奈落 ◆LJ21nQDqcs
真円を描くにはやや足りない月が大地を照らす中、市街地を疾走するジープ。
駆るは
グラハム・エーカー。ユニオンの押しも押されもせぬエースパイロット。
同乗するは
阿良々木暦。吸血鬼の成れの果てのそのまた子分。
乗り心地というものを徹底的に排除した軍用ジープは、ちょっとした振動も吸収せずに車中の人間にぶちかます。
スピードに乗った状態では喋ることすらままならない。
早口言葉でも話そうものなら、間違いなくその舌を噛み切る事だろう。
かてて加えて対向車や信号、その他の交通規制もない。
ジャジャ馬乗りのグラハムは頓着せずにアクセルを踏み、スピードをいや増す。
車内は激しく上下に揺さぶられ、阿良々木暦にシートベルトの有り難みを、首をガクガクさせながら嫌というほど噛みしめさせていた。
唐突に市街地を抜け、視界が開ける。
地図を頭に思い浮かべて阿良々木暦がはてなマークを頭に浮かべた。
確か薬局から橋に至るまでは市街地の灰色に塗りたくられていたはず。
ではこの平野は一体なんなのだろう?
目の前を見るとやや遠くに闘技場。それも真正面に、だ。
出発した薬局より北西に位置する闘技場が、何故北上しているはずの自分たちの正面にあるのか?
頭の上のはてなマークが増殖するスピードを上げ、
瞬間。
世界が暗転した。
◇
当初の予定では既に薬局にたどり着き、さらに北上して憩の館に着き放送を待ちながら休養を取らせていたはずだった。
荒耶宗蓮は
衛宮士郎、
福路美穂子、二つの駒を従え、歩く。
白井黒子はすでに全快してどうやら船に向かい、こちらは遅々とした歩みでようやく橋を渡り終えたのみ。
それはまだいい。
焦りはないとは言わぬが、それでもまだ二手三手は先を行っている。
阿良々木暦も、遭遇したとしても衛宮士郎らと合流すると言うことはない。
彼らは第一目標である『
戦場ヶ原ひたぎ、並びに
ヒイロ・ユイの確保』を諦めはしない。
何も問題はない。
問題は別のこと。
ただ一箇所。
この会場内において劇的に情勢が変わってしまう可能性のある拠点がある。
結界とは違い、偽装に偽装を重ねたソレを、感づかれることはまずなかろうが、用心は必要だ。
幸い薬局に向かう途上で確認することは出来る。
機会があれば結界の補強、並びにさらなる偽装を施すことも視野に入れるべきであろう。
威容を誇る闘技場を右手に見やり、荒耶宗蓮は南下する。
用心に用心を重ね、目的への最適なルートを模索する彼に、隙はない。
だが、重ねた用心が一転して大きな穴にになってしまうことがあることを、二度の失敗にも関わらず、彼は計算に入れていない。
当然のことかもしれない。
それは奇跡と呼ばれる事象に他ならないからだ。
◇
グラハム・エーカーは朦朧としかかる頭を振って意識を強引に取り戻し、倒れた体を起こして周囲を見渡す。
ジープは倒れてタイヤを空回りさせている。傍目にはダメージを負っている様子もなく、ひっくり返せばまだ運転出来そうではある。
軍用らしく簡素ながら頑丈すぎる燃料タンクのおかげでガソリンが漏れ出した形跡も無い。
助手席に阿良々木暦の姿がないのを確認し、途中で振り落とされた可能性を疑い、上を見上げる。
丸い視界にやたらと大きく見える月が映る。
地上まで二十数メートル。ビル5階分であろうか。
丸くくり抜かれた大地の底、クレーターの中心に彼はいた。
あの時。
突然開けた視界と目の前に現れた闘技場にグラハムの意識は奪われていた。
正面への注意がそがれ、大地に深々と突き刺さる碇槍の存在に気がついたときには、もう衝突を待つのみであった。
それでもパイロット史にその名を残すグラハムである。
衝突の瞬間に左にハンドルを切り、完全にかわしてみせた。
…と思いきやクレーターの縁に嵌り、そのまま転落してしまったのである。
「グラハム・エーカーともあろう者が単なる前方不注意で事故を起こすとは!」
しかも民間人を乗せて、である。
瞬時の判断に長ける彼をもってすら、助手席に乗る阿良々木暦を助ける余裕はなかった。
あの高さと断崖とも言える傾斜を落ちたにも関わらず、ほぼ無傷で済んでいることすら奇跡的なのだ。
多大なるGをものともしない、エースパイロットの強靭な肉体がそれを可能にしたと言える。
(しかし、民間人である阿良々木少年は―!)
