Remaining Sense of Pain ◆C8THitgZTg


寂れた道を一台のジープが走り抜けていく。
島の北東、半島部の三分の二近くを占める廃村。
8つのエリアに跨って広がるそこには、人の気配というものがまるで存在しなかった。
路面はアスファルトの舗装などされておらず、土と砂が剥き出しのまま。
建物も木造平屋ばかりで高層建造物は見当たらない。
湾に面した土地柄、いつか港町として栄えていた時期もあったのかもしれない。
士郎はビニルの窓越しの風景に目を凝らしながら、そんなことを考えていた。

「誰もいないな……」

沿道に並ぶ家々は、どれもあばら屋同然の有様であった。
良く言えば時代を感じさせる村落で、悪く言えばただの廃墟だ。
当然、誰かが住んでいる様子は一切ない。
士郎の自宅がある冬木市深山町も古い町並みを残しているが、それとは全く別種である。
あちらを代々伝えられた工芸品とするなら、こちらは棄てられた蔵の片隅に眠る壊れた日用雑貨か。
手入れもされず、徒に時間を重ねて風化した光景。
使い道があるとすれば、はぐれ者達の溜り場か、低予算ホラー映画の撮影くらいのものだろう。


或いは"雨風も他人も避けたいと願う誰か"の隠れ場所として――


ジープが曲がり角を左折する。
こうも小さな村だ。
車の通行など考慮されていないに違いない。
両脇の家の壁にサイドミラーがぶつかりそうだ。
そんな穴倉じみた狭路を、グラハムは巧みに潜り抜けていく。
ただ廃村を通過するだけなら、こんな悪路を通る必要などない。
太い道を選んで南下すれば数分と掛かるまい。
そこをあえて寄り道しているのは、ひとえに『仲間を探す』という目的のためである。
ジープの速力をフル活用すれば島の横断すら容易いだろう。
しかし、そんな走り方で仲間を探せるかといえば、答えはNOだ。
最短距離を進むということは、取りも直さず、通過できる面積の減少を意味する。
捜索においては大きなマイナスとなる。
特にここは人の居住を前提とした場所だ。
身を潜める場所として選ばれる可能性は決して低くない。
尤も、それが望みの相手であるとは限らないのだが。

小道を抜けた瞬間、微かな潮の匂いが士郎の鼻腔を刺激した。

一般にイメージされるジープは屋根も側面の窓もない造りの物だろう。
グラハムがハンドルを握っているのは、それに手を加えた兵員輸送用の車両であった。
運転席と助手席の扉と屋根。
後部座席を覆う幌。
それらは全て、合成繊維の布と鉄材で作られた後付けだ。
真っ当な窓といえばフロントガラスくらいのもの。
他の窓はそもそもガラスですらなく、開閉する機能などついているはずもない。
しかもその構造上あちらこちらが隙間だらけで、密閉性は殆どなかった。
走っている間中、冷たい風が吹き込んでは後部座席を満たしていく。
突然、がたんっ!と車体が揺れる。
その衝撃で士郎の頭と幌の支柱がぶつかって、小気味のいい音を立てた。

「すまない、大きな石を踏んだらしい」

グラハムは振り返ることなく、運転に集中し続けている。
ジープに限らず、軍用車両は過酷なテストを潜り抜けた上で採用されている。
たかが廃村の悪路如きで音をあげるものではない。
もっとも、このように乗り心地は二の次、三の次だったりするのだが。

「……そうだ、白井」

士郎は支柱に打ち付けた頭をさすりながら、反対側に座る黒子を見やった。
兵員輸送という目的ゆえか。
後部座席は自家用車と異なり、運転席と同じ向きにはなっていない。
両端に横長の座席が取り付けられ、内側に脚を向ける構造で、出入り口は車両背面に付けられている。
定員は余裕を持って座れば四人程度。
そして黒子は運転席のすぐ後ろに、士郎は対角線上の扉付近に座っていた。
後部座席とはいうが、所詮は軽トラの荷台に椅子を置いて幌を被せたようなものだ。
シートベルトなんて便利アイテムは無く、座席の質も水準ギリギリで寛ぎの空間とは程遠い。
この劣悪な環境で疲労していないか――
士郎が黒子へ意識を向けたのは、そんな単純な心遣いからだった。


