こんなに近くで... ◆1aw4LHSuEI



しゅるり。
薄暗い礼拝堂に衣擦れの音が響く。
ぼんやりとした意識の中であたしはそれを感じた。
自分の着ている制服が脱がされていく。
ふわふわする。ぐらぐらする。くるくる廻る。
よく分からない。
頭が痛い。でもその痛みすらどこか鈍い。

「―――可愛いわ」

熱っぽさを含んだ声が聞こえる。女の人の声だ。
ぱさり。
あ。
また少し寒くなる。
……というか、下着を脱がされた。
生まれたままの姿になった自分に注がれる視線。
あまり肉付きの良くない裸体。
恥ずかしいという気持ちすら他人事のようだった。
ひやりとした冷たい手が体を撫でるのを感じる。
一糸纏わぬ体に這う手は優しくゆっくりと胸の合間をなぞる。
……はあ。
澱む瞳でそれを眺める。
女の人はあたしが汗ばんでいるのに気づいたようだ。
濡らしたタオルを持ってきて体を拭いていく。

―――なんか、むかし、そんな話を読んだことがあるような気がする。

やがて体は拭き終わった。
次にその人はきれいな小瓶を取り出した。
そこから何滴か水を手のひらに落としてから揉み合わせてのばす。
そのあと、あたしの体中に染み込ませる様にして塗っていく。
くすぐったくて、息がちょとだけ荒くなる。

「―――は、あ……」

―――そうだ。思い出した。
あれは『注文の多い料理店』だったっけ。
えーっと、確か……
色々きれいにされたあとで、猫に食べられる話?
そんな感じだ。

……じゃあ、あたし、食べられちゃうのか。
嫌だな。
死にたくない。
まだ、したいこといっぱいあるのに。
みんなともっと軽音部で遊びたかった。
武道館に行くとか、ちょっとだけ本気だったのに。
恋とか―――してみたかった。
澪にまた、会いたい。

「―――ふふふっ」

でも、食べられちゃう。
全部食べられちゃうのか。
そんな想いも全部。
でも、さ。
どうせ食べるって言うんなら。


―――澪のほうが、柔らかくてよっぽどおいしそうだ。


何て。
そんな風に、あたしは思う。


 ☆ ☆ ☆ 


「はああぁ……可愛いわ」

如何にも魔術師然とした格好をした女、キャスター。
その真名は「メディア」。裏切りの魔女と呼ばれた反英霊。
そんな彼女が……フードの下から僅かに見える目を輝かせていた。
偶然にも先ほど拾った少女―――田井中律を着飾らせて悦に浸っているのだ。
少女の格好は黒を基調にフリルやチョーカーを付けた、所謂ゴシックロリータ調の服装だった。

―――バトルロワイアル真っ只中。何故、こんな状況になっているのか。
それを説明する為には少し時間を巻き戻す必要があるようだった。

 ☆ ☆ ☆ 

一時間ほど前。

「ガイドブックで見つけたときは真逆と思ったけれど……」

少女を拾った後にまた飛行魔術を使い、『神様に祈る場所』へと降り立ったキャスターは辺りを見回しながら呟いた。

「―――どうみても、あの場所に違いないわね」

たどり着いたそこは自分も知っている場所。冬木の聖杯戦争が監督役たる言峰綺礼の本拠地。

―――丘の上に立つ教会。

元より冬木のこの地は霊脈の通る一級品の霊地である。
もしもそれがこの場にも存在するというのなら――そこもまあ霊地である可能性は低くは無い。
そう判断してここへとやってきた。
結果は十分以上だった。
冬木の教会に劣らぬだけの霊脈がここに流れ込んでいるのを感じる。
『神殿』を作製するのにまさに相応しい場所だといえた。

「黒桐くん」
「はい、なんでしょうか。キャスターさん」

傍らで少女を抱えて立っていた青年。黒桐幹也に声をかける。

「その娘の様子は私が見ているから、少しこの建物とその周辺になにか隠されていないか調べてくれないかしら」

この教会についてキャスターが知っていることはさほど多くない。
精々が霊地であり、監督役がいる、という程度の情報でしかない。
しかもここにある教会は冬木のものと変わらないという保障すらないのだ。
自分が『陣地作成』をしている間、探し物に優れている幹也に調査させておく、というのは真っ当な判断だった。

「分かりました。その子のことよろしくお願いしますね」
「――ええ。一応、竜牙兵もつけておくけれど気を付けるのよ」

彼にはまだ役目はある。こんなところで死なれては困るのだから――。

そう考えながら竜牙兵を召喚する。
竜種の牙を用いて召喚するこの骸骨兵は一種のパペットゴーレムである。
ある程度までは複雑な命令もこなし、刃の付いた武器はクリティカルしない。使い勝手のいい存在だ。
モンスターレベルでいうならば5はある。駆け出しの冒険者風情なら難なく制してしまえるだろう。