民間人こそ、軍人である自分が自らの命を捨ててでも守らねばならないはずだ。
現状はどうだ。
不注意から事故を起こし、あまつさえ命欲しさに阿良々木少年を見捨てた。
自己嫌悪で押し潰されそうになり、大地に拳を突き立て、天を仰いで叫ぶ。
「阿良々木暦ぃぃぃー!!」
「グラハムさーん、こっちでーす」
拡声器によって増量された阿良々木少年の声が、奈落のさらに底より響いた。
■
「いやぁ、死ぬかと思いましたよ」
クレーターの中央に開いた穴から、グラハムの手を掴んでようやく這い出した阿良々木暦は笑顔とともに率直な感想を述べた。
パンパンと制服にこびりついた埃を叩き、もうもうとした煙が上がる。
「実際よく死ななかったものだ。いや、違うな。すまなかった、全ては私の不注意によるものだ」
腰を折り曲げ、深々と頭を下げるグラハムを暦は慌てて制止した。
「いやいや、しょうがないですって。こんな大きなクレーター、住宅地のすぐ側で開いてるだなんて誰も思いませんよ」
「しかし!」
「お互い無事だったことですし、そういうことは無しにしましょうよ。それに、僕らは急がなくちゃならないでしょう?」
そう言って遙か上方の大地を見上げて、溜息をつく。
どうやら自力では無理そうだと判断したのか、横倒しになったジープに視線を向ける。
「あれ、動きますか?」
「あぁ、車軸も曲がっていないしエンジン系統にもどうやら異常はない。ガソリンもあるから、それは問題ない」
「なんかまずいことでも?」
「おそらくは駆け上がれないだろうな」
このクレーターの形状はお椀状と言うより、バケツ状と言った方が正確である。
ジープの走破性能をもってしても、断崖を駆け上がるのは不可能と言えた。
落ち着いて辺りを見渡すと、どうも元は地下倉庫のような施設だったらしい。
それが大規模な崩落が起きた関係か、元々の地盤の緩さもあって、この大穴が出来たのであろう。
「ここはクレーターというよりはカルデラだな。なんらかの地下施設がここにあったことは確かなようだが」
腕を組んでしばし熟考する。
ふと見ると心なしか阿良々木少年はそわそわしているようにも見える。
それもそうか、と思いを巡らす。
少年の恋人が危険極まりない橋の向こう側に居るのだ。ここでもたついていられないのだろう。
自分も
天江衣が危機にあると知った時、居ても立ってもいられずギャンブル船に急行した。
阿良々木少年も飄々としているように見えて、相当に焦っているはずだ。
「ふむ、もしここが地下施設の成れの果てならば、その穴を降りていけばなんらかの通路に出ることができるやも知れないな」
そして自分自身も相当にせっかちで堪え性が無い人間であると自覚している。
即断即決。ジープを穴の近くにまで移動させロープを固定し、阿良々木少年から拡声器を受け取る。
「なにかあったらこれで伝える。そしてもし、ここを通りかかる人間がいたら大声で助けを呼んでくれ」
「そんなことして大丈夫なんですか?もし殺気立った人間が来たら」
「いずれにせよ、我々の状況はかなり絶望的だ。悪意を持った人間が来たら死ぬしか無いさ」
無論最後まであがいてみせるがな、と付け加えて穴を滑り落ちる。
奈落の底へ。
◇
「衛宮クンは、麻雀とか出来る?」
福路美穂子がそんなことを聞いてきたのは、静寂に耐えられなくなったからか。疲労を誤魔化したいためか。
