Beyond The Grave  ◆L5dAG.5wZE




          ◆



何かが身体を駆け抜けていく感覚。
トレーズは純白に染まった世界で覚醒する。

「む……う、うう……?」

意識が朦朧とする中、目を開いたトレーズの前にいたのはあの巨人だ。

(そうだ、私は……ッ!?)

気を失っていたのか、と腰の刀へ手を伸ばす。
だが、空を切る。
見下ろせば刀などどこにもない。それどころか、トレーズは一糸纏わぬ姿でそこにいた。
そして――

「なんだ……ここはどこだ!?」

そこは、倉庫群などではなかった。
一言で言うなら白い宇宙――そう、宇宙としか表現できないところ。
煌めく粒子がそこかしこに舞い視覚を狂わせる。
何が起こったのか把握できずにいたトレーズの前に、さらにもう一つの異形が飛び込んでくる。
いや、異形ではない。


下半身に牙の名を冠す鋼鉄の馬。
背に天へ舞い上がる翼。
右腕に全てを斬り砕く鉤爪。
正義成す一念のみを吠え猛るその眼光。
どれほど傷つこうとも矜持失うことなき戦国最強の武人、本多忠勝。

そしてその鎧武者に唯一残されたオリジナルの部分、左腕。
そこに座して全てを統括するはあのガンダムパイロット――トレーズを下した勝利者、刹那・F・セイエイ。

両者は巨人へと挑みかかっていく。
遠く離れた地で起こった出来事を目の当たりにしていると、トレーズは直感した。直感できた。

GN粒子が繋ぐ人の心。
唯一無二たるイノベイターの純粋種、刹那・F・セイエイが解き放った加速粒子はオーロラのように拡がっていく。
彼が、彼らが見た、想った――その全てを、後に続く者達へと託すために。
鮮烈なまでの意志がトレーズの身体を貫く。


武力による戦争の根絶。
戦国乱世を収めんとする三河徳川の旗印。
少女が掲げる完全平和主義。

万象を砕く破壊の巨人。
暗き闇纏う征天魔王
虚ろな目をした銃使い。
騎士を名乗る少女。
そして、トレーズ自身の姿。

破壊による再生――再生の破壊。
彼らがこの闘争の庭で貫いた彼ら自身の軌跡が、早送りのようにトレーズの脳裏へと叩き込まれる。

鎧武者に身を預けていた刹那が振り返り、トレーズを見た。
彼は薄く笑み、小さく唇を動かす。


――トレーズ。お前も、変われ。ここで終わる、俺の代わりに――


そう、感じた。
耳から聞こえる言葉ではなく、魂にささやく想いとして。


――お前なら、より良い未来へと人を導けるはずだ。撃つことの痛みを、戦いの悲しみを知っているお前なら――


私にそんなことはできない、そう言おうとした。
だが言葉が出ない。喉が震えない。言葉が出せない。
もどかしくも意志を伝えようとする。そんなトレーズに構わず刹那は、


――俺達が……ソレスタルビーイングが、ガンダムが必要とされない世界を再生しろ。それが、勝者たる俺がお前に下す、たった一つの願い……祈りだ――


そう言い残して、前を向く。
巨人へと一直線に飛び込む二人。受け止められ、しかしじりじりと後退させていく。


――待て――


言葉ではなく、意志が迸った。
通じたのかどうか。振り返らない刹那が血まみれの腕を伸ばす。
指先がゆっくりと折り曲げられる。
親指と人差し指を伸ばした、銃の形。撃ち抜いたのは――世界か、トレーズか。
やがて、人差し指も折り畳まれて、残ったのは天に突き上げられた親指のみ。


――世界を……変えろ。頼んだ、ぞ――


刹那が、忠勝が。
紅く尾を引く流星となって、巨人もろとも宇宙の彼方へと駆け抜けていく。

そして、一際強烈な光。
太陽のごとき、この世全ての悪を浄化せしめる審判の光が満ちていく。
あまりの光量に、トレーズは反射的に目を閉じた。




そして――次に目を開いたとき、そこは無惨に破壊し尽くされた倉庫群の一角だった。
身を起こす。手にはちゃんと刀があり、衣服も身に付けている。

「なんだ……なんだというのだ、あれは」

トレーラーの影からふらふらと歩み出る。

「……これは……ッ」

トレーズが絶句したのは、様変わりした工業地帯の全容についてだ。
巨人と鎧武者の戦いにより破壊された――そんなレベルではない。
一面が瓦礫の山。遥か遠く、おそらくF-2の孤島すら肉眼で確認できる。
それほどに何もない。一切合切が理不尽なまでに破壊されている。
たとえ彼らといえどここまでの破壊は不可能ではないかと思われた。
これを成そうと思えば、モビルスーツ数十機による徹底的な攻撃が必要だろう。

「一体、何があったというのだ……」

言葉には出したものの。
知っている――トレーズは既に、その答えを得ている。
確信として胸にある。
これをやったのは刹那と忠勝――“ガンダム”を名乗る者達であろうと。
先ほどの白昼夢。否、もはや夢などではない。あれは現実に起こったことだ。
最後の光景で刹那らは巨人を抱え光の中へと溶け消えた。直後、極光が全てを塗り潰した。
どうしたかも、予想がつく。

