Moonlight Black ◆hqt46RawAo



■ 『少年:届かぬ救済:橋の終わり~民家の庭』 ■


エリアD-4。
デバイスにはそう記されてあった。

橋を渡りきり、辿り着いた民家の庭で士郎はいま、木製の椅子に腰掛けて軽い休息を取っている。

アオザキは『他の参加者の位置を確認してくるからここに居ろ』と言ったきり中々戻ってこない。
福路美穂子は今、民家の中で着替えを物色している。

士郎は一人、月を見上げながらこれからの事を考えていた。
しかし、先のことなど霞が掛かったように見えてはこない。

アオザキの正体とは?
己の魔術の本質とは?
白井黒子は果たして無事に居るのか?

どれも考えたところで答えの出ないことばかりだ。
全ての事態が自分を置いて進行しているような感覚、どうにも気に入らない。

「衛宮くん、おまたせしました」

そんな時、声が聞こえたので顔を上げると、福路美穂子が民家から出てきた所だった。

「ん……ああ、そうか」

福路は動きやすさを考慮したのか、小脇にジーンズとワイシャツを抱えていた。
けれども、服装は士郎の制服を羽織ったままで、以前と変わっていない。

「ごめんなさい……もうちょっと借りていいかな?」

「そりゃ、かまわないけど」

その姿を改めて直視して、何か言葉を掛けた方がいいのだろうかと考えたとき、萎れたように垂れ下がっている左袖を見てしまい。
一瞬、言葉に詰まる。
その視線に気が付いたのか、福路は左肩を右手で触りながら、「気にしないで」と言うように苦笑いを浮かべていた。
片腕の身では、すぐ着替える事にも難儀するのだろう。
落ち着いて身体を休められる場所に辿り着いてから、ゆっくり着替えるつもりのようだ。

椅子は庭に幾つかあったのだが、福路は座らなかった。
士郎の目の前に立ったまま、先程までの士郎に習うように、ぼんやりと月を見上げている。
その瞳はどこか憂いを湛えているようでもあり、またどこか笑っているようにも見えた。

二人の間に、暫しの沈黙が流れる。

士郎が座る事を促そうかと迷っていたときだった。

「衛宮くん。これ」

突然、士郎へと福路が手を差し出した。
目の前に広げられた少女の手の平。
そこには黒くて丸い帯の様なものが乗っていた。

「……これって、眼帯か?」

士郎はそれを受け取って、まじまじと見たが。
やはり、その様にしか見えなかった。
当たり前のことだが福路はもちろん、士郎も眼に怪我など負っていない。
疑問を表情に浮かべながら士郎は美穂子を見上げた。

「そう。これには――凄く強くて、どもまでも真っ直ぐだったある男の人の魂が篭っているの。お守り見たいな物だと思って」

「俺に、渡していいのか?」

「貴方に……持っていて欲しい。常に強く在るという事。私には出来なかったけど……衛宮くんになら、きっと託せる」

福路はどこか影のある微笑を浮かべながらそう言って、士郎から数歩だけ距離を置いた。

「それに……わたしにはまだ、これもあるから」

そう言って、福路はディパックから折れた日本刀を取り出して、掲げて見せた。
宙に浮かび上がった白銀の刀身が、月光を反射して淡い輝きを放っている。
少女はそれを、儚い微笑を浮かべながら見つめていて――。

そんなとき、不意に風が吹く。

穏やかな夜風に福路の髪がふわりと浮いて、流されるままに踊った。
襟足辺りで切り揃えられた後ろ髪が上下に揺れて、その下に隠れていたうなじを少し覗かせた。
刀を握る彼女の右手が、舞う髪を押さえる為に耳元へと伸びていき。
ガランドウの左袖はただ静かに、独りでにたなびくのみ。

士郎はその光景に、何故かは分らないが、
目の前の少女が消えていくような錯覚に囚われていた。
まるで、今このとき士郎の手元に残った眼帯が、福路美穂子の遺言であったかのような。
そんな予感に駆られて――ー。

「……お前は死ぬのか……福路」

気が付けば、そんな事を聞いていた。

福路はその突拍子も無い言葉に、はっとしたように一瞬目を見開いて。
まるで悪戯がばれてしまったかのような、小さい苦笑いを頬に浮かべる。
そして、士郎の顔を横目で見。

