境界式 ―― Intermisson ◆C8THitgZTg



――― 17:53:54 ―――

そして、彼は境界を踏み越えた。




――― 17:56:30 ―――


紅い光が熔けていく。
林立する筐状の建造物。
広葉樹に覆われたなだらかな山肌。
それらの向こうで、赤色の夕日が熔鉄の如く熔け崩れていく。
風の音も、鳥の囀りすらも聞こえない静寂の中、漆黒の魔王だけが異様な存在感を放っていた。
市街と自然の境目が、まるで浮世と幽世の狭間のように感じられる。
それを如何にして言い表せば良いのだろう。

受肉した悪意。

ヒトのカタチをした瘴気。

どれだけ言葉を重ねようと、その威容は語り尽くせまい。
第六天魔王――その称号は誇張ではないのだ。


「――――何奴」


薄れ行く残光を背に、魔王が立ち上がる。
振り向いた先には、一人の女。
物音も立てず、気配すら感じさせず、しかし確かにそこにいる。
いつの間に現れたのか……それは大した問題ではない。
問うべきは『どうしてここにいることができるのか』だ。


―――否、それすらも魔王にとっては些事である。


「ぬぅん!」


腕と共に外套を振るう。
混濁した瘴気の渦が波濤となり、不敬なる女へと殺到する。
人知を超えた絶殺の一撃に、しかし哀れなる獲物は、怯えの表情すら見せなかった。
女は右腕をゆらりと前に突き出し、五指を握り込んだ。

「―――粛」

ごっ、と空間が軋む。
繰り出された瘴気の波が、空間もろとも内側へと圧縮され、消滅した。

「――――――」
「――――――」

魔術行使の余波が収まり、再び静寂が訪れる。
風すらも吹かぬ黄昏の空が、まるで死んだように凍りつく。
二、三間ほどの距離を置いて、魔王と魔術師は互いを睥睨した。

魔王の傷は浅くはない。
全身にくまなく傷を負い、鎧の随所にも損壊が見られる。
されど魔王は悠然と屹立し、眼前の痴れ者を見下ろしている。

魔術師もまた十全ではない。
かの魔王ほどではないにせよ、無傷というには程遠い有様である。
然れども魔術師は泰然と相対し、貫くような魔王の眼力を受け止めている。

永遠に続くかと思われた、しかしごく短い静寂の瞬間。
それを引き裂いたのは、低く響き渡る魔王の声であった。

「なにゆえ、余に楯突く」

聞く者を尽く畏怖させる独特の響き。
先に攻撃を行ったのは魔王である。
だが魔王の安寧を破り、不遜にも見下ろす位置に立たんとした時点で、敵対と見るには充分である。
魔術師は、彫像じみた表情を微塵も崩すことなく、魔王の問いに応えた。

「第六天魔王と事を構えるほど愚かではない。おまえに伝えておくことがあるだけだ」
「ほぅ……」

このとき、魔王は既に魔術師の正体を看破していた。
魔術師の持つ異質さを突き合せれば分かることだ。
まず、首輪をつけていないという異質。
首輪を解除したというのはまず有り得まい。
魔王の力を以ってすら、機能を停止させることしかできていないのだから。
ならば最初から首輪をつけていないのだと考えるのが自然だ。
そして、魔王に会うため禁止区域に踏み込んだという異質。
魔王が首輪を無効化したことを知り、尚且つこの区域にいると確認しなければ、こんな行為には及べない。
そこから導き出される解答は一つ。

「帝愛の狗めが。我に何用ぞ」

魔王の肉体から殺気が立ち上る。
だが魔術師は依然として、正の感情が欠落した貌のまま魔王を見据えていた。
帝愛に組する者であることすら否定しようとしていない。

「おまえの生死に興味はない。
 誰かに討たれようと、帝愛を皆殺しにしようと、私の目的の障害とならない限りは手をださん」

魔王の口元が歪む。
あまりにも不遜。
あまりにも不敬。
対峙する相手が第六天魔王と知りながら、こうも傲慢に振舞えるものか。

「フ……ハハハハハハ!」

しかし、魔王の口から迸ったのは哄笑であった。
恭順の意を見せるでもなく。
敵意を剥き出しにするでもなく。
ただ『興味がない』と言ってのける。
これを笑わずにおいて何を笑えというのか。
魔王の心の内から、憤怒の情が少しずつ薄らいでいく。
代わりに湧き上がってきたのは、目の前の道化への興味である。
興味がないと大見得を切った相手に何を乞うか。
殺すのはそれを観てからでも遅くない。

