とある魔物の海底撈月(前編) ◆6lyiPawAAI



希望の船・エスポワール。
人生の敗者たちが最後の希望を掴む為に集った舞台。
この殺し合いに参加させられた者たちもある意味では人生の敗者に等しいか。
今、この船においてその内の一人の少女が希望を掴む為に奮闘していた。
すなわち、天江衣。麻雀世界が誇る全国区の魔物である。

しかし、彼女の力を持って尚、現状は厳しいものであった。
彼女の前に立ちはだかるはUNKNOWNを騙る3人。
衣の見立てでは自分を唯一破った打ち手、宮永咲を模した物である。
本物ではないにしろ、それに近い力を持った3人に苦戦を余儀なくされていた。

(前局は木偶と侮ったが、ここからはそうはいかぬぞ)

だが、衣はニヤリと笑みを浮かべる。
この緊迫した空気、強者との戦い。
命のやり取りという場ではあるが、これこそが衣にとっての存在すべき場所。
何故、命を惜しんで自らの闘牌の価値を下げようというのか。
まことに雀士にあるまじき姿であると衣は考える。
ここから先こそ衣が本領を発揮する麻雀になる。

東二局(親・UNKNOWN1)
ドラ表示牌・三萬

立ち上がりは四者共に動かず、数巡を経過させていく。
数巡目にして静寂を打ち破る一声がようやく上がる。

「ポン」

最初に動くのはやはり衣。
対面の捨てた一筒をポンする。

(これは……天江の海底コースっ……!!)

衣の後ろで成り行きを見守る黒服が息を呑む。
今局、北家である衣は対面からのポンで海底牌を取る事が出来る。
海底牌でのツモに付く役、「海底撈月」こそ衣の代名詞であり、それは主催や咲に関する世界の人間の多くが知るところである。

(さて、どう出る?)

衣は相手の出方を見つつ、牌を捨てる。

「カン」

それに呼応するは、対面のUNKNOWN2。
鳴かれたお返しと言わんばかりに、すぐさま衣の海底コースを潰しにかかる。

(即座に反応してカン……やはり、衣の海底を警戒しているか)

海底コースは北家の衣から東家、親番のUNKNOWN1に移る。
しかし、カンドラの表示牌は九筒。
衣の一筒明刻にモロ乗りする形になる。

(衣が海底だけで勝ってきたのではないと、刮目させてやるのも一興か)

一巡後、再び衣が動き出す。

「ペーポン、ペーポン」

ペー、すなわち北を下家からポンする。
これでまた海底コースは衣に来る。

(何故、こうも都合よく鳴ける!? なんという常識外っ……!!)

黒服は戦慄する。
一般人全てが理解不能に陥るような打ち方がここに存在していた。
とはいえ、これこそ衣の世界における雀士の最高峰に位置する在り様であり、その世界でも類稀なる打ち手である事は言うまでもない。

「カン」

たまらず、衣から見て上家のUNKNOWN3がその対面、UNKNOWN1からカン。
その瞬間、衣はニヤリと笑う。
上家が牌を切って、次に衣が山から牌を取る。

「海底だけを警戒するようでは衣には勝てん」

取った牌をその勢いで卓に叩きつける。

「ツモ!!」

衣手牌
白白白55七七 北北北 111 ツモ:5

※以下、萬子を漢数字、索子をローマ数字、筒子をアラビア数字で表記する。

「トイトイ、白、北、ドラ3。3000-6000」

東二局 終了時
ギャンブル船:29000
UNKNOWN1:19000(親)
UNKNOWN2:30000
UNKNOWN3:22000

これで東一局の失点を取り戻し、トップ者のUNKNOWN2に千点差と詰め寄った。
とはいえ、この程度で満足するような衣ではない。
まだまだ点を稼ぐ気満々である。

「清澄の嶺上使いにしては、いささか陳腐な対応策であったな。
 次は衣を楽しませてくれ」

衣はその幼い顔立ちに強かな笑みを浮かべながらそう言い放つと、そのまま洗牌に取り掛かる。

◇ ◇ ◇

天江衣の麻雀を見届けるのはギャンブル船にいる人間だけではない。
ここにいる原村和もまた、その行く末を見守る人間の一人だった。

「やっぱり衣さんは凄い……」

衣の闘牌には純粋に舌を巻かざるを得なかった。
得意技である海底撈月(この時点でオカルトと否定したいが)をチラつかせて他の手で和了るなど、およそ普通の打ち方ではない。
身近に部長の竹井久という心理戦を得意とする打ち手がいたが、それに近いものはある。
だが、それをUNKNOWN……宮永咲もどきを相手にして行える所に衣の強さが垣間見られる。

