(ふぁさっ)ひいっ! ◆0hZtgB0vFY
畳敷きの八畳間。部屋は襖で隔てられており、上の欄間には木彫りの装飾が施されている。
ヒイロ・ユイと
ファサリナの二人はこの古式ゆかしい和室で相対していた。
ファサリナは扇情的な仕草で畳に両膝をつき、腕を、ゆっくりとヒイロへと伸ばす。
「ファサリナ、だったな。同志とやらの理念はわかった。完全平和を望む姿勢は俺と敵対する思想ではない。だが、平和に至る道もまた一つではない」
伸ばした手を止め、ファサリナは上目遣いにヒイロの目を伺う。
「その為に私達が選んだ方法を聞きたいと?」
「ああ。手段の齟齬から戦闘が発生する可能性もある」
「このような場所に招かれなければ、後一歩で同志の夢が適う所まで来ておりました。なればこそ、どうしても同志にはこの地より脱出し、作戦の続きを行っていただかなければなりません」
「作戦の内容は他人に漏らしていいようなものではないだろう。だが、これだけは答えてもらう。同志とやらの作戦で誰が死ぬ?」
ファサリナは間髪入れず即答した。
「予定されている死者は一人だけおります。それ以外一切の犠牲を伴わない、同志でなければ為しえなかった作戦です」
「一人とは誰だ?」
「同志その人です」
数秒の間の後、ヒイロは訝しげに口を開く。
「やはり解せないな。たった一人が何をした所でロームフェラやコロニーを止められるとも思わないし、トレーズもまた同様だ」
ヒイロは完全平和を成し遂げるために必要な事として、自らの世界で戦争の大元となっている勢力の名を上げる。
しかしそれはファサリナにとっての平和への障害ではありえない。
「……ロームフェラ、それとトレーズ、ですか? 申し訳ありませんがその名に聞き覚えはありません。ですが……」
「ふざけるのは止せと言った。更に戯言を繰り返すのなら、お前とは対話不能と判断する」
遮るように釘を刺すヒイロに、ファサリナもまた真剣である事の現れかにこりともせず言い返す。
「戯言などではありません。同志の計画ならば一国の争いに限らず惑星エンドレス・イリュージョンに住む全ての人間が平和を享受出来るのです」
「何?」
「ロームフェラやトレーズといった人達は知りませんが、その方々にも同志の作戦は影響……」
「いや違う。惑星、何と言った?」
「ええ、エンドレス・イリュージョンに住む全ての人にです。例外はありません」
ヒイロは眉根に皺を寄せ、真意を確かめるべくファサリナの瞳を見つめ返す。
「惑星、だと? お前は何処の話をしている? 地球にある国にも、コロニーにもそんな名前は聞いた事が無いし、そもそも惑星とは地球を指して言う言葉だろう」
「地球? コロニー? 私達の住む惑星は一般的にはエンドレス・イリュージョンと呼ばれておりますよ? それに、すみませんが、貴方は一体どの国のお話をされているのか私にも……」
「俺は地球という星全体と周辺コロニー全ての事を話しているつもりだ」
「私もエンドレス・イリュージョンという星全体のお話を……」
二人の背筋を得体の知れない冷風が吹き抜ける。
先にそれを口にしたのはファサリナだ。
「……まさか、別の、惑星から来られたと……」
「それこそ戯言だ。外宇宙に進出したという話など聞いた事もないし、ましてやその先に人間が定住出来るような星があるなど……」
「もしかしたら貴方はマザーの出身では? エンドレス・イリュージョンは元々マザーから送られる犯罪者の流刑先として開発された経緯もあるそうですし」
「馬鹿な、いい加減にしろ。ならばお前達は外宇宙を航行する術を持っているとでもいうのか」
「エンドレス・イリュージョンにおいてその技術は失われて久しいそうです。必要性も感じませんし」
すっとヒイロは立ち上がる。最早語るべき事も無いとばかりに。
「これ以上お前の妄言に付き合う気はない」
「いえ、私は信じます。それならば私達の話す言葉が同じ事にも、用いる文字が一緒な事にも納得がいきます。それに貴方は不必要な嘘をつく方にも見えません」
踵を返すヒイロの手を、ファサリナは必死に掴み食い下がる。
「待って下さい。他惑星から人を集める程の人達を相手に、私一人で同志を守るのは至難極まります。どうか、お願いします。私に協力を……」
「同じ事を言わせる気か?」
絶対に離さぬ、そんな決意が伝わる程に強くヒイロの腕を掴む。
ファサリナの瞳は揺れ、興奮しているせいか頬が紅潮する。
「いいえ、いいえ、引けません。この地に、貴方のように私の話を聞いてくださる方ばかり居るとはとても思えません。見ず知らずの女性を守らんと命を賭けられる人が居るとは思えません」
人間の欲望を良く知るファサリナは、その半生において人の弱さを嫌という程見せつけられてきた。
