Only lonely girl ◆WWhm8QVzK6
「成程、中々の速さのようで」
「ほんの少しですけど、これなら安全に移動できると思いますよ」
念のためということで最後尾に乗ったのだが、中には誰もいなかった。
駅のホームにも誰もいなかったし、彼ら以外に電車に乗った者はいないだろう。
美穂子は落ち着いた様子で座席に腰掛け、小十郎もそれに倣う。
彼はやはり慣れていないのか、身体を固くした状態だ。
「…福路殿」
「はい?」
何か訊きたい事でもあるのかと思ったがどうやらそうではないらしい。
小十郎は立ち上がり、彼女を隠すように立ちはだかっている。
その視線の先には――
「危険ですので、隠れていてください」
車両の連結部分の更に向こう、つまり前の車両に、人がいた。
長い紫の髪。身の丈にはアンバランスな黒のボディコンスーツ。
眼は眼帯で覆われている。
あれで前が見えるのだろうか。
そんな些細な疑問は彼らには浮かばない。そんな余裕は無い。
なぜなら、その女の手には巨大な手裏剣が携えられていたのだから。
F-3駅到着まで、あと1分。
◆◆◆
何時入られたのか。
それは彼らにはわからないが、大方の推測は出来る。
おそらく電車内に入ったのを見計らって、前の車両に乗ったのだろう。
ギリギリまでは確認しなかったために入る余裕は少なからずあった筈だ。
小十郎に不手際は無い。いると思われる場所は眼の届く限りの範囲で確認した。
だが、それだけでは足りない。屋根の上は死角となって、彼の監視から逃れるには容易かった。
尤も、女が彼らを発見するのもまたギリギリだったのだが。
隠れろと言われたものの、車掌室は鍵が掛かっていて開かない。
となると、座席の僅かな陰に隠れるしかないのだが、この場合は攻撃が届かない場所にいろという意味だろう。
そうであっても、全身を入れられる程のスペースは存在しなかった。
小十郎は一足でドアの手前まで詰め寄るが、それ以上は近づけない。
良くも悪くも、ドアが障壁となっている所為でどちらも次の行動を取れないでいるのだ。
睨みあう事数秒。
突如、女の姿がその場から消えた。
窓越しであるためにその行動を見咎めるのが一瞬遅れる。
しかし、相手が何をしたか小十郎には見て取れた。
ダン、という音。
それは上から聞こえてきた。
「まさか…この上に?」
美穂子は度肝を抜かれた。
高速で動いている電車で、窓から出て上に飛び乗るなんて。
体操選手でも出来なさそうな芸当だ、と彼女は感じた。
しかし上に登ったところで特にどうとなるわけでもない。
両者が一撃で攻められないのは同じこと。
この場合、どちらからも相手の位置は見えていないのだから。
「福路殿…この天井、壊しても問題ありませんか?」
「え!?壊せるんですか…?…でも、もしかしたら止まってしまうかもしれないし……」
電車に詳しいわけではない彼女に答えることはできない。
だが、こんな所で止まってしまうのは危険だと感じた。
せめて駅に着いてからでないと、逃げ場がない状態では拙い。
そう、ほんの少し考えているうちに、
「クッ!?……」
ガラスの割れる音と同時に、女はするりと小十郎の横へと飛び込んできた。
突然の事で驚きはしたがこれは小十郎にとっては好機だった。
飛び込んできたとなれば着地が必ず必要となる。そのタイムロスはコンマ数秒でしかないが、それでも戦闘では長い。
一瞬の隙が命取りなのだ。
すかさず蹴りこまれて未だ中空にある相手の足目掛けて剣戟を繰り出す。
充分なタイミングだった。明らかに女の手は届かない。
しかし、その手には、先程持っていたはずの十字手裏剣がなかった。
してやられた、と思った瞬間。
小十郎の視界の端から刃が向かってくる。
既に刀は振っている。引き戻せばギリギリ防御には間に合う。
そして咄嗟の判断で、彼は身を引くことにより刀で防ぐ過程を短縮した。
ギン、と響く金属音。
小十郎は目視する。
女の長い紫色の髪が、まるで生き物のようにうねり手裏剣を掴んでいた。
無論髪の毛の力だけでは到底小十郎の両腕の腕力には及ばないが、遠心力を利用すればそれなりの威力にはなる。
小十郎はすかさず手裏剣を右方向に往なし、それに釣られて引き伸ばされた髪を斬ろうとする。
しかし、相手の体勢は万全の状態となっていた。
「足元がお留守ですよ」
女が声を発したか否か、その時小十郎の身体が大きく傾いた。
単純、軸足に足払いを掛けられたのである。
電車はその時点で緩やかなカーブで車体が僅かに傾いており、そのうえ女の蹴りは凄まじい威力だったので彼は容易く尻餅をついてしまった。
それでも小十郎は猶、攻撃を止めない。
その手に持つ刀には、電撃が纏っている。
「喰らいな!」
「む――」
