届かなかった言葉 ◆Wf0eUCE.vg
どんな世界でも明けない夜はないように、この殺し合いの舞台にも朝は訪れる。
爽やかな朝の陽ざしが美しい銀髪を輝かせ、吹く風が頬を撫ぜる。
武将、
明智光秀は優雅な朝の散歩を鼻歌交じりに満喫していた。
光秀は朝の空気を確かめるように、大きく息を肺に吸い込む。
霞かかった空気もどこか心地よく感じられるようだ。
光秀にとってはいつも通りの爽やかな朝の風景である。
おかしな点などどこにもない。
ただ、強いておかしな点を挙げるとしたならば。
周囲に霞を張るのが、朝露ではなく赤い血飛沫であるということ。
辺りに響くBGMが小鳥の囀りではなく少女の悲鳴であるということ。
そして、血まみれの少女が逃げ惑っているということくらいだろう。
彼にとっての当たり前。
彼女にとっての惨劇悲劇。
■
戦うなどという選択肢はなかった。
彼女は優秀なヨロイ鎧乗りである。
曲芸染みたこともできるくらいには運動神経はいいほうだし、何よりトレースシステムを搭載しているブラウニーを操作する身体能力はなかなかのものだ。
だが、生身での戦闘経験などないし、何より最初に受けた腹部の傷が致命的だった。
いや、たとえ万全であったとしてもこの男には遠く及ばないだろう。
「さぁお逃げなさい! さもなくば死に追いつかれてしまいますよ」
言われずとも、プリシラは必至で足を動かしているが、優雅なまでに怠慢な動きの相手をまるで振りきれない。
まるで、自分の体ではないような違和感。
腹部の傷が深すぎて思うようにいかないのだ。
そんなプリシラの様子を嗤いながら光秀が右腕を振るう。
朝日を照り返し銀光が揺らめく。
プリシラの背から飛沫のような朱が舞った。
「これですよ、この血飛沫の色! 私が飢えていた、朱の色!」
光秀は避けるでもなく、真正面からシャワーのように血飛沫を浴びる。
その感触に愉悦に身を震わせ、光秀は踊るように身をくねらせた。
光秀がプリシラを殺すのはハッキリ言って容易い。
それだけのハッキリとした力量差がそこにはある。
だが、光秀はそれをしない。
より長くこの一時を愉しむために。
より長くこの彼女の命を愉しむために。
もはやこれは戦闘ではない。虐殺でもない。
光秀の血と肉の飢えを足すためのただの儀式だ。
故に、彼女は、ただの供物。
「ほぅら、足元がお留守ですよ」
プリシラの足に灼熱が奔った。
ドサリと無様にその場に倒れこむ。
足の腱が断ち切られた、逃げるどころか、もう立ち上がることも叶わない。
噎せ返る様な鉄の臭いが充満し、光秀の鼻孔をくすぐる。
死神が恍惚の表情を浮かべながらブルリと身を震わせた。
「脳髄まで痺れるような芳しい血の香り、ああ……愉しい愉しい、私は愉しい!!」
叫びながら、切り刻む。
倒れこんだプリシラの髪を皮膚を肉を神経を斬って斬って切り刻む。
死なないよう、ギリギリのラインを探るように。
「ッ…………ぁあ……!」
嗚咽の様な声がプリシラの喉奥から漏れた。
腹部からは命が赤い液体となって流れている。
熱い水が流れ出るたび体温が失われ、消えていく。
冷たい冷たい死が迫っていた。
「いいですねぇ。苦痛に喘ぐその表情、生きようともがくその執念。
あぁ堪りません、獲物を追い詰めるのは実に愉しい!
