コクトー君漫遊記  ◆10fcvoEbko



・・・・・・それで、その後僕は遺跡の探索を始めました。
怖くはなかったかですか。
そりゃあ全然平気ってわけじゃありませんでしたよ。
真っ暗闇だし、明かりになるのは渡された懐中電灯くらいしかありませんでしたから。
でも、だからって臆病になってる場合じゃなかった。
式や浅上藤乃がどこにいるかも分からないのに、僕だけ何もしないでいるわけにはいきませんから。
こういう細かい調査なんかは式には向かないですし。

とにかく、手探りでも動くことが重要じゃないですか。移動すれば、調査しながらでも知り合いを探すこともできますし。
もちろん、危ない人に会ってしまう可能性もあったので、そういう橙子は慎重になりましたけど。
喧嘩はあまり得意じゃないですから。あまりというか、全然。
でも、それならそれで別の方向から役に立つこともできますからね。

調べものが好き、ですか。
どう、かな。
あまり好き嫌いを意識したことはないですね。
ただ、調べるなら最後まで、とは思ってるかな。中途半端になっちゃうのは嫌なんで。
得意かどうかは。これも良く分からないな。自分では普通にしているつもりなんですけどね。

ついこの前、あるマンションについて調べたことがあったんですけど、そのときは探偵になることを勧められました。
自分では全然満足行く調査じゃなかったですけど。橙子さんもどこまで本気か分からなかったし。
橙子さんというのは僕が働いてる会社の上司です。一応雇い主ということになるのかな。
本人は会社というより、工房みたいな呼び方をすることが多いですけど。
まぁ他に社員はいませんし、会社というより橙子さん個人の作業所みたいなものです。

何でも高名な人形師で、魔術師でもあるそうなんですが、具体的にどれくらい凄いかまでは僕には分かりません。
ああ、でも。
橙子さんの作る人形は本当に一流だと思います。
ええ。
橙子さんの人形の展覧会をたまたま見る機会があって、それがきっかけになりましたからね。橙子さんの所に転がり込む。

そう言えば、そのときもかなり驚いてました。
何でも橙子さんの事務所には人を寄せ付けない結界みたいなのが張ってあって、にも関わらずそこにたどり着いた僕はかなり特異なんだとか。
そんな凄いことをしたつもりはないんですけどね。
僕としては。

次ですか。
分かりました。
遺跡と言っても、入ってみると実際はほとんど洞窟みたいな感じでした。
僕はてっきりアンコールワットやハラッパーみたいな大規模なものかと思ったので、そこは少しイメージと違ってたな。
まぁ、この本によるとどこかから移築したものらしいですし、だとすると都市遺跡みたいな巨大なものじゃないのはむしろ当然なのか。
どうも、まだ落ち着いてない部分があったみたいです、僕自身。

中はそれ程長くはなかったですね。一番奥まで行くと、石造りの大きな扉みたいなものがありました。
というか、それしかなかったんです。
はい。
途中の壁は懐中電灯で全部照らしながら歩きましたから。
ごつごつした石壁の他は、何もないことは確認しました。

扉は開きませんでした。
そもそも僕一人の力で開けられる大きさじゃなかったんですけど・・・・・・そういうのとはちょっと違うな。
元々開けられるように作ってなかったというか。
もしかしたら、扉自体はただの飾りで、儀式場みたいな意味合いだったのかも知れません。それこそ橙子さんの分野ですけどね。

それと、扉には変わった模様が彫られてました。これがそのスケッチです。
ええ。
一応必要かと思って。
これも真っ暗な中書いたので、あまり正確に写せなかったのが残念ですけど。
その本に書いてあった思考エレベータって言うものが何なのかまでは、ちょっと分かりませんでした。
遺跡についてはそれくらいです。
結局、大したことは分かりませんでした。
残念です。
ええ。

はい。
隠し扉はですね。
見つけられてよかったと思いますね、ほんと。
あのまま孤島で立ち往生せずに済みましたから。
ボートはありましたけど、うまく扱えるか不安でしたし。
場所はですね。
洞窟の遺跡部分のすぐ近くです。扉に向かって左側。
ええ。そこ、岩の模様とかの関係で目の錯覚を起こすようになってるらしくて。
一見すると行き止まりにしか見えないですけど、実は続きの通路があるんです。

で、その奥に行くと、これもすぐ行き止まりになっちゃうんですけど。
その突き当たり部分の壁にですね。ええ、そうです。壁に紛れて分かりにくくなってましたけど、スイッチになってる部分があって。
たぶんどこかから引っ張る仕掛けになってるんでしょうね。
突き当たりの壁がこう、ずれるような感じになって、地下に続く階段が現れました。
ほんと、何の映画だよと思いました。
映画みたいにすぐに見つけられたことは、助かったんですけど。
必死でしたから。僕なりに。

