疾走する超能力者のパラベラムⅣ ◆hqt46RawAo
◆ 『作戦/疾走する恋情』 ◆
走る。
とにかく走る。
僕は戦場ヶ原と共に、敵に向って走り続けた。
二人で一緒に、唯一の武器だけを抱えて挑む。
これまで見たことも無いほどの強大な敵へと。
恐怖は、ある。
正直逃げ出したくて堪らない。
けれど僕は、立ち止まるつもりなんて無い。
だって、隣には戦場ヶ原が居るのだから。
彼女が闘うと決めたのだ。
ならば僕も共に戦うに決まってる。
それが彼氏の役割ってもんだ。
「…………お………おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
気が付けば、咆哮していた。
それは恐怖を紛らわすためか、自分を鼓舞するためか。
ただ勝つために。
そのために……。
僕は最後に、戦場ヶ原の目を見る。
彼女も僕を見ていた。
口では何も言わなかったが、彼女は目で告げている。
ただ一つ。
信じている、と。
全幅の信頼を僕に預けてくれている。
ならばもう迷いは無い。
行こう、戦場ヶ原。
一緒に闘って、ここを生き残って、そして帰ろう。
いままで失ってきた事もたくさん在るけれど、お前だけは僕が守ってみせる。
だから、絶対に勝とう。
全力で、ぶつかろう。
目の前の敵へと。
「「おおおおおおおおおッ!!」」
咆哮はやがて重なり合い、遂に敵の眼前へとたどり着く。
その時、
一方通行の手が、我武者羅に動かされていた手が一つの薬ビンに触れたのが見えた。
それはありえない角度でぶつかったにも関わらず、ありえない軌道で僕等に向って飛来してきた。
かわすことなど到底出来ない。
しかし、それを阻んだのはやはり
ファサリナさんが使う円盤だった。
僕等の目の前で展開される電磁の盾が、一方通行の攻撃を通さない。
「て、めッ!」
一方通行の顔が青ざめていく。
僕らが引き金を引く瞬間、電磁の盾は示し合わせたように消滅する。
そして――。
カチリ。
そんなあっけない音と共に、終わりの燐光が輝いた。
◆ 『破綻/LEVEL5 -accelerator- 』 ◆
視界が、光に包まれる。
一方通行はこのゲームが始まって初めて、己が死に直面しているのを感じた。
「はッ……」
やまり、まだ解析しきれない。
時間が無い。
グラハムからの銃撃。
阿良々木と戦場ヶ原による銃撃。
同時に防ぐ事が出来ない。
「ははははははッ……」
徐々に、燐光に押し負けていく。
死が、ハッキリと見えた。
「はははははははははははッ!」
だが笑う。笑えるのだ。
己の死が、どうしようもなく笑えてしまう。
なぜか、どうしてなのか、それは分らない。
けれど、もしかしたら……。
(なンだァ……。まさか俺は……)
こうなる事を、望んでいたとでも言うのか。
死ぬ事を、殺される事を、狂った自分を止めてもらえる事を。
その終わりを、願っていたとでも言うのか……。
(はッ……それこそ最高に笑っちまうなァ……)
馬鹿げている。
何故ならば……。
『おお、あったかいご飯はこれが始めてだったり、ってミサカはミサカははしゃいでみたり!』
耳に残るその声が……。
『誰かと一緒にいたいから、ってミサカはミサカは……』
その、存在が……。
「――死ねるかよ」
己を、縛る。
その逃避(死)を許さない。
決して、絶対に、逃がしはしない。
「死ねるかよォォォォォォォッ!!!!」
そう、だ。
逃げるわけにはいかない。
己が死ねば、誰が……。
誰がアイツを守ると言うのだ。
「ッ……うおォァァァァアァァァアッ!!!!」
叫ぶ。
その思いを叫びに変える。
脳回路を焼ききれるくらい酷使して、未知の二射線を死ぬ気で凌ぐ。
「オォォォォオァァァァァアァァァアァッ!!!!!」
だが長くは持つまい。
故に、射線を殺す。
射手を殺す。
それは直前に閃いた気転。
敵が己に有効な攻撃を頼みにするなら、己は己に無効であり、敵に有効な攻撃を――。
すなわち、自分にはノーダメージとなる自爆技。
それを成せるのはこの島でも一方通行だけだ。
こんな破綻した戦法を有効とするのは、彼だけだ。
一方通行は足元のディパックを思い切り蹴り上げる。
そこから飛び出してきたのは合計78発のショットガンの弾丸。
ただの弾丸ではない、戦国武将が行使する超大の炸裂弾。
その凄まじい量の散弾を、一方通行は意図的に、一斉に、暴発させた。
飛び散る弾丸の嵐は周囲全ての事象を巻き込んで。
小規模な爆発は互いに重なり合い。
この瞬間、一方通行を中心に半径十数メートルの空間が、凄まじい炸裂音と共に吹き飛んだ。
◆ 『破綻/永久に』 ◆
僕は失敗した。
それを理解する。
目の前が真っ赤になる。
もう少し、もう少しだったのに。
なのに駄目だったのか。
爆炎と砕けた銃弾の嵐に、僕達は包み込まれていく。