ヒイロのように他人を守る為、躊躇う事無く自らの身を投げ出せる人間が如何に珍しいかも。
そして敵の強大さを知る事で同志生還の厳しさを目の当たりにするに至り、動揺から常の余裕ある話術を繰る事も出来ず、ただ必死に懇願するのみとなる。
無情にもヒイロは腕を振り払おうとするが、ファサリナはとにもかくにも引き止める為に声を張り上げる。
以前に
ヴァン達を誘った時とは状況が違う。今の彼女には、同志を守る術が圧倒的に不足しているのだ。
「で、では名簿を見て下さい! 私の知人と貴方の知人以外の方に聞いてみればはっきりします!」
ファサリナは言葉を発しながら理屈を組み上げる。
「貴方の星とエンドレス・イリュージョンと、それ以外の星から来ている方もいらっしゃるかもしれません。その事が確認出来れば私の言葉を証明出来ます。そうすれば貴方も私を信じて……」
小柄な体格にしては強い力でファサリナの手を振り払うヒイロ。
ファサリナは俯き加減のまま、全身を振るわせる。
「貴方の、判断は正しいです。私が貴方の立場だとしても恐らく同じ判断を下すでしょう……ですから、私にはただお願いする事しか出来ません。
貴方は同志の目指す平和に興味を持ってくれました。貴方と同志で目指す場所は同じはずです……どうか、僅かでも構いません、私に機会を。この命は同志の為のもので差し上げられませんが、他のものでしたらどんな事でも……」
同志を失う恐怖故か、ファサリナは涙を溢す。
その瞳の下に、ヒイロはすっと指を通した。
「あ……」
「お前の言葉を信じるにはあまりに情報が足りなく、荒唐無稽にすぎる。だが、お前が平和を望むという同志を信頼している事だけは、信じてもいい」
ファサリナの涙を拭い、最後の言葉を口にする。
「それが、真に平和へと至る道でなければ……俺が、お前を殺す」
「あ、えっ……それはどういう……」
ヒイロの回りくどい言い方にファサリナは意図を察しかねるが、続くヒイロの言葉にようやく彼女らしい柔和な笑みが戻る。
「ヒイロ・ユイだ」
ヒイロが同行を認めてくれたと理解したファサリナは、同志と『幸せの時』への万感の信頼を持って答えを返す。
「はい、どうぞ殺しにいらっしゃってください」
ヒイロはもちろん同志を信用したわけではない。
ただ、少なくとも直接会ってその真意や平和への手法を問いただすぐらいには、ファサリナを信じる事にした。
ヒイロに装備品を返し、爆弾を半分だけ分けてもらったファサリナは、では一刻も早く同志を探そうと言うが、ヒイロは待ったをかける。
この招かれた場所の異常性故だ。
確認すべき事を確認し、与えられた条件を精査する事抜きに闇雲に動けば、先の不意打ち女の例のような致命的な事すら起きかねない。
それ程時間はかからないというヒイロの言葉に、ファサリナは渋々だが妥協した。
古い家屋の中を探し回り、最初にヒイロが目を付けたのは電話である。
横で見ているファサリナが目を見張る速さで黒電話を分解すると、すぐに興味を失ったのか次に移る。
次なる目標は居間のテレビである。
これまたあっと言う間に外枠を外した後、電源部をいじり電気を通す。
チャンネルを合わせ、ずらし、周波数を幾つか確認していると、不意に映像が映る。
「これは……?」
「わからん。何処からか電波を発信している所があるのだろう……ゼロ、だと?」
仮面を被り、マントを羽織ったゼロを名乗る男が、全参加者に向けて戦線を布告するといった内容である。
一通りを聞き終わり、繰り返し同じ映像が流れ出すと二人はテレビから目を離した。
ヒイロは静かに宣言する。
「任務、了解。これより『ゼロ』を敵とみなす」
早速同志を殺しかねない人間を見つけ、ファサリナも唇を噛む。
「……この方、随分と自信を持ってらっしゃるようですわね」
ヒイロは地図も見ず、次なる行き先を決める。
「地図の南側に近代的な設備が集中している。特に南東の宇宙開発局には相応の通信設備が備わっていると推測される。ゼロはここより放送を行った可能性が高い。また名簿にゼロの名が無い事から、不明十三人の内の一人であるか偽名であると思われる」
二人の意思に齟齬は無い。まだ、この段階では。
「ヒイロくん……」
「ヒイロでいい」
即座に注文をつける辺り、もしかしたら君付けは好まないのかもしれない。
「そう、ではヒイロ。同志の保護も最優先ですが、所在も掴めぬ今は同志を殺害しかねない危険人物の排除を行いつつ捜索を行うというのが妥当だと考えます」
「同志にのみ危険という意味でないのなら同意する。……一つ、言っていいか」
「なんでしょう」
ヒイロは嫌味でもなんでもなく、真顔のまま率直な要求を伝える。