しかし今は『制限』がある。

召還主からあまり距離を離しては制御することは出来なくなり、本来備えている高い防護点、回避力もいささか弱体化している。
数を多く召還することも出来ない。
だが、それでも素人に遅れをとるほどではないだろう。護衛には十分と判断した。

人のよさそうな顔をして頷きを返し周りを調べ始めた幹也を置いて、キャスターは教会内部へと入っていく。
魔力に導かれてたどり着いた地下の礼拝堂。
そこには十分以上の霊脈が感じられた。
さあ、ここに神殿を作ろう。
適当な場所へと律を降ろしてキャスターはそう考えたが―――

「―――あら?」

そう、またしても『制限』である。
本来であれば陣地作成にかかる時間は最短時間。
それほど多くの時間がかかることは無い。それが作成に適した霊地であれば尚更のことだ。
しかし、スキルを使用する段階へと至り気付いた制限はその所要時間が長くなっているということ。
神殿の完成までには恐らく3、4時間程度は必要とするようだ。
しかしその間儀式を続けなければいけない、というものでもないらしい。
必要なのは最初の操作程度。後は魔力を注ぎ続けるだけでいい。
……まあ、つまり神殿の完成までキャスターは出歩くこともできず、さりとて特別しなければいけないこともなく。
ぶっちゃけると時間を持て余してしまったわけなのだった。

「―――どうしようかしら」

そう呟いたキャスターの目に寝かせておいた律の姿が映る。
―――そういえば、ハズレと思っていたけれどこんな支給品があった。
神殿が完成してからゆっくりと楽しむつもりだったけれど……もう使ってしまってもいいだろう。
デイパックから"その"支給品を取り出す。
それと同時にぽろりと付属していた説明書が落ちる。
ひらひらと舞い落ちるその紙には「さわ子のコスプレセット」と書かれていた―――。


 ☆ ☆ ☆ 


そして冒頭へと戻る。
というわけで遊びながらも続けていた魔力注入も一時間。
この教会も工房クラスの拠点にまですることができた。
しかしそれでも神殿の完成までは後数時間は必要だ。

―――その間に黒桐くんを『死者の眠る場所』へ探索に行かせてもいいかもしれない。

幸いさほど遠くはないし、いつここが禁止エリアになるか分からない。
できれば保険は用意しておきたいところだ。十分検討に値するだろう。
霊地であるかどうかも簡単な使い魔でもつければ確認できる。
ついでに適当な参加者に声をかけてここに誘い込んでくれれば一石二鳥。
使えそうなら洗脳して手駒を増やしてもいい。手に余りそうな相手なら殺せばいい。
陣地内で自分が負けることなどないに等しいのだから。
しかしもし殺されてしまったら?

―――惜しいには惜しいけれどどうせいつかは殺す駒。

デメリットよりもメリットのほうが大きそうだ。
ここの探索を終えて報告を聞いたらそう命じることにしよう。
まあ、自分がしばらくやることがないのには変わりないのだけれど―――
今しばらくはこの少女で楽しんで時間を潰せそうだから、それはいいか。
未だ呆けたままの少女の顔を撫でながらそんなことをキャスターは思う。

コスプレ服の大半は品のないありきたりな服装ばかりだったが、一部シックなキャスター好みのものも混じっていた。
―――ああ、自分も十年は若い姿で召喚されれば。そうすればこんな服装も似合っていただろうに。
それを考えると少し残念になる。

「―――まあ、でも。今はこの子がいるし」

気持ちを切り替えて目の前の少女を愛でることにする。
セイバーや遠坂の小娘もいいけれど――この子もまた違うタイプでいい。

―――持って帰っちゃ駄目かしら。

そんなことをつい考えてしまう。
いやいやいや。そもそもここは殺し合いの場だ。この子もいずれは切る札。
楽しんでも感情移入なんてするものじゃない。それは分かっている。
大体持って帰ったって宗一郎様になんて言ったら―――

―――いや、そうだ。

養子にする、なんてどうだろう。そう、私と宗一郎様の子供―――!
英霊である自分に子供を宿す機能が具わっているのかなんてキャスターたる自分にも良く分からない領域の話だ。
それぐらいなら養子を取ればいい。そしてどうせ養子にするなら可愛い子がいい。
自分の娘を着飾る母親なんて普通だから毎日のように可愛がれる。
洗脳すればこの子が反対することもないだろうし、宗一郎様も深く反対したりはしないだろう、きっと。
―――悪くない。
それに優勝した後で死者の蘇生と元の世界への帰還が賞金で可能とのことではなかったか。
元々生還以外に興味はなかったけれど……どうせ余るなら可愛い子を持って帰ってもいいだろう。
いい考えに思わず耳もピコピコ動く。

もっとも別に可愛い子はこの子だけじゃないかもしれないから別にこだわる必要はないし、
殺すことは殺すのだから特別扱いをするってわけではないのだけれど。
優勝、帰還が最優先。余裕があればその先で、の話なのだ。
そこまで考えてからそっと少女のほうを見る。
薬の影響も少し小康状態にあるのか、静かに眠っていた。


