夢幻の如くなり(後編) ◆mist32RAEs



   ◇   ◇   ◇


ゼクスらを見つけたのは偶然だった。
というより、こちらも信長から離れるために移動していた最中、バッタリ遭遇してしまったに過ぎない。
まだ制限は解除されておらず、今の自分は無力な素人だ。
だがあの女が引いたということは、それを知らなかったのか。

「誰かと思えばホントにゼクスかよ。で、テメーあの女に俺の制限のこと喋ったのか?」
「あいにくそんな暇も余裕もなかったがな……見ての通りのくたばり損ない、さ……」

やはり。
一方通行はそんなゼクスに対し、ハッと皮肉げに笑った。
確かに怪我の具合を見れば、長くはもたないだろうということは明らかだった。
念のために構えた支給品の二二口径をだらりと下ろして、ゆっくりとゼクスの表情を覗き込む。顔色は極めて悪い。

「ま、最初に言っとくけど助ける気ィねーから俺。ちょいと死ぬ前に知ってること色々喋ってくれや。断ったら少し寿命が縮むだけだがよォ?
 そのまま死ぬよかだいぶ痛ェ目に合うんじゃねーかなァ、ギャッハッハッハッハ!」

それは本心だった。
できれば今すぐ衝動に任せて血の華をぶちまけてやりたいが、今は能力が封じられており武器はゴム弾の拳銃ひとつ。
しかも相手は放っておけば、じきにくたばる身だ。すでに満身創痍でろくに抵抗すらできないだろう。
そんなヤツをわざわざ殺してもイマイチ楽しくなるとは思えなかった。
それより、この制限下でも制圧出来る相手に出会ったチャンスを利用し、情報を手にいれるべきだ。
正直にいって今後の戦いで相手を殺さぬように手加減できるとは自分で思えなかったし、する気にならなかった。

頭の中で声が聞こえ始めた。内なる衝動が殺せ、殺せと叫んでいる。
ぎしりと歯を食いしばり、この場はどうにかそれを押さえ込んだ。

「殺し合いに乗った……んだな」
「……べェつにィ? やるこた変わっちゃいねェよ。邪魔な奴はブッ殺して、ゲームの主催もブッ潰してやるだけだ。
 俺の都合のために虫ケラがいくらか死んでも知ったこっちゃねェ。踏みつぶして進むって、ただそれだけのこった」

今の一方通行は狂っているが最優先事項を忘れたわけではない。
殺人衝動にさえとらわれなければ、何をすべきか、そのためには何が必要かという思考を推し進めることは可能なのだ。
先程の戦闘で頭に血が上っていたのは確かだが、制限による無力化で冷静な判断力をどうにか取り戻した。
とりあえずゼクスから情報を手に入れること。そしてその荷物を奪い取ることが目的だ。
情報はいわずもがな、荷物の中に使える支給品があれば、無力化されている間はそれが頼りになる。
手に入れておくに越したことはないだろう。

「とりあえずもうすぐくたばるんだから、その荷物はいらねーよな? 俺が貰ってやるから寄越せオラ。ホレ、手に持ってるその拳銃もだよ」

はじめに支給されていた品の最後の一つ――アンチスキルのニニ口径ゴム弾拳銃を突きつけながら、ゼクスのデイパックを奪う。
まともに人を殺すことすらできない銃モドキに頼ることになるとは思わなかった。
あちらはこの銃がゴム弾であることなど知らないせいか、抵抗はない。またはすでにその力も尽きたか。
とにかく次だ。まだ用件は済んではいない。

「で、だ。こっちが本題なんだが、あと何分かで俺の制限が解ける。つまり能力をまた15分だけ使えるようになるわけだ。
 そん時にテメーに手伝ってもらいたいことがある。それまで死ぬんじゃねェぞォ? 終わったらサックリ楽に殺してやっからよォ」
「……」