おそらくは両方であろう。
「あぁ出来るよ。それなりに打てる」
「ふふ、そうなの。じゃあ今度一局打ちましょう」
今度、という言葉を聞いて士郎はやや安堵した。
先程までの福路は消え入りそうなほどに儚げに見えたから。
明日など諦めてしまったかのように見えたから。
麻雀について話す福路の様子はとても楽しげだ。
少しでも生に対して前向きになってくれるのであるならばと思い、探るように話を続ける。
探るように、というのは福路の話す麻雀を取り巻く環境が、あまりにも士郎の常識とかけ離れていたから、と言うのもある。
競技人口数億人やらインターハイやら世界ランキングやら。
高校野球やゴルフのような巨大なメディア競技なのか。
だがそれは、天江衣がエスポワールで話していた、てんで要領を得ない内容と符合する。
「福路、天江衣っていう女の子のことを知っているか?」
「知ってるわ。衛宮クン、会ったことがあるの?」
表情がやや曇ったように見えたのは、おそらく気のせいだ。
…
「グラハムさんと言う方は凄い人なのね」
「ん?あぁ、出来た人だよ。俺と黒子と、なにより天江みたいな子供もひとりの人間として扱ってくれたしな」
「衛宮クン、なにを言ってるの?天江衣は貴方と同学年よ」
「うそだろ?!」
くすくすと微笑みながら福路は伸びをするように右腕を天にかざす。
眩しそうに、銀色の月を眺めた。
「そっか。天江衣も衛宮クンも、良い人に出会えて、そして変われたんだね」
「黒子はそんなんじゃ。いや、そうだな。この島で初めて出会えたのが黒子で、本当によかったよ」
もう認めてしまっても構わないだろう。白井黒子は衛宮士郎にとって大切な人間だ。
何故だろうか、福路の視線が痛い。いや、理由は多分分かっているのだが。
◇
「私もね、ひとつの出逢いが転機になったの。もう三年も前になるけれど」
執着は愚者のすることだ。
だが愚者はそれを認めたがらない。
だからこそ愚者なのだ。
結果、執着に引きずられて破滅する。
「上埜さん、ていう人。私を変えてくれた、大切な人」
わざわざ旧姓で答えてみせたのは衛宮士郎に気遣ってか。
それとも単に呼び慣れた名だからか。
「たった一局打った。それだけで私を全て変えてしまった人。だから、多分。好き、だった」
思い出にすがる人間は醜悪だ。
神に祈るだけの人間は怠惰だ。
「上埜って奴が羨ましいな。福路みたいな子に好かれて」
「そんな!私は。それに、もう、」
意図したわけではなかろうが、衛宮士郎は福路美穂子の言を遮った。
「じゃあさ。生きて帰って上埜にハッキリ言ってやろうぜ。自分の気持ちって奴をさ」
衛宮士郎には何気ない仕草に見えたであろう。
福路美穂子は左胸を抑え、次いで左腕の根元を抑えた。
疼くのであろう。
この世全ての悪を飲み込んだ心臓と、悪魔を宿した左腕が疼くのであろう。
「そう、ね。ありがとう、衛宮クン」
思い出の数々が福路美穂子の胸を次々と去来した。
池田華菜、竹井久、
片倉小十郎、
伊達政宗、
平沢唯。
福路美穂子が己の過失によって失ったと思い込んでいる参加者の数々。
死者の思いを受け止めようとする様は、贖罪の代替行為に過ぎぬ。
その裏側には薄汚い願望が隠そうともせず、浮かぶ。
それが表に出ないのは、単に意志の力で押さえつけている為だ。
本当はその手で殺したいのだろう?