だから想像なんてしていなかった。
黒子の眼に、うっすらと涙が浮かんでいるだなんて。


「――あ」

士郎は思わず目線を逸らした。
見てはいけないモノ。
見るべきでなかったモノ。
見られたくないはずのモノ。
そんな瞬間を目撃してしまった気まずさに、暫く視線を彷徨わせる。
士郎が慌てている間に、黒子は涙を拭って普段のすまし顔に戻っていた。
傍から見れば何事もなかったようにしか思えないだろう。



『お姉さまがあんな事になったのに……何で私はまだ息をしてるのですかっ……』


『何で私は痛いなんて思えるんですかっ……何で……何でっ!』



"お姉さま"こと御坂美琴について、士郎の知ることは少ない。
情報交換の際に黒子から聞かされた内容が全てだ。
年齢は黒子よりも上。
彼女にここまで敬愛されるほどの人柄。
そして彼女と同じく超能力者――
ここまで考えが進んだところで、士郎は思索を打ち切った。
化粧室前での一件以降、黒子は"お姉さま"について語ろうとはしなかった。
つまり、今は他人に触れられたくない領域だということ。
そこへ土足で踏み込んでいいはずなどない。

「…………」

車内を沈黙が埋め尽くす。
誰一人として口を開こうとせず、ジープの駆動音だけが反響する。
黒子は感情の読み取りにくい表情で窓外に視線を投げている。
グラハムは運転しながら周囲を警戒しているため、無駄口を叩く暇がないのだろう。
そもそも必要以上にお喋りな人間がいるチームでもない。
少し会話が途切れるくらいは当たり前だ。
けれど士郎は、言いようのない居た堪れなさを感じていた。
黒子の涙を見るのはこれで二回目だ。
初めてではないにせよ、慣れることもありえない。
士郎の胸の中で疼くのは『正義の味方』という理想ではなく。

――女の子は泣かせないコト、後で損するからね――

今は亡き養父、衛宮切嗣が幼い士郎に何度も言い聞かせてきた言葉だった。
衛宮切嗣がどのような半生を送ってきたのか、士郎は殆ど教えられていない。
しかしそう言い聞かせるときの彼の顔は、ひどく実感の篭ったものだったような記憶がある。
だからというわけではないが、士郎は黒子のことがやけに気になってしまっていた。

「傷、痛むのか?」

不意にそんな台詞が口をついた。
声に出してしまってから後悔する。
涙を見てしまったことを誤魔化すにしても、まだマシな言い方があっただろう。
黒子はきょとんとして、士郎の顔と自分の手を見比べた。

「ええ、痛いですわ。痛くて泣いてしまいそう……」

微笑みを模った眦から雫が落ちる。
それを人差し指で拭ったかと思うと、黒子は唐突にグラハムへ声を掛けた。

「少し車を止めて頂けませんか」
「……五分待とう」

グラハムは半秒置いて返答し、路肩にジープを停車させる。
理由を問い質すつもりはないが、リスクを考えると望ましい行為とはいえない。
その妥協点を探す時間が半秒であり、探し出された妥協点が五分間。
黒子は席を立つと、やおら車両後部の出入り口をこじ開けた。

「おい、白ら……っ!?」

急な展開に驚く士郎の腕を、黒子の細い手がぐいっと引っ張った。
所詮は華奢な少女の力だ。
振り解こうと思えば容易いだろう。
しかし士郎は抵抗らしい抵抗もせず、引かれるままにジープから跳び降りる。
外の空気は、狭い車内よりずっと潮の匂いが強かった。