「それは…………私にもわからない。でも、私はまだ生きている。それは確かなことでしょう?」

そんなふうに、とぼけてみせた。
彼女は肯定はしなかったが、やはり否定もしなかった。

「いったい、何があったんだ? どうして、そんな……!」

その問いに対して、福路は暫く答えない。

先程、福路は自分の身の上を士郎に語ったが、重要な部分は全て抜け落ちていた。
福路はそもそも天江衣と同じ世界の人間である、魔術師でも、超能力者でもない事は明らかだ。
にも関わらず、あの瘴気や失われた左腕、錯乱していた事情、普通の人間としては在り得ぬ不可解の数々。
それについて福路は明確に語らなかった。
けれども、何か壮絶な出来事があったことは想像に難くない。
彼女の状態が平常でない事など誰の目にも明らかだ。

「私のことは……気にしないで……」

やがて福路は小さな声で言って、右手を下ろし俯いて、その表情は見えなくなった。
けれど佇まいが「負担になりたくない」と語っているようで。

士郎は少し悲しくなる。
きっと彼女は士郎に心配させたくなくて、多くを語らなかったのだろう。
だがそれは違った見方をすれば、「士郎にはどうしようもない事情である」と彼女は思っている訳だ。

脳裏に、アオザキの言葉が思い起こされる。

――アレはもう、おまえにはどうしようもない。

それを振り払うように、士郎は言おうとした。

「俺は……福路のことも……!」

だがそこで、またしても言葉に詰ってしまった。
果たして、己はどんなセリフを続けるつもりなのか、と。
士郎は自問する。

『生きていて欲しい』とでも言うつもりか。
それとも、『助けたい』とでも、『救いたい』とでも言うつもりだったのか。
いつもなら断言できた事柄なのに、今は何故か言葉が出てこない。

その理由は――。


『士郎さん…約束…忘れないで…』


『全てを背負うのは不可能であると自覚しろ。』


「…………っ」

揺れている。
士郎の中の根幹を為す何かが。
ありえない筈の優先順位が――生まれようとしている。

「福路にも……死んでほしくない……」

やっと言う事が出来たのはそんな当たり前のこと。
偽善者のセリフだった。
こんな事が言いたかったんじゃない、という思いに駆られて。

「違う、そうじゃないんだ。俺は福路も――」

もう一度、言い直そうとしたとき。

「――駄目」

呟かれた小さな、けれどハッキリとした拒絶の声に、士郎の言葉は断ち切られた。

「駄目……」

福路は俯いたまま、ポツリと繰り返した。

「ねえ……衛宮くん。あなたは、一体誰を守りたいの? 誰を救いたいの?」

「俺、は……」

士郎はそれに、なんと答えてよいのか分らない。
己は何を救いたいと願い、何を救わないのか。
そんな事はもう明白だ。

「一番大切なものを、見失っちゃ駄目。
 私なんかにかまっていたら、私を助けようなんて考えていたら。
 あなたはきっとまた、後悔を増やす結果になる……」

セイバーのように、と。
言外に言われている気がした。
それと同時に、約束を交わした一人の少女が死んでいく様を幻視する。

「俺は……」

口を開けど、やはり続く言葉が出てこない。
弱弱しく、意志の見当たらない声を出す事しか出来なかった。

「私は……!」

対照的に、福路の口調は一層強いものになっていく。

「私はもう、誰かの重荷になんてなりたくない!
 私のせいで……誰かが死ぬところなんてもう見たくないの……。
 だから、あなたには……あなたにとって一番守りたい人を、何より優先して欲しい……。
 私なんかを助けようなんて……思わないで……」

悔しかった。
言葉を返せないことが。

「全てを背負って戦うことなんて、誰にも出来ない。
 みんなみんな助けるなんて、そんな事はきっと出来ない。
 あなたには、あなたのやるべき事があるはず。
 優先順位を……間違えては駄目……」

歯がゆかった。
俯いた少女の震えた声を遮る事が出来ない、己の不甲斐なさに。

「だって……あなたが守りたい人は――」

なによりも、その言葉が――。

「あなたの大切な人は、まだ生きているのでしょう?」

俯いたまま、まるで自分は生きていないとでも言うように。
その言葉を言わせてしまった事が、なによりも士郎自身を責めた。

「ありがとう。でも、ごめんなさい」

福路は顔を上げる。

「あの時、貴方の言葉で、わたしは大切な事を思い出せた。そして、ここに戻ってくる事が出来た。
 それで十分助けてもらってる。わたしは救われているから……」

だからもう十分なのだ、と。
これから先、自分の身がどうなろうと後悔はない、と。
福路は微笑んでいた。

「今度はわたしが……誰かを救う番なんだと思う」

悪性と善性を両眼に併せ持つ少女の微笑み。
そんな幻想的な光景が、月光に照らされて輝いている。

淡い輝きを放つブルーの右目の隣で、今までずっと閉じられていた左目が開かれていた。
まるで煉獄の炎を思わせるかのような、真紅の瞳。
この世全ての悪性を孕む。
それは何よりもおぞましい瞳であった。

