試練、あるいは黙示録 ◆cXURW6Fetk



かのタイタニック号を思わせる豪華客船、エスポワール号。
海原に浮かぶ希望の箱とでも言える、その人の欲望と技術が生み出した産物は、人々の羨望の的になり得るものとして、それ相応の設備と外観を有している。

だが、その実はまるで真逆。
過去にこの船は、甘美な希望という偶像で人々を寄せ付け、搭乗者を地獄に陥れる”ギャンブル船”として使われたのだから。
それが、殺し合いの舞台に浮かんでいるという事実。
これは”希望の船”と称された”絶望の船”なのである。

利根川幸雄は厳粛な動作でその船に設置されているソファへと腰かけた。
その絶妙な座りごごちと、慣れぬ環境での疲れが相まって眠気が襲うが、そこはぐっと堪える。

(いかん…いかん…!いくらここが安全な場所とは言え油断は禁物…ッ!)

利根川は自身にそう言い聞かせる。
そして、先ほど手に入れた有り余るほど情報を整理せんと、その頭脳を稼働させる。

(先ほどは、あまりにおかしい奴ばかりで混乱して考える時間がなかったが…、今なら考えられるッ!
あれほどの人がいた…、どいつもこいつもわけのわからぬことばかりぬかす輩がいたせいで判断力が鈍っていたが…。果たして、意図的に嘘を交えた輩は何名ほどおったのだろうな…?)

そう考えるのも、道理だ。
利根川が経験してきた帝愛グループのゲームの参加者は主に債務者…言うなれば「人間のクズ」ばかりだった。
利根川は長年その悪戯を開催してきた身、帝愛が主催してきたゲームに参加する人間のタイプに関してはおおよそ目利きがある。
だがそんな利根川でさえ、このゲームに参加している人間のタイプや意図がまるで掴めないどころか、参加者の過半数がどこかのアニメにありそうなとんでもない世界から来た人物だと言うのだ。


(まずはあのグラハムという男…!わしを出し抜き、帝愛の関係者であるか否かの真偽を見抜いた技量は認めよう。だが、奴は未来から来た軍人だとぬかしおった…!
それも巨大ロボが戦争をする世界だと…?冗談もほどほどにせいッ!
それに同行していた天江衣……!いけすかないガキだ!グラハムをやたらかつぎおる上に、わしがギャンブルの手腕を見せるや、こちらの肩を持つようなことばかり言いおるッ!
わしが使えると思った途端に手のひらを返しおった、まったく腹黒いガキだっ!
次は白井黒子…!中坊であのババアのような話し方といい、超能力の話だと言い、いかにも胡散臭いわ!奴も腹に何か隠し持っておろう。
秋山澪…、あの異様なまでの怖がり…。奴はすぐにもこのゲームから落ちるであろうな。まあ、奴の住んでいた場所の話は一番まともだっとと言えるがな…。
だが、それも逆に怪しい。もしかしたら、あの性格も演技かもしれんな。油断はできない。
衛宮士朗、やけに女の子に優しい少年。それも、このバトル・ロワイアルに似た戦争に参加していただと。それにサーヴァントだ?そんな話誰が信じようか?
八九寺真宵…、やけに口達者なマセガキ…!奴もカマトト被って腹に何か隠しもっておるに違いない!
それに、明智光秀。白髪の男が戦国武将だと…?肩腹痛いわ…!)

さて、ここまで考えたところで整理してみよう。
先の会議の参加した人物で、別の世界から来たと言った人物は4人。
それも、ロボットで戦争する未来、超能力者の存在する世界、聖杯戦争とやらのある世界、そして戦国時代。
どれも利根川の常識からでは信じられない。
他の参加者もこれまで帝愛が開いてきたギャンブルの参加者とはまるで違った面々だ。

(これではまるで虚言症を患った輩ばかりが集められたようではないか……、はっ!)

利根川そう思った瞬間、先に会った参加を共通させる合理的な仮説を思い浮かべた。
それをカイジに話して、意見を募ってみるのも良かろうと思った。

(ふふふ…、さてカイジはこの状況をどう考えているのだろうかな…?)