雷撃が迸る。
目掛けられたのは女の顔。
この至近距離であれば避けることは不可能だと踏んでの攻撃。
だが、それすらも敵は予見していた。
小十郎の首を貫かんとしていた手裏剣をすぐさま戻し、転がり込むように床へと待避する。
標的を見失った雷はそのまま天井を貫き、破片を溢した。
その拍子に回路を切断された電灯が停電する。
一瞬で暗闇と化したことで、眼が順応に追いつかない。
尚も、女の攻撃は止まることがない。
地を這う蛇のように、かつ素早い動きで小十郎との距離を一気に詰める。
小十郎は右に寄り、左から来た斬撃を受け止めた。
二度、三度と交わされる金属音。
そこで女は自身の不利に気がつく。
目の前の男は斬撃を受ける前に右へ、左へと身体を移動している。
最初はただのタイミング合わせかと思ったが、違う。
小十郎は、自身に有利な状況を作り出している。
壁際に身体を寄せられては、得物としては大きい手裏剣ではどうしても攻撃できる軌道が限られてくる。
それを見越して、彼は都度五撃目となる刃を受け止めたのだ。
驚くべきことに、女の腕力は小十郎と同等かそれ以上のものだった。
自身より力の強い攻撃。まともに受けなければ押し負ける可能性も充分に在り得る。
自分一人ならば賭けに出ても構わないと判断したかも知れないが、彼には守るべきものがある。
万が一にもそれを失うわけにはいかない。故に安全策をとった。
どの道この狭い空間では攻勢に出にくい。もうすぐ着くであろう次の駅に到着してからが本当の勝負だ。
アナウンスが流れる。停車まであと30秒未満。
両者は未だに拮抗している。
地の不利と状況によってどちらも攻めあぐねているのが原因か。
それでも、お互い息は切れていない。緊張からの発汗は僅かにあるようだが。
どちらかが止まらぬ限り、勝敗は決しないだろう。
美穂子は目の前の常軌を逸した光景にただ驚くばかりだった。
眼にも止まらぬような剣戟や足捌き。
おまけに小十郎の繰り出す雷撃のせいで、彼女の現実感が揺らいできた。
だが、それと同時に実感する。
(これが……魔法なの……?)
画面越しの主催者が言っていた言葉が思い起こされる。
目の前のあれはまさしく、その非現実ではないか。
それを考えると恐ろしくなる。魔法の存在にではない。
自分がそれと対峙したとき、逃れる術はあるのか。
否応無しに自身の無力さを思い知らされる。
誰かに守ってもらうということは、誰かの足かせになるということ。
自身で予測したことを、彼女はありありと実感していた。
窓越しに駅のホームが見えてきた。
電車は徐々にスピードを緩める。
停止まで10秒とかかるまい。
彼女はここでどう動くべきか、考えざるを得ない。
女のスピードは、小十郎がいないと仮定すれば一息で美穂子との距離をゼロとする程度か。
位置的に見れば、小十郎が持ちこたえている以上はドアは妨害されているので外に出た美穂子を追うのには遅れが出る。
(ドアが開いた瞬間に私が逃げれば……でも、今の状態じゃわからない。ギリギリまで見極めないと。
けれど電車にずっといるわけにもいかない。都合よくあの女の人を追い出せるわけじゃないもの)
そう、電車内に比べて駅のホームは広すぎる。
あくまでも比較しての話だが、行動範囲は遥かに広がるのだ。
今でこそ堰き止められているがホームでの戦闘となった場合、
目の前の敵が小十郎の刀を掻い潜り、美穂子の元に辿り着くことは否定できない。
相手がどういうスタンスかは分からないが、美穂子を人質に取るということくらい考えられる。
ただの交渉ならば危害が加えられない可能性が高い。
人質は生きていなければ意味が無いからだ。
しかし、この相手は違う。対峙した瞬間から既に敵と認識している。
おそらくそういった者が美穂子をどう扱うかといえば、盾くらいのものだろう。
人質という考えすら生温い。第一、このゲームは誰が誰を殺すか分かったものではないからだ。
殺し合いに乗っている者にとって、弱者の存在など取るに足らない。
停止する。
ドアが、開いた。
「ここから先は行かせねぇ!」
声を張り上げて小十郎が叫ぶ。
その気迫は確かに他を圧倒せんとするものだ。
「そうですか。ならば、あちらから行かせてもらいます」
淡々と女は告げる。
その言葉通り、軽いバックステップで後ろのドアまで辿り着き、そこから飛び出た。
そのままホームを疾走する。狙いはやはり、美穂子か。
「させるかよ!」
それを妨げるように小十郎が前に躍り出る。
完全に間に合っている。此処からでは、すぐさま美穂子に辿り着くことはできまい。
カコン、という音。
不思議な音だ、と小十郎は思う。
そう。足音はこんな音はしない。何か、金属の塊が落ちたような、そんな感じのものだ。