「用向きがあると言ったか。……許す、述べるがよい」

魔王に促され魔術師は口を開く。

「帝愛はもはや邪魔にしかならぬ。抵抗を目論む者達も同様である」
「余に取り入り、余の力を以って障害となる者を排す……それだけか、虫けら」

魔王が、長く息を吐く。
失望の色が混ざったそれを、魔術師は、否、と打ち消した。

「従うつもりも、従わせるつもりもない。ただ伝えるだけに過ぎぬ」

そう言って、魔術師はとある方角を指さした。
視界を阻む無数の建造物の向こうに、目指すべきものがあるとばかりに。

「殺戮を望むのならば、この方角に向かうがいい」
「……そういうことか」

言葉の通り、魔術師に魔王と従属関係を結ぶ意志はないのだろう。
魔王が殺戮を方針としていることを知った上で、自身にとって都合のいい道を示すだけなのだ。
恐らく魔術師の示す方角は、魔王の目的と魔術師の狙いを同時に充足する選択肢であるに違いない。
その結果として魔王が死のうと、その場にいる者を殲滅しようと、魔術師には興味がない。
だが、裏返せば別の解釈が見えてくる。
邪魔者の排除を望む魔術師が、特定の方角を示したのだ。
逆説的だが、それ以外の方向では魔術師の狙いは充足されないことになる。
思えば、魔術師は禁止区域に潜む魔王の位置を的確に把握していた。
帝愛に組する者の特権か、どこに誰がいるのか把握しているのだろう。
魔術師の示さない方角へ赴けば、無駄足となる危険性が高い。

「おまえが望むなら、その傷を癒し、他の情報をも教えよう。必要とあらば私を使え」

その代わり、存分に動けという言外の意思。
魔術師が魔王を利用し、魔王もまた魔術師を利用する。
薄弱な忠誠などより遥かに現実的な繋がりだろう。

―――魔王には知る由もないことだが、傷を癒すという言葉にも嘘はない。
限度を弁えぬ暴行によって亀裂の入った、存在不適合者の脊椎。
それを治癒したのは、他ならぬこの魔術師なのだ―――

第六天魔王、残虐なれど愚鈍にあらず。
魔術師を斬り捨てることなど、赤子の手を捻るよりも容易い。
だが、今ここで殺めることに意味はない。
事の順序を過つのは下賎なる者のやることである。

「是非もなし。貴様の甘言、乗ってくれよう」

魔王は外套を翻し、魔術師に背を向けた。
地平の果てに残光が消え、夜の闇が地上を覆う。
じきに三度目の放送が鳴る。
これを殺戮の狼煙とし、愚か者どもに死をくれてやろう。
魔王がその力を遺憾なく振るえば、四度目が訪れる前に全てを終わらせることも不可能ではないはずだ。
だがその前に―――魔王は一つだけ問うた。

「―――余は第六天魔王 織田信長。貴様の名を聞こう」

その質問に、魔術師は眉一つ動かさず答える。

「魔術師―――荒耶宗蓮

言葉は神託のように、重く闇夜に響き渡った。






――― 17:59:57 ―――

【D-6/一日目/放送直前】
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:全身に裂傷と打撲、腹部に激烈なダメージ、疲労(大)
[服装]:ギルガメッシュの鎧、黒のマント
[装備]:マシンガン(エアガン)@現実
[道具]:基本支給品一式、予備マガジン91本(合計100本×各30発)、予備の遮光カーテンx1 、マント用こいのぼりx1
    電動ノコギリ@現実 トンカチ@現実、その他戦いに使えそうな物x?
[思考]
基本:皆殺し。
1:いざ戦場へ ……。
2:荒耶の示す方向に向かい、皆殺しにする。
3:信長に弓を引いた光秀も殺す。
4:荒耶は利用してから殺す。
5:首輪を外す。
6:もっと強い武器を集める。場合によっては殺してでも。
7:高速の移動手段として馬を探す。
8:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。
[備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。
※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。
※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。
※トランザムバーストの影響を受けていません。
※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。
※瘴気によって首輪への爆破信号を完全に無効化しました。
※首輪の魔術的機構は《幻想殺し》によって破壊されました。
※具体的にどこへ向かうかは、次の書き手にお任せします。


【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、発現可能魔力多少低下、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:
[道具]:オレンジ色のコート
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
1:障害を排除させて工房に向かう。
2:体を完全に適合させる事に専念する。
3:必要最小限の範囲で障害を排除する。
4:機会があるようなら伊達政宗を始末しておきたい。
5:利用できそうなものは利用する。
6:可能なら、衛宮士郎の固有結界を目覚めさせ、異界として利用する。


※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※エツァリに話した内容は「一応は」真実です。ただしあくまで荒耶の主観なので幾らか誤りのある可能性もあります。


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202:魔王信長(後編) 織田信長 239:会合、魔人二人
219:運命の通り道~Dark Road or ○×Road 荒耶宗蓮 239:会合、魔人二人


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最終更新:2010年04月17日 23:16