すっかり忘れていたが、先刻手に入れたアーチャーの首輪を解析しなければならない。
しかも都合のいいことに他にもう一つサンプルがみつかったので失敗しても代わりがきく。
そのもう一つとは言わずもがな、眼前のゼクス・マーキスのことである。

「目的のために手段は選ばないということか……」
「ハッ、よく言われるけど違うんじゃねェのかァ? 目的のためならとっちゃいけない手段ってのが最初からあんだろうがよ。
 目的を定めた時点で手段ってのは限られてんだよ。そいつを見失った奴が選ばねェとか抜かすわけだ」
「お前は……違うと?」
「最初からなァ、元から俺が欲しいものは変わってねェよ。ちょいと事情が変わって、ちょいとやり方を変えたってだけだ」

そろそろ時間だ。時間を確認する。
路地の薄闇をぼんやりと照らす首輪のランプが赤から緑へ変わった。

「さて、時間だ」
「なにを……する気だ」
「まあ見てのお楽しみだ……っと」

ゼクスの顔をのぞき込むような動作で正面に腰を下ろし、無造作に片手で顔面を掴んだ。
驚いたように目を見開いてこちらを見ているが、能力が使えるようになった時点で向こうにはどうすることもできない。

(おとなしくしなァ、俺の声が聞こえるなら黙って頷け)
(な……ぐっ!?)
(俺とテメェの声をベクトル操作して直接お互いの頭蓋骨に響くように調整した。口ン中でモゴモゴやれば聞こえるはずだ。やってみろ)
(いわゆる……骨伝導という奴か。お前は盗聴機を想定して……?)

ゼクスもすでに気付いていたか。主催への反抗をブチあげただけはある。
この調子なら他にも何かすでに情報を得ているかもしれない。

(他にもこの首輪について何か知ってやがるな……どーせ直にくたばるんなら素直に全部ブチまけていけよ。
 テメェの大事なリリーナちゃんの敵討ちくらいやってやるからよォ)
(……私が接触した参加者――二十世紀末の日本からやってきた魔術師の解析結果だ……。
 これから話す内容は、基本的に彼の時代における技術を基準にしたものになる……。
 外面には視覚による情報の偽装・抑制を行うことに特化した概念物・礼装が埋め込まれ、現在も機能している。
 視覚妨害以外にも礼装が存在……恐らく魔術行使に対する防御、ただし魔力供給がされていないため、死体から外された状態では機能していない。
 中心部には金属……知る限りの材質において該当するものなし。トランシーバーに似た構造の装置が存在……機能の断定は不可能。
 ICチップらしきものが存在……機能の断定は不可能。電磁石と共に液体が存在……知る限りの液体に該当するものがない。
 製作技術――技術と工程。車、電化製品といった二十世紀の技術の範囲外で作られている。
 その技術品に対し、視覚妨害・魔術妨害の機能を持つ限定礼装によって保護を行っている。
 以上だ……私の荷物に情報をまとめたメモがあるから後で確認するがいい)
(ヘェ……いいぜ、今ので全部覚えた。おかげでだいぶ仕事がはかどりそォだ)

一方通行が暮らす学園都市の技術レベルは、おそらくその魔術師とやらの時代よりも実質数十年は進んでいる。
実際に調べてみれば新たにわかる事もあるだろう。制限もあることだし余計な手間を食っている暇はない。
再び能力を封じられる時間までに、やれる限りのことをしておかなくてはならないからだ。

(……こいつは)

早速、ゼクスを掴んだほうとは逆の手でアーチャーの首輪を取り出し、解析を開始する。
一見でその断片すら解析できない要素が複数存在。これが魔術の礼装というやつか。
液体……おそらく液体爆薬、そしてトランシーバーについては多少未知の要素があるものの想定の範囲内だ。
バイタルサインをチェックする機能と見られる回路あり……しかし現在は機能していない。
爆薬、そしてそれに付属する回路と繋がっているが……止まっている。
ということは、おそらくこれを禁止エリアに放り込んでも爆発はしないだろう。
問題は魔術礼装……一方通行にとって未知の領域だ。
ここに来てから未知の力に触れたのは二回。一度目は織田信長の黒い影――侵食する瘴気。
そしてもうひとつ……一方通行の操作したベクトルすら乱す、あの女の能力――停止の結界。
どちらかといえば後者のものに性質が近い。
首輪をしていなかったあの女は主催側の人間である可能性が高い――つまりこの首輪ギミックの作者である確率は高い。
信長の能力であれば、すでにあっさり反射できるほど解析は済んでいるのだが、そううまくは行かないようだ。

