ちゃん! 誰かぁ!!」
焦りが更に焦りを増し、堪らず仲間の名前を叫びだす。
せめてクマに仲間が居れば、その本来の力量を発揮し得たかもしれない。
本能的にそう分かっていたのか、涙目になりながら叫ぶがその声は届かない。
その時、空を飛んでいたペット・ショップのディバックから何かがクマに向かって落ちてきた。
クマの腹に落ち、故障を免れたそれは拡声器だ。
そうだ、仲間を呼ぶには大きい声がいる。
もっともっと大きい声が必要になる。
クマはこの状況を打破する為に頭をフル回転させる。
声、大きい、声、声、大きい声……。クマは閃いた。
短い腕を伸ばしクマはそれを掴む。
『誰か助けてクマー!!!!!』
先の何十、何百倍もの声が辺り一帯に響き渡る。
クマ自身、思ったより声が響きすぎて耳が痛くなった程だ。
だが、これなら誰か声を聞きつけてくれるはず。
仲間さえ居れば、こんな鳥一匹。
「え……?」
クマはその時、ペットショップが怒ったような気がした。
一気に急降下しキントキドウジを抜く。
そしてホルス神が氷の剣を精製し、クマの胴を貫いた。
「あっ……え……?」
血は出ないが、何かが抜けていく感覚がクマを襲った。
これが死というものなのかと他人事のように思える。
「クマは、まだ……」
あまりにも無慈悲で、唐突な死はクマに最後の言葉も残さず訪れた。
ペット・ショップはこの戦いをこう分析した。
参加者が徒党を組む前だからこそ勝てた相手だと。もし仲間を得ていれば、負けたのは自分であったかもしれない。
一対一だからこそスピードでかく乱出来たが、もしもそのスピードに優れた相手と同時に戦闘していたかと思うとぞっとする。
早めに潰せたのは幸運だったと、ペット・ショップは思った。
地面に降り立ち、クマが握っていた拡声器へ視線を投げる。
ペット・ショップは、この機械が声をより大きく遠くまで飛ばすものだと知っていた。
しかし、ハヤブサである自分には使い道がない。
だからこそ、ディバックに仕舞い込み封印していたが、戦闘の際に落としてしまった。
そして、追い詰められたクマは助けを呼ぶために咄嗟に使用してしまう。
厄介な事になったとペット・ショップは考える。
この声を聞き、集まるものは少なくないだろう。
別に参加者が集まるのは良い。それが強者であるなら戦ってみたくもある。
もしかしたら、主であるDIOも来るかもしれない。
しかしだ。集まり過ぎは良くない。いくらDIOやペットショップであろうと強者が組んでしまえば不利になる。
ここを離れるべきか、だがしかし万が一DIOが来るという可能性も捨てきれない。
思考に耽けったその瞬間、異形がペット・ショップの前に降り立った。
その異形は、何処か誇らしそうな仕草を見せる。
それは、その姿には見覚えがある。
否、先ほどまで戦っていたのだ間違いなく。
「やっと、追いついた、クマ……」
ミサイルを持ったキントキドウジがホルス神を完全に捉えた。
ペット・ショップが振り返る。
そこにはしてやったと言いたげなクマの笑みがあった。
「あとは、頼んだクマよ、皆……」
ペット・ショップは思った。
このビチクソがあああ!!! と。
ホルス神もろともキントキドウジが爆散する。
爆風が巻き起こり、轟音が響き渡る。
風が止む。そこには一つの着ぐるみが力なく横たわっていた。
□
「……」
本当に危ないところだった。
ペットショップは痛む体を労わりながら思い返す。
あの爆破の瞬間、即座に氷のバリアを貼り九死に一生を得たことを。
ペット・ショップの前に置かれた中身が無くなった萎れた着ぐるみ。
やはり、クマとは何か別の特殊な生き物だったのだろうか。今更どうでもいいことだが。
それにしても、これからどうするべきか。
夜が明けるまで館に留まるつもりだったが、あの声が響いた以上早急に離れるべきか。
あるいはDIOが来る可能性を信じ留まるか。
どの選択肢を選ぶか、まだ誰にも分からない。
【クマ@PERSONA4 the Animation】死亡
【B-6/DIOの館付近/1日目/黎明】
【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、困惑(小)、元いた世界における敗北と死によるショック(無自覚、小~中)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、拡声器、不明支給品0~2
[思考]
基本:夜が明けたらDIOと合流して指示を仰ぐ。邪魔と判断した奴は殺す。
1:館に留まるか、離れるか。
2:ジョースター一行は見つけ次第始末、特に
イギー
3:ムカつく奴は殺す。
4:手強そうな参加者とは可能な限り戦いを楽しみたい。
[備考]
※ 何らかの能力制限をかけられています。ペット・ショップはそれに薄々気づいています。
※ 参戦時期は死亡後です。
※ 拡声器が何処まで響いたか後の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2015年06月13日 20:15