5人と1人ともう1人(前編) ◆LJ21nQDqcs


スザクたちはE-6からE-5、そしてD-5へ向けて歩いていた。
目的地ははっきりしているものの、ここは市街地である。
入り組んだ路地、細かい遮蔽物。立ち並ぶビル、一戸建て、長屋。
裏路地、しかも下町特有のその様子は一言で言えば雑多。真っ直ぐ歩くには障害物が多すぎて、すぐに道に迷ってしまう。
そこで目印になるのが政庁である。
目的地である象の像へ通じる橋は、政庁の左側を目指せばいい。河にたどり着いた場合はそのまま河に沿って北上すればいい。
大通りは当然ある。
そしてメインストリートを歩けば象の像への中継ポイントである政庁まではほぼ一本道である事は、過去に首輪探知機を使った時に分かっている。
だが、それは出来無い。
夕陽をバックに大道を四人で横並びになって歩くのか。
そんな大昔のテレビドラマのOPのようなことをすれば、たちまちのうちに捕捉されてしまう。
捕捉された場合、一行にはそれを跳ね返す戦力は無いと言えた。

同行する四人のうち、非戦闘員が二人。
しかも戦闘要員であるレイもスザクも満身創痍で、遊撃ならともかく迎撃戦力としては心許ない。
そして非戦闘員の中でも戦場ヶ原ひたぎは、恐らくは生き残っている参加者のうち、もっとも生存能力で劣っている人間の一人と言える。
さらに言えば彼女はそれを補う肉体技術も支給品もない。そして武器を手に取る気も技術を習得する気もさらさらないときている。
働いたら負けかなと思ってるC.C.も含めて、単純に言えば足手まといであり、戦力外。
この生き残りのシビアなゲームに於いて、まだ生きていることが不思議の一言に尽きるという人間なのだ。
ここまで読むと、あぁよくいるMMOのお姫様プレイな人ね、と言う印象もある。
だが、彼女らの独創的なところは、そんな現実に唾を吐きかけて罵倒の言葉をたっぷり浴びせる気概の持ち主だということだ。

正直何故このような厄介きわまる参加者二人を、保護対象として同行しているのか。
それは同行している二人の男、レイ・ラングレンと枢木スザクも歩きながら思っていた。
まぁ彼らにとって幸運なことに、女性陣はその舌鋒を振るうことは、この行動中はさして無かった。
せいぜいがC.C.が冷えたピザがまずいと言ったり、C.C.がマジックテープ財布をビリビリとやって戦場ヶ原に嫌がらせをするくらい。
それよりも、ディバッグから時折顔を出してニャーニャーと可愛らしく合唱する三匹の子猫や、
スザクが持ち歩いている赤ハロがC.C.のオレンジハロに対して、ニーサンニーヤアニィなどと話しかけ、ドーキ!ドーキ!と肩を組むなどしていたことの方がやかましかったくらいだ。
わたしとしてはアニチャマがいいなぁ。


ともかくとして、スザクにとってC.C.と同行することになんら不思議は無かった。
ゼロ・レクイエム完遂のための同志。
なにやら記憶障害があるようだが、この猫のような魔女は計画の同志であり、なんとしても共に生き残らねばならない間柄である。
なにより随行中に聞き出した話は彼にとっても実りのあるものではあった。


C.Cは今まで身に起こった出来事を、ハロ2体を弄びながら、漏らさず的確に簡潔に語っていた。
嘘を言う必要も煙に巻く必要も、時間も余裕も無かったからである。
それに敵対的な様子さえ見せなければ、少なくとも、このスザクと言う男は手を出すことがないことを知っていたからだ。
まぁしょっぱなからして、"吸血"などと言う、C.C.の長い人生に置いても、かつ猟奇的かつ刺激的な体験なイベントを話した為、
スザクはともかくレイに対して無用な不信感を与える結果にはなったが。