   ◇  ◇  ◇



「さて……」

黒子と士郎が路地裏に入っていったのを見届けて、グラハムはハンドルに被せるようにして地図を広げた。
地図上のギャンブル船――エスポワールに人差し指を重ね、そこから南南東へ指先を滑らせる。
廃村の南、現在位置の辺りで一旦ストップ。
そこから右下、真下、左下と指を往復させる。

「海岸沿いのルートはランドマークが殆どないな。
 南へ進んで駅に行くか、死者の眠る場所とやらに寄り道してみるか」

グラハムとて、黒子の雰囲気のおかしさに気が付かないほど鈍くはない。
覇気のなさ、生きようとする意志の薄さ。
そういった正とも負ともつかない雰囲気が、黒子の言動の端々に見え隠れしていた。
しかし、あえてそのことを指摘することはしなかった。
それが元々の性格なのか、殺し合いという異常の中で芽生えたものなのか、彼には判別することができなかったからだ。
中途半端な認識で口を挟むほど、人間関係を拗らせる原因は他にない。
だからこそグラハムは自分の役割に徹していた。

「櫓へ向かうには南へ行き過ぎた。残念だが後回しだ」

黒子とグラハムが出会ったのは放送直後。
グラハムは本来の白井黒子――即ち、御坂美琴の死を知る前の彼女を知らない。
故に、彼女の空虚を理解し得ない。
否、仮に事情を語り聞かされたところで理解できまい。
事情を知れば、少女の哀しみを想像し、義憤に燃えるに違いない。
だがそれが限界だ。
軍人が戦友を失うのとは全く質の異なる喪失感。
いつまでも一緒にいられるという幻想の破壊。
傷の痛みは、同じ傷を負ったことがなければ分からない。
グラハムもそれを直感的に悟っているのだろう。
デイパックから時計を取り出し、ぽつりと呟いた。

「五分では短すぎたかもしれないな……」



   ◇  ◇  ◇



かれこれ二百メートルは走っただろうか。
砂浜に臨む民家の前で、黒子はようやく立ち止まった。

「どうしたんだ、白井」

士郎の問いに、黒子は答えない。
手を離し、二歩、三歩と砂浜に向けて歩いていく。
海から吹きつける潮風が、二つに括った黒子の髪を揺らす。
眼前に広がる砂地はとにかく広大だ。
地図がなければ、砂漠だと勘違いしていたかもしれない。
うっすらと見える水平線すら、オアシスのそれなのではと錯覚しそうになる。

「……お姉さまはわたくしの憧れでした」

ざくり、と。
黒子の靴が砂を踏みしめた。
包帯に包まれた手は腰の後ろに。
遊歩道を散歩するような足取りで。

「心身ともにお近付きになりたくて、色々なことを試しましたわ。
 なのにお姉さまったら、ちっとも受け入れてくださいませんの」

声は震え、少しずつか細くなっていく。
懐かしむように独白しながら、また一歩、もう一歩。
狭い歩幅で、ゆっくり足跡を刻む。

「けれど……ずっと一緒にいたいと、願っていました。
 ずっと一緒にいられるはずだと……信じていました」

最後の方は搾り出すような声になっていた。
表情を確かめることはできない。
腰の後ろで、左右の指が絡み合う。
触れられないモノを求め、探るように。
士郎が近付こうとした瞬間、黒子はくるりと振り返る。

黒子は微笑んでいた。

今にも泣き出しそうな笑顔だった。


刹那、黒子の輪郭が掻き消える。
それと同時に、士郎は胸の辺りに強い衝撃を感じ、背中から地面に倒れこんだ。

「っ……白井……?」
「やっぱりダメですわ。目の前に現れて驚かせるつもりでしたのに」

冗談めかした口調で言いながら、黒子は士郎を見下ろしていた。
士郎の腹部に腰を落とし、両足を左右に崩し、胸に両腕を突くという格好で。
今の空間転移が失敗であるものか。
精神状態が影響したのなら、能力の発動自体に失敗しているはずだ。
しかも移動距離はたったの数メートル。
大きな誤差など発生するわけがない。