「真面目に話が出来るのなら最初からそうしろ。間延びした他人を煙に巻くような言動では相手の信頼は得られない」
人差し指を頬に当て、ファサリナを小首をかしげる。
「ですが、こうした方が殿方にはウケがよろしいのでは?」
「お前のやり方で俺の好意を得られたと思うか? それに今後出会う相手が男とは限らない」
「ではその時はヒイロがお話すればよろしいでしょう。ヒイロは美男ですし、女性も気を許し易いのでは?」
ヒイロからの返事は無い。
再度小首をかしげたファサリナは、これまた邪気の無い顔でヒイロに問う。
「もしかして交渉は苦手ですか?」
「問題ない。それが任務ならば」
「苦手、ですか?」
「それがどのようなものであれ任務は遂行する」
「苦手?」
「…………女のみを対象とした交渉術の訓練は受けていない」
うふふ、とヒイロがあまり見た事のない類の笑みを浮かべるファサリナ。
あまり良い予感はしないと、さっさと話を切り上げ家を出る。
歩きながら、ヒイロは幾つか所見を述べた。
「モニターは旧式のブラウン管タイプ。有線通信も原始的だ。扱う電波も洗練されているとは言い難い。一般に普及している技術レベルは本来の地球のものと比べて数世代分低い」
「ですが宇宙開発局の名の通り、宇宙に進出する技術があるという事ですから……エンドレス・イリュージョンの最新技術と比べても劣っているとも思えません」
「一般がこのレベルであるのならそういった判断も出来るが、ここが、奴等言う所のゲームの会場であると考えれば額面どおり受け取るのは危険だ。魔法云々と言っていたが、俺達のそれと比して極めて高度な科学技術に対する比喩として用いている可能性もある」
「では、この首輪に使われている技術も……」
「断定は出来ないが、同時に楽観も出来ないな」
「彼等は何故このような事をするのでしょう」
「不明だ。が、俺とお前と同志に関してのみなら予測は立つ。皆平和を得るべく活動している者達だ。そういった行為自体を嫌う先のゼロのような思想の持ち主かもしれない」
「名簿にヴァンという名前がありました。彼は同志に恨みを持って動いていた者ですし、貴方の推測は成り立ちません」
「こちらでも同様の状況は確認している。
トレーズ・クシュリナーダは戦争を望んでいる」
ファサリナはふう、とため息をつく。
「では、やはり不明のままですか」
「そうなるな。お前が見知った人間はそれだけか?」
「はい。同志を
カギ爪の男と表記している点が気にはなりますが……ヒイロの方はどうですか?」
「
デュオ・マックスウェル、張五飛、
ゼクス・マーキスの三人だ。だが五飛は共闘を望まず、ゼクスは……いずれ俺の障害になるか」
リリーナの名を出さなかったのは、ヒイロなりに思う所があるのだろう。
もしかしたらリリーナに代わって同志を見極めようとしているのかもしれない。
「ヒイロもこのゲームを主催している人間の言葉を、鵜呑みにすべきではないとお考えですか?」
「奴等は倒すべき敵だ。だが、現状ではこちらより遙かに高い技術を有していると判断せざるをえない。ならば……」
「ならば?」
「敵の技術を奪取し反撃する」
あまりにもあっさりと結論付けるので、ファサリナは呆気に取られながら聞き返さずにはいられない。
「そんな事が出来るのですか」
「同じ人間のやる事だ。不可能ではない」
淡々とそう述べるヒイロに力んだ様子も、無理をして意地を張ってる様も見られない。
ファサリナは、最初にヒイロと出会った戦闘を思い出す。
反射神経はともすればファサリナをも凌ぐ程鋭いものであった。
年齢は随分若いだろうに体力や筋力もあり、その俊敏な動作は基礎能力の高さを物語っている。
だが、近接した時の戦闘技術はファサリナに及ばない。
ある程度の訓練は行っているようだったが、反射神経の異常な鋭さとは比べようも無い。
そこでふと、ファサリナは一つの事に思い至った。
「もしかしてヒイロはヨロイ……いえ、人が操る巨大な兵器を扱っていたのではありませんか?」
「モビルスーツの事か? 何故そう思った?」
ファサリナはヒイロの高い反射神経と、戦闘慣れした精神、それらに比して低い格闘戦能力、機械の扱いに慣れている事を指摘すると、ヒイロは少し不機嫌そうに頷いた。
内心のみで歓声を上げるファサリナ。
興奮するはずの戦闘の最中においても撤退の時期を見誤らぬ冷静さを持ち、物事を判断する能力も充分にあると思われる、その上ヨロイを扱う事も出来るという。
そして何よりも、次にやるべき事を即座に決め、実行に移す行動力が素晴らしい。
きっとヒイロは同志の大きな力になるだろうと、ファサリナは相貌を崩す。