殺し合いとはまた別格の趣があります。なんて愉しい、殺したくない!」
光秀が叫ぶ。
その不愉快な声もプリシラの耳にはどこか遠くに聞こえた。
目が霞む、もう辺りに何があるのかもよくわからない。
痛みが和らいでいく代償に、感覚自体が消えていく。
意識にも霞がかかってきた。
白とも黒ともつかない何かに、思考が侵食される。
それでも、
死にたくない。
心の底からそう思った。
ヨアンナが、孤児院のみんなが待ってるのに。
私が子供たちを守らなくちゃいけないのに。
こんなところで、死ぬわけにはいかないのに。
なけなしの意識を振り絞り、ギリと歯を食いしばる。
死にたくないから逃げる。
いつだって理由は単純だ。
足は動かないから、地面を這って進んでいく。
その道のりに赤い道を造りながら。
心の中に浮かんだ名を叫び続けた。
やっと再会したばかりだったのに。
まだ伝えてないことが沢山あるのに。
声に出したい想いは沢山あるのに。
言葉にならない声はどこにも届かない。
背後には、黒いタキシードの男ではなく、白い死神が迫っていた。
■
探るように音の確認していた
一方通行が目を見開く。
それが確認終了の合図であると悟り、ゼクスはすかさず問いかけた。
「何が聞こえた一方通行?」
ゼクスの問いに、一方通行は舌を打って答える。
「チィッ。さっきのバカ女の悲鳴だ。
あの女ァ。とンだガキの使いだったみてェだなァ!」
そう悪態をつくと、一方通行は足裏に能力を展開し、跳ぶように駆け出した。
音の方向から位置は特定できる。
距離は多少あるが、能力を使って加速すれば、そうは時間はかからない。
「待て、一人で動くな一方通行! 行くのなら私も共に、」
後方から静止をかけるゼクスの声を無視して一方通行はさらに前へと進む。
一方通行もゼクスが足手まといになるとは思わないが。
聞こえた声の様子からして、ゼクスの歩調に合わせれられるほど余裕はなさそうだ。
「スグに終わらせるからよォ! そこで大人しく待ってろゼクス!」
後方のゼクスにそう告げると、一方通行は疾風の如く駆け抜けた。
その背は一瞬で小さくなり、あっという間に目で追えない場所へと消えていった。
「……まったく、場所も告げずに駆け出されてはな。
これでは追うことも、合流の仕様もない」
ゼクスとしてもあとを追いたいのは山々だったのだが、駆けだした一方通行の速度は人間の足で追っていけるものはなかった。
一方通行の後を追って結果、すれ違いになっては本末転倒である。
先程プリシラに同じ注意をした手前、うかつに動くわけにもいかない。
ここは一方通行を信じて待つのがベストだろう。
とはいえ、彼に限って心配はいらないとは思うが、時間制限がある以上、不安は残る。
それ以前に彼が素直に自分のもとに戻ってくれるという保証もないのだが、それを含めて信頼するほかない。
だが、いつまでも待ちぼうけをしているわけにもいかないのも事実だ。
もう時期、最初の放送の時刻である。
それまではここで待ち、放送を終えても一方通行が戻らなかった場合に方針を決めよう。
彼を探すのか。
この場での合流を諦め、別の場所へ向かうのか。
最悪、第三放送まで無事でいれば合流できるはずである。
そう考えてゼクスは静かに一方通行の帰りを待った。
【D-6/デパート/一日目/早朝】
【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:軍服
[装備]:
真田幸村の槍×2
[道具]:基本支給品一式
[思考]
0:一方通行を待つ。第一放送までに戻らなければ別の方針を決めるく
1:リリーナを探す
2:一方通行を……
3:第三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、一度信頼出来る人間同士で集まる
[備考]
学園都市、および能力者について情報を得ました。
MSが支給されている可能性を考えています。
主催者が飛行船を飛ばしていることを知りました。
■
「ん?」