「はしたない格好で申し訳ありませんが……ひとつ、お聞かせください」

重石になっているのは黒子の体重だけだ。
逃れようと思えば力ずくで覆せる。
だが、士郎にはそれができなかった。
見下ろす黒子の声があまりにも細くて、消え入りそうだったから。
「衛宮さんは、死者の蘇生とやらについて、どうお考えですの?」
「どう、って……」

黒子の両髪が士郎の頬に垂れている。
それほどまでに両者の距離は近かった。
士郎が見上げる黒子は逆光。
黒子が見下ろす士郎は陰影。
二人の間に生じた、白昼の暗闇。

「ここで誰かを生き返らせるってことは、他の誰かを殺すってことだろ。それは……」
「ええ、それは許されないことですわ」

黒子は士郎の制服に爪を立てた。
苦痛を堪え、もがくように、士郎の服を握っている。

「お姉さまもきっとお望みになりません……。
 それでも……たとえ、許されないことだとしても……」

次の一言が黒子の喉を詰まらせた。
それは、口にしてはいけない破滅の呪文だ。
"お姉さま"と過ごした綺麗な日々も。
自分を見上げる、真剣な眼差しの少年との信頼も。
全てがたった一言で壊れてしまう。
それでも、彼女は――

「わたくしは、お姉さまを……」
「白井!」

士郎が黒子の肩を掴む。
その感触があまりにも華奢で、士郎の思考は一瞬だけ真っ白になった。
以前、士郎は白井黒子という少女の雰囲気にセイバーを重ね見た。
勇気ある態度。
凛とした佇まい。
要点を押さえた智恵。
全てが素直に凄いと思えた。
けれど、黒子とセイバーは違う。
望んで選定の剣を抜いた王と、殺戮に巻き込まれに過ぎない少女とでは、あまりにも違いすぎる。
大切なものを失う覚悟などあるはずがなく――あるべきではないのだ。

「――――それじゃあ、わたくしにどうしろと言うんですの?
 こんなに痛くて、苦しいのに――――」

彼女は細い境界線の上にいる。
他の誰でもない、自分自身が区切った善と悪との境界に。
失ったままの善の側。
取り戻せるかもしれない悪の側。
境界を引いたのは自分だというのに、それで苦しんでいるのも自分自身だ。
一分一秒ごとに、絶え間なく生まれ続ける心の痛み。
身体の傷なら手当てができる。
痛みもいつかは治まるだろう。
だけど、心の傷は違う。
心には形がないから、治療できずに痛み続ける。
恐らくは、どちらの側を選んだとしても、永遠に。
包帯が痛々しい手を胸に抱き寄せ、黒子は顔を伏せた。
肩の震えが士郎の腕にも伝わってくる。
黒子の身体は、強く握るだけで壊れてしまいそうだった。
これが白井黒子なのだ。
超人でもなければ聖人でもない。
大切な人を亡くして嘆き悲しむ一人の少女だ。

「――やっぱり、勝手に信頼したわたくしが莫迦でした。
 貴方には、わたくしの気持ちは分かりません」

黒子は表情を消し、士郎から離れようとした。

「待てっ!」

その身体を士郎の腕が強引に引き戻す。
前髪が触れそうな距離で重なる視線。
涙で潤んだ瞳は、消しきれない感情の残滓。

「こんなこと、いま話すべきじゃないかもしれないけど……」

衛宮士郎は、かつて大切な人達を失った。
十年前――冬木市を襲った大火災が全てを焼き払ったのだ。
人々も、家々も、何もかも。
地獄のような焔の中、生き残ったのは彼一人。
助けを求める声を無視し続け、己が助かりたいがために彷徨い続けて。
その果てに、衛宮切嗣という魔術師に救われた。