「下手な小細工をするまでもなかったかもしれませんね」

咲さんのAIが負けるのを見るのも辛いですけれど、と心の中で付け加える。
何にせよ、東二局の衣を見て、和はこれなら大丈夫だろうと安堵していた。

「ほう、始まっているようだな」

そこに悪夢の権化が現れさえしなければ、ではあったが。
言峰綺礼。人の苦痛を快楽とするような者がここに現れてしまった所に不幸があった。

「ッ!? あなたは確か言峰神父……何故あなたがここに?
あなたには他の仕事があるのではないのですか」
「放送をしなければならないから戻ってきたのだよ。
 状況を聞くと借金を負った天江衣がギャンブル船に向かったというではないか。
 故に、君がどのような心境でいるのかと訪ねてみたわけだ」

形式上は仲間を心配したような口ぶりではあるが、そのような事を言峰がするはずもない。
むしろ、和が苦悩に陥っている様子を嘲る様な雰囲気を醸し出していた。

「余計な心配は要りません。どうぞ、お帰りください」
「フッ、これは失礼した。しかし、随分気持ちに余裕があるようだが、本当に大丈夫なのかね?」
「何がですか」
「私の予想が正しければ、次の局で天江衣の命運が決まるだろう」
「……そんなまさか」

言峰のその言葉に和はモニタを凝視する。

◇ ◇ ◇

東三局(親・UNKNOWN2)
ドラ表示牌・白

前局で跳満をツモった衣に勢いがあった。
流れというものがあるなら、その流れは完全に衣の手の内にあった。

衣手牌
一二三ⅠⅡⅢ1238中中中 ツモ:7

三色にチャンタに中など、高めならドラで跳満も狙える好形。
だが、衣はツモってきた七筒をそのまま切る。

(六筒も九筒もまだ場に1枚も出ていない。止められている可能性が高い)

ならば、チャンタこそ失うが八筒で和了る。
ツモれば満貫、ロンでも3900は削り取れる。

(衣の感覚が正しければ、八筒は必ず来る!)

そう勢い込む衣の眼前でそれは起こった。

「カン」「カン」「カン」「カン」

(何だと……!?)

瞬く間に行われる4回のカン。
それが意味するものは―――

「「「流局です」」」

ハロ3体から一斉に無機質な音声が流れる。
UNKNOWN3体は相互にカンを4回行った。
そして誰も和了らなかった。
すなわち、四開槓。流局である。

(四開槓……偶然か?)

先程からこの対局相手に違和感を覚えてならない。
ここに来て、一抹の疑念を抱く。
これらは本当に清澄の嶺上使いなのかと。

東三局一本場(親・UNKNOWN2)
ドラ表示牌・七筒

開始から数巡後。

衣手牌
五六七ⅢⅣ23344578 ツモ:8

七筒を切れば、タンピンドラ2、両面待ちの好形。
ツモで満貫確定。ロンでも7700と高い。
リーチ一発ならば跳満もある。

(これを決めてトップに躍り出る!)

「リーチ」

衣は七筒を切り、リーチして勝負に出る。
……だが。

「カン」「カン」「カン」「カン」

「「「流局です」」」

(……違う! こいつらは清澄の嶺上使いではない!!)

衣は違和感の正体に気付いた。
この木偶らはおよそ勝とうという気概で打っているのではない。
プレイヤーを邪魔する為だけにいる存在であると。
そのような存在が清澄の嶺上使い、宮永咲であるはずがなかった。

◇ ◇ ◇

UNKNOWNの打ち筋に驚愕する人間はここにもいた。
当然の事ながら、UNKNOWNを衣にぶつけた和である。

「どうして!? あ、あんな打ち方、私は設定してません!!」

四開槓も一度ぐらいならカンの多いUNKNOWNなので、納得もできる。
しかし2回連続、しかも共に衣の和了寸前にAI間でのカンの応酬。
どう考えてもそうプログラムされているようにしか見えない打牌だった。
同席していた言峰は驚く和の様子を歪んだ笑みで眺めていた。

「どうした? そんなにあのUNKNOWNの設定が気になるのかね」
「……その口ぶり、何か知っているんですか」

ただ愉快そうな様子を示す言峰に何か嫌なものを感じた和はそう尋ねる。

「ふむ、私も詳しくは知らないがな。あのAIはおそらく帝愛製の物だろう」
「そんな……麻雀統括の私も聞いていませんよ!」
「私も小耳に挟んだだけだが、まぁ聞くがいい」

