039

時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk


総ては鹿目まどかのために。
一言で表せる暁美ほむらの方針だ。
彼女にとって鹿目まどかの存在は神をも超えている。
鹿目まどかが死ぬ時、それは彼女がこの世界を去る時と同義である。

世界を巡りに巡って信じたあの時を追い求める世界の放浪者。

その力は時を止める力。
暁美ほむらと心を赦した者にしか認識出来ない聖域。
鹿目まどかを救うために手にした永遠の魔法。
逢いたい、あぁ私はもう一度貴方と逢いたい。
繰り返す。何度でも、永遠に、焦がれる気持ちは止められない。


「これは……?」


広川が言うには参加者に支給される武器があるという。
戦力を補えるならば何でもいい。
力を手に入れるため暁美ほむらはバッグから支給された物を取り出した。

翼。
それは翼だった。
説明するならば翼としか言い様がない。
対の翼が質量を無視してバッグから出て来たのだ。


「……これを使う?」


自分の盾のような円状の物に翼が付加されている形状であった。
嘗ての武器のように腕に装着……する訳もなくバッグから紙を取り出した。
どうやら説明書のような物らしく目で辿る。

万里飛翔マスティマ。

それがこの翼の名前らしい。
何でも円状の物は背中に装着するらしく、それで空を飛べるようになるらしい。
但し、三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要とのこと。


「まるで天使、ね」


天使とは太極に存在するソレを思い出す暁美ほむら。
広川は何を思って支給したかは解らない。
だが喧嘩を売られているのは事実だろう。
そして広川は本来知りうることのない事実を認識している可能性がある。

名簿を信じるならば魔法少女の参加者が五人。
その五人は鹿目まどかと暁美ほむらにとって断ち切れない存在達。
之を把握している外部の人間は一部の魔法少女と宇宙からの来訪者だけだ。
白と黒の魔法少女を始めとする繰り返される見滝原の歴史から他の魔法少女が関わっている可能性は低い。
ならば、インキュベーターが広川に関わっている可能性が高いだろう。
何にせよ鹿目まどかと共に生き残らなければ未来は無いのだが。


支給された帝具と呼ばれる翼は装着せずにバッグに戻す。
目立つ、翼を宿している女子中学生は注目を浴びてしまうだろう。
今更恥ずかしさなどないが、それはそれ、これはこれである。
単純な移動でも邪魔である。飛翔は魅力的だが制限を考えると使いどころを見極める必要があるようだ。

思えば自分も本気になれば黒い翼を生やすことも可能だろう。
しかし消費する魔力を考えると発動する時、それは運命を打開する時。
少なくとも絶対的なピンチ――所謂絶望の時にしか使えない。

時間停止と対なる白と黒の翼。
後は銃火器が揃えば文句はないのだが支給されているのはマスティマのみだった。
現地調達がこの会場で出来るかは不明だが単純な火力の確保を視野に入れるべきだ。
地図と現在地を照らし合わせると北方司令部が一番目的に近づける予感がする。
司令部がどんな場所かは知らないがコンサートホールや病院と比べると銃火器がありそうだ。


「その前に……」


近づいて来る。
病院を出た所で誰かが近づいて来る。
女だ、女が近づいて来る。
暁美ほむらにとって初の遭遇、殺し合いが始まってから初めての接触者。
さて、どう動くべきか。

(……病院から何か物を取っておくべきだったわね)

その前に医薬品なり包帯なり拝借しておけばよかったと後悔。
備えあれば憂いなしの通り在っても腐ることのない代物。
しかし気付いた所で遅く、今は来訪者との接触が第一関門である。


(危険人物ならば排除……だけどまずは情報を聞き出す――)



「私の名前はエスデス、お前の名前はなんだ?」



(名乗ってきた……?)