――それを話して、どうするつもりなんだ。

言葉を途切れさせた一瞬。
士郎は声もなく自問する。

――『だから君の気持ちも理解できる』とでも言うのか。

引き止めたときはそうするつもりだった。
だけど、それじゃ意味がない。

――なら、どうする。

そんなこと決まっている。
目の前で泣いている人を見なかったことにするなんて、衛宮士郎にできるはずがない。



「――――――――――――――――」




黒子は眼を丸くしたかと思うと、小さく吹き出した。
士郎の真剣さが逆に可笑しかったのか。
完全に気勢を削がれた様子で、制服の肩口で顔を拭う。

「貴方のこと、甘やかしーだって言いましたけど、訂正しますわ。
 とても残酷で……ちょっと気障です」

からかい気味に返されて、士郎は拗ねたように顔を背けた。
そして、脇に避けた黒子より先に立ち上がり、さりげなく手を差し出す。
黒子もまた、自然な素振りでその手を取っていた。



   ◇  ◇  ◇



二人分の足音が近付いてくる。
グラハムは一瞬だけ時計に目を落とし、窓から上体を乗り出した。
あれから既に十分以上経っているのは見なかったことにした。

「門限ギリギリのご帰宅か。不良少年の真似事は感心しないな」
「申し訳ありません」

黒子は運転席の横で駆け足を止め、スカートを摘んで一礼する。
向こうで何があったのか、グラハムには見当もつかない。
だが、洒落た仕草を返す余裕があるのなら大丈夫だろうと思うことにした。
車両後部へ駆ける黒子から暫し遅れ、士郎もグラハムの側を通り過ぎる。

「――少年!」
「っ――」

足音が止まる。
背中を向き合せたまま、どちらも振り返ろうとしない。

「彼女のことは任せたい」
「……分かった」

交わした言葉は短かったが、意思を伝え合うには充分だ。
再び遠ざかっていく足音を背に受けて、グラハムは運転席に身体を戻した。







「……あれ? 白井?」

ジープの後部座席は、どういうわけか空っぽだった。
士郎は乗降口に片足を掛けたまま、何度も車内を見渡した。
黒子がいない?
先に戻ったはずなのに?
戸惑いは焦りに変わり、士郎の身体を突き動かす。
まさにその瞬間。

「……えいっ!」
「うわっ!?」

士郎は振り抜かれたデイパックに背中を打たれ、勢いのまま車内に転がり込んだ。
開けっ放しの乗降口で、黒子が悪童のように笑っている。
どうやらジープの陰に隠れてタイミングを計っていたらしい。

「隙ありですわ。油断なさいましたね。
 隠れていたのが悪い人でしたら、今頃大変なことになっていますわ」

悪びれる様子もなくそう言って、よいしょ、と車内に上がってくる。
士郎の横をすり抜ける瞬間、さりげなく耳元に口を寄せる。

「わたくしを守ってくださるんでしょう? しっかりして頂かないと困りますわ」

口篭る士郎を尻目に、黒子はさっさと元の場所に座っていた。
――さっきの発言をこんなすぐに返してくるなんて。
少なからぬ驚きを覚えながら、士郎は黒子と対角線上の位置に腰を下ろした。
多大な要約がされていたが、大雑把な主旨は黒子が囁いた通りだ。
これ以上の痛みから彼女を全力で守る、と。
彼女が他人を手に掛けるというなら全力で止める、と。
士郎はそう言い放った。
ああ、黒子の言うとおり、確かに残酷だ。
哀しみを抱いたまま生き続けろと宣言したも同然なのだから。

「以降のルートはこうしようと思うのだが、意見を聞かせてくれ」
「えっと……沿岸設備の可能性を考えるなら、もう少し海寄りを通った方がよろしいのでは?」

黒子はグラハムと、運転席の座席を挟んで今後の計画を話し合っている。
一見すると、以前の調子を取り戻したかのようにも思える。
だが、黒子は未だ境界線の上にあるのだ。
あの平静の陰に、どれだけの叫びを押し殺しているのか。
正義と絶望の側を行くか。
邪悪と希望の側を行くか。
彼女は今も揺らいでいるのだろう。
白と黒との境界線を、すぐにでも倒れそうな足取りで。
どちらが黒で、どちらが白かも分からないまま。
――これは仮定の話だ。
もしもあそこで、自分の過去を語っていたらどうなっていたのだろうか。
黒子の小さな背中を見やりながら、士郎はそんなことを考えて、すぐに頭から追い出した。

