戦場の絆 ◆kALKGDcAIk
ヒイロは敵機体を見て僅かに驚きが浮かべた。
ファサリナの搭乗しているMS。
その姿は自分のよく知るガンダムによく似ていた。
だが、あの様なガンダム。いやMSをヒイロは見たこともなかった。
機体の名はガンダムヴァーチェ。
鈍重なイメージを持たせる分厚い装甲。
巨大なキャノン砲を肩部に装着し、拠点攻略などに重点を置かれた機体だ。
サウダーデは上空へ飛び上がった。ヒイロは敵機の見た目から素早い動きは苦手だと考え、空中からの射撃が有利だと判断したのだ。
飛行して相手に狙いを付けられないようにしながら、サウダーデの武装の一つである重粒子弾ライフルの引き金を引く。
重粒子弾の雨がヴァーチェに襲いかかった。
轟音と共に巻き添えになった周囲の半壊したビルは粉々に砕け散り、土煙を生み出す。
一見、ヒイロ有利の展開。しかし、ヒイロの内心は自身に失望していた。
サウダーデのスペックを生かし、空中を高速移動しつつの射撃。
いつもなら何の問題もない動作であった。だが、ヴァーチェに命中させられたのは精々半分。
本来の愛機であるウイングガンダム。いやMSならば、このようなミスは無かっただろう。
ただの機体ごとのクセ程度なら、ヒイロほどの実力なら問題なく動かせた。
ヨロイという世界も、技術も、設計理念も異なる機体。
たとえ慣れ親しんだコクピットに座っていようと、MSとヨロイではヒイロの想像以上に違いが存在したのだ。
「早い殿方は...。嫌われてしまいますわよ」
ファサリナの妖艶な声と共に、土煙の中から破壊の光が飛び出す。
その反撃はヒイロには十分予想範囲内の事であり、回避は容易い。
だが、土煙が晴れたとき、ヴァーチェは一切の傷を負ってはいない。
そちらの事実がヒイロに僅かながら驚きを与えた。
いくら全弾命中させられなかったとしても、多少は傷をつけられてもおかしくない。
ヒイロは落ち着いてビーム砲のトリガーを引いた。
今度はミスなどない。的確な射撃でヴァーチェに破壊の雨が降り注いだ。
だが、それもヴァーチェに届くことは無い。
今度はヒイロの目にもその理由がはっきりと映った。
ファサリナの妖艶な声がコクピットに響く。
「もっと...、もっと激しく攻めてもいいのよ」
ヴァーチェを覆う緑色の粒子にビームは全て防がれていた。
GNフィールド。
圧縮したGN粒子を展開することで強固な防御フィールドを形成する武装である。
その防御力は実体弾はもちろんビーム兵器すら防ぐほど。
「溜まってるものは出しても構わないですわ。こんな風に...」
「くっ……!」
サウダーデを遥かに上回る大出力のビーム砲。
ヴァーチェの真髄はその圧倒的な防御力。そして、そこからの砲撃だ。
ヴァーチェのGNキャノンは戦艦を撃沈するほどの威力を誇る。
直撃すればサウダーデでも一撃で落とされる可能性があった。
防御と火力ではヴァーチェが相手に勝り、機動力ではサウダーデが相手を大きく上回る。
故にお互い攻めあぐねるのが現状だ。
サウダーデはGNフィールドを破ることが出来ず、ヴァーチェには高速で飛び回るサウダーデを捉えることが出来ない。
これが本来のパイロットが搭乗していたならば、お互い状況を破る突破口を見出すことも可能だったはずだ。
サウダーデ本来のパイロットであるミハエル・ギャレットなら、電磁シールドを用いてビームを防いでの接近戦に持ち込めるだろう。
ヴァーチェ本来のパイロットであるティエリア・アーデなら、GNバズーカの火力をもっと活かしての強引な攻めも可能だろう。
機体のスペックだけ理解出来ても、それを最大限に引き出し、応用することは難しい。
他世界の機体に不慣れであること。それが拮抗を生み出す最大の原因となっていた。
この状況下で拮抗を破る手段は少ない。
一番良いのは機体に慣れ、その性能を十分に引き出せるようになることだ。
そして、自らの力量を十分に発揮して相手に打ち勝つ。
事実。二人とも慣れてきたのか射撃の精度は上昇し続けている。
だが、流れを変えるにはまだ足りないのだ。
膠着を打開する術を模索するヒイロの脳裏に一つの選択肢が浮かんだ。
ヒイロがデータを見た時には気がついたサウダーデの機能。
それがこのお互い攻めあぐねている状況を変える手段として有効であると。