(こっちは解析終了だ……次は生きているテメェの首輪を調べる。残り……9分と28秒。こりゃ楽勝だなァ。
 しかしこっちのヤツと違って、そいつは今もバイタルサインのチェックが生きてるだろうぜ。ま、俺自身は反射で済むワケだがよ。
 テメェは俺がしくじれば爆発してオシマイなんだが、今更恨む筋合いでもねェだろう? そんときゃ大人しく諦めなゼクス)
(いいさ……今更こんな生命など惜しくはない……帝愛打倒に辿り着くための捨て石になれというなら、なってみせよう……!)
(ヒャッハッハ……いい心がけだ。んじゃまァ――)
(……だが!)

手首を強い力で握り締められた感触があった。
隻腕も同然のゼクスによって、一方通行の手が掴まれている。
反射的に、殺すか――と思い立った瞬間、ベクトル操作によるものではない、はっきりとした肉声が耳に響いた。

「これだけは……聞いておけ……一方通行……!」
「てめ……」
「いいか……勝利とは……水に落ちた犬を棒で叩くことだ……っ!」
「……はァ?」

少なくとも殺意はない。
何かを伝えようとしていることは分かる。
しかし、この死にかけの男は果たしてまともな思考で喋っているのだろうか。
思わずその顔をのぞきこんでしまう。
ゼクスの眼には確固たる意志の光があった。

思い出す――最強のレベル5たる自分の前に立ちはだかった、ボロボロになりながらも一歩も引かなかった男がいた。
そして、それを守るように立ちはだかった女がいた。あいつらも――確かこんな眼をしてはいなかったか。
一瞬、我を忘れる。

「……オマエ」
「勝つ事とは……負かすこと、蹴落とすこと、躓いた者を踏みつぶすこと、相手の傷口を広げて塩を塗りこむことだ……!
 勝ち残るとは……屍の山を超えていくことだ……! 決して美しいことではない……残酷でさえある……っ!」

そしてその事実に気づいたとき、自分が憧れた/殺したくてたまらない存在が、内なる思考の中で歪んでいく。
まるで鼓動のように、どくんと自身の体が震えたように感じた。

「私は甘すぎた……ヒイロ・ユイのようには、それが、できなかった……ゆえに此処で無為の内に死ぬのは当然の事なのだろう……!
 一方通行……貴様がそれでも勝ちたいと望むなら、鬼になれ……ッ!!」

一方通行の中で突如、爆発するように殺意が芽生えた。
黒い感情に満ちた、熱に浮かされたような狂喜が尋常とは思えぬ高ぶりをもたらす。
鬼気迫る――まさにその言葉がぴったりとハマる。

「ハハァ…………いいぜ、死ねよ」

――首輪だけを残して、ゼクス・マーキスが歪む。
バンッッッ!!――と、自動車のタイヤが爆ぜるかのような鈍い破裂音が響いた。

「くか――」

びちゃり、びちゃり。

「くくかきくかこ――」

湿った柔らかい何かがべちゃべちゃと叩きつけられる音。

「くかきかここかこくかくかか――」

それが断続的に続く中、甲高くどこか非人間的な響きの哄笑が生まれ、徐々にそのボリュームを上げていく。

「くか――ぎゃは、ぎゃは、ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ひゃっはっはっはっはっはははっはっはっはっはっはっははははははあははひゃはひゃひゃひゃはは、ひゃは
 ゲホッ、ゲホッ、ぎゃは、ひゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ゲッハハハ、ハハハハハハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハ、ヒャッハッハッハッハッハッハッハッハッハハ
 ギャハハハハハハ―――――――――――――――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!!」