「……太陽光、発電所。あれの動力炉を暴走させ、自爆したというのか」

一通り検分した限りではOZのモビルスーツ、あるいはガンダムすらも凌駕するほどの破格の高出力を示す謎の動力炉があそこにはあった。
GNドライヴ。確か、そういう名の。
ファングの動力でもあったGN粒子の無限精製炉。内蔵するエネルギーはファングの比ではない。
そこにあの勢いで高エネルギー体が二つ、同時に突っ込んだのだ。さぞ凄まじい爆発が起こったのだろう。
トレーズが無事だったのは単にトレーラーの影に倒れていたからだ。
もう少し場所がずれていたら、今頃は地震に巻き込まれ倒壊した建造物の下敷きになっていただろう。
だがそんなことはどうでもいい。
トレーズの心を支配するのはたった一つの感情。
それは――哀しみ。

「……馬鹿な。君が……敗者となるべき私が生き長らえ、勝者である君が逝ったというのか、刹那・F・セイエイ……!」

膝を、折る。
自身の生存などどうでもいい。
死すべきは彼ではなく、己だったはずなのだ。
なのに。
新たな未来を切り拓くガンダムのパイロットが、失われてしまった。

あの狂戦士。
生きたいと望む参加者全ての脅威を排除するため。彼ら彼女らに襲い来る苦難を、僅かなりとも打ち払わんがために、彼らは往ったのだ。
おそらくは、その中にトレーズも含まれている。
生かされた――敗者として死すべきこの身が、勝者の命を糧に救われた。

「私に変われと……変革を求めるのか、刹那……」

彼にかけられた言葉。
武力に拠らない世界をと願う、心からの願い。
ピースクラフトの名を継いだ少女から託された平和への祈り。

だがそれは敗北を望むトレーズには重すぎる、呪う約束。

「私、は……」

願いの矢は放たれた。
狙い撃たれ貫かれた、トレーズという人間の芯。
しかし、トレーズがそれを受け止めるかどうかは、まだ確定していない未来の話。
溢れ出る血を止めもせず、拡散していくGN粒子に包まれて。

死者が旅立ったことを告げる宣告の時は近い。
男は一人、思考の海へと埋没していく……。





【E-4南部/一日目/昼】
トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:疲労(大)、左腕に銃創(貫通)、左大腿部に裂傷、右手首に軽い裂傷、背中を強く打撲
[服装]:軍服
[装備]:片倉小十郎の日本刀 マント
[道具]:基本支給品一式×2、薔薇の入浴剤@現実 一億ペリカの引換券@オリジナル×2、純白のパンツ@現実、千石撫子の支給品0~2(確認済み)
    千石撫子の首輪、 ゼロの仮面
[思考]
基本:変革……
1:…………
[備考]
※参戦時期はサンクキングダム崩壊以降です。



          ◆



ごぼり、と。水面に気泡が浮かぶ。
一瞬ごとにその数は増えていき、やがて泡は影となって外界へとにじみ出る。
砕けた堤防の外壁へ、現れたモノが喰らいつく。

それは、腕だ。
人のものとは思えぬほどに太く、硬い。鉄条を束ねて成したかのような、ひどく無骨で禍々しい、腕。
それがもう一つ増え、大地を掴む。二本の腕が、その本体を引き上げた。

屹立したのはバーサーカーのサーヴァント。
腕、脚、胴、頭。何一つとして欠けるところのない、完全なる姿。

水面から脱し、バーサーカーは振り返る。
そこにはもはや何もない。誰も――いない。
巨大な太陽光発電所は跡形もなく、どころかエリアそのものが消失していた。
爆発の余波は余程凄まじかったようで、現在バーサーカーがいるF-2エリアのみならず見渡す限りの工業地帯ほぼ全土に影響を与えたようだ。
倉庫群は薙ぎ倒され、視界が広く開けている。
地盤にもダメージが大きかったらしく、バーサーカーの見ている先で次々に路面がその身を崩していく。

三度刃を交え、幾度となくこの身を斬り裂いた戦国最強も。
牙を操り人の身でバーサーカーを屠り去った革新者も。
変革の刃、ガンダムエクシアの心臓部たる太陽炉も。

一切合切が、もはやこの地にいかなる残滓も残してはいない。
勝利――そう、バーサーカーは勝利したのだ。
戦国最強とガンダムマイスターの命を賭した一撃は、バーサーカーという歪みを消し去ること敵わず。

破壊による再生は成し遂げられなかった。

だが。
決して、その死は無為ではない。無為であるはずがない――そう、他でもないバーサーカーが誰よりも知悉している。
この身を包む不死の衣、ゴッド・ハンド。
彼ら――彼ら自身の言葉を借りるなら“ガンダム”の一撃は、その防壁を全て駆逐していった。
もはやこれが最後の命。後退はなくなったという訳だ。