池田華菜を殺した
平沢憂を。
全てを壊した主催者達を。
片倉小十郎や伊達政宗を見殺しにし、池田華菜に人殺しを決意させ、平沢唯を死地に送らせた
福路美穂子。
お前自身を。
◇
クレーターの底に穿かれた穴の直径は三メートルほどであろうか。
大人一人が降下するには十分な広さであった。
底へ進むにつれ、周囲は土から石へ、そしてコンクリートへとその材質を変えていき、徐々にその幅を狭めていく。
ボフッと音がして足が着く。
どうやら底だ。
降り立ってはみたものの、周囲はコンクリートの壁があるのみ。
なんらかの地下施設だと言うことは分かるが、これではどうしようもない。
ふと足元を見れば、テンガロンハットを踏んでいた。
何の気なしに拾い上げてみると、一条の光が足元より差し込む。
(カウボーイよ、感謝する!)
光の出所である足元の小さなひび割れを覗いてみれば、眼下に広がるのは何の変哲もない通路。
不意にウィィンという音がして左手の方から2メートルほどのロボットが二体、三体と巡回する。
(あれはオートマトン?!実用化はまだ先だと聞いていたが)
暴徒鎮圧用にユニオンで開発中のオートマトンは無人ながら高い能力を誇る。
換装すれば対人兵器としても十分な能力を発揮できるソレ相手では、腰に挿したハンドガンでは少々心許ない。
フラッグさえあれば、と悔やんでも仕方がない。
(ここは撤退する。だが、必ずまたここに戻ってくる!このグラハム・エーカーがな!)
■
「よくロープ一本で登れますね」
「パイロットは総合技術を要求される。それはさておき、すまない阿良々木少年。時間を使っておきながら、何も進展することが出来なかった。」
筆談にて地下の様子を伝えると、阿良々木暦は不思議そうな顔でグラハムを見上げた。
「それにしてもグラハムさん、日本語上手ですね」
「うん?いや、私は英語で書いているのだが」
「いや、どう見たって日本語だろ、それ!ネイティブでもそんな綺麗に書けねーぞ、コノヤロオオオオオ!!」
ツッコミ属性を瞬間的に発露してしまった阿良々木暦は、立ち上がってからハッと我に返る。
暦を見つめるグラハムの顔は驚愕に縁どられている。
「すみません!気が、気が立ってたんです。でなければ初対面のハンサムパイロットにこんな罵声を浴びせるだなんて、ありはしないわけで!」
「いや、私も感じていたことではあった。君たち極東の学生が、公用語とはいえ英語をこのように苦もなく解せるものなのかと」
「ですよねぇ~。いや、僕も突っ込んだら負けだと思ってはいるんですけど、流石に画面上で日本語で手紙とか書いていたら、そりゃ突っ込むだろってな感じですよ!」
確かに会話をリアルタイムで翻訳されていると言うこと自体、驚異である。
エスポワール号でその点を指摘されたときは《魔法》の力であろうとそこで考察を終えてしまった。
だが文字が形を変えて伝わり、さらにそれが通じているということは、我々が介しているのは言葉ではない。
ならば、と思案していると、天の助けが地上より舞い降りた。
「そこにいるのはグラハムさんかー!今ロープを降ろすから待っててくれー!」
衛宮少年である。
なんということだろう。捜索対象が、救難に訪れたわけだ。
思わず苦笑を浮かべてグラハムは垂らされたロープを掴んだ。
◇
衛宮士郎の五感が鋭敏であることを荒耶宗蓮は抑えきれていなかった。
奈落からの叫び声に、常人なら気づかないほどの音に、衛宮士郎は反応してみせた。
「助けを呼ぶ声がする!」
《
セイギノミカタ》
まさにそれこそが、衛宮士郎の行動原理。
荒耶も無論、それは織り込み済みである。
■
荒耶の手を借りてクレーターより這いでた二人は、ディバッグから軍用ジープを取り出しながら、軽い自己紹介を始めた。
阿良々木暦の名を聞いた瞬間、福路美穂子が思わず「戦場ヶ原さんの!」と声を上げる。
また預かり知らない所で名前が広がってるなぁ、と思った暦ではあったが、福路の微妙な表情と台詞で不安は急速に広がった。
「なんかやらかさなかったか、彼女」
「い、いえ!ただちょっとコミュニケーションの取り方が特殊ですよね、あのひと」
その答えと、ひきつったような苦笑だけで暦にとっては十分だった。暦は一歩二歩と後退る。
ただならぬ気配に士郎は思わず警戒し、疲労を押して魔術回路を開放せんとする。グラハムも異常に気づき、臨戦態勢を取る中。
ついに阿良々木暦は切り札を発動した。
「申し訳ないことをしたぁ!」
士郎も福路も、無論グラハムも、さらには長い年月を生きた荒耶宗蓮ですら目を見張る程に、それはPerfect&Beautifulであった。
動物が降参の証として腹を見せるように、万物の霊長ヒトが取る最大の服従ポーズ。
「土下座-Dogeza-」である。
■
あれだけ綺麗な土下座を魅せられては、これ以上角が立つはずも無い。
福路は必死で暦を宥めすかし、士郎はグラハムと苦笑いをしながら互いの情報を交換し続ける。