戦場ヶ原と共に握っていた銃器も、爆風に飛ばされていく。
これで終わり。これで死ぬ。
死ぬ。
死ぬ。
嫌だ。嫌だ。
嫌だ。
まだ、終わりたくない。
まだ死にたくない。
だって、これからだったんだ。
全部、ここからだったのに……。
やっと戦場ヶ原と会えて、そして一緒に戦うことを決めて。
そして、そして、絶対に守りきる事を決めたのに。
なのに。
なのに死ぬ。
「く……そ……」
僕は死ぬ。
それを知って。
終わりの刹那。
僕は最後に、隣にいる女の子の顔を見る。
「…………」
戦場ヶ原は何も言わない。
言う間もない。
だけど、笑顔だった。
最後に見た彼女は最高の笑顔で僕を見つめていた。
どんな時でも、こんな場合でも。
まるで僕の隣に居る事が、居るだけで、それが幸せなんだと。
胸を張って宣言するように。
僕もそれに返す言葉は無い。
そんな時間は無い。
だから代わりに、繋いだ手をぎゅっと握った。
絶対に、もう二度と離さない。離れないように――。
そして目の前が、黒く染まる。
まるでシャットアウト。
自己と世界が遮断されたような感覚。
無音。
突然。
全て。
これで終わり。
■
「……っ」
揺れる視界に構わず、
グラハム・エーカーは立ち上がる。
全身にガラスの破片が突き刺さり、体中が血で滲んでいるが、頓着しない。
硝煙と土埃によって再び視界環境は最悪に落ち込んだ。
その中をよろよろと歩く。
歩きつつ叫んだ。
「阿良々木少年っ!」
その少年の名を叫ぶ。
「無事なのか……!? 阿良々木少年!!」
先の爆発は殺傷よりも、グラハムと阿良々木を吹き飛ばす事を目的とされた攻撃だった。
その要因があったからか、傷だらけになりながらも、グラハムは命を拾った。
だがグラハムよりも一方通行に接近していた阿良々木と戦場ヶ原がどうなったのかは分らない。
最悪の事態も想定して、グラハムは煙の中を進んだ。
「……!」
そして見る。
倒れ伏す二人分の影。
間違いなく、阿良々木と戦場ヶ原の二人だ。
「阿良々木少年!!」
近づいて、そして見る。
息を呑む。
そこにはおびただしい血溜まりがあった。
「阿良々……木……」
折り重なるように倒れている少年と少女。
それを中心にして、二人分の血液が流れ出している。
少年には、まだかすかに息があった。
体のあちこちに銃創が有ったが、奇跡的に致命傷を免れたのだろう。
だが少女は……。
「なんという……ことだ……!」
戦場ヶ原ひたぎは、死んでいた。
炸裂した散弾の一発に胸を貫かれ――即死だった。
少女は眠るように目を閉じて、普段の怜悧さなど欠片も感じさせない。
どこか安心したような安らかな表情で、阿良々木の手を握って絶命していた。
「…………くっ!」
グラハムは後悔する。
こうなるのであれば、無理やりにでも逃がしていれば良かったのだ。
こうなることが、分っていれば……。
だが彼は少年と少女の意思に、可能性を見てしまった。
この状況を打開する。その光を見、そして賭けてしまったのだ。
だが賭けはここに敗北を突きつけられる。
グラハムは悔やみながらも、道を見失う事は無かった。
残されたもの、自分に出来る事を考える。
今の自分に出来る事は、残った命を守る事のみ。
意識の無い阿良々木を抱え上げる。
その際、繋がれた二人の手を引き離す事に、強烈な罪悪感を感じながらも。
「……これは……敗北だ……」
呟いて、自認する。
自分達は負けたのだと。
もう逃げる事しかできない敗者なのだと実感する。
それも、逃げる事が出来ればの話であったが。
「待てよォ……」
悪寒と共に、背中に突き刺さる悪鬼の声。
振り返ればそこに、想像通りの怪物がいた。
「逃がすと、思うかァ?」
「そうだな……。 見逃してはくれないだろうな……」
煙がはれていく、
そこから現れたのは返り血に濡れた白髪の少年の姿。
風貌は、いまだ無傷。
「化け物め……」
「ヒャハハッ。 言えてるな」
感心したように一方通行は嗤い。
その手に持ったコーヒー缶を振り上げた。
「ここまで、か……」
この状況を打開する術などどこにもない。
見渡せど、脱出口など皆無。
味方は――
白井黒子には既に戦闘は不可能。
見渡せば、ファサリナも薬局の床に倒れ伏して、死んでいるのが見えた。
万策尽きた。
それがグラハムの正直な心境だった。
終わりが来る。
数秒もせぬ内に、死神の鎌がまたしても命を摘み取っていく。
その時、一方通行の背後に。
グラハムは桃色の髪の少女の姿が見えたような気がした。
【ファサリナ@ガン×ソード 死亡】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語 死亡】
◆ 『救い/優しい幻想』 ◆
ドアを二枚、壁を二枚を超えたその先は地獄の鉄火場。