可笑しくて可笑しくてたまらない。
息が切れるまで笑いつづけ、むせてもなお収まらずに笑い続ける。
口裂けの怪物みたいに、いっぱいに広げた口腔から、こみ上げてくる衝動のままに感情をぶちまけた。
楽しい。楽しい。
殺すのは楽しい。
スッキリ爽快、殺す度に思考がクリアになっていく感覚すらある。


「笑わせてくれんじゃねェか負け犬君がよォ! いいぜェ! 文句なしの完全勝利、キルゼムオールでキッチリ締めてやらァ!!
 鬼になれだァ!? 悪魔でも魔王でもなってやらァ! 俺を誰だと思ってやがる!! 俺は最強で無敵のレベル5様なンだ!!
 テメェやそこらの雑魚みてェな弱い生き物なんかじゃねェンだよォォォォ!!!!」


べっとりと赤く染まったアスファルトの中心、生臭い血と骨と臓物の中で彼は吼える。
表面にゼクス・マーキスと刻まれた銀色のリングをその手に握り、夜の街に孤独な悪党が咆哮を轟かす。
その叫びはまるで誰も寄せ付けぬ悪鬼。
または寂しくて泣いている童のようで――。




【D-5 南部/一日目/真夜中】

【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)、能力使用不可(使用可能まで約一時間)
[服装]:私服
[装備]:パチンコ玉@現実×少量、アンチスキル用ニニ口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式×2、缶コーヒー各種@現実×多数、首輪×3(アーチャー、利根川、ゼクス)、
    H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数5/12発/)@現実、3499万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達、
    真田幸村の槍×2、H&K MP5K(SMG/40/40発/)@現実、その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、ピザ×10@現実
    Draganflyer X6(残バッテリー約10分)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、士郎の首輪解析メモ
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
0:能力が使えるようになるまで身を隠す。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)。
2:このゲームをぶっ壊す!
3:首輪を解析する。首輪を解除出来たらあの女(荒耶)をブチ殺す。
4:上条当麻は絶対に絶対に絶対に絶対にブチ殺す。

[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
ライダーの石化能力・藤乃の念動力の制限・信長の瘴気・荒耶の魔術(不完全)を分析しました。
※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。
※橙子(荒耶)の名前は知りませんが、首輪の魔術礼装の作者ではないかと考えています。
※ゼクスから士郎が解析した首輪の構造情報を入手しました。


【アンチスキルの22口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録】
学園都市のボランティア警備員であるアンチスキルが使う暴徒鎮圧用拳銃。
反動が小さく素人でも扱える22口径、弾頭もゴム製で、あたってもせいぜい肋骨が折れる程度の威力しかない。


   ◇   ◇   ◇


デパートの上層部から眺める真夜中の街並みは、街灯の人工的な明かりが星屑の海を思わせる。
戦国の世にはない、天井から床まで一面すべてギヤマンでできた透明な壁。
そこから透けて見える夜景を眺めつつ、第六天魔王こと織田信長は建物内で調達した酒瓶に口をつけた。
足元に広がる下界をよくよく見てみれば、先刻の戦による余波であちこちから火の手が上がっている。
まさに戦場の跡。打ち砕かれし建築物は朽ち果てた姿を晒し、骸は誰にも顧みられぬまま捨て置かれる地獄。
信長にとっては見慣れたものだ。汚れし世に救いなど一辺も無く、邪気と魔性に満ちた人界――それが戦国。