それに、士郎は一瞬ぞっとする。

紅の視線が、少女が背負うものの大きさと、言葉よりも明確な事実を突きつけてくる。
誰かを助ける事を望み、己が救われる事を望まない。
士郎はその在り方に、自分と似たモノを感じたからこそ。
もう自分が何をいっても無駄である事を悟らされた。

(…………)

だが、最も士郎の気を引いたのはそんなモノではない。

紅の左目の隣では、蒼の右目も未だ月光を反射して輝いている。
少女がまだ生きていることを証明している。
どこまでも澄み切った海面のような、群青の瞳。
見つめる全てを包み込む。
それは何よりも暖かな瞳であった。

(そう、だったよな……)

そこに士郎は、かつて一度だけ聞いた、救いを求めるか細い声を思い出していた。

『たす……けて……』、と。
縋るような少女の声。
果たしてそれに、己はなんと答えたのであったか?

(そうだったよな……くそッ!! 馬鹿か俺は……!)

士郎の全身に、高熱を伴った怒りが湧き上がる。
無論自分に対しての怒りだ。
己は今まで何を忘れていたのか。何を迷っていたのか。

士郎はやっと後悔する。そして決断する事が出来た。
迷う事などもう遅い。とっくにそんな段階は終わっていたのだ。
既に自分は、目の前の少女に対して言ってしまっている。

『必ず助ける』と。

だというのに、自分は今更なにを責任逃れしようとしているのか。
そも、全てを救うことこそが己の理想だったはずなのに――。

「だからあなたは――」

「――駄目だ」

だから、同じセリフで遮ってやった。

ようやく、士郎は自分を取り戻す。
正義の味方』である、衛宮士郎を取り戻す。

「駄目だ、俺は納得いかない」

ピシャリと、言ってやった。
士郎の一転した強い口調に、福路はすぐに言葉を返す事が出来ない。
ここぞとばかりに畳み掛ける。
あの屋上で言ったように、もう一度。

「福路も俺達と一緒に、生きてここから帰るんだよ。もし福路が諦めそうになっても、俺や俺の仲間が無理やりにでも助けてやる」

自分勝手なエゴを、叩きつけてやった。

それに一瞬だけポカンとした福路であったが、
数瞬後、怒気すら滲ませた言葉を返してきた。

「衛宮くん! あなたは私の話を……!」

「全てを背負うことは出来ない……か? 悪いけど、俺はもう背負ってしまってるんだ。今更になって下ろす事なんか出来ないな」

切り返しにも、淀みは無い。
一度心を決めてしまえば、先程までが嘘のように言うべき事が明瞭になった。

「……っ! それでも……それでも私は……!」

――誰かの重荷になりたくない。

その言葉にも既に、ぶつけるべきセリフは用意してある。
それは士郎が知る限りとびっきり効果的な、こういう時に何よりも有効な殺し文句だ。
士郎が未だに忘れられない、何よりも脳裏に残るあの声、あの言葉。
それを士郎はこの時、自然に選び取っていた。

「『誰かの重荷』なんて。それも、もう遅い」

ただし泣き顔ではなく、今は笑顔で断言する。


「だって福路が死んだら、俺が悲しむだろ」


福路は一瞬、これ以上無いくらい呆気に取られていた。

「……っ!? なにを言っ――」

「もううるさい。福路の事情なんかしるかっ! 俺は白井も絶対助けるし、福路だって絶対に助ける。
 例え事情を話してくれなくても、無理やりに助けるし、無理やり俺達と一緒に元の世界に帰らせてやる」

漸く意味が通じた様子の福路にむかって畳み掛けるように言ったあと、士郎も少し気恥ずかしくなって視線を逸らす。
やはり自分にはあの少女のように、連呼する事など出来ないようだ。
なんと言うか照れが半端ではない。