「ふむ、最終的には駅へ立ち寄るとして、死者の眠る場所はどうする」
「そこは、つまり……その、人が近付きそうな所じゃありませんわ」

墓地、霊園、霊廟。
黒子は『死』を連想させる単語を避けている。
無意識の逃避なのか、それとも意識してのことなのか。
士郎に推し量る術などない。

「了解した。経路は海岸沿いを選択しよう」

身体の傷なら手当てができる。
痛みもいつかは治まるだろう。
だけど、心の傷は違う。
心には形がないから、治療できずに痛み続ける。
痛みに耐えるのはその人自身だ。
他の誰であっても、それを肩代わりすることなんかできない。
支え合えるのは荷物の重さで倒れそうな体だけ。
それでもなお、何かをしたいと望むのならば、余計な悲劇なんて見せ付けちゃいけない。
落ち込んでいるときに悲しい話なんか聞かされたら、余計に落ち込むに決まっているじゃないか。

「衛宮さんはご意見あります?」
「あ、いや――俺は"みんな"に負担が掛からないルートならいいよ」

士郎の曖昧な返事を聞いて、黒子は大仰に肩を竦めた。
"みんな"だなんて、それで誤魔化したつもりなのかと言わんばかりに。

「やっぱり、衛宮さんは甘やかしーですわ」








【C-6/廃村と砂浜の境界付近/一日目/午前】
グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30、軍用ジープ@現実
[道具]:基本支給品一式、五飛の青龍刀@新機動戦記ガンダムW
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退
0:ひとまず砂浜に沿って南下する
1:島を時計回りに移動しながら、士郎らと共に仲間を探す(エスポワール組の知人優先)
2:張五飛と接触したい
2:主催者の思惑を潰す
3:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける
4:地図が本当に正確なものかどうかを確かめるために名所を調べて回る
5:衣の友達づくりを手伝う。ひとまずは一万ペリカを手にいれ、『麻雀牌セット』を買ってやりたい
【備考】
※参戦時期は1stシーズン25話「刹那」内でエクシアとの最終決戦直後です
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※張五飛がガンダムのパイロット、少なくともソレスタルビーイングのメンバーであると知れないと考えています



【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 健康、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂村原学園制服
[装備]: カリバーン@Fate/stay night
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実
[思考]
基本:主催者へ反抗する
1:島を時計回りに移動しながら、グラハムらと共に仲間を探す(エスポワール組の知人優先)
2:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める
3:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする
4:一方通行ライダーバーサーカーキャスターを警戒
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※残り令呪:1画
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました



【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、精神疲労(中)、空虚感
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:なるべく普段通りに振舞う(スタンスは決めあぐねている)
1:島を時計回りに移動しながら、士郎らと共に仲間を探す(エスポワール組の知人優先)
2:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
3:衛宮さんはすぐに人を甘やかす
4:一方通行、ライダー、バーサーカー、キャスターを警戒
5:少しは衛宮さんを頼る
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
 距離に反比例して精度にブレが出るようです。
 ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
 その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※美琴の死により常に空虚感があります
 空間転移は正常に使用できない可能性が高いです



時系列順で読む


投下順で読む



130:試練Next Turn グラハム・エーカー 155:闇に潜むキーワード見つけ出そう
130:試練Next Turn 衛宮士郎 155:闇に潜むキーワード見つけ出そう
130:試練Next Turn 白井黒子 155:闇に潜むキーワード見つけ出そう


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最終更新:2010年01月24日 22:36