プリシラの苦悶の様を上機嫌で鑑賞する光秀が何かに気付き動きを止めた。
直後、突風が吹いた。
惨劇の間に彗星ようにその場に現れたのは狂ったように白く、歪んだように白く、澱んだように白い影。
学園都市最強の超能力者、一方通行である。
急停止した一方通行はちらりと光秀を一瞥する。
その口元に浮かぶのは薄気味悪い笑み。
見たところで嫌悪感しか浮かばない。
一方通行は早々に光秀から眼を反らし、足もとに視線を移した。
地面に引かれた赤い道筋をたどれば、そこには縋り付くように地面を這いずるプリシラの姿があった。
その目の焦点はあっておらず、見えてもいないのか、一方通行の到着に気づく様子もない。
もはやまともな意識があるかも怪しいところだ。
どう見ても死ぬ直前。
誰が見ても手遅れだった。
「悪ィな。俺はお前を助けねェ」
そんな彼女に向けて、一方通行はそう告げた。
助けられないのではなく助けない。
彼女に聞き取れるだけの意識があるかは不明だが、残酷なまでの最後通告だった。
一方通行の能力であるベクトル操作を使えばプリシラの延命は可能だ。
血流を操作すれば破れた血管の代りを果たすこともできるし
生体電気を操作すれば心肺機能の強化し生命活動の維持を補佐することもできる。
だが、それも気休めにしかならない。
普段ならともかく、能力に制限時間がある以上、延命できて15分。
それまでに奇跡的な治癒方法を探せるとは思わないし、『冥土返し』のような名医に都合よく巡り合えるとも思えない。
そんな奇跡に期待するほどロマンチストでもない。
救えない命に執着して限られた能力を浪費するほと感傷的な性格でもない。
あの無能力者(レベル0)ならどうしただろうか。
ふと、一方通行はそんなどうでもいい事を思った。
「み……、…ヴ………ァ…………。」
プリシラの口から掠れた呟きが漏れた。
だが、それまでだ。
それ以上は、パクパクとプリシラの口が動くばかりで、声は言葉になりきれず消えていく
呟きは風に流される。
誰の耳にも届かない。
届かない声。
伝わらなかった言葉。
それだけを残して、少女の命の炎が消えた。
一方通行はプリシラに背を向けたまま、ただその気配だけを感じていた。
「おや? もう死んでしまわれたのですか、もったいない。
もう少し愉しみたかったのですが。やはり脆いですね、人間というのは。
まぁいいでしょう。次の獲物が自ら来てくれた。
んふふふ。愉しみですねぇ。貴方は一体どんな味がするのでしょうか?」
光秀は嗤う。
少女の死なぞ気に留めず、次の期待に胸を躍らせながら長い舌を伸ばし血色の悪い薄紫の唇を舐めずる。
スンスンと光秀が鼻をならす。
「あぁ、血の臭いがしますね。貴方からは私と同じ拭いようのない大量の血と臓物の臭いが。
んふふふ。こんな場所で貴方の様な同類に逢えるだなんて夢のようだ。
貴方も私と愉しみましょう、夢のように愉しい殺し合いを!」」
鋭敏な光秀の嗅覚がその臭いを感じ取った。
辺りに漂うプリシラの血の臭いではない。
一方通行から感じ取れるこの臭いは被害者のそれではない。
加害者のそれだ。
一方通行にしみ込んだ、拭いようない殺人者の匂い。
自分と同じ血と臓物を好む畜生外道の匂い。
美しく光る白銀の髪。
血溜まりの様な真紅の瞳。
不健康なまでの白い肌。
そして身に染みついた血の臭い。
闇の世界に生きるどうしようもない悪党。
光秀の言うとおり、対峙する二人はどこまでも似通っていた。
「はン。テメェ何ぞと一緒にすンなよ、三下」
だが違うと、一方通行はそれを否定する。
「確かに俺もお前もクソったれの悪党だろうよ。今さら綺麗事をほざくつもりもねェ」
一方通行は
正義の味方でも何でもない。
実験のためとはいえ一万人の妹達(シスターズ)を虐殺した殺人者だ。
そんな男が、少女の悲鳴を聞きつけ駆け付ける事自体がそもそもオカシイ。
どんな状況でも都合よく駆けつけて全てを救う。
そんなのは正義の味方のやる事だ。
「けどな、それがこいつが殺されていい理由にはなんねェだろうがァ!