「夜に参ずるは黒凶つ……下天の内に充ち満ちて……永劫現を貶めん……」

再び酒をあおった。
一旦、外套と鎧を外しており、その下の肉体に布切れを裂いて包帯の代わりとし、傷を覆ってある。
今は休息の時だ。ここから見る限り、辺り一帯は静かなものである。
遙か遠方からでも立ち昇った、先程のような大きな戦の機は未だ見えない。
天の理なくば、是非も無し。
ここは力を蓄え、刻来れば地獄の釜を開くが如き鏖殺の戦を始めるべし。
百鬼眷属、我が背名にあり。

我が刃は厄災の刺。
我が覇道は疾走する狂喜。
我が抱きし闇は浮世を慟哭する魂で満たし、死に至る病で埋め尽くす。
我が名は第六天魔王――織田上総介信長也。

「人間五十年……下天の内をくらぶれば……」

織田信長は、この幸若舞・敦盛の一節をことあるごとに好んで舞った。
天下にその名を轟かせた桶狭間の合戦を思い出す。
武田と伊達を手玉にとり、今川の首を労せず討ち取ってみせた。

「夢幻のォ……如く……なりィ……」

能独特の朗々たる声が響きわたる。
凄絶な笑みを浮かべながら、いまの信長はこの死地を楽しんでいた。

「一度生を享けてェ…………滅せぬ者のォ……あァるべェきィかァァァァ……!」

信玄坊主ではないが、動かざること山の如しという言葉が今の状況には相応しい。
あと一刻も立たず放送とやらが流れるだろう。
その放送ごとに、この戦場における機は大きく動く。
死者の読み上げ――この殺戮遊戯における参加者――同盟相手、もしくは敵対関係の生存確認。それによる戦略の変更。
禁止エリアとやら――それによって移動すべき経路は大きく変わる。
信長はかつてそれを三度伝えられた経験で、もし自ら動くならばそれからだと正しく理解していた。

「全く……安い座興よ……」

持っていた酒ををすべて飲み干すと、無造作に瓶を床に投げ捨て、笑った。
魔王は今この時だけ殺戮の手を休め、無心で、ただ夜を眺めていた。




【D-5 南のデパート最上階/一日目/真夜中】

【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)治療済み
[服装]:ギルガメッシュの鎧
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し。
1:放送後、荒耶の言葉通り、西に向かい参加者を皆殺しにする。
2:荒耶は可能な限り利用しつくしてから殺す。
3:首輪を外す。
4:もっと強い武器を集める。その為に他の者達の首をかっきり、ペリカを入手する事も考慮。
5:高速の移動手段として馬を探す。
6:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。
[備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。
※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。
※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。
※トランザムバーストの影響を受けていません。
※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。
※瘴気によって首輪への爆破信号を完全に無効化しました。
※首輪の魔術的機構は《幻想殺し》によって破壊されました。
※具体的にどこへ向かうかは、次の書き手にお任せします。
※荒耶との間に、強力な武具があれば譲り受けるという約束を結びました。


    ◇   ◇   ◇


OZで長い時間を過ごした私は、戦争の中に勝手な美意識を持ち込んでいた。
戦う者同士、敵と味方にわかれていても、唯一認め合うことのできる精神としてだ。
私には守るものを持つ資格がない。だが、彼らに――ヒイロ・ユイらに言わせれば、この考えこそが甘いのだろう。
美意識を気取った体裁など必要ない。そんな戦いしかできないがゆえに、私はここで倒されただけのこと。
これは戦争なのだ。命をかけても学ばなければならないものがある。それができねば死ぬだけだ。
しかし戦いは激化するがゆえに、置いていかれぬ為には人間としての感情さえ必要としなくなっていく。
私は一人の兵士、自分の意思として、その流れに逆らう道を選んだ。
ヒイロ・ユイ……お前は純粋すぎる、そして優しすぎる。しかし、そうでなければ生きる資格がないということか。
ならば私は、どこまでも生き抜いてみせるべきだったのか。誰よりも厳しく、戦士として。
だが……リリーナを失い、その屍を踏み拉いてまで、修羅の道を踏破した果ての勝利にどんな価値があるというのだ?
お前は強すぎる。私には……無理だ。