その音の出所に彼は目をやる。
床に当たり撥ねる、拳ほどの大きさの鉄の筒。
それが何なのか、嫌な予感がした時に――
彼は一瞬にして、音と光を失った。
◆◆◆
(何…が……)
それは、美穂子も同じだった。
目が見えない。音も、聞こえない。
驚いて自分が叫んだ声すら、聞き取れなかった。
凄まじい閃光と轟音で、視覚、聴覚が麻痺させられたうえに脳にまでダメージを及ぼし、嘔吐感を訴える。
しかし身体に外傷は無い。あれだけの爆発なら、破片や爆炎が身を襲うに違いない。そう考えたのだが。
閃光弾(スタングレネード)。
視覚と聴力を無力化することにより、対象から戦闘能力を奪う。
強烈な光は目を焼き付かせ、肌を叩くほどの大音響は聴覚異常を引き起こし無音状態に陥れる。
未経験の相手ならばほぼ確実に戦闘不能状態に叩き込む光と音の一斉攻撃。
それを美穂子はまともに喰らった。
その所為で今も前後不覚状態になっている。
回復には、いささかの時間がかかるだろう。
しかし、この点で注意すべきことはこの攻撃の対象は美穂子ではないという所だ。
これに関してだけ言えば、彼女はあくまでも巻き込まれた者に過ぎない。
そう、これを繰り出した者には、本当の狙いがある。
「ぐ……ふ……」
口から血が漏れる。
自ら出した声すら分からない。
しかし、口の中の血の味は確かに実感できた。
そして自身の胸を貫く鋭い感触。
何が起こっているかは、見るまでもない。
為す術もなく地面に倒れ伏す。
同時に凶器は胸から引き抜かれた。
だくだくと血溜りが広がっていく。
彼は、認識を誤った。
・・・・・・・・
あれを爆弾だと理解してしまったが故に、全身を投げ出して飛び退いてしまった。
しかし、それも自らの目を光が覆った時に気づく。
爆弾とは、敵味方構わず周囲を爆破するもの。
投げた当人が至近距離にいれば、それは自殺行為というものだ。
だから、あれは決して爆弾などではない。そう気づいたときには、もう遅かった。
一方、女は――ライダーはほぼ影響を受けていないようだ。
それも当然、使用した本人が使い方を分からぬはずもない。
目は眼帯があるので目を閉じるだけでよく、耳は両手でしっかりと塞いだ。
それでもゼロ距離ということもあってか聴力に関しては防御し切れてはいない。
そうなることは自明していたが、数分程度なら問題あるまいと考えたのだろう。
美穂子は、自分の腕が掴まれる感触を覚えた。
明らかに男の手ではない。
「や、やめて…!」
当たり前だが彼女の視力はまだ戻ってはいない。
いつも閉じている右目だが、その程度で防げるような代物ではない。
訳もわからぬままずるずると引き摺られ、車外に放り出される。
被害を軽減できた右目だけが有様を彼女に伝える。
ライダーは彼女が装備していた銃と二振りの刀を苦も無く奪った。
銃に関しての知識はなかったが、すぐ手に届く場所に装備しているなら、何らかの武器だろうと思ってのことだった。
「……? これは…」
忍者刀に結わえられた紐を訝しむ。
だが、特に気にすることも無くそれを引きちぎった。
「何故です。使わないのなら、捨てておけばいいのに」
その問いも美穂子には聞こえない。
どうしようもなく無音の世界が続く。
「…まあいいでしょう」
そう呟くと、ライダーは美穂子の首筋に口を近づけた。
まともに戦うには、まだ魔力は足りないくらいだ。
美穂子にしてみれば何をされるか分かったものではない。
ただ、物凄く嫌な予感がしただけだ。
自分も此処で殺される。その考えが、頭の中を廻っていた。
逃れようと必死にもがくが、身体を固められて殆ど動けない。
かろうじて動く手先足先も充分に届かないので意味が無い。
武器さえ持っていれば抵抗も出来るだろうが、それはできなかった。
ライダーの吐息が首にかかる。
それに対しての嫌悪感や何やらは感じている暇は無い。
ただ、得体の知れない恐怖。死に対しての恐怖が彼女を襲っていた。
「い…やだ……」
乞うように声を絞り出すが、ライダーには届かない。
彼女の意識は、そのまま飲まれるように消えて――
唐突に、ライダーの動きが止まる。
誰に向けたかも分からない命乞いが届いたのか。いや、それはあるまい。
ならば何故。
不意に、美穂子は自分の肌にぽたぽたと温かい液体が落ちるのを感じた。
それが何なのか、思い至るまでに少しの時間を要したが。
血。
それも目の前の女の。
美穂子は何もしていない。ならば、
「驚いた。致命傷だと思っていましたが……」
ライダーの右腕には深々と刀が突き刺さっている。
誰が放ったものか。それは後ろを見ればすぐに知れた。
立っている。
小十郎は、胸を穿たれながらも。
口から血を流しながらも、彼は立っていた。