○○○



「人払いは済ませたな」
「ああ」

カイジと話すべく、甲板に上がった利根川は真宵と衣にレシーバーを持たせ、船で休むように言って彼女らを払いのけた。

「さて、カイジ!貴様はどう思っておる?」
「何がだ…?」
「先ほどの会話の内容だよ…。このゲームは今までのギャンブルとはまるで違う…!貴様はそれについてどう考えておるか、聞かせろと言ったのだ!」

カイジは間を置き答える。

「ああ、正直信じられない話だったな。超能力、魔法、戦国武将、ガンダム……。
だけど、あいつらが嘘をついてる風にも見えなかったし、あんなことを嘘で言う理由も思いつかない。半信半疑だが、今は信じるしかないだろう」
「ほほう…。なるほど。だが、カイジ!それは単に貴様の思考停止であろう!もっと考えろ!信じることがいかに愚行かも知っておろう!
幾度も地獄のゲームから這い上がってきた貴様なら考えられるはずであろう?」

ざわ…ざわ…
カイジはそんな音が響いたように感じた。

(た…確かに利根川の……言うとおりだ。あまりに異常な事態にオレは考えることをやめていた。
「信じる」なんてのは単なる思考停止っ!何か意味が…意図が…隠された真実が・・・・・・きっとあるはずだ…!)

「あの突拍子もない発言ばかりが飛び交う場だ。普段なら嘘だと判断する言葉すらわからなかっただろうな?さて、あの中に化けの皮を被った人間はどれぐらいいたのだろうな…?」
「それは…たしかに…盲点だ。あの中でなら、嘘も滲んでわかりにくい…」
「ほう…ようやく気づいたか!そもそもおかしいはずだ!14人も死者が出たこの殺しあいで、9人の参加者が集まり、そのすべてがゲームに乗っていないなんてな!
とりあえず、奴らの虚言じみた発言を取り除いて考えてみろ?信用ならん輩がいたと思わんか?」

カイジは思考する。

(あまりに情報量が多すぎて、あの人たちの性格が掴めたわけではないが…。あの中でゲームに乗っている可能性のある者…)

カイジはエスポワールに集まった者たちの経緯を思い返す。

(ハッ!そういえば捜索に回った奴で不審な人間がいる!それは秋山澪と明智光秀!秋山澪という少女がいきなりヒステリックを起こしたかと思うと、明智光秀を連れてきた!その後も二人で同行…!もしかしたら手を組んでいる可能性もある…)

「秋山澪と明智光秀…。あの女がいきなり船を抜け出して、あの明智光秀を連れてきた。しかもその後は、一緒に同行した。怪しいな…」
「ああ、確かに。あの秋山という少女の過剰なまでの怖がり…。わしには演技にしか見えんかった。しかも、彼女がいた世界はいたって普通だという…。それも、あの場では逆に怪しかった…」

(ハッ!待てよ)

「あの二人が組んでいたとして、わざわざ別々にこの船に来たということは…!秋山が一度偵察に来て……それで…船の人数を確認したんだ!
それがあまりに多かったから、一度減らして、その後に襲撃しやすくしようとしたんじゃないのか!」
「ああ、そうとも考えられるな。だが、重要なのはそこじゃない。仮にあの二人が組んでいたとして、この船にはそうそう襲ってこんだろう。
人が集まりやすい上、戦闘行為が禁止とされておるからな。襲うとしたら、むしろジープで別れたもう1組の方じゃろう!わしらの目のつかぬようにこっそりと!巡回して!」
「クソっ!そうだとしたらどうするんだ?」
「どうもせんよ」

利根川はあっさりそう言い放った。

「ジープで別れた者にも、怪しいものはおる。例えば、わしと会うまで二人で行動していたグラハムと天江…」
「なぜそう言える?」
「グラハムなる軍人は、なかなか頭の冴えた男だった。天江はわしを貶めようとしていたが、先のギャンブルの際に、わしが帝愛関係者と確信するなり態度が変わりおった。何か腹に隠し持っておると思わんかね?」

二人の熱い議論は続く。

「それはちょっと、無理があるんじゃないか?単にお前が信用してもらえなかったからじゃ?」
「ああ、それは否定せん。だが、あの二人はなかなかに親密であった。そして、あの天江というガキのギャンブルに対する目利きもなかなかのものだ!だから監視として、この船にあのガキを置いた可能性も考えられる!」

たしかに…と、カイジは思う。短絡的とは思うが、あの中にゲームに乗った者がいた可能性はおおいに考えられる。
とくに明智光秀と秋山澪は怪しい…。



○○○



「さて、カイジ!本題に入ろうか!奴らの妄言どう思った?過去や未来から来た者、魔法に超能力…!貴様はどう考える?」
「ああ、八九寺は自分が幽霊だとずっと言い続けていたが、あれはきっと思いこみだ。戦国武将も同姓同名の人間だと思っていたが、どうやら俺達が知っている歴史の人物だと言っていた」
「そう……!奴らは”思い込んでいる”のだよ」
「利根川!帝愛にいたお前なら知っているんじゃないか?あの人の命をもてあそぶ奴らだ。洗脳の機械でも開発しているんじゃないのか?」
「洗脳……。なるほど、そう考えたか!だが、残念ながらわしの知る限りでは知らんな。洗脳なぞ。聞いたことはない!」