危険は承知。
死は覚悟の上。
だがこの戦いだけは逃げられない。
己の我が侭の為に多くの人が戦って、そして命を落としたのだ。
なのに自分だけ逃げる事は出来ない、と。
ゆっくりと、だが力強い足取りで、ユフィは歩く。
もちろん死ぬ気は無い。
己には償わなければならない罪が在る。
知らなければならない、死が在る。
こんな所で、投げ出すわけにはいかない。
けれど今は、ここは立ち向かわなければならない時だと、彼女は決意した。
「…………スザク」
残してきた彼への思いを振り切って、少女は進む。
手には先程爆発音と共に足元に転がってきた巨大な銃器。
足取りは決して軽くは無く、だが力強い。
「行きます」
一瞬俯きかけていた顔を上げ、少女は見た。
己が倒すべき敵の姿を……。
「その敵を……撃つッ!」
こちらに背中を向ける血に濡れた少年。
その背を、狙い撃つ。
燐光が少年へと迫る。
直前で振り返った少年の表情は、確かな脅威を認識していた。
一方通行が伸ばした手がビームに触れる。
またしても彼の対応は間に合った。
むしろ解析が進み、迅速に対応できるようになっていた。
だが背後からの不意打ちという点は大きい。
弾いた燐光の軌跡はこれまでで、一番異質なものとなった。
一方通行を避けるように動くのはこれまで通りだったが、
今回の軌道は上方、天井を突き破って天に飛ぶ。
更には、よろめいて転ぶ一方通行。
それは千載一遇のチャンス。
誰の目にもそう映った。
一方通行は一時的とは言え、このとき完全に敵の姿を視界から外した。
今撃てば、その攻撃は完全に一方通行の認知の外。
この時、この瞬間ならば、あるいは攻撃が通るかもしれない。
ユフィもそう考えたのか、若干焦るように引き金を引いた。
「……そ、そんなっ」
しかし、もう燐光は発射されなかった。
彼女は知らない。
この武器の設けられた制限。
驚異的な威力と連射性をかね揃える代償に、撃てる回数は5発のみ。
それ以上撃つためには、何らかの手段によるジェネレータへのエネルギーチャージが必要になる。
故に今はもうなんど引き金を引こうとも、その砲門から勝利の燐光が放たれる事はない。
「そん……なっ……」
勝利の代わりにもたらされるモノは敗北と死。
手に持っていた銃器ごと、ユフィの胸を銀の閃光が貫通する。
「……ぁ……」
崩れ落ちる少女。
光の消える瞳。
消えいく命。
「……」
己の血の海に倒れ伏した少女は最後に願う。
「……スザ……ク」
彼が、どうかもう一度立ち上がることを。
彼が、一人でも多くの人を救う未来を夢に見る。
ユフィは倒れ伏したまま、己がいま開いてきたばかりの扉を見る。
きっともうすぐ、彼はあの扉から飛び出してきて、もう一度闘ってくれるのだ。
きっともうすぐ……。
皆の為に、自分のために、そうあの日のように、ヒーローのように現れて。
そして己すら救ってくれるに違いない。
彼はもうすぐ、皆を守る為に闘ってくれるのだ。
「ああ……」
それはなんて、素晴らしい。
誇らしい光景なのだろう。
それが、彼女の最後の思考となった。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2 死亡】
■
静寂が訪れた。
動くモノは無い。
話すモノも無い。
ここに四つの命が散華した。
残された生命は五つ。
その内の三つは敗北者。
皆、床に四肢を投げ出している。
一つは勝者。
彼だけがここに二本の足で立っている。
「思ったより手間取っちまったが……。これで終いか……」
勝者、一方通行は告げる。
戦いの幕を下ろす。
もはや誰も動けない。
誰も逃げられない。
誰にも邪魔されない。
ならば、全て諸共消し飛ばしてしまえば手間はかからないだろう。
「ふ……は……ははは……ヒァハハハハハハハハハハハハッッ!!」
狂喜の歓声と共に。
もう一度、風を集める。
今度こそは全力。
間違いなく、この薬局全てを吹き飛ばす最大出力。
その行使の後には彼しか残るまい。
倒れ伏す敗北者達は残さず塵芥と化すだろう。
終わり、だ。
これで。
「ハハハハハハハッ! ヒャハハハハハハハハハッ!!………………あァ?」
そんな時、音が、聞こえた。
彼は至極面倒くさそうな顔色で、能力行使を止めて振り返る。
聞こえてくる。
コツコツ、と。
小さな、だが確かな足音。
近づいてくる。
そして、やがて、死した桃色の髪の少女のむこう。
薬局奥の扉がゆっくりと開いて……。
「……よォ、お目覚めかよ」
その一つは挑む者。
最後の挑戦者。
悠然に、
強靭に、
騎士の名に恥じぬ確かな意志と、ただ一つの決意を持って。
だが他の誰でもない。
一人の人間として。
◆ 『対決3/疾走する生命』 ◆
「ずいぶん、暢気にしてたンだなァ……。こっちの仕事は大体終わっちまったよ」