暫し、沈黙が流れた。
福路の様子は推し量る事が出来ない。
ただ士郎にとっては間違いなく、気持ちのいい沈黙でなかった。

突然、隣から聞こえてきた小さな笑い声に、士郎はおずおずと視線を戻す。

「……会ったばかりの女性にむかって……よくもまあ……そこまでの事が言えるのね……」

福路は心底呆れたように、苦笑いを浮かべていた。
その様子に士郎も少し安心したような、疲れたような、複雑な心境に陥ってしまう。

「残念だったな。こんな変わり者に出会った事が運の付きなんだ。あきらめてくれ」

そのぶっきらぼうな口調が更に可笑しかったのか、福路はもう一度軽快に笑い。
士郎に呆れ果てたからか。言い合うことに面倒になったのか。
それとも、もう何を言っても無駄と悟ったのか、諦めの口調で言った。

「もうっ……衛宮くんは頑固な人ね……」

「福路もな……」

言葉通り、どっちもどっちだと士郎は思う。

「うん。やっぱり……ちょっと羨ましいかな……」

「えっ?」

聞き返した士郎に「もういいわ」と言って、福路はもう一度だけ微笑んだ。
それは今まで見た事の無い笑みだった。
儚さも影も無い、一切の不純物を含まない笑顔。
それが福路美穂子にとって心からの、本物の微笑みなのだろう。

「もういいです。衛宮くんの好きなようにしてください。私は私の好きなようにしますから」

「ああ、望むところだ」

士郎は力強く頷いてみせる。

結局、事態は何一つ進展していない。
士郎には福路の事情を聞き出す事は出来なかったし、解決策などまだ何所にも見当たらない。
福路の心根も、きっと話す前と何も変わっていないのだろう。
けれど、これこそが第一歩なのだと。
花が咲いたような、その笑顔を見る事が出来たという事実にこそ、きっと価値が在る、と。
士郎にはそう信じる事が出来た。
強引に、意図を汲まずに、それでも――これが自分の理想、
『誰かを救う』ということなのだから。

などと、士郎が考えていたとき。
福路も少しの間は笑っていたのだが。

「けどね、衛宮くんっ!」

そこで急に、怒ったような声を上げた。
じぃっと、士郎の目を覗き飲んでくる。

「な……なんだ?」

そして、蒼紅のオッドアイに正面から見つめられ、
思わず身構えていた士郎に向かって。

「浮気は、駄目よ?」

福路はウインクついでに、左目を閉じてそう言った。
今度は士郎が呆ける番だった。

「…………はあ!? なっ!? いやっ俺はっ!」

一瞬だけ、少し顔を赤くして、
しどろもどろになる士郎であったが。

悪戯っぽくクスクス笑う福路を見て。
自分は今、からかわれているのだと、彼は思い知るのであった。


■ 『魔術師:根源に至る道2:民家の裏手~民家の庭』 ■


その時、荒耶宗蓮は二人から10メートルも離れていない民家の裏手で、音も無く佇んでいた。

自らの眼で同行者を監視するでもなく、しかして周囲を観察するでもなく、ただじっと立ち尽くしている。
一見無駄に無防備を晒しているようでいて、荒耶はこのとき監視、観察、警戒、哨戒、計略その全てを同時にこなしていた。

そう、この島における事象の全ては荒耶にとってすれば『見る』までもないのだ。
同行者の様子など当然容易に、この島に存在する大半の人間の現状すら、意識下で把握する事が可能である。
『見る』のではなく、『感じ取る』。

壁に背を付け、目蓋を閉じて、気配を消して、世界に溶ける。
彼はこの時、世界と一体になっていた。

今更、さして驚くべきことではない。
なぜなら、この世界の基盤となる結界を構成したのは紛れも無くこの男だ。
その事実は男が一度死した後にも違える事はありえない。
身体適合率の低下によって、たしかに数時間前までは己の魔術と半断線状態に追い込まれていた。
たが今はもうマンションに到達し、更に数時間の期間を経て、己と己の魔術との結びつきの大半を取り戻している。
残る問題点は身体能力の弱体化ただ一つと言ってもいいだろう。

未だ、この地に存在する人間は一つの巨大な魔術の中に取り込まれている。
つまりは荒耶の体内にいるも同義ということ。
完全ではない故に、多少の精神集中を余儀なくされるものの、荒耶の感知はいまや相当の広域に及びつつあった。