俺とお前がクズだってことが、誰かを傷つけていい理由にはなンねェんだよ!」
正義でなくとも。
悪党であろうとも。
それが誰かを見殺しにしていい理由にはならない。
プリシラは表に生きる人間だった。
光の世界に生きる人間が闇の世界に生きる人間の喰い物にされる。
それが一方通行には気に食わない。
「テメェが『あいつ』の脅威になるかもしれないってンならよォ」
一方通行が能力を解放する。
これまで部分的にしか使用していなかった能力の制限を解き、膜を張るように全身に能力を張りめぐらせる。
相手が光を食らう闇ならば。
一方通行は闇を食らい続ける悪になる。
慈悲もなく、容赦もなく、寛容もなく、更生の機会すら与えず。
理に適ってるって理由だけで、迷わず武器をとり凶漢をブチ殺す。
そんなのは善人じゃない、似たような悪党だ。
そして、一方通行はそれでいい。
守りたいものを守るためならば、敵対するものを容赦なくぶち殺し。
必要とあらば善人であろうと容赦なく切り捨て。
必要ならば守りたい相手とすら敵対する。
それが悪党としての一方通行の生き方だ。
「この場でさくっとブチ殺してやンよォ―――――三下ァ!!」
ゴバッ!! と爆発音じみた音を立て、一方通行が地面を踏みつけた。
たった一歩の踏み込みで一方通行の体は弾丸の如く加速する。
愛鎌、桜舞を構え、迎え撃つ光秀。
飛来する一方通行の勢いは確かに速い。
だが、その程度の動きを戦国の世を生きる武将が一人、明智光秀が捉えきれないはずもない。
向かい来る一方通行は、斬って下さいと言わんばかりの正面突破。
獲物の首を眼前に差し出され、堪え切れる光秀ではない。
「お望みとあらばッ!!」
応えるように死神の鎌が揺らめいた。
かつて甲斐の虎すら打ち取った必殺の一撃が一方通行の白い頭を赤い柘榴に裂かんと振り下ろされる。
前方に突撃する一方通行には避けようのないタイミングである。
そもそも光秀の放った一撃を避ける技量は一方通行には存在しない。
いや、それ以前に、避ける必要性自体がないのだが。
「な………………っ?」
戸惑いの声は光秀の喉から漏れた。
一方通行の頭部に振り下ろしたはずの鎌の穂先が真上へと跳ね上がった。
防がれたというより弾かれた。
弾かれたというより跳ね返された。
直撃したはずの一撃が防御や回避ではない別の何かによって防がれた。
理解の埒外。
不可解極まりない現象だ。
光秀の知る以外の何か。
まるで妖術や何かの類である。
これこそが異能。
これこそが超能力。
超能力開発を目的として設立された学園都市、最凶にして最強の超能力者(レベル5)、一方通行。
その能力はベクトル操作。
この世界のあらゆる物理法則を繰る超能力である。
全身に張り目がらされたその力は、あらゆるベクトルを”反射”する。
いかに強力な一撃であろうとも単純な物理攻撃が一方通行を捉えられるはずもない。
制限下でなければ、たとえ核兵器が直撃しようとも、彼はかすり傷一つ負うことはない。
「無様にスッ飛ンでろォ、三下ァ!」
強引に光秀の懐に飛び込んだ一方通行が無造作に足を振り上げる。
鍛錬を積んだ武術家のような洗練された動きではない。単純で直線的な素人の蹴りだ。
だが、その素人の一撃は彼の能力、ベクトル操作によって一転。
凶悪な破壊力を秘めた必殺の一撃へと昇華される。
蹴りにより発生する衝撃を一点に集中、さらにそれを敵を穿つように加速させる。
攻撃を跳ね上げられ体制の崩れた光秀にその一撃は避けられない。
それでも咄嗟に腕を十字にクロスさせ光秀は蹴り足を受け止める。
蹴りを受けた腕の骨がミシミシと軋みをあげた。
衝撃までは殺しきれない。
堪え切れず、光秀の体が空高く宙を舞った。
それを追って、一方通行が地面を蹴り跳躍する。
脚力のベクトル変化だけではない。
風を操り暴風を更なる推進力として、天高く舞い上がるロケットの如く一方通行の体が打ち出させた。