――聞こえない。
スザクは一方通行の言葉に何も返さずに、目の前で既に事切れている少女に歩み寄った。
「後はテメエをぶっ殺して、きっちり皆殺して完了、と」
――聞こえない。
スザクは少女にも、やはり何も告げなかった。
言葉は無かった。
ただ、遂に再会した、終ぞ生きて会う事のできなかった少女に触れる。
その冷たい頬に、手を置いた
結局、最後まで会って話す事は出来なかった。
会う資格も無いと思っていたが、こうして二度と邂逅の叶わない現実を目にしたとき。
どれほど自分が彼女に会いたいと願っていたのかを思い知る。
だが、今は、今だけは。
迷いも、後悔も、悲しみすらも感じない。
当然、怒りも彼方に置いてきた。
残るものは、あの熱、あの言葉。
――憶えている。聞こえていたとも。
『……生きて、ね』
その声を、その命を、その約束を――。
だから今だけは、もう一度だけ、彼女のたった一人の騎士として。
「――生きる」
顔を上げる。
その目は、真紅に染まっていた。
『生きろ』
その目からは、涙が零れ落ちていく。
「俺は、生きる」
その目が、敵を捕らえた。
意思が、闘志が、炸裂する。
「うおおおおおおおォォォォォォォォォッ!!」
咆哮と共に、スザクは駆けた。
「ははッ。イイぜッ! イイぜェ! 来いよォ!!」
――聞こえない。
――もう何も聞こえなかった。
■
乱れ飛ぶ銀の嵐。
舞い散る閃光。
駆け抜ける生命。
それは弱小の個。
撃たれれば死ぬ。
刺せば死ぬ。
殺せば死ぬ。
ただそれだけの、つまらない命のはずだ。
だというのに、
心臓を押しつぶそうと狙うコーヒー缶。
逃げ場を潰す銀球の散弾。
かわす隙間など無いガラス片の嵐。
触れればそれで最後となる破壊の手。
その全てが人体には致命打となる凶器の奔流。
真人間にはどれ一つ逃げる事など絶対に不可能な筈の災害事象。
にも拘らず、それらは一撃たりとも命中し得ない。
心臓をおしつぶそうと狙うコーヒー缶は、目視のみで避けられる。
逃げ場を潰す銀球の散弾は、障害物を蹴り跳ねて凌がれる。
かわす隙間などない筈のガラス片の嵐は、ありえない角度と挙動で見切られる。
当然、これほどの超反応を成し遂げる相手に、破壊の手など届きはしない
「馬鹿なッ!」
以前に相対した時はこれほどではなかった。
速すぎる。
幾らなんでも常識を超えすぎている。
否、いまだ人体の常識にのっとった挙動だ。
だがあまりに絶妙な体技と心技で、絶死の散弾がかわされていくのだ。
ガトリングもかくやという程の質量の連射。
それを敵は壁を走り、商品棚を蹴倒して、床を転がって、ありとあらゆる方法を駆使して避ける。
接近を許したと思えば、思いきりとび蹴りをくれる。
が、当然敵は反射の壁に阻まれて後方に飛ぶ。
しかし、その後退の勢いすらも敵の回避を助けているのだ。
止めさえすれば刺せる。
止まりさえすれば殺せる。
たが止まらない。
戦闘が始まって以降、敵はまったく停止する気配を見せない。
マックススピードで駆け抜け続ける。
それはどう見ても偶然、運が良かったと言うしかないギリギリの回避運動。
だがそれがもう軽く数十回は発生しているのだ。
繰り返される偶然とは即ち必然。
これは運ではない、敵は確かな確信を持ってその超回避を成し遂げている。
「なンなンだ、いったいッ!?」
なにが変わった?
以前と何が違う?
「その……腕、か? いや違うな」
薬局の治療をもってしても、切断された腕の再生までは為されなかったようだ。
いまのスザクは隻腕となっている。
それが体重を軽くし、的を小さくし、回避率を高めている。
多少はそれも要因となっているだろう。
だがここまでの超回避はそれだけが理由ではない。
「そうか……場所か……」
以前と違うこと、それは闘っている場所だ。
今回の戦場は室内。
しかも障害物がたんまりとある薬局内だ。
一方通行にとっては攻撃が当てにくく。
跳ね回るスザクにとってはかわしやすい、ちょうど良い場になっている。
「だったら……」
ここを見晴らし良くする。
場を崩し、一方通行にとって有利な状況に作り変える。
その考えがあった。
だがその前に……。
「チィッ……そろそろだろォな」
時間制限が近づいている。
二度にわたる全力の能力行使に加えて。
「コイツ相手じゃ力をケチれねえ……」
白井黒子やファサリナに対してかなりの長期戦をなせたのは、
力をセーブしながら戦う事が出来たからだ。
彼女達は積極的に攻撃してくる事はなかった。
それが自滅を誘発すると知っていたからだ。
故に一方通行は隙を見て反射の面積を削ったり、時に完全に止めるほどの余裕を見せていた。
攻撃も散発的で全力には程遠いかった。
だがスザクはそうはいかない。
全力の攻撃も未だに届かない。
