なんて絶望感 ◆aCs8nMeMRg



あれ?
なんだかおかしな感じがして、あたしは目を覚ました。

気がつくと、あたしは立っていた。
両足を地面について、普通に立っていた。
目を覚ましたら自分の体が地面に対して縦の状態だったなんて、多分かなり珍しい体験だと思う。

これは夢?
どうだろう?
体の感覚は、ちょっと……いや、かなりだるい感じ。
頭は……こっちもなんだかぼんやりした感じだ。

やっぱり夢かな?
さっきは目が覚めたと思ったけど、実は夢を見ているだけなのかな?
でも、その割に周りの景色は妙に現実感がある。
どこかの教会の礼拝堂って感じ。
もし夢じゃないとしたら、なんであたしこんな所で突っ立っているんだろう?

考えてみよう。
まずはお約束、あたしは誰?
田井中律だ。

よし、自分のことは分かる。

それじゃあ、眠る前の事を思い出してみよう。
眠る前に、何があったんだっけ?

実は、さっきから思い出そうとしているんだけど、これがなかなか思い出せない。

でもまあ、さっきは他の事も考えながらだったし。
よし、ちょっと集中して思い出してみよう。

…………ぐらぐら?
………ふらふら?
……くるくる?
…ふわふわ?
くらくら?

うーん、なんか眠る前のあたしの記憶ってそんな感覚の事ばかりだった気がする。

じゃあ、その前は?
その前って、何があったんだっけ?

確か……先生だ。
どこかで教師をやってるって言う人に出会って……、それでどうしたんだっけ?
あ、懐中電灯。
暗かったから、懐中電灯を点けたんだ。
それで……。

そこまで思い出して、あたしは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
嫌だ!
もういい!
思い出したくない!
そう思ったけど、そこまで思い出してしまったあたしの脳みそは、その先も芋づる式に思い出していった。

それで……その先生の顔に……三つ目の目が出来て?
それから…それから、別の男の人が来て。
そうだ、あたしはその男の人に無理矢理麻薬を飲まされたんだ。
それでおかしな気分になって……。


寒気がして、あたしは今までだらりと下がっていた腕で自分の体を抱いた。

「あら、お目覚めかしら?」
「ひっ!?」

そんなあたしに、後ろから声がかかった。
驚いて振り向くと、そこには濃い紫色の服を着た女の人が立ってた。

あたし、この人知ってる。
確か、麻薬を飲まされたあとに出会ったんだ。
もしかして、麻薬を飲まされておかしくなっちゃってたあたしを介抱してくれたのかな?

そういえば、今はあのくらくらする感じが引いてる。
薬の効き目が切れたのかな?

それで、この女の人だけど確か他にもう一人、男の人と一緒に居てその男の人に呼ばれてた名前は……。

「えっと、キャスター、さん?」
「覚えていてくれたのね。嬉しいわ」

その女の人──キャスターさんは唇の両端を持ち上げて答えた。
フードみたいなのを被っているからハッキリと表情は見えないけど、声も嬉しそうだったし笑ってるんだと思う。

「ごめんなさいね、寝ているあなたも可愛かったけど、もっといろいろな角度から見てみたくなって」
「えっと、あの……」

え?
ってことはあたしが立った状態で目を覚ましたのは、この人が寝ていたあたしを立たせて観察していたから?
方法は分からないけど、今のキャスターさんの言葉を信じると、そういうことになるのかな?

「キャスター、さん?」
「ん、なに?」

それで思い出した。
眠る前にあたしが考えていた事。
『注文の多い料理店』。
色々きれいにされたあとで、猫に食べられる話、だったと思う。
あたし、この人に食べられちゃうんだって思ったんだ。

「あの……あたし……食べられちゃうん、ですか?」
「あら、うふふ」

こんな事を面と向かって訊いてしまうなんて、やっぱりあたし、まだ頭がぼんやりしてたみたいだ。
少し後悔したけど、一度口にしてしまった言葉を元に戻すことは出来ないし、仕方ない。
それを聞いたキャスターさんは、笑いながらあたしの方へ近寄って来た。

食べられる!?
逃げなきゃと思ったけど、足がすくんで動かなくて、結局あたしは身を固くするくらいしか出来なかった。
そんなあたしの横を、キャスターさんはすーっと通り過ぎていった。

…………助かった?
やっぱり人が人を食べるなんて、そんなことある訳ないか。
そんな風に考えて、あたしは少し緊張を解いたんだけど、
その時を狙っていたように、キャスターさんが後ろからガバッと抱き付いてきた。