「えっ!?」
余裕に満ちていたファサリナの声に初めて驚きが混じる。
サウダーデが武器形態である銃剣へと変形し、突っ込んできたのだ。
オリジナル7であるファサリナはサウダーデの武器形態への変形能力を重々承知している。
しかし彼、
ヒイロ・ユイはヨロイをこのシュミレーターで初めて乗ったのだ。
たとえその機能を知っていたしても、ヨロイに慣れていない彼が変形して突っ込むとは予想もしていなかった。
敵の射撃の中を武器形態で突撃することは、猛火に身を晒すようなもの。
その危険性はヒイロなら十分承知のはず。
ファサリナは知らない。
ヒイロの愛機。ウイングガンダムにも武器変形に似たように機能があることを。
バード形態。高速移動用の巡航形態である。
人形から変形しての高速飛行はヒイロにとって慣れ親しんだもの。
銃剣という形態からこの武器形態は突撃にも耐えられる。
この拮抗を打開するに多少の強引さは不可避であるとヒイロは判断したのだ。
その判断は正解だった。
高速で接近するサウダーデに対し、驚きによりファサリナの判断が遅れたこともあって、対応出来ない。
天翔ける銃剣がヴァーチェの胸部を捉えた。
巨大な激突音が響く。GNフィールドは衝撃まで無効化は出来ないのだ。
ヴァーチェはその衝撃で大きく吹き飛ばされた。
「あら、意外と強引なところもあるのですね...」
ファサリナが態勢を立て直そうとした時には既にサウダーデは人型に戻り、その銃口はヴァーチェのすぐ近くにあった。
「この距離ならバリアは張れないな」
ヒイロは勝利を確信する。
小回りの効かない巨大な機体ではこの状況を脱するのは不可能だと。
だが、絶体絶命の危機にもファサリナは妖しく微笑んだ。
「でも、そんなに乱暴ですと...、花びらを散らしてしまいますわ」
その瞬間、ヴァーチェの装甲が弾け飛ぶ。
「何ッ!?」
ヴァーチェの予想外のアクションにヒイロはとっさに後ろに飛ぶ。
幸い、弾け飛ぶ装甲の勢いは弱い。問題なく距離をとることは出来た。
ヴァーチェは先程までは想像も出来なかった姿を晒していた。
鈍重な装甲を脱ぎ捨てた下には、先ほどとは打って変わって細身の体型。
頭部から伸びる赤いケーブルはまるで女性の髪の様。
それは細身の手足と相まってどこか女性的な印象を与える。
「装甲をパージさせたか」
「ガンダムナドレ...。どうやら、こちらの方が私に合うみたいですね」
サウダーデの銃口から牽制の意味を含めた重粒子弾が打ち出される。
だがそんなモノはもう、ナドレの戦いのステージを飾る一要素に過ぎない。
その姿は鈍い蛹から脱皮した蝶のごとく。
華麗なステップで重粒子弾の雨を掻い潜る。
先程は肩部のキャノン砲として用いていたGNキャノンを手持ち武器として隙を見つけては撃ち返す。
もはや戦況は互角。
飛び交う光弾。舞い上がる粉塵。
僅かに残っていたビルの残骸すら砕け散り、互いを遮るものなど何もない。
一対一。正々堂々とした戦いの場。
ヒイロの胸にほんの僅かだが、熱いものがこみ上げていた。
それは本人すら気付いていない。
ヴァーチャルなこの戦いで。いや、ヴァーチャルだからこそ。
作戦や目的など意識せず、ただ相手との技量を競う戦い。
普段とは違った戦いへの意識だった。
一瞬だがヴァーチェの動きが止まった。
当然、ヒイロはその隙を見逃さずに距離を詰める。そしてそのまま銃剣で斬りかかる。
だが、その刃がヴァーチェに届くことは無かった。
コクピットの計器から光が消えていく。
サウダーデはもう動かなかった。
モニターには戦いの結果を表す言葉が並ぶ。
YOU WINと。
◇◇◇◇◇
「降参です...。私の負けですわ」
「どういうつもりだ。あのままなら勝負は分からなかったはずだ」
シュミレーターから出てきたファサリナに、ヒイロは言い寄った。
ファサリナの紅く染まった頬。荒い呼吸。
普通の男性なら劣情を催すのも無理のない姿だ。
男を惑わす女性の色香が周囲に漂う。
しかしそんなこと、ヒイロにとってはどうでもいいことだった。
「ヒイロの実力は十分知ることが出来ました...。これ以上は時間の無駄です」
僅かに憂いを秘めた表情でファサリナは語る。
「それに...、いくらシュミレーターでもあのヨロイを破壊する気持ちにはなれません...」