バーサーカーを討ち取るには至らなかった。
だが確かに、この身に破壊者達の刃は届いたのだ。

首級は二つ上げた。その内の一つは最強の敵手と認めた武人。戦果は文句のつけようがない。
しかし代償として、全ての装備と堅固なる護りを喪失してしまった。
切り札――神造兵装、星が鍛えたというセイバーの宝具、“約束された勝利の剣”も、また。

あの瞬間。
エクシアのGNドライヴが死に逝く刹那・F・セイエイの意志を受け自ら暴走を開始し、放出されたGN粒子が爆発する寸前。
一手速く、バーサーカーは力の緩んだ刹那の腕を握り潰し聖剣を奪い取り、青年の心臓へと突き刺した。
鋭刃は刹那の身に留まらず後背の本多忠勝の中枢をも撃ち貫いたはずだ。
その瞬間に圧縮されたGN粒子が爆発した。一瞬にして目前の敵が消滅し、バーサーカーもまた同じ末路を辿るはずだった。

だが、そこでバーサーカーは諦めはしなかった。
ありったけの魔力を注ぎ込まれ聖剣から放たれた闇は、加速粒子とせめぎ合い、相殺し合った。
が、英霊ヘラクレスの魔力を以てしても二人の破壊者の命の輝きを凌駕するには至らず。
魔力の大河を突き抜け我が身を灼く痛み。あの痛みこそ一瞬とはいえ神代の英霊と宝具を今に在る“ガンダム”が凌駕したという証。
バーサーカーの掌中に残ったのは聖剣の名残り、装飾の施された柄のみ。
そして今、柄は砂となって消えた。

「究極の幻想」は、変革する人の想いによって、砕かれたのだ。

生きることが戦いというのなら、確かに勝利者はバーサーカーであろう。
だが武人として威を尽くすことを闘いというなら、これは紛れもなくバーサーカーに取っての敗北――“ガンダム”達の勝利だ。


無手となったバーサーカーは歩き出す。
戦斧に、聖剣に、戦槌に代わる獲物を探さねばならない。
これ以上の敗北は許されない。
さらなる力を、強大無比なる破壊の刃を求め、その眼光は輝きを鈍らせず。

まともに歩けもしない瓦礫の山を跳躍を繰り返し進む。
船着場があった辺りまで来ると、幾艘もの船が座礁しているのが見えた。
興味もなくそれらを眺めていたバーサーカーだったが、きらりと陽光を反射するものに気付く。
近寄り、岩塊に手を突っ込み引っ張り出す。
それは一言で言えば碇だった。停泊した船を港に留めておくための、碇。
しかしその側面は鋭い刃となっている。重量もかなりのもの、あの斧ほどではないとはいえ充分にバーサーカーの剛力に耐えうる逸品。
新たに手に入れた獲物に満足し、意気揚々と走り出すバーサーカー。
そういえばあの斧を落としたままだった。この惨状では発見できるか怪しいが、余裕があるなら回収しておきたいところだ。

もう破壊者達に思い煩うことはない。
バーサーカーが往くはマスターへと続くただ一つの道。
修羅の世界、渦巻く闘争の爆心地を真っ直ぐに突っ切るのみ。





【本多忠勝@戦国BASARA  死亡】
【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00  死亡】




【F-2東部/一日目/昼】
【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(大)、狂化
[服装]:全裸
[装備]:長曾我部元親の碇槍
[道具]:なし
[思考]
基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。
1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、イリヤの元へと戻る。
2:キャスターを捜索し、陣地を整えられる前に撃滅する。
3:余裕があれば武田信玄の軍配斧を取りに行きたい。
[備考]
※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3は使い切りました。以降は蘇生不可能です。
 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。
  現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works
       おもちゃの兵隊、ドラグノフ、大質量の物体、一定以下の威力の刃物、GN粒子を用いた攻撃、輻射波動、ゲフィオンディスターバー


【長曾我部元親の碇槍@戦国BASARA】
長曾我部軍の総大将・通称アニキ、長曾我部元親の振るう文字通りの碇槍。
元親の身長以上の全長を誇り、碇そのものとしても充分使えそうなほど大きい。
特に変わった能力はない……はずだが、元親はこの碇に乗ってサーフィンするがごとく海面を走っていたりする。



※スローネツヴァイのファング、エクシアの太陽炉、エクスカリバー、他忠勝・バーサーカーの装備は全て消滅。
※武田信玄の軍配斧はE-4に放置されています。
※G-2エリア付近が完全に消滅。また震動で南部工業地帯が崩壊しました。時間の経過と共に地盤も崩れていきます。
※会場に刹那の意識が拡散(トランザム・バーストとほぼ同様)。
※トレーラーは起こされたが走行は不能。
※刹那の装備、荷物はE-4に散乱しています。





時系列順で読む


投下順で読む


149:破壊者たちの黄昏 刹那・F・セイエイ GAME OVER
149:破壊者たちの黄昏 本多忠勝 GAME OVER
149:破壊者たちの黄昏 トレーズ・クシュリナーダ 176:苦痛
149:破壊者たちの黄昏 バーサーカー 162:新たなる旅立ち



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年01月15日 23:53