銃弾で風穴を開けられた体を、厭う事もなく力強く歩くヒイロの背中は、この上なく頼もしいものにみえたのだ。
「奴等の提示したルールとやらを連中が何処まで守るつもりかはわからない。だが、もしこのルールに説得力を持たせるつもりでいるのなら、予定されている放送、特に一回目は正確に事実を提示するだろう」
異論の余地はあるが、基本的にはヒイロの言葉は間違っていないだろうとファサリナは頷く。
「だから6:00に予定されている一回目の放送は絶対に聞き逃すな。これが会場に集まった人間を計る指標にもなりうる」
僅かに視線を落とすファサリナ。
「……出来れば、それまでに同志の安全を確保したいですわ」
たわわに実る果実の前で、きゅっと両手を握り締めるファサリナの姿からは、槍を振り回し銃弾を跳ね返した剛勇などとても想像がつかない。
「ファサリナ、お前が同志に従うのは何故だ?」
不意の質問に、ファサリナは先程口にした理由を繰り返す。
「それは、世界に平穏と友愛を……」
「俺はお前の理由を聞いている」
理性的で冷静な判断力を持つヒイロに、ファサリナは思う所そのままを口にして良いか迷う。
だが、ヒイロがこうして共に歩んでくれているのは、理屈ではなくファサリナの同志への想いが通じた故の事ではないのか。
ならばヒイロの信頼を得るために、ここで誤魔化すような言葉を発する事は出来ない。
ヒイロは、きっとそれが見抜ける人間であろうから。
「……私は穢れと共に生きてきました。そんな私を救い上げてくれたのが同志です。正義でもなんでもない、それが、おそらく、私の最初の理由だったと思います……」
曖昧でおおざっぱな表現であったが、これが、ファサリナの精一杯だ。
ヒイロは、やはり表情一つ変えぬまま静かに告げる。
「感情に従って行動するのは正しい。……俺は、そう教わった」
まるで感情などとは無縁であるようなヒイロから出た言葉とは思えず、大きく目を見開いてヒイロを見直すが、すぐにヒイロはふいっと顔を逸らしてしまう。
『もしかして、慰めてくれたのですか?』
真実はわからないし、きっと聞いても答えてはくれないだろう。
それでも不安に満ちていたファサリナの胸に、暖かい何かが生まれたのは確かな事であった。
「ありがとう、ヒイロ」
「礼を言われるような事はしていない」
相変わらず無愛想な返事であったが、そんなヒイロを、ファサリナはとても可愛らしいと思えたのだ。
【D-2/南西/1日目/早朝】
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:自前の服
[装備]:ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品3個(確認済み)
M67破片手榴弾x*********@現実(ヒイロとはんぶんこした)
[思考]
基本:カギ爪の男を守る。新しい同士を集める。戦力にならない人間は排除。
1:カギ爪の男と合流し、守護する
2:カギ爪の男の意志に賛同する人間を集める
3:ヒイロと共に行動する
4:明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。
5:ゼロを名乗る危険人物の排除
[備考]
※21話「空に願いを、地に平和を」のヴァン戦後より参戦。
※トレーズ、ゼクスを危険人物として、デュオ、五飛を協力が可能かもしれぬ人物として認識しています
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています
【ヒイロ・ユイ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:左肩に銃創(治療済み)
[服装]:普段着(Tシャツに半ズボン)
[装備]:基本支給品一式
コルト ガバメント(自動銃/2/7発/予備7x5発)@現実、M67破片手榴弾x*********@現実(ファサリナとはんぶんこした)
[道具]:無し
[思考]
基本:主催側の技術を奪い、反撃する
1:ファサリナと同行し、カギ爪の男を見定める
2:ゼロを名乗る危険人物の排除
3:リリーナ……
4:ユーフェミアは……
[備考]
※参戦時期は未定。少なくとも37話「ゼロ対エピオン」の最後以降。
※D-1エリアにおいて数度大きな爆発が起こりました。
※ヴァンを同志の敵と認識しています
※ファサリナの言う異星云々の話を信じてはいませんが、確認はしようと思っています
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最終更新:2009年11月28日 01:21