――目標たる両儀式の姿は西南に在り。
現在は同行者たるデュオ・マックスウェルと共に、更に西へと移動している。
既に主催者との義理を気にする必要も無い。
そろそろ己の生存も知れる頃だろうが、もう後は邁進し、根源へと至るのみだ。
完全で無いが魔力行使には申し分のない己の身体適合率。異界の発生源であり、使える戦力でもある衛宮士郎。その魔力ブーストとなる福路美穂子。
既に最低限の手札は整った。
あと一つ、準備するべきは場の状況のみだろう。

衛宮士郎の固有結界を両義にぶつけられる場。
それには善悪、正誤、敵味方入り乱れる混沌とした鉄火場が好ましい。
小川マンションはかなり有用であったが、既に倒壊してしまった以上は自ら場を作り出すほかあるまい。

その為にやはり、重ねて利用するべきは周囲の人間。
荒耶は両義以外の参加者の立ち位置も入念に心得ている。

要となる者は――やはりルルーシュ・ランペルージとその一団、現在進行形で両義を利用せんと立ち回っている者達だろう。
狡猾なルルーシュと、奴と共に動く三人の少女は実に剣呑だ。抱えている波乱の種も申し分ない。
現在は、両義とそう離れていない南西にその集団は在る。

そこに加える火種としては――ここから南方に、更に南下する三人の少女の姿が在る。
白井黒子、天江衣、浅上藤乃
いずれもルルーシュ達の正体を心得ている。

薬局から北上する阿良々木暦グラハム・エーカーはそれ以上に有用だが、東側に向かうという意志が問題だ。
上手く利用出来ないようならば、接触を避けるのも一つの手であろう。
もちろん利用できるならばそれにこした事はないが。

以上が島西側に存在する参加者達の現状。

対して東側は未だ混乱が収まらない厄介な様相を模している。

東に居る危険人物――織田信長一方通行も、混乱を発生させるという面においては郡を抜いて有用だ。
強力過ぎる性能ゆえに、如何せん不確定要素が大きすぎるのが問題だが、こちらから迂闊に手を出さなければ問題なく利用できる。
今のところ東側へと移動する気配は無いが、接近を確認した場合にはなるべく早い内に策に組み込む方針だった。

とりあえず、東側に存在する参加者の中ではその二名が再重要であり、おそらく他は考慮せずとも良いだろう。
後の者は距離的にも能力的にも抱える事情としても、生み出す状況に組み込むのは少し難しい。

――と、そこまで荒耶が考えた時だった。
預かり知らぬ気配に意識を飛ばした所、その正体を感じ取る。

(ふむ……憩いの館の領域にアリー・アル・サーシェス……。
 リボンズの息がかかっている……ならば、近づくのは危険――いや、上手くすれば有効に使えるやも知れぬか……)

サーシェスは常識や良識を知った上で十分な実力を持った危険人物だ、
リスクは在るが上手く接触できれば、強力な協力者となるかもしれない。

「――――」

そうして全ての参加者に一通りの評価を付け、
漸く荒耶宗蓮は眼を開き、意識を己が身に引き戻した。
民家の壁から身を離し、士郎と美穂子の居る庭に向かって歩き始める。

最後に思慮する事は衛宮士郎と福路美穂子に関する事だ。

――まずは、衛宮士郎。
白井黒子が既に治療された事を知れば士郎はどう動くか。
おそらく、あくまで白井の無事を確認せんとするだろう。
あくまで屋上に残してきた者達に拘る可能性も十二分に在るが、
士郎が気にかかっている者達の現状は全て荒耶が把握している。
故に行動を御する事に問題は無い。

士郎の信念は揺らいではいるものの、未だに健在。
よって、荒耶の理想とする展開に持っていくことはそう難しくも無いだろう。
そもそも迷いの無い性格で在るから、後はその背を押してやればいい。

――次に、福路美穂子。
アレはもう衛宮士郎にはどうしようもない存在だ、と。士郎に対して荒耶は言った。
固有結界が為るまで死なれては困る故に、そう言った側面もあったのだが、同時にそれは紛れもない事実でもあった。
彼女の身体に仕込まれた呪いは魔術師の領分を遥かに凌駕している。
おそらく、彼女には既に何らかの形での破滅が確約されているのだろう。
今の彼女を真の意味で救う事など、きっと誰にもできまい。
そして、それは美穂子自身もすでに理解している様子であった。
何にせよ、士郎には不可能なことだろう。