言峰は語る。
あのUNKNOWNは帝愛技術スタッフ製の制裁目的用AIに違いないと。
用途としてはギャンブル船、ネット麻雀で勝ちすぎた者に対する制裁である。
四開槓による時間稼ぎ行為。
これが、参加者にとってどれだけの驚異であるかは言うまでもない。
対局が続く間、特定箇所から離れられない以上、外部からの攻撃に無力である。
ギャンブルルームでは比較的安全かもしれないが、そことて完全に安全というわけではない。
そうして、精神的に追い詰めた所で改めて点数を削り、奪われたペリカを再度回収するという仕組みだった。

……というのは、言峰の虚言である。
麻雀統括である和を無視してそのようなシステムを作り上げるはずがない。
このAI自体も「こんなこともあろうかと」言峰が秘密裏に作らせたものである。

そして「偶然」AIが交換されてしまい、「たまたま」和がそのAIを使用しただけの事。
全くもって不幸な事故だと肩をすくめながら言い放ち、言峰は説明を終えた。

(なんて白々しい嘘を付くんですか、この人は……)

「詳しく知らない」「小耳に挟んだだけ」と言いながら、ここまで詳細を話せるという事実。
そして、終始鼻につくその愉快そうな立ち居振る舞い。
何よりも、この男は四開槓が始まる前から何が起こるか知っていた。
それが意味するものは、この言峰綺礼という男が率先してAIをすり替えたと言う事。

(まさか……内部からAIをすり替えるような人間が出るなんて……!!)

和は外部からの干渉に関しては対策していたが、内部からこのような事をする輩がいるとは思わなかった為、何ら手を打っていなかった。
結果がこの有様だった。
越権・妨害行為だと告発したくもあるが、そのAIを選んだのは自分自身である。
衣の相手にUNKNOWNを選ぶのを完全に見越されていたと言う事だろう。
こうあっては和自身の過失の部分が多く、告発などできるはずもない。
御丁寧にも宮永咲の打ち筋を真似てきた妨害AIを前に、和は悲しくて胸が張り裂けそうになっていた。

「咲さん……衣さん……」
「そう悲観することもあるまい。まだ対局は終わっていないのだからな。
 さて、放送の為に離れねばならぬのがどうにも口惜しいが、行くとしよう」

打ちひしがれる和の姿を一通り満喫した言峰は自らの仕事である放送へと向かう。

「あ、あぁ……衣さん、どうか無事で」

項垂れる和に出来る事は最早祈る事だけだった。

◇ ◇ ◇

「「「流局です」」」

「「「流局です」」」

「「「流局です」」」

(くっ……!!)

延々と続けられる四開槓。
衣の力を持ってすら、この状況を打破する手を生み出すことができずにいた。
ただ悪戯に積み棒と時間を積み上げて行く。

「一体何が起こっていますの? 浅上さん、麻雀は分かりまして?」
「いえ、私にも何が起こっているのか、さっぱり……」

そんな異常事態を前に、気が散るからと黙って見ていた同行者である黒子と藤乃も気を揉んでいた。
とはいえ、一介の女学生に過ぎない2人には何が起こっているのか全くの不明であり、それが不気味さをさらに増していた。

「分からない事は聞くに限りますわね。もし、そこのあなた!」
「……ん? 何だ」

黒子は黒服に声を掛ける。
無駄な事は聞けないとはいえ、麻雀のルールなどは教えてくれるはず。

「今、あの場では何が起こっていますの? 私たちには何がなんだか分かりませんの」
「そうか、確かにお前たちには分からんだろうな。とはいえ、何と説明すればよいか……。
 端的に言えば、カンという行為を4回行って誰も和了できないと流局という仕切り直しが起こるという事だ」
「……つまり、ずっと同じ事を繰り返しているということですの?」
「まあ、そういう事だ」
「それでは勝負どころではないじゃありませんか。
 天江さんを警戒するにしても、度が過ぎるのではありませんこと!?」
「そんなの、俺の知った事じゃない。
 現実にそんな事が起こっている。それだけの話だ」

黒服はそんな風に切り捨て、話は終わったとばかりに再び卓に視線を戻した。
黒子や傍で聞いていた藤乃は何もできずに立ち尽くしていた。

「……浅上さん」
「何でしょう?」
「私たちはこの部屋の入口の外に待機しましょう」
「それは何故……でしょうか」
「ここのルールに関しては道中にお話したことかと思いますが」