サウダーデに対して、ファサリナが一体どのような思いを抱いているのか、ヒイロは知らない。
ただ、その顔を見てそれ以上追求する気は無くなった。
「……もういい。だが勝負は勝負だ。最初の約束通り、B-2に向かう」
ヒイロが心に抱く微妙な感情を受け入れてくれた事を感じ取ったのだろう。ファサリナの表情は既にいつも通りになっていた。
「ええ勿論です」
ヒイロはふと、シュミレーターの脇に小さな冊子が置いてあることに気がついた。
シュミレーターの解説冊子だった。
パラパラと捲った所、使用できる機体のスペックなどについて記載されているようだ。
「どうかしましたか?」
ヒイロはその内の一冊をバックの中に突っ込んだ。
「何でもない。行くぞ」
【C-3/憩いの館(地下ゲーセン内)/1日目/午前】
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:自前の服
[装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2個(確認済み)
M67破片手榴弾x*********@現実(ヒイロとはんぶんこした)
軽音部のラジカセ@けいおん(こっそりデイバックに入れた)
[思考]
基本:ヒイロと協力して主催者を打倒する、それが無理だと判断した場合殺し合いに乗る
0:B-2の間欠泉へ向かう
1:ヒイロと共に行動する
2:間欠泉を調べ終わったら、早く新しい同士を集めたい
3:「
カギ爪の男」が本当に死んだのかを確かめる
4:新たな同志が集まるまではなるべく単独行動は避けたい
5:明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。
6:ゼロを名乗る危険人物の排除
[備考]
※21話「空に願いを、地に平和を」の
ヴァン戦後より参戦。
※トレーズ、ゼクスを危険人物として、デュオ、五飛を協力が可能かもしれぬ人物として認識しています
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています
※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明)
【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:左肩に銃創(治療済み)
[服装]:普段着(Tシャツに半ズボン)
[装備]:基本支給品一式
コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x*********@現実(ファサリナとはんぶんこした)
[道具]:B-2と記された小さな紙切れ@現実
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子
[思考]
基本:主催側の技術を奪い、反撃する
0:B-2の間欠泉へ向かう
1:ゼロを名乗る危険人物の排除
2:今のところはファサリナと協力する
3:リリーナ……
4:人を生き返らせる方法……
5:ユーフェミアは……
[備考]
※参戦時期は未定。少なくとも37話「ゼロ対エピオン」の最後以降。
※D-1エリアにおいて数度大きな爆発が起こりました。
※ヴァンを同志の敵と認識しています
※ファサリナの言う異星云々の話に少し信憑性を感じ始めています。
※ファサリナのことは主催に対抗する協力者として認識しています。
※それと同時に、殺し合いに乗りうる人物として警戒もしています。
【『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子@オリジナル】
憩いの館、地下ゲームセンターにおいてあったシュミレーターの解説冊子。
シュミレーターにて使用できるMS、ヨロイ、ナイトメアフレームのスペックや武装などが記載されている。
なお、解説冊子は地下ゲームセンターに複数置いてある。
記載されている機体の種類や機体数については後の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2010年01月25日 21:16