言峰が無意味な戯れで福路美穂子にあんな物を仕込んだとは思えず。
美穂子の膨大な魔力からは聖杯との繋がりが匂うが、今の荒耶にはさして興味のない事だ。
考慮するべきは、荒耶にとっての福路美穂子の利用価値だけである。
その実、あの少女は抜群に有用だ。
士郎に供給する魔力という意味でも、場に混乱をきたすと言う意味でも。
よって荒耶と言う男に同情が介入する余地など在るはずも無く、最大限に利用し尽くす所存であった。

さて、とりあえずの現状は理解した。
後はそれをこちらの都合の良いように転がすのみ。
その思索は既に済んでいる。

「休息は終わりだ。そろそろ、行くぞ」

庭の同行者に声を掛け、後は振り返りもせずに歩き続ける。
すぐに背後から、二人分の足音が荒耶を追ってきた。

両義との邂逅に備えるに際して、場の状況もそうだが、二人の体力を回復させる事がまずは先決だ。
放送までには、落ち着ける場所で身体を休ませる必要が在る。
白井黒子が既に危機を脱している以上、その存在に向かう足を制限される事は無い。

では次に向かうべきは何所か?
関わるべきは誰か?

ここはひとまず、白井黒子を追うべく南下することが最も磐石な選択かもしれないが。
また違う場所に足を運ぶ事も選択の内だ。


夜を往く、魔術師の足が進む先。
それはまだ、彼だけが知っている事柄である。










【D-4/東側の住宅街/一日目/真夜中】

【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:次に向かうべき場所に向かう。
1:士郎と美穂子の保護と櫓の状況を確認すべく、いったん身体を休められる場所、および工房に向かう。
2:周囲の参加者を利用して混乱をきたし、士郎の異界を式にぶつける。
3:美穂子を士郎の魔力ブーストとして使う。
4:体を完全に適合させる事に専念する。
5:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
6:必要最小限の範囲で障害を排除する。
7:利用できそうなものは利用する。

※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※信長の首輪が、爆破機能と共に盗聴機能まで失ったかは次の書き手様にお任せします。
 もしも機能が失われていない場合、主催側に会話の内容が漏れた可能性があります。
※一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。


【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 疲労(大)魔力消費(大)、全身打撲(治療中)全身に軽い切り傷(治療中)、背中に火傷、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂群原学園制服(上着なし、ボロボロ)
[装備]: 落下杖(故障)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 伊達政宗の眼帯、
     基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金5100万)
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
0:黒子の所に急ぐ。
1:福路美穂子や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
2:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていないが、黒子の治療までは信用する。
3:秋山澪と合流する。
4:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
5:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める。
6:福路のことも、どうにかして助けたい。
7:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする。
8:一方通行、織田信長、黒い魔術師(荒耶宗蓮)への警戒心。
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
 そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
※「剣」属性に特化した投影魔術を使用可能。
 今後、投影した武器の本来の持ち主の技を模倣できるようになりました。
※現在投影可能である主な刀剣類:エクスカリバー、カリバーン、六爪、打ち刀
※イリヤが主催・人質である可能性には現状全く思い至っていません。


※片岡優希のマウンテンバイク@咲-Saki-は政庁跡に放置されています。

【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:アンリ・マユと契約、左腕欠損(処置済み)、疲労(大)
[服装]:黒いロングドレス (ボロボロ)、穂群原学園男子用制服(上着のみ、ボロボロ)
[装備]:聖杯の泥@Fate/stay night、折れた片倉小十郎の日本刀
[道具]:支給品一式*2、伊達政宗の首輪、包帯×5巻、999万ペリカ
    ジーンズとワイシャツその他下着等の着衣@現実
[思考]
基本:自分自身には、絶対に負けたくない。失った人達の分まで勝利を手にしたい。
1:ただ己が正しいと信じたことを為し遂げる。
2:衛宮士郎や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
3:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
4:「魔術師」「魔力」などの聞きなれない言葉を意識。
5:死した人達への思い。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています。
※死者蘇生はレイニーデビルやアンリ・マユを用いた物ではないかと考えています。
※アンリマユと契約しました。
※今は精神汚染を捻じ伏せています。


※所持していた六爪はエリアD-5のビル郡に散らばりました。


時系列順で読む


投下順で読む


260:Moonlight Blue 福路美穂子 266:奈落
260:Moonlight Blue 衛宮士郎 266:奈落
260:Moonlight Blue 荒耶宗蓮 266:奈落


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最終更新:2010年06月04日 22:33