「そうか、あの少女が白井黒子の言っていた政庁の少女か。しかし揃いも揃って、よくもまぁ。盛大に状況をひっくり返したものだな」
「こっちは福路がやり通したようなもんだよ。俺自身は何もやっちゃいない」
視線を逸らした士郎の真意をグラハムは掴みきれなかった。せいぜいが照れ隠しであろうと、それだけだ。
それ以上詮索しなかったのは、首輪をつけてないアオザキと名乗る女性が気掛かりであった為でもあろう。
「それで彼女は本当に主催者側の人間なのか。信頼していいのか?」
「彼女は魔術師だ。契約が成立している間はとりあえずは味方だ。信頼していい」
信用はできないが。
そう付け足すことをあえて士郎はしなかった。
■
「浅上さんを説得することが出来たのでしょう?それは素晴らしいことだわ!もっと胸を張るべきよ」
「しかし!」
と顔を上げた瞬間、ぽよんという柔らかな感触としっかりとした質量を 暦は後頭部に感じた。
殴られる!と身構えた暦が見た福路の顔は、柔和な母親のそれであった。
「大丈夫、生きてさえいれば、きっといいことがあるわ。諦めちゃダメだって教えたのでしょう?」
浅上藤乃が結果として、
東横桃子に殺し合いを決意させてしまったであろう事は想像に難くない。
東横の
加治木ゆみへの思いの強さを知る福路には、彼女の決意を翻させることは不可能にも思えた。
だが狂ってしまった自分や、魔人とまで言わしめた浅上藤乃を、修正出来たこの二人になら、もしかしたら可能なのではないか。
そう思えてしまうほどに、福路は二人の少年を信頼していた。
そして自分も、この少年たちのような強さを持っていたならば、と後悔しそうになる思いを必死で振り払った。
過去に執着しては駄目だ。諦めた思いに執着しては駄目だ。前に進まねば駄目だ。
執着した結果が政庁でのあのザマだ。
代償は数えきれない。
福路は蒼い瞳に力を宿し、左腕を抑えて歯をくいしばる。
傍から見れば、今現在も思いに執着しているとしか思えぬのに。
■
情報をある程度交換し終えた双方ではあるが、それで基本方針を変えるようなことは無かった。
むしろグラハムに至ってはヒイロ・ユイの危機に、焦燥を募らせる結果となった。
グラハムも暦も目的は未達成なままであるし、黒子の全快を知った今でも士郎の方針は変わらなかった。
衛宮士郎は既に選択してしまったのであるから。
アオザキ=荒耶はその間、何も口出しをしていない。
自分がこの場に居る事こそが、望む結果へ導く最大の要因にほかならないからだ。
故に密かに結界の儀式を行う。
四者が方針を決めた、その時。結界は成る。
クレーターの周囲は人払いの結界が仕掛けられ、自覚もないままに近寄ることが出来ぬ場となった。
元々鬼門を封じている関係上、術が施工しやすい神聖な場であったことが幸いした。
とはいえ目的意識のはっきりした人間が立ち入ることは防げない、急ごしらえではあるが。
クレーターの底に居た阿良々木暦とグラハム・エーカーはかの施設を発見した可能性が高く、危険ではある。
だが、アレがなんなのかは見当もつかないだろうし、理想的に事が運べば誰にもかの施設のことを話すことなく命を散らすだろう。
何にせよ、今、かの施設を発見され、主催への攻撃を開始されては式の身体を手に入れる隙がなくなってしまう。
それだけは避けねばならなかった。
故に、この施設だけは死守する必要があった。
クレーターと言う奈落の、さらに底にある地獄門。
この島にあって唯一、帝愛でなくリボンズ自身が直接管理する施設。
"首輪爆破信号管理システム"である。
■
五人が南北へと分かれようとしたその時、グラハムが妙な質問をした。
「すまんが、アオザキ。奈落の語源を知っているか?」
「元は仏教用語。奈落迦。地獄という意味だ」
「そうか、ありがとう。ついでのようだが、このメモ帳に書いてみてくれないか」
神妙な顔をしてアオザキはすらすらと奈落迦と書きこみ、グラハムは一礼してジープに乗り込んだ。
「また会おう、衛宮少年。万が一の場合は天江衣をよろしく頼む」
「福路さん、浅上によろしく伝えておいてください!」
そのまま橋へと疾走する。
士郎は腰に手を当てて、福路は大きく腕を振って見送った。
「福路も阿良々木と随分仲良くなったじゃないか」
「そうね、"あの"戦場ヶ原さんの恋人っていうから、どんな人かと思っていたけど、あんな優しくて、強い人なら、ね」
福路は二歩三歩と歩いて振り返る。
「それに衛宮クンと違って、女の子の扱いにも慣れてるみたいだし!」
「な?!お、おい、福路!」
はしゃぐ男女を尻目にアオザキは歩を進める。
「急ぐぞ。白井黒子の無事が確認されたとはいえ、放送までにはエスポワール号についておきたい」
士郎も福路もそれにならった。
【E-4/北部/一日目/真夜中】