「…………甘いですねッ!」
それを視界の端で確認した光秀が目を見開く。
光秀は体勢を立て直すのではなく、グルンとしなやかに身をよじり、体を軸に鎌で円を描くように空中で回転した。
空中にて振りぬかれた桜舞が半月のような弧を描く。
死神の鎌が狙う獲物は当然の如く一方通行の首一つ。
それは自らの落下速度、一方通行の上昇速度まで計算に入れた完璧なタイミングの一撃である。
この状況と体勢で正確に首を狩りに行く執念と技量は驚嘆に値する。
だが、
一方通行の首元に触れた瞬間、刃の勢いは”反射”される。
放たれた威力をそのままに。
否、それ以上のベクトルを付加して、衝撃を使い手に反転する。
「くぅ…………っ!」
すさまじい衝撃が光秀の手首に圧し掛かる
光秀は刹那の判断で桜舞を握る腕から力を抜き、その衝撃を桜舞へと一任する。
衝撃を流された桜舞が明後日の方向へと弾き飛んだ。
だが、その判断は正しい。
あとコンマ1秒手を離すのが遅れていたら光秀の手首はへし折れていただろう
難を逃れ、息をついたのも束の間、
遥か空を見上げた光秀の眼前には、固く握りしめた拳を振り上げる一方通行の姿が。
叩きつけるように振り下ろされた拳が、光秀の腹部直撃する。
降り注ぐ隕石の如き勢いで光秀が地上に向かって墜落した。
遅れてかち割られた鎧の破片がパラパラと宙を舞った。
地を震わす轟音。
大量の砂埃が巻き上がり、落下点を中心に小さなクレーターが生み出される。
都合二発で文字通り相手を沈めた一方通行は、光秀とは対象的に落下のベクトルを操作し音もなく地面に着地する。
その実力は圧倒的だった。
一方通行には傷一つない。
様々な能力者が犇めく学園都市で頂点を極めるその実力は伊達ではない。
だが、
「…………ンフフフ」
様々な兵の蠢き覇を狙う、戦国の世を生きるこの男も、当然の如くこれで終わりなはずもない。
「フフフフフフ。ハハハ、フハハハフフハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
クククク、フヒヒヒ、ウフフフ、フハハハハハ。ンフフフフフウフフウフフ!!
ウフフフフ。アヒャヒャ、クフフフフフフ。クケケケ。ウハハ、ウッフッフ!!!
フハフハ。ウフフウフフフ。ンフフフ、フフフハハウフフ。アッーハハハハ!!!!」
砂ぼこりの奥から嗤い声が響いた。
聞く者に怖気と不快感をもたらすような、粘ついた嗤い声が。
「――――――――素晴らしい」
風が吹き、砂埃が晴れる。
その先に見えたのは全身にぶちまけられた誰のものともつかない赤に病的なまでに白い肌。
そこには鎧を砕かれ上半身裸で両腕を広げた、血濡れの白い死神が立っていた。
「素晴らしい!! 素晴らしいですよ貴方!
あぁッ! 痛い! 痛い! 私、このままでは達してしまいそうです!」
頭部からドクドクと血を流しながらゾクゾクと身を震わせ光秀は歓喜に喘ぐ。
自らの負傷を一切に気にする様子は一切ない。
むしろ痛みを愉しむように嗤いながら喘ぎながら身をくねらす。
「……………………」
「きゃん…………!」
そんな光秀めがけ、一方通行は無言で足もとの小石を蹴っ飛ばした。
特に意味はない。
強いて言えば、近づきたくない程度に気持ち悪かったからだ。
気にするでもなく、光秀は投石によって仰け反った上半身を体のしなりで跳ね起こす。
「うふふふ。痛い、痛いですねぇ!
あぁ……この痛みを、もっともっともっと味わいたいところなのですが、ここは引いておきましょう。
弾き飛ばされた桜舞も探さなくてはならないし、貴方を味わうのはもう少し後、前菜を食らい尽くしてからにいたしましょう」
そう言って光秀は後方に跳んだ。
その動きに負傷による鈍りは感じられない。
むしろ生き生きとしているようにも感じられる
「私は明智光秀と申します。貴方のお名前をお尋ねしてもよろしいですか?」
「あァ? 逃げられると思ってンのか?