「させねぇ……それ以上は、動くんじゃねえぞ……」
偶然にも、刺されば即死と思われる凶器を受けて、彼はまだ生存していた。
しかし死に体であることに変わりは無い。
血液は流れ出て意識ははっきりとしない。
だがその意志は、はっきりと燃えていた。
彼は、片倉小十郎はまだ終わってはいなかった。
ぞぶり、とライダーは腕から刀を引き抜く。
「殺してはいません。まあ聞こえてはいないでしょうが……」
決着をつけるべく、彼女も立ち上がる。
その、引き抜いた刀を構えて。
小十郎も、残りの内の一本を構える。
ぼんやりとしか相手は見えていない。
僅かにふらつきながら、相手を定めて。
対峙は一瞬だった。
「うおおおおおおおおっ!!」
そして、勝負も―――
◆◆◆
ライダーは、六爪を床に捨てた。
小気味良い音がホームに響く。
「それにしても、ここまでサーヴァントに対抗できる者がいたとは……」
腕に包帯を巻きながら、彼女は思う。
不意を突かれたり、制限の所為もあるだろうが、この男の強さは本物だった。
運が悪ければやられていたかもしれない。
しばらく傷が回復するまで休んでおいた方がいいかもしれない。
勿論、基本的には今までどおり行動するが、無理はしないということだ。
小十郎の血を吸い終えると、違和感を覚える。
電車が、何時まで経っても発車しない。
(おかしいですね。さっきはもっと早く出たように思えますが)
その答えはすぐに見つかった。
上部にある電光掲示板。そこに流れている文字を読めば理解できる。
「運行休止、か……あまり便利ではありませんね」
どんな事情があったのか汲み取る気にもならない。
興味が湧いたから獲物を襲うついでに乗ってみた。その程度の物でしかないからだ。
彼女ならば、徒歩でもさして支障は出ない。
ライダーは床でぐったりとしている美穂子を彼女のバッグと一緒に物陰に隠すと、そのまま立ち去った。
(運が良ければ生きて遭うこともあるでしょう。その時は、また血を貰います)
少しとは言えど、エネルギーが限られている以上下手に殺すのは忍びない。
そうするならば何処かに監禁するのが手だが、流石にそこまで煩わしい事はできない。
事実、運任せといったところか。
彼女はそのまま駅を後にした。
【片倉小十郎@戦国BASARA 死亡】
【残り58人】
【F-3/駅付近/一日目/黎明】
【ライダー@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)、魔力充実++、左腕に深い刺し傷(応急処置済み)
[服装]:自分の服、眼帯
[装備]:猿飛佐助の十字手裏剣@戦国BASARAx2、閃光弾@現実×2
[道具]:基本支給品一式x3、不明支給品x0~6(小十郎から奪ったものは未確認)、風魔小太郎の忍者刀@戦国BASARA
ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード
[思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。
1:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
2:出来るだけ人の集まりそうな街中に向かう。
3:戦闘の出来ない人間は血を摂って放置する。
4:不思議な郷愁感
[備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
※C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
※忍者刀の紐は外しました。
【F-3/駅ホーム】
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:恐怖、意識不明、貧血
[服装]:学校の制服
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~1)(確認済み)
[思考]
基本:池田華菜を探して保護。人は殺さない
0:―――――
1:電車で小十郎と共に工場地帯に向かう。
2:小十郎と行動。少し頼りにしている。
3:上埜さん(竹井久)を探す。みんなが無事に帰れる方法は無いか考える
4:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※ライダーの名前は知りません。
※小十郎が死んだことをまだ知りません。
※六爪@戦国BASARAは小十郎の死体と共に放置されています。
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最終更新:2026年10月29日 00:40