「そうか…やはり律儀な男だよ君は。だからこそ私も信頼がおけるというものだ」

――トレーズ・クシュリナーダ
幻か……それとも、この無様な私を地獄から笑いにきたのか。

「そういえば君の気が済むのかね。この世から戦いはなくならん。ならば常に強者が世界をおさめればいい。
 人々は強い者に支配されることに喜びすら感じる。世界は戦い続けることが自然なのだ」

――それが貴様の理想か。

「言った筈だ。私の理想など、一人の人間の妄想でしかない。
 歴史は日々の積み重ねで作られる。個人の未来などに興味はない。
 ゼクス・マーキス――いや、我が永遠の友ミリアルド・ピースクラフト。
 君に会えたことを悲しく、また嬉しく思う。だがこの戦場は変わっていく。私の力が不足していた。
 人の進む道はあまりにも気ままだ。ふくれあがる力が、これほどまでに人の心を置き去りにしていくとはな」

そうでなければ勝てはしない。
ゆえに貴様は敗れたのだろう。そして、この私も。
そうまでして得た勝利に価値を見出せぬがゆえに。
互いに生き残るべき人間ではなかったということだ。

「……古き良き伝統と人間の奥深い感情が築き上げた、いたわりの歴史。
 私は戦うことが時に美しいことと考えると共に、命が尊いことを訴えて、失われた魂に哀悼の意を表したい。
 私は、人間に必要なものは絶対的な勝利ではなく、戦う姿、その姿勢と考えている。
 しかしモビルドールという心なき戦闘兵器の使用を行うロームフェラ財団の築く時代は、後の世に恥ずべき文化となりはしないか。
 また一方で、戦わずにはいられない人間性を無視する完全平和をたたえる……。
 宇宙コロニーの思想は、その伝統を知らぬ無知が生み出す哀れな世迷い言と感じていたものだよ」

だが――その宇宙から彼らが生まれたのだろう。

「そう。その境遇の中から、私の理想を超えた新しい戦士達が生まれた。それがガンダムのパイロット達だ。
 彼らの純粋性に満ちあふれた感情の前に、私が愛した伝統はかすんで見えた。
 守るべきものを失い、さらに守ってきたものに裏切られた戦士は歴史上敗者であるにも関わらず。
 しかし彼らにその認識はない。それどころか、彼らはまだ戦う意思に満ちあふれていた。
 美しく思われた人々の感情は常に悲しく、重んじた伝統は弱者達の叫びの中に消え失せる。
 戦いにおける勝者は歴史の中で衰退という終止符を打たねばならず、若き息吹は敗者の中より培われる。
 ならば私は……敗者になりたい」

だが貴様は、いや私もその敗者にはふさわしくないということさ。
むしろそれは衰退する勝者としての思考だろう。
人は場所、時間、環境を選んで生まれる事は出来ない……。
格差というものは確かに存在し、ゆえに生まれた瞬間、それぞれが生きる境遇は異なっている……。
それが宿命だ。そして世界はあまりに無慈悲で残酷なのだ。

「我々は衰退すべき勝者として生まれたがゆえに……結果として敗れるべき勝者にしかなれなかったと……?」

いや……私や貴様が焦がれた彼らは、そんなことなど露ほども考えていない。
彼らは、ただ明日を求めただけだ。
勝者か敗者か、きっとそんなことは最初から関係ないのだよ、トレーズ。
残酷な世界。
無慈悲なる宿命。
孤独に過ぎる冷たい荒野をただ一人で進まねばならぬとしても……。


「それでも彼らは――ただ明日を求めた、か」


ああ。

そうだ。

きっと、それこそが――、




【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW 死亡】


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258:夢幻の如くなり(前編) ゼクス・マーキス GAME OVER
258:夢幻の如くなり(前編) 織田信長 275:拡散スルハ死ノ恐怖
258:夢幻の如くなり(前編) 一方通行 267:生物語~すざくギアス~(上)


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最終更新:2010年08月07日 23:04