これからくたばる野郎に、ンなもん答えても意味がねェだろうがァ」
そう言って、光秀にとどめを刺すべく、一方通行が地面を蹴り出した。
「ッ!?」
だが、加速は生まれず、代りに一方通行の膝がガクンと崩れた。
「おや? そちらもそちらで何か事情が御有りの様だ。
それではまた相見えましょう、貴公とはまた会えると確信しております。
その時は互いに万全であることを祈っていますよ」
そう言って明智光秀はその場から姿を消した。
それを忌々しげに見送った一方通行は、チッと舌を打ちながら体勢を立て直した。
彼が膝を崩した理由は明快、踏み込んだ感触が想定値とあまりにも食い違ったから。
有体に言うと、能力の使用制限時間が切れたのである。
一方通行自身は確認できないが彼の首輪は既に――使用不可能――赤を示していた。
「冗談じゃねェぞ、早過ぎンだろ、クソッ」
移動を含めたとしても15分には達していない。
能力の消費が予想以上に早すぎる。
全力展開すれば一分と経たず燃料切れ。
普段無意識に行っている全身展開でも五分と持たない。
とはいえ、部分展開では今回の様な無茶な戦い方はできないだろう。
これはいよいよ本気で効率のいい能力の運用を考えなければならないようだ。
ふと視線を落とせば、事切れたプリシラが目に映った。
天真爛漫だった少女の面影はそこにはない。
美しかった桃色の髪は乱雑に切り刻まれ。
白く健康的だった肌は血の気が引き青白く染まっていた。
別に無惨な死体は見慣れてるし、それ自体に嫌悪も思うところもないのだが。
「チッ…………面倒なもンを預かっちまった」
そう、一方通行は悪態をついた。
プリシラが事切れる直前に呟いた言葉にすらなりきれない声。
彼の能力ならば、あの瞬間に限定して彼女の喉の震えに集中すれば、声にならない声を聴きとることはそう難しいことではなかった。
声にならなかった言葉。
彼女の最後の言葉。
別にわざわざ相手を探しだして伝える義務もないし必要性も感じない。
が、たまたま、偶然、道中で会うことがあったなら、伝えてやってもいい。
その程度には思う。
一方通行の耳に届いた、届かなかった言葉を。
【プリシラ@ガン×ソード 死亡】
【残り53人】
【C-6/草原南東部/一日目/早朝】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康 能力使用不可能
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、缶コーヒー×24、ランダム支給品×1(確認済み)
[思考]
1:このゲームをぶっ壊す!
2:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)
3:機会があればプリシラの遺言を伝える
[備考]
※知り合いに関する情報を政宗、ゼクス、プリシラと交換済み。
『一方通行の能力制限について』
【制限は能力使用時間を連続で15分。再使用にはインターバル一時間】
【たとえ使用時間が残っていても、ある程度以上に強力な攻撃を使えば使用時間が短縮されます】
【今回の使用はあまりに過度の能力だったため、次からは制限される可能性があります】
ゼクスのいた世界について情報を得ました。
主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
飛行船は首輪・制限の制御を行っていると仮説を立てました。
■
「嬉しいですねぇ、愉しいですねぇ。
生きてきてこれほど嬉しいと思ったことはありません。
信長公以外にも私をコレほどまでに昂ぶらせる御馳走が沢山あるだなんて!」
次なる獲物を求めて光秀は野を駆ける。
信長公に出会うまでの口慰みとして、つまみ食いを繰り返してきたが。
なかなかどうして、この場にいるのは極上の獲物ばかりである。
死神の目を持つ少女。
獅子の気迫を持つ少女
自らの与り知らぬ力を操る少年。
はたしてこの舞台にはあとどれほどの魑魅魍魎が蠢いているのか。
「愉しみですね、想像しただけで私、気絶してしまいそうです!」
傷つけることも。
傷つけられることも。
殺すことも。
殺されることも。
生きることも。
死ぬことも。
全て等しく光秀にとっての愉悦である。
まただ見ぬ兵は何処や。
【C-6/北部/一日目/早朝】
【明智光秀@戦国BASARA】
[状態]:ダメージ(大)疲労(中)ヘブン状態
[服装]:血まみれ、上半身裸
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 、信長の大剣@戦国BASARA
[思考]
1:一刻も早く信長公の下に参じ、頂点を極めた怒りと屈辱、苦悶を味わい尽くす。
2:信長公の怒りが頂点でない場合、様子を見て最も激怒させられるタイミングを見計らう。
3:途中つまみ食いできそうな人間や向かってくる者がいたら、前菜として頂く。
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最終更新:2010年01月24日 22:57