まぁ元より眼帯の女、ライダーが非常識な個体だと言うことはレイにも分かっていた。
政庁の上方からの狙撃を警戒しながら、彼は思考に耽る。
非常識な奴は非常識なことをやらかすものだ。理解はしたくもないが、納得は出来る。
自分の目の前で見せつけられた、あのライダーと言う女の、超人的、いや超人そのものな能力。
鎖を自由自在に操り、一撃でコンクリートを粉砕するパワーに、驚異的な脚力。
何か現実離れした特徴を持っていた方が、まだ自分は人間だと言う安心が出来ると言うもの。
にしても、だ。
ライダーの行動にはレイも少々の疑問を覚えていた。
C.C.をまるで生き餌のように保護して血を吸い続け、神原をゴミのように処理する。
それくらいには非情な筈のライダーが、仲間を得て行動していると言う点だ。
悪党どもが徒党を組むのは別段不思議でもない。
現に世の倫理に照らし合わせた場合、悪党でしかないレイも、紆余曲折はあったものの今こうやってスザク達と共にある。
ただそれはあくまで協力関係であり、利用しあう関係に落ち着くものだ。
ましてや殺し合いに積極的に乗る、つまり優勝狙いである場合はその傾向が大きくなるはず。
常に傍にいることになる仲間と言う存在に、いつ後ろから撃たれるか分からないと言う状況。
戦力の増強と言う利点に対して、常に背中を気にしなければならないという精神的ストレスは大きなマイナスと言える。
よってその関係はかなりギスギスしたものになるか、完全な主従関係を築くことになるはず。

翻ってライダーと、フジノと呼ばれた女性はどうか。
二人の関係は極めて良好に思えた。
ライダーはフジノを戦力として温存していただけでなく、一方通行からの攻撃(?)によってフジノが危機に陥るや否や、すぐさまフジノを抱いて撤退。
手駒として考えているにしてはフジノをかなり大事に扱っている。
あれは最早仲間、背中を預ける友と言えるだろう。
どのようにして仲間として引き入れたのか、または屈服させたのか、またはライダー自身がフジノと言う女性に対して隷属しているのか。
ライダー、フジノ。
二人とも戦力として充分すぎるほどであり、その戦意は脅威であり驚異。
さらにチームとして完成されているだけでなく、結束も充分。
どうやらとんでもない連中と相対していたものだ、とレイは素直に二人組の実力を認めた。


スザクはライダーと直接相対した経験を持っている。
それ故に、かの怪物のデタラメ加減を知っている。
それ故に、そのライダーを苦も無く追い返し、贄として確保していたC.Cを置いて逃亡せざるを得なくさせたアーチャーの実力に驚嘆せざるを得なかった。
駅でのライダー・フジノとの戦いでもし彼が居てくれれば、神原をあのような目に合わせることも無かっただろう。
その神原もすでに、信長と相討ちになることで命を散らしてしまったようだが。
さらにC.C.から伝え聞く、短時間で1エリアを探索し切るアーチャーの能力。
彼ならば、これだけ入り組んだ街の中でもスザク達を捕捉出来るであろう。
こんな細い路地で、そのような戦力とぶつかることを考えるとぞっとしない。
彼が殺し合いに乗らず、かつ敵でない事をスザクは安堵した。

そして、そんな彼がもう大分時間がたったにも関わらず、一方通行と上条当麻の二人を連れて、こちらと合流していないことに、スザクは妙な不安を覚える。
説得力を形にしたかのようなあの背中に、全てを任せ、全てを預けたのは早計だったのではないか。
何故あの時、既に使用可能であった首輪探知機を起動させて周囲を観測しなかったのか。
不安は焦燥を呼び、スザクの心を支配する。
地図を見れば今現在は丁度政庁とD-6駅を捕捉出来る位置。D-5とE-6の狭間。
せめて政庁を目の前にして使う予定であった。一方通行と上条当麻、アーチャーとの合流を待って使うつもりであった。
だが、この不安をぬぐい去らずには居られない。
故にスザクはレイに提案する。
首輪探知機の起動を。