「―――やっぱりカチューシャしてないほうが可愛いわね。私、オデコ属性ないし」


キャスターは前髪をさらりと撫でながらそんなことを呟いた。


【C-5/神様に祈る場所/一日目/早朝】

【キャスター@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[服装]:魔女のローブ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2個(確認済み) 、バトルロワイアル観光ガイド 、さわ子のコスプレセット@けいおん!、下着とシャツと濡れた制服
[思考]
基本:優勝し、葛木宗一郎の元へ生還する
0:可愛い子……
1:奸計、策謀を尽くし、優勝を最優先に行動する
2:『神殿』を完成させ、拠点とする。
3:黒桐幹也が探索を終えたら『死者の眠る場所』へと探索に行かせる。
4:他の参加者と出会ったら余裕があれば洗脳。なければ殺す。
5:会場に掛けられた魔術を解き明かす
6:相性の悪い他サーヴァント(セイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカー)との直接戦闘は極力避ける。
7:優勝したら可愛い子をつれて帰ってもいいかもしれない……。
[備考]
※18話「決戦」より参戦。

【さわ子のコスプレセット@けいおん!】
桜が丘高校の音楽教師で吹奏楽部兼軽音楽部の顧問山中さわ子の所有するコスプレセット。
作中に登場した様々なコスプレ用の服が靴下や下着、香水やら髪留めまで込みで揃っている。
しかし何故かメイド服が一着欠けている。


 ☆ ☆ ☆ 


「キャスターさんはちゃんとあの子のこと見ててくれてるかな……」

そんなことを言いながらも探索を続ける実直そうな青年、黒桐幹也。
まさか見てはいるけれど可愛がってばかりで体には特に気を配っていないだなんて考えもしていない。
かしゃかしゃと音を響かせながら着いてくるのは一体の竜牙兵。
与えられている命令は『黒桐幹也を守れ』。
こちらから積極的に戦闘を仕掛けることはないが、敵に攻撃されれば反撃する。そう設定されていた。
そのため特に危険が迫っていない現在は大人しく後ろを着いてきているのだった。
外にはあまり変わったものは見つけられなかったため、今は地上部分の教会礼拝堂を調べている最中。
窓の外が明るくなってきていて夜から朝へと移り変わるのを感じる。
―――まあ、徹夜するのは結構慣れている。幹也はそんなことを考えながら祭壇の裏を覗き……

「―――ん?」

奇妙なものを発見する。

「―――これは、どうしたものかな」

そう呟いてみるが答えは出ている。キャスターに報告するしかないということを。
だってこれは自分が判断できるものじゃない、明らかに魔術的なものだ。


―――こんな、人の血のように赤い色で書かれた魔法陣なんて。



【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:疲労(小)、キャスターの洗脳下
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ブラッドチップ・2ヶ@空の境界
[思考]
以下の思考はキャスターの洗脳によるもの。
基本:キャスターに協力する。
1:キャスターに探索の結果を報告する。
2:少女(田井中律)を介抱する。
※参戦時期は第三章「痛覚残留」終了後です。
※竜牙兵が守護についています。
与えられた命令は『黒桐幹也を守れ』。こちらから攻撃はしません。
強さは本来ならば素人が敵う相手ではないですが、弱体化しているためどこまで強いかは不明です。
また、同時に出せる数やキャスターから離れることの出来る距離も制限されています。
※魔法陣や探索成果の詳細は後の書き手にお任せします。


 ☆ ☆ ☆ 


ふわふわ。

くらくら。

あたしの世界がゆれている。

耳から聞こえる言葉も、眼から見える光景も。

現実感がない。

かわいい。

そう聞こえた。

前髪を下ろしたほうがいい。

そんなことも聞こえた。

―――なんだか、うれしい。

あたしだって、女の子だし。

かわいい、かぁ。

澪なら、なんていうかなあ。

前髪を下ろした君の姿も見てみたい。

なんて、ね。

あはは。

うん。

それじゃ。

おやすみなさい。


【田井中律@けいおん!】
[状態]:情緒不安定、幻覚症状 、睡眠中
[服装]:ゴシックロリータ服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(懐中電灯以外)、九字兼定@空の境界、その他不明0~2個
[思考]
基本:澪に会いたい。
1:???
※二年生の文化祭演奏・アンコール途中から参戦。
※レイの名前は知りません。
※ブラッドチップ服用中。
※ゴシックロリータ服はけいおん!第6話「学園祭!」の際にライブで着ていた服です(ただしカチューシャは外してある)



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064:Murder Speculation Part1 キャスター 104:なんて絶望感
064:Murder Speculation Part1 黒桐幹也 123:夢!
064:Murder Speculation Part1 田井中律 104:なんて絶望感


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最終更新:2009年12月04日 20:02