参加者には予め名簿が配布されている。
之により自分や知り合いが参加している情報を掴めている。
殺し合いの場において、自分の名前を簡単に宣言することは危険を伴う。
悪評をばら撒かれれば自分が辛い立場に立たされてしまう。
名簿を見るに知り合いよりも遥かに関わりのない人物が多数を占めている現状。
エスデスと名乗った女は何も恐れていないのだろうか。


「私は美樹……暁美ほむら。エスデスさんは一人で歩いていたのですか?」


偽名を名乗ろうとしたが自分の名前を教える暁美ほむら。
普段なら美樹さやかの名前を使っているだろうがどうも彼女は違う。
本来の時間軸とは違い、最後に見た美樹さやかは相当デキる魔法少女だった。
下手に騙れば自分の首を絞める事になるだろうと判断。


「私は一人だ。出会った人間はアヴドゥルという男一人だけだが……暁美ほむら、DIOの館に攻めこまないか?」


「……は?」


何を言っているんだこの女は。
暁美ほむらが思った偽りのない感想である。
まずアヴドゥルと言われても誰だか知らない。
DIO……恐らく人名だろうがその人間も知らない。
館に攻めこむ、現実離れ過ぎていて何一つ共感する事が出来ない。
そもそも何のために攻めこまなければいけないのか。
殺し合いという一種の極限状態で何故攻めこまなければならないのか。
常人なら発想るすることすら出来ないであろう事をエスデスはニヤけながら簡単に言い放つ。


(あまり良い印象を持てないわね)


「何も驚くことはない。悪を殺すのに理由はいらないだろう?」


「そのDIOって人は何をしたんですか?」


「……そう言えば聞いていないな。後で合流した時にアヴドゥルに聞こうじゃないか」


「し、知らないで殺すと言って……え」


「なに、邪悪の根源と呼ばれていた男だ。見る価値はあるだろう。
 六時間後――朝の六時にコンサートホールに集合しDIOの館に攻めこむのだが暁美ほむら、お前もどうだ?」


エスデスと言う女。
どうやら一般人の範疇から飛び抜けている思考の持ち主らしい。
初対面と思われる参加者に邪悪の根源たる存在を教えられた。
それが偽りである可能性でもあるのだが彼女は殺す対象に決め込んだ。
出会ってもいない参加者をたった数秒の会話で決めたのだ。


(有り得ない……この場を早く切り抜けるべきね)


この手の人間に主導権を握られては自分に火の粉が振りかかる。
適当に場を流し別行動を取るのが先決だろう。
つまりコンサートホールに集合することを承諾しこの場を去る。

行動は別にしてエスデスから離れればいい。
必ずコンサートホールに向かう必要はないのだ。
そもそも鹿目まどかを見つけられていない現状、DIOの館に行く時間が勿体無い。


「解りました。でも私は普通の女子中学生ですので戦う力は持っていません。
 明るくなるまで病院に隠れていますから後で合流しましょう」


「何を言っている? 私の目を騙せるとでも思っているのか……そうか。
 暁美ほむら、お前は私を見てから警戒しているだろう。偽名を使おうとしたしな。
 大体普通の女子中学生……とやらは知らんが普通の子供が初対面の人間とこうして話せるのか?
 恐怖に震えているだろう……だがお前の瞳は決意に溢れている、戦う瞳だ。
 そもそも先程から退路の確認をしている奴が何を言っている……お前の力を見抜けていないとでも思ったかッ!」


「――ッ! こ、氷!?」


適当な設定を騙りエスデスから離れようとしたが彼女の方が何枚も上手だった。
総てを見透かされていた暁美ほむら、偽名を名乗ろうとしたこともバレていた。
エスデスの言うとおり普通の女子中学生にしては流暢に話し過ぎたか。

次からは気を付けたいがそんなことを言っている場合じゃあない。

突然エスデスから発せられた殺気は相対してきた魔法少女達よりも格上のソレだ。
飲み込まれる、飲み込まれてしまえば、囚えられてしまえば最後、死を待つのみ。
振られた腕から辿るように放たれた氷が自分に迫ってくるのだ、黙っていれば死んでしまう。

「っ」

「避けるか! その動体視力は素晴らしいな」


左斜め下に身体を移動させ潜るように氷を回避する。
耳元を掠めた氷はそのまま直進し病院の玄関扉を一部破壊した。
大きさ其の物は別段大きいとは言えなかった、それでも建物を破壊している。
人体に当たればそれなりの損傷になるだろう、まるで魔法のようだ。

感心するエスデスだが暁美ほむらにとってその反応は望んでいない。
体勢を低くしたまま横に一歩踏み出すとその足を軸に半回転するように振り向く。
背を向けるのは危険だが走った方が逃げやすいのは事実。このまま逃げ切る。