後は、そうですね。地下道は洞窟よりさらに狭くて困りましたけど、特に気になるところはなかったかな。
地図からすると水脈の下を通ってることは間違いないのに、ほとんど浸水が見られないのが不思議だったくらいですね。
どういう技術を使ってるんだろうな、あれは。

それ以外は別に。はい。新たな隠し通路なんて物もなく。
一本道です。勾配が上がってきたなと思ったら、すぐに出口になりました。
それがその出口ですね。外側に取っ手みたいなものはないから、何か噛ませとかないと開けられなくなるんじゃないかな。
もしかしたら、こっちにもスイッチみたいなのがあるのかも知れないですけど。

驚きましたよ。それは。
暗くて狭い通路をやっと抜けられたと思って息を吸ったら。
いきなり象とご対面ですからね。
これが地図で言う「象の像」なんでしょうね。
ええ。それはもう。疑う余地のないくらいそのまんまですよね。
何なんでしょうね、これ。
十メートル以上ありますよ。
外国では物事を始めるときに象に成功を祈願するところもあるって。これも橙子さんの受け売りですけど。
そういうものなんだろうか、これも。
この殺し合いの成功を祈って、とか。
我ながら最悪ですね。

とりあえず、僕からは以上です。
この場所にきてからのことは全部喋りました。
こんなところでいいですか、キャスターさん。




几帳面なまでに区画整理された幅広の道路は、持つべき役割を忘れ去ったかのように静まり返っていた。ときおり吹き付ける風が、がらんとした寂しさを煽り立てる。
幾本も聳え立つ煙突は、死んだようにその脈動を止めてしまった。
工業地帯の一角である。場違いに聳える四足の象の像が、息を潜めるように台座の上に佇んでいる。
人気はない。
無音の街にそれ以上の喧騒をもたらすことなく、キャスターは無音のままそれまで操っていた魔術の手を止めた。
翳されていた腕が優雅な弧を描きながら下がり、ローブの裾を揺らす。夜に溶け込む濃紺の装束に身を包んだキャスターの他には、少年と思しき一つ分の人影しか見ることはできなかった。

黒桐幹也という少年に求めていた情報は、これで全て引き出しきったようだ。
キャスターがそうあれと命じただけで、まだ幼さの抜けきらない少年は意思の抜けた力ない表情のままいつまでもたち続けている。
力強く前を向いていた瞳も、キャスター自身がそう望まない限り、光沢を取り戻すことはない。
相手の意志を奪い、こちらの思うままに喋らせる洗脳魔術の一種である。キャスターにとっては赤子の手を捻るより容易い、初歩の技だ。
暗示はまだ完全には解除せず、ひとまず黙らせるに留める。

キャスターが、当初予定してなかった「象の像」などという珍妙なモニュメントの前に留まっているのには理由があった。
黒桐が語ったのと同じものは、実はキャスターもほんの数十分前にその目で確認している。

「死者の眠る場所」、「神様に祈る場所」、「遺跡」。神殿建設のための三つの候補地の中で、まず訪れたのが、黒桐が探索したのと同じ遺跡だった。
だからこそ、キャスターはこの少年の調査能力が尋常でないことが分かる。
遺跡の奥に隠された地下通路の発見は、本人が口にするほど簡単な仕事ではない。
少なくとも、懐中電灯などという脆弱な力とは比べものにならない魔術の炎を燦々と輝かせていたにも関わらず、キャスターは発見することができなかった。
陣地形成に長けているからと言って物探しが得意というわけではないが、地形を見る能力には長けている。作った側が、通路を本気で隠すつもりだったことは間違いない。
事実、特に不審な点を発見できなかったキャスターは遺跡が霊地としては使いものにならないことだけを確認すると、さっさとその場を後にしてしまったのだ。

黒桐幹也を発見したのはその後だ。次の候補地へ向かう途上、突如眼下に現れた奇妙な造形物に目を取られたのが幸いした。
象の像とは大きいだけの何とも悪趣味な置物だが、それだけにその中から現れた人物の素性には興味を惹かれる。
視界を遮るように空から降り立ち、術を掛けるのは一瞬で済んだ。
魔術抵抗どころか、喧嘩さえもろくにしたことがなかったという少年だ。命を奪うことさえ、何の労も必要なかっただろう。
実際、少し情報を引き出したらさっさと殺してしまうつもりでいた。だが、今は少し考えが変わっている。
しなやかな美しさに飾られた細い指を、形のよい唇に差しあてる。
キャスターは思案していた。この少年は、望外の拾いものになるかも知れない。