黒子たちはギャンブル船に向かうにあたり、予めその場所におけるルールを確認していた。
藤乃は全て初めて。黒子は麻雀のルールについて知った。
衣だけはギャンブルルーム・麻雀のルールをすべて把握していたが、黒子の推測までは聞いていなかった。

「はい。確かここは非戦闘区域なんですよね」
「他にも私が補足した事がありましたわよね?」
「……確か、毒物や爆発物での攻撃は黙認。
 他にも部屋の外からの狙撃とかも黙認される可能性が高いとか……あっ」
「そう。今の天江さんは麻雀卓から離れられない。容易に狙撃できる状況にありますの」
「それは、かなりまずいですね」
「ええ。だからこそ、私たちは部屋の外で怪しい人物が来ない事を確認するんですの」
「分かりました。ここにいても天江さんの役には立てそうにありませんし」
「……それは同感ですわ」

こうして黒子と藤乃の2人はギャンブルルームの外での警戒に当たる。
入口で一度振り返って衣に心の中で声援を送り、部屋を出て行くのだった。

【F-3 ギャンブル船/一日目/真夜中(放送直前)】

白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:ギャンブルルーム内に拘束された衣を守る。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:士郎さんが心配、意識している事を自覚
6:士郎さんはすぐに人を甘やかす
7:少しは士郎さんを頼る
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。浅上藤乃も含む。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
 ・距離に反比例して精度にブレが出るようです。
 ・ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
 ・その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※美琴の死を受け止めはじめています。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
 そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
阿良々木暦らと情報交換をしました。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります

【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
1:ギャンブルルーム内に拘束された衣を守る。
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを探す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
 ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※阿良々木と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります

◇ ◇ ◇

「「「流局です」」」

「「「流局です」」」

「「「流局です」」」

無限に続くかと思えるこの流局地獄。
しかし、衣はまだ状況の打破を諦めてはいない。
鳴いてみたり、切る牌を変えてみたりと試行錯誤を繰り返している。
死の期限を抱えて尚、その表情にいささかの曇りもない。
勝ちを諦めない。
それはとある大将戦でのとある雀士のようであった。

だが、その想いは天に届かず。

―――夜分遅く失礼します。インデックスです。

無機質な少女の声。
すなわち、定時放送が始まってしまった。

(放送が始まってしまったか……)

ここに来て衣も顔を歪ませる。
放送ごとに起きる借金の金額倍増。
つまり、1億ペリカだった借金はこの時点で2億ペリカに膨れ上がる。

(未だに1000万ペリカの元手から変わらない……)

「「「流局です」」」

そしてこの流局の嵐。
放送が終わって尚も続いていた。

(如何にせん……)

結局の所、衣に打つ手はなかった。
このまま延々と流局し続け、最後には考えるのをやめるのだろうか、と空しく考えるのである。
そんな衣に止めの一言が加えられる。

「マージャンッテタノシイヨネ!!」

その瞬間、世界が凍った。

「楽しい? こんな麻雀が楽しい……?」
「ホントウニタノシイヨ!」
「イッショニタノシモウヨ!!」

ハロにとっては宮永咲の真似をしただけの事だろう。
その言葉が無情にも衣に突き刺さる。
常人であれば、その皮肉に満ちた言葉に悔しさを溢れさせるだけだろう。
たまらず、衣も顔を上げて叫ぶ。

「……ふざけるな!」

そして、それは起こった。
ギャンブル船停電事件、二回目である。

(な、なんだこれは……っ!!)

黒服は驚愕する。
停電が起こった事に対してではない。
衣から迸る仄かな青い光に未知の恐怖を感じたからである。
そして、再び明かりが灯る。

「このようなものが麻雀だと言うのならば、衣が真の麻雀を見せよう。
 ただし、今までに散っていった風越や鶴賀の大将、そして下衆に貶められた清澄の嶺上使いの無念……。
 お前たちにそれを思い知らせてやる!」

ここから衣の快進撃が始まる。


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269:衣 野性の闘牌 浅上藤乃 279:女 の 闘い -覚悟-
269:衣 野性の闘牌 天江衣 270:とある魔物の海底撈月(後編)
269:衣 野性の闘牌 白井黒子 279:女 の 闘い -覚悟-
269:衣 野性の闘牌 原村和 270:とある魔物の海底撈月(後編)
外伝:彼の者の愛した俯瞰情景 言峰綺礼 272:第四回定時放送 ~二四時間後~


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最終更新:2010年08月16日 01:03