議論はまだまだ続く。二人はその知恵を絞り、この不可解なゲームの真意を読み取らんと…。

「じゃあ、どう説明するんだ?」
「カイジ?今まで貴様がくぐり抜けてきたギャンブルを思い出すんだ!あれに参加した人間の共通項とはなんだったかな?」

カイジは思い返す。あのギャンブルに参加した者の共通項…それは、債務者を中心とした、お金に執着する人間である。

「命よりも金を重たく感じる…!そういう人間だった!」
「ふ、負け犬や社会の屑とも言えるがな!つまりだ。今回のこのゲームにも何かしらの共通項があるとは思えんかね?それも帝愛の連中が好みそうな人種…」

カイジは考える。
確かに利根川の言う通り、今回の参加者にはまるで共通項が見当たらない。
日本人、外国人、男、女、大人、子供…
先の会議に参加した面々でも、これだけの違いがあり、まるで共通項が見当たらない。

(何かあるはずだ…!ここにいる参加者の共通項…!)

カイジは必死に考えてみるも、まるで納得のいく考えが浮かばない。

「ふふ…!必死に考えてるようだが、時間がもったいないので、言わせてもらおう!ここに集められたのは………!精神異常者たちだよっ!」

ざわ…ざわ…
カイジは空気が揺れるのを感じる。

「精神…異常者……だと…?」
「ああ!それだと、先の妄言も説明がつくだろう?奴らはあれを現実だと思い込んでいる!そして精神異常者はその偏った能力ゆえ、知能が高い人間がいることもあると言われる!
貴様も不思議に思わんかったかね?子供のなりをしながら異様に頭のキレる者のことを?」
「なるほど…。それだと説明もつきそうだ…」
「それに帝愛の連中なら好みそうな趣味だろう?精神異常者の中に我々のような経験者を混ぜて殺し合わせる!」

カイジは利根川の言葉を多少疑いながらも、一理あると思い頷く。



「心外です!私は至って健全で正常な幽霊ですっ!」

二人の会話を甲板への入り口の扉に隠れこっそり聞いていた真宵が、利根川めがけて走りだす。
真宵は利根川の手に噛みつき、精神異常者呼ばわりされた怒りをあらわにする。

「何をする!このクソガキがぁあっ!」

利根川は手に噛みついた少女を力任せに振り回す。
だが、それが裏目に出た。
真宵の頭がデッキを覆う金属性の柵にあたり、彼女は意識を失いそのまま海へと飲み込まれていった。

その瞬間を目の当たりにしたカイジは反射的にバックから銃を取り出した。
ただでさえ敵同士、しかも自分やギャンブルで知り合った仲間たちを苦しめ、信用していなかった男が眼の前で、数時間とはいえ同行していた無垢な少女に手をかけたのだ。
もとより根がお人よしの彼に、冷静に思考する余裕などあろうものか。
今は自身の命を守る無意識の防衛反応と仲間を殺された怒りでいっぱいいっぱいなのだ。

「なあに、彼女は幽霊なのであろう?死にはしないさ!」

利根川には確信があった。
カイジのような負け犬風情が引き金を引くことなどあろうものかと。

だが――――
カイジは己の衝動に任せてその銃の引き金を引いた。

幕はあっけなく引いた。
甲板にて銃声が響き渡り、利根川は倒れる。
カイジが放った銃弾が偶然にも利根川の心臓を貫いていたのだ。

人を殺した―――その事実がカイジの全身を震わせる。

(オレは悪くない!あいつは死んで当り前の人間だった…)

そう自分を肯定するも、湧き出る罪悪感は止まらない。

「クソっ!こんなつもりじゃ…こんなつもりじゃなかったのにっ!」

カイジの頬をつたう涙。
利根川は言った。金は人の命より重いと。
だが、皮肉にもそれを言った者の命を奪って感じた。
――人の命は何よりも重いと。

そして、彼の想念にある考えがよぎる。
まだ救える命があるではないか、と。
まだ八九寺は生きているかもしれない、と。


(だからと言って…、助けられるとも限らない……。人殺しの罪も拭えない…!どうしたらいいんだ!オレは…オレはっ!)