サーシェスは藤乃と別れて以降、小走りに政庁へと向かっていた。
メインストリートをシンボルタワーの方向を目指して一直線。
スザク達と違い、彼には守るべき一般人はいない。遮蔽物は道の脇にいくらでもある。
それでも信長に出会ってしまったら、どうしようもなく殺されるだろう。
 (あれはヤバ過ぎる)
サーシェスをもってしても十秒持ちこたえられるか分からなかったアーチャー。
それを信長は、おそらくは式達や一方通行達との連戦の後の疲労の中、倒してしまった。
さらに言えば首輪の爆発装置も解除して、立ち入り禁止エリアで安全な休憩すら可能。
禁止エリアの高所にてスナイパーライフルで狙撃されてきたら、こちらに対処のしようはない。

信長が銃器の類を扱えるだろうことを、サーシェスは自らの支給品の中にあったショットガンの説明書から知っていた。
なんでそんなものを戦国時代の人間が使えるんだよ、というツッコミをサーシェスはしたものだが、
今ならばもう銃とか使えても不思議じゃないですよねーという半ば呆れた感想すら持てる。
彼は小十郎の放電や幸村の大爆発っぷりなどのデタラメさを目の当たりにしてきたのだ。
戦国時代にショットガンなどというミスマッチくらいどうってことはなく感じてきていた。

それはさておき、信長に会ったらもうTHE END。はい、さようならである。
サーシェスにとって幸いなことに、信長はふらふらの状態。
休養を取る手段が豊富な信長にとっては今はじっくりと体力の回復を待ちたいところだろう。
なら今のうちにさっさと信長から離れるのが一番の方策だろうと、見当を付けていた。
政庁を通り抜けて橋を渡り、主催に対抗しようと息巻いている連中を焚き付けて、信長にぶつけるのもいい案かも知れない。
藤乃が象の像にたどり着く前に死ぬか、あっさり倒されたときは、この案でいってもいいかもしれない。
サーシェスの脳内は悪巧みで溢れかえり、早くこの悪意を垂れ流したいと願っていた。

そして途中やたらと見晴らしのいい広場、ようするに崩壊した絶望の城一帯に差し掛かった時のことである。
ふと背後から猛追してくる気配を感じ、用心深い彼は広場に出る直前で物陰に隠れてやり過ごす。
見れば東洋人のツンツンした髪型の少年が、がむしゃらに、なんの警戒もなく走っていた。
ふとアーチャーが到着するまで信長と戦っていたと言う二人の少年の内一人、『黒いツンツン髪の男の子』を思い出す。
走ってきた方向と外見的特徴を考えれば、まずその少年だろう。確定させるにはやや情報が足りないが。

何故このように急いでいるのか。
 (そりゃ政庁あたりに居る仲間と一刻も早く合流するためだろ)
サーシェスは自分の願望も含めてそう結論づけた。
 (なら、声をかけて合流した方がいいな)
そう思って呼びかけようとしたが、当の本人、ツンツン髪は脇目もふらず一心不乱に駆け抜けるばかりである。
全力疾走、一心不乱、無我夢中
その三つを体現した彼にはどんな呼びかけも無駄。追いかけねば差はドンドン広がるばかりで見失いかねない。
ここでツンツン髪を見失っても、サーシェスにはマイナスは無いようにも思えるだろう。
だが、サーシェスは彼がこれだけ急いでいる理由を一段階深く推察していた。
 (第三回放送までに政庁もしくは象の像に集合・出発するって言う約束でもしてんじゃねぇのか?)
そうだったら見失ったら、というか間に合わなかったら目的地に着いてももぬけの殻。
最悪はるばる象の像まで行っておきながら、なんの収穫も無しに一人ぼっちで立ちすくむ間抜けな事態になりかねない。
おいおい、やべぇよとサーシェスもツンツン髪を疾走して追いかける。
 (ただの高校生にしては走り方が堂にいっている。だがプロの傭兵を相手にするには、まだまだだな)
大人気ない対抗心を燃やして、サーシェスはだだっ広いだけの広場を駆け抜けて行くツンツン髪を、隠密行動しながら尾行・追跡する。
ツンツン髪の行くところに待ち受けるだろう多くの人間達を、騙して、騙して、殺し尽くすことを夢想して。