【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:ひとまずはエスポワール号へ向かう。
1:士郎と美穂子の保護と櫓の状況を確認すべく、いったん身体を休められる場所、および工房に向かう。
2:周囲の参加者を利用して混乱をきたし、士郎の異界を式にぶつける。
3:美穂子を士郎の魔力ブーストとして使う。
4:体を完全に適合させる事に専念する。
5:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
6:必要最小限の範囲で障害を排除する。
7:利用できそうなものは利用する。
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※
海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
※
バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※信長の首輪が、爆破機能と共に盗聴機能まで失ったかは次の書き手様にお任せします。
もしも機能が失われていない場合、主催側に会話の内容が漏れた可能性があります。
※
一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:アンリ・マユと契約、左腕欠損(処置済み)、疲労(大)
[服装]:黒いロングドレス (ボロボロ)、穂群原学園男子用制服(上着のみ、ボロボロ)
[装備]:聖杯の泥@Fate/stay night、折れた片倉小十郎の日本刀
[道具]:支給品一式*2、伊達政宗の首輪、包帯×5巻、999万ペリカ
ジーンズとワイシャツその他下着等の着衣@現実
[思考]
基本:自分自身には、絶対に負けたくない。失った人達の分まで勝利を手にしたい。
1:ただ己が正しいと信じたことを為し遂げる。
2:衛宮士郎や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
3:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
4:「魔術師」「魔力」などの聞きなれない言葉を意識。
5:死した人達への思い。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています。
※死者蘇生はレイニーデビルやアンリ・マユを用いた物ではないかと考えています。
※アンリマユと契約しました。
※今は精神汚染を捻じ伏せています。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※所持していた六爪はエリアD-5のビル郡に散らばりました。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 疲労(大)魔力消費(大)、全身打撲(治療中)全身に軽い切り傷(治療中)、背中に火傷、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂群原学園制服(上着なし、ボロボロ)
[装備]: 落下杖(故障)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 伊達政宗の眼帯、
基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金5100万)
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
0:黒子の所に急ぐ。
1:福路美穂子や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
2:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
3:
秋山澪と合流する。
4:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
5:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める。
6:福路のことも、どうにかして助けたい。
7:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする。
8:一方通行、
織田信長、黒い魔術師(荒耶宗蓮)への警戒心。
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※
原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
※「剣」属性に特化した投影魔術を使用可能。
今後、投影した武器の本来の持ち主の技を模倣できるようになりました。