しかも、この敵は効かないと承知しているくせに直接攻撃を仕掛けてくる。
なんど弾き返しても、無駄だと分かっているくせに馬鹿の一つ覚えのように蹴りつけてくる。
何かを確かめるように。
これでは反射も万全の状態に保たなければならない。
節約する事が出来ない。
現に今、一方通行の残り時間はみるみる削られていった。
当然の話。
この敵は時間制限を知っている。
粘ればやがて一方通行が力を失うと知っているのだ。
今度は能力切れの演技にも引っかからないだろう。
確実に、なぶり殺しにしてくるはずだ。
「どォする……?」
一方通行は選択を迫られていた。
このまま闘うか、退くか。
すでに時間切れのリスクを負っている。
だがここでスザクを仕留められなければ、一方通行の弱点は広範囲に知れ渡る事になるだろう。
「くそ……」
彼は迷っていた。
迷いながらも力を行使する。
「くッそがァァァァ!」
早く死ね。
今すぐ死ねと、怒りを乗せて。
怒涛の暴力が炸裂する。
■
「オオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!」
枢木スザクは咆哮する。
もう、現実の音は何も聞こえない。
薬局内に巻き起こる、炸裂音、激突音、狂気の怒号。
その全ては耳に入らない。
音を置き捨ててスザクは駆ける。
殺意の奔流も、死の刃も、敵の姿すら認識外にあった。
思いは、認識する感情はただ一つ。
その誓い。
その約束。
その命令。
『――生きろ!』
生きる。
『――生きて……』
生きる。
『――生きろ(て)!!』
――俺は、生きる。
生存の意志だけを引き連れて駆け抜ける。
向かい来る閃光を回避する。
眼前の敵に突貫する。
視界を散弾が覆う。
だが回避する。
反転して、敵に挑む。
そして、生きる。生き抜く。
火花散る視界。
白と赤に染まる意識の中。
もはや意味の無い、言葉の羅列があふれ出していた。
――ユフィ。
僕は君に、伝えたい言葉があったんだ。
君に返さなきゃいけない答えがあったんだ。
君に会って、話さなきゃいけない事があったんだ。
君に会えて本当によかった。
僕はずっと君に救われていた。
死にたがりの僕は、君のおかげで前をむくことが出来たんだ。
この理想を目指すことができたんだ。
どれほど感謝してもしきれない。
僕は、本当は……。
騎士とか、主とか、そんな関係じゃなくて。
ただのスザクとして、僕は君が好きだった。
誰よりも、君を守りたかったんだ。
僕は……ずっと、君と一緒にいたかった。
――言葉はもはや永劫に届かない。
叶わない。
それは二度目の離別
短い夢の終わりを知り。
真紅の相貌は疾駆する。
その目から流れ落ちる涙だけを、ただ一つの手向けとして。
■
「くそッ! 限界かッ……!」
遂に一方通行は撤退を決意する。
逃げを選んだ。
もう残り時間かが間もない事は自覚している。
ここでスザクを仕留められなかった事は後に響く問題として自覚しているが、
無理に闘って殺されるわけにもいかない。
そうしてベクトル変換で薬局内からの離脱を試みようとした瞬間である。
都合30発目の蹴りが一方通行に命中した。
やはり、反射される。
……だが。
「なン……だ? いまの嫌な感じは……」
それは違和感。
スザクが何度も近接攻撃を試みてくる真意。
最初は能力限界を早めるためだと考えていた。
だが、スザクは一方通行が使う能力の強弱で限界が変わることなど知りるはずがない。
ならば、なにが狙いなのか。
直感的な焦りに任せ、一方通行はガラス片の弾幕を正面に撃ち出して、後方に飛んだ。
その瞬間である。
空に跳び上がり、ガラス片を回避するスザク。
テレポーターですらかわせなかった移動先を読んだ一撃すらも回避せしめ。
天井を蹴って向ってくる。
そして、一方通行の顔面へとその回転キックを繰り出して―-。
「コイツ……まさか……!?」
その蹴りは全力。
反射に対応するための手加減が無い。
つまり。
攻撃が、通る。
通す気が、在るとでも……。
「――ガッ!?」
その蹴りは果たして一方通行に届いた。
反射の壁を抜けて、惜しくも顔面には及ばなかったものの肩口を蹴り飛ばし、一方通行を跳ね飛ばした。
床を三回ほど跳ね、漸く一歩通行は停止する。
「な……にを……?」
やったのかと、その言葉を言い切る前にスザクは答えを口にした。
「これだけ何度も殴っていれば、仕組みと抜け方くらい分る」
それはこの戦いが始まって初めてスザクが一方通行に声をかけた瞬間だった。
「攻撃を自動的に反射される。ならば、その瞬間に自分から攻撃を逆方向に軌道変更すればいいだけだ。
遠ざかる攻撃はお前自身に反射される。 もう……その力は通用しない……。 諦めろ」
簡潔な事実。
だが分ったところで到底容易には実行できない絶技。