首輪探知機が起動し、光点がともる。
画面をのぞき込む四人の顔が一斉に訝しげに曇る。
政庁に9つ。
D-6に光点が一つ。
そしてE-6北東部へ動き、画面から消えていく光点が一つ。
E-6公園を通り抜けてそれなりのスピードで北西を目指す光点が一つ。
それをジグザグしながら追いかける光点が一つ。
そして中心、つまりスザク達の所に四つ。


まず政庁にともる9つの光点。
これだけの大集団が象の像以外で入り乱れる事態は想定外だが、政庁の持つ地理的特性を考えれば当然と頷く事も出来た。
西側へ渡るルートは陸路では四つしか無い。
うち南北二つのルートはかなりの遠回り。
禁止エリアによって細長くなってしまっている東側の状況を見るに、
チューブから押し出される液体のように、入り口、つまり政庁側の橋に集中することは想像に難くなかった。
もしかしたら象の像に集まるプランに乗った人間が、そんな重要ポイントである政庁に集結していった結果なのかも知れない。
そうだとすると象の像にまで移動する必要はなくなる。政庁に行きさえすれば戦力と情報が集結するのだ。
やはり政庁到達が最優先だな、とスザクは呟く。


次いで最も懸念されていたアーチャー達三人の行方についてレイは考える。
このE-6公園を抜けて疾走する光点がアーチャーの可能性は高い。
政庁と正反対に向かっている光点が、アーチャー達とはとても思えなかったのも判断材料の一つ。
だとするなら上条当麻と一方通行の二人は何者かの襲撃によって死んでしまったと見るべきか。
C.C.が言うにはアーチャーが単独行をしているにしては遅すぎるそうだが、
あの二人を失うほどの激戦が行われたのだとしたら、アーチャーもまた重傷を負った可能性が高い。
で、あるならばその激戦を行った相手は誰か。
ライダーとフジノ。
このコンビならば、アーチャーをも圧倒しかねない。
だとするならば、このジグザグと追いかける光点はライダーであろうか?
手負いのアーチャーと、それを追撃するライダー。
ならばこのアーチャーの機動の遅さも納得できる。
フジノはアーチャー、上条、一方通行との戦いで死んだのだろう。もしくは画面右側に消えていった光点がそうなのか。
だがライダー独りだけならば、こちらがサポートすればアーチャーなら勝てる。おそらくアーチャーもそれが目的なのだろう。
この速度ならば政庁に先回りすることも可能だ。そこからレイがD-6駅での死闘のように狙撃して牽制すれば、アーチャーも戦い易くなるだろう。
用心深いライダーのことだから、政庁からの狙撃を受ければすぐさま撤退するかもしれない。
だが、アーチャーを守ることが出来れば、それは大きなプラスだ。
無論、これは想像に想像を重ねた考察であり、一つの想定に過ぎないことはレイにも分かっていた。

とにかくも政庁に急がねばならない。
このような殺し合いの場で、人が集まりすぎていて良い事は、あまりないのだ。
そこに殺し合いに乗った人間が一人でも混ざっていれば、容易に大量殺戮の場になる。
象の像などというおそらくは開放的なエリアでの集合とは違い、政庁は周りをコンクリートで固めた監獄塔だ。
出口は一階にしか無く、降りる手段も限られている。待ち伏せはいくらでも容易なのだ。
有用な情報を聞き出す前にあらかた事が終わってからでは仕方がない。急がねば。

しかし問題はこのD-6エリアでうごめく光点である。
誰か首輪の解除に成功したと言うのか。
しかもこの光点は、先の3つの光点と同じ場所から動いていったように見える軌跡を辿っている。
 まさか、信長か?
そうだとしたら一大事である。一箇所で留まっている故、休息中なのかもしれない。
対策を至急講じる必要がある。
信長で無いにせよ、首輪の爆破装置を解除した人間がそこにいるのだ。何らかの対処は必要と言える。