※現在投影可能である主な刀剣類:エクスカリバー、カリバーン、六爪、打ち刀
※イリヤが主催・人質である可能性には現状全く思い至っていません。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※片岡優希のマウンテンバイク@咲-Saki-は政庁跡に放置されています。
◇
ジープに揺られ、橋元に着く。聞いた通りに四輪車ではもう通ることも出来ぬほどボロボロだ。
再びディバッグにジープをしまい込み、徒歩でゆっくりと橋を渡りながら先程アオザキに差し出したメモ帳を見せた。
「なんて書いてある」
「え?奈落迦、と」
「漢字か?」
「えぇ。どうしたんですか?」
グラハムは暦の方を振り返ってこう告げる。
「私にはTartaros(タルタロス)と、英語で書かれているように見えるのだがな」
【D-4/橋の東端/一日目/真夜中】
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30、軍用ジープ@現実
[道具]:基本支給品一式、、ゼクスの手紙、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~
戦場の絆~』解説冊子、
ヴァンのテンガロンハット
双眼鏡@現実、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、1万ペリカ、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
0:阿良々木暦とともにヒイロ・ユイ、ゼクスら信頼できる知り合いと合流する。
1:天江衣をゲームから脱出させる。
2:衛宮士郎とヒイロ・ユイを会わせ、首輪を解除する。
3:首輪解除後、『ジングウ』を奪取または破壊する。
4:主催者の思惑を潰す。
5:ヒイロからもっともっとガンダムについて詳しく聞きたい。
6:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。
※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
7:衣の友達づくりを手伝う。
8:夜は【憩いの館】で過ごすべきか。『戦場の絆』も試してみたい。
9:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
10:死ぬなよ…少年。
11:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換しました。
※衛宮士郎と情報交換しました。
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:マウンテンバイク@現実 拡声器@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10
毛利元就の輪刀@戦国BASARA、
土蔵で集めた品多数
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
基本:知り合いと合流、保護する。
0:グラハム・エーカーとともに戦場ヶ原ひたぎら信頼できる知り合いと合流する。
1:憂をこのままにはしない。
2:桃子、ルルーシュを警戒。
3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
4:千石……八九寺……神原……。
5:太眉の少女については……?
6:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
7:浅上らの無事を願う。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※会場に生まれた綻びは、あくまで偶発的なものであり、今後発生することはありません。
※巨神像はケーブルでコンソールと繋がっています。コンソールは鍵となる何かを差し込む箇所があります。
※原村和が主催側にいることを知りました。
※サポート窓口について知りました。
※衛宮邸は全焼しました。小さく燻っているのみです。
※土蔵にあった魔方陣の効力が消失しました。
※土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※藤乃と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換をしました。
※衣の負債について、気づいていません。
※衛宮士郎と情報交換しました
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最終更新:2010年08月16日 01:01