「…………ッ!?」

あたしはあまりの驚きに悲鳴すら上げられなかった。

人間、本当に驚くと、声出なくなるんだな。
と、一瞬遅れてあたしの中のどこか冷静な部分が他人事のように考えてた。

「もしかして、食べてほしいのかしら?」
「いえ、そういうわけじゃ……」

キャスターさんは、あたしの耳元でそう囁いた。
それと一緒に、自分で自分の身を抱いていたあたしの両腕を、後ろからほどいていった。
まだ体がだるくてロクに抵抗できないあたしは、せめて耳元で囁くキャスターさんの言葉を否定しようと口を開いたんだけど……。

──さわさわ

「あぅぅ」

不意に身体を襲った変な感覚に、思わず何の意味もなさない声を上げてしまった。

──さわさわ

分かった。
キャスターさんがあたしの胸を触ってるんだ。
不意打ちでビックリしたあたしは、しばらくそのままキャスターさんに胸を触られ続けてた。

そうしている内に、キャスターさんの手はあたしの体の下の方へと移動してきた。
お腹の上を通って、おヘソ、そしてその下の部分へと……。

「……ひゃ…うぅ」

情けない声が出た。
仲のいい女の子同士ならじゃれ合って胸に触れるくらいはあるけど、あの部分は他の人に触られることなんてまず無い。

あたしは今度こそ抵抗しようと思って、背中のキャスターさんに振り返ろうとしたんだけど、
その瞬間に、キャスターさんの指があたしの太ももをツーっとなぞったせいで、あたしは脚から力が抜けて膝がカクッと折れた。
それで、気付けばあたしがキャスターさんに寄り掛かる体勢になっていた。

もうあたしは、ただでさえ、すごくだるかった体を自力で支えることが出来なくなってしまって、
そのままキャスターさんに、後ろから支えてもらうしか無かった。

「んっ」

キャスターさんは、そんなあたしの襟元に手を伸ばしてくると、
あたしの着ている服の襟をはだけてさせながら、ようやくさっきのあたしの質問に答えた。

「そうね、少し魔力を使っちゃったから、今のうちに補充しておくのも悪くないわね」

魔力?
補充?
もしかして、キャスターさんは魔女とか吸血鬼とかそういう仲間なのかな?
だとしたら、さっきあたしが目を覚ました時に立っていたのは、魔術とか妖術とかそういうので身体を操られていたせい?

なんて考えてる間にキャスターさんは、はだけた服の襟をゆっくりと引っ張って、
露出したあたしの首と右肩の間あたりに、口を近づけてきた。
首筋にキャスターさんの息が当たって少しくすぐったい。

「あ……ぁ……」

続いて同じ場所に、何か固いものが当たる感触を感じた。
キャスターさんの歯が当たってるんだ。


きっとこの後、その歯があたしの皮膚を食い破って、それで血をたくさん吸われて、あたしの人生終わってしまうんだ。
あぁ……短い人生だったな。

死にたくないとは思う。
けど、きっと抵抗しても無駄だろうなとも思う。

今の体じゃあ、大した抵抗も出来ないし、
たとえ体が元気でも、この人が本当に吸血鬼とかなら抵抗しても無駄だろうし。

それに、もしこの場から逃げだせたとしても、あたしに麻薬を飲ませたあの男の人。
次にあの人に会ったら、きっとあたしは殺される。
カギ爪の男以外、全員殺せと言われたけど、一人も殺せてないし。
それに、多分あたしに人殺すなんて無理だし。

なんかもう、絶望的だ。
結局、あたしは死ぬしか無いのか。
それならいっそ、ここでひと思いに…………。
澪、ゴメン。せめて最後にもう一度会いたかったけど、無理みたい。
…………
……
…?