「敵対するつもりはないが――その方向は私がこれから行こうとしていた。重なってしまったなぁ……!!」


「――この女っ!」


声が聞こえたので振り返ってみれば笑いながら追いかけてくる悪魔の姿が一つ。
戦闘狂、狂っている女は行き先が同じなどと抜かし暁美ほむらを追いかけ始めた。
力を試したいならもっとまともな方法で頼みたいものである。


(お宝を発見してくるだとかボスを倒してくるとか……こんなこと考えている場合じゃない)


夢や希望は捨てている、魔法少女の契約を交わした時から。
現実は非情であり殺し合いの会場にて戦闘狂から逃げる事態になってしまった。
迫る氷はギリギリの部分で掠めておりエスデスが遊んでいる証拠だ。
直接当ててこないのは彼女の性格なのだろうか、実に厭らしい。

(魔法少女……って感じではないけれど)

魔力を感じないと言うよりは魔法少女特有の感じが掴めないと言ったところ。
言葉で説明するモノではなく感覚に近い。
エスデスは魔法少女ではないだろう。ならば、氷の力は何なのか。解らない。

解らないが翼が支給されている現実を受け止めるに何が起きても不思議ではない。
そもそも自分の存在自体が不思議の塊だ、いちいち立ち止まってる暇はないようだ。



ならば――



「私はまどかのためにもこんなところで躓いている場合じゃないの――さようなら」



――時間を止めて。


暁美ほむらと彼女が心を赦した存在のみが認識出来る禁忌の聖域。
停止した世界では暁美ほむらが神でありそれに抗う雑兵に生きる権利は存在しない。
正真正銘彼女の切り札である。

切り札とは連発する代物ではない。
魔法少女の源であるソウルジェムに蓄積される穢れ。
それを取り払うグリーフシードの確保はこの会場では難しいだろう。
魔女の存在が確認出来るかどうかも怪しい。
他の魔法少女を魔女にさせ殺す手段があるが現実的に行わないだろう。
よって普段よりも魔法の使用を抑える必要がある。

そして制限である。
身体が重い、魔力の消費が思ったよりも早い。
普段の何倍もの消費量だ。
切り札に相応しい程に――広川の嫌がらせだろうか。

何にせよ十数秒が経過した後、暁美ほむらは時を動かした。
思ったよりも勝手が悪くなっている。
使い時を真剣に考えた方が良いだろう。


「……まだ追ってきてる」


少し後方へ視線を流すと相変わらずエスデスが追って来ていた。
方向が同じなのは解るが殺気は抑えてほしいところだ。
力試しのつもりだろうがいい迷惑である。
このまま逃げ切り森に入ればエスデスも自分を見失うだろう、そう思いたい。


暁美ほむらは鹿目まどかのために立ち止まっている時間はない。
故に氷の女王と遊んでいる時間はないのだ。


【C-1/西/一日目/黎明】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:健康
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
0:エスデスから逃げる。
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段
5:コンサートホールに行く……?
[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。

【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】
 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。
 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。
 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。
 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。


時計の針が止まった時。
それは総ての生命が止まる時と同義である。

動かない時間を認識していない時。
その存在はこの世界から隔絶されたと同義である。

停止された世界を認識出来る存在は一般人とは呼べないだろう。
特別な力に魅入られた特別な存在だ。
暁美ほむらは神秘に触れた結果禁忌の魔法を手に入れてしまった。


「ククク……」


その力を認識出来るのは暁美ほむら本人と心を赦した存在のみ。
他の存在の時は総て停止する。


「アハハハ……ククッ……アハハハハハ!」


それらを総てぶち壊し介入する存在。
神と同立する同じ禁忌の力を手に入れた存在。


「暁美ほむら……暁美ほむら。 お前は今、止めたな? 止めたよな?」


それは『世界』
自分だけが神になれる世界を手に入れたと同義である。


「これは……そうか、お前もか。
 楽しいぞ、私はどうやらまだまだ楽しめるようだなァ!」


己の鍛錬だけで『世界』を手に入れた存在『エスデス』
彼女の興味は世界の針を止める暁美ほむらに囚われてしまった。



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康、高揚感、興奮状態
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
1:暁美ほむらを追いかけ遊ぶ。
2:その後DIOの館へ攻め込む。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。




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011:炎の魔術師の不幸 エスデス 047:笑う女王と嗤う法皇
002:無謀な炎 暁美ほむら
最終更新:2015年05月27日 00:12