レイはもうすぐ制限時間である一分を過ぎようとしている首輪探知機を見つめながら思考を慌ただしくまとめていた。


四つ、とスザクがディバッグの中にある真田幸村の首輪を取り出しながら口ずさむ。
やはり、この首輪探知機は首輪単体には反応を示さない。
それが死体に付けられている首輪についても同じかどうかは分からないが、と思考を巡らせたところでC.C.が呟く。
この探知機は、死体に付けられている首輪には反応しないのだな、と。
C.C.、そして戦場ヶ原の両名が言うには、このエリアの程近くに御坂美琴なる人物の死体が安置されていると言う。
無論死体を漁られている可能性もあるが、立ち並ぶ住宅街の一つに隠してある死体を発見出来る人間は、そうはいないだろう。
ある程度の見当を付けられる人間であればそれも可能であろうが。
つまり、あの襲撃の当事者。
となれば、引き算をすれば明白である。

ガトリングガンを撃った赤毛の男。

彼以外に御坂美琴の死体を漁る事の出来る人間はいない。
もし御坂美琴の死体が荒らされていたら、それはつまり赤毛の男の仕業である。
死体が身に着けている首輪に対して、首輪探知機が反応するかどうかの判断は据え置く形となる。
反対に御坂美琴の死体がそのままであれば、周囲に赤毛の男は通りがからなかったと言う事になる。
首輪探知機の限界を知ることも出来る。非情に徹すれば、御坂美琴の首輪を回収する事も出来る。
いずれにしても余裕があれば、確認しに行くのは悪くない選択だ。
スザクはしばしの思案に暮れた。


戦場ヶ原ひたぎは沈黙を守っていた。
傍から見ればぼうっとしているようにも見える。
ここに至るまでの移動中、少しは手伝えとレイやスザクにも思われるほどにぼうっとしていた。
ここまで彼女がしていたことといえば右足と左足を交互に動かし、
背中のディバッグから子猫を取り出してニャーニャーと言わせたくらいである。

2・2・6

日本戦前史をファッショ一色に彩った大事件のことではない。
超働き蟻、怠け蟻、普通の働き蟻。
一つの巣に巣食う蟻の割合であると言われる。
全体の八割が働いていても、残りの二割は怠ける。その二割の仕事の遅れを二割の超働き者がカヴァーする、と言った次第だ。
また、この怠け者の二割を淘汰したとしても、その残りの二割は怠け者になる。
どれだけ怠け者を排除しようとしても、怠け者は偏在するものだ、と言う例え話によく使われる逸話である。

今の戦場ヶ原ひたぎは、その怠け者にあたると言うところか。
C.C.はなんとなくそんな事を思いながらピザにかじりついていた。
傍から見ればC.C.もまた怠け者であり、怠け者の割合が五割になってしまうため、
この逸話の正当性を遥かに脅かせていたのだが、そんなことはこの緑の髪の魔女にとっては知った事ではない。

思えば目を覚ましてから戦場ヶ原ひたぎは、コレといってなにもしていない。
それまで付き添ってきた上条当麻と離れたのが、やはり不安なのか。
それとも心中する覚悟であった神原と言う少女の死が、言葉に出さずとも堪えているのか。
 (おそらくは両方だろうな)
C.Cは判断材料も全くなく、女の勘だけで見当をつけた。
で、あるならばやはり慰めるべきなのだろうか。励ますべきなのだろうか。

 (キャラじゃないな)

C.C.は一笑に付した。それに彼女の行動力は今は必要ない。
C.C.自身が把握している戦場ヶ原ひたぎの行動力は、場を混乱させ、かき回しかねない。
冷静な判断力も持ち合わせているが、それ以上に根が女なのだ。
ルルーシュがいるかも知れない象の像、そして政庁への道程、邪魔をされては困る。
よって戦場ヶ原ひたぎに対して、C.C.はコレといって口を差し出すことはしなかった。

無論、そのような事を考えているC.C.自身もまた、女の論理を前面に押し出した人間である。
彼女が彼女を理解しているように、彼女の行動力もまた、場を混乱させるだけであろう。
要するに女性陣二人が互いに口を聞いていないがために、ここまでは順調に事が進んでいた。
だがそれは、飽くまで男性陣二人にとって都合のいいように、でしか無い。
その都合が正しいかどうかなど神のみぞ知る話だ。
それに他人の都合に従うのが最良の道などと、そんな事、誰が決めたと言うのだ。