観念してギュッと目を閉じたあたしだったけど、いつまで経っても首筋に痛みは来なかった。
さっきから、キャスターさんの息が首筋にかかって、少しくすぐったいだけ。

「ふわ……ぁ……?」

あ、今のはたぶんキャスターさんに首筋を舐められたんだと思う。
濡れた首筋が空気に触れてひんやりする。

「安心して、まだ食べないわ。こんなに可愛いのに勿体無いじゃない」

キャスターさんが、また耳元で囁いた。
耳にキャスターさんの息が当たる。
くすぐったい。

「あぁ……ぁ…」

しかも、キャスターさんは囁きながら、さっき舐めたあたしの首筋に指を這わせている。
多分、本人はなでてるつもりなんだと思うけど。

「でも、もっと魔力が必要になったら、その時は遠慮なく頂くわね。いいかしら?」
「あ……はぃ……」

肯定してしまった。
だって、せっかく今は食べないって言ってくれたのに、ここでキャスターさんの機嫌を損ねて、やっぱり今食べる!
なんて言われたら嫌だったから。

「フフッ、いい子ね」


その甲斐あってか、キャスターさんの声色はどこか満足気だ。
はだけてたあたしの服の襟を直して、その後頭までなでてきた。

「うぅ……」

何の解決にもなっていない気がするけど、とりあえず今は助かったみたい。
それが分かると、あたしは一気に緊張が解けてずるずると床に崩れ落ち、ペタンとお尻をついてしまった。

「あら、どうしたの?」

キャスターさんが少し心配そうに声をかけてきた。
いけない。
何とか立ち上がらなきゃと思うけど、脚がちっとも動いてくれない。
もしかして、腰が抜けちゃったのかな?

「あ……ごめんなさい。
 脚に……力が……んっ………入らなくて」

仕方なく、あたしは正直に自分の状態をキャスターさんに告げた。
ここで嘘をついても仕方ないだろうし。

「あら、それは大変ね。そこで横になったらどうかしら?」

キャスターさんはそう言ってあたしに手を差しのべながら、もう片方の手で礼拝堂に並んでいる長椅子の一つを指さした。

「あ……はい」

断る理由も無いし、あたしはキャスターさんの手を借りてどうにか長椅子までたどり着くと、そこに腰かけた。
あたしに手を貸してくれたキャスターさんも、その横に並んで座った。

「さぁ、いらっしゃい」
「……え?」

そう言って、あたしの横に座ったキャスターさんが自分の膝のあたりをポンポンと叩いて何か誘っている。
なんだろう?
一瞬、キャスターさんの意図が分からなくて、あたしはキョトンとしちゃったんだけど、
続けて放たれたキャスターさんの言葉で、キャスターさんの行動の意味はすぐに分かった。

「ひ・ざ・ま・く・ら」
「あ……はい、ありがとう、ございます」

どこかウキウキした様子でそう言うキャスターさんの好意(?)を断ることは、今のあたしには出来なかった。
だって今、あたしの命はキャスターさん次第なわけだし、素直に言うこと聞くしかない。

普段のあたしなら、ゴロンとラフに寝っ転がるところだけど、今はなるべくキャスターさんに気に入られるように、
出来る限りお行儀良く横になって、キャスターさんの太ももの上に頭を乗せた。
それで、お腹の上で手を組んで、目を閉じて……どうだろう?
ちょっとは可愛い感じになってるかな?

なんて、そんな事を考えていたのもつかの間。
こんな状況だというのに目を閉じると猛烈な睡魔が襲ってきて、あたしはあっという間に眠りに落ちていった。


【C-5/神様に祈る場所/一日目/早朝】


【田井中律@けいおん!】
[状態]:睡眠中 膝枕されてる
[服装]:ゴシックロリータ服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(懐中電灯以外)、九字兼定@空の境界、その他不明0~2個
[思考]
基本:澪に会いたい。
1:…………
※二年生の文化祭演奏・アンコール途中から参戦。
※レイの名前は知りません。
※ブラッドチップ服用後。
※ゴシックロリータ服はけいおん!第6話「学園祭!」の際にライブで着ていた服です(ただしカチューシャは外してある)

【キャスター@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力消費(小) 膝枕してる
[服装]:魔女のローブ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2個(確認済み) 、バトルロワイアル観光ガイド 、さわ子のコスプレセット@けいおん!、下着とシャツと濡れた制服
[思考]
基本:優勝し、葛木宗一郎の元へ生還する
0:可愛い子……
1:奸計、策謀を尽くし、優勝を最優先に行動する
2:『神殿』を完成させ、拠点とする。
3:黒桐幹也が探索を終えたら『死者の眠る場所』へと探索に行かせる。
4:他の参加者と出会ったら余裕があれば洗脳。なければ殺す。
5:会場に掛けられた魔術を解き明かす
6:相性の悪い他サーヴァント(セイバーアーチャー、ライダー、バーサーカー)との直接戦闘は極力避ける。
7:優勝したら可愛い子をつれて帰ってもいいかもしれない……。
[備考]
※18話「決戦」より参戦。


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091:こんなに近くで... キャスター 123:夢!
091:こんなに近くで... 田井中律 123:夢!


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最終更新:2009年12月04日 20:01