カイジの頭に鉄骨渡りで死んでいった人間たちの姿がよぎる。
あの時だって、死に行く仲間を茫然と眺めるだけで何もできなかった。

(…あの時のようにまた眺めるだけだっていうのかよっ!)

カイジは淵なる柵を掴み、海を眺める。
そこに八九寺真宵の姿はない。
カイジの淡い期待は絶望の海へと無情に呑まれていった。

(ダメだ…、今オレが助けに行ったところで…無駄だ…。溺れた八九寺を助けるなんて…)

カイジはうなだれ、己の無力さを噛みしめる。
口腔には涙のしょっぱい味が広がっていた。


【利根川幸雄@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor 死亡】



【B-6/ギャンブル船の甲板/一日目/午前】



【伊藤開司@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康、茫然自失
[服装]:私服(Eカード挑戦時のもの)
[装備]:シグザウアーP226(15/15+1/予備弾倉×3)@現実、レイのレシーバー@ガン×ソード
[道具]:基本支給品、Draganflyer X6(残りバッテリー・20分ほど)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実
[思考]
基本:人を殺した……、人の命は何よりも……重い……
1:オレはっ……
2:エスポワールに近づく参加者を見張る
3:魔法、超能力を認めようと努力するが難しく、ちょっと困ってる
4:『5分の退室可能時間』、『主催の観覧方法』が気になる。
[備考]
※Eカード開始直前、賭けの対象として耳を選択した段階からの参加。
※以下の考察を立てていますが、半信半疑です
 ・帝愛はエスポワールや鉄骨渡りの主催と同じ。つまり『会長』(兵藤)も主催側。
 ・利根川はサクラ。強力な武器を優遇され、他の参加者を追い詰めている。かつギャンブル相手。
 ・『魔法』は参加者達を屈服させる為の嘘っぱち。インデックスはただの洗脳されたガキ。
 ・戦国武将はただの同姓同名の現代人。ただし本人は武将だと思い込んでいる。
 ・八九寺真宵は自分を幽霊だと思い込んでいる普通人。
※エスポワール会議に参加しました
※利根川との議論で以下の考察を立てました。
 ・澪と光秀は手を組んでいて、ゲームに乗っているかもしれない。
 ・グラハムと衣は手を組んでいて、ゲームに乗っているかもしれない(ただしカイジはあまり信じていない)。
 ・参加者は精神異常者ではないか。
※甲板には利根川の死体とデイパックが放置されています。




○○○



真宵とともに船のスイートルームに居た衣は、もともと長時間起きていられない体質と異常事態での疲れが相まって寝ていた。
だが、慣れない環境での眠りはそう深くはなく。数十分程度で醒めてしまった。
その部屋に真宵がいないことに気づいた衣は不安になって甲板へと向かった。
その途中聞こえた銃声にさらに不安になりながらも、なんとか甲板へと出る扉へとたどり着く。
だが、そこで見た景色は信じられないものだった。
利根川が血を流し倒れていたのだ。
殺したのはこちらに背を向けているカイジだと、衣にも理解できた。
彼女は恐怖で漏れそうになる声を殺し、こっそりその場を離れた。


【B-6/ギャンブル船/一日目/午前】

【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康
[服装]:いつもの私服、ぬいぐるみを抱いている
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2
[道具]:
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る
0:利根川を殺したカイジから離れる
1:エスポワール会議組と一緒に行動する(※ただしカイジをのぞく)
2:ひとまず一万ペリカを手に入れて、ギャンブル船で『麻雀牌セット』を手に入れる
3:そしてギャンブルではない麻雀をして友達をつくる
4:グラハムが帰ってきたら麻雀を教える
5:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる
【備考】
※参戦時期は19話「友達」終了後です
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました

※スイートルームにレイのレシーバー@ガン×ソードが置かれています。



○○○








ずっと、ずっと、さがしていた、かえりたかった家。

あのひとが、いっしょにさがしてくれた、かえりたかった家。

やっと、たどりついた家。

そう、なにもかなしいことなんてない。



――――あるべきところにかえるだけなんだから。




【八九寺真宵@化物語 死亡】

※B6エリアの海に真宵のデイパックが落ちました。


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130:試練Next Turn 伊藤開司 147:麻雀黙示録カイジ 衣編
130:試練Next Turn 利根川幸雄 GAME OVER
130:試練Next Turn 天江衣 147:麻雀黙示録カイジ 衣編
130:試練Next Turn 八九寺真宵 GAME OVER

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最終更新:2009年12月16日 10:57