恐怖に潰されることなく洞窟の内壁を逐一チェックしていたこと。
一応などと控えめな言葉で渡された扉のスケッチが、キャスターの見たものと寸分違わぬ精巧さを持っていたこと。
そして何より、魔術師の秘した工房に独力だけで辿りついたことだ。
現代の魔術師の操る技などキャスターにすれば遍く児戯に過ぎないが、ただの少年が何の神秘も持たずに突破できる程落ちぶれたわけではないことも知っている。

(「探すもの」としての手腕は一流と言ったところかしら。「像」への考察に関しては、ちょっと頂けないけれど)

この会場を用意したのは間違いなく魔術師だ。
ならば、たとえこの像が彼の言う通りの意味を持たされているのだとしても、こんな分かりやすい形で示すことはあり得ない。
魔術は秘すべきものだ。時代をいくら経ようと、たとえ少女のおまじないレベルの呪術であってもこの常識だけは変わることはない。
だが、無知であることは些細な問題だった。
むしろ、基礎の魔術知識さえ持っていないにも関わらず、独力で神秘を凌駕するその調査能力がキャスターの琴線をより強く震わせる。


会場の調査を手伝わせるとしたら、恐らくこの少年は誰より有用な力を発揮するだろう。陣地形成後、キャスターに代わって動く手足にもなる。
仮に戦いとなれば何の役にも立たないが、贅沢を言うよりここは殺し易いことをむしろメリットと捉えるべきだろう。

「あれ・・・・・・どうしたんですか、キャスターさん。こんな所で休んじゃって」

少年の日本人らしい真っ黒な目に光が戻る。口調もきつくはないが、それでいて強い意志に裏打ちされた彼本来のものだ。
少年を連れて行くことに決めたキャスターはローブの下で薄く笑う。顔の大部分を覆い隠すそれは、彼女の艶やかな笑みを一層深いものにしていた。

「早く次の候補地に行きましょうよ。陣地っていうのを作らないと行けないんでしょう」

少年の意思は、ほぼ元のまま保たれている。完全に傀儡としてしまっては、肝心の能力まで奪うことになってしまう。
魔術の影響は最小限に、ただ『自主的にキャスターに賛同し、従っているかのように』術を施す。
思わぬ形で手駒が入った。子をあやす母親の余裕を持って、キャスターは術中の少年を招き入れる。
獲物を内に、翅を広げた神代の蝶は、風によらぬ力で夜空に再び舞い上がった。このまま、予定通り次の候補地へと赴こう。
黒桐から取り上げたガイドブックとやらの記述は参考程度にしかならないが、少なくともマイナス材料にはならない。遺跡の記述などは有意義だった。
見た目や立地に反して遺跡に霊地としての機能が薄いことが不思議だったが、元の地脈から切り離されたというなら頷ける。

孤ではなくなった陰影が浸食するに闇を縫う。
その視界を遮るように物言わぬ巨体が掠め、すぐに消えた。
とある神話では世界をその背で支えるとも言われる、白亜の巨象。

柳洞寺、キャスターが本拠としていた地で聞いた話だ。
その地で信奉されていた宗教の開祖として崇められていた聖人は、その誕生に際しとある伝説を生み出したという。
曰く、彼の者の母は六本牙の白象を夢に感得し、そして彼の者を身ごもったと。

(聖人の化身、ね・・・・・・)

縫い付けたかのように動かない夜の帳に泳ぎながら、キャスターは思った。
そんな物騒なものを胎に持つこの世界は、一体なにを産み出すのだろう。

【E-3/象の像近辺/一日目/黎明】

【キャスター@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力消費(微)
[服装]:魔女のローブ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3個(確認済み) 、バトルロワイアル観光ガイド
[思考]
基本:優勝し、葛木宗一郎の元へ生還する
1:奸計、策謀を尽くし、優勝を最優先に行動する
2:『神様に祈る場所』『使者の眠る場所』のどちらかに赴き、可能なら神殿とする
3:会場に掛けられた魔術を解き明かす
4:相性の悪い他サーヴァント(セイバーアーチャー、ライダー、バーサーカー)との直接戦闘は極力避ける。
[備考]
※18話「決戦」より参戦。


【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康 、キャスターの洗脳下
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
以下の思考はキャスターの洗脳によるもの。
1: キャスターに協力する。
※参戦時期は第三章「痛覚残留」終了後です。



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040:Overlooking View キャスター 065:Murder Speculation Part1
026:5910 ~隔離された小島で~  黒桐幹也 065:Murder Speculation Part1




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最終更新:2009年11月06日 01:52