首輪探知機を起動させてから一分が経とうとしていた。
得た情報を元に方針を定めたスザクは、政庁へ向かう旨を再度確認する為、顔を上げたその時。
レイが声を上げた。

 「消えた?!」

三人の視線が一斉にレイに集中する。
そしてレイの視線の先、首輪探知機のディスプレイに全員が注目する。
政庁に灯っていた光点が1、2、3、4、5、6、7つ。
7つにまで一気に減っていた。
一瞬にして。

死体につけた首輪も光点として数えられると言うのなら、一気に首輪を刈り取られたと言う事。
死体の着けている首輪が光点として数えられないと言うのなら、一気に二人が殺されたと言う事。
いずれにせよ、政庁は戦場と化している、もしくは化していたと言う事。
 (ならば近づかない方が無難なのか)
と制限時間を過ぎて真っ黒になった首輪探知機のディスプレイを見ながら、スザクが思案した、その瞬間。


轟音が辺りに轟く。


いや、音などと言う生易しいものではない。
音というもののもつ波が、その本質をさらけ出して四人の周囲を襲った。
最早それは衝撃波。
思わず耳を塞ぎ目を閉じる。
これが音響兵器だとしたら、効果は抜群であっただろう。
次いで立ち並ぶビル街から窓ガラスが一斉に割れて、上から襲いかかる。
スザクとレイが女性陣二人に飛びかかり、落下物から二人を守る。
幸いにして全員ケガはないと確認する間もなく、足元が震えだす。
間髪入れずの地鳴りと地響きが四人の足元を襲い、最早立ち上がることすら困難になる。
立て続けのトラブルに恐慌に襲われないかと、戦場ヶ原を見る三人だったが、呆然として腰を抜かす寸前で立ち直ったようである。

そして周囲の混乱が収まりなにが起こったのか確認しようとするも、ここは高いビル群の谷間。
裏路地を歩く四人には周囲でなにが起こったのか、探る手段はない。
何かのトラップかも知れず、確認しようと飛び出した瞬間、狙撃されるかも知れない。
レイはそう判断し、声をかけようとしたが、しかし遅かった。
C.C.がとっとと大通りに出ていた為だ。
危ないと声を掛けようとレイがC.C.を見やると、彼女は指を指すでもなく一点を見つめていた。
その方向、北西。
レイもスザクも、やや遅れて戦場ヶ原も大通りに出て、一様に北西を見上げる。
政庁があると思しき方角は


高く高く立ち上る、砂煙に包まれていた。




その時、アリー・アル・サーシェスは政庁、もしくは象の像へ向かうと思われている上条当麻を追跡中であった。
しかしどうもおかしい。
直線的に象の像を目指すにしてはうろうろしすぎだし、政庁へ向かうにしては方向があさっての方を向いている。
にもかかわらず、彼の走りは躊躇がなく、一心不乱に疾走し続けている。
一瞬でも目を離したら、サーシェスですら見失ってしまいそうなほどに。
 (気が違いやがっただけか?)
サーシェスはそんな事を思いながら追跡を始めたことを軽く後悔したその時、
爆音が耳をつんざった。
彼はいきおいその爆音の元に視線を移した。そして目撃する。


政庁の崩壊を。


その崩壊による衝撃は離れているとは言えかなりのものである。
プロの傭兵と言えども多少の身じろぎはする。

政庁の方を向き、そして数歩たたらを踏んだ、その僅かな、たったそれだけの時間で。
歴戦の強者、一人で中東をかき回した戦争屋、アリー・アル・サーシェスは。
ただの男子高校生を見失ってしまった。




時系列順で読む


投下順で読む


203:魔王信長(後編) C.C. 224:5人と1人ともう1人(後編)
202:魔王信長(後編) 戦場ヶ原ひたぎ 224:5人と1人ともう1人(後編)
202:魔王信長(後編) 枢木スザク 224:5人と1人ともう1人(後編)
202:魔王信長(後編) レイ・ラングレン 224:5人と1人ともう1人(後編)
210:とある蛇の観測的美学 アリー・アル・サーシェス 224:5人と1人ともう1人(後編)


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最終更新:2010年03月19日 09:11