それを当たり前のように述べ、スザクはもう一度地を蹴ろうとし……。
「…………ッッ!!」
そのときには、一方通行は既に薬局の外へと飛び出していた。
商品棚を引き倒しながら、後ろ向きに。
今度こそ完全に入り口を破壊して、撤退する。
「逃げ……られたか……」
ふらりとバランスを崩しながらスザクは呟いた。
ハッタリは、通用した。
スザクもまた限界だったのだ。
治療を終えたばかりにも関わらず、全身を酷使し。
そして人間の限界を半ば超えた挙動で長時間動いた。
その反動が纏めて襲いくる。
ギアスと同調する意志と、スザクの身体能力は確かにその動きを可能にしていたが、人体として限界は当然ある。
あのまま戦い続けていれば、先に限界を迎えていたのはスザクだったかもしれない。
「…………」
周囲を見回す。
静まり返った薬局内。
立っているのは自分ひとりだった。
だが、生存者は何人かいる。
「枢木……スザク……」
声のした方を見れば、金髪の軍人らしき人物が、
阿良々木暦を抱えて佇んでいた。
「詳しい自己紹介も、礼も、今は後にさせてもらう。
ひとまず、けが人の解放を最優先としよう」
男の声に頷いて、スザクは生存者の保護に動き出す。
そのときふと、足もとにふわりとした毛並みの感触がした。
視線を下げると、一匹の猫が擦り寄っていた。
どこか、哀しそうな目をして、スザクを見上げていた。
「アーサー、君も、生きていたか……」
これもまた、終わる戦いに残された小さな生命。
共に、先に負傷者へと赴いた男の背中に追従する。
「……行こう、か」
けれど最後に、桃色の髪の少女を振り返る。
胸を真っ赤に染め、二度と起きる事のない少女。
二度と会うことの出来ない少女。
終わった幻想の残滓。
もう一度、心が弾けんばかりに、揺れた。
けれど叫びたくなる衝動を今度は押さえつけ。
自分の頬に、手を当てる。
もう、涙は零れていなかった。
■
【E-4 薬局内部/二日目/黎明】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(大)、左腕切断(処置済)、
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:
[道具]:鉈@現実
[思考]
基本:生きて、ユーフェミアの約束(命令)を果たす。
0:ユフィ……。
1:とにかく今は怪我人の介抱を最優先。
[備考]
※ラウンズ撃破以降~最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※一回放送の少し前に、政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※飛行船についての仮説、
ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※二日目深夜に、ルイスの薬剤@ガンダムOOを飲みました。
※一方通行の反射の壁を越える方法を理解しました。
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:疲労(中)、全身にガラスによる刺し傷
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30 、GN拳銃(エネルギー残量:小)
[道具]:基本支給品一式、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、ゼクスの手紙
双眼鏡@現実、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、
ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20、1万ペリカ
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~
戦場の絆~』解説冊子
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
1:怪我人の保護を最優先とする。
2:
天江衣をゲームから脱出させる。脱出までの間は衣の友達づくりを手伝う。
3:主催者の思惑を潰す。
4:首輪を解除したい。首輪解除後は『ジングウ』を奪取または破壊する。
5:スザクは是非とも仲間に加えたい。
6:
浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
7:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
8:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
9:可能ならば、クレーターを調査したい。
10:【憩いの館】にある『戦場の絆』を試したい。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています。
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※
衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。この情報だけでは首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※
原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:気絶中、疲労(大) 、全身に銃創(致命傷は無し、治療中)、ただし出血(大)
[服装]:ボロボロの直江津高校男子制服
[装備]:レイのレシーバー@ガン×ソード 、ベレッタM1
934(5/8)
[道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実
ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、衛宮邸土蔵で集めた品多数
[思考]
基本:誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
0:……。
1:――戦場ヶ原……。
2:憂はこのままにはしない。桃子、ルルーシュに対しては警戒。
3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
4:浅上らの無事を願う。
5:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後から参戦。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※サポート窓口について知りました。また、原村和が主催側にいることを知りました。
※衛宮邸の土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※衣の負債について、気づいていません。
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:気絶中、疲労(極大)、全身に切り傷、刺し傷、擦り傷、多数、右肩口をコーヒー缶が貫通
[服装]:ボロボロの常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、1億1310万ペリカ
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:薬局へペリカを届ける。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
4:士郎さんが心配、意識している事を自覚
5:士郎さんはすぐに人を甘やかす
6:士郎さんを少しは頼る
7:お姉さまが死んだことはやはり悲しい。もしお姉さまを生き返らせるチャンスがあるのなら……?
8:
アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。藤乃のことは完全に信用したわけではないが、償いたいという気持ちに嘘はないと思う。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が
130.7kg。
・その他制限については不明。
※エスポワール会議に参加しました。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
【?-?/???/二日目/黎明】
【
インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ペンデックス?
[服装]:歩く教会
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
0:バトルロワイアルを円滑に進行させる。
1:友達が何なのかを知りたい。
2:天江衣にもう一度会ってみる。
3:自分に掛けられた封印を解除する?
4:友達が何か解ったら、咲に返事をする。
5:風斬氷華とは…………。
※インデックスの記憶は特殊な魔術式で封印されているようです。
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最終更新:2010年10月17日 01:29